安定化気泡関数要素によるマイクロチャネル内の流れ解析
Flow simulation in micro channel based on stabilized bubble function element
○ 田井 茂俊(長岡技科大院) 正 倉橋 貴彦(長岡技科大院)
Shigeotoshi Tai, Graduate school of Nagaoka University of Technology, 1603-1, Kamitomioka, Nagaoka, Niigata, Takahiko Kurahashi, Nagaoka University of Technology, 1603-1 Kamitomioka, Nagaoka, Niigata,
Key Words: Microchannel, FEM, Bubble function, SUPG method, droplet generation
1. 序論
近年マイクロ化学チップを利用した液滴生成技術が注目 されている.例えば,医療分野におけるドラッグデリバリー システム(DDS)では病巣への薬剤の標的指向などで薬物を 包んでいるカプセル形成微粒子の単分散化が重要な点とし て挙げられている.
マイクロスケール流路内において生成される液滴サイズ 及び液滴間隔は,流入する二液体と流量条件の組み合わせに より変化する.そこで,事前に予測できるツールの開発を目 指して有限要素解析による検討を行った.流れ解析を行う 際,SUPG 法における安定化パラメータにおいて時間増分量
∆𝑡を考慮した安定化パラメータ[1][2]と等しくなる様に気泡関 数要素における安定化パラメータを設定し,数値実験による 考察を行う.
本論文では,SUPG 法の安定化パラメータを使用した安定 化気泡関数有限要素法に関する考察をRotating Cone問題に 対して行う.また,その結果を踏まえて,下記に示す支配方 程式に対してRotating Cone問題において使用した安定化パ ラメータを適用し,マイクロチャネル内の流れ解析を行う.
流れ解析では,本研究室で実施されたマイクロ化学チップに よる液滴生成実験(図1)の再現を行う.数値実験ではマイ クロチャネルの流路が円環であると仮定し,ポアズイユ流れ を考えて流入させると共に,マイクロ化学チップに二液体を 流入させる際に使用するシリンジポンプの送液特性を考慮 する.
2. 安定化気泡関数有限要素法による離散化 本検討では流れ場を表現するための支配方程式として式 (1)に示す非圧縮性粘性流体に対するナビエ・ストークスの 運動方程式と式(2)に示す連続式,また,界面位置を表す式(3) の輸送方程式を用いる.式(1)~(3)は総和規約による表示を しており,本研究では平面二次元を対象とする.
𝑉𝑖̇ + 𝑉𝑗𝑉𝑖,𝑗+1
𝜌𝑃,𝑖− 𝜐(𝑉𝑖,𝑗+ 𝑉𝑗,𝑖)
,𝑗= 𝑓𝑖𝑉 𝑉𝑖,𝑗 = 0
𝜙̇ + 𝑉𝑖𝜙,𝑖= 0
ここで𝑉𝑖は流速, 𝑃は圧力である.また,νは動粘性係数,ρは
密度,fiVは外力(チップを水平に置いているため,体積力とし ての重力は無視し,表面(界面)張力のみ考慮する.)𝜙は界面 形状を表す指標関数(以後、指標関数)を示す.またマイク ロスケール流路内におけるに流体の表面(界面)張力を表す ため,CSF モデル[3]を適用し,体積力fiVは式(4)の様に表さ れる.離散化手法としては,SUPG 法における安定化気泡関 数要素を用いた有限要素法を適用し,時間方向の離散化に対 しては θ 法を適用する.式(4)における𝜅(𝑥)は表面(界面)曲 率を表しており,式(5)により与えられる.
𝑓𝑖𝑉 = σκ 𝜌,𝑖
𝜌
̂
𝜌 𝜌
̃
κ(𝑥) = 1
|𝒏|[𝑛𝑖
|𝒏||𝒏|,𝑖− 𝑛𝑖,𝑖]
ここで σは表面(界面)張力係数であり〈𝜌〉,[ρ]及び界面上に おける法線ベクトル niは, 〈𝜌〉 = 0.5 × (𝜌1+ 𝜌2), [𝜌] = 𝜌2− 𝜌1(𝜌1< 𝜌2), ni=𝜙,𝑖と与えられる.ここにθは0≦𝜙≦1で設定 される値であり,指標関数𝜙の値が0.5≦𝜙あるいは𝜙<0.5に より流体の種別を分ける.
流速 Vi,圧力 P,指標関数𝜙に対する補間関数を式(6),(7),(8) に示す.気泡関数要素を流速および指標関数の補間に適用し,
圧力の補間には三角形一次要素を用いる.
𝑉𝑖= 𝑁1𝑉𝑖1+ 𝑁2𝑉𝑖2+ 𝑁3𝑉𝑖3+ 𝑁4𝑉̃𝑖4= {𝑁𝐵}𝑇{𝑉𝑖} 𝑃 = 𝑁1𝑃1+ 𝑁2𝑃2+ 𝑁3𝑃3= {𝑁}𝑇{𝑃}
𝜙 = 𝑁1𝜙1+ 𝑁2𝜙2+ 𝑁3𝜙3+ 𝑁4𝜙̃4= {𝑁𝐵}𝑇{𝜙}
ここで Nは面積座標(𝜂1,𝜂2,𝜂3)により表される面積座標を 示しており,𝑁1=𝜂1,𝑁2=𝜂2,𝑁3=𝜂3,𝑁4=27𝜂1𝜂2𝜂3と表される.気 泡関数要素を用いた流体解析においては,数値粘性が適切に 与えられないことが知られている.運動方程式(式(1))に対し て気泡関数要素を適用した場合,安定化有限要素法における 安定化パラメータは式(9)のように表される.
𝜏𝐵𝑢𝑏𝑏𝑙𝑒𝑀𝑜𝑚. = (∫ 𝑁Ω 4
𝑒 𝑑Ω)2
(𝜐 + 𝜐′) ∫ 𝑁Ω𝑒 4,𝑖𝑁4,𝑖𝑑Ω𝐴𝑒
ここにν′は人工粘性を表す係数である.ここで,この安定 化パラメータ𝜏𝐵𝑢𝑏𝑏𝑙𝑒𝑀𝑜𝑚. はSUPG法による安定化パラメータ
𝜏𝑆𝑈𝑃𝐺(式(10))と等価となるように設定する.
𝜏𝑆𝑈𝑃𝐺= ((2 Δ𝑡)
2
+ (2|𝑈|
ℎ )
2
+ (4𝜐 ℎ2)
2
)
−1 2
ここで|𝑈|は要素内の流速の大きさ,hは要素の代表寸法を表 しており, ℎ = √2𝐴𝑒により計算される.最終的に運動方程式 を解く際,要素重心点において,人工粘性を表す係数𝜐′を 含めて式(11)に示す粘性が与えられることになる.
Distilled water : 10[μl/min]
Ethyl acetate 0.5[μl/min]
Fig1. Experimental result
(1) (2) (3)
(4) (5)
(6) (7) (8)
(9)
(10)
(𝜐 + 𝜐′) ∫ 𝑁4,𝑖𝑁4,𝑖𝑑Ω
Ω𝑒
= 1
𝐴𝑒(∫ 𝑁4𝑑Ω
Ω𝑒
)
2
((2 Δ𝑡)
2
+ (2|𝑈|
ℎ )
2
+ (4𝜐 ℎ2)
2
)
1 2
上記内容は,輸送方程式にも適用でき,輸送方程式に対して も要素重心点において,式(12)に示す数値粘性を与える.
𝜐′∫ 𝑁4,𝑖𝑁4,𝑖𝑑Ω
Ω𝑒
= 1
𝐴𝑒(∫ 𝑁4𝑑Ω
Ω𝑒
)
2
((2 Δ𝑡)
2
+ (2|𝑈|
ℎ )
2
)
1 2
3. 安定化気泡関数有限要素法による流れ場の解析 3.1 Rotating Cone 問題に対する考察
非定常問題の数値解析例として,移流方程式の解の精度を 検証するためにRotating Cone問題を取り扱い,SUPG法に おける安定化パラメータを用いた気泡関数要素の精度を調 べる.空間領域(-1≦x≦1,-1≦y≦1)とし,次式に示される
「コーン形状」(図3)をした変数𝜙に対する空間分布を与え る(式(13),(14)).
𝜙 = {0.5(𝑐𝑜𝑠(2𝜋𝑟) + 1) 𝑟 ≤ 0.5 0 𝑟 > 0.5
𝑟 = √𝑥2+ (𝑦 + 0.5)2
これを初期条件として原点を中心に回転する定常な移流速 度場𝑢 = −𝑦,𝑣 = 𝑥を与えてコーン状の𝜙の分布を移流させ る問題を考える.
図2のようなメッシュを用意し,case1:気泡関数要素を使 用し,安定化パラメータを付与しない場合,case2:気泡関数 要素を使用し,𝜏𝑆𝑈𝑃𝐺= ((2
∆𝑡)2+ (2√𝑢2+𝑣2
ℎ )
2
)
−1
2(SUPG法にお ける安定化パラメータ)と等価となる安定化パラメータを要 素重心点に入れた場合について比較を行う.
計算条件は,節点数:1,681,要素数:3,200,時間増分量:
∆𝑡=0.001,Time step=6,280,時間方向の離散化にはクランク・
ニコルソン法(𝜙 = 0.5),空間方向の離散化には気泡関数要 素(𝑁4の形状関数𝑁4= 27𝜂1𝜂2𝜂3)を使用したガラーキン法を 適用する.
表1にコーンの各周ごとの中心位置高さを示す.表1 よ り,case 1の条件での解析結果では「コーン形状」が時間経 過とともに減衰していくことが分かる.しかし,case 2の条 件の場合,コーンの先端形状の減衰は小さく,初期の「コー ン形状」に近くなっていることが分かり,高精度に計算が行 えていることを確認できる.
3.2 マイクロチャネル内の流れ解析
本節では,SUPG法による安定化パラメータを用いた気泡 関数要素を使用し,マイクロチャネル内の十字型接合部(オ リフィス部)に着目し,二流体の有限要素解析を行う.
3.2.1 解析モデルと解析条件
有限要素法解析メッシュは図4に示す.二流体は図4に示 す通りに流入し,流量設定は二流体 Q(1)(酢酸エチル)を 0.5μl/min(1.124mm/s),Q(2)(蒸留水)を10μl/min(22.48mm/s)と する.流量は断面積により割ることで平均流量を算出し,チ ャネル内流路が円環と仮定して,ポアズイユ流れにて流入さ せている.θ法におけるθは0.5を適用し,各流体に対する 物性値及び,その他の計算条件は表2に示す.また,流入流 量の多い蒸留水のシリンジポンプによる送液特性を考え,蒸 留水側の流量にsin波で流量の変化を与える(図4参照).
3.2.2 解析結果
液滴生成の数値実験結果を図6から図9に示す.この結果 から,液滴が作成される際に実験で見られる二流体の挙動を 再現することができ,流入した酢酸エチルの液滴が生成され,
流れ方向に運ばれていく様子が確認できる.
Total number of nodes 5,105
Total number of elements 9,720
Time increment Δ𝑡 (sec.) 10-6
Time steps 280,000
Density ρ(1) (kg/mm3) 8.984×10-7 Kinematic eddy viscosity ν(1) (mm2/sec) 0.557 Density ρ(2) (kg/mm3) 9.982×10-7 Kinematic eddy viscosity ν(2) (mm2/sec) 1.004 (12)
(13)
(14)
Fig.2 Computational domain Fig.3 Initial value distribution
0 1.00 1.00
1 0.96 1.00
2 0.91 1.00
3 0.83 0.99
4 0.75 0.99
φ(x=0.0,y=-0.5)
Round Coordinates Cone height
in case 1 in case 2 Table 1 Comparison of cone height in cases 1 and 2
Table 2 Computational conditions
Fig. 4 Finite element mesh and definition of boundary condition Fig.4 Finite element mesh and definition of boundary condition
Fig.6 Distribution of index function(T = 0.18sec) (11)
4. 結論
本研究では,CSFモデルを考慮した非圧縮粘性流体に対す るナビエ・ストークス方程式に対してSUPG法における安定 化パラメータを用いた気泡関数要素による有限要素法の有 用性の確認と,マイクロ化学チップ内流路における二相流解 析において液滴が球状になる前の分離を再現した.以下に得 られた知見を示す.
・Rotating Cone問題にてSUPG法における安定化パラメー タを用いた気泡関数要素により安定に,また,精度良く計 算できることが分かった.
・マイクロチャネル内の流れ解析において,流入した酢酸エ チルの液滴が生成される二流体の挙動が再現できた.
現状では分離した酢酸エチルは細い棒状になり進んでいく が,実際の実験では,図1のように球状になることが分かっ ている.今後はこの原因を究明し,現象の再現性を向上させ る.
参考文献
[1]
日本計算工学会流れの有限要素法研究委員会,続・有限要素法による流れのシミュレーション,丸善出版,
2012
,pp58-61
[2] Tayfun E. Tezduyar and Yasuo Osawa, Finite element stabilization parameters computed from element matrices and vectors, Comput. Methods Appl. Mech. Engrg, 190, pp411- 430, 2000
[3] J.U. Brackbill, D.B.Kothe and C.Zemach, A Continuum method for mokiling surface tension , Journal of
Computational physics, 100, pp.335-354, 1992
Fig.7 Distribution of index function(T = 0.19sec)
Fig.8 Distribution of index function (T = 0.20sec)
Fig.9 Distribution of index function (T = 0.21sec)