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企業統治と流動性資産保有に関する先行研究として Ozukan,A. and N.Ozkan(2004) があげられる この論文では 企業経営者の持ち株比率が現金 預金保有に与える 2 つの相反する効果を指摘している 企業経営者が持ち株比率を高めると外部の株主の影響を排除することができ フリーキャッシ

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ストックベースの内部留保と留保金課税

立正大学経済学部准教授

川口 真一

KAWAGUCHI Shinichi 慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学) 慶應義塾大学 COE研究員、東京外国語大学 非常勤講師、内閣府経済社会総 合研究所 政策研究研修員、鳥取環境大学環境情報学部環境政策学科 専任講 師、准教授を経て、現職。 プロフィール    近年、 同族会社に関する税制が大きく改正されて いる中で、留保金課税は減税の方向に向かっている。 2006年11月21日の日本経済新聞では、 留保金課税 の廃止はやむを得ないとの社説が掲載されている。 この記事によると当時の財務大臣や自民党税制会長が 廃止検討の考えを表明したのに対して、 政府の税制 調査会から「会社を自らの節税に使う経営者もいる」 などの反対論が出ている。 また、 サラリーマンの立 場からみれば、利益を配当に回さず会社にプールし、 会社名義の高級車などを買って実質的に個人のために 使用するような同族経営者がいるのは釈然としないと の意見もある。 しかしながら、 留保金課税は法人税 を支払った後の利益に対する二重課税であり、 財務 基盤の弱いベンチャー企業を育成する必要性からも廃 止はやむなしとして、 縮小の方向へ向かっているの である。  2006年度の税制改正では、 留保金課税の大幅な見 直しが図られ、 課税対象となる同族会社の定義が大 きく狭められた。 さらに、 2007年度の税制改正で は、 中小企業にとっては資金の確保や信用力向上な どを図るために利益の内部留保が不可欠であるとし て、 資本金 1 億円未満の企業は留保金課税の適用か ら除外された。1 2006年度経済財政白書における配 当増減の要因分析によると、 負債比率が高い企業で はなるべく配当を抑えて内部留保を積み増す傾向が示 されている。つまり、財務状況の悪い企業ほどフロー ベースの内部留保を増やす傾向が指摘されている。 以上のような経緯の中で、 主に企業財務の健全化と いう観点から留保金課税の縮小、 廃止が検討されて きた。  留保金課税の重要な機能として、 間接的に配当を 促進することがあげられる。 同族会社に対して配当 の促進が望ましいのは、 利益の分配経路の歪みが修 正されることで、 資源の効率的配分が改善されるか らである。 本来、 法人の所得は配当されることによ り、 個人段階で他の所得と合算され総合課税される ことを建前としている。 しかし、 わが国の法人税と 所得税の調整は十分ではなく二重課税が生じるため、 同族会社では配当すべき所得を内部留保にまわすこと で節税を図るインセンティブを持つと考えられる。 さらに、 利益を役員の給与や配当として分配するの ではなく会社内にプールし、 その資金で役員等の利 害関係者が個人使用として福利厚生施設や車両設備な どを購入している可能性もある。このような傾向は、 経営者が株主総会などの意思決定機関をコントロール できる同族的な企業ほど多くみられると考えられる。 つまり、 役員と出資者の利害関係の強い同族会社に おいては、 利益分配は必ずしも配当や役員報酬・賞 与に限定されず、 会社組織を利用した方法で利益が 享受されていると推測されるのである。

はじめに

 1.

本稿の作成にあたり、立正大学経済研究所による援助を受けた。 これらの税制改正により留保金課税の対象となる企業は激減した。 1

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 企業統治と流動性資産保有に関する先行研究とし て、Ozukan,A. and N.Ozkan(2004)があげられる。 この論文では、 企業経営者の持ち株比率が現金・預 金保有に与える 2 つの相反する効果を指摘してい る。 企業経営者が持ち株比率を高めると外部の株主 の影響を排除することができ、 フリーキャッシュフ ロー化が促進される可能性、 つまり、 経営者は持ち 株比率の上昇とともに意思決定の裁量を大きくするた め内部資金を増やす可能性が示されている。しかし、 英国のように大口株主が消極運用の機関投資家であ り、 企業買収が企業の規律付けの装置となっていな い場合には、 持ち株比率の上昇が企業規律を高め、 現預金保有比率を低下させることがあるとしている。 結論として、 経営者の持ち株比率の程度に応じて、 現預金保有比率が低下することもあれば上昇すること もあり、 両者に非線形の関係があることを実証的に 示している。それに対して、本稿では、ストックベー スの内部留保に着目するため、 資産項目に計上され る現金・預金ではなく、 純資産項目に計上される任 意積立金や利益剰余金を取り上げる。 具体的には、 役員の持ち株比率がストックベースの内部留保に与え る影響を留保金課税の観点から分析するものである。  留保金課税については、 川口(2008)において同 族色の強い企業ほどフローの内部留保率が高いことを 指摘している。 分析により、 留保金課税が十分に機 能していないため、 同族的な企業ほど利益を内部留 保に回しているという結果が得られた。 しかしなが ら、 この論文では借入制約のある企業がフローの内 部留保を高めている可能性を完全には排除できないた め、 精緻な分析が課題であった。 同族会社が内部に 資金をプールしていることを明らかにするためには、 当然ながらストックの内部留保に着目する必要があ る。 つまり、 同族的な企業ほどストックベースの内 部留保が高いことを明らかにすれば、 同族会社は節 税目的や会社組織を利用した利益享受のため内部に資 金をプールしている可能性を示唆できる。  したがって、 本分析では「役員の持ち株比率が高い 同族的な企業ほどストックベースの内部留保2を保有 保率に対して、 役員持株比率が正の変動要因になる ことをパネルデータにより明らかにする。 この検証 により、 同族的な企業ほど資金を内部にプールする 傾向が強いことを示したい。 結論として、 利益分配 における資源配分の歪みを是正するためには、フロー ではなくストックベースの留保金課税の導入する必要 があることを主張する。  損益計算書上、 内部留保とされるのは、 当期純利 益から法人税等を差し引き、 配当を支払った残りの 利益である。 これはフローの内部留保であり、 財務 省「法人企業統計」において、 資本規模別の合計額の 推移を見ることができる。 図表 1 を見ると、 2001 年から2002年、 2008年から2009年は全体的にマイ ナス傾向になっており、 これらはITバブルの崩壊 やリーマンショックの影響によるものと考えられる。 それ以外の期間では、 相対的に資本金10億円以上の 企業規模の内部留保が多いことが分かる。 同族会社 の留保金課税は、 このフローの内部留保に対して課 税されるものである。  次に、 一般的にストックベースの内部留保と呼ば れる利益剰余金は、 貸借対照表の純資産の部に計上 される。 利益剰余金についても図表 2 の財務省「法 人企業統計」により、 資本規模別の合計額推移をみ ることができる。 特に10億円以上の企業規模では、 2001年以降、 利益剰余金は増加傾向にある。 2008 年のリーマンショックの時期でもわずかに減少したに 過ぎず、 2010年にかけてさらに増加しているのが分 かる。 2010年2月18日の日本経済新聞によると、 当時の鳩山由紀夫首相は大企業の内部留保のへの課 税を税制改正で検討する意向を表明している。 この 背景には民主党の「雇用重視」の姿勢が窺える。 リー マンショックによる景気の悪化に対して、 大企業の 多くは派遣切りなどのリストラを決行したが、 これ に対して雇用を守るために企業の内部留保を活用すべ

ストックベースの内部留保とは

 2.

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留保を人件費や設備投資にもっと回せる方策を検討す るものであった。 しかし、 これらの意見に対して、 内部留保は必ずしも企業が自由に使える手元資金では なく、 多くは設備投資や原材料の仕入れに使ってい るとの反論もある。確かに、必ずしも利益剰余金は、 そのすべてが資金プールのために利用される性質のも のではない。  利益剰余金は、 図表 4 のように利益準備金や任意 積立金、 繰越利益剰余金から構成されている。 利益 準備金は会社法により資本準備金との合計額が 4 分 の 1 に達するまで積み立てなければならないもので あり、 繰越利益剰余金は当期未処分利益に該当する ためフローの内部留保として捉えることが出来る。 ところが、 任意積立金は株主総会や取締役会で決定 することが出来る積立金であり、特定の目的のため、 あるいは不特定であるが将来のために備える資金とし て利用することが可能である。 具体的には配当平均 積立金、新築積立金、別途積立金などから構成され、 特に別途積立金は使途を限定するものではないため、 同族会社にとって資金をプールしやすい積立金である 図表1 内部留保の推移 (出所)財務省「法人企業統計調査」より作成。 図表2 利益剰余金の推移 (出所)財務省「法人企業統計調査」より作成。 図表3 任意積立金の推移 (出所)財務省「法人企業統計調査」より作成。 図表4 純資産の部 資本金 資本剰余金  資本準備金  その他資本準備金 利益剰余金  利益準備金  任意積立金  繰越利益剰余金

(4)

と考えられる。 よって、 本分析では利益剰余金では なく、 任意積立金をストックベースの内部留保と定 義したい。 尚、 任意積立金についても図表 3 に資本 規模別の推移を表している。 任意積立金は、 内部留 保や利益剰余金と比較して、 すべての資本規模にお いて2001年から2010年の間、 大きな変動はない。 つまり、 比較的、 景気に左右されにくい企業の資金 であると考えられる。 (1)データ  本分析で使用するデータは「日本経済新聞社総合経 済データバンクNEEDS」の株式非公開企業の 3 年間 のパネルデータ(2002年度から2004年度)である。 有価証券報告書提出会社だけではなく営業報告書提 出会社の財務データも使用した。 これらの資本金階 級割合については図表 5 に示している。 これによる と、 資本金階級では1億以上10億円未満の企業が8 割近くを占めていることが分かる。  ここで、 実証分析で用いるデータとその算出方法 を述べる。 まず本分析では、 任意積立金を資本金で 割った値を内部留保率A、 一般的にストックの内部 留保と言われる利益剰余金を資本金で割った値を内部 留保率Bと定義する。  内部留保率A=任意積立金÷資本金・・・(1)  内部留保率B=利益剰余金÷資本金・・・(2)  次に、 企業の財務状況を示す指標として、 有利子 負債比率を以下の(3)式のように定義する。 この指 標は、 返済義務のある他人資本が総資産に占める割 合を示しているので、 その値が低いほど財務の安定 性が高いと言える。  有利子負債比率=有利子負債÷総資産・・・(3)  また、 以下の(4)式のように、 役員の持株数が総 株式数に占める割合を役員持株比率と定義する。 こ の変数は全株式発行数に対する役員の持ち株数の比率 であり、 本分析ではこの値が高いほど同族色の強い 企業であるとする。  役員持株比率=役員持株数÷総株式数・・・(4) (2)分析モデル  本分析では、「役員の持ち株比率が高い同族的な企 業ほどストックベースの内部留保を保有している」と いう仮説を計量的に検証する。 推計するモデルは以 下のように設定する。 Ri,t=α+βDi,t+γROAi,t+δlnSALEi,t+ζIBLi,t ++ηGORi,t+εi,t・・・(5)  (5)の推計式は、 役員の持株比率がストックベー スの内部留保率に与える影響を検証するものである。 被説明変数のRはストックベースの内部留保率であ り、 添え字iは企業、 tは期間を示している。 また、 説明変数のDは役員持株比率、 ROAは資本利益率、 lnSALEは売上高の対数、 IBLは有利子負債比率、 GORは売上高増減率、 εは誤差項を示している。 説 明変数の中で特に着目したいのは役員持株比率であ る。 本稿の仮説が支持されるならば、 役員の持株比 率は内部留保率Aに対して正の変動要因になるので、 パラメータβは正で有意な値となることが期待され る。 また、 外部からの借入金の多い企業は、 財務基 盤が弱く内部留保が不十分であると考えられるので、 有利子負債比率は内部留保率A、 内部留保率Bに対 して負の変動要因になる。 よって、 パラメータζは 両ケース共に負で有意な値になると考えられる。

ストックベースの内部留保の検証

 3.

図表5 資本金階級別割合 (出所)日本経済新聞社総合経済データバンクNEEDS

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(3)推定結果とその解釈  推定結果をみると、 内部留保率Aを被説明変数し たケースでは、 役員持株比率のパラメータβは正で 有意な値(22.1550)となり、 期待通りの結果であっ た。 しかし、 内部留保率Bを被説明変数としたケー スでは、パラメータβは有意な値にはならなかった。 次に、 総資産利益率のパラメータγは共に負で有意 な値(-30.1273 、 -291.249)となり、 ROAの値が高 い企業ほど内部留保率A、Bが低いという結果となっ た。 これらの結果から、 ROAの高い企業は資金を内 部に蓄積せず、 積極的に投資や配当などに回してい ると考えられる。 また、 資本規模を表す売上高の対 数のパラメータδは、 内部留保率Aのケースでは負 で有意な値(-3.0968)、 内部留保率Bのケースでは 正で有意な値(23.2087)となった。 つまり、 資本規 模の小さい企業ほど、 本稿で定義した内部留保(任意 積立金)の比率が高く、 一般的な内部留保(利益剰余 金)の比率が低いことを意味している。 有利子負債比 率のパラメータζについては両ケース共に負で有意な 値(-17.8091 、 -546.427)となり、 予想通りの結果 である。 最後に、 企業の成長性を表す売上高増減率 のパラメータηは、 内部留保率Aのケースのみ正で 有意な値(93.67)となった。 この結果は、 成長性の 高い企業ほど、 任意積立金の比率が高いことを示し ている。  以上の分析結果から、 同族的な企業ほど内部留保 率Aが高いことが示されたが、 内部留保率Bについ ては、 その傾向がみられなかった。 つまり、 同族色 の強い企業ほど任意積立金を増やす傾向が強いことが 示されたのである。  本稿では、「役員の持ち株比率が高い同族的な企業 図表6 ストックベースの内部留保率の推定

おわりに

 4.

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ほどストックベースの内部留保を保有している」とい う仮説を検証した。 パネル分析の結果、 同族的な企 業ほどストックベースの内部留保率が高いことが示さ れた。また、本稿の推定結果により財務基盤が強く、 資本規模が小さく、 成長性の高い企業ほどストック ベースの内部留保率が高い傾向があることも明らかと なった。  現行の留保金課税は、 フローベースの内部留保に 課税が行われているが、 この制度では資金制約があ る企業や財務基盤の弱い企業に対しても課税を行うこ とになり、 企業財務の観点からは望ましくない。 し かし、 ストックベースの留保金課税に切り替えるこ とによって、 同族会社の役員や利害関係者が会社内 に実質的な個人資産として利益を蓄えることを抑制す ることができる。 具体的には、 会社法により積み立 てが義務付けられていない任意積立金などを課税対象 とすることが考えられる。 なぜなら、 任意積立金は 株主総会や取締役会で任意で計上することができ、 また使途を限定するものではないため、 同族会社に とって資金をプールしやすい積立金だからである。 このようなストックベースの留保金課税の導入によ り、 節税目的による内部留保の蓄積を抑制すること が可能となる。 その結果、 利益の分配経路の歪みが 修正され、 資源の効率的配分が改善されると考えら れるのである。  最後に実証分析による問題点を指摘しておきた い。 本分析で使用した財務データでは、 資本金 1 億 円未満の企業が非常に少なく、 わずかに 2%程度で あった。 本来であれば、 同族企業が大部分を占め るこれらの企業のサンプルが多いほど、 より同族企 業の実態に迫ることが可能となる。 そのためには、 本稿で使用した「日本経済新聞社総合経済データバ ンクNEEDS」だけでなく、 様々な財務データを用い た分析が必要である。 また、 使用したパネルデータ (2002年度から2004年度)は3年間であり、 分析結 果が安定的かどうかを検証するためには、 さらに長 い期間の分析も必要である。 これらの問題点につい ては今後の課題としたい。 参考文献

Ozkan,A and N.Ozkan(2004)“Corporate cash holdings: An empirical investigation of UK companies,”Journal of Banking and Finance 28(9),2103-2134. Fuest,C and A. Weichenrieder(2002)“Tax competition and Profit Shifting :On the Relationship between Personal and Corporate Tax Rates,”CESifo  working paper, No.781.

上野陽一・馬場直彦 (2005)「わが国企業による株主還元策の決定要因:配当・自社株消却のインセンティブを巡る実証分析」『日本銀行ワーキングペーパーシリーズ』  No.05-J-6。 川口真一 (2008)「同族会社の留保金課税に関する実証研究」『財政研究』第第 4 巻,有斐閣、131 ~ 147 頁。 国税庁「税務統計から見た法人企業の実態」  http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei.htm 財務省「法人企業統計」  http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm 武田昌輔 (1985)「中小企業課税の問題点」『租税法研究』第 13 号,1 ~ 39 頁。 田近栄治・八塩裕之 (2005)「税制と事業形態選択―日本のケース―」『財政研究』第 1 巻、有斐閣、177 ~ 194 頁。 内閣府 (2006)『平成 18 年度年次経済財政報告』2006 年。 平石雄一郎 (1981)「留保金課税のあり方について」『税経通信』vol.36、96 ~ 101 頁。 山口孝浩 (2005)「役員賞与・役員報酬を巡る問題-改正商法の取り扱いを問題提起として -」『税務大学校論叢』(48)、税務大学校,169 ~ 270 頁。

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