自己身体と悩みへの日常的態度と動作法体験に関する研究
キーワード:動作法,体験治療論,自己身体への態度,悩みへの態度,青年期 九州大学大学院人間環境学府 人間共生システム専攻 志方 亮介 1.問題と目的 1)動作法における心身の捉え方と体験原理 心理臨床の現場において,身体面から心の問題にアプロ ーチしていく方法が数多く開発されており,本邦において も動作法という技法が開発されている。本研究では動作法 による援助についての検討を行っていく。動作法では,「自 分のからだを動かすために主体が進める,『意図』→『努力』 →『身体運動』というプロセスの心理活動を一括して「動 作」」(成瀬,1998)と捉え,「身体運動」に至るまでの「努力」 をより重要視している。鶴(2007)は「ある意識やある感情 は,ある動作とパターンとして結びつくことが生じる」と しており,動作法においては姿勢や身体運動には主体であ る当人の心の在り様や生き方が表現されるといえる。成瀬 (1988)は心理治療において「自己に関わる体験を変化させ て,より豊かによりいきいきとした体験,より自発的で充 実した生甲斐あるものとして体験できるようになっていく ことが目標になる」と述べており,動作法の理論的背景に 体験原理を提唱している。 2)動作法における体験治療論 上記の体験原理にもとづいた,体験の仕方や様式に焦点 を当てた治療論について,成瀬(1988)は「体験治療論」と 呼んでいる。動作法のセッションについては,「クライエン トにとって課題達成場面のものであり,特に導入期は一種 の危機場面的要素を有するため,その動作体験には日常の 問題となる体験様式が伴われやすい」(鶴,2007),「現実の 生活場面で起こる問題に対する解決の仕方が,体に与えら れた動作課題を遂行するときにも表れる」(大場,2013)と述 べており,動作法場面では日常の体験様式が表現されるも のとされている。 3)動作法における動作法体験を扱った実証的研究について 心理療法としての動作法に関する実証的研究では,主に 動作体験について検討されたものが多い。しかし,動作法 の課題の違いがもたらす動作法体験の違い (須藤ら,2000) や,課題の教示の違いによる動作法体験の違い (本 吉,2011),セラピストの援助の違いによる動作法体験の違 い (池永,2012)がある一方で,日常的な体験様式と動作法 中の体験について検討した実証的研究は見当たらない。し かし,動作法を用いた援助の中では,動作課題の遂行に伴 う被援助者の対応や努力の仕方から見立てを行い,さらに 体験様式の変容を目指した支援が行われている。これまで 事例を通して報告されてきた日常的な体験と動作法体験の 関連を,実証的に示すことで動作法による援助の過程をよ り明確なものとして提示することが可能である。そこで本 研究では,日常的な体験様式と動作法体験との関連につい て検討していくことを目的とする。 4)日常的な自己対峙的体験としての「身体」と「悩み」 井上(2011)は青年期を対象として日常的な身体感覚への 態度と「悩む」こととの関連について研究を行った。その 結果身体感覚を尊重し,リラクセーションを心がけている ほど,悩むことに肯定的であり,一方で身体的な不調への 囚われにより,悩みについて苦痛を伴う否定的なものとみ なす傾向にあることが示唆された。このように身体への態 度と悩みは密接に関連していると考えられ,本研究では自 身の身体感覚と悩みを日常的な自己対峙的体験として,扱 うものとする。その際,「自身の在り様を振り返る際に生じ る自身の身体感覚や身体像」を「自己身体」と定義し,ま た「悩み」については先行研究(小田,2000;阿部・田嶌,2004) の定義をふまえ,「本人に意識化されている欲求不満や葛藤 の体験であり,その解決過程を経て自己と対峙していく行 為」と定義する。 5)他年代との比較を通した青年期における自己対峙的体験 の特徴 ところで,井上(2011)は青年期を対象として現代青年の 特徴把握を目的とした調査を行っているが,他の年代と比 較を行ったわけではない。志方ら(2014)は成人期以上を対 象としたリラクセーション体験について検討しており,そ こでは年代によって心身へのとらえ方が変遷していること が示唆されている。そこで,本研究では,自己身体と悩み への日常的態度について年代間比較を行い,青年期の特徴 を把握したうえで動作法体験との関連を検討する。 6)本研究における目的 以上より,本研究においては, 青年期以降の年代全体を 対象として「自己身体」と「悩み」についての日常的態度を測定する尺度を作成し,青年期以降の各年代における身 体と悩みへの体験様式の比較を行い,各年代の身体と悩み の側面からみた自己対峙的体験の特徴を明らかにし,他の 年代と比較したうえで青年期の特徴を整理する。そして, その特徴をふまえた上で,青年期を対象とした日常におけ る自己対峙的体験と動作法体験との関連を検討する。 2.研究 1:年代間比較を通した 青年期における自己身体と悩みへの日常的態度の検討 【目的】青年期と他の年代との比較を通して,青年期の身 体と悩みへの態度の特徴を明らかにする。 仮説①:自己身体への態度については,年代が高くなる ほど,身体的な不調への没入傾向や身体感覚の尊重傾向は 高くなり,一方で年代が若いほど,外面的身体への意識性 が高くなる。 仮説②:悩みへの態度については年代が低いほど,悩み に没入する傾向にあり,年代が高いほど悩みとの距離がと れる。 【方法】:質問紙による調査を実施した。フェイスシート(年 齢,性別),予備調査で作成した「自己身体への日常的態度」 に関する 16 項目(6 件法),「悩みへの日常的態度」に関す る 16 項目(6 件法)への回答を求めた。 ・調査協力者:20 代から 60 代の 303 名(男性:111 名,女 性:192 名),平均年齢は 43.03 歳(SD=14.23)であり大学生, 会社員,公務員,学校教員,看護師,自営業,無職などで あった。本研究では 20 代を「青年期」群,30 代および 40 代を「成人期」群,50 代および 60 代を「壮年期」群と定義 した。 【結果と考察】 1)各尺度における因子分析の結果 「自己身体への日常的態度尺度」と「悩みへの日常的態度 尺度」について,因子分析を行った。固有値が 1 以上であ ることを基準に,因子負荷量の絶対値が.40 に満たない項目 や,複数の因子にわたって高い負荷量をもつ項目を削除し た。 「自己身体への日常的態度尺度」:16 項目について因子分析 を行ったところ 3 項目が削除された。結果 4 つの因子が得 られた(累積寄与率は 53.49%)。4 つの因子はそれぞれの特 徴より,第Ⅰ因子「身体への統制」,第Ⅱ因子「外面的身体 への意識」,第Ⅲ因子「身体的不調への没入」,第Ⅳ因子「身 体感覚の尊重」と命名した(表1)。信頼性はα=.65~.86 であり,十分な値を得ることができた。 「悩みへの日常的態度尺度」:16 項目について因子分析を行 ったところ 3 つの因子が得られた(累積寄与率は 53.30%)。 3 つの因子はそれぞれの特徴より,第Ⅰ因子「悩むことへの 肯定的認識」,第Ⅱ因子「悩みへの没入」,第Ⅲ因子「悩み の保持」と命名した(表2)。信頼性はα=.75~.88 であり, 高い値を得ることができた。 Ⅰ因子:身体への統制(α=.71) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 共通性 3自分の緊張感をコントロールするよう心がけている .904 -.020 -.050 .032 .551 1深呼吸や身体を動かして自分で気持ちを静めることがある .796 -.013 .127 .000 .409 2普段から自分の身体の感覚を意識するようにしている .699 .111 -.046 .122 .533 Ⅱ因子:外面的身体への意識(α=.86) 14自分の姿が他人にどのように映っているか気になる .009 .852 .000 -.050 .789 9人前で何かをするとき自分の姿が気になる -.069 .728 -.042 .216 .689 15人と会うとき,自分の表情が気になる .057 .569 -.060 -.047 .593 Ⅲ因子:身体的不調への没入(α=.77) 16身体の調子が悪いとそこばかりに注意が向いてしまう .051 .550 .120 -.129 .696 13身体の不調にこだわる .111 -.086 .740 -.002 .647 6身体の調子が悪いと何もやる気が起きない .023 .108 .704 -.215 .312 8身体の調子が気になり物事に集中できないことが多い -.127 -.037 .627 .192 .326 Ⅳ因子:身体感覚の尊重(α=.65) 11身体感覚の変化を意識する .008 -.083 .019 .889 .752 12言葉になりにくい身体の感じに意識を向けることは自分にとって 大切だと思う -.007 .122 .216 .506 .527 10ゆったりと過ごせる時間を確保するようにしている .126 -.027 -.140 .414 .130 因子寄与率(%) 29.10 12.53 7.80 4.05 合計53.49 因子間相関 Ⅰ .246 .366 .623 Ⅱ .430 .130 Ⅲ .457 表1 自己身体への態度尺度 (最尤法,プロマックス回転) Ⅰ Ⅱ Ⅲ 共通性 Ⅰ因子:悩むことへの肯定的認識(α=.88) 12今こうやって悩んでいることがいつかは役に立つと思う .915 -.067 -.131 .453 16悩むことによって得るものがあると思う .905 -.099 -.086 .713 10悩むことで成長することができると思う .834 .012 -.056 .669 8悩むことは自分を知るきっかけになると思う .596 .009 .170 .531 3悩むことも生きていく上で大切なことだと思う .496 .276 .261 .466 Ⅱ因子:悩みへの没入(α=.86) 11悩んでいるとどんどん深みにはまり抜け出せなくなる -.081 .753 -.201 .690 1悩みの中にどっぷり身をおいて浸ってしまう -.035 .700 -.126 .554 13考えても考えても出口がないように感じることがある -.094 .679 -.040 .322 15悩んでいるうちに自分はどういう人間なんだろうと考えることがある .111 .677 .137 .720 4悩んでいると何も手につかなくなる -.093 .663 -.185 .538 9悩んでいるうちに自分の性格について考えることがある .202 .662 .233 .553 5悩みがある時はどうすればいいのかを一生懸命考える .283 .420 -.132 .357 Ⅲ因子:悩みの保持(α=.75) 7悩みが完璧に無くならなくてもそんなに気にならない -.180 -.045 .856 .676 6悩み事はすぐに解決しなくてもいいと思う .030 .057 .693 .476 14悩んでいても何とかなるという感じを持つことができる .050 -.155 .481 .487 2悩みがある時,場合によってはそれをじっくり考えることも,それから離れることも できる .162 -.185 .419 .322 因子寄与率(%) 26.32 22.46 4.53 合計53.30 因子間相関 Ⅰ .315 .395 Ⅱ -.332 表2 悩みへの日常的態度尺度(最尤法,プロマックス回転 2)自己身体および悩みへの日常的態度における年代間比較 青年期の身体と悩みへの日常的な態度についての特徴を 把握するため,自己身体への日常的態度尺度と悩みへの日 常的態度尺度の下位因子得点について,年代を独立変数と した一要因分散分析を行った (表 3~4)。なお多重比較には Bonfferoni 法を用いた。
青年期 成人期 壮年期 (N=74) (N=116) (N=113) df F M 4.03 3.82 3.92 SD 0.76 0.89 1.06 M 4.40 4.00 3.63 SD 0.91 0.99 1.04 M 3.57 3.55 3.84 SD 0.93 0.83 0.85 M 4.02 4.09 4.19 SD 0.81 0.88 0.95 青年>成人* 青年>壮年** 成人>壮年* ※*<.05、**<.01、+<.10 身体的不調への没入 2,300 3.85* 壮年>成人* 身体感覚の尊重 2,300 0.87 n.s. 表3 自己身体への日常的態度における世代間の比較 多重比較 (Bonferroni ) 身体への統制 2,300 1.14 n.s. 外面的身体への意識 2,300 13.38** 青年期 成人期 壮年期 (N=74) (N=116) (N=113) df F M 4.72 4.53 4.24 SD 0.73 0.69 0.90 M 3.95 3.55 3.40 SD 0.81 0.83 0.92 M 4.17 4.17 4.00 SD 0.71 0.83 0.82 悩むことへの肯定的認識 2,300 8.98** 青年>壮年**成人>壮年* 表4 悩みへの日常的態度における世代間の比較 多重比較 (Bonferroni) 悩みへの没入 2,300 9.39** 青年>成人**青年>壮年** 悩みの保持 2,300 1.59 n.s. ※*<.05、**<.01、+<.10 自己身体への日常的態度における年代間比較 自己身体への態度に関しては,年代が若い方が他者に映 る外面的な身体への意識が高い一方で,内的に感じられる 身体的不調については,成人期以上で差異がみられ,成人 期よりも壮年期において身体的不調に没入していく傾向が 強いことが示された。 悩みへの日常的態度における年代間比較 悩みへの日常的態度に関しては,年代が若いほど悩みに 対して肯定的な意義を見出しており,さらに青年期には自 身の悩みに没入していき,悩みに囚われながらも自身と向 き合っていく態度をもつことが示された。 以上の結果は仮 説①,②を概ね支持している。自己身体への日常的態度に ついては,年代が若い方が他者に映る自身の身体のあり方 への意識が高く,内的に感じられる身体的不調が気になる 傾向については,年代が高くなるほど高くなると考えられ る。悩みへの日常的態度に関しては,年代が若いほど悩み に対して積極的な意義を見出しており,さらに青年期には 自身の悩みに没入し,囚われながらも,それを通して自身 と向き合っていく傾向にあると考えられる。 青年期は他の年代よりも,他者の目に映る自身の姿を意 識しており,悩みへと積極的に没入していくことで自身の あり方や生き方と向き合い,その過程を経ることに意義を 見出しているという特徴をもつと考えられる。 3.研究 2:自己身体と悩みへの日常的態度と 動作法体験との関連について 【目的】:青年期における自己身体と悩みへの日常的態度が, 動作法中の体験とどのように関連しているかを明らかにし ていくことを目的とする ・仮説①:自己身体への日常的態度として,外面的身体へ の意識性が高いと,動作法場面において不安や緊張を感じ やすく,動作感や情動体験を得にくい。 仮説②:悩みを肯定的に捉えていたり,悩みに没入した りする態度であるほど,動作法場面ではじっくりとした取 り組みがなされ課題への困難や自身の変化を体験しやすい。 【方法】: ・調査協力者:動作法未経験の大学生および大学院生 31 名 (男性:18 名,女性:13 名),平均年齢は 22.7 歳(SD=1.23) であった。 ・調査内容:研究1 で用いた 2 つの尺度に加え,「課題への 取り組み方尺度」(池永,2012),「動作感尺度」(池永,2012), 「情動体験感尺度」(池永,2012)の 3 つの尺度を用いて動作 法体験を測定する指標とした(表 5~7)。 因子 項目例 自分のからだの感じに注意を向けた 素直な気持ちで動作に取り組めた じっくりと動作に集中できた からだの感じが変化するのを待てた 安心感を持って動作にのぞめた 思うようにからだが動かなくてももう少しやってみようと思った どうやってからだの力を抜けばよいかわからず戸惑った 思うように自分のからだの力を向けばよいかいろいろ考えた どこが固いのか,どこの力を抜けばよいか色々考えた からだを動かそうとして焦った どうやってからだを動かせばよいかわからず戸惑った 自分なりに力を抜いたり動かそうと工夫してみた おそるおそる動作に取り組んだ 動作に取り組むことに対して身構えた 余裕をもって落ち着いて動作にのぞむことができた 安定した取り組み 課題への試行錯誤 課題への身構え 表5 課題への取り組み方尺度(池永.2012) 因子 項目例 からだの感じがあいまいな気がした 動かしているからだの部分に違和感を覚えた からだが動かない感じがした 自分にはからだをどうにも動かせない感じがした からだの感じがよくわからなかった 動きが不安定な感じがした からだの姿勢や状態が変わった気がした からだの動きが変わったように感じた からだが軽くなった感じがした 自分のからだを思いどおりに動かしている感じがした からだを自分で動かしている感じがした 自分のからだをコントロールできた感じがした 自分のからだをスムーズに動かせた感じがした 自分で力を抜くことができていた 他の部分の余分な力を抜くことができた からだに力が入って抜けない感じがした(逆転項目) 表6 動作感尺度(池永.2012) 動作制御困難感 変容感 コントロール感 弛緩感 因子 項目例 前向きな気持ちになった 意欲的な気持ちになった 気になっていたことが気にならなくなる感じがした 自分から動き出したくなる感じがした 積極的な気持ちになった 言葉で表現できない感じを持った 不思議な感じがした いつもと違う感じがした 新鮮な感じがした すっきりした感じがした さわやかな気分になった 落ち着かない感じがした 不安な感じがした 変な感じがした いらいらする感じがした 気持ちが良かった(逆転項目) 気持ちが安定している感じがした(逆転項目) 表7 情動体験感尺度(池永.2012) 自発性 爽快感 不安感 ・手続き:「①援助無しでの腕挙げ」,「②寄り添う援助の腕 挙げ」,「③完全お任せでの腕挙げ」,「④援助無しでの腕挙 げ」を総じて腕挙げ課題として実施した。援助は同性の者 が行い,著者が作成したマニュアルをもとに打ち合わせの もと統制を行った。 ・倫理的配慮:協力者には事前に仰向けになること,身体 接触があること,同性の者が実施する旨を伝え個人情報の 取り扱いを記載した同意書に直筆の署名を求め承認を得た。
【結果と考察】 自己身体と悩みへの日常的態度における各因子得点につ いて平均値を基準に高群と低群に分類した。各尺度得点の 高低 2 水準を独立変数,動作法体験を測定する「課題への 取り組み方尺度」,「動作感尺度」,「情動体験感尺度」それ ぞれの下位因子得点を従属変数とした t 検定を行った(表 8 ~9)。 自己身体への日常的態度と動作法体験との関連についての 検討 「身体への統制」が高く,日常生活の中で自分の身体 に積極的に働きかけ,心身の調子をコントロールしようと 心がける態度の者は,動作法のなかではじっくりと安定し た取り組みをしていた。また「身体感覚の尊重」が高く, 身体を通して得られる感覚を重要なものとする態度である ほど,身体動作の感覚の変化や自身の身体を制御している 感覚を抱きやすいことが明らかとなった。一方で「外面的 身体」と「身体的不調への没入」に関しては動作法体験に 差がみられず,仮説①は棄却された。青年期の特徴として みられる外面的身体への意識は,他者対峙的体験としての 側面も強く,他者を意識したうえで生じるものであるため 課題の中での自己対峙的体験と関連をもたなかったと推察 される。 悩みへの日常的態度における年代間比較 悩みへの日常的態度については,「悩むことへの肯定的認 識」が高く,悩むことに積極的な意義を見出す態度をもつ 者ほど,動作法課題に対してもじっくりと安定した気持ち で取り組むことができ,課題遂行による落ち着かなさやい らだちを感じにくいことが明らかとなった。一方で,「悩み への没入」や「悩みの保持」には動作法体験との間に関連 は見られなかった。以上より仮説②は一部支持された。「悩 みへの没入」や「悩みの保持」については,悩みに対する 長期的な態度であることが推察され,1 セッションの中の動 作法体験では関連がみられなかったものと考えられる。 4.総合考察 研究1 の結果より,青年期は他の年代と比較して他者に 映る自身の姿を意識しやすく,また悩むことに対して肯定 的な意味を見出しており,積極的に悩んでいく態度を有し ていることが示された。さらに研究2 の結果より,青年期 の特徴について,悩むことを肯定的に捉えていく態度でい るほど,動作法課題の遂行に際して課題に集中して,安心 して取り組むことが可能であり,さらに不安感やいらだち を感じにくいことが示された。 以上より,青年期において特徴的な悩みへの肯定的な態 度が,動作法への安定した取り組みや課題遂行に伴う不安 感と関連していることが示唆され,青年期へ動作法を適用 する際の重要な視点を得ることができた。また年代による 差がみられなかった身体への統制を心がける態度や身体感 覚を尊重する態度と動作法体験との関連も示唆されており, 今後は継続的な動作法体験のなかでの関連や,具体的な援 助の工夫について検討を行っていく必要がある。 5.引用文献 阿部悦子 田嶌誠一(2004).青年期における「悩み方」の過程に関する研 究―体験的距離と心的構えの視点から― 九州大学心理学研究,5,229-237 . 池永恵美(2012).臨床動作法における援助者の援助が動作者の動作体験に 及ぼす影響 心理臨床学研究,29,6,762-773. 井上久美子(2011). 青年期における身体感覚への態度と「悩む」ことと の関連 心理臨床学研究,29,5,574-585. 本吉大介(2011). 動作法における課題提示方法の違いが動作体験および 動作遂行に及ぼす影響.リハビリテイション心理学研究 38,1,43-57. 成瀬悟策(1988).自己コントロール法.誠信書房. 成瀬悟策(1998).姿勢のふしぎ しなやかな体と心が健康をつくる.講談 社. 小田友子(2000).青年期における悩みの主観体験化に関する研究-「悩み 体験スケール」の作成を通して 人間性心理学研究 ,18(2), 117-127. 大場信惠(2013).臨床動作法における見立てと介入をつなぐ工夫 乾吉 佑 編 心理療法の見立てと介入をつなぐ工夫 金剛出版 73-84. 志方亮介 清島恵 下池洸史朗 古賀聡(2014).リラクセーション体験が 気分状態に与える影響−生涯発達的視点から- 日本心理臨床学会第 33 回秋 季大会発表. 須藤系子 本田玲子 平山篤史(2000)動作課題と自体感との関連性.リ ハビリテイション心理学研究,28.21-34. 鶴光代(2007).臨床動作法への招待 金剛出版. t値 t値 t値 t値 安定した取り組み -1.88 低<高+ -0.95 -0.26 -1.28 課題への試行錯誤 -0.07 -0.28 -0.12 -0.17 課題への身構え -1.28 -0.55 -0.14 0.18 動作制御困難感 1.24 -0.65 0.38 0.54 変容感 -0.16 -1.57 0.01 -2.12 低<高* コントロール感 0.49 -0.74 0.62 -1.80 低<高+ 弛緩感 -1.37 0.29 0.71 0.71 自発性 0.02 -0.59 0.03 -0.89 爽快感 -0.67 0.54 1.33 0.45 不安感 -0.15 0.91 -0.32 0.55 感覚尊重 表8 自己身体への日常的態度得点の高低差と動作法体験について(t検定) *:p<.05 **:p<.01 +:p<.10 身体統制 外面的身体 不調への没入 t値 t値 t値 安定した取り組み -3.56 低<高** -1.53 0.96 課題への試行錯誤 1.65 -0.34 -0.81 課題への身構え -0.44 -0.48 0.07 動作制御困難感 1.35 0.08 0.43 変容感 -1.26 -0.42 -0.72 コントロール感 -1.12 0.62 -0.74 弛緩感 -1.19 0.41 -0.05 自発性 -0.50 -0.73 0.44 爽快感 0.31 -0.27 -0.96 不安感 2.27 高<低* 0.06 0.09 表9 悩みへの日常的態度得点の高低差と動作法体験について(t検定) 悩む肯定 悩み没入 悩み保持 *:p<.05 **:p<.01 +:p<.10