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アカエゾマツの着生菌の代謝産物と 機能に関する生態化学的研究

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 山 路 恵 子

学 位 論 文 題 名

アカエゾマツの着生菌の代謝産物と 機能に関する生態化学的研究

学位論文内容の要旨

1. 実 験 目 的

  一 般 に 針 葉 樹 苗 木 は 、 発 芽 後 外 生 菌 根 菌 と 共 生 体 を つ く る こ と に よ っ て 病 原 菌 へ の 抵 抗 性 を 増 す と さ れ て い る 。 し か し ア カ エ ゾ マ ツ の 菌 根 形 成 に は 長 時 間 を 要 す る こ と か ら 、 本 研 究 で は ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 に お い て 外 生 菌 根 菌 に よ る 苗 立 ち 枯 れ 病 に 対 す る 防 御 機 構 が 成 立 す る 以 前 に 、 苗 木 が 他 の 微 生 物 に よ っ て 土 壌 中 に 存 在 す る 病 原 菌 か ら 保 護 さ れ て い る こ と を 予 想 し 一 連 の 研 究 を 行 っ た 。 微 生 物 の ス ク リ ー ニ ン グ に 際 し 、 化 学 的 防 御 に よ っ て 苗 木 の 病 原 菌 感 染 を 抑 制 で き る 微 生 物 、 即 ち 抗 菌 物 質 産 生 微 生 物 を 夕 一 ゲ ッ ト に し 、 こ れ に よ っ て 得 ら れ た 分 離 微 生 物 に よ る 病 原 菌 感 染 防 御 機 構 の 解 明 を 試 み た 。

2.実験内 容と結果及び考察

A. ア カ エ ゾ マ ツ 種 子 付 着 微 生 物 に よ る ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 の 病 原 感 染 防 御 機 構 Oア カ エ ゾ マ ツ 苗 立 ち 枯 れ 病 菌Pythium vexansに 対 し て 抗 菌 物 質 を 産 生 す る 種 子 付 着 Penicillium属糸状菌

  3種4株 のPenicillium属 糸 状 菌 が ア カ エ ゾ マ ツ 種 子 よ り 分 離 さ れ た。 各菌 株は 構 造の 異な る 抗 菌 物 質 を 産 生 し そ れ ぞ れ がPy. vexansに 対 し て 強 い 生 育 阻 害 効 果 を 示 し た 。Pe.cyaneum PGS―T5株 はpatulin (1)、Pe. damascenum PGS‑07株はcitrinin (2)、Pe. implicatum PGS‑S4株は palitantin (3)、frequentin (4)及びarthrographol (5)、Pe. implicatum PGSーS16株は化合物3及び4を 産生した。

@ 種 子 付 着Penicillium属 糸 状 菌 が 産 生 す る 抗 菌 物 質 の ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 に 対 す る 効 果   各 抗 菌 物 質 の500 ppm溶 液 で 苗 木 を 液 耕 さ せ た 場 合 、 苗 木 に 対 す る 生 物 毒 性 は 確 認 さ れ な か っ た 。 苗 木 根 部 で 各Penicillium属 糸 状 菌 が 抗 菌 物 質 を 産 生 し た 場合 に、 根に は 生物 毒性 を 示 す こ と な く 苗 木 に 対 す る 病 原 菌 感 染 防 御 機 構 が 発 現 す る と 予 想 さ れ た 。

◎Pe. damascenum PGS‑07株による苗木 の病原菌感染枯死の抑制

  ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 に 各Penicillium属 糸 状 菌 と 病 原 菌Py. vexansを混 合接 種し た 結果 、Pe. damascenum PGS‑07株 に よ り 苗 木 の 病 原 菌 感 染 枯 死 の 抑 制 が 確 認 さ れ た 。 こ の 現 象 に は 、 抗 菌 物 質citrinin (2)の 産 生 に よ る 化 学 的 防御 効 果と 根部 へ菌 が定 着 する こと によ る ニッ チの 占 有(物理的 防御)効果とが互いに関与 していると結論した。

B. ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 定 着 微 生 物 に よ る ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 の 病 原 感 染 防 御 機 構   苗 木 根 部 で 種 子 付 着 菌 に よ る 防 御 機 構 が 働 い た 後 、 根 部 の 菌 遷 移 が ど の よ う に 進 行 し 、 ど の よ う な 新 た な 防 御 シ ス テ ム が 発 動 す る の か を 検 討 し た 。

944

(2)

@苗立ち枯れ病菌Py.vexansに対する抗菌物質産生能を有する苗木根圏定着性Penicillium属 菌の存在

  アカエゾマツ林 床土で生育させたアカエゾマツ苗木根部から、Py. vexansに対する抗菌物 質penicillic acid (6)産 生 能 を 有 す るPe. frequenrans NSlA、NS4A株 を 分 離 し た 。

@ Pe. frequentans NSlA株 に よ る 苗 木 の 病 原 菌 感 染 に よ る 枯 死 の 抑 制   苗木にPe. frequentans NSlA株と病原菌Py. vexansとを混合接種した場合、Py. vexansの単 独接種区と比較し て、混合接種区における苗木生存数の平均値が上昇した 。また本糸状菌の 根部での生育が活 発な程、苗木の生存数が上昇すると推定された。アカエ ゾマツ苗木根から の分泌物を利用し かつ定着選好性があると推測される微生物相から抗菌物 質産生糸状菌が分 離されたとぃう事 実は、種子付着菌が防御機能を果たした後の苗木根部に おける新たな病原 菌感染防御機構の 存在を示唆するものである。

C.アカエゾマツの病原菌感染防御機構  ゜

  アカエゾマツ苗木の病原 菌感染防御に機能する種子付着菌(Pe. damascenum PGS‑07株)、

およぴ外生菌根菌(Paxillus sp. 60/92)を苗木根部に混合接種し、苗木定着菌(Pピ,freq entans NSIA株 )が 生息 する アカエゾマツ林床 土で1ケ月苗木を生育させた 。その苗木根部の菌相を 調 査し3種 の糸 状菌 がア カ エゾ マツ 根部 に共 存し た場 合の 病原 菌感 染防 御の 実体を検討し た。

Pe. damascenum PGS‑07株によるアカエゾマツ苗木の病原菌防御機構

  Pe. damascenum PGS‑07株を接種し1ケ月生育させた苗木根部から本糸状菌が再分 離され、

実際の環境下で本菌が苗木 芽生え根部に定着し病原菌感染を抑制する可能性が示唆 された。

@Pe. frequerttansによるアカエゾマツ苗木の病原菌防御

  処理条件に拘わらず全て の区の苗木根部からPe. frequentansが分離され、さらに外生菌根 形成が発達している43年生 アカエゾマツ細根部からもん. frequentansが分離され た。ん.

frequentansは種子が発芽後苗木へと成長する過程にお いて、苗木根部の菌相の変化に影響を 受けずに、根部の菌根形成 終了までの期間さらには終了後にも苗木根部に定着する と考えら れた。このことからん. frequentansは、種子付着菌から外生菌根菌へと菌相の遷移が起こる 際にその仲立ちをしながら アカエゾマツの病原菌感染防御に関与し、外生菌根菌と 共生した ア カ エ ゾ マ ツ 根 圏 で 長 期 に 渡 っ て 共 存 で き る よ う な 糸 状 菌 で あ る と 考 え ら れ た 。

3.総合考察

  本 研 究 結 果か ら、 アカ エゾ マツ 苗木 の 各生 育段 階に おい て種 子付 着菌Pe. damascenum PGS‑07株からPe. frequentans.最終的に共生する外生菌根菌による病原菌感染防御機構が苗 木根圏の菌遷移に伴って展開 していると考えられた。森林土壌の糸状菌フローラは農耕地土 壌に比べてPenicillium属糸状菌が優勢すると言われており、そのような環境下でPenicillium 属糸状菌による病原菌感染防 御機構が苗木根部で発動することはアカエゾマソにとって合理 的な状況であり、病原菌に侵 されやすい苗木が獲得した機能ではないかと思われる。細部に 渡る詰めは残されているが、 本研究で得られた結果は、苗木生育初期段階における外生菌根 菌以外の微生物による新たな 病原菌感染防御の仕組みが、苗木根部での菌遷移に伴って機能 している可能性を示唆してい る点で意義深いものであると思われる。本研究が他の植物と種 子付着菌、苗木定着菌そして 共生菌との生態学的相互作用を考える手掛かりになり、新しい 植物防疫へのアプローチとな ることが期待される。

945

(3)

    O HOOC

O H

HO HO

1: patulin       2: citrinin      3: palitantin

HO HO

    つ     C OOH

− , ク 丶 ク 丶   = ゴ H3CO

4: frequentin      5:arthrographol      6:penicillic acid

‑ 946

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授    田 教 授    高 教 授    吉 助教授   橋

原 哲士 橋 邦秀 原 照彦 床 泰之

学 位 論 文 題 名

アカエゾマツの着生菌の代謝産物と    機 能 に 関 す る 生 態 化 学 的 研 究

  本 論 文 は 、 和 文343頁 、 図157、 表49、5章 か ら な り 、 ほ か に 参 考 論 文1編 が 付 さ れ ている。

  一 般 に 針 葉 樹 苗 木 は 、 発 芽 後 外 生 菌 根 菌 と 共 生 体 を っ く り 土 壌 病 原 菌 に 対 す る 抵 抗 性 を 増 す と さ れ て い る 。 し か し ア カ エ ゾ マ ツ の 菌 根 形 成 に は 長 時 間 を 要 す る こ と か ら 、 本 研 究 で は ア カ ェ ゾ マ ツ 苗 木 に お い て 外 生 菌 根 菌 に よ る 防 御 シ ス テ ム が 成 立 す る 以 前 に 、 苗 木 が 他 の 微 生 物 に よ っ て 土 壌 病 原 菌 か ら 保 護 さ れ て い る こ と を 想 定 し 、 一 連 の 実 験 を 行 っ た 。 微 生 物 の ス ク リ ー ニ ン グ に 際 し 、 化 学 的 要 因 に よ り 苗 木 の 病 原 菌 感 染 を 抑 制 で き る 微 生 物 、 即 ち 抗 菌 物 質 産 生 微 生 物 を タ ー ゲ ッ 卜 に し 、 得 ら れ た 微 生 物 に よ る ア カ ェ ゾマツの病原菌感染防御の可 能性を追究し以下の結果を得ている。

  1. ア カ エ ゾ マ ツ 種 子 付 着 菌 の 抗 菌 物 質 産 生 と ア カ ェ ゾ マ ツ 苗 立 枯 れ 病 菌 の 抑 制   ア カ ェ ゾ マ ツ 苗 立 枯 れ 病 菌Pythium vexansに 対 し て 抗 菌 物 質 を 産 生 す る3種4株 の Penicillium属 糸 状 菌 が 、 産 地 を 異 に す る ア カ エ ゾ マ ツ 種 子 よ り 分 離 され た。 各菌 株は 対 峙 培養 でり ′.vexansの 生育 を強 く抑 制し 、純 粋培 養し たPe. cyaneum PGS−T5よ りpatulin (1)、Pe. damascenum PGS−07よりcitrinin (2)、Pe. implicatum PGS‑S4株よりpalitantin (3)、 frequentin (4)及CBarthrographol (5)、Pe. imp瓜沼ん脚PGS―S16株より化合物3及び4を抗菌活

    O    HOOC  U OH          OH

Lニ patulin       2: ciLrinin

    O HO  CH20H

HO   ン ク ャ 入 / 丶     3 :  paljCannn

o  Hoぬルケ塒COOH ::tr:̲ OH         H3CO

  4: frequentin      5:arthrographol      6:penicillic acid

(5)

性 本体 と し て単 離 同定 し た 。こ れ らの抗菌性 代謝産物 は、カッ プ法では25 ppm程度で め′.、′exansの生育を阻害したが、アカエゾマツ苗木を高濃度(500 ppm)の溶液中で液耕 しても 生物毒性 は発現せ ず:苗木 根部で各Peniallium属糸状菌が抗菌物質を産生した場 合 に、 根 に は毒 性 を示 す こ とな く 苗木の病原 菌感染を 抑制でき ることが 予想され た。

  アカェゾマツ苗木に各PeniciJllium属糸状菌と病原菌Py. vexansを混合接種した結果、

citrinin (2)産生菌であるPe. dam.笛cenumPGSー07により苗木の病原菌感染枯死が有意に抑 制 され 、その効 果は、抗 菌物質2の 産生による 化学的防 御と根部 へ菌が定 着するこ とに よるニッチの占有によると結論された。

  2. ア カ エ ゾ マ ツ 苗 木 定 着 微 生 物 に よ る ア カ ェ ゾ マ ツ 苗 木 の 病 原 菌 感 染 防 御 苗 木根 部 で 種子 付 着菌 に よ る苗 立 枯れ病菌の 抑制機構 が働いた 後の根部 の菌遷移 、新 た に発 動する防 御システ ムを検討 するため、 病原菌fレ 兜船恥に 対する抗 菌物質産 生能 を有す る苗木根 圏定着菌 をスクリ ーニング し、アカエ ゾマツ林床土で生育させたアカエ ゾマツ苗木根部から、B′,ヽ′e.船nsに対する抗菌物質pemcnncacidく6)産生能を有するPe. mquen觚NSlA、NS4A株 を 分離 し た 。NSlA株 と め′ . 他xamと を アカ エ ゾ マツ 苗 木に 混 合接種 した場合 、苗木生 存数が上 昇した。 生存苗木の 根部では本糸状菌の活発な増殖が 観察さ れた。ア カエゾマ ツ苗木根 からの分 泌物を利用 しかつ定着選好性があると推測さ れる根 圏微生物 相から抗 菌物質産 生糸状菌 が分離され た事実は、種子付着菌が防御機能 を 果 た し た 後 に 新 た な 病 原 菌 感 染 防 御 機 能 が 働 く こ と を 示 唆 し て い る 。   3.アカエゾマツの根圏で展開している多様な病原菌感染防御機構

  アカェ ゾマツ苗 木根部に 種子付着 菌Pe.da触i鉛 印脚PGS―07および外生菌根菌Paxmus sp.60/92を単独あるいは混合接種し、苗木定着菌Pe,frequ印伽帖NSlA株が生息するアカ エゾマ ツ林床土 で1ケ月間 苗木を生 育させ、 根部の菌相 を調査し3種の糸状菌がアカエゾ マ ツ 根 部 に 共 存 し た 場 合 の 病 原 菌 感 染 防 御 の 実 態 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 ん . dam.asc印脚PGS.07を接種 した苗木根部から本糸状菌が再分離され、本菌が苗木芽生え 根部に 定着し病 原菌感染 を抑制で きること が示唆され た。また、処理条件に拘わらず全 ての区の苗木根部からPe.轟.equen臼田sが分離された。

  外生菌根形成が発達している43年生アカエゾマツ細根部からも尸e.加quen細sが分離さ れたこ とから、 同菌はア カエゾマ ツ根圏で 種子付着菌 から外生菌根菌への菌相の遷移期 に介在 し、アカ エゾマツ の病原菌 感染防御 に機能しつ つ、外生菌根菌と共生したアカェ ゾマツ の根圏で持続的に共存できる糸状菌であると考えられた。森林土壌の糸状菌フ口ー ラ は 農 耕 地 土 壌 に 比 べ てPe晒c皿 脚 属 糸 状 菌 が 優 勢 で あ り 、 そ の よ う な 環 境 下 で nmc泌脚 属 糸 状菌 に よる 病 原 菌感 染 防御 機 構 がア カ エ ゾマ ツ 根圏 で発動す ることは 極 めて合 理的で、 病原菌に 侵されや すいアカ エゾマツ苗 木の適応度を高めるのに役立って いると考えられる。

  以上の ように本 研究は、 アカェゾ マツの苗 木生育初期 段階における外生菌根菌以外の 微生物 による病 原菌感染 防御シス テムの存 在を示唆す るもので、植物と種子付着菌、苗 木 定 着 菌 そし て 共生 菌 と の生 態 学的 相 互 関係 に つい て 、 重要 な 新 知見 を 得て い る 。   よって審査員一同は、山路恵子が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するも のと認めた。

参照

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