博 士(地球環 境科学) アスウインウスプ
学 位 論 文 題 名
Peat fire characteristics of tropical peatland in Central Kalimantan . Indonesia
(インドネシア・中央カリマンタン熱帯泥炭地における泥炭火災の特性)
学位論文内容の要旨
イン ド ネシ ア・ カリマ ンタンに分布する熱帯泥炭 地は8.6Mhaでインドネシア全 泥炭地面積の 44%に 相 当す る。 この 熱 帯泥 炭地 の大 部分 は 内陸 性で 熱帯 湿地 林 に由来する木 質泥炭で構成 さ れて い る。 この 熱帯泥 炭地上に成立していた熱帯 泥炭湿地林は、1990年代には いると、農地 開 発に と もな う森 林の皆 伐と大規模排水路建設によ る泥炭地の乾燥化や、合法あ るいは非合法 組 織に よ る経 済木 の伐採 により荒廃した。そのため 農地造成時の火入れや道路沿 いでの失火な ど が原 因 で泥 炭火 災が発 生し、199 7/98年のエルニ ーニョ現象にともなう大規模 泥炭火災では 地 球温 暖 化物 質で ある炭 素が大量に放出される事態 にいたった。1990年代にはこ のような大規 模 泥炭 火 災は3−4年周 期 で発 生す るエ ルニ ー ニヨ 現象 によ る東 南 アジア地域の 乾燥にともな い発 生していたが、2000年代には いると、カリマンタンでは エルニーニョ現象発生時以外にも発 生す るようになり、地球温暖化への影響がさらに懸念される事態となった。しかし、熱帯泥炭火災 の 発生 ・ 延焼 のメ カニズ ムについての研究は少なく 、防火対策をたてるための基 礎情報が極度 に不 足しているのが現状である。 そこで、本研究では(1)熱帯泥炭地における燃焼物質の構成と それ らが燃焼するプロセスを実際 の泥炭火災における観測で 明らかにするとともに(2)熱 帯泥炭 の 諸燃 焼 特性 を実 験室で 明らかにして、熱帯泥炭地 における泥炭火災の発生・延 焼のメカニズ ムを 明らかにすることを目的とし た。
泥 炭火災の現地観測は中央カリ マンタンの州都であるパラ ンカラヤ市内、パランカラヤ大学敷 地 内に 設 けた 泥炭 火災実 験場とパランカラヤ市と南 南東約70kmに位置するプラン ピサウとを結 ぶ 国 道周 辺で2002年 に発 生し た9箇所 の泥 炭 火災 現場 を対 象に 行 なっ た。 調査 項目 は 泥炭 層 とそ の上に堆積しているりター層、草本・樹木などの植物層のパイオマス量、火災で焼失したバイ オ マス 量 、泥 炭の 燃焼温 度、火災延焼の速度や延焼 パターンなどである。熱帯泥 炭の燃焼諸特 性 に つ い て は 、 火 災 現 場 で 採取 した 泥炭 や 樹木 を持 ち帰 り、 実 験室 にお いて 熱重 量 測定 法 (TG−GTA). ボン ベ熱 量計 を 用い 、着 火温 度 ・可 燃ガ スピ ーク 燃 焼温 度・ チャ ーピ ー ク燃 焼 温度 および燃焼速度・発熱量など の燃焼物性を明らかに し た。
熱 帯 泥 炭 地 に お け る 火 災 は燃 料と なる 物 質の 分布 によ り大 き く(1) 泥炭 火災 、(2) 地 表 火 災 、 (3) 樹 木 火 災 の3っの タイ プに 分 けら れる 。そ れら の 火災 は相 互に 影響 し あぃ な が ら 着 火 ・ 延 焼 す る が 、 本 研 究 は そ の 中 の 泥 炭 火 災 に 焦 点 を あ て た も の で あ る 。
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現地観 測の結果、泥炭が着火するときの水分含量は40 gr%以下で、泥炭火災の延焼プ ロセス には表層泥炭火災と下層泥炭火災の2っにタイプがあることが明らかとなった。表 層泥炭火災は表層から次第に下層に向けて燃焼が進みながら燃焼面積を拡大するタイプで、
一方の 下層泥 炭火災は 生きて いる草本 や木本類 の根が 密に分布 する表層20―30 cmを残 してそ の下層 に燃焼が 進むタ イプである。表層泥炭火災の燃焼前線の水平移動速度は42
−155 cm day‑1で、寒冷泥炭地で観測された値と同程度あった。しかし、下層泥炭火災の 場合は12―60 cm day‑lで、表 層泥炭火 災の1/3程度の移 動速度であった。泥炭燃焼時 の温度は燃焼前線では275℃前後を示したが、部分的には400℃に達する部分もみられた。
地上部の燃焼物質が枯れ草の場合と乾燥した木片で覆われている場合の泥炭表面、表層、
下層の 温度を 野外で測 定し、 枯れ草の場合には着火温度に近い高温の時間が1―2分で非 常に短 く、泥 炭層が着 火する にいたらなかった。しかし、木片の場合には20分以上も着 火温度に近い高温状態がっづき、泥炭表層は着火燃焼した。このことは、表層泥炭の着火 には地上部に乾燥した倒木などの多くの可燃物の存在が必要であることを示唆するもので ある。
泥炭火災時の燃料と.なるバイオマス量を深さ・Imの泥炭層から地表のりター層、草本・
木本層までを対象に測定した結果、泥炭層のバイオマス量は全体の80%をしめ、地上部は 20%に過 ぎなか った。ま た、2002年 の火災で 観測し た9地 点で焼失したパイオマス量は 76%が泥炭層由来であった。焼失した泥炭層の深さは最深で80 cm、平均で39 cmであり、
火災跡 地では微地形が激変した。また、深さ30 cm以上の泥炭層が焼失したばあい、その 土地に成立していた森林は激甚な被害をうけること、およびそれには下層泥炭火災が深く かかわっていることなども明らかとなった。
一方、 実験室 で行った 熱重量 測定法による分析では表層(0−20 cm)の泥炭層中で2mm のフルイに残る粗い泥炭素材の可燃物質含有率は70%で、フルイを通過した細かな素材の 47%より はるかに多かった。また、20―60 cmの深い層に含まれる粗い素材と細かな素材 の可燃 物質含 量はそれ ぞれ45% と36%で表層泥炭に比ベ少なかった。泥炭中の水分は、
泥炭の 着火に大きな影響を及ばすが、93―151℃の範囲で全て蒸発し、泥炭中の可燃性ガ スも250℃以 下で放出され、ヘミセルローズやセルローズが熱分解する256ー277℃で泥炭 の燃焼が発熱過程に入ることが明らかとなった。また、310→330℃の付近で発炎燃焼とチ ヤー形 成をともなうピーク熱分解、また411℃付近でチャー燃焼が生じていることが明ら かとな った。 この泥炭 の燃焼 過程で表層泥炭(O―20cm)の可燃物質の燃焼速度は1.12 ‑ 3.87 mg min一1であったが、深い泥炭層(20―60 cm)は0.56−1.43 mg min.1で、現地観 測で確認された下層泥炭火災における燃焼前線の比較的遅い移動速度を説明するものであ る。なお、泥炭の発熱量は18―19 kJ g‑1で、深さや構成素材の粗細による差は少なかった。
以上の結果から熱帯泥炭地において頻発する泥炭火災の着火・延焼プロセスが明らかと な り 、 熱 帯 泥 炭 火 災 の 防 止 に 向 け て 貴 重 な 情 報 を 提 供 す る こ と が で き た 。
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