博 士 ( 医 学 ) 斎 藤 拓 志
学位論文題名
Plasma concentration of adenoslneduring normOXiaandmoderatehypOXlalnhumanS
(ヒトにおける室内気吸入時および中等度低酸素負荷時の 血漿アデノシン濃度)
学位論文内容の要旨
【背景】
ア デノ シン は 高工 ネル ギ一 燐 酸化 合物 であ るア デ ノシ ン三燐酸(ATP)が分解し てできる プリンヌクレオシドであ り、呼吸循環応答に対する 強い生理活性を有する。虚血や高度低酸 素負荷時には組織内濃度 が上昇し、例えば脳や心臓 では直接的にあるいは局所の血流増加を 介レて組織保護に働く。 呼吸調節系においては、外 的に投与されたアデノシンは末梢化学受 容器を介して換気を刺激 する一方、中枢性には換気 を抑制する。我々はこれまでに中等度低 酸素 負荷(Sa02が80% 、20分 間) に対 する 換 気応 答に おい ても内因性アデノシン が呼吸調 節修飾因子として関与し ている可能性をヒトで初め て示している。しかし、この程度の中等 度低酸素負荷でアデノシ ン組織濃度が本当に上昇し ていることを確かめた報告はない。そこ で本研究は、動・静脈の 血漿アデノシン濃度を同時 測定することによルヒトの前腕あるいは 脳 組 織 ア デ ノ シ ン 濃 度 が 実 際 に 上 昇 し て い る か 否 か を 確 か め る こ と を 目 的 と し た 。 流血中に入ったアデノ シンは赤血球や血管内皮細 胞へ直ちに取り込まれるため血中半減期 はきわめて短い。そこで 、単に動・静脈較差をみる だけでは組織レベルの変化を反映しない かもしれないと考え,実 験はジピリダモールを前投 与した場合としない場合とに分けて行っ た.ジピリダモールは、 アデノシンの細胞内への取 り込みを抑制するため、もしも,前腕あ るいは脳組織でアデンノ シ引膿度上昇があれば流出静脈の血漿アデノシン濃度はジピリダモー ル投与によって組織濃度 をより反映しやすくなると 考えられる。
【方法】
対 象 は男 性健 常者12人 ( 年齢21土2(SD)歳 、体 重63土5kg)。検体採 血のため橈骨動脈、
正中 皮 静脈、内 頚静脈(7人のみ)に留置針 を挿入した。実験中プ口ト コールに基づいた酸 素 飽 和 度(Sa02)と 動 脈 血 炭 酸 ガ ス 分 圧(PaC02) を 得る ため 、Sa02と 呼 気終 末炭 酸ガ ス 分圧をモ二夕一しな がら吸入気の酸素濃度と炭 酸ガス濃度を別々に制御した 。初めに室内気 を吸 入 させ た後 、低 酸素 ガ スを 負荷 し6分間 かけ て徐 々 にSa02を80% にした。次にSa02を 20分 問80% に維 持し 、最 後 に30分間 室内 気を 吸 入さ せた 。この間PaC02を一定に維持して おく た め吸 入気 炭酸 ガス 濃 度を 調節した。 検体採血は初めの室内気吸 入時、Sa02が80%に なっ た 直後 、そ の10分後 、20分 後、 室内 気に 戻 して30分 後の計5回、 橈骨動脈、正中皮静 脈、内頚静脈から行 なった。検体はガス分析とアデノシン濃度測定に用いた。以上の実験は、
初め に 対照 薬と して 生理 食 塩水 を点滴静注 しながら行ない、次に30分 問の安静臥床の後、
ジピリダモール(0.6 mg/kg)を点滴静注しながら 行なった。
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血漿アデノシン濃度に対 するジピリダモール単独の効 果をみるため、別の健常若年男性被 験者3人を対象として、室内 気吸入下でジピリダモールを 同じ方法で投与し正中皮静 脈から 投 与 前 、 投 与 後10・ 20・ 30・ 60分 に 採 血 し ア デ ノ シ ン 濃 度 を 測 定 し た 。 血 漿アデノシン濃度測定の ため、採血時には代謝を防 く゛目的でdiLazep、EHNA、EDTA、 GーEDTA丶indomethacinの5種 の薬 品 を合 む水 溶液0.4 mlをあ らか じめ 注射 器内に 入れて おき、血液3.6 mlを採取し 速やかに混和レた。採血後直 ちに遠沈し血漿分離して除蛋白・ヌ クレオチド除去の処置をレ て保存した。測定はク口口ア セ卜アルデヒドによルアデノシンを エ テ ノ ア デ ノ シ ン に 変 換 し てHPLC螢 光 法 を 用 い た 。C'8カ ラ ム を 用 いて 分離 し、 波長 280nmで 励起 し380nmの螢 光を 測定 し た。 試料 濃度 から へ マト クリ ット を用 いた換 算式に より血漿アデノシン濃度を 求めた。
【結果】
血液ガス分析の結 果はプ口トコール通りに低酸 素負荷が行われたことを示した。室内気吸 入時 の血 漿 アデ ノシ ン濃 度 は動 脈(12.0土0.9nM)と正 中皮静脈 (17.7土3.5nM)、内頸静脈
(14.0土2.8nM) で 動・ 静脈 間に 有意 差 はぬ かっ た。 対照薬投 与時の血漿アデノシン濃度 は動脈・正中皮静脈 ・内頸静脈いずれにおいても 低酸素負荷によりどの時間においても有意 の上昇はなかった。 一方、ジピリダモールを投与 したときの血漿アデノシン濃度は、正中皮 静脈 にお い ては 室内 気吸 入 時20.7土2.5nMか ら低 酸素 負 荷直 後25.0土4.2nM、10分後35.9 土7.7nM、20分 後に は50.7土10.7nMと時 間 依存 性に 有意 に上 昇 し(pく0.01)、対 照 薬投 与時 と比 べても低酸素負荷時にはい ずれの時間でも有意に高かっ た(pく0.05 for aiD。室 内気 吸入30分後 には 元の レ ペルに戻 った。一方、動脈血と内頸 静脈においては血漿アデノ シ ン 濃 度 は 、 ジ ピ リ ダ モ ー ル 投 与 時 で も 低 酸 素 負 荷 に よ り 上 昇 し な か っ た 。 室内気吸入時にジ ピリダモール投与のみをした場合には正中皮静脈血漿アデノシン濃度は、
投与前、投与後10・ 20・30 ‑ 60分において18.9土l.lnM,16.3土3.1nM、16.8土1.8nM、 18.6土O.7nM、19.3土1.4nMと有意な変化を示 さなかった。
【考案】
本 研究 は ヒト 前腕 組織 に おい てア デノ シン 産 生が 中等 度低 酸素負荷時 に亢進していること を初 めて 示 した もの であ る 。し かも 、こ の産 生 亢進 はジ ピリ ダモール投 与時においてのみ血 漿濃 度の 上 昇と レて 確か め られ た。 ジピ リダ モ ール は流 血中 に入ったア デノシンの赤血球や 内皮 細胞 へ の取 り込 みを 抑 制す るこ とが 知ら れ てい る。 従っ て、今回の 結果は流出静脈の血 漿 濃 度 で さ え も 組 織 ア デ ノ シ ン 濃 度 を 必 ず し も 反 映 し な い と い う こ と を も示 して いる 。 低 酸素 負 荷に より 組織 ア デノ シン 濃度が上 昇する機序は@ATP異化亢進 による産生増加、◎
乳酸 、pH,PaC02の 変化 によ る細 胞外 放 出の 増加 、◎ 組 織破 壊によって 細胞内ATPが大量に組 織間 液に 放 出さ れ、 細胞 外 でア デノ シンに分 解される、の3っが考えられ る。虚血時には◎が 主要な上昇機序と考 えられており、上昇が顕著で あるためにジピリダモール投与がなくとも動・
静脈 較差 と して検 出されうることが過去の研 究から知られている。しかレ 、今回の実験で用い た中 等度 低 酸素で は、組織破壊が起こること は考えにくい。また、このレ ベルでの低酸素負荷 では 乳酸 増 加やpHの低下はない。従って、本 研究で確認された組織アデノ シン濃度の上昇は組 織に おけ る 産生亢 進を反映していると考えら れる。本実験で認められた血 漿アデノシン上昇が ジピ リダ モ ールの 直接効果によるものではな いことは、室内気吸入時には ジピリダモール投与 で血漿濃度が影響さ れなかったことから明らかで ある。
内 頚静 脈 での血 漿アデノシン濃度上昇が認 められなかったため、脳組織 における低酸素負荷 時のアデノシン産生 亢進は証明できなかった。内 頚静脈酸素分圧はむしろ正中皮静脈より低かっ た。 従っ て 、低酸 素負荷の程度が脳組織で前 腕より軽かったとは考えにく い。この結果は脳組 織が 低酸 素 負荷に 対して、よルアデノシン産 生が起こりにくいか、あるい は、血液脳関門のた
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めに脳組織アデノ シンが静脈内へ流出しにくかった可能性を示唆する。
【 ま とめ 】
中 等 度低酸素負荷によルヒ卜前 腕組織ではアデノシン産生が 増加する。しかレ、それは 流出 静脈 血 漿中には必ずしも反映され ない。この結果は、中等度低 酸素血症時にもアデノシン が局 所 的 に は 生 理 活 性 を 有 レ て 呼 吸 循 環 応 答 に 関 与 し て い る 可 能 性 を 支 持 す る 。
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