九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
フィードフォワード管理会計の構造と展開
丸田, 起大
Graduate School of Economics, Kyushu University
https://doi.org/10.11501/3166617
出版情報:Kyushu University, 1999, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
フィードフォワード管理会計としての原価企画
4.1 はじめに
本章では, 前章において構想、された管理会計フレームワークにおけるフィード フォワード戦略管理会計に位置づけられるものとして, 原価企画を採り上ること にする。
様々なケース ・ スタディや実態調査を遇して多くの成果が替積されつつある原 価企画研究は, いわば「原価企画とは何かjという問題意識からその実態と論理 の解明を目指すものが多い。 しかし同時に一方で, それらの成果を素材として,
実践的・ 理論的な 意味で「原価企画から何を学ぶかJという問いも成り立ち得る であろう。 そのような 立場に立てば, これまでの 原価企画研究 の過程において提 起されてきている様々な分析視角にはそれぞれ興味深いものがある。
本章はそもそも, 以上のような「原価企画から何を学ぶかJという問いから出 発し, その答えのひとつとして, 原価企画研究においてとれまでに提起されてき た分析視角の中から, フィードフォワ ードという概念に焦点を当てようとする試
みから導き出されたものである。
以下では, まずフィードフォワード概念の視点から展開されている原価企画研 究の中でフィードフォワード概念がどのように捉えられているかを検討していく。
次に原価企画のフィードフォワード構造を具体的なケースをもとに確認し, さら に原価企画成立のメルクマールとも関わらせながら, 原価企画研究におけるフィー ドフォワード概念の意義を主張していくことにしたい。
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第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
4.2
原価企画論とフィードフォワード概念
本節では, 原価企画研究においてフィードフォワード概念の視点から分析を行 なっている若干の論稿について検討を行ない, 原価企画の説明概念としてフィー ドフォワード概念に多くの関心が寄せられていることを確認したい。
4.2.1 原価企画 論とフィードフォワード概念
まず原価企画研究において最初にフィードフォワード概念を援用したのは,
Morgan and Weerakoon [1989]である。 彼らは, 英国企業のコントロール・ アプ ローチがフィードパックに大きく依存しているという問題認識の上に立ちながら,
それとは異なる特徴を有している日本企業のコントロール・ アプローチに注目す るCMorgan and Weerakoon[1989]p.40)。 そして日本企業のコントロール・ アプ
ローチの特徴を導くために, Hiromoto[1988Jにおけるダイハツの原価企画の事例 を検酎しながら, そのプロセスを図表4-1のように示した上で, そのプロセスの 説明概念としてフィードフォワード概念を提示しているのである。
「製品設計 ・ 開発段階において見積原価が目標原価と比較されているが, これはフィー ドフォワード ・ コントロールの一例である. この段階に おいて生じた差異は, 開 発 担当者へと戻されて, 設計提案, 目標原価との比較, その差異の計算, 可能な限り 低い原価で必要とされる機能を折り込むためのVE/VA, および設計変更というサ イクルが練り返される 。 そしてこのサイクルは, 生産開始時に最終的に達成可能で あると見込まれる見積原価が 目標原価と一致すれば終了となる。 J (Morgan and Weerakoon[1989]pp.42- 43)
ここで彼らは, r製品設計・ 開発段階において見積原価 と目標原価を比較するj という過程に対してフィードフォワードという概念を与えていると理解されるが,
さらに重要なとととして, 日本企業の管理会計システムが有効に機能しているの は, その背後にありそれを動かしているフィードフォワード ・ アプローチの存在 が大きいという認識が示されている点である。 そしてとこから, r英国企業にお いても管理会計の役割を重視するのであれば, フィードパックに依存している英
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機能別インプット
フィードフォワード 計画設定過程
計画設定 以降段階
第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
マーケティングl 段 針 l
市 場
よ特性・性能l関
鯛 査 i仕 様書l|指
販 売J
l l
流 通、I I
�品開発
l
現 黛 1l L
悶勺1 1
発 I I�、 現行達成l
T←製造寸�
� � - h 可能原価
l仕入�I I
1実施計画 1
1生 産寸 財 務
売価格
目標販戦略的計画訟定
(出所) Morgan and Weerakoon[1989]p.42 図表4-1
国企業は, 日本企業のフィードフォワード・ アプローチを見習うべきである」と いう 提言へと至るのであるCMorgan and Weerakoon[1989]p. 43)。 つまりここで
強調すべきなのは, その提言が原価企画そのものの導入という形ではなく, それ を動かしている論理としてのフィードフォワード思考を見習うべきであるという 方向で示されている点である。
さらには, 一般的には, 原価企画の全体像を考慮する視点からは, マーケティ ング, 設計, 製品開発, 財務, および戦略計画などの諸要素からなる市場志向性 や戦略性という機能的な側面が強調される事が多い。 しかしながらMorgan and Weerakoon[1989]の分析において興味深いのは, それに加え て, さらにその基礎 にある会計構造の特徴をも適切に説明することのできる概念を求め, そとにフィー ドフォワードという 概念を適用している点である。 これにより原価企画の会計的 特質を適切に表現することのできる説明概念が新たに加わったと見ることができ るのである。
引き続いてMorgan[1992]では, このフィードフォワードという視点を, 原価企 画に止どまらず生産管理や情報システム全般までを も含む日本企業のコントロー ル・ システム全体を動かしている一つの論理を説明するものとして提起するとこ
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ろにまで至っている。
「フィードフォワード・ コントロールとは, 治療的(remedi al)なものではなく予 防的Cpre ventive)なものであり, 日本的生産方式の成功とその質を説明するも のとして役立つであろう. …日本的アプローチは, 反応(re active)よりも事前行 動(proacti v e)を強調するために, 計画設定の局面においてコントロール情報を
利用している。 このたった一つの特徴によって, 欧米と日本の情報システムにおけ るコントロール ・ アプローチの力点の相違の多くが説明される, と主張されてきて いる。 このアプローチの結果, 日本的情報システムを支配するのは, フィードパッ ク ・ コントロールではなく フィード フォワード ・ コントロールとなっている。 J (Morgan[1992]p.41,43)
その上で, 日本企業が標準原価計算よりも原価企画に力点を置いているのは,
治療的(remedial)・反応的(reactive)なフィードパック ・ コントロールを基礎に置 きながらも, 予防的(preventive)・事前行動的(p ro active)なフィードフォワード ・ コントロールを重視しているからであると述べている( Mor gan[1992]pp.41-52)。
「フィードフォワード的な計画設定によって, 管理者たちは絶えず変化を予測する ょう条件づけられるため, 彼らは合理的な範囲の偶発事象を処理できるように, 代 替的な緒戦略を検討していくつかの戦略の在庫(inventory)を作り上げるための
リードタイムをもつことになる。 標準原価計算よりも原価企画という日本的な実践 がかなりの程度において利用されているのはこのような文脈においてである。 J (Morgan[1992]p.50)
とれによって, 先のMorgan and Weerakoo n[1989]と合わせて, 日本企業の競争 優位性をコントロール ・ システムの日本的特徴としてのフィードフォワード ・ ア プローチの視点から説明していとう という試みがより深まっているのである。
4.2.2 日 本 的 管理会計論とフィードフォワード概念
以上のようなモーガン等の影響を受けながら, 我が国においてもNishimura[19 93]およびNishimura[1995]において, フィードフォワードの視点からの原価企画 ならびに日本的 管理会計についての考察が進め られ始める。
「日本的管理会計は, 効率と能率の二方向管理Ctwo-wa y management)に基磁づ けられている(とりわけ原価と品質との統合)。 同様に, 情報システムやコントロー ル ・ システムもまた, フィードパックとフィードフォワードの二方向を有している。
この二方向管理は予防的なものであり, ゼロ不良管理と関わりを持っている. なぜ ならフィードフォワードによって誤差が生じるとすぐにまたは誤差が生じる前に修 正行動を起こすことが可能となるからである。 J (Nishimura [1993]p.336)
「原価企画は, JITにおいて一つの重要な役割を果たしている。 すなわち原価会計担 当者とエンジニアとの相互作用, フィードパックと フィード フォワードの相互関連,
および設計段階における原価低減プロセスが, JIT特有の特徴である。 J (Nishim- ura[1995]p.3 21)
そしてフィードフォワード概念の視点からの原価企画分析をさらに体系的 に行 い始めたのが, 西村明 [1995]である。 そこでは自らのフィードフォワード概念の 概念規定を以下のような形で行 った後に, 原価企画と伝統的な管理会計方法との 比較を通じて原価企画のフィードフォワード性をより明確にしよう としている。
「フィード パック は, 一定の方法や手順を決めておいて, 実際の結果が目標値から 逸脱した場合に, 外部環境条件の変化に対応して方法や手順を刻々と調整すること である。 これに対してフィードフォワードは, 将来の達成すべき目的に対して, 未 来志向的にいままでの方策や手順を弾力的に変えていくことである。 …管理会計に 引き戻して考えた場合には, (フィードパック は)実際値が発生しているから, そ れを計画値に近づける方法は反作用的なものである。 これに対して(フィードフォ ワードのように)実際値が生じる以前に二つの計画値を対応させながら計画値を実 現させようとする方法は事前行動的で予防的なものといえる. …こ れは医学でいえ ば予防医学か治療医学かということになろう。 J C西村明 [1995]91頁, カッコ内 は引用者による )
ととで注目すべき は, ['計画値と実際値(ないし計画値)の事後的な比較Jの過
程がフィードパックであるとされ, ['計画債と計画値の事前的な比較Jの過程に 対してフィードフォワードという 概念が与えられている部分である。 そしてその ような概念規定の上に立ちながら, さらに原価企画との構造的類似性の視点から,
伝統的な管理会計方法として標準原価計算, 予算統制, およびデムスキーの利益 差異分析(Demski[1967])がその比較の素材として採り上げられており, 興味深 い比較検討が行なわれている (図表4-2)。
この考察を踏まえれば, まず標準原価や予算利益, また事後最適値と事前最適 値との比較におけ る事後最適値, および事前最適値と実際値との比較における事
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フィードフォワード管理会計としての原価企画 第4章
フィードフォワード管理会計としての原価企画 第4章
組織管理の特質 日 本 欧 米
管理スタイル 事前行動的・予防的 受動的・反応的 形 式 水平的・対面的 垂直的・直線的
目 的 ゼロ 在庫
・ゼロ欠陥 合理的在庫量・合理的欠陥l 情報システム フィードフォワード フィードバック
会計システム 原価企画・継続的改善 標準原価差異の釈明 目標原価の実現‘
デムスキー利益|事前最適値
差異分析 |事後最適値| 実際値 l事後最適値|事前最適値
画|目標原価|見積原価|
フォワード 比較される会計数値 |員長トロール
標準原価計算|標準原価|実際原価'
ノ〈ック
フィード
フィード 予算差 異分析|予算利益|実際利益
実際低
管理会計七方法原 価企
(出所)西村明[1995]90-91頁より作成
(出所)西村 ・ ウィレット ・ パイドン[1995]281頁 図表4-2
図表4-3 それぞれ事後統制過程における統制基準値として機能している
前最適値などは,
管理会計に対するアプローチにおける両者の比重の相違を明確に対 とによって,
と理解される。
(図表4-3) 比している
事後最適値と事前最適値との比較におけ これに対して, 実際原価や実際利益,
原価企画 西村明[1995]の議論を整理 ・ 展開する形で,
さらに西村明[1996]は,
および事前最適値と実際値との比較における実際値は, それぞれ る事前最適値,
の分析視角としてのフィードフォワードとフィードパックの関係を図表4-4のよ 事後統制過程における統制対象値として位置づけられることになる。
うな形で図式化する。
ここから標準原価計算や予算統制はフィードパック管理会計のー形態として理
目標原価と見積原価の比較過程をフィードフォワード ・ システムと ここでは,
またデムスキー利益差異分析における 解されるという理解を導くことができる。
そして実際原価と目標原価の比較過程をフィードパック・ システムとして 一方 して,
実際値と比較される時には統制基準値として機能しながら,
事前最適値は,
それぞれのアプローチをより具体的な「会計概念の構成関係」 とし 描いており,
で事後最適値と比較される時には統制対象値として位置づけられるが, いずれの
ての会計構造のレベルで考察している点に特徴が認められる。
比較行為も実際値の発生を受けての事後統制過程に位置することからデムスキー フィードフォワード管理 利益差異分析もやはりフィードパック管理会計であり,
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・.フLド・
会計としての原価企画とはその本質を異にしているという興味深い理解が生まれ るのである。
「欧米的会計 また西村・ ウィレット ・ パイドン[1995]は, 原価企画に対して,
においては明示的な概念としてほとんど認識されていない計算が日本においてい (西村・ウィレット ・ パイドン[1995]280-28 かに重要であるかの良い例である」
(出所)西村明[1996]242頁 原価企画に見いだされる管理会計への一つの日
という評価を与えた上で,
1頁)
本的なアプローチとしてフィードフォワード・アプローチを指摘している。 そし
図表4-4 て欧米的なアプローチの特徴のひとつにフィードパック・ アプローチを認めるこ 64
さらには, 原価企画の限界性とその克服の方向性について, フィードフォワー ドの視点から一つの構想、を示している。 その問題意識は以下のような見解から生
じてくる。
「しかしながら今日, なぜ日本的管理会計を採用している企業問で経営業績に大き な格差が生じているのであろうか。 …これまでに主張され.てきた意見によれば, 原 価企画は戦略目標を企画段階において目標原価に織り込んでいたはずである。 しか し ながら, 現実には経営戦略問題において日本的な原価企画は新たな困難に直面し ているのである。 J (西村明[1996]241頁)
すなわち高度な不確実性を有する現実のもとでは, 織り込まれたはずの戦略目 標自体の有効性を, より具体的には利益計画に規定された目標利益から導かれる 目標原価 自体の適切性を, 絶えず保持することは困難である。 そこでこの問題に 対して, フィードフォワードの視点から一つの考え方を提示するのである。
「原価企画の軸をなしているのはフィードフォワード・システムであり, 目標原価 と見積原価の設定である。 目標原価は目漂売上高と目標利益から導かれる。 それゆ え問題は目標利益にある。 戦略的原価企画では, 目標利益は戦略利益と予算利益と の “せめぎあい" のなかで決められる。 …大きな戦略の変更がない限り, 目標原価 は若干の修正を受けながらも, 原価管理全体を規定するであろう. 同時に, 原価問 題を越える市場・経営戦略問題は, 戦略計画と予算との捨抗のなかで追究されるこ とになる。 …つまり戦略計画のフィードフォワード・システムは, その中にある不 連続性を内包することに意味があるのである。 その意味で, 戦略計画と予算との括 抗過程は, 戦略計画の実施を評価・統制する過程なのである。 J (西村明[1996]2 50・251頁)
とのフィードフォワードの視点からの「戦略的原価企画jという構想は, 図表 4-5のように具体化されている。 すなわち原価企画においては, 設定された目標 利益を所与のものとして, そとから導かれる目標原価に統制基準としての役割が 賦与されるのが一般的である。 しかしながらこの統制基準自体の適合性は条件変 化や環境変化に大きく左右される。 そしてその統制基準の決定過程そのものを強 く規定するのは経営戦略問題であると考えれば, 原価企画を採用する企業の業績 を左右する要因として経営戦略問題が大きな位置を占める事になる。 それゆえ,
その経営戦略自体の適合性の確保が非常に重要な問題となってくるのである。
65
長期戦略計画
(長期の現境変化) 年度予測 (短期の環境変化)
実際利益
実際原価
(出所)西村明[1996]248頁 図表4-5
このような 点がそれほど強調されてきていない従来の原価企画についてその限 界性を指摘しながら, 西村明[1996]では原価問題だけではな く戦略問題にまでフィー ドフォワード ・ アプローチが適用されている。 とくに注目すべきは, 戦略利益と 予算利益との事前的な比較過程までもがフィードフォワード過程となっており,
従来の原価企画において強調される目標原価と見積原価との事前的な比較過程の もつフィードフォワード構造に加えて, 二段階のフィードフォワード過程を有す る原価企画として「戦略的原価企画Jが構想されている点である。 とれにより戦 略問題と原価問題を同時並行的 ・ 二元的にフィードフォワード ・ コントロールし ていく原価企画のモデルが提示されているのである。
さらに西村明[1996]の指摘した重要な点として, フィードフォワードのコスト ・ ペネフィット問題がある。 すなわちアジアや欧米への原価企画の移転の現状を踏 まえながら, それを理解する視点としてコスト ・ ベネフィット関係を提示してい る。
「原価企画についてみても, アジアでは現在のところ十分な発展を見るまでに至って いない。 これまで, アジアでは原価企画については, 開発 ・ 企画は日本で行われ,
日系現地企業は主として原価改善, 全員品質管理を進めるものであった. との状況 は欧米においてもみられた。 アジア地域では, 予防的, 事前行動的な管理システム
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第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
を構築するよりも, 安い労働力に依存し, 欠陥のある作業が明らかになってから,
元に戻して補修・ 手直しをするという方法が採用されてきた。 つまりフィードフォ ワード的なシステムの構築は, フィードパック的なやり方よりもコストリーであっ た。 J (西村明[1996]244頁)
さらに西村明[1998 1にいたっては, 原価企画や日本的管理会計という特殊性の 分析を包含しつつ, 管理会計一般の歴史的な発展段階を整理するための大きな枠 組みの柱として, フィードパック概念とフィードフォワード概念を採用するとと
になる。
そこでは管理会計の歴史的な発展段階を図表4-6のように示しながら, その大 きな流れが「フィードパックからフィードフォワードへJの力点の移行であると
いう理解を示している。
「成り行き管理から伝統的な管理会計へ の転換はフィードパック的統制思考を基軸 になされたのであり, 伝統的な管理会計から数理的 ・情報的管理会計への発展はフィー
ドパック的統制思考の完成であった. しかし同時に, フィードフォワード統制思考 の萌芽が見られ た。 とくにデムスキー理論!と見られるように, 計画(意思決定)過 程を継続的に統制するために, フィードフォワード思考が新たな理念として展開さ れた。 す なわち計画を基準とする現実過程の修正は行為の終了後の反省と修正を伴 うものであるのに対して, 計画過程を環境との対応関係で経常的に修正しようとす る考え方は予防的で, 現実を計画の中により深く読み込んだ ものである。 つまり差
異は事前に読み込まれ ていたのである。 このようなフィードフォワード思考を徹底 化したものが原価企画であ り, …計画統制による予防的管理であ り, 望むべき現実 を達成するために現実を引きつけ様々な方法を 事前に取り入れ , 計画値に近い現実 値を作り上げてい〈管理会計技法である. これまでの管理会計は基準値との差異分 析に意味があ ったのであるが, 今日の管理会計は, 基準値に差異を織り込んで事前 に差異を なくす ように管理するととに特質を有している。 もちろんこのようなこと は会計活動 だけで可能となるものではなく, 会計的管理と組織管理との統合が不可 欠である。 それゆえこれ を「統合的管理会計」と名付けておこう. この結果, これ までトレードオフと考えられていた高品質と低原価との統合という事態が矛盾する ことなく達成されるのである。 その意味で, 原価企画は統合的管理会計を代表して おり, 計画の統制による予防的管理として位置づけられるであろ う。 J (西村明 [1998J97・98頁)
このような枠組みを基礎にして, アメリカや日本, およびアジア諸国の管理会 計の発展段階を図表4-7のように位置づけている。 とれにより多くの国々におけ る管理会計の発展の大きな方向は「フィードパックからフィードフォワードへJ という流れであるが, それぞれの個別的な展開には個性があるという点が示され
第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
段 階 管理会計 思考の符徴 方 法
第l段階 成り行き的管理 財E奇数値の管理傾峨へのやJm 財務比率分初、経営比叙分続
第2段階 伝統的管理会計斜学的管理法を基礎とする能率 t原f担原価計算、予算統制、
管理(計画による統制) 煩益分岐点分析軍事 利益・原価差異分析 第3段階 数理的・情報的 経営科学を基礎とする厳適利益 在庫モデル、 LP、 f宵fi分
管理会計 管理(計画の統制 と祭績評価) 折、 行動斜学、 利益予測・
般会原価(差異)分析 第4段階 統合的管理会肝 会計的管理と組織管理との統合原価企画・原価改普 (計画の統制による予防的管理、 活動基l!!原価計算 フィードフォワード思考) 差異の計画低への織り込み
(出所)西村明[1998 ]96頁 図表4-6
ている。
そしてこの位置関係を踏まえながら, 日本・ アメリカの管理会計とアジア地域 の管理会計の段階的な相違を説明する一つの視角として, 先のフィードフォワー ドのコスト ・ ベネフィット関係を再び提示する。
「アメリカと日本は高い品質と低い原価の統合のために活動基準原価計算と原価企 画を考え出し, 世界市場を制覇しようとしてきたのに対して, アジア諸国は伝統的 な管理会計に依拠し, 原価引き下げを徹底化し, 競争優位に立とうとしてきたので ある。 アジアの工場においては, 統合的な管理会計よりも安い労働力の方が優先す る。 欠陥のある作業も, 協力型のフィードフォワード管理ではなく, プッシュ方式 で単純に前の段階に戻し, 繰り返し補修されるのである。 ここに日本の管理会計と の大きな落差が生じているのである。 J (西村明[1998]109頁)
l!l;3段m
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気4段階
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、1,ー
筑1段月号
�2段F普 一一一ーーアジアの姥贋傾陶 ー----ー アメリカの発展傾陶
(出所)西村明[1998 ]106頁 図表4-7
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フィードパック
・ コントロール
市場志向管理
|
成り行き的管理|
生産志向管理
図表4-8
フィードフォワード . コントロール
(出所) Nishimura[1999]p.15
との管理会計の発展をフィードパックから フィードフォワードへと理解する試 みは, さ らに西村明[1999]および、Nishimura[1999 ]において深化するととになる。
そこでは新たに生産志向と市場志向という大きな軸が加えられることにより, そ の発展段階を位置づける枠組みとして図表4-8が提示さ れている。
「前者の二つの 分析(伝統的管理会計と計量的管理会計)は, 基本的には差異分析 を行うことによって, 次期以降の経営活動 を改善しようとするものであり, 機能と しては反作用的で反省的であり, フィードパック的な統制に基礎づけられている。
これに対して, 後者の分析(統合的管理会計)は, 市 場 志向的管理を踏まえたフィー ドフォワード的なものであり, その内容は事前行動的で予防的である。 ただフィー ドパック的な統制の場合でも, 計量的管理会計は, 伝統的管理会計に比較して, よ り市場環境の変化を考慮し, 計画過程を情報によって随時管理して いとうとするこ とにおいて, より強い市場志向性とフィードフォワード的な統制機能を持っている。
しかしながら統合的管理会計に対して, 両者とも, 生産志向的で, フィードパック 的な管理 を主要な内容としているのである. …もっとも, …フィードフォワード的 な統制は決してフィードパック的な統制を排除するものではない。 問題は管理の重 点がどちらにシフトしたかということであり, 統合的管理会計がフィードフォワー ド統制に重点 をシフトしたというととである。 同様なことは, 市場志 向的な管理と 生産志向的な管理との関係において もいえるのである。 J (西村明[1999]1・2頁,
カッコ内は引用者による)
以上のように, 主として日本的管理会計論の立場から, 本論文とはまた異なる
視点のもとに, ここにもフィードフォワード概念を基軸とし た管理会計フレーム ワークの構築の一つの試みが進展していることが読みとれるであろう。
4.2.3 戦略的 コスト ・ マネジメント論と フ ィ ー ド フ ォ ワー ド概念
また海外に自を移せば, 現代管理会計論における主要な論者の著作にも同じよ うな動きが見られ, とく にC00 p er [1 995] [1996] [ 1 997]お よびKaplan and Cooper[l 998]などが積極的にそのような試みを展開している。
例えばCooper[1995]にお いては, 日本的コスト ・ マネジメントを特徴づけるも のとしてそのフィードフォワード性を認識し, その技法のーっとして原価企画を 挙げている。
「生産前に製品の原価 を作り込んでしまうフィードフォワード ・ アプローチを採用 することにより, 日本的コスト ・ マネジメント ・ システムの焦点は, 原価会計シス テムについてフィードパック技法( 製品原価計算やオベレーショナル ・ コントロー ル)からフィードフォワード技法(原価企画や価値工学)へとシフトした。 」 (Cooper[1995]p. 91)
さら にCooper[1996]では, 日本企業の多くのケース ・ スタディを分析した結果,
そこから得られたコスト ・ マネジメント技法についてのフレームワークとして,
フィードフォワードとフィードパックからなるものを提示している。
「これらのケースから, 日本的コスト ・ マネジメント実践についての一つのフレー ムワークが開発された。 このフレームワークは, 6つのコスト ・ マネジメント技法 から構成されている。 3つがフィードフォワード志向のものであり, 3つがフィー ドパック志向のものである。 3つのフィードフォワード技法とは, 原価企画, 価値 工学, および組織間原価管理である。 これに対して3つのフィードパック志向シス テムとは, 製品原価計算, オペレーショナル ・ コントロール, および原価改善であ る。 J (Cooper[1996]pp.228・229)
ここでは, 基本的にCooperにおけるフィードフォワードとフィードパックの関 係は, 将来製品の原価管理に関連するものがフィードフォワード, 既存製品の原 価管理に関連するものがフィードパックであると位置づけられている。
70
第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
r6つの製品 ・ プロセス関連技法のうち, 3つはフィードフォワード志向であ り, 将 来の製品の原価を管理する助けとなるよう設計されている。 …これに対して他の3 つの技法は, フィードパック志向であ り, 既存の製品の原価を管理する助けとなる よう設計されているo J (Cooper[1996]p.243)
さらにCooper[1997]においては, 伝統的な原価管理技法とは異なる原価企画の 特質としてフィードフォワード性を明確に主張している。
「原価企画は, フィードフォワードとい う視点を採用している点で, 伝統的なコス ト ・ マネジメント技法とは区別されるものであるo J (Cooper[1997]p.2)
そしてフィードフォワードとフィードパックの位置づけに関しては, 将来製品 か既存製品かという視点に加えて, 製品ライフサイクルの上流(設計段階)か下 流(製造段階)かという視点が適用されている。
「フィードフォワードとフィードパックによるコスト ・ マネジメント技法の双方が 必要とされるのは, その2つのシステムの目的の相違を反映しているからである。
すなわちフィードフォワード技法は, より効率的な製品設計を通して原価を低減す ることに力点があるが, フィードパック技法はより効車的な生産によって原価を低 減していこ うとするところに焦点がある。 そして6つの技法はともに, その企業の 製品のライフサイクル全体にわたって, 原価を絶えず下方向へと低減させ ようとす る圧力を生み出すために 利用されるのである。 …原価企画と原価改善の相違の焦点 は, それ らの技法が適用される時点の相違と, その主要な 原価低減目的の相違にあ る。 原価企画は製品ライフサイクルにおける設計段階で適用される. これは主に製 品設計の改善を通して原価低減を達成しようとする。 これに対して, 原価改善は製 品ライフサイクルにおける製造段階で適用される。 これは主に生産過程の効率性の 増大を通して原価低減目的を達成する。 J <Cooper[1997]pp.53・54,56)
そしてKaplan and Cooper[1998]においては, 現代的なコスト ・ マネジメントの 本 質的な在り方として, その冒頭から「フィードパックからフィードフォワード へJという姿勢を前面的に表している。
「本書は, フィードパック ・ コスト ・ マネジメントからフィードフォワード ・ コス ト ・ マネジメントへの概念的な躍進を示そ うとするものである。 J (Ka p I a n a n d Cooper[1998]p. vñ)
第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
「我々の…主要な目的は, コスト情報と業績評価情報が組織における報告や管理プロ セスの主要な構造へと統合されている第4段階へと企業がいかにして進むことがで きるのかを示すことにある. この統合によって, コスト ・ マネジメントと業績評価 がフィードフォワード様式で 機能する ことが可能となる. いまや主要な目的は, 未 来の業績の改善へと動機づけることなのであ って, 過去の業績についてフィードパッ クすることではないのである。 原価企画や原価改善は このフィードフォワード志 向への移行において一つの役割を担うものである。 J ( Ka p I a n a n d C 00 p e r [ 1 998]
p.咽)
そして「フィードフォワード技法とフィードパック技法の両者が組み込まれて いる統合的コスト ・ マネジメント ・ システムJ ( Ka p I a n a n d C 00 p e r [ 1 99 8 ] P岨) の構築を提唱し, そのようなシステムのーっとして, 原価企画や原価改善などの
日本的なコスト ・ マネジメント技法を挙げているのである。
またCooperの一連の著作の他にも, 原価企画を論じるに際してフィードフォワー
ド概念を援用するものとしては, CAM-I Target Cost Core Groupの報告書である Ansari and Bell[1997]もある。 すなわちそこでは, 製品開発段階において必要と なる顧客情報の性質として, フィードフォワード情報とフィードパック情報とい うこ類型が提示されており, そのバランスの重要性を指摘したうえで, その比重 は開発段階の進行にしたがって「フィードフォワードからフィードパックへJと 移行していくという考え方 を提示している(図表4-9)。
「フィードフォワード情報は決定的に重要なものであるが, 同じくフィードパック 情報も重要なものである. すなわちフィードフォワード情報は, 顧客の態度とい う ものを引き出してくる。 この態度には, 顧客が何を欲し何に対して喜んで支払うか が反映される。 これに対してフィードパック情報には, 現実の意思決定や行為につ いてのデータが含まれる。 例えば購入, 返却, 苦情, および製品失敗などである。
・・ゆえに原価企画プロセスにおいては, フォワード志向情報とフィードパック情報 の両方を組み合わせるのが重要である。 フィードフォワード情報は, 製品開発サイ クルのうちでも, 利益戦略・利益計画設定段階および製品構想段階において最も有 用である。 も っともこの情報は, 製品設計 ・ 開発段階および生産 ・ 流通段階といっ た大量のフィードパック情報が利用可能となる段階においては, その重要 性を弱め るととになる。 しかしながらフィードフォワード情報とフィードパック情報はとも に, 製品開発サイクルの4つの段階すべてを通Uて利用されると言うことには留意 しなければならない。 …いずれにせよ管理者と いうものは, その情報が性質的にフィー
ドフォワードであるかフィードパックであるかに関わらず, データの収集にあたっ ては事前行動的でなければな らない。 J (Ansari and Bell [1997]pp. 70・71)
72
必安となる 顧客インプット の佐賀
フィードフポワート フィードパック
製品戦略・
利益計商
フィードフォワード
フィードノTック
里当品m想
フィードフォワート フィードパック
製品設計・
2足品開発 創品開発サイクル
フィードフォワード フィードパック
製品流通・
製品支後
(出所) Ansari and Bell[1997]p.72 図表4-9
以上のように, 圏内外を問わず様々な形で, 原価企画の説明概念としてフィー ドフォワード概念が提起されているという現状が理解されるであろう。
次に次節では, 本論文における規定に従いながらこの原価企画を戦略管理会計 として位置づけ, そのフィードフォワード構造をいくつかの具体的な企業事例を もとに示していくととにする。
4.3
戦略管理会計としての原価企画のフィードフォワード構 造
4.3.1 戦略 管 理会計としての原価企画
原価企画が戦略管理会計として位置づけられることについては一般に認められ る傾向にある。 例えば上綿康行[1993]においては, その管理会計フレームワーク において戦略的計画会計のーっとして位置づけられているし, 加登豊[1993Jや日 本会計研究学会[1996]をはじめ多くの見解において「戦略的コスト・ マネジメン トJとしての位置づけを獲得している。
本論文においては, 第3章で論じたように. r戦略性Jというものを「外部志 向性jという空間特性と「長期志向性Jという時間特性との2軸をもって定義し
ている。 との観点からすれば, 原価企画の特徴として挙げられる市場主導型(ma
rket-in)の価格設定や上涜 ・ 下流の供給業者・ 流通業者との協力関係などは外部 志向的な現象として理解できるし, またライフサイクル・ コストへの配慮などが 長期志向の特徴を示している。 したがって本論では原価企画を戦略管理会計のー っとして位置づけるものとする。
さてそれでは戦略管理会計としての原価企画の フィードフォワード構造は, 具 体的にどのようなものであるのか。 ここでは, 松下電器とカシオの原価企画の例 を見てみよう。
4.3.2 原 価 企 画のフィードフォワード構造
まず典型的な原価企画の事例として, 松下電器の原価企画のケースを見てみよ う(田中隆雄[1995J)。 その全体的な流れは, 図表4-10のようなプロセスで 構 成されている。
まず企画段階において, 3年単位の中期経営計画の商品別利益計画から溝かれ た売上高利益率, 目標販売台数, および市場の動向などを考慮に入れて算出され た目標販売価格から, 逆算して目標原価が計算される(4-1式)。 このプロセス によって, 中期経営計画に依拠することによって「長期志向性Jが, 市場の動向 に主導されるととによって「外部志向性Jが与 えられ, 長期志向性と外部志向性 を賦与された「戦略性Jのある目標原価が設定されることになる。
目標 販売価格×目標販売台数X (1ー売上高利益率)=目標原価 (4-1式)
次に, 現行製品の標準原価をもとにして見積もられた新製品の実力値の原価見 積値であるE級原価が算出され, 目標原価との差異が検討される(4-2式)。
74
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第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
第4章 フィードフォワード管理会計としての原価企画
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(出所)田中隆雄[ 1995]80-81頁 図表4-10
目標原価ーE級原価=原価差異 (4-2式)
そして両者をすり合わせた結果として得られた修正目標原価としてのD級原価 が設定され, それが利益目標をクリアしていると判断されれば, このD級原価は,
設計段階以降の目標原価として位置づけられることになる。
そして設計段階に入るととのD級原価は, まず設計原価であるC級原価と比較さ れ(4-3式) , 試作段階においては手配原価であるB級原価と(4-4式) , そし て量産段階初期に入ってからも実際原価であるA級原価(4-5式)と, それぞれ 比較されることになる。 そしてとれらの比較を通して認識される目標原価と見積 原価の問の不利な差異が解消されるように, 各段階において方策を講じていくの である。
D級原価一C級原価=原価差異 D級原価-B級原価=原価差異 D級原価-A級原価=原価差異
(4-3式) (4-4式) (4-5式)
.mm安値
.
ε�
��1!. *量百��cr�
- 2nd I0OI< VE .仕入先VE -グローバ^'VE
とのプロセスを見れば, 目標原価と見積原価との比較という過程が絶えず繰り 返されており, かっその比較において必ず一方が他方の原価を評価するための基 準値として位置しており, 他方の原価はその基準値に対して評価される対象値と しての性格を有していることが分かる。
すなわちその「二項対立の差異認識構造における数値属性Jに着目すれば, 企 画段階においては目標原価が基準値としての役割を担い, E級原価の方は対象値 となっている。 また設計以降の段階においてはD級原価が基準値として存在し,
それぞれの段階においてC級原価, B級原価, およびA級原価が対象値の位置にあ
.‘��.4Ç1! る。
また「差引計算における減数 ・ 被 減数関係」に着目すれば, いずれも「上限統 制Jのための事前計算であることから, いずれの計算においても基準値である目 標原価とD級原価が「被減数」の位置に置かれ, 対象値であるE級原価やC級原価,
B級原価, およびA級原価が「減数Jの位置に置か れることによって, r不利な差
-実貸付!H�
'i:-���
. �t貫工n
76
異をマイナス表示するJという統制計算が成立している。
さらに「数値時制Jの視点から見てみれば, 目標原価, D級原価, c級原価, B 級原価はいずれも「事前値Jであるが, A級原価は量産開始後の数値であること から「事後値Jとしての属性を有していると理解できる。
したがって4-2式から4-4式は, 事前基準値と事前対象値の聞の事前差異を認識 するためのフィードフォワード統制計算として, 4-5式は事前基準値と事後対象 値の問の事後差異を認識するためのフィードパック統制計算として理解できるの である。 そしてとのようにフィードパック計算をその内に内包しなが らフィード フォワード計算を展開していく原価企画は, フィードフォワード管理会計のー形 態として理解できるのである。
また次に, 独特な用語法を採用しているカシオの電卓事業本部の原価企画を見 てみよう(高橋史安[1995])。 その全体像は, 図表4-1 1に示されるような流れ をとっている。
ここでも松下電器の例と同様に, まず商品企画段階において, 中期・短期の経 営計画にもとづきながら, 新製品の価値がユーザーに受け入れられるかどうか,
また採算ベースに乗るものであるか, さらには今後の事業展開を進めるべきかど うかなどを判定する尺度となる原価を計算している。 この原価は, 通常の原価企 画の用語では目標原価と呼ばれるものであるが, カシオにおいては独自の用語で ある「限界原価Jと呼ばれており, これは限界原価という用語の通常の用法とは 異なる意味をもって使用されている(高橋史安[1995]143頁)。
これに対して, 新製品の開発コンセプトから導かれる原価であり新製品の仕様や
機能の価値を貨幣価値へと換算したものが「目標原価Jと呼ばれており, との原 価は通常の原価企画の用語では見積原価と呼ばれるものである。
との限界原価と目標原価は, 商品企画開発段階および設計段階を通じて比較さ れ, それぞれの段階において認識された不利な差異を解消するために, 設計変更 などの措置が採られることになる は-6式)。
限界原価一目標原価=原価差異 (4-6式)
商品企図 開 発
中期Rt泊
短年度計画 (年次・半期・月次)
開発コンセプトの検討 企図書作成
- 日 t葉原{面の佐定 -限界原{而の位定
商品企画全線 推進会係
ラインアップ峨時金問
目標師、{面孟限界原価①
-実装企画
1--(前編
-形1九 機能. 外観などの実装
目標原{珂孟限界原価②
<---.
〈・・・ー:
〈・・・- -,
〈・ ・・--・.
〈・・・--.
〈・・・・・:
1 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・4ト
I
(NO
の場合)
見積出図 - <一一-.
t支
計I .詳細投計.盆産デザイン
目標原価孟限界原価。
I (NOの場合)"--
---- ---�
民作
|
正式出図
i
目標原価孟限界原価①
iI (NOの場合)"---_.._---_.
---..
�資材・生産部門における標準原価の段定 :
実
際
原価の
把短標準原価と実際原価の比較
実際原価孟目標原{面 ⑤
i (NOのt�合) +
(生産継続)
図表4-11 78
(出所)高橋史安[1995]141頁
フィードフォワード管理会計としての原価企画 フィードフォワード管理会計としての原価企画 第4章
第4章
工場では標準原価が設定されて標準原価管理が行われ (4-7式)。
そこで実際原価と標準原価とが逐一比較される 次に量産段階になると,
るととになるが,
Tl詳細E駐陪の活白|↓一
丁ーさ装備殿陪の活白ll一1塁初期流動段階の活j 下l 町民経画段階の
情想位計殴陪の活勧
(4-7式)
(4-8式) この実際原価はすでに限界原価のテストを経ている目標原価とも月
(4-8式)。
次単位で比較されることになる
目標原価一実際原価=原価差異 標準原価一実際原価=原価差異
さらには,
商 名称とそ一般的なものとは異なるけれども,
このカシオの事例においても,
としての役割を果たし 品企画開発段階や設計段階における限界原価が「基準値j
の位置に置かれていると理解できる。
とれに対して目標原価が「対象値J ており,
標準原価が基準 また量産段階における標準原価と実際原価との比較においては,
しかしながら目標原価 実際原価が対象値として位置づけられている。
値として,
先ほどは対象値であった呂標原価が今度は基準 と実際原価との比較においては,
-..,.、... I�
し_ '-f、ー
とれに対して実際原価が対象値の 位置に置か れており,
値として存在し,
基本駐針民陪の活勧 111i一
が見て取れるであろう。
「役割変化J は目標原価の
例えば図表4-12がある。
以上のような事例を一般化して整理したものとして,
基準値としての原価目標と対象値とし ての原価見積の比較過程がマネジメント ・ サイクルの要になっているといえるだ
ろう。
すなわち製品化経路の各段階において,
基準値としての原価目標がクリア ・ ラインとし また図表4-13にあるように,
各段階においてその基準値とのギャップが繰り返し頻繁に把 て設定されており,
事前にフィードフォワード計算 が頻繁になされていることが見て取れるであろう。
握される過程を確認することができるのであり,
(出所)田中雅康[1995]10頁 図表4-12
80
原価目標
田中隆雄[1998]147頁によれば, 原価企画という名称が使用されるようになっ たとされる1964年よ りもさらに早い1959年のパプリカ開発の時期に, 原価企画の 実質的な萌芽が見られるとされており, その論拠としてトヨタ自動車の社史であ るトヨタ自動車附[198 7]から次の部分を引用している。
EEト
A『 ‘↑原価
期間→
構想、・基本設計
l詳細設計
I I生産 製造準備
A原価見積oVE活動 ・評価会 。実績評価
「車両の原価というものは, 元々その車が企画され設計される段階で, 大勢は決まっ てしまうものである。 しかも, 製造設備が量産時代に対応して専門化 ・ 大規模化し ているために, いったん本格生産に入ると, あまり大きな原価改善は期待できなく なる。 そこで打開策のーっとして,
(昭柏)
34年末に試作段階にあったパプリカ にr1,000ドルカー』という目標販売価格を設定し, 企画開発段階で初めて原価検 討を試みた。 J (トヨタ自動車附[1987]370-371頁)(出所)田中雅康[1996]42頁
ここでは, r企画設計段階において原価の大勢が決まってしまうjという事実
の経験的な認識こそが原価企画生成の契機となっていると理解でき, その認識を 原価企画成立のメルクマールとして確立するととができるだろう。 すなわち企画 設計段階において原価の大半が決定されてしまうという事実を認識したからこそ,
目標販売価格を設定 して企画設計段階から原価を検討しようとする発想へと至っ たと考えることができるのである。 事実, との認識を契機として, このパプリカ の開発時に「目標販売価格の設定→目標原価の設定→原価低減目標の割付→原価 検討jという原価企画における会計計算過程の基本的な枠組みが出来上がってい るという指摘が, 田中隆雄[1998]147-178頁にある。
図表4-13
4.3.3 原 価企画の成立 ・ 普及と フィードフォワード概念
原価企画論におけるフィードフォワード概念の意義をより高めるものとして,
原価企画の成立 ・ 普及問題に対する合意を挙げることができる。
原価企画の生成時期についての通説は, 今のところトヨタ自動車における1959 年のパプリカ開発時であるとされている(田中隆雄[199g]147頁)。 との当時は,
とくに1950 年代後半ぐらいまでは, まだ「売れるものJを造らなくても「造った ものjが売れた時代であり, 市場の要求する商品開発の重要性はさほどではなかっ た時代であった(トヨタ自動車開[1970]272頁)。 そのような状況のなかで, 195 5年5月に通産省から「国民車育成要綱案」が発表される。 この 要綱の内容は, や やその当時の自動車業界の実情には即さな いものではあったが, そとには具体的 な価格の提示がなされており, それは国民車論議に激しく火を付ける契機となっ ている。 そのようななかで, トヨタはすでに独自の国民車構想のもとで1954年か ら着手していた小型乗用車の開発を進め, 自らの構想、にもとづく大衆乗用車を市 場へと送り出すべく努力を続けた後に, これは1961年の「パブリカJの発表とし て結実したのである。
「パプリカのエンジンは空冷の二気筒…。 軽量で, できるだけ部品点数も少ない方 がコストも安いだろうという考え方であります。 …それぞれの部分品に車全体を分 けまして, 全体の値段をいくらにするためには, この部品はいくらでなければなら ないと, 全部割り付けたのであります。 J (豊田英二[1987]引用箇所不明)。
このように, 原価が企画開発段階において決まってしまうという認識が認めら れるパブリカの開発時に, 原価企画の会計構造の基本的な枠組みである「目標販 売価格の設定→目標原価の設定→原価低減目標の割付→原価検討Jという流れの 成立をも認めることができる。 そしてこの構造は実質的に「基準値の設定→対象 値の把握→差異認識jという内容を有しているのであり, したがってとの過程か
82
フィードフォワード管理会計としての原価企画 第4章
(%1 フィードフォワード管理会計としての原価企画
第4章
そのような意味で, 70
らフィードフォワード構造を見いだすととができるのである。
�想-%11十仕隙でコスト 低詫
/
的 日
原価低誌の効果
を挙げる 原価企画成立のメルクマールとして「フィードフォワード構造の確立J
ことができると考えるのである。
(0
原価企画の普及過程におい 30
この生成過程において重要な意味をもった認識は,
純低
・「
ス針の
函コエ等 位で
民 側
手兵 山一 一一 /J
ても一つの強調点となっている。 すなわち原価企画の急速な普及過程は1970年代 20
その原因とし 10
例えば小林啓孝[1996]27・28頁によれば,
中頃以降とされており,
生産徐{符 往 時 開発段陪
4写本台1十 t芋tllI�:t
それは①二度の石油危機や円高局面からの 。
て主に4つの理由が挙げられている。
生産段陪
(出所)伊藤和憲[1995]198頁 i!!.l"1化U.f&
原価低減圧力, ②製品ライフサイクルの短縮化, ③FA化の進展による生産段階で
図表4-16 および④原価低減の効果は製品の生産段階よ りも計画段
の原価低減余地の減少,
ここでも原価が計画段階に 階での方が大きいという認識の一般的な普及である。
おわりに
4.4 かっそれに石油危機や円高,
おいて決定されてしまうという認識が重要であり,
原価企画の普及が加速され および製品寿命の短縮化などの外的な要因が加わり,
たと理解できる。
という大きな問いを立て
「原価企画から何を学ぶかJ 本章の冒頭においては,
以上の原価企画の生成と普及において重要な意義をもっ「原価が企画設計段階
本論文はその答えのーっとしてフィードフォワードという概念を見いだ し たが ,
という認識は, 今日においては図表4-15や図表4-16といっ で決定されてしまうJ
そしてそのフィードフォワード性の たことに大きく動機づけられたものである。
という概念のもとに認知されている。
「原価の決定と発生のメカニズム」
た形で
認識を出発点にして導かれた管理会計フレームワークへと再びとの原価企画を位 そしてとのような認識のもとで「目標販売価格の設定→目標原価の設定→原価
現代管理会計輸におけ これにより,
図表4-17のよ うになる。
置づけるならば,
というフィードフォワード構造が成立しているとい 低減目標の割付→原価検討」
る重要な課題である原価企画を適切に位置づけることのできる枠組みの獲得を果 原価企画の説明理論としてフィードフォワード概念を援用すること
う理解から,
たすととができたのである。
短期内部 短期内部 長期外部管理
全体管理 部分管理 戦略管理会計 総合管理会計 現業管理会計
事前管理 フィードフォワード
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管理会計
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事後管理 フィードバック 管理会計 頁
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の強い意義を感じるのである。
図表4-17 図表4-15
84
もち ろんいうまでもなく, とのフィードフォワードという視点から 構想される 管理会計は, 原価企画に限らず現代の企業経営や日常生活のあらゆる現実の中に すでにごく自然な形で存在しているものであろう。 そしてここでは, そのなかに 見いだされる一定の共通性 ・法則性を一つの視点のもとで概念的に認識していく 際の視点として, フィードフォワードという概念を示してきたのである。
しかしながら 原価企画を契機として, このフィードフォワード概念に着目した 論者の論の展開は, 本章の4.2.2節でも検討したようにもう一つの興味深い方向へ と向かっている。 それは日本的管理会計の理論化という方向である。 との原価企 画から導かれたフィードフォワードという視点を軸に据えた日本的管理会計論は,
まだ端緒に若いたばかりであるといわねばなら ないが, 日本的管理会計の理論化 という課題に対して一つの示唆を与えるものとなるであろう。
またこの原価企画の分析視角のひとつとして提起されているフィードフォワー ド概念は, 原価企画の分析に留まらず, 現代的な管理会計実践の考察の際にもひ とつの興味深い理解を生み出すものとなっている。 その素材のーっとして, 次章 では予算管理を採り上げ, フィードフォワード概念の視点から得られる豊かな理 解を示してみたい。
85
第5章
フィードフォワード予算管理への展開
5. 1
はじめに
本章では, フィードフォワードの視点から予算管理についてどのような理解が 得られるかを示し, 第3章で構想、された管理会計フレームワークのなかにそれを
位置づけることによって, 予算管理論における新たな見解を提示してみたい。
この予算管理というテーマは, 管理会計論におけるフィードフォワード論者の 議論の焦点の一つであり, いくつかの興味深い見解が提示されている。 したがっ てそれら の見解から多くを学び とることが, フィードフォワード概念そのものの 豊かな理解にとっても有益であろう。
また予算管理という素材は, 管理会計というものがフィード パックからフィー
ドフォワードへと展開しているという命題を考える際に, それを個別具体的な技 法の次元で跡づけることのできる数少ない貴重な素材である。 そ こで本章では,
概略的ではあるものの, 予算管理の展開の歴史もフィードパックからフィードフォ ワードへの展開の歴史として 理解できるという試論を, 第3章で新たに構想され た管理会計フレームワークを用いながら 試みていくととにしたい。
5.2
予算管理論におけるフィードフォワード概念
予算管理論におけるフィードフォワード概念の適用には, 大きく分けて3つの パターンが見られる。 すなわち予算「編成J過程にフィードフォワード概念を適 用するもの, 予算「伝達J過程に適用するもの, および予算「改訂J過程に適用
するものの3つである。 まずはそれら の諸見解に耳を傾けていくととにしよう。