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資本蓄積と雇用・賃金率

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(1)

資本蓄積と雇用・賃金率

著者 堀江 義

雑誌名 關西大學經済論集

52

3

ページ 329‑340

発行年 2002‑12‑15

URL http://hdl.handle.net/10112/4521

(2)

3 2 9  

論 文

資本蓄積と雇用・賃金率

?

要 約

ミクロ経済学とマクロ経済学とを関わず、短期と長期とを区別する基準は資本設備の変 化の如何に基づいていたo この基準に従うなら、資本ストックが説明変数に含まれていな いフィリップス曲線は、短期のそれと解釈されるはずである。本来、フィリップス曲線は 長期分析の観点から説明されるべきであり、そのためには資本ストックが説明変数に加え られるべきであるo実際、それを変数に加えるならば、実証的に極めて良好な推定結果が えられる。

キーワード:古典派労働市場;資本ストック;賃金調整関数;フィリップス曲線 経済学文献季報分類番号:

0 2 ‑ 4 0

0 2 ‑ 4 1  

1  .古典派の労働市場

まず最初に、極めて初歩的な、すなわち教科書的な知識の確認から始めよう。いま貨幣賃 金率を

W

、物価を

P

、そして実質賃金率を

w(=w/P)

としよう。さらに、労働の供給関数 を S=S(w)、需要関数を D=D(w) で表すなら、古典派の労働市場においては、

D(w) =S(W) 

によって

w

および雇用量

L

が決定される。これを前提とするとき、ここからどのようなフィ リップス曲線(以下、

PH

曲線と表示する)が論理的に導けるであろうか。

1

図における曲線が

PH

曲線である。図において、横軸には失業率 u、縦軸には実質賃 金率の変化率 g(w) がとられている。そこにおける点

z

がいわゆる「自然失業率J(

N R U )  

に当たる。この図はどんな根拠に基づいて描かれるのか、それを次に説明しよう。第

2

図の 説明は後回しにする。

3

図には古典派の労働市場が描カ亙れているo横軸は労働量である。後の説明の便宜上、

縦軸には貨幣賃金率がとられている。したがって、物価が変化すれば労働の需要と供給との 両曲線がシフトすることは言うまでもない。この図は、例えば物価が

P

。のときに労働市場

E

点で均衡状態になり、貨幣賃金率が

W

。、そして雇用量が

L

であることを示している。

(3)

3 3 0  

関西大学

f

経済論集

j

5 2

巻第

3

( 2 0 0 2

1 2

月)

g(w)  g(W) 

a

l"・・・・・・・・・・

1 図

2 図

S(W/Po) 

D(W/Po) 

L l   L o  

L  N 

3‑a

3‑b 図

この雇用量に対応する失業率が NRU である。ここに失業率は次の式によって定義される

o

(1)  u=l‑D/S 

この図において、たとえば貨幣賃金率が W

2

{>W o ) の場合には、 (S‑D) の大きさの非 自発的失業が存在し、同時に

(N‑S)

の自発的失業も存在する、と読むことができる。次 に W = W ,。の場合は、( 1  )式の定義によって失業率はゼロである

o

しかし、もし摩擦的失 業の存在をも考慮するならば、失業率はゼロより大となる。それが NRU である ( F r i e d m a n

[  6 

J

,  p . 6 6 ,  p . 7 4 ,  p p . 9 4 ‑ 9 5 ) 。それはよいとしても、そこには同時に { N ーし)に等しい自発的 失業も存在するが、その点は(

)式には反映されないことに注意する必要がある。

次に W=Wt{<W o ) の場合は、超完全雇用([ 6  J ,  p . 7 2 ) の状態になり、( 1  )式による失

業率はマイナスになる。これは未充足求人が存在することを意味する。ただし、実際のデー

タからえられる失業率は未充足求人を考慮しないので、マイナスの値になることはありえな

(4)

資本蓄積と雇用・賃金率(堀江)

3 3 1  

い。したがって、(

)式は概念上の失業率を与えるものと解さねばならない。実際の失業 率は

u=Max 

{ I  ‑

D/S

, 

O} 

によって計算されていることになる。雇用量Lはしより小さくなるが、(

)式によって 完全雇用であるo すなわち、

W<W

,。の場合は常に完全雇用である。さらに、ここでは「古 典派第

l

公準Jが成立しない。

さて、古典派にあっては、労働市場が均衡状態にない場合には賃金率の変化によって需給 が調整されると考えられるから、その調整式を簡単に

(3)  L1w=

α

!D(w) ‑S(w) 

;α=

定数

>0

で表わそう。ここで(1 )式を用いれば、上の式は次のように書き変えられるo

(4)  g(

ω) 

=g(W) ‑g(P) =

一 α

uS(w) /w 

こうして(

)式に基づいて g(w) とUとの関係を図示するなら、第

1

図の

PH

曲線がえら れるだろう。

2 . 供給曲線と失業率

1

図における

PH

曲 線 は (

)式による失業率の定義に基づくものであった。ところが、

この定義式は現実の失業率の定義とは対応しないものであるo 実証分析の観点からすれば、

NRU

から左側の領域は知何なる国の経済も存在しえない領域である。このことは、どのよ うな経済理論に依拠するかに関係ない事実であるo そうなると第

1

図の

PH

曲線において、

U

く z

の部分は抹消されて、代わりにZにおいて垂直な曲線が描かれなければならない。こ れを、縦軸を

g ( W )

として描き直したものが第

2

図の

PH

曲線であるo

実証分析の立場からすると、もうひとつ別の問題がある。前節における

NRU

とは、摩擦 的失業率であったが、同時に自発的失業は存在すると解釈される。他方、われわれが実際に 入手できるデータから失業率を計算する場合には、失業率は

(5)  u=l‑L/N 

で与えられる。ここに、

N

は労働力人口、

L

は雇用量である。そうなると、第

3‑a

図にお ける供給曲線

S

のうち「右上がり」部分は消えて、代わりに

N

点において垂直な直線が新 たな供給曲線になる。混乱を避けるために、(2 )式における供給曲線を

s ‑

曲線、(5 )式

(5)

3 3 2  

関西大学

f

経済論集

j

5 2

巻第

3

( 2 0 0 2

1 2

月)

におけるそれを

N‑

曲線と呼んで、必要に応じて区別することにしよう。どっちの供給曲線 を前提にするかよって

W

U

との関係も変わる。それを示したものが第

3‑b

図における

S

線と

N

線である。他方、需要曲線は第

3‑a

図のそれがそのまま適用できる。

.物価と賃金の調整

ここまでの分析において、二つの供給曲線を区別する必要性について述べた。その上で、

この節では

Friedman ( [  6 

)の論理を考慮しながら、古典派理論によって物価と賃金の調 整過程について検討してみよう。そのためには、ここでは

Friedman

の第

3

図([

J

,  p . 6 8 )  

に対応させて、

s ‑

曲線を前提にしておく必要がある。

4

図は第

3‑a

図と基本的に同じものであるo いま、経済は

A

点にあって均衡してい るものとする。ここでは完全雇用であり、非自発的失業は存在していない。そうではある が、仮に政府が雇用を増加させるために貨幣政策をとるものとしよう。その結果、物価は上 昇して

P

1になったものとしようo

し(W/Po)

(W/Po)

LI 

4

さて、企業は自己の製品価格を直ちに知ることができるo 実際、企業が知りたい価格は一 般物価水準ではなくて自己の製品のそれであり、それは企業にとって常に既知である。それ によって労働需要曲線は上方にシフトする。他方、労働者が価格の正確な情報を入手するの

1

期間を要するものとすれば、初めは

g ( P )=0

と予想するだろう。労働供給曲線はそのま まである。その結果、賃金率は上昇する。

ここで、説明を簡単にするために、

(4

)式の特殊なケースとして、

(6)

資本蓄積と雇用・賃金率(堀江) 3 3 3   ( 6 )   g ( w )  =w*/w‑l 

と仮定しよう。ここに

w*

は任意の均衡実質賃金率を表わす。この式は、経済が不均衡にあ るときに実質賃金率が変化して 1期間で均衡が回復されることを意味するo (6)式によっ て、ここでの賃金率は

W

bの水準になる。

企業は常に自己の雇用する被雇用者の賃金率を知っているから、雇用は

L l

に増大する。

経済は

A

点から

B

点へ移動する。ここまでの変化を第

1

期としよう。ただし、第

1

期にお ける賃金上昇率は物価上昇率より小さい。もし Friedmanのように

r

g(W) 

g(P) Jと仮定

( [  6] ,  p . 6 7 )

するならば、経済は

B点を経過しないで A点から直接に C点へ移行する。

2

期において、労働者は前期の物価上昇率を知る。それによって労働供給曲線は上方に シフトするo それに伴い、経済は

C

点へ移動するo ここでは雇用はhと同じ水準になり、

賃金率は

W)

まで上昇する。この期間における物価上昇率は

O

である。同じ期間におけるグ ロスでの賃金上昇率は

(W1 /W b )

であるが、以上の

2

期間を通じて物価と賃金の上界率の 聞には

(7)  (W1/

院)(夙/院

)=P/

が成立していなければならない。

以上の経済の動きを第

2

図と同様の座標軸によって描いてみようo グラフ作成の便宜上、

P/P o -l=2% 、 W~o-l=l% とする o このとき、 W 1 /W b -l=1% である。これらの数値

を基に g(W)および g(P)を表わしたものが第 5図であるo そこにおいて黒丸で示されたも のが物価の動きであり、白丸は貨幣賃金率の動きを表わす。

物価と賃金とが異なった変動を示すことが重要な点であるo なぜなら、もし物価と賃金が 全く同じ動きをするなら実質賃金率は変化しないから、雇用も変化しないはずである。その 点をわかり易く示したものが第

6

図である。もし上述の

2

期間を

1

期間として取り扱えば、

6

図になる。

5

図と第

6

図との比較からわかるように、いわゆる「右下がりのJ

PH

曲線が現れるの は第

5

図の場合であり、その時には物価と賃金とは動きが異なっていなければならない。そ れが古典派理論の帰結である。もうひとつ重要な点は、第

5

図の場合は、物価の変化率が第 2期において Oになっていることである。したがって、もし第 3期以降について考える場合 においても第

5

図の

PH

曲線をシフトさせる必要はない。

以上によって、古典派的な理論的枠組みにおいても、

PH

曲線が出現することの一応の説 明はつくかに見える。しかし、まだ問題は残っている。第

4

図において、

A点から B点へ

(7)

3 3 4  

関西大学『経済論集j第

5 2

巻第

3 号 ( 2 0 0 2 年 1 2

月)

g ( W ) , g ( p )   g ( W )

g ( P )  

2~ ー・・・・一一一-

。 z 

5 図

6 図

の動きは雇用の増加であることは間違いない。そのことから直ちにそれが失業率の減少であ ると言えるだろうか。(

)あるいは(

)式の定義によれば、

A

点においても

B

点におい ても完全雇用であろう。そうなると第

5

図は描けず、第

2

図で言えば、

NRU

の点において 垂直な直線に対応することになるo

A

点から

B

点への移行が失業率の増加に対応するのは、

失業率として(

)式を採用した場合である。すなわち、

N‑

曲線を前提にした場合であるo

F r i e d m a n

の場合は、本論における第

4

図のような労働市場を想定しながら、失業率の定義 に は (

)式を用いているわけで、論理整合性に欠ける。

結論的に言えば、いかなる経済も自然失業率の左側には移行しえない。このことは、価格 予想が的中するかどうか、長期と短期をどう区別するか、といった問題とは関係がない。

4  .需要曲線のシフト

さらに新たな問題をあえて提起してみよう。仮に第

5

図のように失業率が減少することを 認めるとしようo すなわち、

F r i e d m a n

の第

3

図に従うとして、加えて(

)式によって失 業率を計算することにしてみよう。そのとき、はたして第

5

図は第

1

図の

PH

曲線を意味す

るものだろうか。

1

図の

PH

曲線は

( 4

)式の賃金調整関数を図示したものであった。なお、便宜上、

(  4 

)式の代わりに(

)式を想定しておこう。すでに述べたように、この曲線は労働市場 が均衡状態にないとき実質賃金率が変動して

1

期間で経済が均衡に戻ることを意味してい

さて、第

4

図において、

A

点から

B

点への経済の動きは

L

Aから Loへと雇用を増加させる から、対応する失業率は

UA

から

UB

へと減少するものとしよう。ここでもし最初の均衡点

A

における賃金調整関数をグラフに描くなら、それは第 1図の

PH

曲線になるはずである。そ

(8)

資本蓄積と雇用・賃金率(梱江) 3 3 5  

れを第

7

図の

PH A

曲線としよう。同様にして、

B

点に対応する賃金調整関数をグラフにす れば

PH B

曲線が描ける。問題は、ここから先である。

いま考えている経済の動きは前節の第 5図と同じであるo それならば、その動きは第 7図

PH

曲線によって説明されなければならない。第

5

図では、まず物価が

2 %

上昇した結果、

需要曲線が上方にシフトした。それに追随して貨幣賃金率が

1%

上昇し、経済は

A

点から

B

点へ移動した。なぜ賃金が上昇したかと言えば、物価が上昇したために労働市場の需要と 供給とが不一致となり、このギャップを埋めるべく賃金が上昇したのであり、それが賃金調 整関数の役割であるo その関数が、ここでは

PH A

ではなく

PH B

である。もし第

5

図の動き

PH

曲線で説明されるのであれば、第

5

図の矢印の動きが第

7

図の二本の(あるいは、い ずれか一本の)

PH

曲線で説明されなければならない。

ところが、第

5

図を実質賃金率の変化に直して図示すれば、その動きは第

7

図の

UA

を出 発点として

G

点から

H

点への変化として表わされるO すなわち、この変動は

PH

曲線上の 点の移動とは関係がないのである。それでは

fUA →G → HJ

の動きは何によって説明され るのだろうか。

ここでマクロの生産関数を

Y=F(K ,  L )  

によって表わそうo

K

は実質資本ストック、

L

は雇用量、

Y

は実質

GDP

である。このとき、

古典派第

1

公準より

w=δY/ δL

ψ

(K , L )   ; θw/dL

ψ

L<O

である。この式は労働に関する需要関数に他ならない。この式を変形することにより、次の 式が成立する。

( 8 )   L 1 w/

ω=(ψL/ψ) 

( L 1 L / L )  

上の式は、

K

を一定とするとき実質賃金率の変化と雇用の変化とは逆の向きであることを 示す。それを図示したものが第

7

図の

D A

および

D B

の曲線である。まず経済は

UA

点にあり、

ここで実質賃金率が

1%

下落したことにより雇用が増加し、失業率が減少し、

G

点へ移動す る。次に、失業率が

UB

点にあり、実質賃金率が

1%

上昇したことにより

H

点へ移動する。

つまり、最初の失業率に戻る。以上が第

5

図と整合的な説明ではないだろうか。もしわれわ れの説明に矛盾が無ければ、

Friedman

が提示した例は

PH

曲線(=賃金調整関数)によっ ては説明できないことになる。

(9)

3 3 6   関西大学『経済論集j

5 2

巻第

3 号 ( 2 0 0 2 年1 2

月)

g(w) 

, 

7 図

, ,  , 

, 

, 

. . . . D o   . . . . . . D A  

P H A  

ついでながら、ここまで

PH

曲線は下に凸になる曲線で表わしてきたが、必ずしも下に凸 になることが証明されたわけでもない。労働市場の需要曲線と供給曲線の形状によっては、

グラフは上に凸になることもありうる。

5  .長期分析

かつて、

1 9 6 0

年代の学生は「長期Jという意味を資本ストックが変化する期間と教えられ たはずである。これはマーシャルからピグー、ケインズというケンブリッジ学派の伝統では あろうが、この定義によって特に不便は感じない。さらに言えば、ケインズは『一般理論

j

において、価格予想が的中した場合を「短期均衡」と見なしていたはずである。

この定義を変えて

F r i e d m a n

は、予想が的中した場合を「長期」と定義しなおし、短期に は予想ははずれるが長期的には必ず予想は的中する、とした。つまり、ケインズの定義を逆 転させたわけである。私自身は、「明日はほとんど間違いなく生きている」と言えるけれど

1 0

年後の命となると保証の限りはほとんどない。予想が当たる可能性は長期よりも短期の 方が大きい、とも言えるわけである。要するに、ケンブリッジ学派の定義をあえて変える必 要はない、ということである。

そこで本節においては、資本ストックを明示的に導入した「フィリップス曲線」を実証的 に導いた結果を示すことにしよう。もともと

PH

曲線自体が長期分析の枠組みの中で説明さ れるべきものである。なぜなら、フィリップス自身は約

1 0 0

年にわたるイギリスのデータか ら導かれたものであり、その聞に資本ストックは大きな変化を遂げているはずであり、それ が物価、賃金率あるいは雇用に影響を与えてきたはすである。

そこで日本の経済に関して、

w =

貨幣賃金率、

P=GDP

デフレーター

( 1 9 9 0

暦年基準)、

(10)

資本蓄積と雇用・賃金率(楓江)

3 3 7   u=

失業率(%)、

N=

労働力人口(万人)、

K=

民間企業固定資本ストック(1

9 9 0

暦年基準、

兆円)として、これらの聞に成立する推定式を示せば次のようになる。なお、

K

に関しては

1

四半期のラグを仮定して、同じ年の

9

月末の値を用いている。ただし、推定期間は

1 9 5 5 ‑ ‑ 9 8

暦年である。

(  9  )  l n  (W)  =  1 9 . 8 6 1  +  1 . 2 0 8 1 n  ( P ) 一 0 . 0 6 2 1 n( u )  ‑3 . 4 6 6 1 n  ( N )  + 0 . 8 3 0 1 n  ( K )   ( 9 . 0 )   ( 2 0 . 8 )   ( 3 . 3 )  

(1

0 . 5 )  

(1

2 . 3 )   RR=0.9994 ,  SE=0.0279 ,  DW=0.87 ,  AIC=  1 8 0 . 0  

上の推定式において、係数の下に括弧つきで示された数値は t値(の絶対値)、

RR=

自由

度修正済み決定係数、

SE=

標準誤差、

DW=

ダービン・ワトソン比、

AIC=

赤池の情報基準 量(絶対値)である。以下においても推定結果の表示法は同じである。

データの出所は

W

以外は日本経済新聞社の

iNEEDSJ

である。

W

については、単純に

『国民経済計算報告J(旧経済企画庁)の「雇用者所得」を雇用者数で割った値を用いた。

(この他に、雇用者所得の代わりに「賃金・俸給」を用いる方法、あるいは雇用者所得プラ ス個人企業所得を就業者数でわり算する方法、などが考えられる。)

上の式に関して、いくつかの説明を付け加える。まず第

1

に、この式はそのままでは

PH

曲線に対応しないが、両辺を時間 tで微分することにより次の式に変形できるo

(1

0 )   g(W) 

1 . 2 0 8 g ( P ) 一 0 . 0 6 2 g ( u ) 一 3 . 4 66g(N)+0.830g(K) 

これがわれわれの

PH

曲線である。ただし、

g ( u )

( d u / d t )/ u

であるから、

( d u / d t )

の項 が付いている分だけ通常の

PH

曲線と異なる。しかし、

g(W)

( d u / d t )

の影響を受ける

ことはフィリップスによってすでに指摘されていることであって、奇妙なことではない。

2

に、資本の蓄積が賃金率にプラスの効果をもたらすことは予想どおりであるとして

g(N)

がなぜ

g(W)

に影響を与えるのか、という問題が生じるo これを説明するため に、もうひとつ別の推定式を掲載しようo

(1

1 )   ln(W)  =25.765+  1 .   1 8 8 1 n  ( P )  ‑3 . 4 8 2 1 n ( L )  +0.8171n(K)  ( 6

.1)  (1

3 . 2 )   ( 6 . 6 )   ( 7 . 7 )   RR=0.9983 ,  SE=0.0474 ,  DW=0.35 ,  AIC=  1 3 9 . 0  

この式もそれなりに信頼度は高いと見なされるが、ここで

L=

(1

‑u)N

という関係が成立し ているから、

L

U

N

というこつの変数に分解して推定すれば(

)式が想定されるであ

ろう。なお、(

)式のうちから説明変数として

N

だけを取り除くなら次の式がえられる。

(11)

3 3 8  

関西大学『経済論集

j

5 2

巻第

3

( 2 0 0 2 年 1 2

月)

(1

2 )   l n  (W)  =  ‑3.370+ 

1.

6 3 3 1 n  ( P ) ー 0 . 1 5 5 1 n( u )  + 0 . 1 6 2 1 n  ( K )  

(1

3 . 2 )  

(1

9 . 9 )   ( 4 . 8 )   ( 3 . 5 )   RR=0.9976 ,  SE=0.0562 ,  DW=0 . 4 9 ,  AIC=  1 2 3 . 2  

以 上 の (

)

( 1 1 )

および(1

2 )

の三つの式において

K

の係数推定値はすべて

1%

水準で 有意である。しかし、

RR

AIC

などの判断基準から

3

個の式を比較すれば、(

)式がペス トであると言える。ここで、なぜ説明変数として

N

が有意になるかと

p

う問題が生じるが、

これについて深く考えたわけではない。しかし、日本の企業が物価に対する程に失業率に対 しては敏感でないとすれば、(9 )式のようになっても奇妙ではないだろう。

ついでながら、上の式の代わりに

l n ( w )  =a+b ・ l n ( L )+c ・ l n ( K ); α ,  b ,  c

は定数

という形の推定式も考えられる。この式の方が古典派の理論に忠実であると言えよう。なぜ なら、この式は古典派第

1

公準を実証的に確かめる式とも言えるからである。一つの試みが 次の式である。(さらにまた、生産関数の

1

次同次性を仮定して上の式を変えることもでき

るが、推定結果の表示は省略する。)

(1

3 )   l n  ( ω)  =30.856‑4 . 4 3 2 1 n  ( L )   + 

1.

0 4 1 l n  ( K )  

(11.

6 )  

(11.

7 )   ( 2

1.

7 )  

RR=0.9930 ,  SE=0.0493 ,  DW=0 . 4 9 ,  AIC=  1 4 4 . 3  

3

に、物価と賃金との関係を見ょう。(

)式より、

(θW

"1)/(

θP/P)

=1.

208>0

あるから、仮に

K

を一定とした場合にも賃金上昇率は物価上昇率よりも大きい。ここで念の ために、資本ストックを無視した推定式をも示しておこう。

(1

4 )   l n  (W)  =  ‑2 . 4 59+ 

1.

9 0 3 1 n  ( P ) 一 0 . 1 3 8 1 n ( u ) ( 3 6 . 7 )   ( 9 7 . 6 )   ( 4 . 0 )  

RR=  0 . 9 9 7 0 ,  SE=  0 . 0 6 3 3 ,  DW=  0 . 4 5 ,  AIC=  1 1 3 . 2  

この場合には賃金率の価格弾力性はさらに大きくなることが読みとれる。いずれにしても、

これらの推定結果から「賃金変化率=価格変化率」と仮定することは経済の実態にそぐわな い、と言ってよいだろう。

(12)

資本蓄積と雇用・賃金率(堀江)

3 3 9   6 .

おわりに

フィリップス曲線も、コプ・ダグラス生産関数などと同様に、これまでの経済学研究の中 で発見された経験則の一つであるo それがどれ程の信頼性を持つかどうかは、データの対象 となった時代にも依存するだろう。そうではあるが、もうひとつ重要な点は、この曲線を解 釈するには長期分析によらなければならない、ということである。長期分析に当たっては資 本蓄積の影響を無視できない。それが本論の基本的な立場であった。

本論の終わりに、従来の手法によるフィップス曲線の推定式を掲げておこうo 推定期間は

1956‑98

暦年である

g(W)  =  ‑4 . 4 46+0.849g(P)  +  1 6 . 4 4 8 / u  

(5.0)  (9.2)  (8.7) 

RR=0.9061 ,  SE=  1 .

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巻第

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