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企業金融と蓄積率

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Academic year: 2021

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(1)

za一経言禽集第66号 論  説

企業金融と蓄積率

石 橋 太 郎

1.はじめに

2.モデルの特定と最適化問題 3.比較静学的分析

4.まとめと残された問題

1。はじめに

 企業金融とは、主として企業の設備投資のための資金調達行動を指すもの である。金融の源泉は、内部留保(減価償却費÷税引き後利益)、社債の発行、

借り入れ、新株発行等である。

 本稿の目的は、企業金融の最適化行動を解こうとするものではなく、企業 の資本構成として負債・資本比率が時間を通して一定である場合に、投資(蓄 積率)がいかに決定されるかを検討するものである。よって、企業金融とし

ては借り入れのみを取り上げる。

 本稿の分析では、企業の計画期問にわたり資本市場が不完全であると仮定 し、そのために投資決定と資金調達決定が同時にかつ最適に行うことができ ないと仮定する。したがって負債・資本比率が企業にとって最適な比率であ るかどうかは分からない。そこで企業にできることは、負債・資本比率を一 定に保つ政策をとることである。

 また資本市場の不完全性のために、株主は企業の市場価値を正確に捉える ことができない。したがって、本稿のモデルでは、企業のネット・キャッシュ・

フW一の割り引き現在価値を最大にしようとする企業家(経営者)を意志決 定主体とする。

一1〜 (34)

(2)

企業金融と蓄横率

以下では、以上の前提に立ちモデルを構成することにする。

2.モデルの特定と最適化問題

本稿の議論の対象となるモデルは、次のように表わすことができる。

室箕ax

gt

s.t.

V・一 閨r(r・K,一Φ(9,)−i・B・+倉・)exp←Pt)dt

K,二9teK, K。は所与

 このモデルの記号の意味は、次の通りである。V。 :(0時点での)企業の ネット・キャッシュ・フローの割り引き現在価値、r=利潤率、 K戸資本財、

亀=蓄積率、Φ(・)=投資の調整費用、ir借り入れ利子率、Bt=負債、ρ庁 企業家の主観的割り引き率、である。

 このモデルでは、次の諸仮定を置くことにする。

 ①ペンローズ型の調整費用を仮定する。したがって、

Φ(9t)≧e、 <夢(0)==0、 Φノ>0、 Φ 〉()、 <bT(0> :1

②負債・資本比率について、次を仮定する。

甚訟当該企業にとっては所与である・

  したがって、Bt ・a・9,・K,となる。

③企業の生産関数については、労働と資本について一次同次性を仮定す   る。また、実質賃金率については静学的期待を仮定する。この結果資本   一単位あたりの利潤は、時聞に関わらず一定となる。

 ④生産物、資本財の価格を1とする。

 ⑤借り入れ利子率を一定とする。

 このモデルの特徴をここで述べておく。このモデルの特徴は、資本市場の 不完全性を仮定していることである。資本市場が完全であれば、あの有名な M−M命題によると、企業の負債・資本比率の大・小は企業の市場価値に対

して無差劉となる。これは裁量的取り引きが行われるからである塑

 資本市場が不完全であれば、企業の資本構成の最適化行動と投資の闘には 時間的ラグがあると考えることができ、資本構成を最適にするためには各種 の費用がかかる(たとえば相対的コスト仮説)ことになり、本稿で仮定する

(33) 一2一

(3)

       法経論集第66号  論説

ように「企業は負債・資本比率を一定にする」のが最もコストがかからず、

合理的行動かも知れない。以下この点についても可能な限り検討したい。

 このモデルの最適化問題を解くために、ハミルトニアンHを次のようにお

いてやる。

ff = exp(一ρ,〉[p KドーΦ(9t>一一i・a+a・9,+λ、・墓諏、

 ここで、馬=ハミルトニアン乗数である。またこのモデルでは、すでに労働 に関する最適条件は解かれていると見なすことができるので、以下の二つが 最適のための条件となる。

  最適条件

客幾・一卜酬gt)+a+ A・] exp←Rt)=・ ・

    ∴  λど諜Φノ(9t)−a       (1)

  wwd(exp( )kth).一_._∂H       dt      ∂K,

  eλ汗λ (ρオ{9 )一 [E eK,−es〈墓i)−i・a陸一a・9t]     (2)

また横断条件も満たされているとする。横断性条件は、次のようになる。

  1im(exp(一,13t)λオ) :0        (3)

  t−・ o◎

 (1)式の意味は、次のとおりである。左辺は投資の限界収入を表わし、右 辺は投資の限界費用を表わしている。(1)式を、&について解くことにより、

投資関数を一般的な形で求めることができる。投資関数を特定するためには、

横断性条件が満たされたもとで、(2>式をλオについて解き、それを9tについ て解いた(1)式へ代入することにより求めることができる。

 しかし負債・資本比率が投資(蓄積率)にどのような影響を与えているか をわかりやすく見るために、ここでは投資関数を求めない。この黛的のため に次のような操作をしてやる。λ,の運動が上まった時点で馬を求めてやる。

 すなわち、馬篇0とおいて、λを求めてやる。

  λ=madi(〉二L血       (の

        ρ一9

 (4)式を(1)式へ代入することにより、投資(蓄積率)の最適条件は次の ように書き替えられる。

      一一一3−・・一一       (32)

(4)

企業金融と蓄積率

(MR=)r−¢(9)…i恥a+農゜9一Φ(9)−a(−MC)

         R−9

(5)式を図示すると、図1のようになる。

(5)

RC

蟹M

1

9 図1

MR

9

 MC曲線の形状と位置については、仮定①より明らかである。すなわち切片 Φ (0>−aで、傾きΦ >0である。他方、MR曲線の形状について求めると、

   dg      (ρ一9)2

     ≧o

     <

となり、9が大きくなるにつれて負となるであろうことが予想される。特に Oとなるところでは、次が成立している。

      ρ ew 9

したがって、MR曲線の最大となるところでMC曲線が交わることになる。

 以上の議論で、本稿のモデルは解かれたことになる。さて均衡解の安定性 の議論については、ここでは議論しないことにする。しかし、均衡解の比較 静学的分析を試みる。すなわち、与件である、(1)負債・資本比率(a>が変

(31>       −4一 r Φ(9)…i㊨a+aΦ9−¢・(gt)−a

(5)

法経論集第66号 論  説

化したときと億〉借り入れ利子率(i)が変化したときの均衡解の動きの分析

である。

3。上ヒ較静学的分析

 (i)負債・資本比率(a)が変化したとき

    9とaについて(5)式を全微分し、整理すると、

    釜「爺       (6)

(6)式の分母については、負となるので、ρ>iであれば(6)式は正となる。

したがって、(企業の借り入れに対する意志決定とは別に)企業の借り入れが 増加すると、より高い蓄積率が達成されることになる。ρ>iという条件は後

で考慮することにする。

 (II)借り入れ利子率が変化したとき

    9とiについて(5)式を全微分し、整理すると、

    警r9−1)〈S> rt     (7)

(7)式は明らかに負である。したがって、利子率が下落すると、より高い蓄 積率が達成されることになる。

 (6)式においてρ>iとなる条件をここで考慮しておくことにする。ρは仮 定により主観的割り引き率と定義した。そこでPを次のように再定式する。

ρ ・P。十5(a) (8)

(8)式の右辺第2項は、借り入れに対し何らかの危険(例えば債務不履行)

が生じるかも知れないという不確実性に対する不安(選好)を表わしている。

ここでσ(a)はaの増加関数であり、◎≦a≦1においてσ(a)>0と仮定す る。この仮定により、ρ>iとなる可能性については次のように考えることが

できる。

 ここでもう一度「負債・資本比率一定」の仮定を考えてみる。不完全市場 での「負債・資本比率一定Jの仮定は企業(経営者)の合理的選択を反映し ていると考えた。したがって、負債・資本比率がわずかでも変化するとき、

一気に不安の度合いを増すことになり、σ(a)が上昇する。ここで、ρ>iとなっ て、より高い最適蓄積率が実現するということは、この新しい負債・資本比

一5−一 (3◎)

(6)

企業金融と蓄積率

率を維持しようとする行動(蓄積行動)と等価であると考えられる。以上が R>iとなる可能性について考えられる説明である酔

尋。まとめと残された問題

 本稿の分析で得た主要な結論をここでまとめておく。不完全資本市場のも とで企業経営者は、自らの負債・資本比率を…定に保とうとしたうえで、ネッ

ト・キャッシュ・フW−一の割り引き現在価値を最大にするように最適な蓄積 率を実現することができる。

 ここで本稿に対して予想される批判について、述べておこう。本稿の分析 では、「(6)式において舜=iとなる可能性については何も述べなかった。仮に R・iとなれば負債・資本比率は蓄積率に何ら影響を与えないという結果が得

られ樹と。しかも「び(a)関数を先のように仮定したからといってρ>iが保 証されたわけではない。すなわち、σ(a)は必要十分条件ではない。したがっ

てR ・iとなることもあり得る」と。この場合、負債・資本比率は投資(蓄積 率)に明らかに影響を与えない。形の上では、資本市場が完全な場合の議論

と一致する。しかし不完全市場を仮定した本稿のモデルでは、ρ=iとなるの は、企業家(経営者)の不確実性に対する選好が偶然にそうさせたという以 外にはない。

 筆者は、本稿で得られた結論が一…般的結論だと主張するものではない。市 場の不完全性と企業家(経営者)の不確実性に対する選好に先の仮定が満た

されれば、そうであると主張するのである。したがって、今後の問題として、

市場の不完全性がどのように企業家(経営者)の意志決定に影響をあたえる かについての実証研究(「負債・資本比率一定仮説」の検定)と企業家(経営 者)の不確実性に対する選好の実証研究が残される。

 さて本稿は、ミクロの立場で企業金融を取り上げて分析したものであるが

(ただし企業金融の最適化分析でないことは言うまでもない)、米沢監鍾が指 摘するように「(企業)金融構造等に関わる議論はすぐれてマクU的な問題で

あり、したがって広く資産市場全体の視点から分析しなければならない(201 ページ)」。この問題を考える上で、「負債・資本比率一定」の仮定に基づくこ のモデルは、一つの基礎を与えることができると思われる。このモデルにお いては結局、「負債・資本比率一定」の仮定は与件として扱われたが、企業の 資金調達が、いわゆる銀行を通じて行われる場合には、銀行行動を基礎とし

(29) 一6一

(7)

法経論集第66号 論  説

た貸出し市場での需給均衡を通じて企業の負債額が決定される、企業の(蓄 積)行動にとっては与件であった変数が、銀行にとっては独立変数となる。

このようにして本稿のモデルをマクロ全体へ広げる可能性が現れる。

 しかしながら、この問題は、マクロ経済分析における一つの難点であるフ ローとストックの問題にぶつかってしまう静したがって、今後に残された大 きな問題である。

一付 記一

 本稿での論点を明らかにする上で、神戸大学足立英之教授ならびに神戸大 学大学院足立ゼミナールの諸兄から数多くのコメントをいただいた。ここに 感謝の意を表わします。もちろん、問題の設定、並びに内容についての誤り

は全て筆者の費任にあります。

注)

(1)ModigliaRi a磁M童艶r慶3灘を参照◎

(2)本稿の議論と対比させる点で、吉川(4翌を参照。

(3)この問題での分析はほとんど見られないが、とくに足立1窺、石鷹2灘    を参照。

参考文献

置1]足立英之、1990年、「投資、金融、および総需要」、『国民経済雑誌』第

  162巻第3号

ζ2]石川経夫、1980年、「企業貯蓄・金融市場と巨視的分配」、『経済学論集』

  第46巻第2号

13)Modigliani and懸Mer,1958∴丁簸e Cost Of Capital COrpOra£ion

  Finaftce aRd the Theory Of Investmei3t: A.ER, Vol.48, NO。3

141吉川洋、1984年、『マクロ経済学研究』、菓京大学出版会

猛51il米沢康博、1984年「わが国の企業金融構造」、『現代経営財務論』諸井   勝之助・若杉敬明編所収

一一 V一 (28)

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