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資本蓄積と蓄蔵貨幣

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資本蓄積と蓄蔵貨幣

高倉泰夫

Abstract

Here is a new interpretation of connection between hoarding in the schema of expanded reproduction and the credit system in Marx's Capital. That is, one type of reservoir of hoarding or the stock market causes the totally different effect to capitalist accumultion from the ef- fect caused by another type of reservoir or the money market, because the stock market can be inflated previously to real capital accumulation.

And the former is a more favourable mechanism to capitalist produc- tion, but at the same time can accelerate its cyclical movement drasti- cally.

はじめに

『資本論』第2部での蓄蔵貨幣の形成と支出の分析では,金属貨幣(貨幣 商品金)の流通を前提としているが,そのなかでも拡大再生産表式の展開に おいて,第二形態の蓄蔵貨幣(蓄蔵貨幣Ⅱ)が現実には預金や有価証券の形 態をとって存在していることに言及している(第17章および第21章)1)。信 用制度を前提とすると,蓄蔵貨幣Ⅱは金属貨幣からその姿を変えて利子生み 資本のいくつかの諸形態として存在する。

ここで蓄蔵貨幣が利子生み資本として預金そして貸付の形態をとるのか,

それとも有価証券の形態をとるのか,ということは,資本蓄積と信用制度と の関連を社会全体としてとらえるときに顕著な差違をもたらすことになる。

(2)

すなわち,蓄積基金としての蓄蔵貨幣 Eが銀行預金の形態をとり,蓄積基金 の不足分も信用制度のもとでの銀行信用によって供給される場合と,株式の ような有価証券の発行によって蓄積基金の不足分が補充される場合とでは,

信用制度と拡大再生産との関連に少くない差異が生じる。

前者の場合,債権は返済期限までにそれぞれの金融機関によって保有され ると考えられるとともに,蓄蔵貨幣 Eの一部は手形のような短期の有価証券 あるいは金融資産の形態で存在する場合もありうる。これに対して,蓄蔵貨 幣が有価証券とくに株式の形態で存在するときには,蓄蔵貨幣 Eの総量とし ての有価証券の総額は,証券流通市場を媒介として絶えず変動するそれぞれ の有価証券の価格によって独自に変化する。そこでは株式価格は産業資本の 現実の,あるいは予想利潤率と市場利子率の変化によって絶えず変動する。

前者の場合,貸付債権の総額は銀行信用が与えられた時点での利子率に従 って固定的な大きさとして決る。また,手形などの短期の有価証券の「価格」

も市場利子率あるいは割引利子率によって変動するにしても,手形の額面は 最初から決っているためにその価格変動は限定的だといえよう。しかし,後 者の場合では,株式のような有価証券の価格変動は,貨幣資本家による実物 資本の予想利潤率の想定によっても生じるために,固定的な収益の資本還元 によって決る有価証券の価格変動よりもはるかに大きくなりうる。そして,

貨幣資本家による予想収益の動向によって株式価格が決るということは景気 回復過程では,実物資本が現実に生み出している収益よりも先行して株式価 格が決定されうるということになる。すなわち,蓄蔵貨幣Eの貯水池の一つ の現実の姿としての金融市場あるいは株式市場,そして金融的流通は資本蓄 積に対応しかっそれに先行して拡大しうることになる。このような先行性は,

前者の場合の金融市場には,予想収益が有価証券の「価格」決定の要因とし て入っていないために存在し難いといえる。

(3)

)このことについては,小稿「再生産と蓄蔵貨幣一信用制度との関連においてーJ~経 済論究~(九大院)3719767月,を参照されたい。そこでは,蓄蔵貨幣Eが金属貨幣と 預金のそれぞれの形態をとることを対比させて,後者での社会的な貨幣節約効果が信用 制度の基礎となることまでで止っており,有価証券の形態まで考察が及んでいなかった。

『資本論』第2部および第3部での蓄蔵貨幣Eと資本蓄積

マルクスは『資本論』第2部の「第21章 蓄 積 と 拡 大 再 生 産J(8稿) で次のように述べている2)rそれ〔剰余生産物が貨幣形態をすなわち蓄蔵貨幣E の姿をとっていること一引用者〕は資本制的生産の自重 (deadweight)であ る。〔このような可能的貨幣資本として積み立てられているこの剰余価値を 利潤のためにも「収入」のためにも使用できるものにしようとする欲求は,

信用制度と「有価証券」にその努力の目標を見いだす。これらのものによっ て,貨幣資本は,また別の形態で,資本制的生産体制の経過と発展とに,ま ことに巨大な影響を与えることになるのである。{J (KII 

c .

Ms. S.  54J, 

S.  494)。また,その草稿の3ページ前では次のように述べている。「信用制 度のなかで,これらすべての潜勢的な資本が銀行などの手に集積されること によって, r貸付可能資本JCIoanable capital),貨幣資本となり,しかも,

もはや受動的な資本にではなく,また未来音楽としてではなく,能動的かっ rWuchernするJ(ここでは Wuchernは増殖するという意味である)資本 になるとすればその満足のほどが知れるというものであるJ(K II 

c .

Ms. S. 

51]  S. 489)

次に,第2部の「第2篇 資 本 の 回 転 」 の 最 終 章 で あ る 「 第17章 剰 余 価 値の流通J(2稿)での拡大再生産における貨幣流通の考察の中で次のよ うに述べている。「事態を現実に起きるとおりに見るならば,あとで使用す るために積み立てられる潜在的な貨幣資本は次のものから成っている。

(1)  銀行預金。だが,銀行が現実に動かすことができるのは,比較的わず

(4)

かな貨幣額である。ここではただ名目的に貨幣資本が積み立てられているだ けである。現実に積み立てられているものは貨幣請求権であって,それが貨 幣化されうる(いつか貨幣化されるかぎりで)ものであるのは,ただ,引き 出される貨幣と預け入れられる貨幣とのあいだに均衡が成立するからでしか ないのである。貨幣として銀行の手のなかにあるのは,ただ相対的にわずか な金額である。

(2)  政府証券。これはけっして資本ではなく,国民の年間生産物にたいす る単なる請求権である。

(3)  株式。思惑的なものでないかぎり,それは一つの会社に属する現実の 資本にたいする所有証書であり,また,この資本から年ねん流れ出る剰 余価値にたいする指図証である。

すべてこれらの場合には貨幣の積み立てが行われるのではなく,一方で貨 幣資本の積み立てとして現れるものは,他方では貨幣の不断の現実の支出と して現れるのである。貨幣がその所有者によって支出されるか,それとも彼 の債務者である別人によって支出されるかということは,少しも事柄を変え ないのであるJ(K II.  S. 349'"''350)

このように,資本蓄積に対応する蓄積基金としての蓄蔵貨幣 Eは,現実に は金属貨幣ではなく,銀行預金あるいは有価証券とくに株式の形態をとると している。なお,政府証券については,第 2部でも第 3部でも公信用は資本 蓄積あるいは拡大再生産の分析そのものには導入する必要がないことから,

言及があっても除外して考える。

このような蓄蔵貨幣Eの貯水池を,銀行預金と手形および証券市場を媒介 して存在する有価証券あるいは擬制資本とのこ様でとらえる視点は『資本論』

3部でも同様に貫いている。しかし,第3部第5篇(章)の信用論では,

当時のイギリス経済の現実を反映して,銀行預金および手形中心の展開とな っている。そこでは,信用論の展開は商業信用から銀行信用までが主要部分 であり,株式については擬制資本として位置づけられているが,資本蓄積あ

(5)

るいは拡大再生産と蓄蔵貨幣 Eのー形態である株式との関連についてはほと んど展開されていない。

第 2部第 2稿や第 8稿に先行して書かれた,すなわち拡大再生産の理論の 成立以前に先行的に書かれた,第3部第l稿の第5章(篇)の 15)信用。

架空資本J(草稿中の表題)のはじめの部分で次のように述べている3)01彼ら

〔銀行業者一引用者〕は貨幣資本の一般的な管理者としてそれを自分の手中 に集中する。他方では,彼らは,商業世界全体のために借りるということに よって,すべての貸し手に対して借り手を集中する。……銀行は,一面では 貨幣資本の集中,貸し手の集中を表し,他面では借り手の集中を表している のであるJ (KIII.CMs. S.  471J, S.  416)。ここでは銀行業を中心として蓄蔵 貨幣の積み立てと支出の機構が営まれているとされている。

しかし,同時に株式流通市場が成立し,それを含む金融市場が蓄蔵貨幣の 貯水池として機能する場合も想定されている。同じ 15)信用。架空資本」

のうち,現行版で「第29章銀行資本の諸成分」と題されている部分では次 のように書かれている。「すべての資本制的生産の国には,膨大な量の《い わゆる》利子生み資本または貨幣資本 (moneyedCapital)がこうした形態 で存在している。そして,貨幣資本の蓄積という言葉で考えられているのは,

たいてい,この「生産にたいする請求権」の蓄積,および,これらの請求権 の市場価格(幻想的な資本価値)の蓄積のことでしかないのであるJ(KIII. 

CMs. S. 524J, S. 486)

そしてこの「貨幣資本の蓄積」の内容について次のように述べている。「そ れゆえ,銀行業者の資本の最大部分は純粋に架空なものである(すなわち債 権(手形と公的有価証券)および株式(将来の収益にたいする所有権原,支 払指図証) { J (KIII .[Ms. S.  525J, S.  487)。このうち前者については,

IC銀行業者資本の〕最大の部分は,手形,すなわち生産的資本家または商 人の支払約束から成っている。J(ibid.)としている。このように手形や株式 として,架空資本として,銀行資本の諸構成部分は存在し,それらは蓄蔵貨

(6)

幣の貯水池の主要部分を成している。そして,ここでは蓄蔵貨幣の貯水池は 銀行業を通じて維持されており,その大部分は貨幣形態のままではなく利子 生み資本として手形を中心とする有価証券へと転化している。

他方でマルクスは,株式と国債のような収益があらかじめ確定された債券 とを区別し,株式について次のように述べている。「この〔株式の一引用者〕

市場価値は,ある部分は投機的である。というのは,この市場価値は,ただ 現実の収入によってだけではなく,予期された(前もって計算されうる)収 入によって規定されているのだからであるJ(KIII.(Ms. S.  523J, S.  485) このように貨幣資本家による予想収益の見込みによって変動する株式価格は 他の債券や手形と異った価格の変化を示すのであるが,そのことが金融市場 で株式市場の比重が増大した場合には,蓄蔵貨幣の貯水池と資本蓄積との関 係に新たな変化をもたらすことまでは言及されていない。そしてその価格変 動の結果について次のように書かれている。「これらの有価証券の下落(減 価)または上昇(増価)が,これらの証券の表している現実の資本の運動に かかわりのないものであるかぎり,一国民の富の大きさは,減価および増価 の前もあともまったく同じであるJ(Km.(Ms. S.  524J, S.486)

しかし,ここには,景気の上昇に先行する株価の上昇にみられる金融的流 通が産業的流通に先行して拡大すること,すなわちそのような株式市場を一 つの重要な構成部分として含む金融市場が蓄蔵貨幣の貯水池の主要部分とな りそれが景気の上昇に先行して拡大することが,産業資本の資本蓄積を現実 化させる貨幣資本の調達にどのような影響を与えるかについての言及はな い。上記のように,株価の変動は,結局は実物資本にとって関係がないこと までの言及に止っている4)

だが,有価証券の内容が手形までに止る場合と株式までに拡大する場合と では貨幣資本家の行動に差異が生じるであろう。後者の場合には貨幣資本家 が株式の収益見込みに基づいて行う投機的行動が構造的に組み込まれてい る。そのことは前者のような手形を主要な構成要素とする金融市場と,後者

(7)

のような株式が新たな主要な構成要素となっている金融市場とでは,それぞ れの産業資本の資本蓄積あるいは景気循環に対する蓄蔵貨幣の貯水池の役割 としては相異った様相を示すことを意味する。すなわち産業資本の資本蓄積 に対して蓄蔵貨幣の貯水池は,前者では事後的に拡大し,後者では事前に拡 大していくことになる。ただし,ここで貨幣の流通速度が一定ならば,いず れの場合も結局は銀行信用の拡大によって支えられることになる。

次に蓄蔵貨幣の貯水池を構成する有価証券の種類によって異ってくる,資 本蓄積と対応する蓄蔵貨幣の貯水池の増減のあり方のうち,株式市場と資本 蓄積との関係についてみてみる5)

)第 2部第 8稿の拡大再生産表式論の原文とその訳は,大谷禎之介「蓄積と拡大再生産 (~資本論』第 2 部第 21 章)の草稿について一『資本論』第 2 部第 8 稿から一 J (

・下)~経済志林~ (法政大)491号および2 19817月および10月,による。

)第3部第l稿の第5章(篇)の原文は, MEGA. II  ‑4 . 2のページ付けにより,そ の邦訳は大谷禎之介の以下の研究による。 rT信用と架空資本J(~資本論』第 3 部第 25章) の 草 稿 に つ い て 一 第3部第 l稿第5章 か ら 一J(中)~経済志林~ 513 1983 12月,および rr銀行資本の構成部分J(~資本論』第 3 部第 29章)の草稿について一第

3部第 l稿の第5章から一一」同誌, 63巻 l号 19957

4)宇野弘蔵はその原理論で,株式についてここでは「資本物神」の基礎が与えられるも のの,それはただ理念のみが説かれうるにすぎないとしそれ以上の展開は行われないと している。「……それ自体利子を生むものとしての資本, という原理的規定が資本を商品 化する基礎たることを明らかにするにすぎない……J(~経済原論 II ~ (~宇野弘蔵著作集』

2巻〕岩波書庖, 1973 449ページ)0~資本論』における蓄蔵貨幣の貯水池を構成す る有価証券のニ様の区別について言えば, r貨幣の商品化」は商業信用および銀行信用か ら出てくる手形が有価証券の大半を占める場合にあたり, r資本の商品化」は株式が有価 証券の重要な構成部分となっている場合にあたるといえるが,後者はその原理論では理 念として説かれるにすぎないとされている。

なお, ~資本論』の論理に沿った信用論として,渡辺佐平『金融論講義』法政大学出版 1975年,がある。そこでは信用論は商業信用と銀行信用から構成されている。ただ,

その後半の対談では, 19世紀のイギリスの証券市場にもふれられている。

(8)

)第3部第1稿と同時期(1865年)に書かれた第2部第l稿では,資本循環論と再生産 論の末完成により基本的に貨幣流通が捨象されているために,その「第3章 流 通 と 再 生産」には蓄蔵貨幣の貯水池への言及はない。それと関連して,小著『生産諸関係論と

しての経済学の成立~ (九州大学出版会, 1989年)の第7章も参照されたい。

『資本論』の第 2部と第 3部の諸草稿の執筆時期とその構成から考えると,第 3部第 l稿の信用論は,第2部第8稿(1881年)での資本蓄積と蓄蔵貨幣との関連が明かにさ れるのに先立って執筆されている。その間,第2部第2稿(1870年)では『資本論』第 2部第2篇の「第17章剰余価値の流通」に見ることができるように,拡大再生産にお ける剰余価値の実現のための貨幣流通の分析の中で,資本蓄積に対応して形成されてい る蓄積基金としての蓄蔵貨幣の貯水池について,信用論の展開の一つの出発点としての 意義も明かにしながら記述しているが,これも先行した叙述といえる。

ただ,第2部第2稿では単純再生産表式までが執筆されており,拡大再生産表式につ いては表題はあっても未執筆のままであり第 8稿をまつことになる。この第 2稿(第17 章)と同じ内容の蓄蔵貨幣の貯水池と資本蓄積との関連の記述が,第8稿の拡大再生産 表式において行われているが,それはここにおいて社会的資本の視点からの蓄蔵貨幣の 貯水池と資本蓄積との関連についての記述がそのあるべき場所でようやく行われたとい

うことである。

そしてこのことは,第3部第5篇(章)での利子生み資本の規定が,資本蓄積の存在 しない,すなわち利子率の一般的な成立をいえない単純再生産ではなく,それと区別さ れた拡大再生産における資本蓄積に即して与えられることの理論的な基礎づけが,第3 部第1稿から16年後にようやく明確に記述されることとなったということである。利子 生み資本は,単純再生産も拡大再生産も区別しない一般的な形態規定としてではなく,

その現実の基礎を拡大再生産にもつこ左の一貫した説明がごとで与えられたのである。

しかし,いずれにしても,信用制度と拡大再生産表式との関連については, w資本論』

2部でも第 3部でも,蓄蔵貨幣の貯水池を,銀行業が中心となり有価証券は手形が主 体である場合と,株式が有価証券の一つの主要な基軸となり,また金融的流通が貨幣流 通のなかでの比重を高めている場合とで見る二様の想定は一貫していたのである。

これと関連して,小稿「利子生み資本と拡大再生産JW経営と経済~ 684 1989 3月,および「拡大再生産と生産諸関係の物象化」同誌, 73l 19936月,を参 照されたい。

(9)

金融的流通の拡大の先行性と資本蓄積

赤羽隆夫の研究6)によれば, 1955年以後のそしてバブル期以前あるいは 1985年以前の日本経済では,景気循環において,金融資産の価格上昇と取引 量の増加による金融的流通での流通貨幣量の増加が,産業資本間での取引量 の増大による産業的流通での流通貨幣量の増加に明確に先行していることが 明らかにされている。この研究を参考にしながら,次のように一般的に述べ ることができる。すなわち蓄蔵貨幣の貯水池の増大に対応する金融的流通は,

産業資本の資本蓄積に先行して増大すること,その先行する増大が産業資本 の資本蓄積に正の影響を与えること,そして金融市場の先行する拡大の核に 株式市場がある,ということである7)

株式市場を起因とする金融的流通の先行する拡大は,貨幣資本家あるいは 投資家がそれぞれの個別産業資本の予想収益あるいは予想利潤率の上昇見込 み,あるいは社会全体の景気の回復見込みによって,擬制資本あるいは金融 資産の取引が,産業資本におけるその時点の現実の収益あるいは利潤率の実 態に先行して増大していくということによる。

株式価格が景気循環の回復過程で実物資本の動向に先行して上昇すること は,株式市場を通じる株価総額が増加していくことになり,そのことは蓄蔵 貨幣 Eとくに蓄積基金の貯水池が増大することでもある。蓄蔵貨幣の貯水池 が商業信用および銀行信用に基く手形を主とする有価証券によってその大部 分が構成されている場合には,その貯水池は景気変動に先行することなく同 時にあるいは事後的に増大すると考えられるのに対して,この場合には資本 蓄積により即応した貯水池のあり方へと変化していることになる。

このような株価の上昇の先行性によって,すなわち貨幣資本家の投機的行 動によってもたらされる蓄蔵貨幣の貯水池の先行した増大は,個別諸資本に とって蓄積基金の不足を主として株式発行によって,またある場合には所有 する他の個別資本の株式の売却によって調達することを可能にする。ここで

(10)

は個別産業資本にとっては,その予想される利潤率の動向によるが,その資 本蓄積の必要に応じた蓄積基金の不足分の調達が,銀行資本を中心として蓄 蔵貨幣の貯水池の形成と流出が維持されている場合に比べて,より蓄積規模 の拡大に即応しであるいは先行して行われるような機構が成立している。

ここで金融市場における有価証券の大部分が固定化された収益の支払が行 われる債券であるとするならば,景気の回復期に利子率が上昇するときには,

債券価格は低下し,また手形割引率も上昇するので,貨幣資本家による投機 は起り難いことになる。そこでは,景気の回復に対応する蓄蔵貨幣の貯水池 の増大は利子率の上昇によって妨げられることにもなる。ここでは金融市場 が産業資本の資本蓄積に先行して拡大するというよりも,それと同時にある いは少しの遅れをともなって債券発行あるいは手形での支払が増大すること になる8)

このように,資本蓄積のための蓄積基金の調達が,銀行信用によってより も,株式市場での株価の動向によって容易に行われうるようになるとすると,

次に実物資本の側での資本蓄積あるいは拡大再生産がより順調に行けば行く ほど,そのことが次にはまた逆に金融市場あるいは株式市場の拡大へと反映 されることになる。このように,この相互に促進する過程はある範囲内で持 続することになる。このような株式発行市場での蓄積基金の不足分の調達が 容易となることは,他の社債市場等へも正の影響を与えることになる。

このように個別資本の GG'の結果とその予想とが金融市場につねに反 映されるようになると,個別資本の GG' の結果の格差に対応してではあ るが,蓄積基金の不足分が銀行信用によるよりも,より容易に満たされる場 合がおこり易くなる。この株式市場を中心とした資金調達の可能性の底上げ は,貨幣制度が貨幣商品金に基礎をおかない制度となるにつれて一層進むこ とになる。

ここでは,金融市場での社会的な貨幣資本の集中がより一層容易となり,

より予想利潤率の高い個別資本ほどより一層の生産拡大が可能となる。そし

(11)

て,ここで生じている相互促進的な過程は拡大再生産の拡大率あるいは経済 成長率を高めうる可能性をもっとともに,他方ではその景気変動の振幅を拡 大しうる可能性をももつことになるの。

ここでは資本制的生産は,その実物資本の蓄積に対してより一層適合する ようになった信用制度あるいは蓄蔵貨幣の存在形態を生み出したのである 10),他方ではそれが成功した結果として過剰蓄積の可能性をより一層高め うるとともに,同時にまた信用制度の不安定性を高めうることともなったの である。

なお,以上のべてきた先行する金融的流通の拡大およびそれにつづく産業 的流通の拡大にともなう貨幣量の増大は,究極的には銀行制度による信用創 造によって賄われることになり,最終的には中央銀行による貨幣供給による

こととなる。

)赤羽隆夫はその研究の結論として次のように記述している。「資産取引と財貨・サービ ス取引の変動率相互の時間的な前後関係を変化率の転換点(山と谷)のそれでみると,

概して前者が後者に先行している場合が多いようにみえる(とくに昭和60年頃以前,図 c[省略一引用者J)。このことは,しばしば議論の種とされるマネーサプライと名 GNP(=y)の変動率の間に見出される前者先行,後者遅行というタイム・リード

・ラグ関係なるものも,資産取引も財貨・サービス取引と同様取引執行のためマネーを 必要とすることを前提に考えれば,実は資産取引の変動が財貨・サービス取引の変化に 先行するという事実から発生したものだと解することができるJ(赤羽隆夫他『金融経済 と実物経済ー1980代の評価と90年代への課題一』日本経済調査協会.1991年.182ペー )

なお,赤羽隆夫「国民経済総取引の推計一実物経済と金融経済の関連に関する分析 のための基礎資料集(昭和30 平成2年 ) ーJ~経済分析 JI (経済企画庁)122 19914月,の29ページの注9も参照されたい。

7)ソースタイン・ヴェプレンは20世紀初頭のアメリカ合州国での証券市場の発展を念頭 におきながら,株式会社制度の普及により,景気循環の回復期において実物資産の価値 と諦離して増大していく「企業資本」としての「予想収益力の資本化額」あるいは担保

(12)

価値の増大がもたらす資本制経済の不安定性の増大を指摘している CThorsteinVeblen,  The Theory 01 Business EnteriseCharles Scribner's Sons, New York, 1907,小原敬士 訳『営利企業の理論』勤草書房, 1965)

関連して,間宮陽介『法人企業と現代資本主義』岩波書庖, 1993年,第6章,も参照 されたい。

)利子率あるいは貨幣量の変化が金融資産の価格に与える効果の相違については, Joan  Robinson, The Rate 01 Interest and other Essays, Macmillan, London, 1952, CJII一司・

梅村又次訳『利子率その他の諸研究』東洋経済新報社, 1955年),の最初にある論文「利 子率」を参照されたい。

)ハイマン・ミンスキーは金融市場との関連で蓄積基金の調達を考察し,それが投機的 資金調達から崩壊に至るという資本制的生産における金融的不安定性を理論化している (堀内昭義訳『ケインズ理論とは何か一市場経済の金融的不安定性一』岩波書庖,

1988年。岩佐代市訳『投資と金融一資本主義経済の不安定性一一』日本経済評論社,

1988年,吉野紀他訳『金融不安定性の経済学一歴史・理論・政策一』多賀出版,

1989)

なお,青木達彦編『金融脆弱性と不安定性一バブルの金融ダイナミズム一一』日本 経済評論社, 1995年,あるいは,奥村洋彦『現代日本経済論ー「バブル経済」の発生

と崩壊一』東洋経済新報社, 1999年,も参照されたい。

また,宇野理論からのミンスキー理論の位置づけについては,横川信治『価値・雇用

・恐慌一宇野学派とケンブリッジ学派一』社会評論社, 1989年,第四章,がある。

10)蓄蔵貨幣に注目しつつ,景気循環と信用制度との関係を考察した研究として,下平尾 勲『信用と景気循環』新評論, 1978年,がある。

む す び

以上のように見てくるとき, ~資本論』において記述された蓄蔵貨幣の貯 水池と資本蓄積との関連についてのこ様の視点のうち,有価証券の主要な構 成部分として株式が存在する場合のそれは, 20世紀の資本制経済における資 本蓄積機構の構造変化を考える際の基礎視角を提供するものであった。金融 市場が,資本蓄積あるいは拡大再生産により適合した姿へと変化して,それ

(13)

に先行して増大する蓄蔵貨幣の貯水池という新たなあり方へと発展したこと は,資本制的生産のより一層の拡大を可能にする条件を整えるとともに,そ の不安定性あるいは過剰蓄積の可能性をより拡大した形で内包することとも なったということである。

このような貨幣資本の側と実物資本の側とでの変化の同調性の増大による 振幅巾の拡大の可能性は,他方でたとえば中央銀行の金利政策に止らない社 会的なセイフティ・ネットの構築の必要性11)を,公信用の役割の増大ととも に,高めることになる。

また,産業資本の運動 (GG')と貨幣資本の運動 (G‑G')とが蓄蔵貨 幣の貯水池においてたえず接触しつづけるときには,利子生み資本の運動の 場が発展し,また擬制資本の諸形態が発展することになる。資本制的生産の 展開にともない,資本蓄積と蓄蔵貨幣の貯水池との関連に新たな要素が組み 込まれるとともに,擬制資本の諸形態もまた新たな姿をとるようになる。そ れは生産および交通諸関係の物象化の一層の進展として,あるいは社会全体 へのその浸透の推進と市場化の拡大として見ることもできょう12)

11)法政大学比較経済研究所・金子勝編『現代資本主義とセイフティ・ネット一市場と 非市場の関係性一』法政大学出版局, 1996年,の序章および第I部も参照されたい。

なお,チャールズ・キンドゥルパーガー(吉野俊彦・八木甫訳)~金融恐慌は再来す

るか一一くり返す崩壊の歴史一』日本経済新聞社, 1980年,も参照されたい。

Michel AgliettaSystemic risk, financial innovations, and the financial safety  net, CChislain Deleplace and Edward ].  Nell, eds., Money in Motion: The Post Key nesian and Circulation Approaches, Macmillan, London, 1996,所収)も参照されたい。

12)資本制的生産の発展に伴う擬制資木の内容の拡大と,それに対応する理論の変化につ いては,佐合紘一「擬制資本の展開J~信用理論研究.n 15 19975月,を参照され たい。

また,関連して深町郁涌『国際金融の現代一ドルの過剰と貨幣資本の過剰一』

有斐閣, 1999年,第5章および第9章を参照されたい。なお,川合一郎は次のように

(14)

述べている。「一度形式上自己と同ーのすみ家を作ってしまえば,ここは利子生み資本 の吸着基盤となる。これらの擬制的構築の衝動の推進力となるのは究極的には資本蓄 積の総過程であり,…ーJ(1信用理論の根本問題J[~川合一郎著作集』第 2 巻〕有斐 1981 294ページ)。

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