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1.問題と目的

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Academic year: 2021

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リワークプログラム利用者の揺り戻し体験と その変化プロセスに関する質的研究

早 川 菜 つ み

(神奈川大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学研究領域)

A qualitative study on resistance of re-work program users and their changing process

1.問題と目的

 近年,わが国では職場におけるメンタルヘルス不調が大きな問題となっている。厚生労働 省(2017)によれば,職場生活でストレスを感じる労働者の割合は 60% 前後で,業務によ る心理的負荷を原因とした労災認定も近年増加している。国の取組みとしては,平成 27 年 の労働安全衛生法の改正に伴いストレスチェック制度が導入され,企業側もメンタルヘルス 対策に取り組んでいる割合が上昇し,職場のメンタルヘルスへの関心は益々高まっている。

 このような中,リワークプログラム(以下,リワーク)が近年注目されている。リワーク とは,職場のストレスによりうつ病・うつ状態になった人々の復職支援プログラムであり,

さらに復職後に再発防止のセルフケアが行えるような人間的成長を促す心理社会的教育プロ グラムである(有馬,2009)。川崎(2013)によると,リワークの効果評価に関する国内の 研究はここ数年行われてきており,復職達成率は 6~7 割,復職 1 年後の就労継続率は 7~8 割と,特に復職復帰後の就労継続に大きく寄与することが示されている。また,大木ら

(2012)は,リワーク利用群と非利用群の就労継続性について,利用群が有意に良好である としている。

 しかしながら,リワークにおける復職プロセスや,参加者の心理的変化等の主観的体験に 注目した研究は少ない。

 川崎(2012)は,GTA による休職から復職に至る過程での休業者が体験した援助専門家 との関わりについての研究で,段階によって援助専門家と関わる目的やニーズが異なること を示した。

 山本(2013)は M-GTA によるショートケア・リワークのプロセス研究にて,自己の課題 と向き合う過程で主体的に治療に関わる姿勢が重要だとした。

 川崎(2015)は M-GTA によるうつ病により休業した人が休業時からリワークプログラム 参加に至るまでの過程の研究で,リワークプログラム参加へ踏み切れない状況が続く中で,

現実的困難を認識することが職場復帰を現実的にとらえるきっかけとなることを示した。

 山田(2015)はショートケアとデイケアを組み合わせたリワークの参加者が休職前後から 復職を果たす過程を M-GTA により探索し,自分と向き合いながら,しなやかな強さを持っ

心理相談研究 10 75-78 2019.

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て社会に戻っていくモデルを提示した。この研究で生成されたモデルからはスムーズに復職 を果たした印象を受け,リワークの中での葛藤等の紆余曲折をモデルに反映しきれていない という課題が残るように思われる。

 そこで本研究では,参加者がリワークを通じて体験しているさまざまな不安や葛藤,抵抗 感などの“揺り戻し体験”に注目し,それとどのように向き合いながら復職していくかとい う心的過程を探索し,モデル図を提示することを目的とする。

2.方法

 調査対象者はリワークプログラムを修了し,復職している,もしくは復職が決まっている 者 12 名である。なお,事前に「研究倫理遵守に関する誓約書」の内容を説明し,同意書に 署名を得たもののみを調査対象者とする。分析対象者の構成は,20 代後半が 3 名,30 代前 半が 3 名,30 代後半が 1 名,40 代前半が 1 名,40 代後半が 3 名,50 代前半が 0 名,50 代 後半が 1 名であった。男女比は 9:3 であった。

 調査方法は,機縁法により収集した調査対象者に対して,個別に事前アンケートと 90 分 程度の半構造化面接を実施する。その際,調査対象者の同意を得た上で IC レコーダーに録 音する。

 分析方法は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用い る。M-GTA とは,ヒューマンサービス領域の研究に適しており,研究対象として現象がプ ロセス的な特性を持っている場合に適している分析法である GTA を,エッセンスに絞って 分析方法を簡略したものである(木下,2007)。M-GTA を用いる理由は,本研究が M-GTA の 4 つの理論特性(理論生成・社会的相互作用・プロセス性・実践的活用)に合致している と考えられるためである。具体的には,IC レコーダーに録音したインタビュー内容から逐 語録を作成し,それを分析データとする。その分析データについて,分析テーマを念頭にお きながら調査対象者の体験に注目し,分析ワークシートを用いて,概念,定義,具体例,理 論的メモを記入していく。また,ここで作成した概念を基にして,カテゴリー,コア・カテ ゴリーを生成し,最終的に,分析テーマに即したモデル図,およびストーリーラインを作成 する。

3.結果

 本研究では 25 個の概念が生成され,9 個のカテゴリー,4 個のコア・カテゴリーが生成さ れた。その結果,分析焦点者が休職前後からリワークプログラムを経て復職するまでの揺り 戻し体験の変容プロセスについて,【意志とは無関係にリワークに参加する】→【場への馴 染みにくさを持つ】→【自動思考の荒波に揉まれる】→【復職を目の前に不安になる】とい うプロセスが生成された。

 分析焦点者は,《リワークの必要性を感じない》ままに〈外部からの圧力でリワークに押 し出され〉,【意志とは無関係にリワークに参加する】。それゆえ《リワーク本来の目的から

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リワークプログラム利用者の揺り戻し体験とその変化プロセスに関する質的研究

遠ざか》り,また〈リワーク開始の緊張〉とともに集団内で《劣等感を抱く》,《アドバンス のハードルの高さ》を感じるといった【場への馴染みにくさを持つ】。プログラムが本格化 し《感情に巻き込まれる》場面や,《認知行動療法への戸惑い》《認知の歪みへの過剰反応》

が現れ,〈目の前の課題をこなすことに満足し復職準備から目を背ける〉といった一時的な 対処をしながらも【自動思考の荒波に揉まれる】。プログラム終盤で《復職を意識》し始め るが,《不透明なキャリア》に直面する等〈準備不足からくる復職への不安〉に襲われ【復 職を目の前に不安にな】りながら,復職を果たしていく。

4.考察

 本研究は,山田(2015)の研究を引き継ぐ形での研究となった。山田(2015)では主にプ ログラムの効果的側面を検討していたが,本研究は“揺り戻し体験”という,プログラム上 で上手く進展しなかった側面や抵抗の側面を検討してきた。

 本研究では,自分と向き合う準備が整うまでに,【自動思考の荒波に揉まれる】という困 難さがあることが示された。山田(2015)は[不安の減少とともに自分と向き合う準備が整 っていく]段階を Basic コースでのプロセスとしているが,本研究においてはこの段階は Advance コース終盤の《復職を意識する》まで続くと予想され,山田(2015)のプロセス モデルより全体的に段階の移行が遅延したモデル図となった。また,『プログラムを通して 自信を取り戻していく』過程において,「先輩としての自覚が芽生える」ことが,逆に〈卒 業する先輩が自分の卒業時の基準となり焦りを感じる〉原因となることも示された。このよ うに,幾度となく“揺り戻し体験”が存在し,なかなかスムーズに復職準備が進まないま ま,最後まで不安を抱えながらも復職していく参加者の姿が浮かび上がった。

 うつ病休職者は完璧主義の傾向から,常に高いハードルを掲げている。支援者はスモール ステップにより,ハードルを参加者の越えられる高さまで調整することが,支援のポイント であるように思われる。参加者と支援者が二人三脚で復職への道のりを歩んでいくことが必 要なのかもしれない。

【引用文献】

有田秀晃(2009)プログラム作成のポイント.うつ病リワーク研究会(著) うつ病リワークプロ グラムのはじめ方,第 4 章 弘文堂,34-53.

大木洋子・五十嵐良雄(2012)リワークプログラム利用者の復職後の就労継続性に関する効果研 究.産業精神保健,20(4),335-345

川崎舞子(2012)うつによる休業者が体験した援助専門家との関わりに関する質的研究.臨床心理 学,12(3),361-373

川崎舞子(2013)復職復帰支援に関する研究の現状と展望.東京大学大学院教育学研究科紀要,第 53 巻,157-163

川崎舞子(2015)うつ病患者の職場復帰プロセスに関する検討―休業時からリワークプログラム参 加への準備期に焦点を当てて―.産業精神保健,23(1),38-48

木下康仁(2007)修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の分析技法,富山大

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学看護学会誌,6(2),1-10.

厚生労働省(2017)職場におけるこころの健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針

山田陽樹(2015)精神科ショートケアとデイケアを段階的に組み合わせた医療リワークにおける休 職者の変容プロセス,神奈川大学大学院修士学位論文:人間科学研究科.

山本智美(2013)うつ病を中心とした気分障害患者のリワークプログラムにおける心理的変化,山 梨英和大学心理臨床センター紀要,第 8 巻,80-90.

参照

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