はじめに
1 はじめに
1. 研究経歴と本研究の動機
私は、1964 年4月野村證券内に設置された社内ベンチャー組織「野村総合研究所設立準 備委員会」に採用され、社会人としての第一歩を踏み出した。当初、約10年間は、流通・
サービス分野における新分野の研究を行ない、流通・外食・各種サービス業における新産 業やベンチャー企業(当初市民権を得ていたとは言いがたい)を研究対象としていた。1973 年から8ヶ月間、米国スタンフォード研究所で共同研究を行ない「Marketing in Japan」
というレポートによって米英各地でのクライアント・セミナーを行なった。1974年秋に帰 国し、新設された開発事業部(後の経営コンサルティング部)で経営コンサルティング業 務を立ち上げ、経営コンサルティング室長、経営コンサルティング部長(主席コンサルタ ント)を歴任した。経営コンサルティング業務を通じて、ベンチャー企業及び中堅企業の 創業者と直接、しかも幅広く接触することで、ベンチャー企業、創業経営者(起業家)へ の興味が高まった。この業務を通じて、あらゆる分野の多数のベンチャー企業や、中堅企 業の戦略的課題についてのコンサルテーションと提言レポートを作成し、実行支援を行な ってきた。
1989 年4 月、新設された多摩大学に移ったが、その最大の動機は、それまでの研究員、
コンサルタントとしての25年間の蓄積を体系化し、学生への教育に役立てようということ であった。多摩大学では野田一夫初代学長、中村秀一郎第 2 代学長に直接ご指導を受ける 幸運に恵まれ、多摩大学総合研究所副所長として、研究活動やコンサルティング活動を通 じて、ベンチャー育成の実践活動も行った。1998 年4月から早稲田大学大学院アジア太平 洋研究科教授に就任し、ベンチャー企業経営論、アントレプレヌールシップ、流通・サー ビス産業論等を担当し今日に至っている。早稲田大学では、松田修一研究科委員長、大江 建教授、西山茂助教授、東出助教授等、ベンチャー関係の多くの研究員と共に、研究・教 育活動そして実践活動を行なってきた。
この間、1997年11月発足した日本ベンチャー学会では、清成忠男会長の下で、発起人・
理事を務めさせていただき、第1回全国大会実行委員長の役を担った。
以上のような経歴の中で、一貫して研究してきたのは、新産業の生成、ベンチャー企業 の輩出と経営、起業家の起業力等の分野であった。これらについては、後に示すように著 書、論文として発表したものも多いが、必ずしも体系的には未だまとまっていない。そこ で今回博士学位請求論文として、新たな研究結果を盛り込みながら体系化することを最大 の動機としている。
すでに経営学や中小企業論の世界では、莫大な研究蓄積が内外の学者、研究者、実務家 によって行なわれている。しかし、ことベンチャー企業や起業家に関する研究は、必ずし も充分であるとは言えず、体系的なベンチャー企業経営論の社会的必要性は非常に高い。
また、既存の経営学や中小企業論の多くは、明示しているか否かは別として、ある程度出 来上がった既存企業のマネジメントを論ずる「静態論」の立場に立つものが多い。しかし、
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ベンチャー企業経営論は、いかにベンチャー企業を生み出すかという準備期・スタートア ップ論を含め、いかにハイスピードでイノベーションを浸透するかという立場、すなわち
「動態論」の立場に立つ必要がある。
さらに加えて、イノベーションに基づく商品やサービスの新規性がベンチャー企業の特 性であるから、当然のことであるがリスクが高く、失敗する確率も一般ビジネスよりも高 い。しかし、成功したら新規性が強いだけに一挙に市場を席巻することも可能である。す なわち、ベンチャー企業はハイリスク・ハイリターンという特性も合わせ持つのである。
このリスクを少しでも下げるには、ベンチャー企業の特性に焦点を当てた、ベンチャー企 業経営論の体系化がぜひとも必要である。先行的理論研究をベースとして、最新の多数の ケーススタディから本質的枠組みを抽出することによって、学会や実務家にも貢献したい という動機も強い。
さらに、ベンチャー企業の定義に示すような、本質的特性としての「イノベーションに 基づく新規性」は、ベンチャー企業経営のあり方に、他の企業よりも大変強く「創造的破 壊と矛盾のマネジメント」の必要性を迫ることとなる。「創造的破壊」は言うまでもなくJ.A.
シュンペーターの著名な命題であり、資本主義経済発展を担う企業家(起業家)が物及び 力の新結合の遂行によるイノベーションによってベンチャー企業を起こすのである。ベン チャー企業の創出や起業プロセス、起業家の能力等を本編の中では「創造的破壊」の中に 含めて解明することとしたい。つまり「ベンチャー企業創出論」を表す言葉として「創造 的破壊」という言葉を用いることとしたい。
加えてベンチャー企業は、創出後発展し短期間の間に変態「Metamorphosis=生物学の 言葉で「昆虫の変態」」を繰り返しながら、経営基盤を確立することが必要となる。創出(誕 生)のメカニズムの中にも、弁証法的矛盾が関与しているが、創出後の発展はまさに企業 内と企業外の矛盾をエネルギーに、発展を続けるのがベンチャー企業の特性である。この ため矛盾のマネジメントとは、「ベンチャー企業発展論」という意味である。これらの理論 的考察は、後に第 1 章で述べるとして、このような考え方から本論の副題は「創造的破壊 と矛盾のマネジメント」つまり「ベンチャー企業創出論とベンチャー企業発展論」が主要 な内容ということになる。
このように本論文は、ベンチャー企業特有の特性に適合するベンチャー企業経営論の体 系化、すなわちその本質的内容である「創造的破壊と矛盾のマネジメント」のあり方を解 明しようという試みである。
2. 本テーマに関する研究実績
本テーマに関する研究実績として、別紙に示すような学会及び社会における活動等、著 書、学術論文、シンポジウム・学会発表という形で示してある。中には、流通・サービス 産業に関するものも含まれているが、この分野におけるベンチャー企業も研究の対象とな っており関連を有する。また、シンポジウムや各種公的機関の委員等も含めているのは、
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このような実践活動の中から貴重なデータやケースを得ていることが多く、そのうちの多 数を本論文で引用しているからである。
また整理の方式が論文の構成通りではなく、形態別、時系列別になっている。本論文と の直接的関係については、各章末に注という形で対応を示しているためと、あるデータは、
本論文の複数の章で用いられているため、重複して登場することになり煩雑を避ける意味 もある。