ITによるホワイトカラー生産性向上におけるベネフィットと問題点
小野哲
はじめに
今日我が国企業は,バブル経済が崩壊したことによる影響で深刻なダメー ジを受け構造改革をせまられている。とりわけ問題とされているのが,これ までの右肩上がりの拡大・成長路線にのっとって非効率なくらいまで膨張し た組織に起因する人件費過多の体質であり,その結果であるホワイトカラー の生産性の低さである。
周知のように現在は 価格破壊 の時代に突入しており,このような状況 の中で企業が生き残ってゆくためには,消費者が望む機能・品質の製品を低 価格で他社に先駆けて市場に投入することが必要であり,前述した我が国企 業の高コスト体質とそれに伴う肥大化した組織形態では,当然のことながら,
利益を確保することは困難であるし,意志決定の速度も迅連なものにならな い。
このような現状を鑑みれば,現在の我が国企業にとっての最大の課題とは,
生産部門に比して過剰感の強いホワイトカラー部門を簡素化し,その生産性 を高め,適正な人員数で適度な人件費水準を保持しながら経営活動を行って ゆくことである。そこで本稿では,近年におけるIT(情報技術)がホワイ トカラーの生産性の向上にいかに貢献を果たすか,そして複数のベネフィッ トを提供するであろうITを使用する場合に,その利点を確保するために留 意しなければならない問題点を検討することにする。
本稿では以上のような問題意識のもと,まずホワイトカラーの内容を吟味 することからはじめたい。これは換言すれば,現状から見てホワイトカラー の中で生産性を高めることが急務であるような職種を洗い出すためである。
次に,主要な職種を明確化した後,それらの生産性における特性と,その 特性を踏まえた上で生産性を向上させるためにはどのようなことが必要にな るかという問題を扱い, ITの果たす役割やもたらすべネフィットを事例及 び補足的検討から明らかにする。
最後に, ITからもたらされるような利点を確保するために,我が国企業 がクリヤーしなければならない問題点を明らかにし,併せて今後の課題等に も触れることにする。
1 .ホワイトカラーの定義と分類
ホワイトカラーとは, r企業において主として事務・管理ときに販売部門 に携わる労働者の俗称」(lセあり,その職遺2kl土,管理的職業従事者,専門・
技術的職業従事者,事務従事者,販売従事者というものが該当すると考えら れる。
さて,現実の企業においてホワイトカラーが占める割合は近年どう推移し,
どの職種に余剰感が高いと感じられているのであろうか。これらの点につい て, (財)日本雇用情報センターが1993年10月に,建設業,製造業,電気・
ガス・熱供給,水道業,運輸・通信業,卸売・小売業,飲食庖,金融・保険 業及びサービス業の労働者500人以上を雇用する民営1,000企業を対象に行っ たアンケート調査から実態を探ってみることにしたい。
まず,向調査におけるホワイトカラー職種の分類であるが,基本的には労
(1) これからの賃金制度のあり方に関する研究会編, wホワイトカラーの生産性向上と賃金 制度~, (財)雇用情報センター, 1994年, p.14。
(2) 労働省編, w労働白書~ (平成5年版), p.102。
(3) これからの賃金制度のあり方に関する研究会編, w前掲書~, pp.205‑253。
働白書の定義にならった形で,管理職,専門職,技術職,研究・開発職,事 務職,販売職の6つの職種をホワイトカラーと想定している。
全労働者に占めるホワイトカラーの割合ということでは 5年前の61.3%
から63.5%に上昇し,確実にホワイトカラー化が進行していることがうかが い知れる。(図表1‑1を参照されたい。)
図表Iー 1全労働者に占めるホワイトカラー労働者(全体及び中高年者の割合) ( 5年前と現在)
開 60
50
40
30
20
10
O
産 業 計 製 造 業
汁
h
635 開6050.6 50
「一一4一6.6 40
30
レーーー一 日1 20 日五
望
年
者 害年者 10
。
5 現 5 現
年 年
前 在 前 在
(出所)側雇用情報センター「ホワイトカラー労働者の生産性向上と賃 金制度に関するアンケート調査 (1993年10月)J
今度は職種別労働者の割合を見てみることにしたい。(図表1‑2を参照 されたい。)これによれば,管理職19.3%,専門職4.0%,技術職16.5%,研 究・開発職6.0%,事務職30.4%,販売職19.3%となっている。
これらの職種の中でどの要員が過剰であるのかという調査を示したもの が,図表1‑3である。図表1‑3から見ると,管理職49.0%,事務職51.7
%というように他の職種と比較してこれらの職種に余剰感が高いことが見受 けられる。
以上の3つの図表から指摘できうることを,総括すると次のようになるで あろう。
① 5年前と比較すれば,我が国企業におけるホワイトカラー化は着実に進 行している。
②職種別の割合を見ると,特に事務職,他に比較して管理職,販売職の割 合が高い。
① 現実には,管理職と事務職の余剰感が高率となっており,これらの職種 の生産性は低いことが推察される。
これらの実状からすれば,最も問題なのは事務職であり,次に管理職とい うことなるであろう。したがって,本稿においては生産性を高めるべき主要 な対象を事務職と管理職に絞ることにする。
それでは,これらの職種の生産性を向上させるには,どのようなことが必 図表1‑2ホワイ卜カラー労働者に占める職種別労働者の割合
10
仁三ゴ産業計 仁二コ製造業 阻皿皿商業等
盤璽塁審金融・サービス業
E三富建設・運輸業
0 5 4
陶 50
40
30
20
O
管 理 職 専 門 職 技 術 職 研究・開発職 事 務 職 販 売 職 (出所)図表1‑ 1に同じ。
図表1‑3 ホワイトカラーを量的に見た職種別要員配置状況 (単位:%)
不足している 余っている
該 当
どちっしから 適性で
余るどとちうらか
企 業 不足し といと ある い と 余 っ て ない 計 計
ている 不足て 計 っていいる いる
管 理 職 100.0 5.7 1.9 3.8 42.2 49.0 35.7 13.3 3.0 専 う「 職 100.0 21. 0 3.4 17.6 50.4 21. 0 17.6 3.4 7.6 技 術 職 100.0 31. 3 4.1 27.2 48.5 16.9 13.8 3.1 3.6 研究・開発職 100.。33.3 4.2 29.1 48.5 14.5 10.9 3.6 3.6
事 務 職 100.0 3.8 0.4 3.4 41. 8 51. 7 44.1 7.6 2.7
販 聖 職 I100.0 I 26.8 I 4二4 22.4 56.1 12.7 10.2 2.4 4.4 (出所)図表1‑1に同じ。
要になるのであろうか。この点に関して,次章で検討することにしたい。
1I.ホワイ卜カラーの生産性における特性
周知のように生産性は,インプットに対するアウトプットの比率として測 定される。ブルーカラーの生産性を定義することは,インプットとしての労 働以外の生産要素が不変であるなどという一定の前提条件を伴うことになる が,比較的容易なことである。
しかしながらホワイトカラーの場合は,ブルーカラーと異なり生産性の定 義が困難である。その根本的な理由は,ホワイトカラーに固有のアウトプッ
トを把握する,すなわち業務の定量化に根源的な問題があるからである。
したがってホワイトカラーの場合は,一般的に定義できうるようなアウト プットを設定することが極めて困難である。例えば,情報の集積点のポジシ ョンに位置じ情報伝達能力に優れた管理職や,部下に対する調整能力に秀で た管理職などについて,果たして固有のアウトプットを設定できるのであろ うか。
また事務職の場合は,例えば文書の処理枚数などをアウトプットとして想 定できると単純に考えてよいのであろうか。ある事務員が他の事務員より多
くの文書を作成できるからといって,その事務員が多くのアウトプットを産 み出したとはいえないであろう。なぜならば,そのアウトプットの中に書き 損じ等のミスによるものが多く含まれていたとすれば,真の意味で多くの産 出を成し遂げたとはいえないからである。
このように考えれば,事務職のアウトプットの場合,量的側面よりも質的 側面がより重視されねばならないであろう。サービスの質を計量化する方法 として,サービス活動指数法などのやり方を適用することが可能であるが,
この問題も単純に考えることはできないであろう。つまり,このような方法 によってもたらされる数値は,純粋なホワイトカラーの生産性測定数値とは なりえず,産業別の生産性やシステムの効率性の測定に限定されたものであ る。
いずれにしても,管理職や事務職を含むホワイトカラーの生産性を定義な いしは測定するには,アウトプットが非常に大きな制約となるのであり,そ れ故確立された測定法もその向上法も現状では未発達といわざるをえない。
このような現状において,ホワイトカラーの生産性を向上させるにはインプ ットの削減によりそれを実行することが必要であろう。
この場合のインプットには,労働時間と労働者数及び労務費が考えられう るであろう。しかしながら,労働時間ではホワイトカラー労働の質を把握す ることができない。労務費は,我が国の現状の年功的賃金体系の下では,現 状の労務費の水準を知らしめる指標としかならず,生産性の向上という点で インパクトに欠ける。そうすると,ホワイトカラーの割合が増加しており,
その中でも特に事務職及び管理職には過剰感が強いという我が国の現状を考 慮すれば,労働者数を削減するという量的側面を第一義にすることがもっと も現実的な判断であろうし,このことにより人件費水準を適正なレベルにす ることも同時に可能となるのである。
(4) これからの賃金制度のあり方に関する研究会編, ~前掲書~, p.40。
ホワイトカラーの生産性向上におけるインプット削減の意義は確認できた のであるが,インプットの削減方法にはどのようなものがあるのであろうか。
まず考えられうることは,例えば,同業他社の中で業績の良い企業を基準 にして数を決めるというやり方であろう。この方法は一種のベンチマーキン グといえるかもしれないが,いくつかの欠陥を内包したものであろう。第一 に発想がベンチマーキングに則ったものであるから,基本的に業績の良い他 社との差が埋まらない。第二に,自企業の個別的要因を考慮していない。第 三に該当職種に関する他社のデータが入手できない場合,どのような補完的 措置を講ずるのかということに問題が残る。このように,他社を基準とした やり方ではあくまでもある種の参考的な数値情報を入手できるということに 止まり,真の意味で自社の生産性を飛躍的に向上させることにおいては一定 の限界があると指摘せざるをえない。同様な方法として,他社と自社のブルー カラーとホワイトカラーの比率から判断するという方法もあるが,これもす でに述べた欠点を有するものであることはいうまでもない。
他の方法としては,自企業の業務の現状を把握し,その上で ITの活用を 考慮し,業務の在り方を根本的に変革することで,事務職と(特に中間的) 管理職の数を削減するというものが考えられるであろう。業務の現状把握は,
例えば,プロセス・マップ等を使用して行うことが可能であるが,ここで注 意しなければならないことは現状をそっくりそのままにして ITの活用を考 えるのではないという点である。もし現状通りに IT化してしまえば,現在 の非効率が ITの中に埋没してしまうので,現状において重複業務などが発 見されたらそれを集中化できないか,あるいはより業務の経路を短縮し効率 化できないか,または外注できるものは外注化するなどといった業務分析を
(5) プロセス・マップの詳細は、次の文献を参照されたい。スティーブン・M・フォロニ ック,アーサーアンダーセン&カンパニー著,アーサーアンダーセン・オベレーショナ ル・コンサルティング・グループ訳.w リエンジニアリングのための業績評価基準~.産 能大学出版部.1994年.pp.158‑182。
行った上でIT化を考える必要性があろう。
さて,このような現状の分析を行った上で,ホワイトカラー業務の生産性 を高めるのに貢献する ITの具体的内容とは,どのようなものになるであろ うか。それらを列挙すると,データベース,ネットワーク,ユーザー・イン ターフェース等であろう。以下これらのものに関して,概要を説明してゆく ことにする。
企業の基幹的な定型業務には,データベースが有効であろう。データベー スは, I情報や帳票(文書,手紙,契約書,フォーマットなど)を蓄積し,
ユーザーがそれらを必要な時に検索して取り出し加工して,同じものを反復 利用することにより業務を効率化させようとするもの」である。データベー スの特徴としては,ある種のデータが反復が大きく利用されればされるほど,
あるいは処理すべき情報量が膨大であればあるほど効率性が向上し,それが 作業の効率化やコストダウンに繋がる点に求められうるであろう。言うまで もなく事務作業において使用されるデータは反復性が高くその量も膨大であ るので,それらのデータをコンピュータにより首尾よくデータベース化でき れば,かなり大幅な事務作業員の数を削減できるであろうし,それが故に生 産性も大幅に向上することになる。
また,このようなデータベースを取り込んだ LAN(構内情報通信網)を 構築し,その LAN上で、グループウエアというネットワーキング技術を使用 すれば,知的情報をも含んだ情報の共有化が行われ,単なる情報の集積点で あるような管理職は不要となるし,これまで管理職が行ってきた業務もある 程度まで部下に代替させることも可能になる。この結果一定数の管理職を削 減できうるであろうし,管理職自身にしても,これまで行ってきた調整業務 などから開放され,本来管理職として果たすべき創造的業務に専念すること ができるようになる。
(6) 末松千尋著, w実践情報システム革新~,日本経済新聞社, 1994年, p.159o
さらに,事務職や管理職は必ずしも ITについての専門家ではなく,その ような者達が必然的に情報システムを使用することになるので,企業内にお ける ITの普及には専門的知識がなくても比較的容易に操作できることが決 め手になるであろう。このような問題に大きな貢献を果たすものが,ユーザー
‑インターフェースである。ユーザー・インターフェースとは,ユーザーが 情報システムを使用する際に,ユーザーと情報システムの聞の接点となるも の,帳票画面, GUI (グラフイカル・ユーザー・インターフェース),マル チメディア等のソフト及び,携帯端末,ペン入力, POS端末などのハード をまとめた総称である。
次章では,以上のような ITがインプットたる人員の削減にいかに貢献し,
かっそのことも含めた上でもたらすであろうベネフィットに関して,実際の 事例と補足的検討からさらに考察してゆくことにする。
m. ITによる生産性向上法の事例とそのベネフィッ卜
ITを利用してホワイトカラーの生産性を劇的に向上させた例には, A社 のケースがある。 A社は大手5社に次ぐ中堅の鉄鋼メーカーであり,品種を 高級薄板製品に限定している故に,鉄鋼メーカーの中では比較的高い経常利 益率を維持している。我が国の鉄鋼メーカーがそうであったように,同社で も1986年の円高不況以後,当初は同社の全社員8,000入のうち,事務系ホワイ
トカラ一層2,700人の3割をBSP(Business Systems P到la如nnin 縮するという合理化計画に着手した。
ところが, 1986年以降同計画を進める過程において,翌年の低金利政策に
(7) 末松千尋著, r前掲苦~, p.l72o
(8) 土屋守章,藤井 明稿, r事例研究本社ホワイトカラー業務のシステム化J,r組織科 学~Vo1. 28 No. ,l1994年, pp.41‑58。
(9) BSPとは,日本IBMが1970年代末から80年代にかけて提唱した情報システム策定の 手法である。詳細は、土屋守章,藤井 明稿, r前掲吉J,p.42を参照されたい。
端を発した内需の拡大による好景気のため,一時期は2,400人に圧縮された ホワイトカラー要員が元の水準にまで戻ってしまった。同社ではこの原因を 仕事の流れを変えないままに要員削減を行ったために,好景気になって人手 不足に陥ったためだと判断した。すなわち,現行の業務のやり方を前提とし た上での情報システム化では結局効果がないと判明したので,仕事の在り方 を根本的に変える必要性があるが,そのためにはまず徹底的な現状把握が必 要であるとの見解に到達した。
同社で行われた業務分析法は,それぞれの住事には入力があり,それが処 理され,結果が他に伝達される出力の流れを定量的に把握しようとしたもの であった。それはより具体的にいえば,本社の技術を除いたオフィスワーカー 390人に関して,それぞれが行っている仕事を,入力→処理→出力の流れと して描き出すものであり,この調査結果は業務棚卸し表(業務の流れを調べ たもの)九単位業務工数調査表(業務の工数を調べたもの)(IKよって,業務 調査データベースに収められ,これらの表の分析を基に,仕事の性格(機密 性の程度,難易度の差,創造的かルーチンか)を規定し,不要なものは廃止,
集約できるものは集中化,外注できるものは外注化することにより,仕事の 削減を企図したものであった。
同社において1989年3月に行われた調査結果によれば, 390名の業務の種 類は,注文処理といった単位業務数でカウントすると2,761種類あり,これ は検討,調整というような複数の段階が繋がった一連のプロセスであり,そ の段階レベルまで細分化すると, 23,692種類に及んだ。そして,このレベル の仕事はおおむね10分程度で実行されるものである。
これらの仕事は,外部との接触が必要な作業の割合57%,内部の管理的仕
(
10) 松島克守著, IrIT[情報技術]とリエンジニアリング.],日本能率協会マネジメントセン ター, 1994年, p.156o
(ll)松島克守著, Ir前掲書.], p.156。
事12%,内部向けの仕事30%であり,それらの業務の性格を見れば,雑務的 作業12%,機械的作業27%で,両者を合わせると39%である。さらに,業務 の機密度の割合を見ると,課外秘・部外秘の割合は少なく,反対に機密性の 低いものが90%であった。
同社の調査結果を見れば,本社のホワイトカラーの仕事は内部向け,雑務 的ないしは機械的で機密性が低いものがほとんどを占めており,これらの仕 事はホワイトカラーの生産性を高めるという意味で,廃止するか外注化し,
残されたものを自動化することが望ましいものである。
以上のような調査結果から同社では,業務革新のポイントとして次のよう な3つのことを選択するに及んだ。
第一点目は,不要な住事は廃止するということである。同社における業務 調査ではあらかじめ個々の業務の不要度を質問しており,調査における不要 度lとは,現状のまま直ちに廃止できるもの,不要度2は上可の了解や意識 改革があれば廃止することができるもの,不要度3は社内の住組みや運営方 法を変更すれば廃止できるもので,この3つを廃止すれば業務の削減の余地 は全体の14%(55人)に達すると見込まれた。
第二点目は,複数の部門での同種業務を集中化することである。契約業務 処理などをーヵ所に集中化させ,コンビュータ処理することで, 12% (46人) の業務の削減が可能であることがデータから裏付けられた。
第三点目は,アンケート項目における作業性格,作業難易度,機密性の3 つにおいていずれも低レベルにある業務なら,作業の標準化により外注化や システムによる自動化が可能であるということである。これらのことを実行 すれば, 18% (71人)の業務の削減が見込まれた。
同社では以上のような結果から,まず販売事務の集中化を目指し,各部門 で個別に行われている類似業務の処理方法を標準化する方向で仕組みを設計 しなおし,標準化された事務をコンビュータで自動的に処理することによっ て, 47人で行っていたものを3人で行えるようにすることで,生産性の大幅
な向上を果たすことに成功した。
さらに同社はホワイトカラーの業務改革を推進するために,単なるワーク
・デザインというレベルに止まるのでなく,仕事の仕組みそのものを全く新 たに設計しなおし,加えてシステムとしての解決策の開発を行うワークシス テム・デザイン室を設置し,システム思考の下で業務改革を行うことを組織
目標にした。
ワークシステム・デザイン室では,仕事の仕組みを新たに設計しなおすに あたり,さきの業務調査における業務棚卸し表のデータベースからすべての 業務の業務処理フローを作成した。本社のホワイトカラーの仕事を単位業務 まで細分化すれば2,761種類のものがあったが,これらの単位業務の8割ま でが l人で最初から最後まで完結させるものではなく,各個人の仕事は流れ の通過点であるので,その通過点と流れを連結させるような合理化策を考え ることにした。そこで,各個人の処理の前後における入力と出力のパターン を調べたところ,入力が紙(帳票,文書,メモ等)で出力も紙,入力が紙で 出力がデータベース,入力がデータベースで出力が紙というようなパターン であれば,紙での入力と出力の書式を標準化することによりシステム化する
という処理過程の自動化を検討することにした。
このような意図から,全業務2,761のうち紙をメディアにしているものを 選び,それぞれの担当部門と協議を行った上で,内部向けの仕事,雑務的な いしは機械的住事,機密度の低い仕事429種類の業務をシステム化の対象に した。これらの業務の特性は,細切れ的で小さい多種少量の業務であるとい うことで,これまでコンビュータによるシステム化の対象にはならなかった ものである。
しかしながら,このような特性の業務を順次システム化することをすれば,
各部門でこれらの業務を担当している者の一部の住事しかシステム化するこ としかできず,他の業務は依然、として存在するので要員の削減を行いにく し、。
そこで同社では,これら 429業務が紙を媒介として複数部門聞を流れる住 事であるから,まず人事の仕事なら人事部門で行うといった従来からの観念 を捨て,機械的・雑務的住事であれば事務センターで他の部門の仕事と一緒 に集中処理する,次にこれらの業務はそれぞれの担当者が柔軟に処理してき た点を考慮し,担当者のニーズに合わせることができ,個人が仕組みを作る ことができる EUD(エンド・ユーザー・デベロッピンクゃ)をシステムにお いて採用する,最後に個人が仕組みを自由に作ることができるとすれば,変 えた住事を担当者以外が見ることができ分かる構造になっているという必要 性,すなわち仕事の流れのブラックボックス化を避けることから,各人が行 った業務処理手順をシステムの中に直ちに登録し誰でも見ることができる
という3つの基本原則を定め,ビジネスLANの構築を行った。
ビジネス LANとは,多くのパソコンを相互に連結する LANをインフラ とし,個々のパソコン上で業務を自動的に処理し,出力を他の部門に伝達し,
さらにサーバーのデータベースに入れる役割を果たす。
このようなビジネス LANは,①伝票システム,②ビジネスルール,①支 援システムの3つの構成要素から成り立つものである。以下,これらの構成 要素について具体的に説明を加えてゆくことにする。
①伝票システム……合理化の対象となった429業務をパソコンに入力する 際の伝票を標準化するとともに,その処理過程も標準化するもの。これら の処理過程は,起票,転記,保管,決済,照会,検証,機密保持,計算,
配信,集信,差戻し,廃棄,並べ替え,削除という15の機能にまとめるこ とができる。
② ビジネスルール……各業務を完成するまでの手順をパターン化したもの で,全部で50パターンである。
③支援システム……ユーザーが LAN上で情報を自由に検索,加工,作表,
作図できることを支援するソフトウエアで,ユーザー自身による業務の開 発,実行が可能で,これによりホスト・コンビュータではシステム化する
ことができなかった細切れ的業務の自動化ができる。
ビジネス LANにおいては, LANに接続されたパソコンの画面上に仕事 のやり方の手順が表示され,その手順に従ってパソコンを操作する(つまり ユーザー・インターフェース技術が活用される)ことにより業務の実行が可 能で,業務における熟練度が低くても指示に従えば業務が遂行できるし,仕 事のブラックボックス化を防ぎ業務を可視化することから,仕事の見なおし の機会が常に与えられるし,改革のアイデアも自然と生まれることになる。
このようなビジネスLANを使用することによる人員削減効果は,どれく らいなものであろうか。例えば,人事,経理,購買の各部門において創造的 な仕事と事務処理的な仕事に従事している人の割合が以下のようなものだと する。
人事部 創造的往事3名 経理部 創造的住事2名 購買部 創造的住事3名
事務処理的仕事4名 事務処理的仕事4名 事務処理的仕事6名
このような状況においてビジネスLANを適用することで人員を5割カッ トすることが可能であるとすると,各部門の事務処理的仕事の従事者はそれ ぞれ 2名 2名, 3名減少することになり,残りの 2名 2名 3名の仕事 を一つの事務センターに集中化すれば,業務分析の部分で述べたように3名 ですべての事務処理が行えるようになる。つまり14名で行っていた仕事が,
わずか 3名で行えるようになり, 11名の人員の削減が可能となる。こうなる と,各部門における事務処理業務はなくなり,各部門では創造的業務に専念 できるようになる。
さらに,ビジネス LANに電子メールや電子会議機能等を組み込む(これ らの点に関しては何等記述がなく,すでにシステムに取り込まれているかも しれないが),企業の中に流れる情報のかなりの部分をパソコンの画面に表 示することができ,真の意味でのペーパレス化を実現することができうるで あろう。当然のことながら,紙という媒介をほとんど使用しなくなるという
ことは,紙というメデ、ィアが移動する時間と手間を大幅に削減するし,上司 への決済の時間や会議に要する時間とコストも極小化され,生産性の向上に 大きく貢献するとともに,近年大きな問題となっている企業内における膨大 な紙の量を削減することになり,大きなコストダウン効果をもたらすことに なる。
加えて,知識共有型データベースを組み込むことにより,アイデア,ノウ ハウなどの一定の書式化が困難な'情報が文書やファイル形式で収容され,複 数のユーザーが自由に参照したり,編集できることになる。例えば,このデー タベースと電子メールを組み合わせると,数人ないしは数十人で特定のプロ ジェクトを担当する場合,アイデアの交換は文書共有型データベース管理ソ フトに登録することで,手の空いている時間に参照し,意見を書き込んだり することが可能であるし,連絡には電子メールを使用すれば,相手の不在や 都合を考慮しなくても済むことにな式このように, LANは本来人間が果 たすべき創造的な仕事にも大きな効果を発揮し,生産性も大きく向上させる であろう。
最後に,見落としてならないのはこのようなシステムによる中間管理職へ の影響である。 LANのようなネットワーク技術は,必然的に組織における 知的なものまでも含む情報の共有化を促進することになるので,職位が情報 量を決めるという従来からの組織の在り方に風穴をあけることになる。そう すると,単なる情報の集積点でしかなかった管理職の存在が極小化し,組織 の中抜き現象が起こり,組織がフラット化される。そうなれば, トップと創 造的業務を実施すべき現場との距離は狭まることになり,内容によっては管 理職の決済よりはトップの決済を直接的に受け,迅速に意志決定することが 可能になるであろうし,調整業務にしても各人がパソコン画面上を通じてか
(12) 日経BP社編.w日経パソコン新語辞典 95年版J1.日経BP出版センター.1994年.pp. 300‑301。
なりの程度まで行うことができるであろう。
さらに,これは個人による情報の提供という前提が付されるが,中間管理 職が組織内で経てきたキャリアに基づく組織運営法のノウハウもある程度ま でデータベースに収容することができるという可能性から,真の意味でクリ エイティヴでない管理職を極小化することも可能なのである。
したがって,ここで述べてきた ITを駆使すれば,一般の事務職より人件 費の高い中間管理職の数を削減することができるし,彼等の存在が少なくな ったとしても, ITの効果から創造的業務に支障が生ずることはあまりない であろうし,残った少数の創造性豊かな管理職にしても, ITを使用するこ とで自己の持つ創造的生産性をさらに高めることで,組織への貢献の度合を ますます大きなものにできるという点で,決してミドルの数が減ることが組 織の衰退をもたらすことにはならないのではなかろうか。
以上,本章ではA社の事例を中心とし,さらに補足的な検討を加えること でITを使用することが,アウトプットに制約があるが故に,インプットた る要員を削減しなければ生産性の向上が望めないホワイトカラーの生産性に ついていかに貢献するかを述べてきた。以下では,本章で、行った検討をまと める意味で,この面でITがもたらすべネフィットを列挙することにする。
① 会計等の基幹業務のシステム化による省人化での生産性向上。
② 人が本来行うべき創造的業務に専念できることとその業務における生産 性の向上。
③ ペーパレス化に伴う生産性の向上とコストダウン。
④ 中間管理職の極小化により意志決定が迅速化される。
① ベテラン職員や管理職の持つ業務ノウハウの継承が容易になる。
⑥ 業務が可視化されることで,継続的な改革が可能になる。
このように, ITは事務職や管理職の数を削減しでも業務には支障をきた さずホワイトカラーの生産性を劇的に向上させるという意味でまさに切り札 的存在であるし,単に生産性の向上というだけではない複数のベネフィット
をもたらすものであり,我が国企業にとって最大の問題点である人件費過多 の体質を改善し,適正な水準での企業の経営活動を可能にするものなのであ る。
N. ITによる生産性向上法における問題点
前章においては,実際の事例及びそれに関する補足的検討から複数の IT による生産性向上法のベネフィットを明らかにしたが, ITさえ導入すれば すぐにベネフィットを享受できるというほど事は単純ではない。つまり,
ITによる生産性向上においてはクリヤーされねばならない問題点が存在し ているのである。以下,これらの点について検討することにする。
第一点目は,すでに本稿のII. で指摘したように,必ず業務の現状分析を 行わなければならないということである。このやり方には,前章における業 務棚卸し表や単位業務工数調査表,プロセス・マップ等の方法が有効であろ う。いずれにしても,業務分析は仕事をインプット→処理→アウトプットと いう一連のプロセスであるというプロセス管理の視点から行うことが重要で あり,この視点に,例えば,供給者や顧客,さらにはその要求条件などの要 素を織り込むことができれば,仕事における質やどのようなミスがあっては ならないかというような検討事項を加えることができるし,これらの検討事 項は後の作業に有用な情報となろう。
また,業務分析や後の作業を担当する特定のチームないしはセクションを 設置し,それらにトップが大きな権限を与えるとともに,このような企業の 改革が自社にとっていかに必要かを浸透させることも重要であろう。本稿で 検討しているような一連の企業変草への手続きには,組織においては総論賛 成各論反対というリアクションを生む可能性が高く,例えば不要な仕事は廃 止するといったような業務の不要度をアンケート調査する場合に適切な情報 を得ることが困難なケースも想定できる。このような事態が生じないように ここで述べたようなトップのコミットメントが必要なのである。
第二点目は,我が国企業の組織構造に関する問題である。例えば,アメリ カ企業の場合は,各部門を上下に結ぶ縦のコミュニケーションは大変強いも のであるが,横のコミュニケーションが弱いが故に,部門聞を流れる業務プ ロセスにおける効率性が悪く,時間的にもコスト的にも問題があった。この ようなケースであれば, ITによりコミュニケーション機能を強化すれば問 題は比較的容易に解決できうる。しかし我が国の場合は一人一人の業務や 権限・責任が不明確であり,このままでは,組織簡素化による迅速な業務の 遂行と意志決定を行うことは困難であるので,機能の分離という観点から,
個人の業務,権限・責任が明確化された組織へと構造を変えてゆかなければ,
ITによるベネフィットを生かすことが難しいのである。
第三点目は, ITシステムを導入し,運営するには膨大なコストが必要と なるということと,システムを構成するハードの管理体制をどうするのかと いう問題である。
まずコストに関する問題であるが,本稿ではデータベース,ネットワーク 及びユーザー・インターフェースという ITを検討してきたのであるが,こ れらを企業に導入し運営するのに把握しておかなければならないコス伐は
どのようなものがあるのであろうか。
データベースに関するコストには,システム開発のコストやデータ・メン テナンスのコストが該当するであろう。データベースの場合は,システム 開発に関わる直接的なコストのみが把握されるきらいが強いが,データは日 々更新されなければ意味が無く,システムは信頼性を失うことになるので,
データのメンテナンス・コストもシステム開発の当初から把渥しておく必要 がある。
ネットワークに関するコストには,システム開発のコスト,ネットワーク 制 平 田 周著, ~リエンジニアリング vs リストラクチャリング~,日刊工業新聞社, 1994
年, p.l05。
(l~ 末松千尋著, ~前掲書~, pp.155‑173o
を稼動させるのに必要なコストがある。ネットワークを稼動させるために必 要なコストとは,換言すれば,ネットワークを普及ないしは浸透させるため のもので,具体的には合意形成,新たな業務形態やネットワークの使用法の 教育等のコストである。例えば,電子メールの導入では,情報送信法が規定 されている必要があり,キーボード使用に関する反発やそれに対する合意形 成のコストや教育コストが把握されねばならない。
ユーザー・インターフェースに関するコストには,システム開発のコスト,
システムの操作に関するコストなどが該当するであろう。システムの操作に 関するコストとは,どの程度の操作マニュアルを作成・配布するか,ユーザー 教育・支援体制をどう整備するかなどといった問題に関連するものである。
さらに考慮すべきものとしては,システムを構成するハードのリース料,
ないしは購入価格及びそれに付随して発生する償却費,加えてハードに関す るメンテナンス・コスト等であろう。すでに列挙したコストにこれらのもの を加えれば, ITシステムの導入・運営コストは莫大なものになる。
コストが膨大なものになるという点に加えて,恐らく増加の一途をたどる であろう情報機器をどこが管理するのかという問題も当然生じてくることに なる。
このような2つのことを理由として, FM (ファシリティ・マネジメント) が必要になってくるであろう。 FM とは, I快適,かつ機能的なオフィス環 境の維持・向上,オフィスにかかわる資産管理,コスト管理を目的とし,企 業等の基本戦略を踏まえつつ,オフィスにかかわる運営・管理,改善を行う 業務」である。例えば,岡村製作所七、は情報関連機器が増え続け,それらの 管理の一元化,データベースの一元化を行うべく情報システム本部がすでに あらゆる部門のレイアウトの CAD化が進行している現状から,その CAD
(15) 池田毅彦,エリック・タイショロツ共著, w情報技術を活かすオフィス戦略~,ダイヤ モンド社, 1993年, p.59。
(16) 池田毅彦,エリック・タイショロツ共著, w前掲吉~, p.1690
情報と機器に関する属性データをリレーショナルデータベース化し,その2 つを統合化して CAFM(コンビュータ支援ファシリティ・マネジメント) を活用することで,全社の機器に関するファシリティの一元管理を始めた。
このシステムが効果的に使用されれば,従来は様々な担当が必要な管理を自 己流に行っていたことが,一つのデータベースにすることでリース管理,保 守・障害管理,予算管理,新設・移設管理,新規導入計画などいったことを 少数のスタッフで行うことが可能になる。このように, ITによってホワイ
トカラー業務を変革するには, FMに対する考慮も当然なされでなければな らないであろうo
第四点目は,企業のホワイトカラー業務の変革のために ITを活用するこ とは,企業にとってコストアップを招くことになるので, IT化された企業 の姿に応じた適切な人件費管理や労務管理措置を実施しなければ真の意味で の投資効果が得られないということである。まず,このような文脈における 適切な人件費管理とは,一体どのようなものであろうか。
それは,企業にとって真の意味で適正な報酬制度を構築することで人件費 を削減することであろう。事務職に関する報酬制度としては,例えば販売職 と事務職と本人の希望に応じていずれかが選択できうるシステムにしてお き,事務は利益への貢献度が明確に把握できないという点から,給与の総額 を販売職よりも低く設定した上で,月例賃金の中で業績に応じた部分と基本 給の割合でいえば,販売職よりも基本給のウェートを高くすることが該当す るであろう。このようにすれば, IT化以前にいた事務職の総数の中で本当 に必要な数以外の者を営業等の他のセクションへ配置転換することが促進さ れるであろうし,あらかじめ本人の希望で選択させることから,安定を好む 者は事務職に止まり,チャレンジ精神の旺盛な者は販売職を選択することに なるので,結果として人件費の削減と企業の全体的な活性化を期待すること ができるであろう。
以上のような点を加味した事務職についての報酬制度の一つの雛形として
は,つぎのようなものが考えられるであろう。それは,他の職種よりも総額 を低くした形で,年間賃金支払額を月例賃金の年間分に賞与を加えたものに するが,このケースにおいては,月例賃金の中身を検討する必要がある。月 例賃金を構成するものとしては,同一職能であれば同一賃金である職能給,
業務の達成度に応じた業績給,年齢給や勤続給,及び家族手当等を想定でき るが,基本給を構成するのは職能給,年齢給であり,事務職の場合は業績給 の割合が低めに設定される必要があるし,それは改革のアイデアをどれくら い提供したかなどといったプラスの側面を基準としたものになるであろう。
よって,年間の賃金支払額は以下の式で算定されることになるであろう。
年間賃金支払額=月例賃金(職能給+業績給+年齢給+家族手当)x 12+
基本給に応じた賞与額
管理職の場合は,能力水準が一定レベルに到達しているので年齢給は必要 なく,各人の役割の高さや,その達成度である業績に応じた賃金,すなわち 業績給を安定部分たる職能給に加味して支払うべきであろう。ここでいう業 績給とは,各人の役割に応じた賃金支払形態である役割給と,その役割の達 成度合に関連して変動する成績変動部分から構成されることになるう
まず役割給においては,役割が明確化されていなければならない。管理職 の役割は,当然のことながら担当業務の推進がその中心となることはいうま でもないが,部門の総括,部下の掌握,部下の育成も重要な役割であること が把握されておかれなければならない。
次に,役割給の佐組みを検討することにする。役割給は,その職務が有す る責任と権限の広がり,具体的には所属する部下の数や扱う金額などの量的 側面と,役割を遂行するに当たっての困難度,貢献度である役割の質的側面
肋 この部分は,これからの賃金制度のあり方に関する研究会編, w前掲書.lI, pp.l0l‑l02 の記述に筆者の見解を加味したものである。
同 これからの賃金制度のあり方に関する研究会編, w前掲吉.lI, pp.140‑145。