博士論文審査結果の要旨
博士論文審査委員会 主 査 六 車 仁 志
審 査 委 員 濱 崎 啓 太
審 査 委 員 今 林 慎 一 郎
審 査 委 員 松 村 一 成
審 査 委 員 大 貫 等
氏 名 加 瀬 仁 啓
論文題目 プラズマ重合膜/酵素複合体を用いるアンペロメトリックバイオセンサ
〔論文審査の要旨〕
医 療 等 の 分 野 で は 化 学 物 質 の 測 定 を 要 す る が 、 測 定 装 置 に は 大 型 な も の が 多 く 、 設 置 ス ペ ー ス や 価 格 に 課 題 が 多 い 。 よ っ て 大 型 か ら 小 型 ま で 対 応 で き 、 価 格 的 に も 有 利 な バ イ オ セ ン サ に は ニ ー ズ が あ る 。 バ イ オ セ ン サ に お い て 分 子 認 識 素 子 と 信 号 変 換 素 子 を 結 び つ け る 「 イ ン タ フ ェ ー ス の 設 計 」 は 、 バ イ オ セ ン サ の 性 能 を 確 保 す る 上 で 重 要 な ポ イ ン ト と な る 。 本 研 究 の 目 的 と し て 、 プ ラ ズ マ 重 合 膜/酵 素 複 合 体 を イ ン タ フ ェ ー ス に 用 い た ア ン ペ ロ メ ト リ ッ ク バ イ オ セ ン サ の 開 発 を 行 い 、 そ の メ カ ニ ズ ム の 解 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 プ ラ ズ マ 重 合 膜 は 、 そ の サ イ ズ 効 果 を 利 用 す る こ と で 、 妨 害 物 質 の 影 響 を 低 減 で き た 。 ま た 、 そ の 表 面 状 態 に よ っ て 酵 素 と の 接 触 状 態 に 違 い が 生 じ 、 窒 素 プ ラ ズ マ 処 理 し て 正 電 荷 を 持 っ た 親 水 性 表 面 に 改 質 す る と 酵 素 と の 親 和 性 が 良 く 、 膜 表 面 に 高 密 度 に 吸 着 で き る と 考 察 し た 。 酵 素 を プ ラ ズ マ 状 態 中 に さ ら し た 場 合 で も 活 性 が 維 持 さ れ 、 ま た プ ラ ズ マ 重 合 膜/酵 素 複 合 体 を 形 成 す る こ と で 架 橋 試 薬 を 利 用 せ ず 固 定 化 が 可 能 で あ っ た 。 ジ メ チ ル ア ミ ノ メ チ ル フ ェ ロ セ ン を モ ノ マ ー と し て プ ラ ズ マ 重 合 膜/酵 素 複 合 体 を 形 成 す る こ と で 、 メ デ ィ エ ー タ 機 能 を 付 加 し 酸 化 電 位 の 低 電 位 化 を 実 現 し た 。 以 上 よ り 、 プ ラ ズ マ 重 合 膜/酵 素 複 合 体 は ア ン ペ ロ メ ト リ ッ ク バ イ オ セ ン サ の イ ン タ フ ェ ー ス の 構 成 部 と し て 有 用 と 結 論 づ け る 。
論 文
要 旨
2014年 7月 2日
※報告番号 甲 第167号 氏 名 加瀬 仁啓
主論文題名
プラズマ重合膜/酵素複合体を用いるアンペロメトリックバイオセンサ
【研究の背景と目的】
医療・食品など多分野において化学物質の測定が必要不可欠であるが、測定装置のサイズは大き く価格も高価である。この課題に対し、大型から小型まで対応でき、価格的にも有利なバイオセン サ技術にはニーズがある。バイオセンサにおいて分子認識素子と信号変換素子を結びつける「イン タフェースの設計」は、その性能を確保する上で重要なポイントとなる。信号成分を増大しノイズ 成分を低減する機能を有するインタフェース、そして半導体加工技術との融合が容易なインタフェ ースを設計することが、高感度かつ小型で低価格なバイオセンサを実現するための解決策と考えら れる。
本研究では上記の要求に対応するため、「プラズマ重合膜/酵素複合体をインタフェースに用い たアンペロメトリックバイオセンサ」を開発し、そのメカニズムを解析することを目的とした。
【本論文の構成および要旨】
本論文は全5章の構成である。
第1章では本研究の背景・目的および前提条件について記した。
第 2 章では、測定対象物であるグルコースの信号成分(酸化電流)を検出し、かつアスコルビン 酸・アセトアミノフェン・尿酸のノイズ成分(酸化電流)を低減させるため、HMDS プラズマ重合膜 の緻密な膜構造を活かしたサイズ効果による妨害物質の影響低減を検討し評価した。結果として、
5nm未満のHMDSプラズマ重合膜厚の場合に、優れたサイズ効果特性が得られた。
次に、グルコースの信号成分(酸化電流)を効率的に得るため、グルコースオキシダーゼ(GOD)と プラズマ重合膜との親和性向上を試み、HMDS プラズマ重合膜の表面にプラズマ処理を行って表 面改質し、GOD とプラズマ重合膜表面との接触状態・親和性を評価した。この結果、窒素プラズ マ処理によって正電荷を有する親水性表面となったHMDSプラズマ重合膜が、GOD との高い親和 性を示し、膜全体に均一に単分子層を吸着・形成することがわかった。この膜表面に GOD を物理 吸着させたデバイスはグルコース応答評価でも良い感度が得られており、正電荷を有する親水性表 面とGODとの接触をバイオセンサのインタフェース利用することは効果的と考えられる。
第 3 章ではウェットプロセスの工程を減らすため架橋試薬を用いず、GOD を直接プラズマ重合 膜に埋め込み固定して、バイオセンサを作製することを試みた。モノマーには HMDS およびアセ トニトリス(AN)を利用した。原子間力顕微鏡による埋め込み状態の評価、グルコースバイオセン
サとしてのグルコース応答を評価した。その結果、モノマーの差によって、プラズマ重合膜/酵素 複合体の形成状態(埋め込まれ方)に差の生じることがわかった。また、グルコース応答に対するセ ンサ感度にも違いがあり、AN をモノマーに利用したほうが高い感度を得た。しかしモノマーにか かわらずグルコース応答は観測されており、プラズマ状態中に GOD がさらされても酵素活性が維 持され、プラズマ重合膜/酵素複合体を形成することでバイオセンサとして酵素固定されているこ とが確認された。
第4章では、酸化電位の低電位化および溶存酸素の影響低減を目指して、DMAMFをモノマーと したプラズマ重合膜にメディエータ機能を付加する検討を行った。プラズマ重合膜に GOD を共有 結合させたバイオセンサは、0.35V の酸化電位でグルコース応答が得られた。有酸素状態の溶液に 比べて無酸素状態では、若干の電流低下が見られたものの各グルコース濃度に対して明確な電流値 増加が見られ、メディエータの電子伝達系が得られていると考える。更なる電流値の増加を目指し て、プラズマ重合膜/酵素複合体にメディエータ機能を持たせる試みも実施した。その結果、電流 値の大きな上昇が見られた。GOD をプラズマ重合膜中に埋め込むことで、活性中心とフェロセン レドックスサイトが近づき、より効率的な電子伝達が可能になったと考察する。
第5章では結論を記した。プラズマ重合膜のサイズ効果を利用することで、所定の妨害物質の影 響を低減できた。プラズマ重合膜の表面状態によって GOD との接触状態に違いが生じ、窒素プラ ズマ処理によって正電荷を持った親水性表面では、GOD との親和性が良く、膜表面に高密度に吸 着できた。GOD はプラズマ状態中に曝された場合でも酵素活性が維持され、またプラズマ重合膜/
酵素複合体を形成することで架橋試薬を利用せず固定化することが可能であった。DMAMFをモノ マーとしてプラズマ重合膜/酵素複合体を形成することで、メディエータ機能を付加でき、酸化電 位の低電位化を実現した。以上よりプラズマ重合膜/酵素複合体はアンペロメトリックバイオセン サのインタフェースの構成部として有用であり、今後、半導体加工技術との組み合わせを実現して いくことで、測定装置の小型化・低価格化に期待が持てると考える。
※印欄記入不要