高等看護学院における化学教育
竹 友 一 成*
(昭和52年10月31日受理)
C}、emis廿y Educδti◎n at Nurses Tralnlng Sc卜ool
Kazushige TAKETOMO*
(Received for Publicatlon,October31,1977)
1.緒
旧
高等看護学院(以下,高看)は,高等学校(以下,高校)のカリキュラム改正にともな い,昭和51年度から新課程の高校卒業者を受けいれることになった。新しいカリキュラム の特徴は高校の教育に弾力性を幅広くもたせることにある。その帰結として,高看入学生 の学力(化学)に著しい不均質の生ずることが予想された。事実,昭和50年度までの高看 入学生は,殆んどの者が化学Bを有機化学領域は勿論,生物化学領域に至るまで履習して いたが,51年度の高看入学生では,化学を殆んど学習したことのない者から,化学1を経 て化学豆まで完全履習した者まで,千差万別,化学に対する認知(知識・理解など)の差 が甚だ著明に表われている1)。
然るに,高看は多くの場合1学年1学級の構成となっていることなどから,総合大学と 異なり,教授内容の質的レベルを学生の質に即応せしめることは,個別学習的な教授・学 習法をとらない限り難しくなっている。しかし,個別学習形態をとるとしても,看護婦国家 試験のことを踏えれば,教授内容の質的レベルの変動には限界がある。最近,rおちこぼ れ」が義務教育などで問題となっているが,同様のことは,学年制をとっている高看にお いても,程度の差こそあれ,起こりかねないことである。斯くて,高看入学生の化学に対 する認知格差に対処するための有効な教授・学習法の開発を,はからずも,模索,研究す る必要が生じてきた。
教科教育の目標は,BloomB.S.の認知領域(CognitiveDomain),つまり知識
(Klnowledge),理解(Understanding),応用(ApPlication)…のみに限られるべきでは ない。特に,高看の如く,将来,弱さをもった人間を対象とする看護という職業に従事す る者を養成する機関では,このことを指摘し得るであろう。高看の教科教育では,認知領 域のみならず情意領域(Affective Domain)や精神運動領域(Psychomotor Domain)
一これは定かでないが一などについても,教科教育の目標を達成するためには勿論の
*長崎大学教育学部化学教室(長崎市文教町)
Chemical Laboratory,Faculty of Education,Nagasaki Univ。(Bunkyo,Nagasaki,
Japan)
こと,看護教育の一部を担うものであることから,教科の教授過程の必要な(または任意 の)位置に,そのr場合の設定」が行なわれてしかるべきである。
前述の如く,高看入学生の化学に対する認知格差は甚だ大きい。したがって,高看にお ける化学教育は,まず1この認知格差を解消し,その認知レベルを専門科目受講に耐え得 る水準まで,ひき上げることができるように,教授・学習の計画が行なわれなければなら ない。そして,その計画のなかに,上述のr場合の設定」の作業をもちこむことによっ て,高看における化学教育の目標達成を期せばよいであろう。
一方,筆者は,NIGHTシステム実験授業において,認知レベルを異にする離島・僻地 学級と都市学級で,事後テスト得点が望ましいレベル・アップのもとに同一水準化するこ
とを見出している2)。
そこで,高看の化学教育に:NIGHTシステムの教授・学習方式の適用を試み,有機化 学領域を主とする24時間分の学習プログラムを作成した。そして,これに基づく実験授業 を中都市のA学院と小都市のB学院で実施した。
本稿では,この実験授業から得られた学習データの分析結果を中間報告するとともに,
看護・診療システムのあり方,並びにこのシステムに立脚した看護教育(化学教育を含 む)などについて論述する。
2.看護・診療システム
我国の実践看護および看護指導は,高看卒業生によって,その殆んどが支えられてい る。高看の教育制度を論ずることなくして,看護・診療システムを的確にみつめることは できない。
高看は高校卒業後3年間の看護学に関する基礎・専門教育を受け,国家試験の受験資格 を取得する学校のことである。高看という教育制度は,戦後,保健婦,助産婦,看護婦の 資質を欧米先進国におけるそれらと比較することから,我国看護婦の質的向上を期して制 度化されたものである。まず,GHQ指導のもとに看護制度委員会が組織され,幾多の 紆余曲折を経て,保健婦助産婦看護婦法(昭和23年7月30日,法律第203号,以下,法)が 制定された。高看は,現在,この法に則り開校されている(法21条)が,実際の開設は昭 和22年9月で,17校が国立病院附属高看として発足している。
法は制定後10回にわたり改正されているが,この法のもつ理念としての看護の思想は,
○
/ \
第1図新しい思想の関係
(金子3》による)
金子3)によれば,
① 看護をその原語Nursingがもつrまも り育てる」ということにおき,r病人の看り」
はそのことを遂行する一つの過程,または一部 である。
② 病人の健康回復のためには,診療および 看護の両者が均衡を保ち協力体勢下に活動しな ければならない。
とするところにある(第1図)。
○
〃¥
第2図 理想的看護・診療 シスァム
戦前の看護婦業務の実態は,医師の補助者で 診療の介補であった。療養上の世話(看護)は 患者の家族あるいは付添婦が行なうのが一般的 であった。然るに,現在の医療は科学の進歩と 疾病構造の複雑化からその技術が高度化し,そ のため専門的能力を有する看護婦(以下,看護 士を含む)以外の人々による看護は不可能とな っている。看護の専門性が云々される第一の原 因がここにある。したがって看護の専門性を確 立せしめ,そして,第2図で示される看護・診 療システムで理想的医療が行なわれる場合にはじめて,国民の医療と保健が確かに保障さ れることになるであろう。
金子3)は,従来の制度では全然考えられていなかった新しい思想(第1図)に基づい て,法が制定されたことを述べている。しかし,法のどの条項からもそれを窺い知ること はできない。法は,確かに,看護を専門職業として認めている(法,第5条)。つまり,
r傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世
れが行なえる,としている(法,第31条)。こ れは,診療のなかに看護が包含されることを
第3図 現実の看護・診療 シスァム
会溜社部療業医事
薬剤師
医師
(リーダー)
家族 臨床検査 技師 エックス 線技師 准看護婦 看護助手 看護 栄養士 チーム
理学療法士 看護婦
作業療法士
第4図 保健医療と看護チーム (横山4)による)
是認するところから生ずるものである(第3 図)。医療のうち,診療領域を医師が,看護領 域を看護婦が分担するものとすれば*1),
法第31条の素直な解釈は,多忙である看護 婦の業務を診療責任者たる医師が好意的に 補完することができる,ということにな る。しかし,これは医療の現状に即した解 釈ではない。法制定時の時代背景からし て,看護・診療の精神が金子3)のいう如 く,確かに第1図で示される思想にあった ものと推定され,それが立法の理念として 基底に存在していたのであろうが,看護・
診療の現実,つまり医療の現実はこれと全 く異なるようである。横内4)も述べている ように,医療のリーダーとして,診療を担 当する医師が存在し,その医師が医療の他の領域部門を統括する形式(第4図)が,現在
*1)この思想こそ第1図や第2図で示される看護・診療システムを考える基本となるものである。
の医療機関のシステムとなっている。斯る考え方は,看護婦を「……又は診療の補助をな すことを業とする女子」と定義(法デ第5条)づけていることから,至極当然なこととさ れている。
診療の補助は,看護の専門性を強調し,有効かつ完壁な医療システムの確立を理想とす る価値体系からすれば,将来,熟練された医師あるいは専門医師として独立することを希 望する医師がこれを担当すべきである。しかし,現在および将来ともに,これが非現実的 で不可能というのであれば,r診療の補助」を職業とする者の養成を,別途考えるべきで はなかろうか。その場合,仮令,看護婦によるr診療の補助」を認めるとしても,それは 飽迄も看護活動(療養上の世話)に,診療の補助活動が有効な作用を及ぼす,との理解の
もとになされるべきである。
看護制度の改善に関する意見要旨(昭39年9月27日)は,看護の概念を論じ,患者と看 護婦の関係が教育的関係(Educational Relationship)にあることを認めておる。そし て,療養上の世話を看護婦固有の業務としているが,この固有の業務も医師の指導を否定
していないのである。この考えは,勿論,法第5条および第31条を基盤とするもので,医 療システムを第3図のように解したことから生じている*2)。療養上の世話が,医師の医 療計画に則って行なわれなければならないことは,看護の主目標が診療と同様疾病の治癒 にあること,および医師の任務(医師法・昭和23年7月3日第1条)の規定からいうまで もない。そして,理想的看護・診療システムにあっても,専門職としての看護の計画・実 践に,診療責任者*2)としての医師の助言,あるいは看護婦・医師間の密なるコミュニケ ーションは必要欠くべからざるものであるが,看護は飽迄も看護婦あるいは看護チームの 主体性をもってなされるべきである。理想的看護・診療システムにあって,看護に医師を 必要とすることがもしあるとすれば,その場合,医師は看護チームの一構成員としてその 専門的知識・技術を提供すればよいであろう。
上に述べた看護の主体性は尊重される方向に進みつつあるものと思われる。例えば,看 護制度の改善に関する報告(昭和48年10,月25日)は看護婦の業務を論じて, r療養上の世 話については看護婦の自主性を尊重する」, 「看護婦は看護業務全体の責任をもち」一…
などの表現を用いるようになっている。看護の専門性が打ちだされているものとみてよい であろう。さらに同報告は,現在各種学校(いわゆる高看)のほうが多く,これを可能な ところまですみやかに学校教育法第1条校へ移行してゆくべきであることも指摘し,かっ 看護研究センターの早期実現を述べるようになっている。
看護の専門性や看護婦の主体性を医療システムにおいて強調するためには,確かな看護 学が体系化され,これに基づく看護教育が行なわれ,そして看護婦の資質を医師と同一の 水準まで向上せしめる,こうしたことを期す必要がある。看護の専門性は,こうして,は じめて確立し実現されることとなる。そして,先に示した理想的看護・診療システム(第 2図)が可能となるものである。このためには,現在の医学部に相当するような看護学部 は勿論のこと大学院レベルの看護教育も前向きに押進められるべきかと考えられる。
以上,論述した理想的な看護・診療システムの確立は,我国において医療ミスが法的に
*2)医師は診療に応ずる義務(医師法,第19条)があり,医師の主たる任務は医療のなかの診療領域 と考えられる。医師の任務については医師法第1条参照。
取りあげられる場合,看護婦が法の矢面てに立たされるケースの多いことを考慮してみて も,きわめて急がれる作業であるということができよう。
3.看護教育
3.1 看護教育の現状
米国においては,戦後,いち早く看護婦養成の教育を大学で行なうことが提唱され実現 することとなった。我国においても,昭和38年には,疾病構造の複雑化および医療技術の 画期的な向上などから,大学教育の必要性が指摘されていた*3)。こうしたことを背景と
して,看護大学,看護短期大学が発足することとなり昭和51年9月1日現在,その数43施 設におよび,弘前大学,千葉大学,徳島大学,熊本大学なども大学教育としてこれを行な うようになった。大学教官による看護研究も次第に活発化し,千葉大学・薄井担子教授に よるr科学的看護論」も表われるようになった。
大学の他,看護教育を行なっている機関としては,看護婦学校・養成所(3年課程もし は2年課程),準看護婦学校・養成所,および高等学校衛生看護科などがある(第1表)。
第1表 看護養成施設数および学生総定員数
施設数 学生総定員数 備 考 看護大学・短期大学
看護婦学校・養成所(3年課程)
看護婦学校・養成所(2年課程)
高等学校専攻科 準看護婦学校・養成所 高等学校衛生看護科
43 308 384 20 612 133
6,310 38,685 36,919 1,620 53,209 21,288
S.51年9月1目
S.51年9月1日(定時制2)
S.51年9月1日(定時制多数)
S.51年9月1日 S.51年9月1日
S.51年9月1日(定時制4)
このうち,準看護婦学校・養成所と高等学校衛生看護科とは準看護婦の養成を目的として いる。修業年限3年の看護学校・養成所(保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則・昭和 26年8月10目,第7条,以下指定規則)は,多くの場合,高等看護学院(高看)と称され ているが,高等看護学校あるいは看護学校,または看護専門学校などの名称で呼ばれると ころもある。入学(所)対象となる者は,高校卒業者もしくはこれと同等域上の学力があ ると認められる者(指定規則第7条1項)であるが,入学(所)資格の特例もある(指定 規則第20条)。しかし,現在では入学者の全員が高校卒業者のようである。
今後の臨床看護の中心的存在となる看護婦は,この高看卒業生と推定される。高看は昭 和22年9月に17校開設されて以来,施設数,学生総定員数ともに増加しつづけておる。こ れに対し,昭和26年9月開設の準看婦学校・養成所は,その施設が昭和40年なかばから漸 次減少し,総定員数において減少乃至横ばいの状況である。これは,準看護婦養成の必要
*3)医療制度全般についての改善の基本方策に関する答申(昭和38年3月23日)。看護制度に関する 意見要旨(昭和39年7月29日)
が減少したことに原因があるのではないらしい。教育爆発といわれる最近の高校進学率の 著しい増加が,準看護婦養成の教育を高校に導入せしめる原因を作りだし,これが昭和39 年4月に開設された高校衛生看護科の,その後の数的増加となってあらわれている(第1
表)。
3.2 看護教育の将来展望
疾病構造の複雑化などから前項2で論述した如く,看護の専門性を重視する理想的な看 護・診療システムの確立が望まれる。このためには,看護制度の改善に関する報告(昭和 48年10月25日)にもみられるように,看護大学,看護大学院の新増設,拡充が急務であ る。現今では看護大学自体が数量的に不足しておる。臨床看護婦の再教育も必要である。
大学院においては,看護業務の内容についての研究は勿論,看護学の研究・教授が行なわ れ,精神,母性,小児,成人などの看護領域のほか,I CU,C CU,人工透析,その他 の特殊分野の看護の専門性をマスターした専門看護婦や看護管理者,および看護学研究者 の養成がはかられることになろう。そして,これら専門看護婦や看護管理者は,看護チー ムのリーダーとなり,診療の責任者たる医師とのコミニュケーションにあたることによっ て,医療の万全を期すことになる。
我国では国立看護研究センターが,米国ではC N S(Clinica1:Nurse Specialist)が話 題となっている。CNSについては,波多野ら5)の紹介が詳しく,また加藤6)も米国にお ける2つの型のSpecialistを取りあげている。米国における看護のSpecialistを簡略に 記せば次のような専門看護婦ということになる。つまり,大学院教育を受け,看護の研 究,実践看護の経験を充分に有する看護婦で,専門的な看護ケアにおけるエキスパートと いうことができる。したがって,これらSpecialistは,主体的に自己の専門分野を研究 することができ,科学的かつ計画的な看護を推進せしめる能力を有するのである。
C N Sのような専門看護婦の出現は,前項2の第2図で示される看護・診療システムで は必要不可欠なことであるが,看護教育は,C N Sレベルをその最終目標とするにとどま らず,ドクター・レベルの看護学研究者の養成をも考えておく必要がある。このことは,
看護学をミニ医学的看護の学問領域から脱却せしめ,看護学を体系化せしめるためにも,
そして看護学の発展,ひいては国民の医療と保健が確かに保障されるためにも,必要なこ.
とであるといわねばならない。
看護教育が,社会の強く要望する学校教育の一つであることは,生命畏敬の念からも当 然である。看護や診療にミスがあってはならない。これは,いうまでもなく看護や診療が 生きた人間を対象とする活動であり,しかもミスの帰結として医療開始前への原状回復が 困難であることが非常に多いからである。
準看護婦の制度は,法の改正時に,看護婦の量的不足を補なうことを主目的としてあら たに設けられたようであるが,以上,論述してきたことからすれば,この制度には疑問を 抱かざるを得ないのである。将来,この制度は廃止される方向で検討されるべきではなか
ろうか。
3.3 看 護 学
看護教育の主目的である看護学についての素朴な発問, r看護学とは何か」に対する明 確な回答は得られない現状がある。看護は云々されていても,看護学の定義というような
ものを特にみることはできない。
看護教育の目標や看護学の目的などについては,例えば, r看護婦養成所の運営に関す る指導要領等について」 (昭和45年6月2日,医発629,改正昭和49年4月ll日医発405)
という厚生省医務局長から各都道府県知事宛の通達(以下,指導要領)にその記載がみら れる。指導要領第5の3は次のように述べている。
①看護教育は,看護に関する専門知識技術の基礎的事項を理解させるとともに,その応用能力を養 い,あわせて看護婦として必要な入間形成につとめることを目標とするものであること。
② 看護学は,看護の対象としての人間像を理解し,看護を行うために必要な知識及び技術について その理解を修得させるとともに,実習を通じてこれを実地に体験させ,応用能力を与えることを目 的とするものである。
これらは看護学そのものを定義したものではないが,教育上の看護学のあり方を漢然と ながらも握むことができる。一方,上記の②と関連することであるが,現在の看護学の姿 を概念として捉えるのに都合のよいr表」がある。看護学の内訳(指定規則,別表3の 2)がそれである。看護学の内訳は,例えば,成人看護学はr内科疾患と看護」,「整形 外科疾患と看護」などの形式で表示されており,医学的臭いが強い。つまり,この表のい う看護学はミニ医学に近いものと推定できるのである。しかも,こうしたものが現在の看 護学と考えられていることは,多くの看護研究からもよみとることができる。つまり,看 護研究には,医学あるいは医学解説的なものが多く見受けられ,特に,医師の執筆,ある いは医師と看護婦との共同執筆によるものにこの傾向が強い。いわゆる臨床医学上の症例 報告的なものとなっており,付帯的に,看護プランや○○疾患の看護における注意など を,医学的事項を真ッ正面に取りあげながら論述している。一方,看護婦のみの執筆によ ると思われるものでは7)〜10),症例報告的医学記述は減少し,身体的直接援助,介助,精 神的配慮,指導,観察,相談・調整などの記述が多くなる傾向がある。それらには, 「ヒ
ト」と「人間」を対比してみるとか,看護の科学や看護の個別化,看護記録や看護の評 価,患者の生活・心理情報,看護場面の再構成なども取りあげられるようになっている。
これらの報告のなかに,看護学を定義づけ,体系化せしめるための必要な事項が潜在して いるように感じられるのである。
医学が看護学の重要な基礎科学であること は,医学知識なくして臨床看護の不可能なこと
からも論をまたない。しかし医学,即看護学で 看護学 医学 看護学
医 学
ないことも確かである。これまで論述してきた ように,看護の専門性を重視すれば,医学と看 護学との関係は,第5図のA−typeであるべ きだが,現状はB−typeもしくはそれに近い ものと考えられる。法第5条の診療の補助や第
A−type B噛type
第5図 医学と看護学
31条の但し書きなどは,B−typeの思想があって,はじめて成文化可能なものである。
これまで看護を語ることはあっても,看護学が論ぜられるようなことは殆んどなかっ た。医学に抱括されるものと考えられていたことによるからであろう。
このように,看護学を定義づけることは難しいが,定義づけの一つの試みとして,ま ず,看護の本質を,看護の哲学的思索から手がけてみよう。
看護の哲学的思索は時代によって様々になされており,Vassiliki11)の報文がこれに触 れている。ビザンチン時代の患者看護の基盤には, 「私が病気の時,あなたがたは見舞っ てくれた」 (マタイ伝25章36節)という教えの言葉があったと考えられるが,看護の本質 は,この教えの言葉のなかにあるとみることができよう。しかし,これを実在主義的な rGlve and Take」と受けとるべきではない。「Give and Take」を超えた領域での人 間の善性に基づく精神活動として,擬受動的な形での「あなたがたは見舞ってくれた」
が,あらわれるべくして表われたものである。r見舞ってくれた」であってr見舞った」
ではない。看護の本質を,この擬受動的な礼(以下,受動的な礼),換言すれば,弱さ
(柔)に見出すことができようか。医学的診療活動は能動的である。換言すれば,強さ
(剛)である。医療は,強さの診療活動と弱さの看護活動が調和をもってなされるとき,
はじめて理想的となり,その完全を期待することができるのである。
看護婦法典(The Code for Nurse)は,看護について, r看護の基本的責任は,健康 の増進,疾病の予防,健康の回復,苦痛の緩和にある」と宣言している。この宣言は,
強さの医学そのものである。そこに,弱さの精神を読みとることは殆んどできない。こう したことが, r今日の社会は,看護がヘルス・サービスにおける非人問化の傾向に対抗す ることを期待している」ということの遠因になるのではなかろうか。
看護は非人間化を最も嫌っている。医学はヒトを対象とすることもあり得るが,看護学 は人間を対象とする「学」であらねばならない。したがって,看護は,ヒトを社会に生活 する人間として捉え,情意,精神,医学の領域などから,これを分析・総合し,かつ評価 しながら,自からが看護される立場にたって,行動・実践することをもって望ましいとす べきである。このような看護活動を可能ならしめるよう,体系化されたr学」を看護学と 解してみたいのである。つまり,看護学は,受動的な礼,弱さに基づく奉仕の理想に支え
られた看護を目標とする人間総合科学である,ということができよう。
4.看護教育における化学の位置および化学教授の基本理念
高看の教育内容は指定規則の別表3の2で定められており,基礎科目と専門科目とに大 別される。化学は基礎科目として教授される。教授時間は30時間である。専門科目の殆ん どの教科が基本的には化学と何らかの意味で関連があると考えられる。特に,生化学(栄 養学を含む,45時間)および薬理学(薬剤学を含む30時間)は,化学と直結しており,化 の知識・素養なくして,その学習の望ましい進展はあり得ない。
最初の指定規則の別表3(昭・24,文・厚令1)は,基礎,専門の区分がなく,教養もし くは看護学基礎科目と推定される科目は,化学(45時間),社会学(15時闇),心理学(30時間)
のみであった。語学,音楽,体育その他の科目はこれを特に別表3の枠外でとりあげてい た。然るに,現在の別表3(昭42,文・厚令1・全改)は,物理学(30時間,以下同),化学
(30),生物学(30),統計学(30),社会学(30),心理学(30),教育学(30),外国語(120),体 育(60)で基礎科目を構成しておる。化学は,当初より15時間減少しているが,これは専 門科目として別途生化学(45時問)が開設されたことによるものと考えられる。このような 高看のカリキュラムの変遷からみても,看護教育においてはたすべき化学教育の役割の意 義は大きいといわねばならない。指定規則が定められた当初から,化学は,看護学などの重 要な基礎科目,あるいは細菌学や薬物学などと同列の専門科目とも看徹されていたのであ る。かくて,現在の別表3に位置する化学は,単なる教養科目に過ぎないと受けとるのは危 険で,生化学や薬理学,あるいは看護学の学習を踏えての基礎科目と理解すべきであろう。
高看の化学教授時間は30時間である。この限定された短時間内に,化学の全領域を高等 教育のレベルにおいて,その教授・学習の計画をたてることは不可能である。重視すべき 領域はどこか。化学の基礎事項のみに限るべきか。基礎事項のみに限定するとした場合,
教材精選の結果,看護教育の全体に不備をもたらす危険はないか。このように,問題点は 極めて多い。したがって,看護教育への社会の期待に充分こたえられるよう,化学の最適 なカリキュラムや化学教授の最適なプログラムを求めて,幾多の模索・研究が積み合ねら れてしかるべきである。
看護学は人間を,生化学や薬理学はヒト(生物)を,それぞれ対象とするr学」である から,化学のなかで,いずれかの領域を重視するとなれば,おのずと有機化学に落着す る。有機化学は,生化学,薬理学へも直結しやすい。しかし,高看の場合,有機化学をそ のまま教授することは,必ずしも好ましいこととは考えられない。極端にいえば,有機化 学とりわけ有機化合物は素材であってよい。この素材に化学の基礎事項(概念)を練り合 わせて教材化し,教授・学習の計画をたてるべきであろう。
ところで,現在の看護学は,主流としてミニ医学的看護の学問領域に留まっているか ら,看護学の基礎として重視される化学に関する教授・学習のための,確かな基本理念は 勿論,その目標および方法などについても未だ満足すべき定かなものはない。上述の考え による教授・学習の計画は,このうちの目標あるいは方法について抽象的にそれらしきこ とを記したにすぎないが,教授・学習の基本理念としては,前項で論述したr看護の本 質」を取りあげることが妥当ではなかろうか。とすれば,化学の教授・学習過程にr看護 の本質」にかかわりのあるr場合の設定」が試みられてよいし,またそれが望ましいこと となる。実践の化学教育において,r場合の設定」を,どのように持ちこむか。このため には,看護学を,受動的な礼,弱さに基づく奉仕の理想に支えられた看護を目標とする人 間総合科学として捉える場合,基礎科目としてその一部を分担する化学は,化学の特異 性,分子を活用すると都合がよいようである。つまり,自然の摂理のもとでは, r分子も
ヒトも変わるところはない」とするとよいであろう。ただし,看護は人間対象であるか ら,これは飽迄も基本理念であって,r場合の設定」に際しては,ヒトに人間としての情 意,精神活動などの肉づけの必要を決して忘れてはならない。
5.高看における化学教育の実践例
ここに報告する実践例は,1976年度に中都市のA高看と小都市のB高看で試みた教授・
学習についてのデータである。
A高看入学者は殆んどが都市部高校の出身者であるが,B高看入学者には離島・類僻地 部高校の出身者も相当数含まれている。高校化学のカリキュラム改正に起因して,高看入 学生の化学の学習歴に幅広いバラツキの生ずることについては既に述べた(1項)が,加 えて,A高看とB高看とでは,入学生の地域差に基づく総合的学力差の存在することも推 定されないではない。斯る化学についての認知格差を,高看での化学履習後の時点におい て,望ましいレベル・アップのもとに解消することができる教授・学習法を如何にして開 発するか,これを模索しての最初の実験授業が,ここに試みられたものである。
5.1 教授・学習の方法
我国における高等教育は一般に教授者による講演(講義)の形式をとることが多い。講 演の形式は教授者の独善的授業となる危惧が大であり,効果的な学習トレーニング,とい う点で疑問もある。しかし,多量の教授内容を限られた短時間内で一応消化し得るメリッ トがある。学生の能力が極めて大きく,かつ均質化されている場合には有効な教授・学習 法ということもできるであろう。
高看の学生は一応入学試験というセレクションを経て入学しているが,既に指摘したよ うに,化学についての認知格差は甚だ大きく,授業としては,可能ならば一斉授業でなく 個別的学習形態をとるべきかとも考えられる。しかし,化学を基礎とする専門科目に引き つぐこと,および看護婦国家試験のことを考慮するならば,化学についての認知を,ある 水準まで高めておくことが必要であり,個別的学習のみをもって良しとされるものでもな
いo
そこで,今回は一斉授業のなかでの可及的な個別化を計画し,学生が主体的に学習トレ ーニングすることができる,つまりマッスル・メモリー12)を獲得することが多少とも可 能であるような一斉授業用の学習プログラムを作成し,これに基づく授業を試みた。
被験学生の学習能力を,事前に,また,常時把握するため,診断的評価(事前テスト)と 形成的評価(教授・学習チェック)を,また,教授・学習の効果を検討するため教授・学 習の終了時に総括的評価(事後テスト)をそれぞれ実施した。さらに,応用,分析,総合 などの能力をも加昧して評価するテスト(評価テスト)を,予め告知した後,期末テスト 時期に行なった(第6図)。
事前 教授・学習 事後 評価
テスト (チェックを含む) テスト
量 テスト
一
アンケート
(1時問)26問
67チェック 26 問 (24時聞) (1時問)
第6図 高等看護学院化学授業の全体像
(1時間)30問
教授・学習チェックは学習プログラム中67か所に設けた(本稿末尾,資料1参照)。事 前テストと事後テストは同一であり26問をもって構成した(本稿末尾,資料2)。評価テ スト(30問)については,応用,分析,総合の能力評価という点で事前・事後テス、ト問題 と質的に多少の違いはあるが,特に異質的な問題は含まれておらず,また事前・事後テス
ト問題と同一のものも若干数含まているから,その掲載を割愛する。
なお,学生の実体把握のため,別途アンケート(本稿末尾,資料3)調査を行なった。
5.2・学習プログラム
学習プログテムは,NIG亘丁システム方式に準拠し,コミュニケーション・フローチャ ートに纒めた。その一例を本稿末尾に資料1として示す。
プログラムによる学習内容(24時間分)をシラバスの形で示せば次のようである。
(1)電子と原子 ……4時間 電子と電子軌道,電子対,電子のスピン,炭素原子の電子,電子のエネルギー,5電 子,.ρ電子
(2)分子の姿 ……1時間 水素分子と電子,水分子と電子,アンモニア分子と電子,原子価角
(3)化学結合 ……3時間 イォン結合,共有結合,配位結合,水素結合,水の異常性,電気陰性度,分極 (4)混成軌道と分子模型 ……4時問 5ρ3混成軌道とメタン分子,5ゲ混成軌道とエタン分子,5ρ混成軌道とアセチレン分 子
(5)単結合および多重結合の反応性 ……3時間 π電子とσ電子,置換反応,付加反応,共役二重結合,結合の長さと多重結合性,
共鳴,ベンゼンとブタジエンの姿
(6)分子の安定性 …… l時間
シクロアルカンと分子の歪,シクロヘキサンの姿
(7)有機化合物 ……8時間 有機化合物の分類,脂肪族化合物と芳香族化合物,複素環の芳香族性,アルカン,ア ルケン,アルキン,アルコール,エーテル,アルデヒド,ケトン,カルボン酸(オキ シ,アミノ),異性体と命名法,互変異性体,幾可異性体,光学異性体
5.3 教授活動の基本的姿勢
計画された授業は,学習プログラムによる教授・学習であるが,4項で論じたことを充 分踏え,学習事項の一つ一つに生命との関連をできるだけ取りいれるよう意図した(第7 図)。併わせて,ヒトとかサルとかの単なる生命との関連に留まらず,情意や精神活動を 授業の底流に存在せしめるよう努めた。例えば,
①看護婦と医師のコミュニゲーション
同じ炭素原子でも結びつき方の如何によっては,ダイヤモンドにもグラフナイトにも なる。アミノ酸でも同様,その結びつく順序などで,違ったタンパク質ができる。アミ
ノ酸分子1個では,特異的力はな いが,アミノ酸の縮合物ペプチドー では,不思議なカ,つまり抗原性 が認められるようになる。
これからわかるように,看護婦 は,医師など人との結びつき方を・
大切にしなければならない。
② 患者と看護婦
エチレンの裸のπ電子を攻撃す る試薬のように,患者に接近する 方法は患者が最も望む部位(π電 子)に向って,まず自からが親電 子試薬となって近づくとよい。反 発は起こらない。
Z
夢紳
Y
エネルギー概念
第7図
7水素結合
しイ此i lシ夘ヘキサン
オ ハI I
ン有l l 馨li蓉i i
まロ コ ヨ 馨l l 蓼
ll l Iアミノ酸
ロ し ロ
マミ亀曹旧「一鰯一一 1物質概念X
\ 、、、 瞥 置 \ 、 曹
\1\・、、 1 \1 、 1 団 \、」
学習内容のエネルギー・物質・
生命概念の量的相関関係座標*5)
のように,化学結合や反応の機構を人間の結びつき方や接し方などに喩えて,授業全体に アクセントをつけるようにした。
これは,飽迄も基本的姿勢であって,プログラムに斯るr場合の設定」を明記している わけではない。学習の雰囲気から, r場合の設定」が望ましいと判断された場合に,これ を行なうようにした。つまり,プログラム学習としての教授・学習であるが,その構造が 剛構造システム13)に偏よらないようにし,柔構造システムに近づける教授姿勢を保った。
5.4 学習データの採取および集約
データはマークカードで採取し,データ処理はコンピュータ(TOSBAC−40C)で行な い,個人別得点・選択肢状況表,問題別得点・配点状況表,およびS−P表として集約し た14)。ただし,配点比は正答(*),半正答(+),誤答(一),わからない(一)を それぞれ,10,5,0,0としたG
教授・学習チェックおよび各テストには選択肢rわからない」が各項目ごとに設定され ておる。そこで,事前・事後・評価の各テストは,特に,項目反応の正確を期して,自信 反応,不安反応の二種のデータを別々の二枚のマークカードにとった。そして,今回の場 合,一応,テスト得点を自信反応得点と不安反応得点との平均値で表わした。教授・学習 チェックについては,自信反応,不安反応のような反応ごとの学習データはとらず,通常 の方法によった。ただし,正答選択肢を判別できないとき,つまり,わからないときには 選択肢「わからない」を選ぶよう指示した。
5。5 実験対象校A高看とB高看
A高看は中都市にあって,被験学生35名(1クラス)である。学生は1名を除き都市高 校出身者である*6)。この1名も都市近郊の高校卒業生である。入試科目(理科)は化学
*5)純正化学の学習であれば,(X,Y)の平面内における位置のみを考えればよい。4項で論じ たことに基づき(Z)を付設した。
*6)アンケートの第7項目参照(第4表,資料3)。
1,生物1から1科目選択することになっている。化学の教授は,週2時間,15回の計30 時間を4〜9月に行なった。
B高看は小都市にあって,被験学生は49名(1クラス)である。学生は都市高校出身者 34名,離島・類僻地高校出身者15名である*7)。入試科目(理科)は化学1,生物1の2 科目必須である。化学の教授は,週3時間,10回の計30時間を4〜7,月に行なった。
両高看とも,出席率は極めて良好,毎回100彩もしくはそれに近い状態であった。被験 学生は全員女性である。
5.6結果と考察
(1)テストおよび教授・学習チェック得点 A,B両高看のクラス平均得点を第2表に示す。
第2表 A高看およびB高看のクラス平均得点
盲同 看
A 一B
得点差 得点差率%
(B−A) P※1)
4667 〜〜 QGトク トトー ツス エ スス チテ習〃テテ 学前・ 後価 授事教 事評 34.5
63.0 59.5 51,9 60.3
29.2 67.7 58.8 50.7 51.1
一5.3 4.7
−O.7
−1.2
−9.2
(16,6)※2)
7.2
(1.2)
(2.3)
(16.6)
(B−A)・100
※1)P=
壱(B+A)
※2)()はB高看の得点がA高看より下位にあることを示す色
教授・学習開始時の得点(事前テスト)はA高看34。5(点),B高看29.2(点)で,地 域差に基づくと思われる化学についての認知格差が認められた。入試科目として化学1を 必須とすることが必ずしも化学についての認知(この場合,学力)が大である学生を期待 できるとは限らないようである。
形成的評価としての教授・学習チェックでは,両学院に殆んど得点差を認め得なかっ た。教授・学習の前半では,むしろB高看の方が優位にあった。しかし,後半でこれが逆 転する成績であった。このような傾向は,中理・学習プログラムr力のはたらき」による 実験授業において,都市・離島の学級間にも認められておる15)。形成的評価はその基盤 に不確定的要素がはいる教授・学習チェックによっているから,これをもって,特にB高 看をA高看に対し離島的であると断定できないが,そのような傾向のあることは,別途試 みたアンケート調査のデータ(第4表,第5表,資料3)からも否定し得ない。
総括的評価としての教授・学習終了時の事後テスト得点は,A高看51.9(点),B高看
*7)アンケートの第7項目参照(第5表,資料3)
50.7(点)で認知格差が解消していることを示している。事後テストの得点差率も僅か に2.3(%)にすぎなかった(第2表)。
以上の事後テスト得点や教授・学習チェック得点からすれば,一応,当初の目標である
「認知格差の解消」を充分達成し得たと判断してよい。しかし,つづいて実施した評価テ スト*8)は,A高看60.3(点),B高看51.1(点)で,再び格差を認めざるを得ない成績 であった。評価テストの得点差率は16。6(%)で,事前テストの得点差率16.6(%)と同一 であった。評価テストが単なる知識の記憶や理解の範囲に留まらず,応用,分析,総合の 力をも多少評価の対象とすべく,テスト項目がやや難しくなっていたことにより,このよ うな結果を得たものと考えられる。こうした結果の原因と して,他に,①評価テストまで の期間差,②評価テスト前におけるテスト対策のための質的・量的学習差,③高看におけ る学習・生活環境差,④過去の学習歴や生活歴から生じる総合的学習能力差……などを推 察しなければならないであろう。これに加えて,今一つ,以上のような得点上の諸現象 は,あるいはプログラム学習のもつ宿命的な特徴(メリットとデメリット)によるもの,
とも思惑されるのだが,これは正鵠を射たものであろうか。
プログラム学習もしくはプログラム的学習は,どちらかといえば,r場合の設定」が少 なく,仕組まれた教授・学習の過程に沿っての誘導が教授活動として表われやすくなる。
この傾向が強ければ強いほど,原則として学習の過程にいわゆる無駄が少なくなり,少な くとも表面的には能率的あるいは効率的な学習が可能となる。しかし,真に学生をして能 率的な学習にとり組ませるためには,最小限,ストラテージィやタクティクスが充分に練 られており,かつ教授者がそのストラテージィやタクティクスに基づく教授活動に老練し ていることが望まれる。こうしたことが,高看化学のはじめての学習プログラムによる教 授に影響して,事前テストの得点差率と評価テストのそれとが,隅然であるかも知れない が,完全に一致する結果を導くようになったのではないか,との疑問も感じられるのであ
る。
いずれにしても,評価テストの得点差率と事前テストのそれとが同一であることは,充 分意識しておかねばならない問題点で,この得点差率の同一化の傾向を,望ましい方向で 解消する手立を考えなければならない。しかし,とにかく事前テスト得点で認知格差が認 められるに拘わらず,それが事後テストで認められなくなったことは,一応,評価されて よいものと思われる。
(2)望ましい教授・学習との比較
前報2)において筆者は速論度的モデルによる教育反応の研究から,事前テストと事後テ ストの望ましい得点について論じた。そして,事前テスト得点をべ一スとして,望ましい 授業における事後テストの得点期待値を求めた。事後テストの得点期待値をヲ,事前テス
トの得点を¢とすれば,評価を100点満点とする場合,
ヲー針0.3679(100一諾) ……(1)
で表わされる。
*8)A高看の評価テストは教授・学習の終了時から約1週間後に,またB高看のそれは教授・学習の 終了時から約2か月後(夏休暇あけ)に行なった。評価テストは期末試験として行なわれ,あらか じめテスト時期およびテスト範囲などが,事後テスト終了後に告知されていた。
A,B両高看とも,実際の事後テスト得点
第3表 A,B両高看の事後テスト
(ッ)は,フより小さく(第3表),教授・学
得点期待値と事後テスト得点 習の設計に,ストラテージィ,タクティクスの
面で工夫を要するように思われる。テスト項目 A高看 B高看 も亦,検討されねばならないであろう。 ヌ 58.6 55.3 (1)式を理論的に求める大前提に,生徒を ッ 51.g 50.7
r学習意欲性を有するヒト生体」とする定義,
およびヒト生体を秀手的に取りあつかう,とい ツ:事後テスト得点期待値 ッ:得られた事後テスト得点う仮定がある。前者はともかくとして,後者に
は,かなり無理のあることが推測される。しかしこれを敢えて行なったのは,次の理由に よるものであった。つまり,ヒト生体と反応する教育情報を,速度論モデルにしたがって 分子的に取扱う場合に得られる理論値が,一般的実験授業から得られる実測値と,どの程
り の の
度のrズレ」を示すか,こ.れを知るために,また一方,教育反応の方向や反応速度を純理 論的に予測することができれば,という希望から,これ曜を行なったものである2)・16)。し かるに,中理・学習プログラムrカのはたらき」による実験授業のデータと理論値とは,
よく一致する成績であった2)。この成績から,上述の如く,仮令,無理があるとしても,
それは,理論あるいは理論値に多少の手なおし,肉づけを行なうことによって補完され得 る程度のものと推定された。
さて,理論値の手なおし,肉づけであるが,これは,まず,生徒をヒト生体とみるので なく,相互に共助・競合しながら社会生活をいとなむ人間とする方が実際的であり,かつ 妥当でもある。つまり,生徒をr学習意欲性を有する人間」とすることの方が,実際的で ある。このように生徒を定義づけた場合,どの程度の手なおし,肉づけを行なう必要があ ろうか。これを明らかにすることは極めて難しい。授業担当者が授業の実際の場から得た 感触による以外には,現在のところ,よりよい手だてを見出し得ないであろう。
そこで,この高看化学・学習プログラムに基づく教授・学習において,感触として得た ところを記せば,学習内容の質的レベルが,一部で高きに過ぎる嫌いがあった。また,量 的過密も気になるところであった。いうまでもなく,教授・学習の設計にあたっては,学 習者の主体的学習が可能であるよう,プログラムにr時間的ゆとり」のあることが望まれ
る。しかし,化学の学習を生化学などへ効果的に繋ぐため,学習内容の質・量において,
やや無理を行なったものである。こうしたことが,一つには事前テストの低得点(第2 表)および未吸収教育情報量のやや低い吸収率*9)(A高看25.56彩,B高看30.37彩)とな
って表われたものと思惟される。ロング・ランの教授・学習であったことも亦,その原因 となっているかも知れない。
(3)アンケート調査
アンケートは26項目からなる(本稿末尾,資料3)。今回は,化学の学習に影響を及ぽす
*9)生徒をr学習意欲性を有するヒト生体」とする場合,望ましい授業の指標の一つは,この吸収 率が36.78彩となることである2)。
事後テスト得点一事前テスト得点
吸収率・= 100_事前テスト得点 ×IOO(%)
と推定される事項について,A高看学生とB高看学生の回答状況を数量化し,それを事前 テスト得点と比較した。各項目の選択肢を,化学の学習に影響を及ぼす程度(推定)によ り,これを一義的に5段階に区分して,4,互,皿,2,互とした。ただし,4は化学の 第4表アンケート項目による推定学力(化学)の数量化
(A高看)
選択肢選択学生数 E
O.O
D
O.O
C
O.O β
5.O
A
lO.O M.C.ポイント ポイント
合計配分
項目
12011010606009881
つ﹂ 3 3 ﹁⊥12O1807100QOOOOOOOO
l ﹁⊥459891563
1112233 2000000000
わ ※50727515000007485︶8178751031 11 10 21 31 ︵
02061000010000400
12
60∩V∩VO︵UOO∩V
招O1170041050660000ン8000000001 11 333 3 33 20 ︵
41.7 5.6
30.6 55.6 29.2 83.3 94.4 86.1 0.0
98.6 0.O lOO.O lOO.0 0.0 5.6 0.0
(0.O)※2)55.6 30.6
0.0 0.O O.0 0.O O。0 0.0 0.O O.0
OOOO5000050000000
52100041 5 66 2 0! 121333 3 33 2︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶
O1234567890123456
0000000∩︾001111111︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵:No.l
No.2 No.3
:No.4
No.5 No.6 No.7 No.8 No.9
No.IO No.11 No.12 No.13 No.14 No.15 No.16
No。17※1)
110
0 0 0 0 0 0 0 0
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
(23)
(24)
(25)
No.18 No.19 No。20 No.21 No.22 No.23 No.24 No.25
:No.26
374 206 37
50
816.7 2δ9
(761,1)※2)
2940 計
合
A高看のみに回答可能な項目。
だからB高看と比較検討するためには( )内数値を用いる。
︶︶12
学習に与える正の影響が最も大きく,互はこれに次ぎ£,,2と順次小さくなるものとす る。互は化学の学習能力とは無関係と考えられるものである。無答も互として分類した。
第5表アンケート項目による推定学力(化学)の数量化 (B高看)
選択肢選択学生数
互α
D一5︒ 一
⊆0互3
A
10.
M.C.ポイント ポイント
合計配分
項目
物 ※09000205909006704︶434006440 4 14 4 33449 234224 3 4 ︵
10053400010000000
211400000000
難照10045052010003194︶3︵0599355932 112 1 02212241 ︵
50061005020000100
﹁⊥ ﹁⊥つQ l400000000
1 18.4 2
0.0 0
−2.0 9 29。6 14 18.4 0 63.3 33 69.4 34
19.4 7 0,0 0
92.9 45 0.O O lOO.0 49 100.0 49 0.0 0
U.2 0
0.O O 2.2 1※3)
(0.O)※2)(O)※2)
18.4 4 0.O O O.0 0 0,0 0 0.O O O.O O O.O O O.0 0 0.0 0 No.1 (OO) 90
No.2 (Ol) O No.3 (02) 一10 No.4 (03) 145 No.5 (04) 90 No.6 (05) 310 No.7 (06) 340 No.8 (07) 95 No.9 (08) O No.10 (09) 455
No.11 (10) O
No.12 (ll) 490 No.13 (12) 490 No.14 (13) O No.15 (14) 55 No.16 (15) O
No.17※1) (16) 10
00000000ハ∪
9
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
(23)
(24)
(25)
No.18 No.19 No.20
:No.21
No.22 No.23 No.24 No.25 No。26
546 329 58
94
540.8 247
(538.8)※2)
合計 2650
※1)A高看のみに回答可能な項目。
※2)だからA高看と比較するためには( )内数値を用いる。
※3)学生の回答ミス。