可変なパラメータの
計量モデルのコントロール
細内勇
1.序
目標変数と政策手段との間の関係を数量的に分析する一つの方法として,
連立方程式モデルによる政策シミュレーションがある。政策シミュレーショ ンでは,先ず外生的な政策手段の値を変化させ,そしてモデルを通して目標 変数がいくらの値をとるかをみていく。従って,望ましい目標値を達成する ために必要な政策変数の値を兄いだすためには,多くのシミュレーションに ょる試行錯誤が行われる。一方,目標値を達成するために必要な政策手段の 値を計算するために,コントロール理論を計量モデルに応用することができ る。モデルが線形で,評価(損失)関数が二次式で与えられており,パラメー タの不確実性を考慮しないコントロール問題では,政策手段の数が目標変数 の数に等しいか或いはより大きい場合には,目標値に正しく到達する政策手
1)
段の値を求めることができる。非線形なシステムの場合には,モデルを線形 化して計算すると,線形化したモデルにおいて目標値に正しく到達する政策 手段の値を得ることができる。
いま,内生変数及び目標変数をnxlベクトルyt,t‑i,〜,T,政策手 段をmxlベクトルxt,t‑l,〜,T,その他の外生変数をlxlベクトルzt・
f‑l,・‑.T,とする。このとき,政策シミュレーションは次の方程式体系 を解くことになり,
yt‑f(yt,yト1,Xt,Zt)
1) Chow(1975) p. 167
この場合の,内生変数Yt,政策手段Xt,その他の外生変数Ztの聞の関係は 次の図のようになる。
Z1 Z2 Z3 Z4
Yo・・・・・歩Y1、・・・・・歩 Y2 ・・・・・~Y3・・・・・診Y4・・・・・券
,恥
X1 X2 X3 X4
一方,フィードパックコントロールによるとシミュレーションは次の方程式 体系を解くことになり,
Yt = f (Yt, Yt‑い Xt,Zt) Xt = GtYt一1+gt
この場合の,内生変数Yt,政策手段Xt,その他の外生変数Ztの聞の関係は次 の図のようになる。
Z1 Z2 Z3 Z4
h︐
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第2節では,元の非線形なモデルを線形化し,パラメータはカルマンフィ ルターでもって updateした可変なパラメータをもっモデルのコントロール 問題を考察する。第 3節では,第 2節で考察したコントロールの方法を,長 崎県の小規模な非線形マクロモデルに応用する。
2.可変なパラメータのモデルのコントロール
いま,システムが線形で,評価(損失)関数が二次式で与えられるコント ロール問題を考える。 Ytはη x1状態ベクトル,Xtはm x 1政策手段ベク トル,Ztは1x 1 (政策手段以外の)外生変数ベクトル,At, Bt, Ctは未知 のパラメータ ,Utは撹乱項ベクトルとする。問題は,線形な方程式システム
Yt = AtYt‑1 +BtXt+CtZt+Ut
を条件として,評価(損失)関数の期待値
E 1トt‑Yt) 川 ,‑j),1
を最小にするような実行可能な政策手段の値をみいだすことである。 1.‑'‑ー
可 変 な パ ラ メ ー タ の 計 量 モ デ . ル の コ ン ト ロ ー ル 19
で,Ytは目標値 Wtは目標値に対するウエイトを示すnx n行列 ,ot は割 引率である。
この問題は,例えばダイナミック・プログラミングによって解くことがで きる。
この場合の解は次の式によって与えられる。
(1) Xt = GtYt一1+gt
(Z) Gt = ‑(Bt Kt Bt)一1BtKtAt
(3) Kt‑1 = Wtー 1+At KtAt+Gt Bt KtAt (4) KT = WT
(5) gt = ‑(Bt Kt Bt)一 1 (Bt Kt Ct Zt+ Bt kt) t= 1 ・・・T (6) kt‑1 = ‑Wtー 1Yt‑1 +gt Bt KtAt+At Kt CtZt+At kt t= 1 """T (7) kT=‑WTYT
t= 1 """T t= 1 """T t= 1 """T
線形なシステムは,スタック作用素Sを用いて次のように書き表わすこと ができる。
(8) Yt = AtYtー 1+BtXt+CtZt+Ut (9) =Dt Wt+Ut
(10) = (ωt'0ι) dt+Ut
(ll) = ι(①Wt ) dt+Ut
ここで,
﹁EBilli‑‑llEtB'11111J︐
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AU︐A訓J
(14) dt' = (all' aZ1"" "anい a1Z"""ann,bll, b1C"bnm, Cll, CZ1…Cne) (15) dt' = (all' a1Z・・"a1 n, bll"""b 1 m, Cll"""C 1 e"" "an 1 "" "ann・""Cn1 …Cne
可変なパラメータ dtに対しては次の(16)式及び(1カ式で与えられるシステムを
2) Chow(l97S) pp" 176‑180を参照されたL。、
仮定する。
(16) dt = dtー 1+et の'"'‑'(0, Vt) do '"'‑' (do, 00)
付 加 =CIn0Wt ‑) dt+Ut Ut '"'‑' (0, 1:t)
そして,各方程式間にわたるパラメータ及び撹乱項の共分散の項がゼロであ ると仮定すると,各方程式に関する次のカルマン・フィルターアルゴリズム を得る。
同 d:= d:一1+k: (Y:‑Wt ‑d:̲ 1 )
(叫 k:= P/ Wt (卸t'P! Wt+σD一 1 0ゆ 0:= P/‑k: Wt ‑P/
。)1P/ = 0:‑1 + V:
ここで ,d: = α(i 1 ,…ain, bil'…bim,…, Ci 1, Cie)である。
i= 1 ...n
従って, (1時 似)式でもって推定した可変なパラメータを用いて, (1 )'"'‑'(7)式の コントロールアルゴリズムを解くことによって,パラメータが可変な場合の
コントロール問題を解くことができる。
非線形なモデルに対しては,近似的に Chow(1981)の方法によってモデ ルを線形化した後に上述の方式で、もって計算を行うことができる。
いま,非線形なモデルが
同 Yt =ゆ(yt,Ytーい Xt,Zt) t= 1 ...T でもって与えられるとする。このとき,例式を (yP, Y P̲ l' X tO, Z P )の回り でテイラー展開して,二次以上の項を省略すると次の式を得る。
同 Yt= Yp +B1 t(Yt‑YP)十B2t旬tー 1‑Y?‑I) +B3t(Xt‑XtO)+B4t(Zt‑ZP) Blt = (宏設)
3 )詳しくは, Hosouchi(1983)を参照されたい。
4) Chow(198I) pp. 34‑36及びpp.57‑63を,参照されたい。
可変なノミラメータの計量モテールのコントロール
B?f =出」 些叫
¥dYt‑1 . OYt‑rJ B3t = (す,設)
B4t = (宏安)
ここで, itiは数値的に次の式によって計算される。
aYit
勉 一 江 二Yii aYit 2のi
Yj =ゆ'j(y 1t…Yit+ dYi…Ynt, Yt‑い Xt,Zt) Yii =ゆ'j(y 1t…Yit‑dYi…Y仙 Yt‑ぃ Xt,Zt)
め'i= max (1 O.OOlxYit 1, 0.001) 従って,次の線形なシステムを得る。
(24) Yt = At Yt一 1+BtXt+Ctzt+et ここで ,At = (l‑Blt)一 1B2t
Bt = (l‑Blt)ー1B3t Ct = (l‑Blt)一 1B4t
et = ytO ‑AtY?̲l ‑Btx? ‑Ctz?
であり ,etは定数項に対応する。
21
非線形な構造方程式のパラメータの分散共分散行列から線形なシステム例 のパラメータの分散共分散行列を求めるには,近似的にGoldberger,Nagar and Odeh (1961)の補助定理を応用する。いま,構造方程式のパラメータO の漸近的な期待値及び確率的な極限値が hで与えられ,又その漸近的な分 散共分散行列が Vで与えられると仮定する。すなわち,
lim E 0 = P lim 0 = h
n‑+oo nー+ 0。
limE[(O‑h)((}‑h)'] =11;。
n→∞
そして,誘導形のパラメータπが構造方程式のパラメータ0の関数として次 のように表わされるとする
π= /(0)。
このとき,この関数を hの回りでテイラー展開してその二次以上の項を省 略すると,次のパラメータ πの漸近的な分散共分散行列Qを得る。
'aπi‑'
すなわち, π=f(h)+1一│・(O‑h)+…より laめl
o = lim E [(π ‑f(h) (π‑f(h)) . ]
開一令白コ
= Q {Zim E [(0一 川‑h), } . J Q
。6) = Q V Q
ここで, Qはヤコビアン行例であり次によって与えられる。
i= 1 …n(η+m+l)
j= 1…h
いま,方程式聞の分散共分散行列はゼロであると仮定すると ,n(n+m+l) π一A勺ペUZU
n q 一 一
xk行列 Qの代りに,各方程式について ,(n+m+l) X k行列Qi i=, …l, nを用いて,
争力 Oi = Qi VQi
を計算すればよいことになる。
次節の計算では, 0について,方程式間の分散共分散行列はゼロであると 仮定し,例式を用いて計算したが,同時に Vについても,構造方程式聞の
i= ,l ・・ ,・ n
パラメータの分散共分散行列はゼロであると仮定して計算を行った。
3 .長崎県のモデルへの応用
計量モデルを用いたコントロール理論の応用のーっとして,潜在的な経済 成長にとって必要な公的投資水準の決定の問題が考えられる。ここでは,潜 在的な経済成長の代りに,各種の経済成長を想定してそれに必要な公的投資 水準を計算する。すなわち, Appendixに与えられた長崎県のモデルを用い て,長崎県の経済成長にとって必要な公的投資水準がどの位の大きさとなる かを計算する。一般的には,実質経済成長,価格上昇率等を考慮、した,多数
5) Goldberger et. al(I96I)及びChow(1981)pp 40‑41を参照されたい。
6) Chow(1981)第10章
可 変 な パ ラ メ ー タ の 計 量 モ デ ル の コ ン ト ロ ー ル 23
の目標変数と多数の政策手段との聞のコントロール問題として考慮されるべ きであるが,ここでは,モデル及びデータの制約上,一つの目標変数と一つ の政策手段との聞のコントロール問題を考える。元の非線形なモデルは線形 化し,パラメータはカルマンフィルターアルゴリズムによって updateした 後に,フィードパックコントロールを用いて計算し,望ましい政策手段の値 を求めている。
コントロールシミュレーションによって計算された期間は1976年から1984
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表1 目標変数と政策手段の値
A. 2 % B. 3 % C. 4 % 1.目 標 変 数 NGE の 値 21. 6932
22.6738 23.1273 23.5898 24.0616 24.5428 25.0337 25.5344 26.0451
21. 6932 22.6738 23.3540 24.0546 24.7763 25.5195 26.2851 27.0737 27.8859
21. 6932 22.6738 23.5807 24.5240 25.5049 26.5251 27.5861 28.6896 29.8371
(単位 1.000万円) D. 5%
21. 6932 22.6738 23.8075 24.9978 26.2477 27.5601 28.9381 30.3850 31.9043
( 対NGE比)
2.政 策 手 段 GIF の 値 (
対NGE比 対NGE比 対NGE比) (対NGE比) 1976 12.2705(0.105) 2.2705(0.105) 2.2705(0.105) 2.2705(0.105) 2.2705(0.105) 1977 12.5941(0.114) 2.5720(0.113) 2.5720(0.113) 2.5720(0.113) 2.5720(0.113) 1978 13.0808(0.134) 3.1704(0.137) 3.2812(0.141) 3.3920(0.144) 3.5027(0.147) 1979 13.0239(0.130) 3.1816(0.135) 3.4084(0.142) 3.6375(0.148) 3.8687(0.155) 1980 13.6851(0.156) 3.8980(0.162) 4.2407(0.171) 4.5902(0.180) 4.9466(0.189) 1981 13.2874(0.136) 3.4849(0.142) 3.9484(0.155) 4.4258(0.167) 4.9175(0.178) 1982 13.0617(0.123) 3.1299(0.125) 3.7219(0.142) 4.3378(0.157) 4.9782(0.172) 1983 13.2359(0.128) 3.3856(0.133) 4.1153(0.152) 4.8817(0.170) 5.6861{O.187) 1984 12.7282(0.106) 2.8332(0.109) 3.7113(0.133) 4.6422(0.156) 5.6283(0.176)
年の9期間である。目標変数として,実質県民総支出 NGEをとり,目標値 は1978年から対前年度比で各々, 2 %, 3 %, 4 %, 5 %の成長をすると仮 定する。政策手段として,公的総固定資本形成をとる。評価関数の中のウェ イトとしては, NGEに対して1.0を仮定する。目標関数の中の割引率は,年 率で d= / . , t= 1…9と仮定する。この場合には, 目標変数の数
(1. 003) t
と政策手段の数が等しく,行列Bの階数は1であるので,目標値に正しく到 達する政策手段の値を得ることができる。従って,すべてのシミュレーショ ンに対して,評価(損失)関数の値はゼロとなる。
目標変数であるNGEの成長率の値を変化させたときに,政策手段GIFの 表2 衝撃的乗数Bの変化
NNGE NGE CON IRC IFP EXP IMP 1976 I 1.7958 2.0483 0.7659 0.6422 0.2918 0.5302 1.1819 1977 I 1.7963 2.0476 0.7657 0.6424 0.2915 0.5286 1.1819 1978 I 1. 7960 2.0470 0.7661 0.6421 0.2915 0.5275 1. 1821 1979 I 1.7967 2.0471 0.7661 0.6417 0.2914 0.5278 1.1822 1980 I 1.7965 2.0488 0.7661 0.6414 0.2714 0.5278 1.1818 1981 I 1. 7962 2.0487 0.7659 0.6415 0.2914 0.5281 1. 1817 1982 I 1.7957 2.0489 0.7662 0.6414 0.2915 0.5282 1.1815 1983 I 1.7956 2.0490 0.7661 0.6414 0.2914 0.5284 1.1816 1984 I 1.7960 2.0488 0.7661 0.6415 0.2915 0.5283 1.1817
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