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日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題

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(1)

日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題

下 正 喜

目 次 1.序

2.調査対象企業

3.海外現地法人の設立の目的 4.短期経営計画,予算編成

5.日本人スタッフと現地人とのコミュニケーション 6.資金調達

7.余剰資金の運用 8.内部振替価格 9.結 語

1.序

 日本企業が海外に販路拡大などの理由で,現地法人を設立するようになったのはここ三十 年来のことであるが,特に近年では貿易摩擦,円高の問題もあって,現地法人設立が急速に 増えつつある。

 このような状況下において,日本企業のタイ国への進出も盛んであるが,設立された現地 法人において経営管理上様々の問題が生じてきており,企業運営に支障を来たしている場合

も出てきている。

 そこで本稿ではタイ国における日本企業の現地法人において,経営・会計領域においてそ の実態を把握し,これらの領域においてどのような問題が生じ,これをどのように考えたら

よいかについて検討したい。

(主題は管理会計に置いており,経営問題は管理会計の問題を理解するために調査したのであるが,結 果的には会計経理は行われているが,会計情報を積極的に経営管理に利用しようという企業は多くはな かった一予備調査一。そこで本調査では結果的には経営問題の項目が多くなっているが,管理会

計の主要な問題は調査している)。

(2)

2.調査対象企業

 まず平成元年予備調査で10社を選び,本社面接で現地法人の経営・会計領域で問題点を調 査し(10項目),そのうちの3社については現地(タイ国)調査も行った。そこではタイ,マ

レーシア,シンガポールが対象であった。く山下正喜r日本企業の海外進出と経営・会計問題』長 崎大学経済学部「国際化政策研究」調査研究五,平成2年3月)

 次に平成3年10月に,予備調査の上にこれを拡張して本調査を行った。このうち3社(予 備調査分とは別)については現地調査を行った。以下の回答数には予備調査分は含まれてい ない。(財務会計面については,岡田裕正「日本企業のタイ国進出と会計問題に関する調査」『経営と 経済』第72巻第4号に報告されている。)

 タイ国で現地法人を設立している日本企業本社59社に調査依頼をなし,30社から回答を得 た(回答率50.8%)。業種別では電気,輸送機器が半数近くを占め,ほかは少数で多業種にわ たっている。操業開始については調査時点1991年からみて,いちおう軌道にのっているとみ

られる1978年以前が6割以上で,あとは比較的新しい。資本金については,10億円以下が8 割近くで,10億円以上も7社あった。従業員については,500人以下が6割以上,1,000人以 上も3割あった。現地法人はその性格から日本のものに比較して,資本金・従業員において 小・中規模のものが多い。

1.業種別回答企業数       構成比

1.建設 2.食品 3.繊維 4.薬品 5.化学

6.

3社(10。3%)

1 1 2 1

ゴム製品1

(3.4

(3.4

(6.9

(3.4

(3.4

7.金属 8.ガラス 2.

9.機械  1 10.電気機器6 11.輸送機器7 12.百貨店 1   不 明 1

3社(10.3%)

(6.9)

(3.4)

(20.7)

(24.1)

(3.4)

2.操業開始 1978分前

 79年初〜80年末  81  〜82  83  〜84  85  〜86  87  〜88

18社(62.1%)

2 1 1 2 2

(6.9)

(3.4)

(3.4)

(6.9)

(6.9)

(3)

日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題

    89    〜90      2    ( 6.9  )

    91年以降    1 (3.4)

      不明    1

  3.資本金

   30億円以上      1社(3.4%)

   10億円以上30億円未満 6 (20.7 )

   1 , 〃    10  〃      19   (65.5  )

   1億円以下      3 (10.3 )      不明       1

  4.従業員

   1,000人以上      9社(31.0%)

   500人以上1,000人未満 1 (3.4)

   300  〃    500  〃    11   (37.9  )

   100〃 300 〃 8(27.6)

     不明       1

3.海外現地法人の設立の目的(質問1〜2,4〜5)

  1.海外現地法人設立の目的は,次のうちいずれですか。(2つ以上に○印可)

       30社   (1)低労働コスト      11社(36.7%)

  (2)現地市場の販路拡大       21 (70.0 )   (3)第三国向け販路拡大       5 (16.7)

  (4)現地の良いパートナー      8 (26.7)

  (5)相手国の輸入制限ないし輸入禁止 6 (20.0 )   (6)技術指導      5 (16.7)

  (7)その他(      )8 (26.7 )

  2.海外現地法人の従業員数(平均)。

  勤続年数(平均)はどれくらいですか。

  (1)従業員数:(平均)( )名   (2)勤続年数(平均)( )年

(4)

4.海外現地法人の経営者について

(1)日本人 .

(2)現地人   無答

   30社 25社(83.3%)

8 (26.7)

1 (3.3)

5.現地人の教育について

(1)初心者教育

(2) 日本への研修

(3)目今語教育

(4)その他(

    30社  19社(63.3%)

 23   (76.7  )

 4 (13.3)

) 8  (26.7 )

 1.いわゆる海外進出を企てた理由は,(2)現地市場の販路拡大を7割の企業があげている。

これは日本企業が国内需要の他に輸出に重点をおいているためである。経営組織上,まず輸 出部から国際事業部をへて現地法人の設立となり,この現地法人が現地での販売を担当する。

現地法人の方が日本本社に比べて,はるかに現地の有用な情報を得やすい。予備調査で実施 したタイ国におけるA現地法人では,タイ国における販路拡張に努力している最中であり,

そのための要員として大学卒を積極的に採用していたが,さらにインドネネシアへの販売 ルートの開拓を始めたところであり,続いてインドシナ三国の販売も考えており,駐在員を 置くことを計画しているとのことであった。この点日本本社は報告は求めるが,全面的に現 地法人に任せており,また地域情報のより詳細にわたる情報は現地でないと得にくいとのこ

とである。

 現地法人設立の目的として,同時に生産面からの資金コストの安さなどもかなり重視され ている。特にタイ国では,現地法人への出資が50%を越えることを禁止されているから,(3),

(1>と同時に(4)現地の良いパートナーの目的も,別な意味で止むをえないのであり,また販売 面で当地の事情に詳しくないので積極的に現地の事情に詳しい良いパートナーを得る等の理

由によるものである。(6)の技術指導についてB機械メーカーは技術指導のみを行っていた。

(7)その他では,原料確保のためのものが2社,税務上の恩典1社,海外製造拠点1社があっ

た。

 2.質問4との関連で,また他の質問の前提として設問されたものであるが,従業員数に ついては,調査対象企業の4従業員のところでのべた通りであり,勤続年数については現地 法人設立年数が古いものが多い割りには労働移動が激しいことを示している(質問12のとこ

ろでのべる)。

(5)

日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題   勤続年数

1.2年以下 2.3年〜4年 3.5年〜7年 4.8年〜10年 5.10年以上

 無答

3社(13.6%)

4 (18.2)

6 (27.3)

2 (9.1)

7、 (31.8)

8

 4.現地法人の経営者については,ほとんどが日本人であり,(2)現地人のみとしたところ は4社であり,(1)日本人と(2)の現地人と答えた企業が4社あったが,日本人と現地人共同の 経営者の場合もほとんどは経営の実権は日本人が握っている。これを数値に反映させると(1)

日本人が86.2%,(2)現地人が13.8%となる。

 経営者についての現地法人のタイプは調査の結果3つのものがあった。.(1)第1は経営のト ップは日本人であり,日常の業務は日本人経営者が行っているが,重要な業務について年に 2〜3回現地人の役員と日本人の経営者が検討の会議をもつ。現地法人の中ではこのような タイプの企業がもっとも多く,1,000人以下の企業では,日本人の経営者が2〜10名程度でそ んなに多くはない(これは人件費コストの問題子弟の教育問題から,最少限に留めているとのこと)。

先に1であげたA企業などにみられ,日本人が経営を支配し,中堅以下の従業員はすべて現 地人である。(2)第2は現地人が経営者のところである。これは先に7であげた技術指導を現 地法人の目的としているB機械メーカーなどに少数だがみられる。ここでは日本人は1名(従 業員330名)であった。このように日本企業が設立した現地法人の中でも,実質上は現地の企 業であり,わずかに技術指導料のみを得るというところがあることに注意しなければならな

い。(3)第3は得意分野を各々分担して,文字通り共同経営の型でやっているタイプである。

Cガラスメーカーでは現地実態調査により経理・技術などは日本側,営業・購買・労務など はタイ側と数も平等に,役員数も同数に定めているということであった。

 5.現地人の教育については,(2)日本への研修を行っている企業が7割にのぼり,年に1 回1か月程度というところである。初人者教育は,当然のことながら,実行しているところ が多いが,日本語教育をしているところは少ない。(1)と(2)の2つを回答した企業もあり(同 時に両者を実行しているとのこと),その他ではOJTが5社,現地研修機関での研修2社,日 本での技術研修1社であり,これを各.々算入すると,(1)初回者教育86.7%(2)日本への研修80

%となる。

(6)

4.

短期経営企画・予算編成(質問3,6〜9)

3.短期経営計画・予算編成について

      30社

(1)大体現地で企画・編成して,本社の承認を求める。   21社(70.0%)

(2)本社で企画・編成する。       0

(3)現地・本社で協議して企画・編成する。        9 (30.0 )

6.マーケティング戦略について

      30社

(1)大体現地で企画・立案する。      21社(70.0%)

(2)本社で企画・立案する。        0

(3)現地・本社で協議して企画・立案する。 9 (30.0)

7.研究開発について

      29社

(1)大体,現地で行う。    6社(20.7%)

(2)本社で行う。       21 (72.4)

(3)その他( )      2 (6.9)

   無答         1

8.現地で経営方針書をつくっていますか。(2つ以上○印可)

       26社

(1)経営方針書をつくっている。   22社(84.6%)

(2)技術マニュアルをつくっている。 24 (92.3)

(3)経理マニュアルをつくっている。 17 (65.4)

    無答       4

       26社

(4)経営方針書をつくっている。(a)英語  14社(53.8%)

      (b)現地語 10 (38.5)

      (c)日本語 10 (38.5)

       26社

(5)技術マニュアルをつくっている。(a)英語  18社(69.2%)

      (b)現地語 17 (65.4)

      (c)日本語 8 (30.8 )

(7)

日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題

       26社

(6)経理マニュアルをつくっている。(a)英語  14社(53.8%)

       (b)現地語 11 (42.3 )        (c)日本語 5 (19.2)

6.組織において権限と責任を決めていますか。

      30社

(1)決めている。       24社(80.0%)

(2>あまり明確に決めていない。6 (20.0)

(3)決めていない。      0

3.6これは質問6とともに,企業運営について日本本社と現地法人とのいずれかが主体に なってやっているかを知るためのものである(進出時には或いはそれ以外でも従来の考えでは日 本本社が短期経営計画などはすべて本社で企画するところが多いとされていた)。これは1の設立目 的の(2)現地市場の販路拡大のところでのべたように,経営管理はほとんど現地が主体になっ て行っている。いわゆう現地主義である。7割の企業が現地でやり,3割が現地と本社で協 議している。わずかに7の研究開発については本社で行っているところが多い。

 マーケティング戦略についても同様に現地主義がほとんどである。1でふれたA社,B社

(機械メーカー),4であげたC社(ガラスメーカー)すべて現地の方がマーケティングについ ての情報が得やすいということで,現地で企画立案していた。

 7.さきにのべたようにすべて企業経営については現地に任せることにしているが,研究 開発についてのみ本社で行われる傾向にある。これは研究開発担当者の問題,現地の技術水 準などにより,日本本社でやらざるを得ないからであろう。しかし現地でやった方が適して いる場合もあり,A社では年内を通じて高温の気候で菓子がとけやすいが,とけにくい製品 をつくるのはタイが適しているとか,電気メーカーのD社では洗濯器,冷蔵庫を現地調査の 上,タイに適したものを開発し製造しているとのことであった。研究開発も製品の改良など 或いは一般的にも次第に現地で行なう傾向にある(吉原英樹他r日本企業のグローバル経営』昭

和63年,東洋経済新報社204〜205頁)。

 8,近代的な経営管理の一環として,経営方針書などがきちんと作成されているかどうか を問うたものであるが,4社が無答であり,8割以上にあたる26社が経営方針書などのいず れかをつくっており,3種の経営方針書とも英語,現地語,日本語の3種類をつくっている ところもあったが(1社),大抵ははこのうちの一部をつくっているところが25社であった。

 現地法人の経営管理上の問題の一つとして,情報が正確に伝わりにくい(言葉,考え方の相 違による)点があげられ,特に技術マニュアルは,企業運営上必須とされている。経営方針 書,経理マニュアルも多くの企業でつくられていた。

 英語など作られる場合の用語としては,企業の状況によりまちまちであるが(たとえば某

(8)

金属では,三種の英語,現地語,某電気メーカーでは三種の英語と日本語),調査では技術マニュア ルの英語,現地語が高い比率を,経理マニュアルの日本語が低い比率を,後は大体同じぐら いの比率を示している。

 9.8に続き,経営管理が明確な責任体制のもとで行われているかどうかを問うたもので あるが,8割の企業が権限と責任を決めている。しかし,社会の進展度,国民性の相違もあ って,責任が決められているが,その効果は日本ほどではないようである。(実態調査)

ち.日本人スタッフと現地人とのコミニュケーションについて(質問10〜14.23)

  10.日本人スタッフと現地人とのコミニュケーションについて

(1)大体うまくいっている。

(2)時々うまくいかない場合がある。

(3)あまりうまくいかない。

(4)その他( )    無答

   29社 24社(82.8%)

5 (17.2)

0 0 1

11.トップ(日本人)とロワー(現地人)との間のマネージャーに,現地人の日本の大学   への留学生(在日平均5〜8年)を採用した方がトップ(日本人)とマネージャー(現   地人一留学生),とロワー(現地人)のコミニュケーションは今までよりうまくい   くと思いますか。

      29社  (1)今までよりうまくいくと思う。  17社(58.6%)

 (2)あまり影響ないと思う。     10 (34.5  (3>その他(    )      2 (6.9)

    無答      1

12.従業員の定着性について(2つ以上○印可)

      28社  (1)平均して( )%      16社(57.1%)

 (2)技術職に離i】職者が多い。     13 (46.4 )  (3)マネージャーに離職者が多い。  4 (14.3)

     無答       2

(9)

  13.現地人につぎのものを教育している。(2つ以上○印可)

      28社

(1)品質管理

(2)生産性向上

(3)安全管理

(4)生産管理

(5)一般経営管理全般

(6)マーケティング    無答

27社 (96.4%)

23   (82.1  ) 26   (92.9  ) 25   (89.3  )

7 (25.0)

10  (35.7 ) 2

14.日本人と現地人の関係

      29社  (1)よい      23社(79.3%)

 (2)普通      6 (20.7)

 (3)あまりよくない 0     無答     1

23.11の現地人の日本の大学への留学生を採用したことがありますか.

   また,今後採用する計画がありますか。

(1)採i尊したことがある。

(2)採用したことがない。

(3)今後採用する予定である。

(4)今後採用する予定はない。

   無答

   30社

16社 (53.3%)

6 (20.0)

7 (23.3)

1 (3.3)

2

 10,11,23,日本人スタッフと現地人のコミニュケーションについては調査結果では,殆ど の会社がいつも大体うまくいっているとのことであった。しかし(2)時々うまくいかない場合 がある企業も5社あった。筆者の現地法人の実態調査では,調査結果以上に(2)のケースが多 いのではないかと思われる。これはアンケートのとり方にもより,時々意思が正確に伝わら ないが,大体うまくいっているものもあったのではないかと思われる。

 実態調査では,経営管理の最も大きな問題点は,日本人の組織を通じての伝達がなかなか 正確に伝わりにくいということであった。これは言葉の問題(日本語そのもの,日本語のニュ アンス)や,思想・考え方の相違による。そこで,日本語を或る程度修得し,日本人の考え 方も多少理解できる現地人の日本の大学への留学生をミドル・クラスの従業員としてこれを 通じて日本人スタッフの意思を伝達することが行われる。

(10)

 質問23では,このような状況の中で,日本への留学生を(1)採i寒したことがある,(2)今後採用 する予定の企業が多いことを示している。(約8割)

 質問11では,さきの留学生採用により日本人スタヅフと現地人との意思伝達が今迄よりは うまくいくとする企業が6割にのぼった。また(2)あまり影響がないとする企業も10社(35%)

あり,これは留学生でも正確な意思伝達には限界があるとするものが多いと思われる。その 他では,日本人スタッフと現地人ロワーの関係が現地人ミドルがはいることにより,今迄よ り複雑になりうまくいかないだろう(1社),よくわからない(1社)であった。ただこれに ついての最近の問題として,この留学生採用により日本人スタッフの現地人ロワーへの意思 がより正確に伝わるようになったが,また現地人留学生と現地人大学卒(ミドル)との待遇

・昇進問題で摩擦が出てきている。

 12.タイでは日本と違って従業員の異動が激しい。半数の企業で(2)技術職に離職者が多い としている。定着率についてはつぎに示すように,高い率を示しているが,この他30%1社,

45%1社があった。

   (1)100%      1社    (2)95%以上100%未満  3

   (3)  90   〃  95  〃       6

   (4)90%以下      6

 バンコックの商工会議所も同様の調査結果を示している(r日系企業の賃金実態調査報告書』,

1988年7月,11〜13頁)。過去1年間の転職者は,何らかの理由によりあった企業は163社中68 社(41.7%),技術職において転職が際立って多く(51社),他社からの勧誘によるものの割合 が高い(40.5%)としている。

 13.企業を経営していく上で,仕事をよりょく実行させるために様々な知識の教授などに よる教育がなされるが,品質管理,生産性向上,安全管理,についてはほとんどの企業でな されている。さきにのべた質問5の現地人の教育と関連するが,これらの教育は初人者教育 と日本への研修によってなされる。バンコク日本人商工会議所の調査でも日本人に工場経営 の手法を学んだことがある者が多数にのぼり,「新規採用者の職級,学歴,経験に対応した 職場教育,社内教育などとしての入門的説明,理論的教育,専門的教科教育,一般的教科教 育をそれぞれの教育期間内に適宜配分して実施している」としている。(r日系企業のタイ従業 員に対するアンケート』技術移転状況の評価と日本人スタッフへの要望一1983年,53社306人より回答,

9頁,115頁)

 14.日本人と現地人の関係がよいとする企業が8割を占めた。往々にして国民性,思想の 違いからトラブルが起こり勝ちであるが,日系タイ現地法人の場合は,日本人と現地人の関 係は普通を入れると,29社全部が大きな問題はないようである。ただタイ人に対する態度は

(11)

気を配る必要があることがいわれており(前掲バンコク日本人商工会議所アンケート32頁),筆者 の実態調査でも,たとえばタイ人はめったに怒らないが,一度怒るとなかなか修復しないこと をあげ,日本人以上にタ・f人に対して配慮する必要があることを強調していた。

6.資金調達(質問15.16)

15.資金調達について(2つ○印可)

(1)

(2)

(3)

現地法人設立時に本社出資,後は大体現地調達 本社で出資

本社で保証して,現地で調達

   30社

25社 (83.3%)

6 (20.0)

8 (26.7)

16.為替リスクに対する対策について(2つ以上○印可)

.(1)

(2)

(3)

(4)

現地法人・本社に専門家がいる。

専門の銀行1コンサルタントなどを利用している。

ヘッジしている。

その他(  )  無答

   28社 11社(39.3%)

6 (21.4)

11   (39.3  )

5 (17.9)

2

 15.資金調達については30社中25社(83.3%)が,(1)現地法人設立時には本社から出資し てもらい,その後はほぼ現地で調達する方法をとっていた。この方法をとる企業で(3)本社の 保証をしてもらっている企業も5社あり,本社から融資してもらっている企業はわずかであ

った。

 これは実態調査でも為替相場で円高が大きく影響していることによる。さきに質問1であ げたA社では,日本本社からの借入利率は6%で,現地調達は10%であるが,円高の影響で 結局,現地調達の方が有利であるということであった。調査時点前の円の対ドル為替相場は つぎのようになっている。

   1984年 237円     85  238     86  169     87  145     88  128     89  138     90  145     91  135

(年平均,ドル以下四捨五入)(日 本銀行調査統計局,『日本経済を中

心とする国際比較統計』1989〜1992,

各137頁より加工作成)

仮りに調査時点の91年からすると,102円(43%)の円 高で年平均5.4%(単純年平均)ずつ円高になったζとに なる。仮りにA社(操業開始は1978年以前)で84年に設備 資金を日本本社から借りて88年に一括返済したとする と,46%の円高であり,現地利率20%((10−6)%×5年)

との差をうめてなお26%も現地調達の方が有利であった ことになる。

(12)

 16.為替リスクに対する対策には,各社とも影響が大きく,かつ決定的な方法がないので,

頭を痛めていたが(実態調査分),専門家が対策をとったり,ヘッジの方法をとっている。そ の他では為替相場の影響はない(4社),経理担当役員(日本人)が対策をとっているであっ た。実態調査では,海外店問で為替相場の差を利用して資金を有利なところに移動させたり,

資材・原料の現地・第三国からの調達,円建契約などの為替リスクの軽減策がとられていた。

7.余剰資金の運用(質問17〜19)

17.余剰資金の運用について

(1)現地法人でやっている。

(2)本社でやっている。

(3)その他    無答

   28社 25社(89.3%)

1 (3.6)

2 (7.1)

2

18.利益処分について

(1)現地に投資(設備資金などとして)

(2)本社へ送金

(3)その他(  )    無答

   2呂社 17社(60.7%)

12  (42.9 )

3 (10.7)

2

19.月次決算について

(1)やっている。

(2)やっていない。

   30社

24社 (80.0%)

6 (20.0)

 17〜19,財務経理について,どの程度現地に任され,またどの程度経営上徹底してやって いるのかについて問うたものである。さきにのべたように経営は原則として現地に任せる現 地主義によりなされており,質問17余剰資金の運用についても28社中25社で現地でなされて いた。18利益処分については,利益を現地に投資するものが6割を占めるが,一方本社へ送 金する企業も4割にのぼった(2つに○印があるものがあった)。19月次決算については日本に おけると同様,8割の企業で実行されていた。

(13)

日本企業のタイ現地法人の経営と会計問題

8.内部振替価格(質問20〜22)

20.内部振替価格(現地法人の部門などへの提供価格)について

(1)調整された市場価格

② コストプラス適正利潤

(3)その他(  )    無答

   29社 8社(27.6%)

17社(58.6)

5 (17.2)

1

21.海外現地法人の業績評価(1)

(1)

(2)

(3)

設立目的によって,目的に合わせて評価する。

本社の評価基準を採用する。

その他(   )

   28社 18社(64.3%)

13   (46.94  )

「2 (7.1)

22.海外現地法人の業績評価(2)

(1)利益により評価する。

(2)売上により評価する。

(3)その他(   )    無答

   28社 26社(92.9%)

12   (42.9  )

2 (7.1)

2

 20.内部振替価格については,たとえば日米間でしばしば問題になるように重要な問題で あり,実質調査では内部振替価格の設定について経営政策上,工夫しているところもあった

(2つに○印のものもあり)。上記調査では6割の企業がコストプラス適正利潤であり,3割 近くが調整された市価であり,その他ではこの問題は発生しないであった。アメリカでは正 当な価格で現地法人に部品供給などをすることを強制している(アームスレソグスーarm・

slengthといっている)。実態調査において, D社では競争の激しいうえ成熟商品であるところ がら,部品供給を安めにして,人件費の一部を本社でもっている。E社では税法上,現地法 人への原価賦課を高めにしている。F社では,本社の現地法人に対する利益管理は厳しいが,

CI,企業ブランドの浸透をはかって,広告費を本社が負担していた。

 21.現地法人の業務評価は,国内における場合と異なって,その設立目的が大いに影響し,

調査でも,6割以上の企業が設立目的に合わせて評価するとしている。この場合でも,海外 であるから最初は利益が上がらなくてもよいとしており,次第に経営が軌道にのった段階で

(14)

本社の評価基準を採用するといったところもあった。たとえば最初から経営が軌道にのり,

設立目的も収益というところでは本社の評価基準を採用していた。(2つに○印のものがあっ た)。その他では現地基準も採用,自ら設定した年度目標で評価の2社であった。

 22.業績評価をする場合,利益によるものが9割,売上によるものが4割であり,その他 では売上・利益・業績内容,製品の質・量・コストと複数の基準をあげていた。

9.結 語

 日本企業のタイ現地法人における経営の実状の把握とその問題点について検討してきた。

タイ現地法人といっても,その設立目的などにより経営が日本人主体に行われているところ など大きく3種類に分かれ,その種類ごとに経営の実態も大いに異なっている。

 経営における様々の意思決定一短期経営計画,予算編成,マーケティング戦略,余剰資 金の運用一は現地に任せる現地主義によりなされているが,研究開発は日本で行われてい る場合が多く,実態調査で現地でないと開発がなかなかむつかしい場合もあることがわかっ た。特に日本人スタッフと現地人従業員とのコミュニケーションについて意思があまりよく 伝わらないことが経営における重要な問題の一つであり,このために日本への現地人留学生 の採用によってこの問題をいくらかでも解決しようという傾向にある。従業員の離職率は,

日本に比べてはるかに高く,現地法人はこの点に悩まされているところがあった。

 資金調達は,現地でなすところが多く,これは為替相場の変動も影響していることがわか った。内部振替価格については,コストプラス適正利潤とする妥当なところが多かったが,

なお経営政策上,高くしたり安くしたりするところもあることが実態調査でわかった。業績 評価については設立目的によりなすところも多く,その上で利益や売上によりなされるとこ ろが多かった。その他の経営管理について,経営教育,マニュアル作成,責任と権限の規定,

月次決算など日本から導入されていることがわかった。

 これからもこのような現地法人のよりよい実状の把握と問題点の検討により,よりよい現 地法人の運営が望まれるところである。(本調査は予備・実態調査などにおいて,長崎大学経済学 部東南アジア研究助成会,長崎大学平成3年度学術交流事業の援助を得て行われたものである。)

参照

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