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創価教育学と教職大学院における研究

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研究ノート

創価教育学と教職大学院における研究

―牧口常三郎『創価教育学体系』の構想と関連づけて―

創価大学教職大学院 教職研究科教職専攻

は じ め に

「実践的な指導力を備えた新人教員の養成」と「現職教員を対象としたスクール リーダー(中核的中堅教員)の養成」を目的とした教職大学院が創設されてから,本

表1 教職大学院の目的と具体的な仕組み1)

−95−

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年で3年目を迎えた。複雑化する学校教育の課題に対応し得る教員養成が,現代教育 における喫緊の課題として教職大学院に求められている。

しかしながら,教職大学院を取り巻く環境は決して順風満帆とはいえない。河合塾 の進学情報誌『Guideline』(28年9月号)が教員免許状の取得を考える大学生・大 学院生に実施したアンケートでも,教職大学院に対する印象は芳しくない。「教職大 学院への進学を考えているか」との設問では,一部の学生は「大学卒業後または教員 として勤務後に通ってみたい」と回答したものの,「未定」との回答が85%を占めた。

その中には,「教職大学院に行く必要があるかどうか分からない」「教職大学院の存在 価値が分からない」との戸惑いの声が多く聞かれた。さらには「教職大学院のコンセ プトがいまいち伝わってこない」「教職大学院は設立したてで展望が見えない」「教職 大学院で養成しようとしている教員像が画一的で気に入らない」という手厳しい意見 もあった。

こうした学生の意識も反映してか,学生の確保に苦慮している教職大学院も少なく ない。初年度の平成20年度入試では19大学中8大学,翌年の平成21年度入試では24大 学中11大学が定員割れを起こし,うち6大学は2年連続という切迫した状況である。

表2 教職大学院初年度の入試状況2)

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文部科学省(以下,文科省と略記)では,「定員未充足の要因」として以下の6点 を挙げている。

これらの要因の改善方策としては,「教職大学院のPR活動」等とともに「修了後 の実績をとおした教職大学院の教育内容の質の証明」が挙げられている。教職大学院 制度が今後も存続していくかどうかは,現在の教職大学院生の双肩にかかっていると いっても過言ではない。

本稿は,教職大学院における研究や教員養成の取り組みと,牧口常三郎(以下,牧 口と略記)の創価教育学説との関連性を分析することを目的とする。牧口は自身の教 育実践の蓄積からそれらの理論化,科学的樹立を試み,『創価教育学体系』(以下,

『体系』と略記)の出版へと結実させた。「児童や生徒が修羅の巷に喘いで居る現代 の悩みを,次代に持越させたくないと思うと,心は狂せんばかり」4)との熱誠から,教 育改革を目指して『体系』を書き著したのである。『体系』の中に綴られている内容 は多岐に渡っているが,牧口の教育改革における一つの大きな焦点となったのは「教

1.学部および学校現場における「教職大学院」についての認知不足

学部学生および現職教員の中で,教職大学院の目的・機能および既存修士課程との相 違点(教育内容,指導体制,実習の実施等)が明確に理解されていない。

2.修了者のメリットが不明確

教職大学院を修了した際の,現職教員・学部新卒学生への処遇等への反映が不明確。

教育委員会においては,実際の修了者の実績を踏まえて今後,検討していくところ。

3.教育委員会からの派遣者数の伸び悩み

厳しい財政状況にある教育委員会において,教職大学院へ現職教員への派遣を増やす ことは非常に困難な状況。

4.学生の経済的負担が大きい

現職教員学生にとって,入学金・授業料の経済的負担が大きく,学修意欲はあるもの の教職大学院進学において障害となっている。

5.学校現場の理解が不十分

教育委員会からの派遣者数の増加が難しい状況の中で,教職大学院へ自主的に入学す る者の確保は重要である。しかし,大学院修学休業制度や14条特例を活用して,教職大 学院に自主的に入学を希望する者に対して,学校現場の理解が十分とはいえない状況に ある。

6.大都市部における教員採用人数の増加

大都市部において,近年,教員採用数が増加しており,大学院等へは進学せず,教員 への採用を希望する学部新卒学生が多い。

表3 教職大学院の現状3)

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員改革」,またその礎となる「教員養成制度の改革」であった。

本稿では,まず教職大学院創設の経緯や目的を押さえ,また一方で『体系』の記述 から牧口がいかなる教員養成観・理想の教員像を持っていたかを浮き彫りにする。そ の上で,教職大学院における研究態度,修了後のあるべき姿勢を述べて結論とする。

教職大学院制度創設の経緯

現在の教職大学院制度に至る構想は,2(平成10)年10月に大学審議会による「2 世紀の大学像と今後の改革方針について」と題する答申の中で打ち出された。「大学 院については,各課程において研究者養成,高度専門職業人養成などの目的に即した 体系的なカリキュラムが編成されていない」との問題点を指摘し,「特定の職業等に 従事するのに必要な高度の専門的知識・能力の育成に特化した実践的な教育を行う大 学院修士課程の設置を促進する」ことを提言したのである。この「専門大学院」の構 想は,現行の修士課程の中の一類型として位置付けられていた。そのため,高度な専 門職業人を養成するための実践的な教育を展開していく上で制約となることが一部で 懸念されていた。

また同年12月には,森喜朗首相(当時)の諮問機関である「教育改革国民会議」の 答申に,「リーダー養成のため,大学・大学院の教育・研究機能を強化する」との項 目で以下の「提言」がなされている。

大学院には,社会で必要とされる実践的な専門能力を身につけるためのプロ フェッショナル・スクール(高度専門職業人養成型大学院)と,研究者養成のた めの大学院(研究者養成型大学院)とを多様な形態で設けることとする。大学院 入学者選抜に当たっては,他大学出身者,社会人なども公平に受け入れるよう完 全に開かれたものにする。また,特に優れた者であれば,修士号は最短で1年,

博士号は最短で3年で取得させる。社会人が大学・大学院に入学して学ぶ機会を 拡大する。5)

従来からある大学院の修士課程・博士課程に加え,現在の専門職大学院制度の原型 となる「プロフェッショナル・スクール(高度専門職業人養成型大学院)」の創設が 提言された。これは,「社会の発展に寄与していく高い志と識見を持ったリーダーが 必要」との問題意識に立ち,「今以上に高い専門性と教養を持った人間の育成」を目 指し,「大学・大学院の構成と役割を改革すべき」との方向性からなされたものであ る。

4年後の24(平成14)年8月には,中央教育審議会(以下,中教審と略記)から

「大学院における高度専門職業人養成について」と題する答申が出され,従来の「専

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門大学院」が「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」に特化した「専門職大 学院」へと発展した。さらにこの経過を受けて,河村建夫文部科学相(当時)が「義 務教育の改革案」を発表し,教員の資質向上を目指して「教員養成・免許制度の大幅 改革」を唱えた。

教員の資質の飛躍的な向上を図るため,教員養成のための専門職大学院を設置 し,大学院レベルで高度かつ実践的な教員養成を行う。教員免許に一定の有効期 限を設け,更新時に教員としての適格性や専門性の向上を評価する。7)

「教員養成のための専門職大学院」としての教職大学院の設置は,単なる「改革案」

から「政策課題」へと,より具体性を帯びて議論が進展していくこととなる。

図2 教育改革国民会議報告「教育を変える17の提案」新しい大学・大学院システム6)

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それからわずか2か月後の同年10月には,中山成彬文部科学相(当時)が「今後の 教員養成・免許制度の在り方について」の諮問を中教審に行った。

当面,次の事項について,速やかに御審議をお願いしたいと考えております。

第一は,教員養成における専門職大学院の在り方についてであります。(中 略)現在の教員養成については,例えば,教職課程の科目は理論や講義が中心 で,演習や実験,実習等の時間が必ずしも十分ではないこと,教職経験者が指導 に当たっている例が少ないことなど,実践面での指導力の強化が課題として指摘 されております。

このような現状や課題等を踏まえ,高度な専門性と実践的な指導力を有する教 員の養成や,現職教員の再教育の充実を図っていくためには,学校現場の様々な 課題に即した教育を高度なレベルで実践的に行う教員養成の仕組みを整備する必 要があり,教員養成における専門職大学院制度の活用やその在り方について,検 討する必要があると考えております。

具体的には,①今日の教員に求められる専門性や指導力,②教員養成全体にお ける専門職大学院の役割及び位置づけ,③教育内容及び方法,④専門職大学院制 度の趣旨等を踏まえた具体的な教育体制等の設計,⑤設置形態及び整備目標,⑥ 専門職大学院の修了者の処遇等を中心に御検討をお願いいたします。8)

諮問された内容を見ると,教員養成段階での「実践面での指導力の強化」が課題と して挙げられている。さらに,具体的な教育内容や教育体制,設置形態に至るまで,

教職大学院の具体的な制度設計の議論を求めた内容となっている。

この諮問を受けて,26(平成18)年10月に「今後の教員養成・免許制度の在り方 について」の答申が発表され,教職大学院の創設が提言された。

教職大学院は,当面,Ⅰ)学部段階での資質能力を修得した者の中から,さら により実践的な指導力・展開力を備え,新しい学校づくりの有力な一員となり得 る新人教員の養成Ⅱ)現職教員を対象に,地域や学校における指導的役割を果た し得る教員等として不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えたス クールリーダーの養成の2つの目的・機能とする。9)

教職大学院は,学部新卒者を中心とした「新人教員の養成」と,現職教員を対象と して教育現場・教員集団の中で中核的な役割を果たす「スクールリーダーの養成」が 目的となっている。また修了要件は45単位以上であるが,そのうち10単位以上を学校 現場での実習とすること,専任教員の4割以上は教育現場での実務経験がある「実務 家教員」が占めることなど,実践を強く意識した制度設計となっている。

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図3 今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申のポイント)0)

表4 専門職大学院の概要「修士課程と専門職学位課程の比較」1)

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さらに,教職大学院制度の基本方針として,以下の5点が示されている。

牧口の理想の教師像―「経験から出発」した「高等専門教育」の素養のある教師

先述したような「専門職としての教員養成」は,『体系』において先駆的に主張さ れていた。牧口は80年前からその必要性を指摘していたのである。

牧口には,かねてから「医学と教育学は兄弟の如き応用科学」3)との持論があった。

① 教職に求められる高度な専門性の育成への特化

学部段階で養成される教員としての基礎的・基本的な資質能力を前提に,今後の学校 教育の在り方を踏まえた新しい教育形態・指導方法等にも対応し得る知識・技能や,

様々な事象を構造的・体系的に捉えることのできる能力など,教職に求められる高度な 専門性を育成することを目的として特化する。

② 「理論と実践の融合」の実現

高度専門職業人の養成を目的とする大学院段階の課程として,綿密なコースワーク

(学修課題と複数の科目等を通して体系的に履修することをいう。)と成績評価を前提 に,理論・学説の講義に偏ることなく実践的指導力を育成する体系的で効果的なカリ キュラムを編成するとともに,実践的な新しい教育方法を積極的に開発・導入すること により,「理論と実践の融合」を強く意識した教員養成教育の実現を目指す。

③ 確かな「授業力」と豊かな「人間力」の育成

学級運営・学校運営の基本とも言うべき確かな授業力を徹底して育成するため,理論 とともに,従来の学部・大学院教育が軽視しがちであった教育技術面を重視するととも に,その前提として,課外活動など教育課程外活動の指導も含めた豊かな指導力ととも に,子どもや保護者,地域住民等とのコミュニケーション能力をはじめとする教職に求 められる豊かな人間力の育成を目指す。

④ 学校現場など養成された教員を受け入れる側(デマンド・サイド)との連携の重視 保護者や学校現場,地域,教育行政など,養成された教員を受け入れる側(デマンド・

サイド)の要請を踏まえ,特に学校現場との意思疎通を重視し,カリキュラムや教育方 法,履修形態,指導教員,修了者の処遇,情報公開,第三者評価など大学院の運営全般 にわたって,大学院と学校現場との強い連携関係を確立する。

⑤ 第三者評価等による不断の検証・改善システムの確立

教育内容・方法や指導体制をはじめ大学院運営の全般にわたり,大学関係者や,学校 関係者,地方教育行政担当者等から構成される専門の認証評価機関による5年ごとの第 三者評価(認証評価)を実施することなどを通じ,不断の検証・改善システムを構築 し,優れた教員養成の質の保証を図る。

表5 「教職大学院」制度の創設−教職課程改善のモデルとしての教員養成教育−2)

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「等しく人間の生命を対象とする仕事である医師と教師とでは,肉体的と精神的との 違いはあり,消極的防衛的と,積極的建設的との違いはあっても,人生の価値創造を 目的とする技術たるに於て違いはない」4)からである。以下の記述は,今日の高等教 育を取り巻く状況と似通っており,非常に興味深い。

医師,弁護士,薬剤師等,高級の分業に従事し相当に社会的の地位を占むるも のは皆其の職業に対して高等専門教育の素養あることを条件とせられている。小 学校の教師に於ても其等の分業と対等の待遇を受くるためには,一般中等程度の 学力の外に職業に対する知識は高等程度のものたるを要する。5)

現在の日本の高等教育においても,医師を養成する医学部は従来から6年制を採っ ており,薬剤師を養成する薬学部も26(平成18)年から6年制に移行した。また,

弁護士等の法曹を養成する「法科大学院」は「専門職大学院」の中心的な存在であり,

現在設置している大学が最も多いのもこの形態である。そして,「専門職大学院」の 中でも後発として28(平成20)年に創設されたのが「教職大学院」である。教職大 学院における高度専門職業人としての教員養成は,牧口の教員養成像と重なる部分が 多く,その先見性に現実の制度がようやく追いついてきたといえる。

また牧口は,教師の資格の最低限度として「職務を執るに欠くべからざる職業的知 識」と「教育学を其の職業に応用し得るだけの学力」,そして「世の進歩に後れざら んだけの研究心及び理解力」を挙げている。6)その理由は,「恰も医師に或る程度の医 学上の知識を要し,弁護士,司法官等にその職業上の知識を必要とすると同様,教育 の専門家として恥ずかしからぬだけの教育学の知識を是非共教員の普通常識として具 備せしむべき」7)との信条からである。

ここでいう教育学とは,従来のものとは意味合いが異なる。『体系』では「新教育 学建設のスローガン」8)の第一として,「経験より出発せよ」9)との言葉が掲げられてい る。牧口が目指したのは,「教育の事実から帰納して教育の原理に到達せんとする研 究方法」0)であった。それは欧米の新学説の紹介に汲々とし,演繹的な研究態度をと る当時の理論家とは対極に位置するものである。つまり,「実際教育に役立つ教育学 は教育生活から生れたものでなければならぬ」1)との信念から,「自分自身の日々の経 験から研究の歩みを起し,其の経験から帰納し確立した原理によって,次の経験を更 新」2)することを志向したのである。

その一方で,独りよがりの経験のみに頼る教員を決して理想とはしなかった。「経 験丈の教育技師も盲目的で,不安に堪えない」3)「自己一代の貧弱なる,経験にのみ 依頼せんとするが如きは不安至極と云わざるを得ない」4)と断じているのである。牧 口が「経験より出発せよ」と唱えたのは,単に教員のあるべき姿勢にはとどまらな い。そこから一歩進んで,文字通りの「教育学の科学的建設」まで見据えた指針であっ

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たのである。つまり,「①先ず成功と失敗の事実を正確に認識し,その記録を作る

②其の成功失敗の原因を考究し,検討し,更に同じ種類の種々なる事実を蒐集し,之 が比較観察を行い,以て之等の成功又は失敗に現われる関係を認識 ③其の認識の批 判的考察を行い,更に他の先進し完成した科学の発達した過程との比較研究」5)をな すという一連の過程こそが理想の研究法であり,『体系』の完成に至る牧口自身の研 究姿勢もこれに則っていたのである。

牧口が描いた教員養成構想―「創価教育技師養成所」

「はじめに」でも述べたように,牧口の目指した教育改革の一つの結論は「子ども にとって最大の教育環境」とも称される教師自身の改革,また教師を育成する師範教 育の改革であった。牧口研究の著作がある古川(2009)は,「つまるところ,創価教 育学の考察は,教師の養成と選択の問題に収斂していっている」6)と述べている。『体 系』に見られる牧口の問題意識としては,現場の教師をいかにエンパワーしていく か,さらには教育現場で力を発揮する教師をどのように育てていくかが一つの焦点と なっている。「初等教育に於ては何よりも先ず最も中心根底の教育機関たる教師の改 善進歩に主力を尽くさねばならぬ」7)「教育の改造に於ける根底は教師であって,そ の不完全に基づく弊害は他の如何なる機関を改良しても結局改善は不可能であって枝 葉末節の修繕に過ぎない」8)といった記述からも,師範教育を変革することの重要性 が見てとれる。牧口は当時の教育界に蔓延していた「知識の詰め込み主義」9)を徹底 して批判した。それは子どもに対する教育に限らず,教員養成においても同様であっ た。「教員養成の目的も,徒に多くの知識を注入することよりは自力を以て知識をな し,且其れを運用せんとする原動力たるべき興味を起させるのにある」0)と主張し,

「師範教育の内容の,教授材料の知識本位にのみ考えられた従来の誤謬が,根底から 覆されなければならぬ」とか,「教師の修養上にも一大変動を来たさねばならぬ」1) 指摘していた。

牧口は『体系』の冒頭で,「創価教育学とは人生の目的たる価値を創造し得る人材 を養成する方法の知識体系を意味する」2)と定義している。「新教育学建設のスローガ ン」の第二に「価値を目標とせよ」3)と掲げられている通り,教育を通して価値を創 造していくだけでなく,価値を創造していける人材を育成することに創価教育学の眼 目がある。つまり,「価値を創造する能力を持つ人材を涵養せんとする人格価値の創 造事業」4)以上に,その根本となる「人格価値の創造法を指導する教師を養成する師 範教育事業」5)を重要視した理由がここにある。

本来,教員養成を行う学校は「新教員の養成機関」としての役割だけでなく,「指 導階級に立つべき優良教員の養成機関」としての機能も果たすべきであると牧口は訴 えている。6)この主張は,教職大学院が「実践的な指導力を備えた新人教員の養成」

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と「現職教員を対象としたスクールリーダー(中核的中堅教員)の養成」を目的とし ていることとも一致している。『体系』には教員養成改革の具体的な方策として,現 在の教職大学院の制度を彷彿とさせるような「創価教育技師養成所」の構想が提案さ れている。これは,「創価教育学を実現するに任ずるに足る高級なる教育技師の養成 を目的とする高等の師範学校」7)であり,「普通の師範教育の上に創価教育を施さんと するもの」8)である。具体的には「実習の練習と,学科の研究とを指導する事を二ヶ 年の課程」9)として設け,「練習所たる付属小学校は半日制度」0)とする制度設計となっ ている。そして,「何物かの自発的研究に因って被教育者指導の能力を発揮」1)しなが ら,「二年乃至三年の修養」2)によって「検定試験に合格する学力を得しめ,模範と なって小学校教員を指導し得る学力と技術」3)を身につけていくことが目標である。

牧口による「創価教育技師養成所」の構想は,創価大学教職大学院のカリキュラムと 数多くの共通点がある。「大学の学士課程における学習及び実際の教育経験,社会経 験など」を土台とした学生が,「主体的に自らの教育課題を設定」して「大学院での 授業と実習研究を並行して」行い,『連携協力校』と呼ばれる東京都公立小学校に て,合計60日程度の実習」を実施し,「実践的な指導力強化」を図る。各コースの1 年,2年,または3年の修業年限を通じて,「人間教育の理念に根ざした豊かな実践 的指導力と高度な専門性に裏付けされた確かな授業力を有し,各学校の有力な一員と なりうる教員を養成する」ことを目指している。4)

創価大学教職大学院における研究の特色は,各人の教育現場での実践経験が重要な 地位を占めているという点である。現職教員の学生は,今まで現場で蓄積してきた経 験を理論面から裏付け,再構成していける。「ストレートマスター」と呼ばれる学部 新卒の学生であっても,独自の「研究課題」を掲げて大学院の学びと実習校での実践 を絶えず往還させながら,より高い次元の実践を目指していける。また,実習校での 授業を収録して授業記録として蓄積し,日々の授業や研究の材料としている学生も数 多い。教職大学院の修了にあたっては「リフレクションペーパー(教育実践研究報告 書)」の執筆が研究の集大成として課せられる。ここでも各人の経験に理論的な裏付 けを施し,新たな原理・原則を編み出そうという試みがなされている。

このように,『体系』における牧口の教員養成構想と,創価大学教職大学院におけ る研究や教員養成の取り組みは,大いに共鳴しているといえる。その中でも根本とな る理念が,「教職大学院制度の基本方針」としても挙げられている「理論と実践の融 合」である。

牧口は当時の教育界の状況を分析し,「理論家」と呼ばれる教育学者と,「経験派」

「実際家」と呼ばれる教師との間に,意識の齟齬があることを指摘している。5)この ことが「経験より出発せよ」とのスローガンを掲げた一因ともなっており,「徒に書 斎の学者の研究のみに依頼するのを止め,その貴重なる経験を綜合して原則を確立 し,これを日常の生活に於て実証し,以て次代に貴い原理,法則を遺すことは,実に

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現代の教育実際家に課せられた重大なる使命であり,教育の生長を約束するものであ る」6)と主張した背景にも,両者の対立関係が横たわっている。その上で牧口は,理 論家と実際家双方の対立を乗り越え,両者の特質を兼ね備えた力ある教員の輩出を目 指していた。

世の中には両者(引用者注:実際家と理論家の頭脳の働き)を兼有するものも 決して少ないことではない。而してこれこそ完全円満なる生活者として各個人の 羨望するところである。して見れば両者は必ずしも相背反する性質のものではな い。何れかの一方に偏って居たが為に偉大な業績を遺したものが,もし他方まで 兼有したとしたなら,それこそ鬼に金棒,(中略)教育に於ては殊に両方兼有が,

被教育者の円満なる発育をその目的とする以上,欠くべからざる性質で,学究生 活で安んずるならば格別,苟しくも実際技術家として所定の目的実現を其の任と するからには,所謂芸術家・技術家肌として無意識の的の熟練で甘んずべきでな く,(中略)現代までに知られた程度の原理,原則の一通りだけには通じて置い て,その点までも,不経済な試行錯誤に陥らぬだけの用意をなし,然る後,これ 以上の発明創造をこの世に遺して,以て先輩の遺徳に報謝するだけの覚悟を要す る。これは必要なことで且決して不可能ではない。7)

技術家とは抽象的観念の具体的実現の堪能者であり,それに対して学者とは具 体的実相の抽象的概念としての表現術に長けたもののことで,両者は同一状態の

表6 創価大学教職大学院の研究・取り組みと『体系』における牧口の教員養成構想の共通点0)

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両端に過ぎない。実際の学問化と,学問の実際化とは,両者を融合統一すること で,それによって初めて文化生活の内容となるものである。8)

牧口が理想としたのは,「熱心なる経験の基礎の上に,燃ゆるが如き学究的真面 目」9)をもって精進していける「理論と実践の融合」を実現した教員であったのであ る。「経験から出発せよ」との創価教育学の指標は,教育実践の蓄積から教育学理論 を構築することを意図しており,本来的に「理論と実践の融合」を牧口が理想として いたことを表している。牧口が焦眉の課題として抱えていた師範教育の改革は,教職 大学院における研究と教員養成の取り組みによって,現実のものとなりつつあるので ある。

お わ り に

本稿執筆の直接的な動機となったのは,筆者が『体系』を読む中で「創価教育技師 養成所」の構想を目にしたことである。その内容が創価大学教職大学院における種々 の取り組みと数多くの共通点があることに気付き,これからの教員に必要な姿勢を創 価教育学から見出し,教職大学院が牧口の将来展望の一翼を担っていることを立証し ようとしたのが本稿の試みである。より多角的な視点から比較検討ができるよう,

『体系』の考察も特定の巻や章のみに限定することはしなかった。教職大学院におけ る研究が,牧口の教員養成構想と共鳴するものであることが,ほんの一分ではあるが 実証できたと考えている。

牧口は,「余が創価教育学は主として之が為の研究」1)として最重要視した「半日学 校制度」の意義を,以下のように述べている。

学習を生活の準備とするのではなく,生活をしながら学習する,実際生活をな しつつ学習生活をなすこと,即ち学習生活をなしつつ実際生活もすることであっ て,学習生活と実際生活を並行するか,然らざれば学習生活中で実際生活も,実 際生活の中に於て学習生活をもなさしめつつ一生を通じ,修養に努めしめる様に 仕向ける意味である。2)

この一節は,当時の学校現場を大きく変える牧口独自の改革案であったことは間違 いない。その上で現代的な意義を加えるならば,教職大学院における研究もこの「半 日学校制度」の理念に大いに当てはまるものである。教職大学院での授業や研究と学 校現場における実習を立て分けて実施するのではなく,両者を絶えず並行して行うこ とに意味がある。教職大学院において「学習生活中で実際生活も」行い,学校現場に 出てからは「実際生活の中に於て学習生活を」なすことによって自身の資質を高めて

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いくことが,牧口の意志に適うものである。

ゆえに,現在教職大学院で学ぶ学生や今後教職大学院に就学する学生にとって,修 了自体が終着点では決してない。教職大学院で培った「高等な専門性」を現場で発揮 していけるか,さらには日々の経験から新たな教育原理を創り出していけるかどうか が,教職大学院そのものの存在意義にも直結する。学校現場において中核を担う「ス クールリーダー」として実践を積み重ね,自身の教育観を絶えず自己更新し続けてい ける教員を輩出していくことが,教職大学院に課せられた大きな使命である。

1)文科省初等中等教育局教職員課発行パンフレット「魅力ある教員を求めて」12ページ

http : //www.mext.go.jp/a_menu/shotou/miryoku/03072301.htm

2)河合塾教育研究部ガイドライン編集部『Guideline』(28年9月号)4ページ

http : //www.keinet.ne.jp/doc/gl/08/09/toku080901.pdf

3)文部科学省ホームページより抜粋,引用

http : //www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2009/08/14/

1282224_4.pdf

4)『創価教育学体系』Ⅰ巻13ページ。なお,本稿における引用は聖教文庫版を採用し,ペー ジ数も文庫版のものと対応している。(以下同様)

5)教育改革国民会議報告「教育を変える17の提案」より引用,下線は引用者による。

http : //www.kantei.go.jp/jp/kyouiku/houkoku/1222report.html

6)同ホームページより引用

7)「義務教育の改革案」より引用,下線は引用者による。

http : //www.mext.go.jp/b_menu/soshiki/daijin/04081001.htm

8)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(諮問)

http : //www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/04102201.htm

9)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(答申)

http : //www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/06071910.htm

0)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(答申のポイント)

http : //www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/06072601/002.pdf

1)専門職大学院の概要「修士課程と専門職学位課程の比較」

www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2009/08/14/

1282224_4.pdf

2)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(答申)より抜粋,引用

http : //www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/06071910.htm

3)『創価教育学体系』Ⅰ巻49ページ

−18−

(15)

4)同上

5)『創価教育学体系』Ⅲ巻16ページ,下線は引用者による。

6)同上90ページ 7)同上

8)『創価教育学体系』Ⅰ巻37ページ 9)同上

0)『創価教育学体系』Ⅲ巻16ページ 1)『創価教育学体系』Ⅰ巻27ページ 2)同上25ページ

3)『創価教育学体系』Ⅲ巻91ページ 4)同上

5)『創価教育学体系』Ⅰ巻27ページ,①②③の番号は引用者による。

6)『牧口常三郎と創価教育学』14ページ 7)『創価教育学体系』Ⅲ巻46ページ 8)同上19ページ

9)『創価教育学体系』Ⅳ巻16ページ 0)『創価教育学体系』Ⅲ巻16ページ 1)『創価教育学体系』Ⅳ巻26ページ 2)『創価教育学体系』Ⅰ巻19ページ 3)同上37ページ

4)『創価教育学体系』Ⅳ巻24ページ 5)同上26ページ

6)『創価教育学体系』Ⅲ巻11ページ 7)同上12ページ

8)同上13ページ 9)同上

0)「半日制度」とは『体系』Ⅲ巻第十章「半日学校制度論」で示された構想であり,「小学 校より大学までの学校に於ける学習生活を半日に制限すること」(Ⅲ巻27ページ)であ る。牧口が提唱した「経済を原理」とする能率的な教育の具体像であり,「従来の一日 分を半日で修めしめることを前提」(Ⅲ巻27ページ)としている。牧口が「創価教育学 は主として之が為の研究」(Ⅲ巻27ページ)と自負した独創的な提言である。

1)『創価教育学体系』Ⅲ巻15ページ 2)同上

3)同上

4) 」内の文言は教職大学院ホームページより引用

http : //kyoshoku.soka.ac.jp/

5)『創価教育学体系』Ⅰ巻第二章「教育学の価値的考察」を参照

−19−

(16)

6)『創価教育学体系』Ⅰ巻26ページ

7)同上61〜62ページ,下線は引用者による。

8)『創価教育学体系』Ⅳ巻22ページ,下線は引用者による。

9)『創価教育学体系』Ⅲ巻15ページ

0)左欄は創価大学教職大学院ホームページより引用

http : //kyoshoku.soka.ac.jp/

右欄は『体系』Ⅰ巻25, 84ページ,Ⅲ巻11,12〜15ページより抜粋,引用。

それらをもとに筆者が表を作成した。

1)『創価教育学体系』Ⅲ巻27ページ 2)同上20ページ

引 用 文 献

1)古川 敦:牧口常三郎と創価教育学,論創社,2 2)古川 敦:牧口常三郎の教師論,論創社,2

3)河合塾教育研究部ガイドライン編集部:教職大学院の現状と課題,Guideline,28,2―

4)牧口常三郎:創価教育学体系Ⅰ,聖教新聞社,1 5)牧口常三郎:創価教育学体系Ⅱ,聖教新聞社,1 6)牧口常三郎:創価教育学体系Ⅲ,聖教新聞社,1 7)牧口常三郎:創価教育学体系Ⅳ,聖教新聞社,1

8)三石,川手編:高度実践型の教員養成へ―日本と欧米の教師教育と教職大学院―,東京 学芸大学出版会,20,88―9

9)文部科学省高等教育局大学振興課教員養成企画室:教職大学院―創設と課題,文部科学 時報,第17号,29,50―6

0)日本教師教育学会 編:日本の教師教育改革,学事出版,2

1)佐藤 学:「教職専門職大学院」のポリティクス,現代思想,第33巻第4号,25,98―

2)八尾坂 修:教職大学院―スクールリーダーをめざす―,協同出版,2

3)全国教職大学院年鑑編集事務局:全国教職大学院年鑑

8〜’9,教育開発研究所,

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