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非貿易財企業の国際的立地選択の経済厚生分析

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(1)

非貿易財企業の国際的立地選択の経済厚生分析

- Krugman 型独占的競争モデルに基づく考察-

兵庫県立大学国際商経学部 石黒 靖子

要旨

本稿では,差別化財である非貿易財産業の直接投資が,投資国および被投資国の経済 厚生に与える効果を考察する。非貿易財産業が資本集約的で,収穫逓増技術の下で生産 されるならば,労働賦存量以外が対称的な2国間で,労働賦存量が小さな資本豊富国か ら,労働賦存量が大きな労働豊富国へ直接投資が行われる。被投資国では,非貿易財の バラエティが増加し差別化財の価格指数が低下するため経済厚生が上昇する効果が,利 潤送金による所得の流出効果を上まわり,経済厚生が上昇する。一方,投資国ではパラ メータの値に依存して,すなわち投資国労働の両国全体の労働量に占めるシェアφ1 と するとその他パラメータの値に依存して,経済厚生への影響が異なる。差別化財間の代 替の弾力性が十分に高い場合は,各企業の財は互いにより代替的であるため,開放経済 下において企業数減少による差別化財の価格指数の上昇が抑えられる。このため,労働 シェアφ1の広い範囲で,経済厚生が上昇する。しかし代替の弾力性が十分に低ければ,

労働シェアφ1のより広い範囲で経済厚生が低下する。これは,企業間の競争が緩やか な中,投資国から被投資国へ企業流出にともなう差別化財の価格指数の上昇も大きくな るためである。さらに,非貿易財に対する支出シェアが低いほど,より広いの範囲で経 済厚生は改善する。このように経済規模の小さな国では,自国の差別化財企業の合理的 な行動の結果,経済厚生の低下を経験する可能性がある。

Keywords: 非貿易財, 国際立地選択,規模に関して収穫逓増,独占的競争

JEL Classification: F11, F23

(2)

非貿易財企業の国際的立地選択の経済厚生分析

- Krugman 型独占的競争モデルに基づく考察-

兵庫県立大学国際商経学部 石黒 靖子

1. はじめに

近年,日本の国際収支おいて貿易収支が傾向的に悪化している。2004 年に最大の黒 字14兆4000億円を記録したあと,継続的に黒字が縮小し,2011年の東日本大震災以 降5年間は赤字を計上している。その後黒字化しているが,その額は決して大きくない。

一方,長年赤字を計上してきたサービス収支はインバウンドによる旅行および知的財産 権の収支の改善などにより赤字が減少し,2019年には黒字化した。

図1.日本の貿易収支とサービス収支 (単位:億円)

サービス財の多くは「生産と消費の同時性」という特性より非貿易財となる傾向があ る。このため,サービス財企業が海外で供給活動を行うためには,現地に拠点をもつな どの直接投資を行う必要がある。日本において非製造業の直接投資残高が全残高に占め る比率は対外投資で50.4%,対内直接投資で45.5%であり,全体の約半数を占める 1

図2.日本の非製造業直接投資残高 (単位:億円)

図2は2015年と2019年の日本のサービス産業の直接投資残高が示されている。2015 年では対外直接投資は対内直接投資の6.3倍,2019年は 7.9倍であり,日本は純投資 国である。

さて非貿易財生産に固定投入が必要であれば規模の経済性が働くが,この様な場合,

企業はより大きな市場に立地することが有利となり,市場規模の小さな国から大きなく にへ直接投資が行われる。他国へ進出した企業の収益は,投資収益として母国へ送金さ れる。これは企業の送り出し国における所得の増加に貢献する。

日本のサービス産業の直接投資において最大の相手国は対外投資,対内投資共にアメ リカであり,対外投資残高は34兆3,000億円,対内投資残高は5兆2700億円(共に

1 運輸業,通信業,卸・小売業,金融・保険業,不動産業,サービス業。

(3)

2019 年)である。これらが日本のサービス産業の直接投資に対して占める比率は,対

外投資で35.3%,対内投資では42.4%である。日本のサービス産業のアメリカ向け直接

投資の投資収益は1兆9,000億円で日本への対内投資収益の約2.2倍であり,受取超過 となっており,日本の所得の増加に貢献している。

しかし,非貿易財であるサービス財企業の海外直接投資により,当該企業が自国内で 供給を行わなくなるならば,消費者の選択肢の減少を通じて投資国の経済厚生が悪化す る可能性がある。サービス産業の直接投資おいて対外純投資国である日本では,それに より国内の経済厚生が低下している可能性はないのであろうか。

財貿易が不在のもとで行われる直接投資の経済厚生に与える効果に関する古典的な 分析としてMcDougall (1960)がある。資本は資本レンタルの低い国より高い国へ投資 され,世界全体では生産が増大する。投資国,被投資国とも国内の所得配分が変化する ものの,両国ともに国民所得は増大する。Kurata et.al (2009)では,総企業数をパラメ ータとし,規模に関して収穫一定でかつ企業が正の利潤を得る状況下において,非貿易 財企業の立地選択問題を対称的な2国間で考察し,均衡が効率的である事を示した。こ れに対して倉田(2007)は,規模に関して収穫逓減の技術の下,非貿易財部門の自由 参入均衡を考察し,達成される均衡は経済全体には効率的であるが,消費者にとっては 効率が低下するケースがある事を示した。

本稿では,これらの分析とは異なり,収穫逓増技術の下で行われる非貿易財産業の直 接投資が,投資国および被投資国の経済厚生に与える効果を考察する。本稿の分析では,

労働賦存量以外の条件が等しいKrugman型の独占的競争2国モデルを用いる。このモ デルにより,労働賦存量の小さな国が投資国,大きな国が被投資国となることを示す。

さらに被投資国では非貿易財企業数が増加し,消費者の選択肢の増大により経済厚生が 上昇する効果が,投資国への利潤送金による所得減少の経済厚生低下の効果を上まわり,

経済厚生が上昇することが示される。一方,投資国の経済厚生に与える効果は,投資国 の労働規模と非貿易財間の代替の弾力性の大きさ,さらに非貿易財への支出シェアに応 じて異なることが示される。

以下,本稿は次のように構成される。まず第2節では,本稿の分析の基本となる独占 的競争モデルが定式化される。次に第3節では,閉鎖経済における均衡が考察される。

続く。第4節では,貿易可能財の貿易と貿易と非貿易財企業の海外進出が行われる開放 下における均衡が考察される。第5節では閉鎖下と開放下の経済厚生の比較が行われた あと,第6節で結論が要約される。

2.モデル

本稿のモデルは,Krugman 型の2国(第 i(i=1,2)国)2要素(労働,資本)モデル である。財は,貿易財で同質財であるY財と非貿易財で差別化財であるx財がある。資

(4)

本は非貿易財部門において各バラエティの生産に1単位必要である。総労働賦存量はL であり,第i国の労働賦存のシェアをφiとしよう。労働は国内の産業間のみを移動する。

同質財であるY財は労働のみを用いて収穫一定の技術のもと生産される。単位を適当に 取ることによって,その労働投入係数を1としよう。本稿ではパラメータの値が非貿易 財の生産が各国で行われる範囲にあると仮定する 2Y財をニュメレールとすると,両 国の賃金率は1に等しい。

差別化財は独占的競争的であり,各企業の生産関数は対照的であると仮定する。すな わち各バラエティの生産には資本1単位と,限界的な労働投入βが必要である。したが って本稿では,差別化財は資本集約財,Y財は労働集約財である。家計は差別化企業の 株を保有し利潤を受け取る。xhiを第i国でバラエティhを生産する企業の生産量を,phi

をその価格,πhiをその利潤とするとπhiは表される。

i hi hi hi

hi p x

β

x w

π = −

(1)

代表的家計は差別化財のCES型複合財Xと同質財Yに対してCobb-Douglas型の選 好をもつとしよう。dhをバラエティhの需要量とすると,代表的家計の効用関数は次式 で表される。

α α

=

X Y1

u (2)

( σ)

σ 1/11/ 0

/ 1

1

 

 

= ∫

nidh dh

X σ>1 ,N

=

n1

+

n2

ただし,Nは総企業数,niは第 i国で生産される差別化財の総数,σは差別化財間にお ける需要の代替の弾力性であり,各差別化財需要の価格弾力性である。第i国における Xの価格指数Piは次式で表される。

( σ)

σ

 

 

= ∫

0 1/1 1

ni

hi

i p dh

P (3)

i国の各家計の消費支出をEi,家計が保有する資本をKiとすると,その予算制約式 は次式で表される。

Ei

=

1

+ π

iKi (4)

家計の効用最大化より,各差別化財hの需要dhiおよび貿易財Y iの需要は次式で表され る。

dhi

= α

EiPiσ1phiσ (5) Yi

= (

1

− α )

Ei (6)

両国の賃金率が1に等しいことに注意すると,(1),(5)式より第 i 国においてバラエテ ィhを生産する企業の利潤最大化条件は次式で表される。

2 すなわち,各国の労働供給が非貿易財の市場の均衡生産量が実現可能な労働量を上ま わり,貿易財生産にも労働供給が行われるに十分であると想定する。γiNβxi<φiL。(23) 式を参照のこと。

(5)

1

= − σ

βσ

phi (7)

非貿易財である各バラエティの需給均衡式は次式で表される。

( βσ σ ) ( φ

σ σ

)

α −

=

i i i hi

hi L EP p

x 1 1 (8)

(7),(8)式より第 i国で生産される各バラエティの価格および均衡生産量は等しくなるこ

とがわかる。以下では,バラエティを表すhは省略する。第i国で生産活動を行う差別 化企業の利潤は次式で表される。

1 1

= − β σ

π

i xi (9)

各国の労働市場均衡は次式で表される。

(

1

− α )

Ei

φ

iL

+ γ

iL

β

xi

= φ

iL (10)

以下では,各国において労働賦存量以外の条件は等しいと仮定しよう。したがって,

各国で保有される企業数はそれぞれN/2に等しい。

3. 閉鎖経済均衡

閉鎖経済では,国際的な経済取引がないため,差別化財企業の直接投資は行われず,

国内でのみで生産活動を行う。したがって第i国のXの価格指数Piおよび各バラエティ の生産量は次式で表される。

σ

σ

βσ

 

 

= −

1

1

2 1

Pi N (11)

( )

 

 

− 

=

/2

1 N

E xi L

φ

i i

βσ σ

α

(12)

(11)式を第i国の労働市場均衡式に代入すると,各国の一人当たりの支出Eiは両国で等 しくなり,次式の様に得られる3

( µ )

α −

= −

1 1

1

Ei (13)

ただし,μ=(σ-1)/ σ,0<μ<1 である。第1国の人口は第2国より少ないため,各企業 の均衡生産量は第2国が第1国を上まわる(x1<x2)ため,各企業の利潤は第2国が第 1国より多い(π12)。一方,N/(2φi)で表される各国の一人当たりの株式保有量 K は 第1国のほうが多くなる。均衡では一人当たりの資本所得は第1国と第2国で等しくな る。このため一人当たりの支出Eiも両国で等しくなる。

3 (1-α)EiφiL+βxiN/2=φiL

(6)

4. 開放経済均衡

開放経済下では,非貿易財企業は国家間で自由に移動可能であり,再立地費用がかか らないとしよう。また Y財の貿易も行われる。開放均衡における各国の X の価格指数 Pi,各バラエティの需給均衡式は次式で表される。

( ) γ

σ

σ

βσ

= −

11

1 N

Pi i (14)

( )

 

 

− 

=

N

L E x

i i

i

γ

i

φ βσ

σ

α

1 (15)

ただしγiは第i国に立地する企業の比率(γi=ni/N)を表しているとしよう。差別化財企 業は利潤が高い国へ移動するため,均衡では各企業の利潤は両国で等しくなる。したが って,企業の生産量も両国で等しくなる。(15)式およびγ=1よりγiは次式のように 得られ,第i国の支出比率eiと等しくなる。

i i

i i e

E E

E

=

= +

2 2 1

1

φ

φ

γ φ

(16)

(14),(15)式より,利潤πiは次式の様に得られる。

( ) ( )

N

E E

i

π α

1

µ

L

φ

1 1

φ

2 2

π = = − +

(17)

さらに(4),(17)式より,次式を得る。

φ φ α ( µ )

= −

+

1 1

2 1

2 1

1E E (18)

(18)式より,両国の支出の合計は一定であり,さらにY財で評価した閉鎖経済下の支出 合計と同じ値であることがわかる。各差別化財の均衡生産量xiおよびγieiは次式のよ うに得られる。

( µ ) φ { α ( µ ) }

γ = α − + − −

=

1 1

2 1

i i

ei (19)

( )

[ α µ ]

β

αµ

= −

=

N1 1

x L

xi (20)

(19)式より第i国の支出シェアeiは同国の労働賦存シェアφiの増加関数であることが わかる。両国が対称的であるφi=1/2のケースではγi=1/2となる。φi>1/2ならばγiei>1/2, 逆は逆である。以下ではφ1<1/2 としよう。本モデルでは,労働賦存量以外の条件は両 国で等しいため,第1国が資本豊富国,第2国が労働豊富国となる。労働がより多く賦 存する第2国は所得シェアが第1国より高くなるため,より多くの企業が立地する。す なわち資本豊富国である第1国から資本稀少国の第2国へ直接投資が行われる。

ここで各国の労働シェアφiと立地シェアγiを比較しよう。

(7)

( )(

i

)

i i i

i

φ

e

φ α µ φ

γ − = − >

1

1/2

(21)

第1国の企業立地のシェア γ1は人口シェアφ1を上回り,第2国では逆になる。仮定よ り各国の労働賦存量が非貿易財の市場均衡の生産量が実現可能であるため次式が成立 する。

γ

iN

β

xi

≤ φ

i (22)

(14),(8)式を代入すると次式のように書き改められる。

( )

( αµ α ) [ µ α ( µ µ ) ] φ

φ =

≥ −

1 1 1

2

1

2

i

2

<

1

φ

(23)

φ

φ =

1

とすると,以下では φ≧φ2>1/2>φ1≧φとしよう。

先に見たようにφ12=1/2 のケースでは,γiei =1/2 となり,非貿易財企業の直 接投資は行われず,貿易財の輸出入も行われない。均衡は閉鎖経済と同じである。

φ2>1/2>φ1のケースでは,第2国の所得シェアが第1国より高くなるため,第1国

から第2国へ非貿易財企業の直接投資が行われる。第2国のx財の生産シェアは立地シ ェア γ2に等しくなり,労働シェアφ2を下まわるため,Y 財生産では第2国のシェアは 労働シェアφ2を上まわる。このため第2国の Y財生産量が国内需要量を上まわり,超 過分は直接投資の利潤送金として第1国へ輸出される。

各国の一人当たりの支出Eiは(4),(18)式より次式の様に得られる。

( )

( )

[ α µ ]

βφ

µ α

− + −

=

2 1 1

1 1

i

Ei (24)

一人当たりの支出Eiを開放下と閉鎖経済下で比較しよう。(24)式と(13)式の値の差は次 式の様に表される。

(

1

2

φ

i

) ( [ α

1

− µ ) ]

(25)

したがって,開放経済下での一人当たりの支出 Eiは閉鎖経済下と比較して,海外より 利潤所得を受け取る第1国で高くなり,利潤送金を行う第2国で低くなる。

5. 厚生効果

開放下において,非貿易財企業が第1国から第2国へ進出すると,第2国において供 給される差別化財のバラエティが増加しその価格指数が低下するため,第2国の経済厚 生が上昇する要因となるが,第1国への利潤送金による所得の流出は第2国の経済厚生 を低下させる要因となる。一方第1国では利潤の受取によって所得が増大するが,非貿 易財企業の流出により差別化財の価格指数が上昇する。本節では,閉鎖経済下と開放経 済下の経済厚生を比較し,非貿易財企業の海外移転が経済厚生に与える影響を考察する。

(1)式より第i国の間接効用関数Viは次式で表される。

(8)

( )

α α

α

α

α −

=

i i

i E P

V 1 1 (26)

閉鎖経済の経済厚生をViC,開放経済下の経済厚生をViOで表すと,ViO/ViCは(27)式で 表される。

( )

{ } ( )

[

2 1 1 1

]

1 1

2

1 +

+

 =

 

 

 

= 

σα

α

µ α µ α φ

i

φ

i

iC iO iO

iC iC

iO

E E P

P V

V (27)

(26)式は所得の実質購買力を開放経済下と閉鎖経済下の比率である。各国ともY財で評 価した一人当たりの支出は閉鎖経済下と開放経済下で同じであるが,x財の価格指数が 異なるため,それらの間で実質購買力は異なる。この値が1より大きければ非貿易財企 業の国際移動が第 i国の経済厚生を改善し,1 より小さければ悪化させる。(27)式より ViO/ViCはφiμαの関数である事が示されており,その形状を確認しよう。(27)式を φiで微分すると次式を得る。

( )

{ α µ } φ α ( µ ) [ { α ( µ ) } φ α ( µ ) ]

σ α

φ   − − + −

  − − − −

= −

1 1 1 21 1 1

1 2 /

i i

i iC

iO V A

V

( ) [

2

{

1

(

1

) } (

1

) ]

0 2

1 1

2

− − + −

1

>

= φ α µ α µ

σα

φ

i i

A (28)

(28)式の値がゼロとなるφiは1つだけ存在し,このφiの値をφTとすれば次式のように 得られる。

2

{

1

(

1

) }

,

< <

1/2

= −

T

T

φ φ

µ α

φ µ

(29)

したがって,(26)式の値はφ1 =φTで最小値をとり,φiTではφiが大きいほどより 小さな値,φiTではφiが大きいほどより大きな値をとる(図3を参照)4

図3.ViO/ViCの形状

まず,両国の労働シェアが等しいφ1 2 =1/2のケースを見てみよう。このときViO/ViC

=1となる。開放経済下であっても非貿易財企業の直接投資とY財貿易は行われず,経 済厚生は閉鎖経済下と等しい。

次にφ2 >1/2>φ1のケースを考察しよう。被投資国(第2国)では,φ2 >1/2>φTであ

るため,φ2が取り得るいかなるφ2の値のもとでも,V2O/V2C>1となり,非貿易財企業 の海外進出により経済厚生は閉鎖経済下より改善する。これは,開放経済下では第2国 のX の価格指数P2の低下の効果が,第1国への利潤送金による所得流出の効果を上ま わり,閉鎖経済と比較し経済厚生は改善するからである。

次に投資国(第1国)に対する厚生効果を見てみよう。投資国ではパラメータの値に

4 (27)式の値はφiTでは正,φiTでは負である。

(9)

よって非貿易財企業流出の経済厚生効果が異なる。第1国と第2国の労働賦存量の差が あまり大きくない場合(φ1T)では,経済厚生が低下する。すなわち,第1国生産 の利潤の受取による経済厚生の上昇より価格指数の上昇効果が上まわる。

一方φ1Tでは,よりφ1が小さいほどV1O/V1Cの値は大きくなる。φ1の値がこのよ

うな範囲にあるとき,直接投資により経済厚生が改善する可能性をμの値に注目し考察 を行おう 5μが十分に 1 に近ければφT は十分に1/2 に近くなりこのとき最小値とな る V1O/V1Cの値も十分に 1 に近い。したがって,φTよりわずかに小さなφ1において V1O/V1Cの値が1を上まわるだろう。μが1に近ければ,開放経済下の閉鎖経済下と独占 利潤の差が小さく所得の上昇も小さい。しかし各差別化財は互いにより代替的であるた め,開放経済下の企業数の減少によるx財の価格指数の上昇が抑えられる。このため第 1国が取り得る労働シェアのより広い範囲で開放下の経済厚生が上昇する。

一方μが十分に0に近ければφTおよびφの値はゼロに近づく。この場合,第1国の 取り得る労働シェアの広い範囲でV1O/V1Cの値は1 を下回り,非貿易財企業の海外移転 は経済厚生を低下させる。1企業あたりの独占利潤は大きいものの,企業間の競争が緩 やかであり企業数が減少するとx財の価格指数P1が大きく上昇するためである。

μが中間的な値であるとき,φi=φにおける(27)式の値は次式のように得られる。

( ) ( )

α(µµ)

αµ µ α αµ

µ

α

 

 

= −

1

1 1 1

1

iC

ViO

V (30)

(29)式の値が 1 より大きければ,第1国の労働比率φ1が十分にφに近い値で第1国の 経済厚生が開放経済下で上昇するであろう。x財への支出シェアαが十分に小さいケー スでは(29)式の値は1を上まわる。これは差別化財への支出シェアが低く,その非貿易 財の価格指数上昇の影響が小さいためである。

このように,非貿易財企業の海外進出が投資国に与える効果は,各差別化財の代替の 弾力性が高く企業の独占度が低いほど,またそれに対する支出シェアαが低いほど,よ り広いの範囲で経済厚生は改善する。投資国では,自国の差別化財企業の合理的な行動 の結果,パラメータの値に依存して経済厚生が低下する可能性がある。

6. おわりに

本稿では,2要素一般均衡モデルを構築し,非貿易財企業の海外進出が進出国および 柀進出国の経済厚生に与える影響を考察した。本稿で明らかになった点は,以下のとお りである。

本モデルでは,非貿易財企業が資本集約財であり,資本豊富国である第1国から労働

5 x財間の代替の弾力性σσ→1ではμ→0,σ→∞ではμ→1になる。

(10)

豊富国である第2国へ直接投資が行われる。被投資国では非貿易財のバラエティが増加 し差別化財の価格指数が低下することによる経済厚生の上昇が,所得の流出効果を上ま わり,投資の受入により経済厚生が上昇する。一方,投資国に与える影響はパラメータ の値に依存して,経済厚生が上昇をもたらす第1国の労働シェアの範囲が異なる。代替 の弾力性が十分に高い場合は,独占利潤が小さくなるため第1国が第2国より得る独占 利潤の送金額は小さい。しかし他企業の財とより代替的であるため価格競争が厳しく,

開放経済でのx財の価格指数P1の上昇が抑えられる。これらにより広い労働シェアφ1 の範囲で,開放下で経済厚生が上昇する。しかし代替の弾力性が十分に低ければ,より 広い労働シェアφ1の範囲で経済厚生が低下する。これは,一企業あたりの独占利潤の 増大は大きいが,企業間の競争が緩やかな中,そもそも各企業の価格が高く,さらに第 1国から第2国への企業移転によるx財の価格指数P1の上昇もが大きいためである。

本稿では,労働賦存量以外は等しい2国間で,非貿易財企業が資本豊富国から労働賦 存国へ移動する。これは労働豊富国の市場規模が大きなためである。しかし,要素賦存 する比率の差が資本保有量より生じる場合には,資本所得のより大きな資本豊富国に資 本が移動する可能性が存在する。このような問題は本稿では考察されていない。また,

本稿では非貿易財企業の立地は自国あるいは外国から選択を行うが,両国で立地が可能 なケースが考察されていない。このようなケースでは第1国内でのバラエティの低下が おこらず経済厚生が低下する可能性が低くなる。これらのケースで経済厚生の変化を明 らかにすることが今後の課題である。

(11)

参考文献

Krugman, Paul. (1980). “Scale Economies, Product Differentiation, and the Pattern of Trade.” American Economic Review, 70(5), pp950-959.

Krugman, Paul and Anthony J.Venables. (1990). “Integration and the competitiveness of peripheral industry.” In Unity with diversity in the European economy: The Community’s southern frontier, eds. C.Bliss and J.B. de Macedo, pp56-75.

Kurata Hiroshi, Ohkawa Takao, Okamura Makoto. (2009). “Location choice, competition, and welfare in non-tradable service FDI,” International Review of Economics & Finance, 18(1), pp20-25.

McDougall G.D.A.(1960),”The benefits and costs of private investment from abroad: A theoretical approach,”Economic Record, 36, pp13-35.

倉田洋(2007)「自由参入,企業立地と厚生」,『経済学研究』,北海道大学,56(3), pp397-406

(12)

図1.日本の貿易収支とサービス収支 (単位:億円)

(財務省:国際収支統計より筆者が作成)

(13)

図2.日本の非製造業直接投資残高 (単位:億円)

(財務省:国際収支統計より筆者が作成)

(14)

図3.ViO/ViCの形状

ViO/ViC

1

0 φT 1/2 1 φi

図 2 .日本の非製造業直接投資残高  (単位:億円)

参照

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