E
l
一 マ ウスに
お け る バ ル ブ ロ 酸の抗けい れん
作用と脳 内γ
アミ ノ
酪酸 ・ アス パラ
ギ ン酸 ・ グ ルタミ
ン酸 濃度
に
及ぼ
す影響金 沢 大学 医 学 部小児 科 学 教 室 ( 主 任: 谷 口 局数 授)
村
田 祐( 昭和5 8年3月2 5日受 付)
けいれ ん系の E トマウスを使い, パ ルプロ酸 ( 以 下V P A と略) の抗けいれ ん性機 序を明ら かにす る 為, 脳 内γア ミノ酪酸(以下G A B A と略), アス パラギン酸, グルタ ミン酸濃 度に及ぼ す効 果を評 価し た. 対 照と し て, 脳 内G A B A 濃 度を増 加さ せ て抗けいれ ん作 用を な すこと が知ら れ ている ア ミノオ キシ酢 酸
(以下A O A A と略)の効 果を評 価し た. バラン スを崩す姿勢 刺 激, す な わ ち何回 か の, 1 5〜2 0c m 空 中に 放り 上 げ ることによ り, 生後1 2〜1 3適 齢のE トマ ウスは けいれ ん を おこす. V P A 2 5 0 m g/kg ま た は A O A A 2 0 m g/kg を腹 腔 内 注射の後に,放り上 げ刺 激に対す る反 応の評 価と脳 内G A B A,アス パラギン酸,
グ)L,タミ ン酸を測 定し た. 小 脳を除いた脳は液体 窒 素 中で凍 結し,溶け る前にすばや く と り出し た. G A B A
, アス パラギン酸, グルタ ミン酸の濃 度は酵 素 法によって測った. V P A(2 5 0m g/kg) の投 与は, E l‑マ ウ スを放り上 げ刺 激によ る けいれ ん か ら, 注 射 後1 5 分か ら 9 0分に わ た り阻止 し た. この期 間中, 脳 内アス パラ ギン酸 濃度は 2JL mOl/g湿 重 量 以 下に減 少し ていた. 対 照 的に, 脳 内G A B A 濃度は, V P A 注射 後1 5 分値で は変 化が な かった. しかし注射 後3 0分値で ピー クレ ベ ル に増加した. 3耳m Ol/g 湿重 量は越え な か
った. アス パラ ギン酸と G A B A の両レ ベ ルは V P A 注射の 6 時 間以 内に治 療前の レ ベ ル約3.3JL m Ol/g と 2.2〟m Ol/g 湿 重 量にも どった. しかし, V P A 投与は脳 内 グルタ ミン酸濃 度に有 意な変 化を おこさ な かっ
た. 放り上 げに よ る けいれ ん は, A O A A (2 0 m g/kg) 注射 後9 0分か ら 6 時間に わ たり完全に阻止 さ れた.
その期 間 中, 脳 内G A B A 濃 度は 4JL m Ol/g 湿 重量 以 上に増加し た. これ ら の結 果は E l‑ マウスに お け る けいれ ん阻止に必 要と思わ れ る脳 内 濃 度は, G A B A で は 4JL mOl/g 湿 重 量 以 上, アス パラギン酸で は 2
〟m Ol/g 湿 重量 以 下を 示 し ていた. そ れ故, V P A 投 与にお け る E l‑マ ウスの けいれ ん抑 制は, 脳 内G A B A 濃度の増加よ り も アス パラ ギン酸 濃 度 減 少によ り強く依 存し ている と考え た.
B y w o rds E l m o u s e, Aspa rtic a cid
, γ ‑A min ob ut yric a cid, V alpr oic a cid.
バルブロ酸( 以 下V P A と略) は, は じ め溶 剤と し て 使わ れ ていた が, 1 9 6 3 年M e u nie rl)らによ り抗けいれ ん作用 が発 見さ れ た. 現在 難 治 性の小発 作て ん か ん群 を は じ め と し て, 大 発 作, 純 粋 小発 作 等と広 範に使わ れ, す ぐ れ た抗けいれ ん作用 を 示 し ている2ト6)
そ の抗けいれ ん作用 は抑 制 性 神 経 伝 達 物 質の γ‑ア ミ ノ酪 酸( 以下G A B A と略) の脳 内 濃度 増 加 作用によ る ものと考え ら れ ている7). しかし, 治療 域で の使用量
では脳 内G A B A 濃 度の増 加は充 分で ないという. 近 年, 興 奮性 神経 伝 達 物 質の アス パラギン酸の脳 内 濃度
を減 少さ せ る作 用も報 告さ れ ている8)9).
そこで, 著 者は V P A の抗けいれ ん作 用の機 序を解 析す る為, 放り上 げ刺 激によ り人 間の大 発 作と よく 似 た発 作をお こすこと が知ら れ ている, E l‑ マウス1 0)に
V P A を腹 腔 内 注射し た. そ し て, その脳 内G A B A, ア ス パラ ギン酸, グルタミ ン酸 漉 度の変 化を調べた.
V P A の脳 内アス パラ ギン酸 濃度 減 少 作用 が, そ の抗 けいれ ん作 用と よ く相 関す ること を見 出し た.
材 料 と 方 法
E ffe cts of V alpr oic A cid o n Seiz u r e T hr e sh olds a nd Br ain C o n c e ntr atio n s of γ‑A min o‑
but yric A cid, A spa rtic a cid a nd G luta m ic a cid in E l m o u s e. Yuich i M u r ata
, Depa rt‑ m e nt of Pediatric s,(D ir e cto r : Pr of. N . T a nigu ch i), Scho ol of M ed icin e, K a n a z a w a Uni‑
V e r Sit y.
E l‑マ ウスは, 1 9 5 4 年に発 見さ れ, 1 9 5 9年に国 立予 防 衛 生 研究 所の今 泉によ り, 当初ep‑ マウスと し て報 告さ れ た特 殊 系マウスで あ る. 19 64 年に国際 登 録によ り E トマ ウスと命 名さ れ た. こ のマ ウスは外 観上,他の 健 常なヤウスと は変ら ないが, 生 後8 週以降 頃よ り,
平 衡感 覚を失わ せ る様な刺 激によ り容 易に痙 攣が誘 発 さ れ る よ うにな る. しかも痙 撃によ り 死ぬ こと は ない. 今回 の実験には, こ の E l‑ マウスの F 7 8 〜 F 8 0 で, 週 齢1 2 〜1 3週のも の を雌雄 関係な く使用 し た. 2 8 日齢 ま で は, そ の 匹数にか か わ らず 同 一 ケー ジ内に, 同一 腹の仔と母 親と と もに飼育し た. 2 9 日齢 以降は親から 離し て, 雌 雄 別々と し, 1 ケ ー ジ内に3 〜 5 匹の飼育 数と し た. 飼 育 条 件は, 温 度2 3±20C, 湿 度6 8% , 人 工照 明 ( 明期: 6 〜1 8時, 暗期: 18 〜 6 時) と し た. 実験は 1 4 〜2 4時の間に行っ た.
第5 週 齢日 よ り, 週1 回 の放り 上げ刺 激を行い, 容 易に発 作をお こす よ うに した. 痩 攣発 作を簡 単に記 述 す る と, 以 下のよ うに経 過す る. マウスを 上下に軽く 放り 上げる と ピ グ ピ ク という動 作と と もに, チュ ッチ
エ ッ … … と疇 泣し て突 然横 転す る. 次いで強 直 性 痙 攣 期, 間 代性 痩 攣 期を経て 回復し ていく. これ以 外で途
中で と ん坐す る も の は不 完 全発 作と し た.
V P A は鐘 紡 株 式 会 社よ り原 末の提 供を受け た. 原 発を生理食 塩 水で 0.3〜0.4 ml が約2 5 0 m g/kg に な
る よ うに調整し, E トマウスの腹 腔 内に注射し た. 一 方, G A B A ト ラン スア ミ ナ ー ゼ を選 択 的に阻 害 し, 脳 内G A B A 濃 度のみ を増 加さ せ ること が知ら れ ている ア ミノオ キシ酢酸 (以下A O A A と略) 1 1)を, 脳 内 G A B A 濃 度の み を増 加さ せ た場 合の抗けいれ ん作 用 を知る た め の対 照と し た. そ し て,約2 0 m g/kg を腹 腔 内 注射し た.
各 薬物の注射 前, 注射 後15 分, 3 0 分,6 0 分,9 0 分,
1 2 0 分, 6時 間の各々の時 間に, 5 0 回の放り 上げ刺 激 ( 高さ 1 0〜2 0c m 位) を行っ た. 刺激の直 後, ま た は,
けいれ ん発 作をお こし た時は間代 性 痙 撃 期か ら その直 後にか け て断 頭し, 液 体 窒素 申で凍 結し た. 同時に断 頭 部よ り ヘパリン採血 を し た.脳は凍 結し ている間に,
速や かに小脳と臭 球を除いた全脳を と り出し て測定し た. 脳 重 量は 2 7 0m g 前 後であっ た.
抽 出は 3 M 一過 塩 素酸で ホモジ ナ イ ズ し, 3,0 0 0 G,
1 5分 間遠 心し た. その後, 上 清を 2 M ‑K H C O3でpH 6〜7に調 整し, 1時 間, 水 冷 静 置の後10,0 0 0 G, 1 0分 間 遠心 し た.そ の上 清を測 定まで,
‑200C で凍 結 保 存し た. 血祭も同様に保 存し た.
血 柴 中の V P A 濃 度は酵 素 免 疫 法の E M I T 法で測 定し た. 脳 内G A B A, アス パラ ギン酸, グルタ ミン酸 は, これ ら の アミ ノ酸の代謝と関 与す る酵 素反 応を利
用 し た "酵 素 的微 曇 測 定 法' ' によって測っ た. す な わ ち, 加 藤 尚彦1 2)と Gr aha m 1 3)ら の方 法を 一部 改 変し て 測 定し た.
まずG A B A は, 過 剰 羞の α ‑ ケ ト グルタル酸と N A D P+の存 在 下でG A B A を下 記の2 つ の反応によ り N A D P H に転 換し, その螢 光を測 定す る方 法で あ る.
(1) G A B A 十二α‑ケ ト グルタル酸トラン スア ミナー ゼ
コ
㌫
ク警 三 ; 孟 : ‡ ;ニ ニ … :‡ 孟 諾
+些墜 墜
コ ハ ク酸+ N A D P H + H +
反 応 液と して,ピロ リン酸塩 綬 衝 液(0.1 M ,pH 8.4) 3 ml, G A B A S E[0.0 7 5 M ‑リン酸 緩 衝液に2 5%(v/v) グリセロ ー ルを含む もの に1単位/ml の割 合に溶解]
0.5ml, N A D P+(1 m M/L, pH 7.0)0.5 ml, αMケ ト グルタ ミン酸(6 0 m M/L, pH 7.0)0.5ml, 0・4%2‑メ
ルカ プ トエタノ ー ル0.5 ml の混 合液を調 整す る. この 反 応 液5 0〝1 と試 料1 00/Jl と を混 合し, 室 温で 4 5 分 間反応さ せ た後, 00Cで1 N ‑NaO H l OJLl を加え て,
6 00C で 15 分 間温浴によ り, N A D P H を保 存して基質 を破 壊す る. その後, OOC で 0.0 3% H202‑9 N ‑NaO H
3 2 0ノJl を加え,6 げC で 10分 間温 浴し,弓卓アルカ リによ る螢 光 増 加を し た後, 日立2 0 4 形 分 光けい光 光 度計に よ り, 3 4 0 m 〟の波 長で励 起し, 4 5 0 m 〟 で測 定し た.
アス パラ ギン酸は, 過 剰量 のα‑ケ ト グルタル酸と N A D H の存 在 下に, 下 記の2 つ の反応によ り アス パ ラギン酸を N A D+ に転 換し, その螢 光を測 定す る方法
で あ る. ト ラン ス
(1) アス パラ ギン酸十α‑ケ ト グルタル酸 乙主土二皇
オ キ ザル酢 酸+ グルタ ミン酸
(2) オ キ ザル酢 酸+ N A D H + Ⅲ+ 脱 水 素 酵 素
らリン
ゴ酸+ N A D+
反 応 液は, 2 0 0 m M ‑イ ミ ダ ゾー ル塩 酸 (pH 7.0) 3
ml, α‑ケ ト グルタ ミン酸(6 0 m M/L, pH 7.0)0,5ml,
N A D H (1m M/L) 0.5ml, G O T ( 2m g/ml) 1 0 0〟1,
リン ゴ酸 脱 水素 酵素 (5 m g/ml)2 0/バ, 0 .4% 2‑メルカ
プ トエタノー ル0.5 ml を調整す る. こ の反応 液50〟l と試 料5 0/∠1 と を混合し, 室温で45分 間反応させる. そ の後, OOC で 1 N‑H Cl l OJLl を加え, 室 温で3 0 分間 放 置す る. す な わ ち N A D+ を保 存し,基 質を破 壊す る.
その後 再び 00C中で9 N‑N aO H 2 0 0/Jl を加え て,
380C 30 分 間温 浴で螢 光増 加を行う. その後,340 m〟 で
励起し, 4 5 0 m/J で測 定す る.
グルタ ミン酸は, 過 剰量 の N A D十の存 在 下でグルタ ミン酸を下記の反 応によ り N A D Il に転 換し, その螢 光
芸 警 誓 て : 慧 志 望 こ 迩 準璽α̲ケト グルタル
酸+ N H3+N A D H 十H+
反応 液と し て,2 0 0 m M ‑ト リス塩 酸緩 衝 液(pH 8 ・4) 2.5 ml, N A D+(1 5 m g/5 ml緩 衝 液)1 ・O ml, A D P(26
m g/5 ml綬衝 液)0・5 ml, グルタミ ン酸脱 水 素酵 素(1 0
m g/ml) 0・4 5 ml, 0・4%2‑メ ルカ プ トユタノー ノレ0・5
ml の混 合 液を調 整す る. この反 応 液5 0〟1 と試 料50
〟1 と を室 温で40 〜4 5 分 間混合 反応の後, 09C中で1 N
‑N aO H 2 0〟1 を加え, 70 〜8 00C で温 浴す ることによ り, N A D H を保 存し, 基 質を破 壊す る. その後, 00C
[
∃
≡
○
⊃
ぎ
t
内
⊃ S
ェ
y
01 1, 2.5 5 7.5 10 GA BA c o n c (Z ntratlo n
( ×灯8 m o 川0 0〃l)
F ig,1. Relatio n ship betw e e n 8u o r e s c e n c e of the
N A D P十pr odu ct pr odu c ed fr o m the c o n v e r sio n of N A D P H by al kalin e‑pe r O Xide tr e atm e nt a nd G A B A le v elsin thelXl O 1 0tolX l O 8 m olr a nge.
01 1. 2 .5 5 Aspartate c o n ⊂e ntratio n
(
X 灯㌦○ルと)
F ig・2・ Relatio n ship betw e e n flu o r e s c e n c e pr odu ct to N A D+in str o ng al kali a nd a spa rtatele v elsin the lx1 0‑1 0to 5×1 0‑9 m ole r a nge.
中で 0.0 3% H202‑9 N ‑NaO H 20 0Jバ を混 合し, 6 00C
で 1 0 分 間 温 浴によ り螢光 増 加を行う. その後,3 4 0m 〟 で励 起し, 4 5 0 mJJ で測 定し た.
な お測 定 成績は, 平 均値±標 準偏 差で表わ し, 有意 差検 定には, tテス ト法を 用いた.
結 果
図1, 2 , 3に示 し て あ る よ うに, 脳 内G A B A, ア ス パラ ギン酸, グルタ ミン酸濃 度を測 定す る為に, 既 知の標 準 試料の吸 光度を測 定し て標 準曲 線を得た. 抽
出し た試 料は全て, この標 準 曲線 内に入っていた. E l ‑マ ウスの けいれ ん発 作は, V P A 約2 5 0 m g/kg 注射の後, 5 0 回放り 上げ刺 激にも か か わ らず, 注 射 後 1 5分か ら 9 0 分に かけ て抑 制さ れ た. し か し 1 2 0 分 以 降は抑 制さ れ なかっ た. 一 方A O A A 約20 m g/kg 注 射 群では 3 0分 後よ り, けいれ ん発 作の域 値の上昇が み ら れ た. 90 分 以降は 5 0 回の放り 上げ刺 激にも か か わ ら ず, 発 作は抑 制さ れ た.
V P A 2 5 0 m g/kg 注射 後の血祭中V P A 濃 度 ( 図4) は 1 5分 後に 5 58 ±9 7JJg/ml と急激に上昇し た. 3 0分 後も 5 4 0±1 3 4JJg/ml と, ほ ぼ同一 レ ベルを保ち,そ の 後 減少し た. 6時 間後には, 血 祭 中か ら は検 出で き な かっ た. 発 作と 血祭 中のV P A レ ベ ルと の関 係を み る と, 血 集 中の V P A 濃度が, 約1 7 0/Jg/ml 以 上 で発作 は抑 制さ れ ていた.
脳 内G A B A 濃 度 ( 図5) は注射 前のコ ントロ ー ル群
で2.24 ±0.2 7ルm Ol/g湿重量で あった. 注 射 後1 5分 値で は 2.12±0.17/Jm Ol/g 湿重量 と変 化し な かった.
01 1. 2 .5 5 7.5 G Luta m atc c o n c e ntrat io n
(
×灯
9m oし′〃L)
F ig.3. Relatio n sh ip betw e e n N A D H flu o r e s e n c e a nd gluta matele v elsin thelXl O‑1 0to 7.5×1 0 9
m ole r a nge.