チーム医療における薬剤師職能の新展開が医療に与 える影響
著者 杉田 尚寛
著者別表示 Sugita Naohiro
雑誌名 博士論文要旨Abstractおよび要約Outline 学位授与番号 13301甲第4794号
学位名 博士(創薬科学)
学位授与年月日 2018‑09‑26
URL http://hdl.handle.net/2297/00053154
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
氏 名 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学 位 授 与 の 日 付 学 位 授 与 の 要 件 学 位 授 与 の 題 目 論 文 審 査 委 員
杉田 尚寛 博士(創薬科学)
医薬保博甲214号 平成30年9月26日
課程博士(学位規則第4条第1項)
チーム医療における薬剤師職能の新展開が医療に与える影響
主査 加藤 将夫 副査 松下 良 副査 崔 吉道 副査 坪井 宏仁 副査 菅 幸生
学位論文要旨
Abstract
Objective: In this study, we examined whether pharmacists’ involvement is useful and whether occupational-border-free cooperation improves the quality of medical practice with respect to issues of multidisciplinary team practice (MDT): 1) MDT is promoted at the institutional level, but not in the area; and 2) there are no approaches beyond the occupational border. Methods: 1) Pharmacists’
activities for the adequate use of albumin products in the Ishikawa Prefecture Collaborative Blood Transfusion Therapy Committee: A questionnaire survey regarding blood transfusion practice (total dosage of albumin products, management division, and health care professionals’ awareness of the importance of adequate use) was conducted involving all medial institutions in Ishikawa Prefecture.
Based on the survey results, educational activities regarding adequate use for various occupations were performed at the prefectural level.
2) Pharmacists’ activities for nutritional therapy in the Nutritional Support Team(NST) for patients with Bullous Pemphigoid (BP): The subjects were 18 patients admitted to the Department of Dermatology, Noto General Hospital and diagnosed with BP by dermatologists from May 2006 to May 2010. Dermatologists, pharmacists, and dietitians were responsible for nutritional support. We examined the correlations of items influencing the admission period in the BP patients. We also investigated the nutrition index and quantity. In addition, we classified the severity of BP, and examined the relationship between the energy dose in the erosion phase and TP or Alb levels.
Results & Discussion: 1) The survey results showed the use and management of albumin products in Ishikawa Prefecture. Based on the results, pharmacists attempted to increase educational activities through study meetings for various occupations or panel discussion programs involving participants.
The dosage of albumin products per bed in Ishikawa Prefecture decreased from 2013, after these efforts being started, until 2014.
2) Factors influencing the admission period in the BP patients were “treatment period” and “energy dose ratio”. In the severe BP group, the TP and Alb levels were slightly lower. Even in severe BP patients in whom pharmacists and dietitians cooperatively increased the nutrition quantity in the erosion phase, these levels were low, suggesting that there is no correlation between the energy dose and TP or Alb levels in patients with BP.
The results suggest the significance of promoting MDT involving pharmacists from institutional to regional activities with respect to the adequate use of albumin products as well as the importance of cooperative activities by a NST for BP patients beyond the occupational border. This study supports the possibilities of contribution to medical care by present approaches of pharmacists in “MDT”.
【目的】チーム医療は、多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提 とし、互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を行うこと である。しかし、現状のチーム医療の課題として、1.チーム医療が施設レベル の取り組みとして行われているが、地域も含めた広がりがみられない、2.構成 員において、互いの職種の境界にこだわり、その境界を越えての協働的な取り 組みが少ないことが挙げられる。チーム医療が必要とされる分野に輸血・血液 製剤の適正使用がある。しかしながらその範囲は、施設内にとどまり十分な効 果が得られていなかった。そこで、課題1に対し石川県合同輸血療法委員会(以 下:合同委員会)において薬剤師が中心となりアルブミン製剤適正使用の啓発 活動を通して新たに薬剤師がチームに加わることでアルブミン製剤適正使用 が地域に広げることができるかを試みた。一方、指定難病の一つである水疱性 類天疱瘡(Bullous Pemphigoid:BP)患者の生存期間に影響を与えるリスクフ ァクターとして、栄養指標の一つであるAlbの低下が示されている。しかしな がら、Alb を維持するためどのような栄養管理を行えばよいかの情報は殆ど無 い。BPは、十分な栄養管理を行われなければ低栄養を招くだけでなく、筋力の 低下、易感染性と連鎖が生じる。したがって、BP患者は入院中より適切な栄養 管理が重要であると考えられる。そこで、課題 2に対する取り組みとして、BP 患者の栄養サポートチーム(以下:NST)の中で薬剤師と栄養士がBP患者の栄 養療法について、互いの専門を超えて協力することによって BP 患者の問題点
を包括的に捉えられるのではないかと考え実施した。本研究では、それぞれの 課題についてチーム医療における薬剤師職能の新展開が医療に与える影響を 検討した。
【方法】1.合同委員会における薬剤師のアルブミン製剤適正使用への取り組 み:
1-1.アンケート調査:石川県内の成分輸血の使用実績をもとにした対象施設の アルブミン製剤総使用量、管理部門、適正使用に対する医療従事者の問題意識 を含む輸血医療実態のアンケート調査を2011年度より 4年間行った。
1-2.アンケート項目:Ⅰ.血液製剤使用状況、Ⅱ.施設、Ⅲ.輸血の管理体制、Ⅳ.
輸血療法委員会、Ⅴ.輸血ターゲット値、Ⅵ.輸血前後の感染症検査、Ⅶ.保険査 定、Ⅷ.その他の項目から構成され設問87個。そのうちアルブミン製剤に関す る設問内容は、年度別の総アルブミン製剤の使用量、病床数別のアルブミン製 剤の使用量、アルブミン製剤の管理部門、アルブミン製剤の適正使用に関する 医療従事者の問題意識である。
1-3.アンケート送付と回収:石川県内の成分輸血の使用実績をもとに対象施設 へアンケートを郵送し、回答を郵送で受け取った。
1-4.啓発活動:アンケート調査をもとに適正使用に関する啓発活動を多職種に 向けて全県レベルで2012年度より 3年間実施した。
2.BP患者の NSTにおける薬剤師の栄養療法への取り組み:
2-1.BP患者背景:2006年 5月~2010 年5月に能登総合病院皮膚科に入院し皮 膚科医師によるBP と診断された18症例を対象とした。年齢、性別、入院日数、
身長、体重、Body Mass Index(BMI)、血液一般検査値、血液生化学検査値、栄 養指標、栄養量、併存疾患の有無、軟膏処置面積が 6000cm2以上で治療が行わ れた日数、BP発症から寛解までの軟膏処置を行った日数を調査した。
2-2.検討項目:対象患者において入院日数に影響する項目(年齢、入院期間、
併存疾患など)の相関について検討した。栄養指標〔Total protein(TP)、
Albumin(Alb)〕と栄養量(エネルギー投与量、蛋白質投与量)について全患者 およびBPガイドラインの分類における重症群(prednisolone(PSL)投与量が 0.6㎎/㎏/day以上)と中等症群(PSL 投与量が0.6 ㎎/㎏/day 未満)の2群に 分けて検討した。
【結果・考察】1.合同委員会における薬剤師のアルブミン製剤適正使用への取 り組み:石川県下の成分輸血の使用実績をもとに対象施設へアンケートを郵送 し回収率は、2011 年度 73.4%(72/98 施設)、2012 年度 80.4%(86/107 施設)、 2013年度 84.8%(73/86 施設)、2014年度70.8%(107/151施設)であり、平均
70%以上であった。アンケートに回答した施設の総病床数は、2011 年度 11500
床、2012 年度 11068 床、2013 年度 11216 床、2014年度 10782 床であり、4年 間の病床数は緩やかな減少がみられた。なお、各年度の回答した施設は、石川 県の成分輸血供給量(カバー率=石川県におけるアンケートに回答された施設
の総血液供給量/石川県に対して石川県赤十字血液センターより供給された総 血液供給量)の 99.4~99.7%をカバーし、石川県の輸血医療の実情を反映して いると考えられる。アルブミン製剤を管理している部門は、薬剤部が約 70%を 占め、中小医療施設では薬剤部以外の部門や医師が管理していることが解った。
また、適正使用に関する問題点を認識していない、又はわからない医療従事者 がいることもわかった。そこで、アンケート結果を考慮し薬剤師が中心となり 多職種に向けた勉強会や参加者を交えたパネルデスカッションによる啓発活 動を新たに増やした。パネルデスカッションは、参加者を交えた「今更聞けな いアルブミン製剤 Q&A」を行った。その内容は、アルブミン製剤 Q&Aに対して パネルリストを医師、薬剤師、検査技師、看護師、赤十字血液センター職員、
日本血液製剤機構職員らで構成し各自の専門分野ごとに質問内容への解説を 行い会場に○×札で内容の確認や意見交換を行った。この講演会では、薬剤師 だけでなく検査技師、看護師、医師などの多職種方が参加され、参加施設の割 合は、輸血製剤を使用している石川県の全施設数の 20%を占めていた。一方、
石川県におけるアンケート調査から得られた、総アルブミン製剤の使用量は、
2011年度から 2012年度にかけて増量傾向がみられたが、2012年度にアルブミ ン製剤使用量はピークに達した後、減少に転じ 2012年度に比べて、2013 年度 では約7%、2014年度では約17%と漸減した。アンケート回答施設数に依存して 変化しない石川県全体での 1 病床あたりのアルブミン製剤使用量は、2012 年
度をピークに年々減少傾向がみられた。この結果は、総アルブミン製剤使用量 の経年推移と同様であった。さらに、アンケート結果から得られた石川県にお ける総アルブミン製剤使用量を病床別に比較した場合は、2012年度に比べ2013、
2014年度で減少傾向を示した。また、病床数別のアルブミン製剤の1病床数あ たりの使用量は病床数に関係無く、2012 年度に比べ2013、2014 年度で漸減し ており、総アルブミン製剤使用量の経年推移の傾向と同様であった。以上によ り、県レベルでの多職種に向けての啓発活動開始後にアルブミン製剤の使用量 の減少傾向が見られたことがわかった。
今回は、石川県での取り組みを示したが、未だ県レベルで多職種も巻き込んだ アルブミン製剤適正使用の施設活動を行った報告は無く、この取り組みが他県 や地域の参考になれば適切な管理・治療に貢献できることが期待される。課題 1に関して、以上の、啓発活動を通して、薬剤師を含むチーム医療の形態を施 設内から施設外(県レベル)の活動へ新たに拡張することの意義と、「チーム医 療」における薬剤師の関与が新たな医療の進展の一例として示されたと考えら れる。
2.BP 患者の NST における薬剤師の栄養療法への取り組み:BP 患者背景は、男 女比が 8:10 の割合で、男女の年齢には差がなく、年齢 75 以上の高齢者が 17 例(94%)を占めた。BMIは 20.3±3.0を示し、その内訳はBMI18.5未満の低体
重患者が 4例(22.2%)、BMI18.5 以上 25 未満が 12 例(66.7%)、BMI25 以上の 肥満患者が 2例(11.1%)であった。臨床検査値は、WBC、EOSINOに高値が認め られたが、その他の検査値には変化がみられなかった。BP 患者の併存疾患は、
高血圧症、心疾患がそれぞれ 8 例(44.4%)、糖尿病 5 例(27.8%)と生活習慣 病の割合が多くみられた。併存疾患数は、2 疾患 7 例(38.9%)、3 疾患 6 例
(33.3%)と併存疾患を複数持つ患者が多かった。BPの栄養療法では、BP患者 の入院日数に影響を及ぼす因子を検討し「皮膚科軟膏処置日数」、「エネルギー 投与量の比(びらん期/水疱期)」に正の相関がみられた。BP患者は水疱期から びらん期となる過程で TP 値は、水疱期 6.2±0.6 g/dL 、びらん期 5.6±0.7 g/dLを示し、Alb 値が、水疱期3.3±0.5 g/dL 、びらん期2.9±0.5 g/dLと病 期変化に伴い低下し栄養障害が認められた。さらに重症群では、TP値、Alb値 も低下傾向を示した。特に、薬剤師が栄養について栄養士と協働し薬剤師主導 で重症群患者の栄養を管理し、びらん期で栄養量の増量を漸次実施したが、エ ネルギー投与量を褥瘡治療推奨量の 35~45 kcal/kg/day 以上に増量した症例 でも TP 値、Alb 値は低値であり、エネルギー投与量と TP 値、Alb 値に相関が みられないことを確認した。今回、著者は、入院中の BP 患者の病期変化に伴 う栄養評価や栄養サポートを試みたが、その提案までは至らなかった。しかし、
本研究では BP 患者に対する栄養管理状況を薬剤師が栄養士とともに継続的、
包括的に捉えたことにより問題点が明らかになったことに意義があると考え
られる。今回、指摘した BP 患者における栄養療法の問題点が克服できれば、
入院期間の短縮に伴う QOL の向上や医療費の適正化につながると期待される。
今後BP患者におけるびらん期の栄養不足のメカニズムの解明が望まれる。
【結論】チーム医療が施設レベルの取り組みは行われているが、地域も含めた チーム医療の広がりがみられない課題1に対して、アルブミン製剤適正使用の 啓発活動を通して薬剤師が施設レベルにとどまらず県レベルの多職種への啓 発・教育が医療に与える影響を検討した。薬剤師が、中心となり県レベルでの アルブミン製剤適正使用の啓発活動を多職種に対して継続的に行うことによ りアルブミン製剤使用量が漸減する可能性が示された。
チーム医療の構成員において、互いの職種の境界にこだわり、その境界を越え ての取り組みがみられないという課題2に対して、難病指定疾患のNST の中で 薬剤師が栄養士と協働して、互いの職種間の垣根を超えて BP 患者について包 括的に治療へ関与した結果、BP患者への適切な栄養管理方法の確立が今後必要 であるという問題点を示したことで、新たな取り組み例を示すことができた。
本研究では、それぞれの課題に対する取り組みを通して「チーム医療」におい て薬剤師が、施設レベルだけでなく地域も含めた広域な活動が医療貢献につな がること、また、チーム医療の中で互いの職種間の垣根を超えて治療に取り組 むことが更なる医療の進展につながることを示唆した。
審査結果の要旨
医療の高度化、複雑化に伴いチーム医療が重要視されているが、その実践にあ たって未だ多くの課題がある。申請者は、以下の2点について、薬剤師として チーム医療の新展開を図ることにより、新たな成果を得た。第1に、未だ、全 国レベルでアルブミン製剤の適正使用が十分になされていない問題に対して、
薬剤師として石川県合同輸血療法委員会の活動を先導し、学会による全国区調 査に比べ、より詳細なアンケート調査を石川県全県レベルで実施した(輸血供 給量に対するカバー率 99.4%以上)。その結果、中小医療施設では薬剤部以外 の部門や医師がアルブミン製剤を管理していること、また、適正使用に関する 問題点を認識していない、又はわからない医療従事者がいることも明らかにし た。更に、アンケート結果を基に、薬剤師が中心となり多職種に向けた勉強会 や参加者を交えたパネルデスカッションによる啓発活動を新たに増やした。
2011 年度以降から2014 年度までの期間において、石川県のアルブミン製剤総 使用量は約 20%漸減した。第2に、指定難病の一つである水疱性類天疱瘡(BP)
患者への栄養療法については未だガイドラインも無いなか、薬剤師と栄養士が 互いに協同し、薬剤師主導で、栄養管理に当たった結果、BP 患者の栄養療法に 関し、びらん期で栄養量の増量を実施したにもかかわらず、総タンパク(TP)
値、アルブミン(Alb)値は低値であり、エネルギー投与量とTP 値、Alb値と
の間に相関がみられないという新たな問題点を示した。以上は、これまで正確 に把握されてこなかった問題点に対し、臨床上極めて有意義で発展性のある研 究と認められる。従って、本論文は、博士(創薬科学)論文に値すると判定され た。