わが国株式会社会計制度 にお 6 才る 伝統 的資本概念 の特質
会計理論における資本概念を財産分配局面で利用する合理性の尺度
・ . ・ , 3・ .
石 川 業
目 次 第
1
章 序説第
1
節 本稿 の課 題 と方針1
課題 の設 定2
検討の 方針第
2
章 ドイツ株 式 会 社会 計制度 にお け る資 本概 念 の生 成第
1
節 序第
2
節 「会社資本」 と 「出資資本」‑ ‑ 1 8 3 9
年 ヴ ユルテ ンベル ク商法輩案 第3
節 資 本 金額 の定款 へ の記載 と株 式 へ の分 割‑‑1 8 4 3
年 プ ロ シア株 式会 社 法〜1 8 4 9
年 ドイ ツ普通 商法 草案1
資本 金額 の定 款 へ の記 戟‑ 1 8 4 3
年 プ ロ シア株 式 会 社 法2
資本 金額 の株 式 へ の分 割一 ‑1 8 4 9
年 ドイツ普 通 商法 草案第
4
節 貸 借 対 照 表 に お け る分 配 可能 額 の算 定 の 明文 化 と資 本金額 の 記 載 の 明文 化…
‑ 1 8 5 6
年 プ ロ シア株 式 会 社規 則〜1 8 7 0
年 改 正普 通 ドイツ商 法1
貸 借 対 照 表 にお け る分 配可 能額 の算 定 の 明 文化一 ‑ 1 8 5 6
年 プ ロ シア株式 会 社 規則〜1 8 6 1
年普通 ドイ ツ商法2
貸借 対 照 表 に お け る資 本金額 の記載 の明 文化‑‑ ‑ ‑1 8 7 0
年 改 正普通 ドイ ツ商法‑‑
1 8 8 4
年 改正 普 通 ドイツ商 法〜1 8 9 7
年 ドイツ商法 第6
節 結 び (以上,前
号 )第
3
章 ドイ ツ株 式会社 会 計制度 にお け る資本概 念 の確立‑ わが国 にお け る起 源 に尋 ね る(2) 第
1
節 序第
2
節 未 払込 資本金額 の会 計処理 を め ぐる2
つ の見解1
資産性 否定説 (払込 資本額 記載 説 ) と資産性 肯 定 説 (資本金額 記 載 説)2
資産性 否定説 (払込 資本額 記載 説 ) の論 拠3
資産性 肯定説 (資本金額記載 説) の論 拠第
3
節 未 払 込 資 本 金 額 の会 計 処 理 を め ぐる立 法 当局 の動 向 と資 本 金概 念 の確立‑ 1 8 7 0
年 改正普 通 ドイ ツ商法〜1 9 6 5
年 ドイ ツ株 式法1
立法 当局 の認識 と不対応‑
1 8 7 0
年 改正 普通 ドイ ツ商法〜1 8 8 4
年 改正普 通 ドイ ツ商法2
立法 当局 の対応 と資本金概 念 の確 立‑
1 8 9 7
年 ドイ ツ商法 (起草 段 階)〜1 9 3 1
年 改正 ドイ ツ商法3
確立 した資本 金概 念 の定着‑
1 9 3 7
年 ドイ ツ株 式法〜1 9 6 5
年 ドイ ツ株 式法第
4
節 合意 に も とづ く資 本 概 念 の 明確 化 と フ ロー に もとづ く資 本 概 念 へ の方 向性‑ 1 9 8 5
年 改正 ドイ ツ商法 。株 式法〜現 行 ドイツ商法 。株 式法1
引受 済 資本 金 と しての資本金概 念 の明確 化2
フ ロー に もとづ く資本 準備 金概 念 の生 成 ・確 立( 1 8 8 4
年 改正 普通 ド イ ツ商法 〜)3
払込 資本額 記 載 説へ の方 向性 と資本 金概 念 の変 化 の兆 し 第5
節 結 び (以上, 本号)第
3
章 ドイ ツ株式会社会計制度 にお ける資本概念 の確立‑ わが国 にお ける起源 に尋 ね る
( 2 )
第 1節 序
本章の 目的は,大 き く分 けて,以下の
3
つである。ドイツ株式会社会計制度 における資本 (資本金)概念 は,前章 で論 じた 生成過程を経 た後, ある論点 につ いての決着 とともに
1
つの確立段階 に至る。 この過程 を明 らかにす ることが,最初の 目的である。
‑ 2 0
一一5 2
わが国株式会社会計制度 にお ける伝統 的資本概念 の特質
( 2)
さて, その後,上 の よ うに して確立 した資本金概念 は,現行 の ドイ ツ株 式会社会計制度 に至 るまで に, よ り一 層 明確 にされてい る
。しか し, それ と同時 に他方 で は,比較 的最近 の資本準備金概念 の生成 か ら確立 への流 れ とともに,変化 の兆 しもみせつつ ある
。これ らの ことを明 らか にす るのか,
2つ めの 目的 とな る
。なお,本章 において も引 き続 き ( 上 の
2つ の 目的 に沿 った作業全体 を通 じて),本稿 第
1章 で設 定 した課題 に意識 が 向 け られて
いく
。つ ま り,「フ ロー に もとづ く資本概念」 と 「 合意 に もとづ く資本概念」 とい う道具立 て によ って, わが国だ けでな く, あ るいは, わが国以前 に, ドイツの株式会 社会計制度 にお ける資本概念 を理解 ・説 明 してみたい。 これが,本章 にお
け る 3 つ めの 目的で あ る
。以上 の作 業 によ って明 らか にな る, ドイ ツ株式会社会計制度 に伝統 的な 資本概念 は, それ を直接 的な起 源 と しなが らも独 白の展 開 を して きた, わ
●●
が国株式会社会計制度 に伝統 的な資本概念 の特質 を浮 き彫 りに して くれ る。
その ことを後続 の章 で論 じるための前提 が,先立つ前章, そ して本章 の検 討 を通 じて得 られ るはず で あ る
。第
2節 未払込 資本金額 の会計処理 をめ ぐる
2つ の見解
1 87 0 年 に 改 正 さ れ た 普 通 ドイ ツ 商 法 ( Al l ge me i ne s De ut s c he s Hande l s ge s e t z buc h) にお いて, 資本 金 の金額 が貸借 対照 表 の消極側 ( 質 方) に記載 され る ことが 明文 を もって定 め られた1 後,
1つ の問題 が明確 に 認 識 され, 論 じられ るよ うにな って いた。 その間題 とは, ( 定款上 の) 質 本金額 す なわ ち充実 され るべ き金額 ( 合意 に もとづ いて, 出資者 によ り払 込 みが 引 き受 け られた金額) の うち, まだ払 い込 まれて いない金額 の会計 処理 を どの よ うに行 うのか, とい う問題 で あ る
。その金額 につ いて は, い
1
この こ とにつ いて は, 本稿第2
章第4
節2
を参照 され たい。くつ か の呼 び方 が示 され て きたので あ るが, 本稿 で は と くに 「未払込 資本 金 ( 鶴)」 と呼ぶ こ とにす る
コ。私 見 に よれ ば, この未 払込 資 本金額 の会計処理 はつ ま る ところ, 貸借 対 照 表 Lの資 本 金額 が, 払 い込 まれ た金額 (フ ロー に もとづ く資本概 念 ) で あ るのか, それ と も充実 され るべ き金額 ( 合意 に もとづ く資本概 念 ) で あ るのか につ いての見 方 と連動 す る論点 で あ る
。この ことを確認 す るために, まず本
節で は, 未払込 資本 金額 の会 計処理 をめ ぐって 当 時展 開 され て いた 議 論 を
概観 して お こ う
。1
資産性 否定 説 ( 払込 資本額 記載説 )と資 産性 肯定 説 ( 資本 金額記 載説)
末払込 質本 金額 につ いて の会 計処理 は, (当時 にあ ってす で に) 最 ドの 対極 的 な 2 つ の 方法 に大別 で き る と思 う。
1 つ め は, 未払込 資本 金 の金額 を 資 本金 の金額 か ら控 除 して, 払 い込 ま れ た金額 を貸借 対照 表の
消極 側 ( 貸 方) に示 す とい う方法 で あ る
。た とえ ば, 資本 金 1 , 0 0 0 の うち ,2 5 0 は現 金 を もってす で に払 い込 まれ たが, 7 5 0
は まだ払 い込 まれ て いな い場 合, この方 法 に よれ ば, 卜の貸借 対 照 表 1 a
あ るいは貸借対 照表
pibが作成 され る
rJなお, 資 本金額 の うち, す で に払 い込 まれ た金額 を 「払込 済 資本 金
」と い う項 目名 を用 いて示す。 また, ここで必 要 と思 われ る項 目だ けを示 し, 項 目の配列 につ いて は, ドイツ商法会 計制度 に伝統 的な固定性 配列法 に よ
る ことにす る。
貸借対照表
1 a
現 金
2 5 0
資 本 金
未払込 資本 金 払込 済 資本 金
2
資本金額 の うちの,末払込みの金頻であることを端的に表現できるか らである。‑ 2 2‑ ; 了 ・ /
わが国株 式会 社会計制度 にお ける伝統 的資本概念 の特 質
( 2)
現
金貸借対照表 1b
込済 資本金
2 5 0
貸借 対 照表
1 a
と貸借 対 照表1 b
とで は, 表 示 の形 式 が異 な って い る。しか し, ここで は当面,両者はいずれ も払 い込 まれた金額 (払込済 資本金 顔 )す なわ ち払込 資本額 を記載 しよ うとす る もの と して, 同 じ会 計処理 に よ る もので あ る と考えて お くことにす る.与。
続い て もう一 万,
2
つ めの会 計処理 は, 資本 金 を定款 上 の金額 ない し株 式 の額面価額総額 を もって貸借 対照表 の消極側
(貸方) に記載 し,他方で, 未払込 資本 金額 を払込 みを 引 き受 けた者へ の払込 請求権 (債権)と して, す なわ ち, 資産 な い し財産 と して積極側 (借方)
に記載す るとい う方法 で あ る。 上 と同 じ例 の もとで, この 方法 が採 られ る場 合, 次 の貸借対 照表2 a
が作成 され る。貸借対照表
2 a 未払込資本金
現 金
資 本 金
3 この1つ めの会計処理 を説 く論者 が, 具体 的 に貸借対 照表 18と貸借対 照表 1bの いず れ を想 定 して いたのか は, 私 が調べ た範 囲で は判 然 と しな い こ とが ほ とん どであ った (た とえば, 本稿
脚注 4 ,5 ,6
, お よび,1 5
に示 した文献参照)。そこで,ここでは両者を示 してある。
た だ, これ らは常 に, 実 質 的 に も同 じ貸 借 対照 表 で あ る といえ るわ けで は
めの会計処理 ない し貸 借対照 表 表示 の特徴 や論拠 につ いての もう少 し、LLち入 っ た議論 を ひ ととお り終 え た後 に),述 べ る こ とにす る (この後 に続 く本節
2
の 最後 に付 した,脚
注 1]を参照 されたい). この.酎 ま,現 行の ドイツ株 式会 社会 計 制度 における資本概念 までふ まえ る と, 無視 で きな い論点で ある と思 って いるO
1
つめの会計処理 と2
つめの会計処理 との違 いは, まず未払込資本金額 に注 目していえば, その貸借対照表上 の資産性 を前者 は否定 し,後者は肯 定す るとい う違 いである。 また, この違 いは同時 に,貸借対照表上 には, 払い込 まれた金額 と しての払込資本額 (払込済資本金額) を記載す るか, 充実 され るべ き金額 と しての資本金額 を記載す るか とい う違 いで もある。このような意味で,未払込資本金額 の会計処理 とい う論点 は,貸借対照表 上の資本金概念 についての, いわば分岐点 と位置づ けることができる論点 なのである。
この ことをふ まえて本稿 では,上述の1つめの会計処理 につなが る考え 方を,未払込資本金額 についての資産性否定説 ない し払込資本鶴記載説 と 呼び,
2
つめの会計処理 につなが る考 え方 を資産性肯定説 ない し資本金額 記載説 と呼ぶ ことにす る。 と くに積極側 (借方) を想定す る場合 には,莱 払込資本金額 についての資産性否定説 および資産性 宵定説 とい う呼称 を繭 面に出す。反対 に,消極側 (貸方) を意識 したい ときには,払込資本額記 載説および資本金額記載説 とい う呼称 を前面 に出す ことにす る。以上 のよ うな資本金概念 に関わ る
2
つの会計処理 は当時,各 々どのよう な論拠 に もとづ くと考え られていたのか。 この ことにつ いて次 に検討 して みよう。2
資産性否定説 (払込資本額記載説) の論拠未払込資本金額 の会計処理 をめ ぐる資産性否定説 (払込資本額記載説) の論拠 は当初, 貸借対照表 の金額 をあま り大 き くみせ な いよ うにす るた め1(貸借対照表 1aおよび貸借対照表 1bで は未払込資本金額 が積極側 に
4 I t Ke yL 3 ne r,Di eAkt i e nge s e l l s c haf t e nunddi eKommandi t ge s e l l s c haf t e n aufAkt i e nunt e rde n Re i c hs ‑Ge s e t zYon
ll .Juni1 87 0,Be r l i n,1 87 3
年,2 62
頁参照。L )
Ll ‑5 6
わが 国株式 会社 会計 制度 にお け る伝統 的資本概念 の特 質
( 2)
記載 されない分,総資産額 は,貸借対照表
2 a
におけるよ りも小 さ くなる), とい う程度 の ものであ った。 その後,未払込資本金額 は債権 と して評価 さ れな けれ ばな らない とい う理解が広 ま って くると, それ に伴 う評価損 の計 上 を避 けるため とが , あ るいは, その評価 が困難 であ るため(;, とい った ことが論拠 と して説かれ るよ うにな った (資産性否定説 を採 れば,未払込 資本金額 の資産 と しての評価 を問題 に しな くて済 むわけである)0しか し, これ らの説明 は厳密 には,未払込資本金額 が本質的 に貸借対照 表の積極側 に記載 され得 ない金額 であ ることの理 由にはな らない。 いずれ の説明 において も,未払込 資本金額 がい ったん積極側 に記載 されて, そ し てその後 の ことが問題 にな っている。 また, 同 じ理 由でそれ らは,貸借対 照表 の消極側 に,すで に払 い込 まれた金額 が記載 され ることにつ いての本 質 的な論拠, いいかえれ ば,充実 され るべ き金額 が根本 的に記載 され得 な い とい う論拠 にはな らない。
それ らの説 明 と一線 を画 して いた と思 われ るの は,フ ィ ッ シ ャ ー
( R.
Fi s c her)
が説 いた論拠 であ る7。彼 の考 え方 によれば,貸借対照表 の借方 (積極側) には,会社 か ら実 際 に支 出ない し投資 された ものでなければ,記帳が行 われない。 そのため, まだ実 際 に払込 みない し調達 が行 われて さえいない, したが って未支 出の 金額 であ る未払込 資本金額 は,記 帳の対象 にな らない 。
5
た とえ ば,A.Pi nne r,DasDe ut s c heAkt i e nr e c ht ,Be r l i n,1 8 9 9
年,2 0 4
貢 参照。6 0.Knappe ,Di eBi l anz e nde I . Akt i e l 1 ‑ Ge s e l l s c haf t e l lVOm St andpunkt ede
rBuc hhal t uⅠ 1 g
,Re c ht s wi s s e ns e l l af t uI l d de r St e ue r ge s e t z e
,Hannove r
&Be r l i n,1 9 0 3
年,7 0
貢参照。7
R.Fi s c he r,Di eBi l anz we l ・ t e ,WasS i es i n°undwass i eni c h上s i l l d,Te l l2
,Le i pz i g,1 9 0 8
年,2 6 4‑ 2 81
貢 参照。 な お, フ ィ ッシ ャー の主張 を検 討す るに当 た って と くに, 万代勝 信 「フ ィ ッシ ャー学 説 にお け る利 益 計算 構 造」『一 橋論叢』 第
9 6
巻第5
号( 1 9 86
年1
1月) を参考 に させ て いただ いた。他方, 貸借 対照 表 の貸方 ( 消極側 ) で は, 会社 に実 際 に払込 み な い し調 達 が行 われ た ものだ けが,記 帳 の対象 にな る
。その た め, 払 い込 まれ た金 額ではない資本金額 はそ もそ も記帳の対象 にはな らない。 したが って, フ ィッ
シ ャー は よ り明確 に, 貸借 対 照 表 l a を もた らす よ うな会 計処 理 よ りも, 貸借 対 照表 1 b を もた らす よ うな会 計処理 が 本来 は採 られ るべ きで あ る と
主張す る (そ して, この主張 に もとづ けば, 上 の貸 借対照 表 で
用いた払込
●●●
済 資本 金 とい う項 目名 よ りも, ス トレー トに, 払込 資本 とい うよ うな項 目 名が用 い られ る こ とにな るので あ ろ う)。
この よ うな フ ィ ッシ ャーの主張 は, 規範諭 な い し1 ' 1 : . 法論 と して は 正当
性を もち得 るで あ ろ う R o しか し, 商 法 。株 式 (会社 ) 法 規定 の解 釈 論 と し て は無 理 が あ った と思 う。 とい うの も, 彼 が支持 す る貸 借 対 照表 1 b は資 本 金 額 を 記 載 して い な い が ,
当時 の 1 8 97 年 商法 ( HaI l de l s ge s e t z buc h:
HGB) 第 2 61 条第 5 号は, 前章 で取 り上 げた 1 87 0 年 改正 普通 ドイ ツ 商 法 ( 以 下,1 87 0 年 改 正商 法 と呼ぶ) 第 2 3 9 a 条第 3 号 を 引 き継 いで, 消 極 側 に 「資本 金 の金額」 を記 載す べ き ことを明文 を もって指 示 して い るか らで あ る
。本稿 の
目的 ( 株式会 社会計 制度 にお け る資本概 念 を明 らか にす る と い う目的) に照 ら して, ここで 当面得 て お きた いの は
,規範諭
。立法 論 よ
りも無理 のな い解 釈 論 の ほ うで あ る
。もっと も, フ ィッシャー は
, 自説 の正 当性 を支 え る根拠 と して, 株式会 社 を含 む商人
一般 が従 うべ き, 1 8 97 年商 法 第 3 8 条 にい う
「正規の簿 記 の 諸 原 則 」 ( Gr unds at z eol ‑ dnungs maBi ge rBuc hf t l l hr ung) を 引 き合 い に 日日ノて い る
。その点 で彼 は, 商法 ・株式 ( 会社)法 規定 を完 全 に無 視 して
8
ただ,本文 に示 した よ うな フ ィッシャーの考え方,す なわ ち,貸 方 (消極側) で は会社 に実 際 に払込 みな い し調達 が行 われた ものだ けが記 帳 の対象 にな り, また,
借方 (積極側 )で は会社 か ら実 際 に支 出ない し投 資 され た ものでな けれ ば記 帳が行 われな い とす ることの合理性 は, なお問われ得 るで あ ろ うO この点 につ いて は,本章 ではあ ま りilf.ち入 らず に, と くに次章 でふれ る。ー 2 6‑ 5 8
わが 国株 式 会社 会計 制度 にお け る伝統 的 資本概 念 の特 質
( 2 )
い るわ けで はな い。 ただ, その第
38
条 を根拠 に して,株式 会社 に対 す る 特 別規 定 で あ る前 述 の第2 61
条 第5
号 は無効 で あ る, とまで い うの で あるリ。
しか し, そ もそ も第
38
条 にい う 「正規 の簿記 の諸原
則」の 内容 は, 香一義 的 に フ ィッシャーの考 え方 を導 くことにな る とは即 断で きないで あろ う。 また,次 に取 り上げ る ジモ ン
( H.V. Si mon)
は, 開始 (開業)貸借 対照 表 にお いて は資本 金額 「鉦紋説 (未払込 資 本金鶴 の資産 性肯 定 説) が「一 般 的 な簿記 の諸原
則 」 ( Al l ge me i neBuc hf uhrungs gl l unds at z e)
で あ るか ら, その後 に作成 され る貸借対照表 において も同説 によるのが 正当で あ る, とい う趣 旨の主張 を して いたので あ る (本節3
参照)。つ ま り, フ ィッシャーの考え方 は,前述 のよ うに 「正規 の簿記の諸原則」
か ら ト分 に
演緒
され るわ けで はなか った。 そ こで,同
「原則」を帰納 す る よ うな意 識 で, 払込 資本額 記 載説 (未払込 資 本金頻 の 資産性 否定説 ) が「一般 的」な もので あ るか ど うか を探 ってみて も, な お見解 は分 かれ 得 る とい うことで あ る。
いずれ に して も,
1 8 9 7
年商法 第3 8
条 は, ドイツ株式 会社会計 制度 の資 本概念 に結 びつ く,解釈 論 と しての払込 資本記載 説 (未払込 資本 金額 の資産性否定説)の決定 的な論拠 にな るとはいい きれな いで あろ う11。
9 Fi s c l l e r
, 締掲 乱2 81
頁参照。1 0
こ こで は と くに, 丘十嵐 邦正 「ジモ ンの貸借 対照 表論 (上) 」
『商学集志』第5 7
巻第 1
号( 1 987年 8
月),3 1頁参照。
11 こ こで, 本稿脚注 3でふ れ た よ うに, 貸借対 照表 1aと貸借対 照表 lbが実 質 的 に も同 じ貸 借 拙 堅表で あ る と常 にいえ るわ けで はな い と思 う理由を述 べ るO
なお, 本 文 にお いてす で に, 未払込 資本 金額 を め ぐる資産性否定 説 (払込 資本
額記載説) の解 釈 論 と して の難 しさにふ れ た ところで もあ るので, それ につ い て も追 加 的 に言及 して い くこ とに したい。
さて, 未払込 資 本 金額 の会 計 処 理 を め ぐる議 論 が始 ま った の は
1 8 7 0
年代 衣3
資産性肯定説 (資本金額記載説) の論拠未払込資本金額 の会計処理 をめ ぐる資産性肯定説 (資本金額記載説) は,
か らで あ り, その議論 に 1つ の決 着がつ くの は
1 9 3 1
年 の ドイ ツ商法 改正 にお いてであ るとみ られ る (この ことにつ いては,後 の本 章第3節 2を参照 された い)。 そ して, この期 間は, ドイツ商法 ・株式 (会社)法 において想定 され る 貸借対照表の作成方法 が, もっぱ ら財産 目録法であ った と解 されてい る期 間 に 含 まれ る( 1 8 6 1
年普通 ドイツ商法 か ら1 9 6 5
年株式法 にか けての該 当す る期 間 の ことにつ いて, ここでは と くに,安藤,前掲書,5 ト5 2
貢, お よび,万 代勝 信 『現代会計 の本質 と職能』森 山書店,2 0 0 0
年,4 2 A6
貢参照)0この貸借対照表作成方法 の もとでは,財産 目録 に記載 され, そ して貸借 対照 表の積極側 (借方) に記載 され る (され得 る)財産 ・債権 と しての未払込資本 金の金額 と,定款 で定 め られ, そ して貸借対照表の消極側 (貸方) に記載 され る (され得 る)資本金の金額 とは,勘定 を通 じての体系的ない し組織 的な結 び つ きを もたない金額 であ る。 この場 合,未払込資本金額 は, 資本金額 を実質 的
●■
に減少 させ る評価勘定 にはな り得ないはずであろ う。 そのため,財産 目録法 に よるか ぎ り,貸借対照表
1 a
の よ うに未払込資本金額 を資本金額 か ら控 除す る 形式で表示 してみて も,資本金額 は減少す ることにな らず, したが って貸借対 照表 1bの よ うな表示 とは異 な って, 払込 資本 の金額 を表示す ること もで きな い と思 われ る。 これが, それ ら2
つ の貸借対照表が常 に同 じであ るとはいえな い理 由である。もっとも,簿記 ・会計の技術的な側面 か ら離れて,考えの うえでは,払込 み が引き受 け られた金額 としての資本金額 か ら未払込 資本金額 を差 し引 くことで, 払 い込 まれた金額 を計算す ることは可能であろ う。 しか し, あ くまで財産 目録 法 に もとづ く貸借対照表 上の ことと して いえば,資本金額 (消極項 目) か ら未 払込 資本金額 (積極項 目)が控 除 され るとみ るのは,不 自然 な見方 であ るよ う に思 え る。 自然 なのは, その逆 に,未払込 資本金額 (積極項 目)か ら資本金額 (消極項 目) が控除 され るとみ る見方で あろ う。 ここで は もはや, 未払込資本 金額 が積極項 目と して扱 われ ることが前提 にな って いるが, も し, それが財産 目録 ひいては貸借対照表 に記載 され ると した ら,積極項 目と して記載 され る以 外 にない と思 うのであ る。
それ に対 して,貸借対照表
1 a
の よ うな表示 は, 資本金額 を示 す点 で解釈 論 的に評価で きて も,狙 い どお りには払込資本額 を示せ ない うえ に,未払込 資本 金額 の位 置づ けを難 しくして しま う。 つ ま り, この金額 は,消極項 目の控除項‑ 2 8‑ 6 0
わが国株式会社会計制度 における伝統 的資本概念の特質
( 2)
トェ‑ル
( H.Th
61) に よ って支持 され12, その後, 前述 の ジモ ンに引 き 継 がれて, よ り詳細 に論 じられ た13。 その ジモ ンの主張 をま とめ る と,吹の よ うにな る。
商法 。株式 (会社)法規定 (
1 884
年改正普通 ドイツ商法 (以下,1 884
目とされていることか ら,消極項 目それ 自体 ではない とい うだけでな く (上述 の とお り,消極項 目の評価勘定 に もな り得 ない),直接 的に積極側 に記載 され ない ことか ら, いわば純粋 な積極項 目で もない とい うことにな って しまいそ う である。 とす ると, た とえば,株式会社の成立 。開業時に, まだ資本金額の全 額 は払 い込 まれていない場合, 開業貸借対照表か らすでに資本 (金)欠損が生 じている (積極項 目の総額 は,未払込資本金額が算入 されない分,資本金 (紘) 額 を含む消極項 目の総額 よ りも小 さ くなる) とい う, これ も不 自然 と思え る事 態 につなが ることにな る。 また,性格が暖味にな っている未払込資本金額 の評 価 (本節
3
参照)を,都合よ く行 った り回避 した りす る余地 も生 まれかねない(本章第
3
節2
参照)。つ まるところ,財産 目録法 に もとづ く貸借対照表上で払込資本額 を表示 しよ うとす るな ら,貸借対照表
1 b
のよ うな表示方法 を採 るのが最 も自然 で直接的 であるとい うことにな ると思 う。 ところが, その表示 は,資本金額 それ 自体 を 示 さない表示であ って,本文で述べた とお り,解釈論 的に無理があるのであ った 。
ちなみに, ここでの解釈論 か らは外れ るが,継続的な複式簿記 に もとづ く貸 借対照表の作成方法,すなわち,誘導法が採 られ る場合であれば,結論 は異 な る。 誘導法 によれば,貸借対照表
1 a
も貸借対照表1 b
と同様 に,払込資本額 を 示 し得 るのである。 本文では, この ことも視野 に入れて, それ らを2
つ とも払 込資本額記載説 によるもの と して取 り上 げた。 この ことにつ いては,実際 に誘 導法が採 られ る場合 にふれ ることに しよう (本稿脚注7 3
参照)。 この脚注で述 べた ことは,その ときのための布石 に もな る。1 2 H.Th61 ,DasHande l s r e c ht
,1.Bd. ,6. Auf
l.,Le i pz i g ,1 8 7 9
年,5 0 2
貢参照。1 3 H.V.Si mon,Di eBi l anz e nde rAkt i e nge s e l l s c haf t e nundde rKommandi t 一
ge s e l l s c haf t e naufAkt i e n,Be r l i n & Le i pz i g ,1 8 8 6
年,1 2 2 ‑ 1 2 3
貢, および,H.V.Si mon,Di eBi l anz e nde rAkt i e nge s e l l s c haf t e nundde rKommandi t 一
ge s e l l s c haf t e naufAkt i e n ,4. Auf
1.,Be r l i n ,1 91 0
年 (なお同書 は,1 8 9 8
年刊 の第2
版 の重版 であると序で述べ られている),2 0 7 ‑ 2 1
1貢参照。年 改 正 商法 と
呼ぶ)1 85a 条 5項, お よ び, 1 897 年 商 法 261 条 5 項 ) の文 言 に も とづ けば 当然 , 貸 借 対照 表 の 消 極 側 ( 貸 方 ) に は, 定 款 に定 め られ て い る資 本 金 額 ( 額 面
価額 総 額 ) が 記 載 され る。 そ れ と 同 時 に, 積 極 側 ( 借 方 ) に は, 未 払 込 資 本 金額 が 記載 され るべ き こ とにな る
。とい うの も, 未 払込 資 本 金 額 は, 株 主 に対 す る会 社 の払込 請 求 権 ( 債 権 ) を表 わ す 金額 で あ って, それ が債 権 で あ るか ぎ り, 他 の債権 と
同様 に貸借 対 照 表 に記載 され る こ とにな るか らで あ る。 また, そ れ につ い て は, 次 の規 定 に も とづ い て 評 価 が 行 わ れ る
。す な わ ち, 「不 確 実 な債 権 は そ の 見 積 価 値 に よ って 記 載 され, 回収 不 能 な債 権 は償 却 され な けれ ば な らな い
」( 1 884 年 改 正 商 法 31 条 2 項 , 1 897 年 商 法 40 条 3 項 )
11。以 上 の よ うな諭 の運 び方 ( 根 拠 規 定 の 参照 の仕 方) か らい って, 未 払 込 資 本 金 額 につ い て の 資 産 性 背 定 説 (資 本 金 額 記 載 説 ) に は, 商 法 ◎株 式 ( 会 社 ) 法 規 定 の解 釈 論 と して無 理 が な い よ うに思 わ れ る
。ま た, この説 は本節
1で示 唆 した よ うに, 貸 借 対 照 表 に記載 され る資本 金 額 が, 合 意 に もとづ いて 出資者 ( 株 主 ) に よ り払込 みが 引 き受 け られ た金 額 , す な わ ち, 充 実 され るべ き金額 で あ る とい う, 前 章 にお いて得 られ て い る理 解 と も整 合 的 で あ る
。以 上が, 未 払 込 資 本 金額 の会 計 処 理 を め ぐって
当時 展 開 され て い た議 論
1 4 資料 は,1 8 8 4 年改正商法 につ き H.St aub,Konl me nt
arZ um Al l ge me i l l e n De ut s c l l e nHande l s ge s e t z buc h,3. & 4.Auf l . ,Be r l i n ,1 8 9 6 年, また,1 8 97 年商法につき H. Makowe r ,Hande l s ge s e t z buc hm i tKomme nt ar,1 3. Au f 1 .
,1. Bd. ,Be r l i n,1 9 0 6 年である。訳については,安藤英義 『 新版 商法会計制度論 』
白桃書房,1 9 97 年,6 6 頁 ( ただ し, 同箇所 における訳 は ,1 8 61 年普通 ドイツ 商法第 31 条第 2項についての訳であるが,同条同項 は,1 8 8 4 年改正商法第 31 条第 2項 および 1 8 97 年商法第 4 0 条第 3 項 と同 じ条文である), および,1 6 6
頁参照。‑ 3 0‑ 6 2
わが国株 式会社会計制度 にお ける伝統 的資本概念 の特質
( 2)
の概要 で あ る
。これ をふ まえ て最 後 に, そ こで示 され た 2 つ の見解 の,学 説 お よび実務 にお け る採 用状 況 につ いてふ れて お こ う
。1 8 7 0 年 代 未 か ら始 ま った この議 論 にお いて, 学 説上 の多 数 説 は当初 , 資産 性 否定説 ( 払込 資本額 記 載説 ) で あ り, また, 実務 も, この説 に従 っ た会 計処 理 を行 うのが一 般 的 で あ った よ うで あ る
‑{'。しか し, 1 9 0 0 年 代 に 入 ってか らは,学 説 上の多数 説 が資産性肯 定説 ( 資本 金額 記載説 ) へ と移 り, また,実務 もその流 れ に沿 うよ うに, この説 に従 った会計処理 を行 う よ うにな って い った とい う
1〔;。第 3 節 未 払込 資本 金額 の会 計処理 をめ ぐる立法 当局 の動 向 と資本金概 念 の
確窪‑ 1 8 7 0 年改正 普通 ドイ ツ商法 〜1 9 6 5 年 ドイ ツ株 式法
前 節 で は, 未払込 資本 金額 の会計処 理 とい う論 点 につ いて, まず はその 全体像 と性 格 をつ か む た め に も,大 き く
2つ の見解 を概 説 した。 これ を受 けて本節 で は, その論点 に関 わ る立法 当局 の動 向を取 り上 げ る
。その動 向の 中で の, あ る対応 に よ って, それ まで の未 払込 資本 金額 をめ ぐる議論 に一 応 の決着 がつ くこ とにな る
。そ して それ とと もに, ドイ ツ株 式会 社 会計制度 にお け る資本金概 念 は,実質 的 に
1つ の確 立段 階 に至 る と いえ るよ うに思 うの で あ る
。1 5 Ri l l g,Zude n Ent wur fe i ne sne ue nAkt i e nge s e t z e s ,Ar c hi vf t l rThe or i e undPr axi sde sAl l ge me i ne nDe ut s c he nHande l s ‑undWe c hs e l r e c ht s , 45. Bd.
,Be r l i n,1 8 8 4 年,1 0 5 ‑ 1 0 6 貢,および,Knappe ,前掲書 ,7 0 頁参照。
1 6 Si mon ,前掲書 ( 第 4 版,以下同 じ) ,2 07 貢,脚注 1 71 ,Fi s c he r ,前掲書,
2 6 4‑ 2 6 5 貢,および,
R.Pas s ow,Di eBi l anz e nde rpr i vat e nundGf f e nt l i c he n
Unt e r ne l l munge n,2.Bd. ,2.Auf l . ,Le i pz l g & Be r l i n,1 91 9 年,8 8 貢参照。
1 立法 当局 の認識 と不対応
‑
1 8 7 0
年改正普通 ドイツ商法〜1 8 8 4
年改 正普通 ドイツ商法立法当局の認識
立 法 当局 は, 次 に述 べ て い くこ とか ら読 み取 れ るよ うに, 遅 くて も
1 8 8 4
年改正商法 の起草段 階 においてす で に, 未払込 資 本金額 の会計処理 をめ ぐる2
つの見解 が存在す ることを認識 していた。 しか し,上述 の よ う な資産性肯定説 (資本金額記載説)の解釈論的な 自然 さに もかかわ らず, その段階では,立法 当局 はいずれの説が適切であるのかを特定 しなか った。この ことに関 して,同法の
1 8 8 3
年草案および1 8 8 4
年草案 の理 由書 には, 次の ような論述 がある (ただ し, これ ら2
つの草案理 由書においては若干 の文言 の相違 があ る。 ここでは1 8 8 4
年草案理 由書 の文言 を示 すが,趣 旨 は1 8 8 3
年草案理 由書 と同 じであると解 され る)。「資本金 につ いてすべての払込 みはまだ行 われていない場合, 資本金 の総額 ない しその増加額 が消極側 に記載 され, かつ, なお未払 いの金 額が請求権 と して積極側 に記載 され るのか, あ るいは,すでに請求 さ れた金額, および,払 い込 まれた金額 だけが消極側 に示 され るのか と い うことは,実質 的には相違 を生 じさせない17
。」
この よ うな認識 に もとづ いて,
1 8 8 4
年 改正 商法 で は結 局, 未払込 資本1 7 Ent wur fe i ne sGe s e t z e sbe t r e f f e nd di eKommandi t ge s e l l s c haf t e n auf Akt i e nunddi eAkt i e nge s e l l s c haf t e nne bs tMot i v e nundAnl age n, Re i c hs t ag 5.Le gi s l at uトPe r i odeⅣ.Se s s i on ,1 8 8 4
年,1 7 4
貢,脚
注 D。なお,Ent wur f e i ne sGe s e t z e sbe t r e f f e nddi eKommandi t ge s e l l s c haf t e naufAkt i e nunddi e Akt i e nge s e l l s c haf t e nne bs tBe gr i ' l ndungundAnl age n,Be r l i n ,1 8 8 3
年,2 6 3
貢,脚注2)
をあわせて参照。‑3 2‑ 6 4
わが国株式会社 会計制度 における伝統 的資本概念 の特質
( 2 )
金額 の会計処理 につ いて具体 的 。値接的 に言及す るよ うな規定 は設 け られ なか った。 しか し, 立法 当局 による上 の認識は,正 しくなか った。 どち ら の方法 を採 るか は,立法 当局 に とって 「実質 的には相違 を生 じさせ」得 る のである。
1 8 8 4
年 改正商法 の起 草段 階 にお いて は,実 は, 会社設 立後 の資本 金額 増加 に際 して,条件付 きで,株式の額面
価額未満での発行 を認 め る規定 の 導 入 が検 討 されて いた (1 8 8 3
年草 案 お よび1 8 8 4
年草 案2 1 5 a
条2
項3
文 参照 )。 それ は結 局, 明文 を もって禁止 され る こ とにな ったが( 1 8 8 4
年 改 正商法21 5 a
条2
項3
文), ここで興 味深 いの は,株式 の額面価
額未満 での発行 が行 われ る場 合, 額 面 価額 と実 際 に払 い込 まれ る金額 との差額 を どのよ うに処理す るのか とい うことに関す る,草案 における次 の論述 で あ る。「‑・・・資本金 の増加 に際 して, (株式 の‑ 石川)発行価格
( Emi s s i ons ‑ pl l e i s )
が額面価
額 よ り低 い場合 には, その小 さな払 い込 まれ るべ き 金額( e i nz uz ahl e l l de rBe t r ag)
で はな く, これ (額 面価額‑石 川) が貸借 対照 表 に計 上 され るとい うのが決定 的なはず であ る。‑‑・ ・ 2
つ の金額 の差額 は,利益 で填補 されな ければな らない‑‑‑。 ‑‑ この こ とは, すでに現存,効力を生 じている法 とみ ることが許 され るであろ う‑‑・LH。」また, この論述 には,次 の注が付 されている。
「したが って, この場 合 においては,株 主総 会 によ って定 め られ た払
1 8
前掲1 8 8 4
年輩案埋l
h書,1 7 4
頁,および, 前掲1 8 8 3
年草案理由書,2 6 3 ‑ 2 6 4
頁 。
込金額
( Ei nz ahl ungs be t r ag)
の, 全額払込 みが まだ請求 されていな い ときに も,常 に,総額面価額が消極側 に記載 されなければな らず, それに対 して後で払い込 まれ るべ き金額 は,会社の請求権 として積極側
に記載 されなければな らない】。。」以上の論述の趣 旨を私な りに整理す ると,次の
2
つの段落のようにまと め られ る。資本金額が分 かたれた,本来 は」。その全額 が払 い込 まれ るべ き金額 であ る額面価額 よ りも,少ない金額 の払込 み しか行われない場合,すなわ ちこ こでは,株式 の額面
価
額未満での発行 が行 われ る場合,額面価額 と実 際に 払 い込 まれ る金額 との差額 は,分配可能額 の減少要因 となる。 なぜな ら,まず,分配可能額 は貸借対照表 において,株主への払込請求権 (未払込資 本金)を含む積極項 目の金額か ら,資本金を含む消極項 目の金額 を控除す ることによ り算定 され る。 そ して,株式の額面価額未満での発行が行われ る場合 には,貸借対照表 に記載 され ることにな る消極項 目の金額 (資本金 顔) よ りも積極項 目の金額 (未払込資本金額) の少ない分が,分配可能額 の減少 を もって填補 され るか らである21。
このよ うな分配 可能額 の減少 は,貸借対照表の消極側 に資本金を鶴 面
価
頗総額で記載 し,積極
側
に払込請求権 と しての未払込資本金の金額 を記載1 9
捕掲1 8 8 4
年草 案埋両書,1 7 4
頁,脚 注2 )
, お よび,前掲1 8 8 3
年草案理 由書,2 6 4貢
,脚 注 1) 参照。2 0
ここでの 「本来 は」 の意 味 は,規 箱的 な もので はな く, いわ ば初期 設定 的 に, 定款 等 に別段 の定 めが な けれ ば, とい った意 味 で あ る。2 1
た とえ ば,1 , 0 0 0
の額面価額 総 観 とな る株 式 に対 し,7 5 0
の払込 み が 引 き受 け られ る とい うか た ちで, 株 式 の斬面
価額未満 で の発 行 が行 われ る場 合, 分配 可能額 は2 5 0
減少す るこ とにな る( 7 5 0
(未払込 資本金額)‑工0 0 0
(資本 金額 )‑
‑2 5 0
(分配 可能額 の減少額 ))。一 一 34 ‑ ‑
6 6
わが国株式会社会計制度 における伝統 的資本概念 の特質
( 2 )
す ることによ ってのみ,認識 され る。 そ こで,株式の額面価額未満での発 行が行 われ る場合 には, それ に伴 う分配 可能額 の減少 を認識す るために, 未払込 資本金額 につ いての資産性背定説 (資本金額記載説) が採 られなけ れ ばな らな い。 この ことは, (
1 8 7 0
年改 fFJ海法 の もとで,) すで に明 らか な ことであ るといえ る。以上 のよ うに,株式が額面価額未満で発行 され る場 合, それ に伴 う分配 可能額 の減少 が貸借対照表 に反映 され るか否か, いいかえれば, 資産性背 定説 (資本金額 記載説)が採 られ るか否かは,立法 当局 にとって実質的な 相違 であ った とみ られ る。 立法 当局 は, その場合 に同説が採 られていな け ればな らない と考えていたのである。
立法 当局 の不対応
そ うであるな ら, その考えは,株式の額 面価額 および額面超過額 での発 行 の場 合 に も貫かれ る必 要が あ った と思 う。 とい うのは22, これ らの場 合 において も, 引き受 け られた金額 の払込 みが実 際 には行われ得ない とい っ た理由で,未払込 資本金覇 につ いての評価減が生 じる可能性 があ り, した が って斬面価額 未満で株式 を発行 した場合 と実質 的 に同 じ結果 (同様 の分 配 可能額 の減少)が生 じ得 るか らである2:;。
2 2
この本文 で述 べ る理由以前 に, そ もそ も (少 な くとも理論的 には),株式 の 発行価
額 のあ り方が,未払込 資本金 (顔 )の払込請求権 と しての性格, あるい は, 資産性, したが って未払込 資本金額 の会計処理 を変え る要因になるとは思 えない。2 3
た とえ ば,1 , 0 0 0
の額面‑ 1
価額総額 とな る株式 に対 し, 当初 は1 , 0 0 0
の払込 み が引 き受 け られていたが, それ につ いての払込請求権 に評価減2 5 0
が生 じた と す る。 この場合 に も,消極項
目の金額 (資 本金額) はその ままに積極項
目の金 額 (未払込資本 金額) は減 るため,分配 l朋 巨額 が2 5 0
減少す ることにな る。 こ れ は, 本稿り却注 2 1
で示 した よ うな株式 の額面価
頗 未満 での発行時の例 と, 同 様 の結 果であ る。それ に もかかわ らず,資産性否定説 (払込 資本額記載説) の採用 も認め られ るとすれば, 同説 に もとづ く会計処理 によ って,上 の よ うな分配 可能 額 の減少 を選択 的 に避 け ることがで きる2̀l。 前節 でふれ た よ うに, その会 計処理 において は,資産 と しての未払込 資本金 (額) の評価減が問題 にな
らないか らである。
その よ うな,未払込資本金額 の評価減 によ って生ず る分配 可能額 の減少 は,
1 8 8 4
年改正商法 の草案 が取 りま とめ られ る前 に, す で に数 人 の論者 によ って示 唆 されて いた25。 しか し, 立法 当局 はその 「実質 的」
な問題 に つ いて,気づかなか ったか, あ るいは少 な くとも,手 当てを施 さなか った のである。2 立法 当局 の対応 と資本金概念の確立
‑ 1 8 9 7
年 ドイツ商法 (起草段 階)〜1 9 3 1
年改正 ドイツ商法立法 当局 の対応
( 1 ) ‑ 1 8 9 7
年商法 (起草段 階)1 8 8 4
年 の商法 改正以後,上述 の とお り, ジモ ンらによ って資本金額記 載説 (未払込資本金額 の資産性肯定説) の論拠 や,未払込資本金額 の評価 問題 が よ り詳細 に論 じられ るよ うにな ってい った。 そ して, この動 きに沿 うよ うに して立法 当局 は,1 8 9 7
年商法 へ とつ なが って い くことにな る商 法草案 の起草段 階で,資本金額記載説 (資産性肯定説) をよ り明確 に想起2 4
ちなみ に,表 面l制 こは額 面価額以上 で株式 が発行 されていて も,実 際は額面 価額 相 当額 の一 部 しか払込 み は行 われ得 な いので あれ ば, 実質 的 には( 1 8 8 4
年 改正商法 が明文 を もって禁止 した)株式 の額面価額未満での発行 を行 うこと もで きるとい うことにな りそ うであ る。
2 5
H.Ke yL 3 ne r ,Al l ge me i ne sDe ut s c he sHande l s ge s e t z buc h mac h Re c h
Ls pr e c hungundWi s s e ns c ha
ft,St ut t gar t ,1 8 7 8
年,2 2 8
貢,および,Thol ,
前掲書,5 0 2
貢参照。3 6‑ 6 8
わが国株式会社会計制度 における伝統的資本概念 の特質
( 2)
●●●●●●●●●●●●●●
させ るよ うな規定,具体 的 には 「定款 において定 め られ る資本金が消極側 に記 載 され な けれ ば な らな い
( dasi nGe s e l l s c haf t s ve r t r agbe s t i mmt e
川
)とい う規定 の準備 を進 めていた よ うであ る2(;。しか し, この よ うな草案 の規定 に対 しては, それを評価 。検討す るため に法務省 によ り召集 された委員会 において, 多 くの商業委 員か ら次 のよ う な懸念が提示 された とい う。
「‑・‑ もはや払込 みが請 求 され得 ない未払 いの金額 を積極側 に記載す る ことは許 され な い, とい うことになれ ば, 免 除
( Li be r i r ung
:紘 込義務 の免除‑石川) が行 われて きた, 全額 は払 い込 まれていない株 式 資本( ni c htvol le i nge z ahl t e sAkt i e nkapi t a
l) を伴 う株式会社 に とってかつては適法であ った ことに,困難 を もた らしかねない‑・・‑27。」この懸念 の意味 内容 を,私 の解釈 も加えて よ り丁寧 に表現す ると,次 の よ うにな る。 上 の草案の よ うな規定 に もとづ き,未払込資本金 (顔) が積 極項 目として評価 され ることが明確 になれば,従来か ら払込みの免除によっ て生 じていた, もはや払込 みを請求 し得 ない分 だけ,未払込資本金 (顔) を評価減 ない し減額 させ るとい うことにな るのであろう。 そ うで あれば, 払込 みの免 除を行 って きた株式会社 に とっては, その金額 に見合 う分 の分
2 6 Si mo n
, 前 掲 書 ,2 0 9
貢 参 照 (な お, ジモ ンは," Ho l dhe i msZ ( Ze i U s c l l l , i f
tの頭文字‑ 石川).I‑の第5
巻,1 7 7
貢 を参照 ・引用 して いる。 しか し, 私 は, その原典 に当た ることがで きなか った。 そ こで, この脚注 冒頭 に示 した とお り, ジモ ンの著書 を参照 した。続 く脚注2 7
および2 8
で彼 の著 書を示す の も, 同 じ事情 による。 ちなみ に, 彼の前掲 書( 2 0 9
質) によれば, この草案 は 非公 開であ った よ うであ る)02 7 Si l T I O n
,前掲書,2 0 9
貢。配可 能額 を減 少 させ た り, 資本 金額 を減少 させ るmとい った, これ まで は 回避 す る こ と もで きた 「困難」 が もた らされ かね な い。
この よ うな懸念 が提 示 され た こと もあ ってか,上 の 草案 の よ うな文言 は 結 局, 1 897 年 商 法 には採 り入 れ られ なか ったコ リ 。 それ で も, 同法 の起革 時 にお け る立 法 当局 の姿 勢 は, 1 884 年 改正 商法 の起 草 時 に比 べ れ ば明 らか に, 資本金額 記載説 ( 資産性 肯定 説) へ の志 向を明確 に した とい うこ とは いえ るで あ ろ う
。立 法 当局 の対 応 ( 2) ‑ ‑ 1 931 年 改正 商法
す で に述 べ た とお り, 1 870 年 末 か ら始 ま った未 払 込 資 本 金額 の会 計 処 理 を め ぐる議論 にお いて, 当初 は資産性 否定説 ( 払込 資本額 記載 説) が優 位 で あ ったが, 1 900 年 代 に入 って か らは, 資産 性 肯定説 ( 資 本 金額 記 載 説) が優位 にな って いたので あ った。 その よ うな状 況 にあ って,立
法当局
は よ うや く, この議論 に 1 つ の決着 をつ け る ことにな る
。それ は, 1 931 年 の改正 ドイツ商法 ( 以 下, 1 931 年 改 正商法 と呼ぶ
)‡日で の こ とで あ る
。この 1 931 年 改正商 法 は, ドイ ツで初 めて, 年次 決 算書 の 項 目区分 につ いて規定 を設 けた。 そ して そ こで は, 貸借 対照 表 につ いて, 固定性 配 列法 の もと消極 側 の最 初 に資本 金 を記載 し ( 261 a 条 1 項 BI ), 他 方 で, 積極 側 の最 初 に未 払込 資本 金 ( Rt l c ks t andi geEi nl age naufdas
2 8 Si mon ,前掲書 ,2 0 9 貢参照。
2 9 ちなみに ,1 8 9 6 年商法草案および 1 8 9 7 年商法草案にも,本文に示 したよう な文言は見当たらない ( 前者については ,Ent wur fe i l l e SHa nde l s ge s e t z buc hs mi tAL I S S C hl uL 3de sSe e ha nde l s r e c ht sne bs tDe nks c , hr i
ft,Auf ge s t e l l ti n Re i e hs Jus t i z amt ,Amt l i c heAus ga be ,Be r l i n,1 8 9 6 年, 草案第 2 5 4 条第 5 号 ( 6 4 貢) 参照。 後者については, Ent wur fe i ne sHande l s ge s e t z buc hSne bs t De nks c hr i f t ,Be r l i n,1 8 9 7 年,草案第 2 3 8 条第 5
号( 6 5 頁)参照) O
3 0 質料は, H.Rhe i ns t r om,Dasne ueAkt i e nr e c ht ,Mt l nc he n & Le i pz i g,1 9 3 2
年。
3 8‑ 7 0
わが国株式会社 会計制度 における伝統 的資本概念 の特質
( 2)
G