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合場敬子著『女子プロレスラーの身体とジェンダー

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合場敬子著『女子プロレスラーの身体とジェンダー

―規範的「女らしさ」を超えて―』明石書店,2013 年3月,232頁

著者 齋藤 百合子

雑誌名 明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review

International & regional studies

巻 44

ページ 51‑53

発行年 2013‑10‑31

その他のタイトル Keiko Aiba, Bodies of Japanese Women

Professional Wrestlers and Gender: Beyond Normative "Feminity", Akashi Shoten, 2013, 232pp.

URL http://hdl.handle.net/10723/1750

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明治学院大学『国際学研究』第44号, 51-53, 2013年10月

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【書 評】

合場  敬子著『女子プロレスラーの身体とジェンダー 

―規範的「女らしさ」を超えて―』 

明石書店,2013 年 3 月,232 頁

齋 藤 百合子

本書は,女子プロレスラーの身体とジェンダー について,次の二つの問題意識から始まるエスノ グラフィーである。ひとつは「現代社会の女性の 身体は,美というものを表現することを要請され ている。さらに,多様な美が認められるのではな く,特定の理想の女性身体像が作られ,少女や成 人女性たちは自分の身体を理想の女性身体との関 係で評価し,形成するように方向づけられている」

ことである。そして,二つ目は少女や成人女性が

「美しい」とされる理想の女性身体を作り上げる こと,つまり規範的「女らしさ」が強く奨励され ている一方,しかし「彼女たちが自らの身体的力 や運動能力を発達させることは奨励されていな い」という問題意識だ。

本書の構成

筆者は少女や成人女性のジェンダー化された身 体の社会化は,日本のフェミニズムの世界でも,

女性の身体の部分である機能を使う生殖や売買春 の課題としてとりあげられることはあっても,女 性の身体の社会化は重要な課題として取り上げら れてこなかった。そして,少女や成人女性のジェ ンダー化された身体の社会化の課題を考察するた めに,女子プロレスラーの身体に着目し,女子プ ロレスの世界をフィールドワークした。

そのフィールドワークの対象となる女子プロレ スは,かつての性的な見世物的興行(エンタテイ メント)から,基本的に相手への信頼を基盤とし た興行においた「闘い」であること,日本の女子

プロレスと世界の女子プロレスとの比較など,女 子プロレスの世界観を第2章で表した。そして,

プロレスラーになる夢からオーディションに合格 するまでの女子プロレスラーへのライフストー リー的なインタビューを第3章で,プロレスラー 練習生から新人時代を第4章で考察している。そ して第5章で筆者は「規範的な女らしさ」とは受 動的であること,自己主張をしないこと,他者の 感情に自分が責任を感じることなどが相互に関連 しているなどの先行研究に依拠しながら,規範的 な女らしさが同時に身体的な脆弱性をもつ「身体 的脆弱性」という概念を見出す。そして女子プロ レスラーが「身体的脆弱性」を変容していく様子 を詳細に追う。第6章では,「プロレスは,舞踏・

演劇的形態の表現も使いつつ,競戯・曲戯的形態 の表現が中心となった鑑賞性・営利性・娯楽性を 追求する舞台芸能」であるとし,エンタテイメン トである女子プロレスにおける身体の使い方から ジェンダー規範を分析した。第7章は身体的な強 さの獲得がエンパワーメントにつながるとの仮説 を,「規範的な女らしさ」を超えるのかどうかの挑 戦として,先行研究とフィールドワークインタ ビューから検証した。第8章は女子プロレスラー の身体の変容から,身体的エンパワーメントと身 体フェミニズムの可能性を論じ,終章のまとめに つなげている。

身体の変容は「規範的女らしさ」のエンパワー メントをもたらすのか,という問いに対して,筆者 は女子プロレスラーのフィールドワークからてい ねいに論証しようと試みている誠実な良書である。

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合場 敬子著『女子プロレスラーの身体とジェンダー ―規範的「女らしさ」を超えて―』

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暴力の課題

タイトルでもある女子プロレスラー,身体,そ してジェンダーは本書のキーワードであるが,も うひとつ上記のキーワードの底に流れているのが

「暴力」という言葉だ。その暴力についてここで 若干考えてみたい。

筆者は,Sanford and Fetterのメディアにおける 女性と男性の表象を,「男性と女性の身体が異なっ ていること,男性は他者を圧倒し,強くて,犯す ことができない身体を持ち,女性の身体は男性の ように行動的な主体によってではなく,むしろ犯 されたり,奪われたりするものとして表現される」

ことを援用する。また,女性の身体的脆弱性とい う概念によって暗黙に「身体的屈強性」をもつで あろう男性と対比している。さらに,英語圏の社 会で自己防衛術は,日本の護身術とは違って,性 暴力予防に焦点が当てられていること,ジェン ダーの役割や暴力などジェンダーの問題を扱って いること,新たな筋肉や運動能力を獲得するので はなく潜在的能力を使って暴力に抵抗するなど4 つの特徴があるとしている。

評者は,筆者が詳細に行った身体やジェンダー に関する分析と考察に暴力に関する視点を加えた い。すなわち,暴力は男性から女性に対して,そ れが直接的な暴力や性暴力を想定させるだけでな く,力が不均衡で,非対象であるときにいつでも どこでも発生しやすい。つまり平和学者ガルトゥ ングの平和と暴力概念における直接的暴力と間接 的・構造的暴力の双方がある。たとえば,男性の 身体の筋力が女性より強いときには,男性からの 暴力の驚異は危惧されるかもしれない。しかし,

男性が何らかの障害や病気を負っていたり,子ど もや高齢者であれば,彼らよりも何らかの力がよ り強く不均衡な者からの暴力の危惧が発生するか もしれない。近年,話題にのぼる学校でのいじめ の被害は女子にも男子にも起きうる。

また筆者も「第4章 プロレスができる身体への 変容」の「4.新人レスラーの試練」(P89~91)

に記しているように,新人レスラーは女子プロレ

ス団体の「序列の最底辺に位置づけられ」,インタ ビューでも不承不承いじめを認める記述や,理不 尽な体罰の事例が記されている。先輩と後輩の序 列という力の非対称性がもたらす集団内で発生す る暴力は,性別を問わない。

身体を鍛えて競技で闘うスポーツの世界におい て,先輩と後輩だけでなく,指導者と選手という 絶対的な力の非対称性は,最近の女子柔道強化選 手15名による,全日本女子ナショナルチーム監督 をはじめ指導陣による暴力行為やパワーハラスメ ントなどの暴力告発問題にも見られる。女子柔道 の世界も,女子プロレスと似て,闘いに勝つため のトレーニングを重ね,肉体を変容させていく過 程がある。しかし,規範的な女らしさを超えて,

オリンピックなどで世界の頂点を競う女子柔道強 化選手たちにも,暴力が発生する。殴る,蹴るな どの直接的暴力や,パワーハラスメントなど心理 的かつ構造的な暴力の前には,変容させてきた身 体の力を行使することは困難ではないか。自己の 正当性を主張するためには,身体的な力を使うだ けでなく,知恵を絞り,仲間と団結し,声を上げ,

社会に訴えるなどの間接的な手段も必要だろう。

評者は,筆者とともに2011年6月にUN WOMEN よこはまが行ったWEN-DOというカナダ発祥の,

性暴力の危機が迫ったときにどのように声を出 し,相手の急所をとらえて打撃を加えて逃げるか,

という自己防衛術の講習に参加したことがある。

そのときに強く評者の脳裏に浮かんだのは,これ まで評者が出会ったことのある家庭内暴力にさら されている女性たちだった。自己防衛術は,見知 らぬ人から突然暴行を振るわれる際には有益であ るが,親密な関係の中で自宅という密室の中で発 生する暴力には,相手に打撃を与えて逃げるとい う自己防衛術以外のオルタナティブ防衛の術が開 発される必要があろう。

まとめ

女性の身体活動は,受動的で,自己主張をせず,

他者の感情に自分が責任を感じ,身体的力を発揮 しないことなど身体的脆弱性と結びついた「規範

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合場 敬子著『女子プロレスラーの身体とジェンダー ―規範的「女らしさ」を超えて―』

53 的な女らしさ」を超える,すなわち身体エンパワー

メントの可能性をもつ。その一方で,力の非対称 性により発生する直接的および間接的・構造的な 暴力に対して,身体エンパワーメントの限界と可 能性を見極め,さらなるエンパワーメントが求め られている。ジェンダー研究は社会文化的につく られた「男らしさ」「女らしさ」性差に基づいた二 つの項目に,文化,年齢,障がいの有無,民族,

人種など多様性を加味し,力の非対称性によって 発生する社会秩序をジェンダーの視点で再考を促 す。本書は,女性の身体エンパワーメントという 新たな視座をジェンダー研究にもたらしており,

さらなる深化が期待される。

参照

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