NDC 428.85, 425.5
半導体の微細構造とラマン散乱の関係について
岡 田 正*
(平成3年8月26日受付)
Relationship between the Raman Scattering and Microscopic Structure of Se皿iconductor
Tadashi OKADA
(Received August 26,1991)
Experimental results of the Raman scattering from small Si and Ge particles both with free boundary conditions and embedded in films are suminarized. The results indicate the importance of the finiteTSize effects on the spectra. We emphasize that there is not enough theoretical treatment including surface effects such as an anharmonic effect of lattice vibrations.
1.はじめに
結晶サイズが減少すると、諸物性はバルク結晶と異なっ た様相を示すことが予想される。原子数にしてIO5個以下、
大きさにして10nm程度以下の固体は超微粒子と呼ばれ、
金属微粒子の電子状態に対する久保効果のような理論面か ら、磁性体微粒子に代表される応用面まで、幅広い議論が なされている1)。さらに最近では、原子が数十個〜103個 と超微粒子以下の、マイクロクラスターと呼ばれる系への 関心も高まっている2)。
粒子サイズが小さくなるにつれて、表面の存在が大きな 意味を持ってくる。話しを光学的性質に限ると、まず、有 限な表面境界の存在により、表面素励起と電磁場が結合す るようになることを、指摘しなければならない。すなわち、
表面フォノンと光子が微粒子内で結合し、表面フォノンポ ラリトンモード(簡単に表面フォノンモードという)と呼 ばれる微粒子特有のモードが生じる。これらのモードは、
通常の光吸収実験で検出可能で、イオン結晶・極性半導体 のような超微粒子で実際に観測され、理論解析の結果とよ く一致する3 4)。また、表面プラズモンと表面フォノン との結合モードが、半導体超微粒子で観測されている5)。
しかし、従来の観測は主に赤外吸収実験でなされたもの であり、ラマン散乱による実験は少ない。また、ポラリト ンの概念自体が分極を伴った素励起に対するもので、Si
やGeのような等極性結晶の超微粒子は、従来の扱いの枠 外である。本論文の前半では、等極性結晶超微粒子のフォ ノンに対するサイズ効果をラマン散乱により評価するため の、筆者らの行った実験をもとに、自由境界を持つと考え られるSi超微粒子の微細構造とラマン散乱スペクトルと の関係を議論する。
一方、SiとGe超微粒子に関連して、微結晶相とアモル ファス相とが混在すると考えられている微結晶Si(Ge)
膜が興味深い6)。このような微結晶Si(Ge)を含むアモ ルファス半導体に対しても、ラマン散乱は有力な評価手段 である7)。本論文の後半では、アモルファス様から微結 晶.にいたる蒸着膜の、ラマン散乱による筆者らの行った研 究を取り上げる。膜中に形成されたSiまたはGe超微粒子
について、その成長機構やサイズ効果などの微細構造を論 じることで、いわゆるアモルファス半導体の構造モデルに 関する問題点8)を指摘する。
このように、本論文では、筆者らの実験結果を整理する ことで、今後の理論面での検討課題を明らかにすることを 目的としている。
2、自由境界を持つ半導体超微粒子
* 情報工学科
超微粒子を作成する方法として、粒子サイズを制御でき 種々の物質に適用可能なガス中蒸発法が、広く使われてい
る1)。筆者らも、SiとGeの超微粒子を作成するのに、こ の方法を用いた。ガス中蒸発法で作成した超微粒子は、軽
く接触した状態で基板上に補集されるので、光学的性質を
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津山高専紀要 第29号 (1991)
︵↑心5.£o︶﹀ト一UつZ山↑Z一ZくΣくに si
Averoge ParticLe Size
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500 400 500 600
RAMAN SHIFT (cm一 )
Fig.1 Raman spectra of small Si particles and evaporated Si films, The spectra are normalized at 480 cm−1.
論ずる上で、自由境界を持つとよい。
まず、Si超微粒子について議論する9)。 Si微粒子は、
高温に耐える窒化ボロンボードから、アルゴンガス中に単 結晶Siを蒸発させる方法で作成した。この結果、アルゴ
ンガス圧を13Paから133Paまで制御することで、平均粒 子サイズdを7nmから22nmまで変化させることができた。
Si微粒子のサイズdの分布は、次式の対数正規分布関数に 従っている。
f(d)= р?煤@rr)i/21na eXP I一 (lnd−lnd) 2 21n 2 a
︶1
︵
ここでσは、幾何標準偏差である。
(1>式に関して、ガス中蒸発法で得られた結晶性金属超微 粒子では、σが物質によらず1.48±0.2の範囲に入るとい う経験則10 ll)が知られている。金属ではないが、 Si微粒 子に対してもσ=1.39を得ている9)。
ラマンスペクトルは、平均粒子サイズdによって大きく 変化する。スペクトル変化を明らかにするために、得られ た範囲で最小(7nm)と最大(22nm)のdを持つ超微粒 子のスペクトルを、480cm−1で正規化して、 Fig.1に示す。
参考のために、真空蒸着で作成したSi薄膜のスペクトル も同時に示してある。
この図から明らかなように、蒸着薄膜とd・= 7nmの微粒 子とのラマンスペクトルは、480cm 1にブロードなピー
クをもつ似通った構造をしている。ただし、微粒子の480 cm−1以下のスペクトルは、より複雑な構造をしている。
一方、微粒子のaが増すと、520cm−1付近の結晶ピーク に相当する成分が急激に増加する。このように、ラマンス ペクトル構造変化は、対象物質の微細構造情報を反映して いると考えられる。
これらのスペクトル構造を分析するために、ガウス分布 をしたモードに分解した。その結果、Si微粒子のラマン スペクトルに対するサイズ効果として、
・dの増加とともに強度の増す許容光学モード
・dによらずほぼ一定の強度のアモルファスSiのTOと LA様モード
・dの減少とともに強度の増すモード
が分離できている9)。最後のモードは、何らかの表面に 関係したモードであると考えられるが、明確な起源は決め られていない。さらに重要なことは、aが10nm以下になる と、微粒子の結晶構造*にもかかわらず、ラマンスペクト ルがアモルファス様になることが指摘できる。
t方、Ge超微粒子についてもガス中蒸発法で試料を作 り、ラマン散乱実験がなされている12−14)。その結果は、
粒子サイズの増加にともなって減少する表面モードや、
20nm程度以下でアモルファス様のスペクトルになるなど、
Si超微粒子と同等の結果である。
このように、自由境界を持つ等極性結晶超微粒子では、
サイズが小さくなると粒子の結晶性にもかかわらず、ラマ ン散乱では結晶ピークを示さなくなることが確認された。
また、何らかの表面に関係したモードが分離できた。こう した自由境界を持つ微粒子では、そのスペクトルに表面付 近の振動が重要な影響を与えている。従って、表面振動の 影響、すなわち格子振動における非調和項を考慮した議論 が必要である。しかし、今のところ詳しい理論解析はなさ れておらず、非調和項の効果を取り入れた解析の必要なこ とを示唆している。
3.薄膜中の半導体超微粒子
周囲を同じ原子で囲まれた薄膜中のSiやGe超微粒子 は、自由境界を持つ微粒子とは異なった性質を示すであろ う。このような微結晶を含む薄膜の結晶性は、ラマン散乱 によって定量的に評価できる。すなわち、Si(Ge)薄膜 のラマンスペクトルは、520(300)cmM 1付近の結晶部分 からの散乱と、480(280)cm−1付近のアモルファス様部 分からの散乱とが重ね合わされたものとなる。そこで、ス ペクトルを結晶成分とアモルファス様成分に分解し、それ
* 結晶構造は、筆者らの電子線回折像9)や、林らの高 分解能電子顕微鏡写真12)によって確認されている。
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半導体の微細構造とラマン散乱の関係について 岡 田
それの積分強度をIcとちとすれば、結晶性体積比ρが、
Ic P= (lc + a r la)
(2)
と定義できる15 16>。ここでσ.は、ラマン積分断面積 のアモルファス様成分に対する結晶成分の比である。
筆者らは、(2)式をSiとGe真空蒸着薄膜の熱的結晶 化過程の解析に適用した16 17)。このような薄膜中では、
周囲の乱れた原子が整列することにより、超微粒子が 成長すると考えられる。実際、蒸着膜を、一定温度T、
で一定時間アニールすると、ラマンスペクトルの許容 光学モードの成長が認められる。このような膜のラマ ンスペクトルから、②式よりρを求めることができる。
一般に、単一活性化エネルギー E。による結晶化過程 は、変形したアブラミの式によって表され、ρを使っ
て、
i−p= (impo) exp [一Aexp(一 mi;1/itl一. )] (3)
と書ける。ここで、ρ。はアニール前のρ、Aは時間を 含む項である。ただし、今の場合アニール温度一定の 実験なので、Aは定数として扱える。実際に測定した
ρを使うと、(3)式によるアレニウスプvットはFig.2の ようになる。
Fig.2の結果は、 S iとGeともに、結晶性微粒子の成
2
1
一〇.5Rと
>0.2.
9ロ
邑0.1三 〇.0
o.o
Anneating Tempero†Ure (℃)
り
10006◎0400300200
clo
Ax. it,,,o
it i, Ed=1.4eV
』唖l L, XGe
; xii si
Ea=O:55eV
Ect=O.15ev
5 10 15 20 25
1/kBTa (eV)
Fig.2 Arrhenius plots of the growth of Si and Ge microcrystals embedded in the films.
長が(3>式によく従うこと、さらに、かなり低い温度から一 定のE、で成長することを示している。こ. 黷ヘ、自由境界 Si微粒子では、熱アニールによって表面に酸素が結合し たことによる小さな変化しか生じないこと18)とは、大き な違いである。筆者らの求めた小さなE、(Siで0.35eV、
Geで0.13eV)は、ラマンスペクトルの分解で初めて決 定されたものである。Tsuらは、ラマンスペクトルのTO ライタモードの半値幅からSiとGeともに約0.2eVのE。を 報告している19>が、これより精密な結果である。またこ
れらの値は、SiとGeの粘性流の活性化エネルギー
8.63kca1/mol(0.37eV)と2.74kcal/mol(0.12eV)と 同じであり20)、液相程度のエネルギーで容易に結晶化し ていることがわかる。結晶化の初期過程に関して、EXA FS測定に基づいた議論がなされている2ユ 22)。しかし、
これらは定性的なものであり、ラマン散乱の構造敏感な性 質を使うことで、定量的な解析が可能になりうる。
上で述べた薄膜中の結晶性微粒子の成長は、有限サイズ 効果とアモルファスの構造モデルとの、二つの面で興味深 い。有限サイズ効果については、フォノンの波数ベクトル 選択則の緩和が重要な役割を果たしているというモデルが 提:案23)され、実験結果との比較24)もある。しかし、定量 的な一致は得られておらず、そもそも、光の波長よりはる かに小さい微粒子に対して、バルクの理論を変形したもの が適用できるかどうかという、根本的な疑問が残る。
一方、アモルファスの構造モデルとして、連続ランダム ネットワークモデル(CRN)と微結晶モデルの論争があ る。最近の高分解能電子顕微鏡技術の発展にともなって、
SiやGe薄膜の中に2nm程度の粒子サイズの格子像を観 察している25 26)。これは、ラマン散乱信号がブロードに なったからといって、その物質がCRN構造をとることを 意味していないといえる8)。
本章では、薄膜中の半導体微結晶に関して、ラマンスペ クトルから得られる情報の実験結果を述べた。前章の自由 境界を持つ微粒子と同じく、実験結果を正しく解釈するた めには、微細構造を反映させた上で、表面効果や非調和項 を取り込んだ理論の構築が必要であることを示している。
4.あ と が き
等極性結晶のSiとGe超微粒子のラマン散乱を、自由境 界を持つ場合と薄膜中に埋め込まれた場合について、筆者
らの結果を中心に整理した。この結果をもとに、得られた 微細構造の知見と、理論的に検討すべき点を指摘した。こ のような有限サイズ効果に関連した問題は、超格子構造・
微結晶構造・微細加工など、今後の半導体技術の発展に とって重要になる。本論文で指摘した有限サイズ効果につ いて、理論面の検討を進めたい。
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津山高専紀要第29号 (1991)
謝 辞
本論文のもとになった成果は、神戸大学工学部電子工学 科の山本研究室との共同研究.によって得られたものであ る。常に指導と激励を頂いている山本教授をはじめ、関係 者の皆様に感謝いたします。
文 献
1)例えば、固体物理・金属物理セミナー別冊特集号1984 年「超微粒子」(アグネ技術センター、1984).
2)例えば、日本物理学会誌44(1989)225..
3)林・山本・金森:固体物理17(1982)297.
4) S, Hayashi: Jpn. J. Appl. Phys. 23 (1984) 665.
5) K, Yamamoto, K. Kimura, M. Ueda, H. Kasahara and T.
Okada: J. Phys, C 18 (1985) 2361.
6) Y. Osaka and T. lmura: JARECT VoL16, Amorphous ,Semiconductor Technologies & Devices (1984) , ed. Y,
HamakaWa (Ohmsha, Tokyo, 1984) , p.80.
7)例えば、中島・三石:応.p物理53(1984)558,
8)山本:固体物理22(1987)817..
9) T.Okada, T, Iwaki,耳. Kasahara and K Yamamoto:」,
Phys. Soc. Jpn. 54 (1985) 1173,
10) C. G, Granqvist and R. A. Buhrman: 」・. Appl. Phys. 47 .(1976) 2200,
11) C. G. Granqvist and O. Handeri: Phys. Rev. B 16 .(1977) 3513..
12) S. Hayashi and H. Abe: Jpn. J, Appl, Phys, 23 (1984)
L824.
ユ3)S.Hayashi, M。 Ito and K Kana皿ori二Solid State Com−
mun. 44 (1982) 75.
14)若山・岡田・笠原・山本:日本物理学会1984年秋 の分科会講演予稿集2(1984)p.14ユ,
15) R. Tsu, J. G.一Hernandez, S, S, Chao, S, C. Lee and K.
Tanaka: Appl. Phys, Lett, 40 (1982) 534,
16) T. Okada, T, lwaki, H. Kasahara and K, YamAmoto:
Jpn. 」 Appl, Phys. 24 (1985) 161,
17) S, Hayashi, H. Wakayama, T. Okada, S. S. Kim and K.
Yamamoto: J, Phys. Soc. Jpn, 56 (1987) 243.
18) T, Okada, T. lwaki, H. Kasahara and K. Yamamoto:
Solid State Commun. 52 (1984) 363.
19) R.Tsu, J. G.一宜ernandez and F, H」PollaK:Solid State Commun. 54 (1985) 109.
20) A, J. Moses:.The Practiciflg Scientist s Handbook (van Nostrand Reinhold, New¥ork,1978)pユ021,
21) E. A, Stern, C. E. Bouldin, B, von Roedern and J.Azoulay: Phys. Rev. B 27 (1983) 6557.
22) M. A, Paesler, D. E. Sayers, R. Tsu and J.
G.一Hernandez: Phys. Rev. B 28 (1983) 4550.
23) H. Richter, Z, P. Wang and L, Ley: Solid State Com−
mun. 34 (1981).625,
24) T, Okada: Bull. Tsuyama Natl. Coll. Tech, 27 (1989)
L
25) C. Kaito, T, Shimizu, Y, Nakato and Y, Saito: JPn. 」.
Appl. Phys. 24 (1985) 117.
26) J, C. Phillips, J, C, Bean, B. A. Wilson and A. Ourmard:
Nature 325 (!987) 121.
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