• 検索結果がありません。

主語と対象語における連続性の分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "主語と対象語における連続性の分析"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

主語と対象語における連続性の分析

―形容詞述語文を対象にして―

An Analysis of the Continuous Connection Between Subject and Object:

Predicate adjectives

津坂 朋宏

TSUSAKA Tomohiro

Abstract

This paper continues to explore and analyze the connection between Subject and Object in Japanese. The syntax of Japanese sentences is based on the relationship between “Subject-Predicate”. In Japanese, the case particle “ga” points to either the subject or the object. The object is not the same as the subject. The object points to a target which the speaker’s emotion advances on. Sentence structures which have both a subject and an object are based on the relationship between “Subject-Object-Predicate.” Predicate adjectives mainly express qualities, emotions, or feelings. But often the syntax does not clarify which feelings the predicate adjective expresses. This paper analyzes sentence structure through examples in sentences, and confirms a continuous connection between subject and object. This paper concludes that both predicate adjectives and words of main constituents are contained in the predicate part of the sentence. The overall sentence is based on the relationship of the “Theme-Predicate part.”

1.はじめに

日本語の基本的な文の骨組みは、主語と述語による主述関係にある。述語になる語の品詞に は、動詞、形容詞、形容動詞がある。名詞は「だ」や「である」といった陳述の役割を担うも のが後接することで述語となる。本論文では、形容詞と形容動詞をイ形容詞、ナ形容詞として、

これらを合わせて形容詞と呼んでいる。形容詞を述語用法で用いた文を形容詞述語文とし、そ の形容詞の述語を述語形容詞と呼んでいる。

形容詞述語文の例に次のものがある。

1)地球が 青い。

2)客室乗務員の態度が 優しかった。

3)グワンさんは 料理が 好きだ。

(2)

例文(123)の述語は「青い」「優しかった」「好きだ」である。「青い」は形容詞「青 い」の終止形(辞書形)であり、「優しかった」は形容詞「優しい」の連用形に助動詞「た」が 後接したもの(タ形)である。「好きだ」は形容動詞「好きだ」の終止形(辞書形に「だ」が後 接したもの)である。

例文(123)には、格助詞「が」によって示されたガ格がある。例文(1)には「地球」

が、2)には連体格を持った「客室乗務員の態度」が、3)には「料理」がある。例文(1)と

2)のガ格は、述語の性質を持つとされた主体であり、文の主語である。例文(3)の「料理」

は、主語「グワンさん」の述語「好きだ」という感情の対象を示す対象語である。例文(1)と

2)の文構造は「主語―述語」であり、例文(3)の文構造は「主語―対象語―述語」である。

そのほかに、述語形容詞による文構造には、主体とその性質を表す「主語―述語」に対して、

さらにそれらの主題となる語を有する構造のものがある。主体とその性質を表すものが連結し て、文の主題に対して述部の位置に現れる。本論文は、この文構造にあるものを捉えることを 課題としている。課題の例として、ここに次の例文(4)と(4’)を挙げる。

4)日本のカレーが 辛い。

4’)グワンさんは 日本のカレーが 辛い。

例文(4)のガ格「日本のカレー」は、述語「辛い」がその性質を表している主語である。例 文(4’)では、主題「グワンさん」において、ガ格の「日本のカレー」が述語「辛い」と述べ ており、例文(4)に対して(4’)のガ格は、対象語に近いものとなる。

ガ格の主語と対象語は、時枝(1950)から指摘されてきた問題である。述語形容詞による文 構造には「主語―述語」「主語―対象語―述語」があり、その間に「主題―述部」の構造のもの があると考える。本論文では、この主語と対象語の連続性を見るために、実際の文章から実例 を取り出して分析を行う。

2.先行研究

2.1 主語と対象語

時枝(1950)は、ガ格に主語として考えられるものと、主語らしくないことから対象語とし て考えられるべきものがあることを述べた。対象語について「述語の概念に對しては、その對 象になる事柄の表現」と説明し、主語と対象語の例に次のものを挙げた(注1

5)山が 高い。

6)川が 流れている。

7)仕事が つらい。

8)算術が 出來る。

(3)

例文(5)と(6)のガ格は主語の例である。例文(7)と(8)のガ格は対象語の例であり、

主語に「誰か」が想定されるものである。しかし、主語と対象語は明確に二分されるものでは なく、文脈によって主語か対象語かの判断が変わる。例文(7)と(8)も、文らしさは下がる ものの、ガ格を主語とすれば、誰かの感情や能力としてではなく、その事象を述べたものだと 言える。次の例文(9)から(12)も、対象語だけでなく主語としても捉えることができる(注2

9)山が 見える。

10)汽笛が 聞える。

11)犬が こはい。

12)話が 面白い。

これらを、「誰か」を想定せずに述べたものとすれば、「山」「汽笛」「犬」「話」が主語であり、

述語は主語の事象や性質を表している。これらの例文に「私」や「彼」といった「誰か」を想 定すれば、その「誰か」が主語となり、文に現れているガ格は対象語となる。この場合、文は 主に話し手である主語の状態、感情、能力といったものを、述語と対象語を用いて述べたもの となる。同じ文であっても、主語か対象語かの判断は文脈によって変わるため、文脈を考慮し なければ、分析はできない。

2.2 中立叙述、総記、目的語

久野(1973)は、ガ格を主語と目的語に分けた。ガ格の目的語は、時枝(1950)の対象語に 相当するものである。さらに主語は、中立叙述と総記に分けられた。中立叙述とは、文脈上の 焦点としないで主語を述べたものである。総記とは、「誰が」「何が」といった文脈上の焦点と して主語を述べたものである。

久野(1973)は、一文に二つのガ格が現れることを認める立場にある。この二重のガ格が現 れた場合、先に現れたガ格は総記となる。次の例文(13)と(14)は、どちらも二重のガ格が 現れたものである(注3。例文(13)の文構造は「総記―中立叙述―述語」であり、例文(14 の文構造は「総記―目的語―述語」である。

13)文明国ガ 男性ノ寿命ガ 短カイ。

14)僕ガ オ金ガ 欲シイ(コト)

例文(13)は「文明国」が総記、「男性ノ寿命」が中立叙述、「短カイ」が述語である。例文

14)は「僕」が総記、「オ金」が目的語、「欲シイ」が述語である。総記の「文明国」と「僕」

は、文の焦点として述べられたものである。焦点としない場合は、格助詞「が」ではなく係助

(4)

詞「は」が用いられる。

2.3 擬似二重主格構文と真性二重主格構文

杉本(1986)は、二重のガ格があるものを二重主格構文とし、二重主格構文を擬似二重主格 構文と真性二重主格構文に分けた。擬似二重主格構文は文が文を包む補文構造とし、真性二重 主格構文は単文構造とした。次の例文(15)は擬似二重主格構文のもの、16)は真性二重主格 構文のものである(注4

15)山田さんが 家が 立派だ。

16)太郎が 魚が きらいだ。

杉本(1986)は、文をガ格への連体修飾句にすることができるかどうかを、擬似二重主格構 文と真性二重主格構文の判断基準にした。例文(15)と(16)をガ格への連体修飾句にすると 次のようになる。

15-1)家が 立派な 山田さん

15-2)山田さんが 立派な

16-1)魚が きらいな 太郎

16-2)太郎が きらいな

15-1)は、「家が立派な」が「山田さん」を連体修飾している。しかし(15-2)では、「山 田さん」が「家」の連体修飾の成分にならず、「山田さんが、立派な家だ」の意味になる。これ は述語「立派だ」に対して「家」があり、「家が立派だ」に対して「山田さん」があるためであ る。杉本(1986)は例文(15)を、文が文を包む補文構造と判断し、主語「山田さん」に対し て述語の位置にある「家が立派だ」という単位を「文述語」と呼んだ。

例文(15)に対して(16)は、「太郎」や「魚」を連体修飾した場合、16-1)と(16-2)の 二通りの連体修飾が可能であり、文が文を包む構造ではない。このことから、杉本(1986)は 例文(16)を単文構造と判断した。

2.4 形容詞とガ格の分類

北原(2010)は形容詞を属性形容詞、情意形容詞、感覚形容詞の三種類に分類した。それぞ れの形容詞の例に次のものが挙げられている(注5

属性形容詞 青い、早い、広い、激しい 情意形容詞 欲しい、悲しい、切ない

(5)

感覚形容詞 まぶしい、うるさい、旨い

属性形容詞は、述語として客観的表現をするものである。情意形容詞は、述語として主に話 し手の主観的表現をするものである。感覚形容詞は、属性形容詞と情意形容詞の中間に位置す るもので、述語として客観的表現と主観的表現の両方をすることができる。

次に、北原(2010)は形容詞述語文のガ格を全体主格、部分主格、主観的主格、客観的主格 の四種類の主格に分類した。二重のガ格が現れた場合、四種類の主格は自由に組み合わされる のでなく、「全体主格―部分主格」と「主観的主格―客観的主格」の組み合わせになる。「全体 主格―部分主格」は客観的表現の文に現れ、「主観的主格―客観的主格」は主観的表現の文に現 れる。次の例文(17)は客観的表現のもの、例文(18)は主観的表現のものである(注6

17)うちの犬が 気性が やさしい。

18)私が 故郷が 懐かしい。

例文(17)は「うちの犬」が全体主格、「気性」が部分主格である。「やさしい」は属性形容 詞であり、述語として客観的表現をしている。文構造は「全体主格―部分主格―述語(属性) である。例文(18)は「私」が主観的主格、「故郷」が客観的主格である。「懐かしい」は情意 形容詞であり、述語として主観的表現をしている。文構造は「主観的主格―客観的主格―述語

(情意)」である。感覚形容詞は、このどちらの文構造にもなり得るものとしている。

2.5 ガ格の文構成原理

菊地(2010)はガ格に二種類の文構成原理があると述べた(注7

A.〈格関係〉の論理で文を構成する

B.〈格関係〉の論理にはよらずに、「が」によってその前後を連結する

菊地(2010)はABそれぞれの文構成原理によるものとして、例文(19)と(20)を例に 挙げ、角括弧を使って次のように説明している(注8

19[花子が][会長に][花束を]渡す。

20A大学は)[文学部が[学生が[出来がいい]

例文(19)の「花子」のガ格は、菊地(2010)の文構成原理のうち、Aのものである。例文

19)は「花束を会長に花子が渡す」「会長に花束を花子が渡す」というように、語の順序を入 れ替えることが可能である。例文(20)の「文学部」「学生」「出来」のガ格は、Bの文構成原

(6)

理のものである。例文(19)に対して(20)は「出来が学生が文学部がいい」や「学生が出来 が文学部がいい」というように、語の順序を入れ替えることができない。例文(19)は、述語

「渡す」に対して「花子が」「会長に」「花束を」が格関係にある。例文(20)は、述語「いい」

に対して「出来がいい」「学生が 出来がいい」「文学部が 学生が出来がいい」という順に、

連文節のように連結をしている。このBの文構成原理のガ格は、連体格のものとも言える。

2.6 本論文の課題

時枝(1950)では、ガ格には文の主語として判断されるものと、主語らしくないことから、

対象語とすべきものがあることが述べられた。一文に同じ格助詞が二つ以上用いられるのは、

現代語では、ほぼガ格のみと言える。二重のガ格は文の許容度を下げる要因になるが、その実 例があり、先行研究においても非文とされずにその研究が進められてきた。北原(2010)は、

述語となる形容詞の分類に合わせて、二重のガ格を主観的主格と客観的主格、全体主格と部分 主格に分けた。菊地(2010)は、ガ格には述語に対して格関係の論理で文を構成するものと、

格関係の論理にはよらず、述語と連文節のように連結するものがあるとした。

北原(2010)は、形容詞を属性形容詞、感覚形容詞、情意形容詞に分けた。「好き」「嫌い」

「欲しい」のように、文構造として、感情を抱く主語と、感情が向かう対象語を有すると考え られるものがある。しかし、ガ格が一つのみの場合、そのガ格を何と判断するのかは、難しい ことがある。具体的にいえば、その形容詞述語文が客観的な表現によって、主体とその性質を 表したものなのか、それとも話し手の主観的な表現によって、感情や感覚といったものを表し たものなのか、という問題である。この問題に対して、本論文では「主語―述語」「主語―対象 語―述語」「主題―述部」という文構造にあてはめて、分析を行なう。

3. 研究方法と分析の結果

資料の文章から実例を取り出して、述語形容詞による文構造を分析する。対象とした資料は、

新聞のコラムと小説と雑誌の記事である(注9

3.1 文構造が「主語―述語」のもの

「主語―述語」の文構造にあるものは、主体とその性質を表す。このうち、いわゆる「象は 鼻が長い」のように、「鼻」の連体格である「象」を主題として述べた文構造のものがある。

ここでは主題に対してガ格と述語が連結しているものを述部とし、「主題―述部」の構造で捉 えている。以下の例文の説明における修飾語とは、連用修飾語のことを示している。

21)家康は、機嫌が よかった。(城塞:95ページ)

└主題┘└述部────┘

22)団右衛門は、妙心寺に 縁が 深い。(城塞:50ページ)

(7)

└主題──┘└述部──────┘

23)過ごしやすい若葉の季節は やはり 人気が 高い。(中日春秋:2016516日)

└主題─────────┘└修飾語┘└述部──┘

例文(21)は「家康」が主題であり、述部に「機嫌がよかった」がある。述語形容詞「よか った」の主体は「(家康の)機嫌」であり、主題「家康」は「機嫌」の連体格である。例文(22 では「団右衛門」が主題であり、述部は「妙心寺に縁が深い」である。「妙心寺」は述部内の連 用修飾語である。述語形容詞「深い」の主体は「(団右衛門の)縁」であり、主題「団右衛門」

は「縁」の連体格である。例文(23)は「過ごしやすい若葉の季節」が主題である。「やはり」

は陳述の連用修飾語であるため、述部の外にあり、述部は「人気が高い」である。述語形容詞

「高い」の主体は「(過ごしやすい若葉の季節の)人気」であり、主題「過ごしやすい若葉の季 節」は「人気」の連体格である。

次に、これら例文を二重のガ格にした場合の主述関係を見てみる。有題文である例文(21

2223)は、ガ格を用いて無題文にすることができる。次の例文(21’22’23’)は例文

212223)を、ガ格を用いて無題化し、連用修飾語を取り除いたものである。

21’)家康が 機嫌が よかった。

22’)団右衛門が 縁が 深い。

23’)過ごしやすい若葉の季節が 人気が 高い。

例文(21’22’23’)にある、二つのガ格と述語がそれぞれ主述関係にあるかどうかを見 てみると、次のようになる。

21’-1)家康が よかった

21’-2)機嫌が よかった

22’-1)団右衛門が 深い

22’-2)縁が 深い

23’-1)過ごしやすい若葉の季節が 高い

23’-2)人気が 高い

21’-1「家康がよかった」を主述関係にあるものとして理解した場合、「家康が、よい人だ

った」という意味になる。例文(21)の意味関係は(21’-2「機嫌がよかった」という語の連 結に対して「家康が 機嫌がよかった」というものである。22’-1「団右衛門が深い」と(23’-1

「過ごしやすい若葉の季節が高い」も、主述関係が不自然である。例文(22)の意味関係は、

22’-2「縁が深い」という述部に対して「団右衛門が 縁が深い」というものである。例文

(8)

23)の意味関係も(23’-1「人気が高い」という述部に対して「過ごしやすい若葉の季節が 人気が高い」というものである。

次の例文(24)は、実際に二重のガ格が現れている例である。文全体の主語となるガ格が主 題の位置に置かれることで、文の焦点として述べられている。

24(省略)木々や草地を眺められる人のほうが、病院では 回復が 早く、

└主語─────────────┘└修飾語┘└述部──┘

学校では 成績が 良く、

└修飾語┘└述部──┘

犯罪の多発地区では 暴力行為が減る傾向にある という。

└修飾語────┘└述部─────────┘

(ナショジオ20165月号:37ページ)

例文(24)は「木々や草地を眺められる人(のほう)」が主語、「病院」が連用修飾語、「回復 が早く」が述部である。係助詞が後接した連用修飾語は述部の外にある。述語形容詞「早く」

が連用形であることで、連用修飾句「木々や草地を眺められる人のほうが、病院では回復が早 く」を作る。続いて「学校」が連用修飾語、「成績が良く」が述部である。述部「成績が良く」

の主語は、先の連用修飾句の主語と同一のものである。述語形容詞「良く」が連用形であるこ とで再び連用修飾句を作る。「犯罪の多発地区」が連用修飾語で、「暴力行為が減る傾向」が述 語を補う補語、「ある」が述語である。この述語「ある」も、それまでの連用修飾句と同じで、

主語は「木々や草地を眺められる人(のほう)」である。最後の「という」は引用を表すもので、

助動詞の役割を担っている。ここでは「主語―述部」の関係にある二つの連用修飾句の構造を 見る。例文(24)の二つの連用修飾句から連用修飾語を取り除き、ガ格と述語がそれぞれ主述 関係にあるかどうかを見てみると、次のようになる。

24-1)木々が草地を眺められる人のほうが 早い

24-2)回復が 早い

24-3)木々が草地を眺められる人のほうが 回復が早い

24-4)木々や草地を眺められる人のほうが 良い

24-5)成績が 良い

24-6)木々や草地を眺められる人のほうが 成績が良い

24-1「木々が草地を眺められる人のほうが 早い」では、その人の行動が早いという意味 になる。例文(24)の一つ目の連用修飾句は、24-2「回復が早い」に対して(24-3「木々が 草地を眺められる人のほうが 回復が早い」という意味関係である。「木々が草地を眺められる 人」は「回復」の連体格である。また(24-4「木々や草地を眺められる人のほうが 良い」で

(9)

は、その人の何が良いのか、言葉が足りていない。例文(24)の二つ目の連用修飾句は、24-5

「成績が良く」に対して(24-6「木々や草地を眺められる人のほうが 成績が良い」という意 味関係である。「木々や草地を眺められる人」は「成績」の連体格である。

以上、有題文のものと二重のガ格のものを例に挙げて、その文構造を見た。どちらもその構 造は「主語―述語」の関係からできている。また主題は、述語形容詞の主体の連体格のもので あった。

3.2 文構造が「主語―対象語―述語」のもの

形容詞述語文は「主語―対象語―述語」の文構造によって、主語が抱いた対象語への感情を 表すことができる。「主語―対象語―述語」の文構造の実例に、次のものがある。

25)花のお江戸の人々は 外食が 大好きだった。(春秋:2014125日)

└主題─────┘└対象語┘└述語──┘

26)切断前は 不自由な右脚を人に見られるのが 嫌だった。(余録:2015215日)

└修飾語┘└対象語───────────┘└述語┘

例文(26)は「花のお江戸の人々」が主題で主語、「外食」が対象語、「大好きだった」が述 語である。例文(25)は、義足の女性がモデルを務めたファッションショーに関する記事のも ので、小林久枝氏について書かれたものである。「切断前」が時の連用修飾語、「不自由な右脚 を人に見られる(の)」が対象語、「嫌だった」が述語である。主語は「小林久枝氏」である。

次の例文(25’)は、有題文である(25)をガ格によって無題化したものである。例文(26 は(26)の連用修飾語を除いて、省略されていた主語にガ格を後接して、加えたものである。

25’)花のお江戸の人々が 外食が 大好きだった。

26’)小林久枝氏が 不自由な右脚を人に見られるのが 嫌だった。

例文(25’)と(26’)を連体修飾句にしてガ格を修飾できるかどうか確認してみる。26’-2 では、準体助詞「の」を形式名詞「こと」に替えている。

25’-1)外食が 大好きだった 花のお江戸の人々

25’-2)花のお江戸の人々が 大好きだった 外食

26’-1)不自由な右脚を人に見られるのが 嫌だった 小林久枝氏

26’-2)小林久枝氏が 嫌だった 不自由な右脚を人に見られること

25’-1)と(26-’1)は主語を連体修飾し、25’-2)と(26’-2)は対象語を連体修飾している。

(10)

四つとも、意味が理解できることから、ガ格と述語の連結は見られない。

3.3 文構造が「主題―述部」のもの 3.3.1 有題文

「主語―述語」の文構造は、主体とその性質を表すものである。「主語―対象語―述語」の文 構造は、主体が抱いた対象への感情を表すことができる。ガ格の主語と対象語の連続性を見る うえで、二つの文構造の中間にある次の例文(27)を見てみる。

27)わしは、孫娘の婿として 秀頼が 可愛い。(城塞:86ページ)

└主題┘└修飾語───┘└ガ格┘└述語┘

例文(27)は「わし」が主題で、これは徳川家康のことである。「孫娘の婿」は複合格助詞「と して」が後接した連用修飾語である。「秀頼」がガ格、述語形容詞は「可愛い」である。「秀頼」

は「可愛い」の主体であり、「秀頼が可愛い」は主題「わし」に対する述部である。ただし、「主 語―述語」の文構造にあるもののように、例文(27)の主題「わし」は、「秀頼」の連体格のも のとは言えない。

次の例文(27’)は、27)の主題「わし」をガ格によって無題化したものである。

27’)わしが、孫娘の婿として 秀頼が 可愛い。

例文(27’)の連用修飾語「孫娘の婿として」を取り除いて、ガ格と述語がそれぞれ主述関係 にあるかどうかを見てみると、次のようになる。

27’-1)わしが 可愛い

27’-2)秀頼が 可愛い

27’-3)わしが 秀頼が 可愛い

27’-1)は、主語「わし」の性質が「可愛い」という意味で読めてしまう。27’-2)は、主

語「秀頼」の性質が「可愛い」という意味である。文の基本的な骨組みである主述関係から、

27’-1)も(27’-2)も、「わし」と「秀頼」以外に主語がなければ、対象語ではなく、これら

の語が、述語が性質を表している主体として理解される。

27’-3)を「主語―対象語―述語」として読むと、主語が「わし」であり、述語の「可愛い」

を主語の感情を表すものとして理解することができる。そして、「秀頼」をその対象語として理 解することになる。27’-3)の「わし」に後接する格助詞「が」が、述語に対して格関係の論 理のものか、連文節のように語の連結を作る関係のものか、ガ格への連体修飾句にして確認し

(11)

てみる。

27’-4)秀頼が 可愛い わし

27’-5)わしが 可愛い 秀頼

27’-4「秀頼が可愛いわし」に対して(27’-5「わしが可愛い秀頼」のほうが、いくらか許

容度の低い表現になる。このことから、ガ格「秀頼」は、述語「可愛い」と語の連結を作ると 考えることができる。

例文(27’)は、述部に「秀頼が可愛い」があり、焦点としてのガ格「わし」による「わしが 秀頼が可愛い」という文構造だと解釈することができる。例文(27)も、主題「わし」におい て、同じく述部「秀頼が可愛い」と述べられたものだと言える。「秀頼が可愛い」ことを、主題 が判断しているという意味合いが強く、有題文であることで、主題の主観的な表現であること が強調されたものとなっている。

3.3.2 主題が文脈にあるもの

例文(27「わしは、孫娘の婿として秀頼が可愛い」は、主題を有するものであった。ここで は、文中に主題を持たない例を見てみる。次の例文(28)と(29)はガ格が一つのものである。

28)日本では そのスピードが許されないのが 残念です。(中日春秋:2015225日)

└修飾語┘└ガ格───────────┘└述語┘

29)会談中のプーチン大統領が、無意識なのか、手中の鉛筆をポキッと二つにおるのが └ガ格─────────────────────────────────┘

少し 不気味である。(春秋:2015214日)

└修飾語┘└述語──┘

例文(28)は「日本」が連用修飾語、「そのスピードが許されない(の)」がガ格であり、「残 念です」が述語である。例文(29)は「会談中のプーチン大統領が(無意識なのか)手中の鉛 筆をポキッと二つにおる(の)」がガ格で、「少し」が連用修飾語、「不気味である」が述語であ る。文構造はガ格と述語が主述関係にあると理解することができる。しかし、例文(28)と(29 は、「残念です」「不気味である」という感覚や印象を抱いている話し手を想定して捉えること ができる。この場合、例文(28)と(29)の主述関係は、隠れた主題「話し手」におけるもの として考えられる。

次の(28-1)から(29-2)のうち、28-1)と(29-1)は主題を想定せずに、「主語―述語」の 文構造のものとして捉えたものである。28-2)と(29-2)は、「話し手」という主題を想定し て捉えたものである。

(12)

28-1)そのスピードが許されないのが 残念です └主語──────────┘└述語─┘

28-2)話し手は そのスピードが許されないのが 残念です └主題┘└述部────────────────┘

29-1)会談中のプーチン大統領が手中の鉛筆をポキッと二つにおるのが 不気味である └主語─────────────────────────┘└述語───┘

29-2)話し手は (省略)手中の鉛筆をポキッと二つにおるのが 不気味である └主題┘└述部─────────────────────────┘

例文(28)と(29)は、「主語―述語」の文構造にあるものであるが、主題「話し手」を有し た「主題―述部」の文構造のものとも捉えることができる。この場合、主題はガ格の連体格で はないため、「主語―述語」の文構造から拡大したものではない。主題が主語の連体格でないこ とから、この主語は「主語―対象語―述語」の文構造における対象語の位置に置かれたものと なる。このことが、ガ格における主語と対象語の連続性の要因となっている。

例文(2829)と同様のことが、次の(303132)にも言える。

30)いや、そもそも削減とは言っても、中国政府が基準とする統計自体が怪しいのではない か。(中日春秋:20141113日)

31)伸びしろの先にあったものが実に惜しい。(中日春秋:2016522日)

32)千差万別なところが面白い。(春秋:20141124日)

例文(303132)も、述語形容詞「怪しい」「惜しい」「面白い」に対して、それらの印 象を受けたり判断したりする「話し手」の存在を想定することができる。

30-1)中国政府が基準とする統計自体が 怪しい └主語───────────┘└述語┘

30-2)話し手は 中国政府が基準とする統計自体が 怪しい └主題┘└述部────────────────┘

31-1)伸びしろの先にあったものが 惜しい └主語─────────┘└述語┘

31-2)話し手は 伸びしろの先にあったものが 惜しい └主題┘└述部──────────────┘

32-1)千差万別なところが 面白い └主語─────┘└述語┘

(13)

32-2)話し手は 千差万別なところが 面白い └主題┘└述部──────────┘

また、次の例文(33)に主題を設ける場合、この主題は話し手ではなく、世界の国々や現代 における「(低所得国、中所得国の)国々」と考えることができる。この難易を表す形容詞「難 しい」も、「主題―述部」の文構造のものとして捉えられる。

33)低所得国が安い労働力や外資の導入による成長で中所得国になっても、そこから高所得 国への飛躍が難しい。(余録:201537日)

33-1)そこから高所得国への飛躍が 難しい └主語─────────┘└述語┘

33-2)国々は そこから高所得国への飛躍が 難しい └主題┘└述部─────────────┘

次の例文(34)は、省略された話し手以外の主題があるものとして読めるものである。これ は、少年が殺害された事件についての記事のものである。

34)大人として救えなかったことが申し訳なく、苦しいのであろう。(中日春秋:2015 3 1日)

例文(34)の前文は「被害者とは縁もゆかりもない方も足を運んでいる」であることから、

例文(34)の主題は「被害者とは縁もゆかりもない方」だと考えられる。例文(34)には「大 人として救えなかったことが申し訳ないことだ」と思っている人物がいる。例文(34)は(34-1 と(34-2)として解釈される。

34-1)被害者とは縁もゆかりもない方は 大人として救えなかったことが 申し訳ない └主題───────────┘└述部─────────────────┘

34-2)被害者とは縁もゆかりもない方は 苦しい └主題───────────┘└述語┘

34-2)における「苦しい」の主語は、主題「被害者とは縁もゆかりもない方」である。し かし、その主語と述語の解釈は、一通りではない。「苦しい」に近い性質を持つ形容詞「悲しい」

が述語形容詞である例文(35)は、三通りの意味の解釈が可能である。

35)母親や兄妹もそれぞれ父娘の陣営に分かれたと聞けば、社員や株主も気の毒だが、当の

(14)

家族が悲しい。(中日春秋:201532日)

例文(35)の一つ目の解釈は、主語「当の家族」が「悲しい(もの)」だというものである。

「当の家族」が置かれた状況に対して述べていると考えてもいい。二つ目は、主題「話し手」

において、「当の家族」が「悲しい」と述べたもので、「当の家族のこと」としたほうが理解が しやすくなる。この二つの解釈は、「主語―述語」と「主題―述部」の文構造で捉えたものであ る。三つ目は、述語「悲しい」という感情を抱いている主語が「当の家族」だとするものであ る。例文(35)のガ格は、感情を抱くことができるものであるために、この解釈が可能となる。

この場合、述語形容詞「悲しい」は動詞の「悲しんでいる」に置き換えることができる。

35-1)当の家族が 悲しいものだ └主語─┘└述語───┘

35-2)話し手は 当の家族のことが 悲しい └主題┘└述部─────────┘

35-3)当の家族が 悲しい(悲しんでいる)

└主語─┘└述語────────┘

4.おわりに 今後の課題

本論文では、ガ格による主語と対象語の連続性に着目して、形容詞述語文の文構造を分析し た。その結果、主語と対象語の連続性の要因は、「主題―述部」の文構造におけるガ格にあるこ とが分かった。この主題は、述語形容詞の主体の連体格ではない。文は、ある主題において、

主体とその性質を表すものである。主題が主語の連体格ではないため、主語は「主語―対象語

―述語」の文構造における対象語に近いものとなる。主題が文中に現れない無題文になると、

主観的に判断している主題が隠れ、述部の位置にあった「主語―述語」が文として現れる。そ の結果、「主題―述部」の文は、主題による主観的な表現としてではなく、主体とその性質を表 す「主語―述語」の文構造で述べられることになる。

形容詞には、性質、感覚、感情といったことを表すもののほかに、「難しい」「簡単」などの 難易、「上手い」「下手」などの能力、「多い」「少ない」などの存在を表すものもある。最後に これらの文構造について研究することを、今後の課題とする。

1. 例文(5)は225ページ、例文(6)は237ページ、例文(7)は236ページ、例 文(8)は236ページから引用した。対象語の説明は236ページから引用した。

2. 例文(9)から(12)は、時枝(1950)による。236ページから引用した。

3. 例文(13)と(14)は、久野(1973)による。49ページから引用した。久野(1973

(15)

は格助詞「が」を含めて主語や目的語としている。

4. 例文(15)と(16)は、杉本(1986)による。例文(15)は235ページ、例文(16 264ページから引用した。

5. 北原(2010)の「第二章 形容詞の種類と意味」を参考にした。

6. 例文(17)と(18)は、北原(2010)による。例文(17)は101ページ、例文(18 121ページから引用した。

7. ガ格の文構成原理のABの説明は117ページから引用した。

8. 例文(19)は125ページから、例文(20)は127ページから引用した。

9. 資料は次のものである。新聞のコラム:中日新聞「中日春秋」、日本経済新聞「春 秋」、毎日新聞「余録」。それぞれ201410月から20165月までのもの。

小説:司馬遼太郎「城塞」(新潮文庫『城塞(下)』より)、松本清張「疑惑」

(文春文庫『疑惑』より)、宮部みゆき「かどわかし」(新潮文庫『堪忍箱』よ り)。雑誌:「ナショナルジオグラフィック 日本版」の20163月号、4月号、

5月号に掲載された記事。本文では「ナショジオ」と表記した。なお、例文にあ るスペースと分析は、筆者が加えたものである。

参考文献

加藤重広(2009)「日本語形容詞再考」『北海道大学文学研究科紀要』129号、左63~89 ージ。

菊地康人(2010)「日本語の2種類の「文構成原理」と,「が」の「文構成上の機能」」上 野善道監修『日本語研究の12章』明治書院、117~133ページ。

北原保雄(2010)『日本語の形容詞』大修館書店。

久野暲(1973)『日本文法研究』大修館書店。

杉本武(1986)「格助詞」奥津敬一郎・沼田善子・杉本武『いわゆる日本語助詞の研究』凡 人社。

高橋太郎・金子尚一・金田章宏・齋美智子・鈴木泰・須田淳一・松本泰丈(2005)『日本語 の文法』ひつじ書房。

寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版。

時枝誠記(1950)『日本文法 口語篇』岩波全書。

日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 3部:格と構文 4部:ヴォイス』

くろしお出版。

半藤英明(2006「形容詞述語文の主語の立て方」『熊本県立大学文学部紀要』12巻、174~158 ページ。

益岡隆志(1987)『命題の文法―日本語文法序説』くろしお出版。

三上章(2002)『構文の研究』くろしお出版。1959年に東洋大学に提出された博士論文。

参照

関連したドキュメント

By conducting the analysis with undergraduate students using 12 steps in seminar style, the development effectiveness of 10 qualities of nursing researchers was identified

An analysis of differences in Japanese existential expressions as revealed by event-related brain potentials Koutarou Nomura 350052 School of Knowledge Science, Japan

ṆǽMost traditional classroom teachers of English would mark such a sentence as unacceptable in class; yet, most English speakers use the construction naturally and interpret

In order to use back translation as a method for checking the accuracy of a translated sentence, back translation has to satisfy the following conditions: there is

(ii) The reason the object with arbitrary interpretation does not appear in zero form is derived from the properties of a zero object and the element that can be topicalized.

This study investigated the relationship between game outcomes and shot conditions by operationally defining the difficulty of shots from a statistical

We have proposed the concept of extracting the spatial continuity of vegetation-covered areas like green corridor in urban areas. NDVI are adopted as the potential of the existence

Using the results of dendrogram (Fig. 2) and factor loadings (Table 2), an attempt had been made to discuss the relationship of life expectancy with other indicators. It should be