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ヘレロ語における適用形構文と目的語の対称性

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(1)

ヘレロ語における適用形構文と目的語の対称性

米 田 信 子

(大阪大学)

Applicative Construction and Object A/symmetry in Herero (Bantu, R31)

YONEDA, Nobuko

Osaka University

Applicative verb is one of the most common derivational verb forms in Bantu languages.

When a verb becomes an applicative verb with the addition of the applicative suffix, an extra argument, which is called “applied object,” appears. In a sentence with an applicative verb in Herero, only the applied object can be placed immediately after the verb, the place for the primary object. Therefore, Herero is not a “symmetric type language,” in which both the base object and the applied object are assigned to the primary object, but an “asymmetric type language,” (Bresnan abd Moshi 1993) in which only one of them (usually the applied object) is assigned to the primary object.However, because of the animacy hierarchy, the sentence behaves like one in a symmetric language when the base object is [+human]. This paper discusses how the animacy hierarchy interacts with the other criteria for determining the primary object in applicative constructionin Herero, spoken in Namibia.

キーワード:ヘレロ語,バントゥ諸語,適用形構文,目的語の対称性 Keywords: Herero, Bantu Languages, Appricative, object a/symmetry

1. はじめに 5. 目的語の対称性とアニマシー

2. ヘレロ語の適用形構文 6. 2つの目的語の現れ方:<場所>の場合 3. 目的語の対称・非対称 7. おわりに

4. 2つの目的語の現れ方:<受益者>の場合

ヘレロ語はアフリカ大陸赤道以南で広く話されているバントゥ諸語のひとつで,ナミビア,ボツワナ,お よびアンゴラ南部で話されている。本稿で用いるヘレロ語のデータは,2007 年度科学研究費補助金(基盤 研究(C))「南部アフリカ少数言語の教材開発および保護のための記述研究」(課題番号90352955,研究代 表者:大阪女学院大学 米田信子)および2008年度科学研究費補助金(基盤研究(C))「バントゥ諸語にお ける動詞派生形の形態・統語論比較研究」(課題番号19520343,研究代表者:大阪大学 小森淳子)により,

20082月~3月,20092月~3月にナミビアの首都ウィントフックで行なった調査で筆者が収集した。

コンサルタントは1966年ウィントフック生れのヘレロ人女性Angela Kuverua氏である。ヘレロ語は,ナミ ビア北西部からアンゴラにかけて話されている「カオコランド・ヘレロ語」,ナミビア中央部で話されて いる「中央ヘレロ語」,ナミビア東部からボツワナにかけて話されている「東部ヘレロ語(ンバンデル語)」

に分けられるが,Angela は中央ヘレロ語の母語話者である。なお例文は,彼女と同じく中央ヘレロ語を母 語とする他の 5 名のヘレロ人に確認した。本稿の執筆にあたっては,小森淳子氏,品川大輔氏,対照研究 セミナーのメンバーのみなさん,査読者の方々から,有益なコメントを数多くいただいた。ここに記して 感謝の意を表したい。言うまでもなく本稿における誤りや不備はすべて筆者の責任である。

(2)

1. はじめに

バントゥ諸語に広く共通して見られる動詞派生形のひとつに「適用形」がある。

動詞が適用形になると典型的には項がひとつ増える1。この新たに加えられる項を 本稿では「適用目的語」2と呼ぶことにする。派生する前の形(以下「原形動詞」

と呼ぶ)が他動詞の場合には,原形動詞がとる目的語(以下「基本目的語」と呼 ぶ)に加えて,適用形になると適用目的語をとることになるため,基本目的語と 適用目的語という2 つの「目的語」をとることになる。バントゥ諸語の中には,

これら2つの目的語のいずれもが「第一目的語(primary object)」(Brersnan & Moshi 1993)の資格を持つ言語と,どちらか一方しかその資格を持たない言語がある。

ヘレロ語については,基本的には2つの目的語のいずれもが第一目的語の資格 を持つとされてきた(Möhlig et al. 2002,Marten et al. 2005)。しかしながら筆者がこ れまでに収集したデータは必ずしもそうとは言えないことを示している。本稿で は,ヘレロ語における目的語の対称性の再検討を目的に,適用形構文における各 目的語の振る舞いを概観し,第一目的語の資格がどのように与えられているのか,

またそこにアニマシーがどのように関わっているのかを考察する。

2. ヘレロ語の適用形構文

まずはじめにヘレロ語の適用形派生接辞と適用形構文の構造を説明する。ヘレ ロ語の適用形派生接辞は-er-3で,これを動詞語根の後ろに加えることによって適 用形が作られる。(1)は派生接辞のつかない原形動詞語根-rand-「買う」を用いた 文で,ozombanda「服」が基本目的語である。(2)は-rand-に適用形派生接辞を付け た適用形動詞-rand-er-を用いた文である。動詞が適用形になったことで ovanatje

「子供たち」という項が新たに加えられている。これが適用目的語である。

後述するように適用形の機能は多様であるが,(2)の場合であれば動詞には「~

のために」という意味が加えられ,適用目的語は<受益者>4の意味役割を担う。

以下,例文では適用目的語を小型英大文字で示す。

1 新たな項が挿入されることを適用形の統語的特徴として挙げるのが一般的だが,実際には項が増えない場 合も少なくない(Marten 2003, Demuth 2005)。しかしながら,本稿は2つの目的語の対称性を論じるものであ り,項が増える適用形のみを扱うこととする。

2 適用形構文における目的語の呼び方についてはPeterson (2007)に従う。Petersonは,派生辞のつかない原 形動詞と結びついている目的語をbase object,適用形動詞と結びついている目的語をappicative objectと呼 び,これらの用語が適用形構文の研究において一般的になってきていると述べている(Peterson 2007: 7)。

3 5母音体系のバントゥ諸語の中には,-ir-が適用形派生接辞の基底形で,-er-は直前にある母音が/e, o/の場 合の異形態であるという言語もある。しかしながらヘレロ語では,直前の母音が/e, a, o/の場合に-er-,直前 の母音が/i, u/の場合に-ir-で現れるため,-er-を基底形,-ir-のほうを異形態として考えている。ヘレロ語の 適用形派生接辞については Möhlig & Kavari (2008)も同様の分析をしている。

4 以下,意味役割は< >に入れて表す。

(3)

(1) Omunéné wá-rand-a ozombanda.

1.parent 1.SM/PAST-buy-F 10.clothes

「親は服を買った。」

(2) Omunéné wá-rand-ér-é ovánátje ozombanda.

1.parent 1.SM/PAST-buy-AP-F 2.children 10.clothes

「親は子供たちのために服を買った。」

適用形派生接辞-erは,直前にある音節の母音が/i/,/u/の場合には舌の高さによ る母音調和が起こり,-ir-で現れる。また直前にある子音が鼻子音の場合には,派 生接辞-er-の/r/は鼻音調和が起きて[n]になり,-en-もしくは-in-で現れる。(3)は適 用形派生辞が母音調和を起こして-ir-で現れている例,(4)は鼻音調和を起こして -en-で現れている例,(5)は母音調和と鼻音調和を起こして-in-で現れている例であ る。

(3) Omunéné wá-pakúrúr-ír-é OVÁNÂTJE ozombanda.

1.parent 1.SM/PAST-unpack-AP-F 2.children 10.clothes

「親は子供たちのために服を取り出した。」

(4) Omuténa má-nan-en-e ONGÓMBÓ ongoze.

1.elder brother Prog/1.SM-pull-AP-F 9.goat 9.rope

「兄は山羊のためにロープを引っ張っている。」

(5) Erumbi rándje má-ri-pum-in-e OMWÁTJE ehí.

5.elder sister 5.my Prog-5.SM-shake off-AP-F 1.child 5.sand

「私の姉は子供のために砂を払っている。」

上記の例文では適用目的語の意味役割はいずれも<受益者>であるが,適用目 的語は<動作者>と<対象>以外の様々な意味役割を担う。以下は,a が原形動 詞を用いた例,bがそれを適用形にした例である。

(6) a Ami mbá-térék-é óhúnguríva.

I 1sg.SM/PAST-cook-F 9.chiken

「私はニワトリを料理した。」

b Ami mbá-térék-ér-é EPANGA RÁNJE óhúnguríva. <受益者>

I 1sg.SM/PAST-cook-AP-F 5.friend 5.my 9.chiken

「私は友達のためにニワトリを料理した。」

(4)

(7) a Ondjou ya-tey-a óndjuwó.

9.elephant 9.SM/PAST-break-F 9.house

「ゾウが家を壊した。」

b Ondjou ye-NDJI-tey-er-e óndjuwó. <被害者>

9.elephant 9.SM/PAST-1sg.OM-break-F 9.house

「ゾウが私に家を壊した。>私はゾウに家を壊された。」

(8) a Ovandu má-ve-pund-u.

2.people Prog-2.SM-dance-F 「人々は踊っている。」

b Ovandu má-ve-pund-ir-e OMUKANDÍ. <理由・動機>

2.people Prog-2.SM-dance-AP-F 3.wedding 「人々は結婚式のために踊っている。」

(9) a Ami mé-tjang-á orutuú.

I Prog/1sg.SM-write-F 11.letter

「私は手紙を書いている。」

b Ami mé-tjang-ér-é OVANÁTJÉ orutuú. <受容者>

I Prog/1sg.SM-write-AP-F 2.children 11.letter 「私は子供たちに手紙を書いている。」

(10) a Ami mé-tupuk-a.

I Prog/1sg.SM-run-F

「私は走る。」

b Ami mé-KU-túpuk-ir-e. <着点>

I Prog/1sg.SM-2sg.OM-run-AP-F

「私は君に向かって走る。」

(11) a Ongombe yá-kók-á.

9.cow 9.SM/PAST-die-F

「牛が死んだ。」

b Ongombe yá-kók-ér-e MÓKUTÍ. <場所>

9.cow 9.SM/PAST-die-AP-F 18.Loc/5.field

「牛が畑で死んだ。」

(6)~(11)のaとbを比べると,それぞれ適用形になったbでは,原形動詞を用い た a よりも項がひとつ増えている。(7)と(10)では名詞句は増えていないが,新た な項として目的語接辞(代名詞)が動詞の内部に加えられている。(8), (10), (11)

(5)

のように原形動詞が自動詞の場合でも,適用形になれば目的語(適用目的語)を とることになる。

適用目的語が担う意味役割は上記の例が示すように多様であるが,ヘレロ語の 適用目的語は<道具>の意味役割を担うことができない。<道具>はバントゥ諸 語の適用目的語の典型的な意味役割のひとつであるが(Schadeberg 2003:74),ヘレ ロ語では(13)のように前置詞句を用いて表さなければならない5

(12) a Ete má-tu-r-i oruhéré.

we Prog-1pl.SM-eat-F 11.pridge

「我々は練り粥を食べる。」

b *Ete má-tu-r-ir-e OTÚTÚWÓ oruhéré *<道具>

we Prog-1pl.SM-eat-AP-F 12.spoon 11.pridge

(我々はスプーンで練り粥を食べる。)

(13) Ete má-tu-r-i oruhéré notútúwó.

we Prog-1pl.SM-eat-F 11.pridge with/12.spoon

「我々はスプーンで練り粥を食べる。」

適用目的語の意味役割は語彙や文脈によって判断される。従って(6)~(10)の例文 でも文脈によって異なる意味役割の解釈が可能になってくる。例えば(6)のepanga

「友人」は<受益者>としての解釈だけでなく,「友人が大切にしているニワト リを料理してしまった」という場合には<被害者>にもなりえる。また(9)であれ ば,文脈によっては「子供たちの代わりに私が手紙を書いた」というovanatje「子 供たち」を<受益者>とする解釈も可能である。

しかしながら<場所>の意味役割を担うことができる適用目的語は「場所クラ ス名詞」6と呼ばれる名詞に限られる。場所クラス名詞は形態的にも通常の名詞と は異なっており,場所クラス名詞が適用目的語になった場合,つまり適用目的語 が<場所>の意味役割を持つ場合には,それ以外の意味役割の適用目的語の場合 とは振る舞いが異なっている7。この違いについては6章で詳しく見るが,本稿で

5 ケレウェ語やルヮ語など,<道具>を適用形ではなく使役形で表す言語が報告されているが(小森 2004,

品川 2004),ヘレロ語では使役形で<道具>を表すこともできない。

6 場所クラス名詞とは,通常の名詞に「場所クラス接頭辞」と呼ばれる接頭辞がついた形である。場所クラ ス接頭辞は場所を表す前置詞のような機能を持っており,名詞に「~で」,「~のあたりで」,「~の中 で」といった意味を付加する。バントゥ諸語では場所クラス名詞も「名詞」として扱われるが,通常の名 詞とは形態的にも異なり,統語的にも異なる振る舞いを見せる。これについては 5 章で詳しく述べる。ヘ レロ語の場所クラス名詞には3種類あり,それぞれ16クラス,17クラス,18クラスという名詞クラスに 分類されている。17 クラスの場所クラス名詞は「~のために」という前置詞句としても機能するが,これ については脚注11を参照のこと。

7 <場所>の意味役割を担う項が適用目的語になる場合にはそれ以外の場合とは異なる振る舞いを見せる 例は,他のバントゥ諸語でも報告されている(Ngonyani 1996, 品川 2004, 小森 2004 他)。

(6)

は<場所>以外の意味役割を<受益者>で代表させ,「受益者タイプ」と「場所 タイプ」に分けて,目的語の振る舞いを検討していくことにする。

3. 目的語の対称・非対称

3.1. 対称型言語と非対称型言語

バントゥ諸語では,目的語となる名詞句は一般的に以下のような特性を持って いると言われ(Kisseberth and Abasheikh 1977, Hyman and Duranti 1982, Bresnan and Moshi 1993,Peterson 2007他),これらの特性の有無が名詞句の「目的語性」を見 極める際の基準として用いられる。

Ⅰ 動詞の直後におくことができる

Ⅱ 代名詞として目的語接辞化できる

Ⅲ 受動態の主語にできる

適用形構文のように2つの目的語がある場合には8,上記の特性を持っている目 的語がより高い「目的語性」を持っているということになる。上記の特性を持つ

「より目的語らしい目的語」をBresnan and Moshi (1993:47)は「第一目的語“primary object”」と呼んでいる。既述のとおりバントゥ諸語の中には,両方の目的語に第 一目的語の資格が与えられる言語と,どちらか一方の目的語にしか第一目的語の 資格が与えられない言語がある。前者,すなわち両方の目的語が第一目的語の資 格を有する言語を「対称型言語“symmetrical type language”」と呼び,後者,すなわ ちどちらか一方の目的語しか第一目的語の資格を持たない言語を「非対称型言語

“asymmetrical type language”」(Bresnan and Moshi 1993:47)と呼ぶ。以下にそれぞれ の言語の例を挙げる。なお,ツワナ語もチェワ語も基本語順はヘレロ語と同じく SVOである。

対称型言語:ツワナ語(Marten et al. 2004:8)

(14) a Ke-ape-ets-e NGWANA kuku.

1sg.SM-cook-AP-PERF 1.child 9.chicken

「私は子供のためにニワトリを料理した。」

8 -pa「与える」や -honga「教える」といった原形動詞で2つの目的語をとる二重他動詞もある。二重他動

詞や適用形動詞を使役形にすると「目的語」(あるいは「主語以外の項」)が 3 つになりそうだが,実際 にはこれらの動詞を使役形にすることはできない。その場合には使役形動詞ではなく「~するように言い つけた」といった別の表現が用いられる。二重他動詞を適用形にすることもできない。その場合は適用形 にする代わりに「~のために」という前置詞句で表す。いずれにしてもヘレロ語では動詞が主語以外の項 3つとることはできない。

(7)

b Ke-ape-ets-e kuku NGWANA. 1sg.SM-cook-AP-F 9.chicken 1.child

「私は子供のためにニワトリを料理した。」

(15) a Ke-MO-ape-ets-e kuku.

1sg.SM-1.OM-cook-AP-F 9.chicken

「私は彼(=子供)のためにニワトリを料理した。」

b Ke-e-ape-ets-e NGWANA. 1sg.SM-9.OM-cook-AP-F 1.child

「私は子供のためにそれ(=にわとり)を料理した。」

(16) a NGWANA o-ape-ets-w-e kuku.

1.child 1.SM-cook-AP-PASS-F 9.chicken

「子供はニワトリを料理された。」

b Kuku e-ape-ets-w-e NGWANA. 9.chicken 9.SM-cook-AP-PASS-F 1.child

「ニワトリは子供のために料理された。」

非対称型言語:チェワ語(Mchombo 2004:80)

(17) a Alenje a-ku-phík-íl-á ANYANÍ zítúmbûwa.

2.hunters 2.SM-PRES-cook-AP-F 2.baboons 8.pancake

「ハンターはバブーンのためにパンケーキを作った。」

b * Alenje a-ku-phík-íl-á zítúmbûwa ANYANÍ. 2.hunters 2.SM-PRES-cook-AP-F 8.pancake 2.baboons

(18) a Alenje a-ku--phík-il-á zítúmbûwa.

2.hunter 2.SM-PRS-2.OM-cook-AP-F 8.pancake

「ハンターは彼ら(=バブーン)のためにパンケーキを作った。」

b * Alenje a-ku-zí-phík-il-á ANYÂNI. 2.hunter 2.SM-PRS-8.OM-cook-AP-F 2.baboon

(ハンターはバブーンのためにそれ(=パンケーキ)を作った。)

(19) a ANYANÍ a-ku-phík-il-idw-á maûngu.

2.baboon 2.SM-PRS-cook-AP-PASS-F 6.pumpkin

「バブーンはかぼちゃを料理された。」

b * Maúngu a-ku-phík-il-idw-á ANYÁNI. 6.pumpkin 6.SM-PRS-cook-AP-PASS-F 2.baboon

(かぼちゃはバブーンのために料理された。)

(8)

ツワナ語は,基本目的語と適用目的語の両方が第一目的語の資格を有する対称 型言語である(Marten et al. 2004:8)。Ⅰの条件については,(14)が示すようにどちら の目的語を動詞の直後に置くこともできる。さらにⅡの条件についても,(15)が示 すようにいずれの目的語も代名詞として目的語接辞化することができ,またⅢの 条件についても,(16)が示すようにいずれの目的語を受動態の主語にすることも可 能である。つまり,適用目的語と基本目的語の間に統語的特性に差異はなく,ど ちらの目的語も第一目的語の資格を持っている。

それに対して非対称型言語であるチェワ語の場合には,第一目的語の資格は適 用目的語にしか与えられていない。従って,動詞直後に置くことができるのは適 用目的語だけであり,基本目的語を動詞直後に置いた(17b)は非文となる。また(18) と(19)が示すように,目的語接辞化して動詞の中に代名詞として取り込むことがで きるのも,受動態の主語にすることができるのも,適用目的語だけである。

3.2. 混合型言語

しかしながら,すべてのバントゥ諸語がツワナ語とチェワ語のように対称型と 非対称型に明確に分けられるわけではなく,むしろ多くの言語において,対称的 である部分と非対称的である部分が混在していることが報告されている(Bresnan and Moshi 1993,Morimoto 2008他)。これをMorimoto (2008)は「混合型言語“Mixed language”」と呼んでいる。例えば,ケレウェ語は,ⅠとⅡの基準に関しては適用 目的語と基本目的語の両方が満たしているが,受動態の主語にできるのは適用目 的語に限られる(小森 2004)。従ってⅠとⅡの基準では対称型言語的であるが,

Ⅲの基準に関しては非対称型言語的ということになる。

ケレウェ語(小森 2004:73)

(20) a omuhalakazi a-ku-sy-él-a NINÁ oβulo 1.girl 1.SM-Pro-grind-AP-F her mother 14.millet

「女の子がお母さんのためにモロコシを挽いている。」

b omuhalakazi a-ku-sy-él-a oβulo NINÁ.

1.girl 1.SM-Pro-grind-AP-F 14.millet her mother

「女の子がお母さんのためにモロコシを挽いている。」

(21) a omuhalakazi a-ku-MU-sy-él-a oβulo 1.girl 1.SM-Pro-grind-AP-F 14.millet

「女の子が彼女(=お母さん)のためにモロコシを挽いている。」

b omuhalakazi a-ku-βu-sy-él-a NINÁ.

1.girl 1.SM-Pro-grind-AP-F her mother

「女の子がお母さんのためにそれ(=モロコシ)を挽いている。」

(9)

(22) a NINÁ a-ku-sy-él-w-a omuhalakazi oβulo 1.her mother 1.SM-Pro-grind-AP-PASS-F 1.girl 14.millet

「彼女のお母さんは女の子にモロコシを挽いてもらっている。」

b * oβulo βu-ku-sy-él-w-a omuhalakazi NINÁ

14.millet 14.SM-Pro-grind-AP-PASS-F 1.girl her mother

(モロコシは彼女のお母さんのために女の子に挽かれている。)

それではヘレロ語はどうだろうか。Möhlig et al. (2002),Marten et al. (2005)では,

語順に関してはアニマシーの関与によって非対称的に振る舞う場合があることが 認められつつも,基本的にヘレロ語は対称型言語であると言われている。しかし ここで 2つのことを再検討する必要がある。ひとつは,なぜ非対称的振る舞いの ほうが「例外」なのかということである。語順において対称的に振る舞う場合と 非対称的に振る舞う場合があるのであれば,どちらが「本来」の振る舞いでどち らが「例外」なのかということについては十分な検討と根拠が示されるべきであ るが,上記の先行研究ではそれらが示されていない。もうひとつは,アニマシー の関与である。先行研究では語順にアニマシーが影響を与えることは述べられて いるが,具体的にそれがどのような影響なのか,また語順以外にはアニマシーの 関与はないのか,ということについては述べられていない。

そこで次章以下では,ヘレロ語の適用形構文における2つの目的語の振る舞い とアニマシーの関係を詳しく見ていくことにする。

4. 2つの目的語の現れ方:<受益>の場合 4.1. 語順

動詞の後ろに2つの目的語がある場合,動詞の直後に位置できるほうが第一目 的語の資格を持っているということになる。アニマシーの関与について観察でき るように,適用目的語が「人」の場合,「動物」の場合,「モノ」の場合に分け,

基本目的語のアニマシーとのすべての組み合わせにおける2つの目的語の語順を 見ていく。

4.1.1. 適用目的語が人の場合

まず適用目的語が「人」の場合を見る。適用目的語が「人」で基本目的語が「モ ノ」という組み合わせは,適用形構文において最も典型的であり,好まれるパタ ーンである(Morimoto 2008)。(23)はそのような組み合わせの例である。

(23) ApO:人,BO:モノ

「親は子供たちのために練り粥を作った。」

(10)

a Omunéné wá-zik-ír-é OVÁNÂTJE oruhéré

1.parent 1.SM/PAST-cook-AP-F 2.children 11.porridge b * Omunéné wá-zik-ír-é orúheré OVANÂTJE.

1.parent 1.SM/PAST-cook-AP-F 11.porridge 2.children

基本目的語が「モノ」の場合,動詞直後に置くことができるのは適用目的語だ けである。(23)の場合には適用目的語ovanatje「子供たち」を動詞の直後に置かな ければならない。(23b)のように基本目的語oruhere「練り粥」を動詞の直後に置く ことはできない。

(24)は基本目的語が「動物」の例である。動詞直後に置くことができるのはこの 組み合わせの場合にも適用目的語だけであり,(24b)のように基本目的語を動詞直 後に置くと非文になる。

(24) ApO:人,BO:動物

「私は子供たちのために牛を買った。」

a Ami mbá-rand-ér-é OVÁNÂTJE ozongombe.

I 1sg.SM/PAST-buy-AP-F 2.children 10.cows b * Ami mbá-rand-ér-é ozóngómbe OVANÂTJE.

I 1sg.SM/PAST-buy-AP-F 10.cows 2.children

(23),(24)が示すように,基本目的語が「モノ」あるいは「動物」の場合には,

それら基本目的語を動詞直後に置くことはできない。動詞直後に置くことができ るという第一目的語の条件を満たしているのは適用目的語だけである。ここでは 2つの目的語が非対称な振る舞いを見せている。

ところが基本目的語が「人」の場合,すなわち両方の目的語が「人」の場合に は,基本目的語も動詞直後に置くことができる。

(25) ApO:人,BO:人

「私は子供たちのために先生を呼ぶ。」

a Ami mé-isán-én-é OVANÂTJE omítirí.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 2.children 9.teacher b Ami mé-isan-én-é omítirí OVANÂTJE.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 1.teacher 2.children

(a, bとも「私は先生のために子供たちを呼ぶ。」の解釈も可能)

(25)は適用目的語と基本目的語がいずれも「人」という組み合わせである。この 場合には適用目的語だけでなく,(25b)のように基本目的語を動詞直後に置いても

(11)

文が成立する。従って,両方の名詞句が適用目的語としても基本目的語としても 解釈できることになり,結果的に(25)は曖昧文になってしまう9

4.1.2. 適用目的語が「動物」の場合

次に適用目的語が「動物」の場合を見ていく。

(26) ApO:動物,BO:モノ

「お兄さんは牛のために門を開けている。」

a Omuténa má-paturur-ir-e OZONGOMBE omuvéró.

1.elder brother Prog/1.SM-open-AP-F 10.cows 3.gate b * Omuténa má-paturur-ir-e omuvéró OZONGOMBE. 1.elder brother Prog/1.SM-open-AP-F 3.gate 10.cows

適用目的語が「動物」で基本目的語が「モノ」,という組み合わせの場合には,

動詞直後に置くことができるのは適用目的語だけである。基本目的語である omuvero「門」を動詞の直後に置いた(26b)は非文となる。

基本目的語が「動物」の場合にも動詞直後に置けるのは適用目的語だけで,基 本目的語ombwa「犬」を動詞直後に置いた(27b)はある。

(27) ApO:動物,BO:動物

「我々は山羊たちの(見張りの)ために犬を買う。」

a Ete má-tú-rand-er-e OZONGÓMBÓ ombwá.

we Prog-1pl.SM-buy-AP-F 10.goats 9.dog b * Ete má-tú-rand-er-e ombwá OZONGÓMBÓ. we Prog-1pl.SM-buy-AP-F 9.dog 10.goats

ところが基本目的語が「人」の場合には,適用目的語だけでなく基本目的語も 動詞直後に置くことができる。

(28) ApO:動物,BO:人

「我々は家畜のために医者を呼ぶ」

9 曖昧さを避けるためには適用形ではなく原形動詞と場所クラス名詞(ここではfor ~/ to ~といった前置詞 句として機能している)を用いて以下のように表す。

(i) Ami mé-isan-a omítirí kovanátje.

I NFUT/1sg.SM-call-F 9.teacher 17.Loc/2.children

「私は子供たちのために先生を呼ぶ。」

(25)に対して,動詞直後に置かれているのが適用目的語であって曖昧文ではないとする話者もいる。これに

ついては5.2.で触れる。

(12)

a Ete má-tu-isan-en-e OVINAMWINYÓ onganga.

we Prog-1pl.SM-call-AP-F 8.livestock 9.doctor b Ete má-tu-isan-en-e onganga OVINAMWINYÓ. we Prog-1pl.SM-call-AP-F 9.doctor 8.livestock

「我々は家畜のために医者を呼ぶ」

(28)は適用目的語が「動物」,基本目的語が「人」という組み合わせである。こ の場合には,適用目的語だけでなく基本目的語も動詞直後に置くことができる。

どちらの目的語も動詞直後に置くことができるということは,(25)の場合と同じよ うに動詞の直後に位置する名詞句のいずれもが基本目的語とも適用目的語とも解 釈できるはずであるが,(28)においてovinamwinyo「家畜」しか適用目的語と解釈 されないのは,onganga「医者」を適用目的語とする解釈(「医者のために家畜を 呼ぶ」)が非現実的だからである。

4.1.3. 適用目的語が「モノ」の場合

最後に適用目的語が「モノ」の場合を見る。<受益者>という意味役割を担う のは基本的に有生名詞である。従って,適用目的語が「モノ」の場合には意味役 割は<理由・動機>である。(29)と(30)は,それぞれ基本目的語が「モノ」と「動 物」の例である。

(29) ApO:モノ,BO:モノ

「私たちは結婚式のために料理を作っている。」

a Été má-tú-zik-ír-é OMUKANDÍ ovikuryá.

we Prog-1pl.SM-cook-AP-F 3.wedding 8.food b * Été má-tú-zik-ír-é ovikuryá OMUKANDÍ.

we Prog-1pl.SM-cook-AP-F 8.food 3.wedding (30) ApO:モノ,BO:動物

「我々は結婚式のために牛を買う。」

a Ete má-tú-rand-ér-é OMUKANDÍ ozongombe.

we Prog-1pl.SM-buy-AP-F 3.wedding 10.cows b * Ete má-tú-rand-ér-é ozongombe OMUKANDÍ.

we Prog-1pl.SM-buy-AP-F 10.cows 3.wedding

適用目的語が「人」の場合(4.1.1.)と適用目的語が「動物」の場合(4.1.2.)には,

「モノ」や「動物」の基本目的語との組み合わせにおいて基本目的語を動詞直後 に置くことはできなかったが,適用目的語が「モノ」の場合も同様で,(29b),(30b) が示すように基本目的語が「モノ」と「動物」の場合には,それら基本目的語を

(13)

動詞の直後に置くことはできない。動詞直後に置くことができるのは適用目的語 だけである。

ところが基本目的語が「人」の場合は,これまでの例とは反対に,動詞直後に 置くことができるのは基本目的語だけであり,適用目的語を動詞の直後に置くこ とができなくなる。

(31) ApO:モノ,BO:人

「私は兄を仕事のために呼ぶ。」

a * Ami mé-isan-en-e OVIUNGURA omuténa kwándje10. I Prog/1sg.SM-call-AP-F 8.work 1.elder brother my b Ami mé-isan-en-e omuténa kwándje OVIUNGURA. I Prog/1sg.SM-call-AP-F 1.elder brother my 8.work c Ami mé-isan-a omuténa kwándje KOVIUNGURA.

I Prog/1sg.SM-call-F 1.elder brother my 17.Loc/8.work

基本目的語が「人」で適用目的語が「モノ」という組み合わせは,適用形構文 の「典型」から最も外れており(Morimoto 2008),ヘレロ語ではこの組み合わせで 適用形構文を用いること自体にかなり制限がある。(31)の場合も,(31b)は文法的 ではあるが,適用形構文よりも原形動詞に「仕事のために」という前置詞句を続 けた(31c)のほうが一般的である11。また(31)と同じく基本目的語が「人」で適用目 的語が「モノ」という組み合わせでも,(32)の場合には適用形構文自体を使うこと ができない。

(32) ApO:モノ,BO:人

「私は結婚式のために親を呼ぶ。」

a * Ami mé-isan-en-e OMUKANDÍ ovanéné.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 3.wedding 2.parents b * Ami mé-isan-en-e ova-néné OMUKANDÍ.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 2.parents 3.wedding

10 1クラスの名詞に呼応した-andje「私の」の形はwandjeであるが,「私の兄」という場合には例外的に omutena kwandjeになる。

11 ここでは場所クラス接頭辞をつけることによって「仕事」という場所を表しているわけではなく,「仕 事のために」というという前置詞句のように機能している(脚注 6 参照)。形態的には場所クラス名詞に なっているが,意味役割が<場所>になっているわけではない。(32)も同様で「結婚式」という場所を表し ているのではなく「結婚式に」という前置詞句になっている。このことは,意味役割が<場所>の場合に はそれが主語になった場合にも場所クラス名詞が用いられるのに対して,「結婚式」を受動態の主語にす る場合には「結婚式」が場所クラス名詞ではなく通常の名詞の形で現れることからもわかる(例文(53)参照)。

(14)

(31)と(32)では用いている動詞も同じであり,基本目的語と適用目的語のアニマ シーの組み合わせも同じであるが,(32)では適用目的語を動詞直後に置くことがで きないだけでなく,適用形構文を用いることができない。しかしながら(32c)のよ うに適用目的語を場所クラス名詞にすれば適用形構文を用いることができるよう になる。ただしこの場合も(32d)のように適用形動詞ではなく原形動詞を用いるほ うが,より一般的である。

「私は結婚式のために親を呼ぶ。」

c Ami mé-isan-en-e ovanéné KOMUKANDÍ.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 2.parents 17.Loc/3.wedding d Ami mé-isan-a ovanéné KOMUKANDÍ.

I Prog/1sg.SM-call-F 2.parents 17.Loc/3.wedding

最も典型から外れるとされる適用目的語が「モノ」基本目的語が「人」という 組み合わせにおいて,適用目的語を場所クラス(この場合は前置詞句として機能 しているが)にしなくても適用形構文を用いることができるのはどんな条件の場 合なのか,現在筆者が持っているデータからはまだわかっていない。

4.2.目的語接辞化

次に第一目的語の2つめの特性である「目的語接辞化」について両目的語の振 る舞いを見る。目的語接辞とは「目的語」の資格を持った名詞句に呼応して動詞 語幹に付加される接辞である。呼応している名詞句が文中に現れていない場合に は目的語接辞が代名詞として機能する。つまり目的語接辞化できるということは,

その名詞句を代名詞化して動詞の中へ取り込むことができるということである。

バントゥ諸語の中には動詞に2つの目的語接辞を付加することができるものもあ るが,ヘレロ語では適用形構文のように目的語が2つある場合でも目的語接辞は ひとつしか付加することはできない。従って,代名詞化して動詞内部に取り込む ことができる目的語が第一目的語である。

4.2.1. 適用目的語が人の場合

まず,適用目的語が「人」の場合を見ていく。(33)と(34)は基本目的語がそれぞ れ「モノ」と「動物」の例である。aが適用目的語を目的語接辞化した例,bが基 本目的語を目的語接辞化した例である。

(33) ApO:人,BO:モノ

a Omunéné wé-VE-zík-ír-e orúhere.

1.parent 1.SM/PAST-2.OM-cook-AP-F 11.porridge

「親は彼ら(=子供たち)のために練り粥を作った。」

(15)

b (?) Omunéné wé-ru-zik-ír-é OVÁNÂTJE.

1.parent 1.SM/PAST-11.OM-cook-AP-F 2.children

「親は子供たちのためにそれ(=練り粥)を作った。」

(34) ApO:人,BO:動物

a Ami mbé-VE-ránd-ér-é ozóngómbe.

I 1sg.SM/PAST-2.OM-buy-AP-F 10.cows

「私は彼ら(=子供たち)のために牛を買った。」

b (?) Ami mbé-ze-ránd-ér-é OVÁNÂTJE.

I 1sg.SM/PAST-10.OM-buy-AP-F 2.children

「私は子供たちのためにそれ(=牛)を買った。」

どちらの目的語も目的語接辞化して代名詞として動詞の中に取り込むことは可 能であるが,問題なく目的語接辞化することができるのは適用目的語のほうであ る。基本目的語を接辞化した文については,文の意味をかなり詳しく説明すれば 最終的には理解されて容認されたが,すぐに理解して「言える」と判断した話者 はいなかった。従って(33b),(34b)は,非文ではないが少なくとも適用目的語の目 的語接辞化と同等の容認度というわけでなく,間違いではないにしてもあまり一 般的に用いられる表現ではない。

ところが基本目的語が「人」の場合には,適用目的語の接辞化も基本目的語の 接辞化も同等に容認される。(33b),(34b)についてかなり悩んでいた話者も(35b) については迷うことなく容認する。

(35) ApO:人,BO:人

a Ami mé-VE-isan-en-e omítirí.

I 1sg.SM-2.OM-call-AP-F 1.teacher

「私は彼ら(=子供たち)のために先生を呼ぶ。」

(「私は先生のために彼ら(=子供たち)を呼ぶ。」の解釈も可能)

b Ami mé-mu-isan-en-e OVANÁTJE.

I 1sg.SM-1.OM-call-AP-F 2.children

「私は子供たちのために彼(=先生)を呼ぶ。」

(「私は彼(=先生)のために子供たちを呼ぶ。」の解釈も可能)

(35)は,ひとつの名詞句を適用目的語にも基本目的語にも解釈することができる ため,結果的に曖昧文になってしまう。曖昧文の場合,どちらが適用目的語であ るかは文脈から判断されるが,文脈に頼ることができない場合には,接辞化され ているものが優先的に適用目的語として解釈される。

(16)

3.2.2. 適用目的語が「動物」の場合

適用目的語が「動物」の場合にも,適用目的語と基本目的語のいずれも目的語 接辞化することができる。ただし基本目的語の「モノ」を目的語接辞化した文は (33b), (34b)と同様にあまり一般的ではない。

(36) ApO:動物,BO:モノ

a Omuténa mé--patúrúr-ír-é omuvéró.

1.elder brother 1.SM-10.OM-open-AP-F 3.gate

「お兄さんはそれら(=牛)のために囲いを開けている。」

b (?) Omuténa mé-ú-patúrúr-ír-é OZO-NGOMBE. 1.elder brother 1.SM-3.OM-open-AP-F 10.cows

「お兄さんは牛のためにそれ(=ゲート)を開けている。」

しかしながら,(37)のように基本目的語が「動物」の場合や,(38)のように基本 目的語が「人」の場合には,適用目的語と基本目的語のいずれも問題なく接辞化 することができる。結果的に(37)は曖昧文になる。(38)も理論的には曖昧文になる はずだが曖昧文になっていないのは,onganga「医者」を適用目的語とする解釈が 非現実的だからである。

(37) ApO:動物,BO:動物

a Ete má-tú-ZE-ránd-ér-é ombwá.

we Prog-1pl.SM-10.OM-buy-AP-F 9.dog

「我々はそれら(=山羊)のために犬を買う。」

(「我々は犬のためにそれら(=山羊)を買う」の解釈も可能)

b Ete má-tú-i-ránd-ér-e OZONGÓMBÓ. we Prog-1pl.SM-9.OM-buy-AP-F 10.goats

「我々は山羊たちのためにそれ(=犬)を買う。」

(「我々はそれ(=犬)のために山羊を買う」の解釈も可能)

(38) ApO:動物,BO:人

a Ete má-tú-VI-isán-én-é onganga.

we Prog-1pl.SM-8.OM-call-AP-F 9.doctor

「我々はそれら(=家畜)のために医者を呼ぶ。」

b Ete má-tú-mu-isán-én-é12 OVINAMWINYÓ. we Prog-1pl.SM-1.OM-call-AP-F 8.livestock

「我々は家畜のために彼(=医者)を呼ぶ。」

12 onganga「医者」は9クラスだが「人」なので三人称単数(=1クラス)に呼応した目的語接辞になる。

(17)

4.2.3. 適用目的語が「モノ」の場合

次は適用目的語が「モノ」の場合の例である。(39)は基本目的語が「モノ」,(40) は基本目的語が「動物」,(41)は基本目的語が「人」である。いずれの組み合わせ の場合も両方の目的語の接辞化が可能である。

(39) ApO:モノ,BO:モノ

a Été má-tú-U-zik-ír-é ovikuryá.

we Prog-1pl.SM-3.OM-cook-AP-F 8.food

「私たちはそれ(=結婚式)のために料理を作っている。」

b Été má-tú-vi-zík-ír-é OMUKANDÍ.

we Prog-1pl.SM-8.OM-cook-AP-F 3.wedding

「私たちは結婚式のためにそれ(=料理)を作っている。」

(40) ApO:モノ,BO:動物

a Ete má-tú-U-ránd-ér-é ozongombe.

we Prog-1pl.SM-3.OM-buy-AP-F 10.cows

「我々はそれ(=結婚式)のために牛を買う。」

b Ete má-tú-ze-ránd-ér-e OMUKANDÍ.

we Prog-1pl.SM-10.OM-buy-AP-F 3.wedding

「我々は結婚式のためにそれ(=牛)を買う。」

(41) ApO:モノ,BO:人

a Ami mé-VI-isan-en-e omuténa kwándje.

I Prog/1sg.SM-8.OM-call-AP-F 1.elder brother my

「私はそれ(=仕事)のために兄を呼ぶ。」

b Ami mé-mu-isan-en-e OVIUNGURA. I Prog/1sg.SM-1.OM-call-AP-F 8.work

「私は仕事のために彼(=私の兄)を呼ぶ。」

先に挙げた(32c)の例では,適用形構文を用いるためには適用目的語を場所クラ ス名詞にしなければならなかったが,基本目的語を接辞化し,動詞の後ろにある 名詞句が適用目的語だけになる場合には(42b)のようにそれを場所クラス名詞にす ることなく通常の名詞形で用いることができる。

(42) ApO:モノ,BO:人

a Ami mé-U-isan-én-é ovanéné.

I Prog/1sg.SM-3.OM-call-AP-F 2.parents

「私はそれ(=結婚式)のために親を呼ぶ。」

(18)

b Ami mé-ve-isan-én-é OMUKANDÍ.

I Prog/1sg.SM-2.OM-call-AP-F 3.wedding

「私は結婚式のために彼ら(=親たち)を呼ぶ。」

cf. c Ami mé-isan-en-e ovanéné KOMUKANDÍ. (=(32c)再掲)

I Prog1sg.SM-call-AP-F 2.parents 17.Loc/3.wedding

「私は結婚式のために親たちを呼ぶ。」

4.3. 受動態の主語

4.1と4.2で見てきたように,動詞直後に置くことができるという語順に関して はヘレロ語の目的語は非対称的であるが,目的語接辞化に関しては,基本的には どちらの目的語も可能である。ただし目的語接辞化も容認度(あるいは一般的か どうか)においては「全く対称的」というわけではない。しかしながら受動態の 主語化については,適用目的語と基本目的語の組み合わせに関係なく,いずれの 目的語も可能である。この特性に関してはヘレロ語は対称型言語的である。

(43) ApO:人,BO:モノ

a OVANÁTJÉ vá-zik-ír-w-á orúheré.

2.children 2.SM/PAST-cook-AP-PASS-F 11.porridge

「子供たちは練り粥を作られた。」

b Oruhéré rwá-zik-ír-w-á OVÁNÂTJE.

11.porridge 11.SM/PAST-cook-PASS-F 2.children

「練り粥は子供たちのために作られた。」

(44) ApO:人,BO:動物

a OVANÁTJE vá-rand-ér-w-á ozóngómbe.

2.children 2.SM/PAST-buy-AP-PASS-F 10.cows

「子供たちは牛を買われた。」

b Ozongombe zá-rand-ér-w-á OVÁNÂTJE.

10.cows 10.SM/PAST-buy-AP-PASS-F 2.children

「牛は子供たちのために買われた。」

(45) ApO:人,BO:人

a OVANÁTJE má-ve-isan-en-w-a omítirí.

2.children Prog-2.SM-call-AP-PASS-F 9.teacher

「子供たちは先生を呼ばれる。」

(「先生は子供たちに呼ばれる。」の解釈も可能)

(19)

b Omítirí má-í-isan-en-w-a OVANÁTJE.

9.teacher Prog-1.SM-call-AP-PASS-F 2.children

「先生は子供たちのために呼ばれる。」

(「子供たちは先生のために呼ばれる。」の解釈も可能)

(46) ApO:動物,BO:モノ

a OZONGOMBE zá-patúrúr-ír-w-a omúveró.

10.cows 10.SM/PAST-open-AP-PASS-F 3.gate

「牛はゲートを開けられた。」

b Omuvero wá-patúrúr-ír-w-á OZÓNGÓMBE. 3.gate 3.SM/PAST-open-AP-PASS-F 10.cows

「ゲートは牛のために開けられた。」

(47) ApO:動物,BO:動物

a OZONGÓMBÓ má-zé-rand-ér-w-a ombwá.

10.goats Prog-10.SM-buy-AP-PASS-F 9.dog

「山羊たちは犬を買われる。」

(「犬は山羊たちを買われる。」の解釈も可能)

b Ombwá má-í-rand-ér-w-á OZONGÓMBÓ. 9.dog Prog-9.SM-buy-AP-PASS-F 10.goats

「犬は山羊たちのために買われる。」

(「山羊たちは犬のために買われる。」の解釈も可能)

(48) ApO:動物,BO:人

a OVINAMWINYÓ má-vi-isan-en-w-a onganga.

8.livestock Prog-8.SM-call-AP-PASS-F 9.doctor

「家畜は医者を呼ばれる。」

b Onganga má-i-isan-en-w-a OVINAMWINYÓ. 9.doctor Prog-9.SM-call-AP-PASS-F 10.cows

「医者は家畜のために呼ばれる。」

(49) ApO:モノ,BO:モノ

a OMUKANDÍ má-ú-zik-ír-w-á ovikuryá.

3.wedding Prog-3.SM-cook-AP-PASS-F 8.food

「結婚式は料理を作られている。」

b Ovikuryá má-ví-zik-ír-w-á OMUKANDÍ.

8.food Prog-8.SM-cook-AP-PASS-F 3.wedding

「料理は結婚式のために作られている。」

(20)

(50) ApO:モノ,BO:動物

a OMUKANDÍ má-u-rand-ér-w-á ozongombe.

3.wedding Prog-3.SM-buy-AP-PASS-F 10.cows

「結婚式は牛を買われる。」

b Ozongombe má-ze-rand-ér-w-á OMUKANDÍ.

10.cows Prog-10.SM-buy-AP-PASS-F 10.wedding

「牛は結婚式のために買われる。」

(51) ApO:モノ,BO:人

a OVIUNGURA má-vi-isan-en-w-a omuténa kwándje.

8.work Prog-8.SM-call-AP-PASS-F 1.elder brother my

「仕事は兄を呼ばれる。」

b Omuténa kwándje má-isan-en-w-a OVIUNGURA. 1.elder brother my Prog/1.SM-call-AP-PASS-F 8.work

「兄は仕事のために呼ばれる。」

(52) ApO:モノ,BO:人

a OMUKANDI má-u-isan-én-w-a ovanéné.

3.wedding Prog-3.SM-call-AP-PASS-F 2.parents

「結婚式は親を呼ばれる。」

b Ovanéné má-ve-isan-én-w-á OMUKANDÍ.

2.parents Prog-2.SM-call-AP-PASS-F 3.wedding

「親は結婚式のために呼ばれる。」

(43) ~ (52)の例が示しているように,受動態の主語にできるという点では適用目 的語と基本目的語の間に差はなく,いずれの目的語を主語にした受動態も作るこ とができる。適用目的語と基本目的語の組み合わせによる違いも見られない。(52) では適用目的語が場所クラス名詞ではなく通常の名詞のまま受動態の主語になっ ている(例文(31)参照)。このように受動態の主語化についてはどちらの目的語も 可能であり,両目的語は対称的である。

ただし,(53)のように「~によって」という動作者を後続させる場合には,受動 態の主語になるのは適用目的語で,基本目的語を主語にした文は容認度がかなり 低くなる。

(53) ApO:人,BO:モノ

a OVANÁTJE vá-zik-ír-w-á orúheré komunéné.

2.children 2.SM/PAST-cook-AP-PASS-F 11.porridge by/1.parent

「子供たちは練り粥を親によって作られた。」

(21)

b ?? Oruhéré rwá-zik-ír-w-á OVÁNÂTJE komunéné.

11.porridge 11.SM/PAST-cook-PASS-F 2.children by/1.parent

「練り粥は子供たちのために親によって作られた。」

受動態の主語にできるという基準は適用目的語と基本目的語の両方が満たして はいるが,(53)のような例があることから,基本目的語を受動態の主語にする場合 には,適用目的語を主語にする場合よりも制約があることがわかる。これについ ては5.3.で扱うことにする。

また,(45)や(47)のような曖昧文の場合,実際には文脈によって解釈されるため,

場面を想定すれば,どちらの文も同じ意味で使えるが,とくに場面を設定しない でこれらの文を説明してもらった場合には,どの話者からもまず最初に出てくる のは,主語になっている名詞句を適用目的語とする解釈であった。従って,文脈 に頼れない場合には適用目的語を優先的に第一目的語として解釈していると言え るだろう。この点についても5.3.で再度触れる。

5.目的語の対称性とアニマシー 5.1 第一目的語の資格を持つ目的語

4 章では,ヘレロ語の適用形構文において第一目的語の資格がどちらの目的語 に与えられているのかを,第一目的語が持つとされる特性別に,また各目的語の アニマシーの組み合わせ別に,概観してきた。まとめると表1のようになる。

1 第一目的語の資格

ApO=人の場合 ApO:人 BO:モノ ApO:人 BO:動物 ApO:人 BO:人

動詞直後 × × ○(×)

目的語接辞化

受動態主語

ApO=動物の場合 ApO:動物 BO:モノ ApO:動物 BO:動物 ApO:動物 BO:人

動詞直後 × ×

目的語接辞化

受動態主語

ApO=モノの場合 ApO:モノ BO:モノ ApO:モノ BO:動物 ApO:モノ BO:人

動詞直後 × × ×

目的語接辞化

受動態主語

表1が示すように,「動詞直後に置くことができる」という基準に関しては,

「人」が基本目的語の場合(表中の網掛け部分と囲み部分)を除けば,その基準 を満たしているのは適用目的語だけである。しかしながら「受動態の主語にでき

(22)

る」という第一目的語の基準については,どちらの目的語もその基準を満たして いる。「目的語接辞として動詞の内部に取り込むことができる」という基準につ いても,基本目的語を接辞化することがあまり一般的ではない組み合わせ(表中 では「△」で表示)もあるが,目的語接辞化ができないというわけではなく,一 応どちらの目的語も基準を満たしていると言えるだろう。従って,ヘレロ語は,

3.1.で挙げたツワナ語のような対称型言語でもチェワ語のような非対称型言語で もなく,Ⅰの基準については非対称型言語的,Ⅱ,Ⅲの基準については対称型言 語的,という「混合型言語」である。

3.2.で混合型言語の例に挙げたケレウェ語の場合は,ⅠとⅡ,つまり語順と目的 語接辞化に関しては対称的で,Ⅲの受動態の主語化だけが非対称的であった。従 って,同じ混在型であっても混在の仕方は一様ではないことがわかる。さらにヘ レロ語の場合には,特性によって対称的な場合と非対称的な場合が混在している だけでなく,ひとつの特性の中にも対称の場合と非対称の場合,さらに通常とは 逆の非対称(基本目的語が第一目的語)となる場合が混在している。

5.2 アニマシーと優先順位

ここでは非対称型言語的な振る舞いをする語順について,アニマシーとの関係 を詳しく見ていくことにする。

表1を見ると,第一目的語の語順の基準を両方の目的語が満たしているのは(網 掛け部分)いずれも基本目的語が「人」の場合であり,①適用目的語も基本目的 語も「人」の場合,②適用目的語が「動物」で基本目的語が「人」の場合,であ る。また通常とは逆の非対称になっている場合,つまり基本目的語だけが基準を 満たしているのは(囲み部分),適用目的語が「モノ」で基本目的語が「人」の 組み合わせである。基本目的語が「人」以外の場合にはいずれも,適用目的語が 第一目的語の資格を持つ。これらをまとめると,ヘレロ語において第一目的語の 資格が与えられるのは,適用目的語と「人」というアニマシーを持つ目的語,と いうことになる。

ここで目的語のアニマシーとその階層について検討してみよう。適用形構文の 語順の決定にはアニマシーが関与する場合があることはこれまでにヘレロ語以外 でも報告されてきた(Morolong & Hyman 1977, Machobane 1989, Demuth et al. 2005, Moromoto 2008)。なかでも Demuth et al.はソト語の語順に関して,有生名詞 (animate)であるか無生名詞(inanimate)であるかという区別だけでなく,そこにはさ らに階層があり,その階層が語順に関与していると述べている(Demuth et al.

2005:425)。すなわち,同じ有生名詞であっても「人」と「動物」では階層が異な っており,以下のようなアニマシーの階層が見られると言うことである。

(54) 「人」>「動物」>「モノ」

(23)

本稿ではヘレロ語の目的語をソト語と同じく「人」,「動物」,「モノ」というア ニマシーに分けて見てきた。表1を見ると,ヘレロ語では,有生名詞と無生名詞 の区別,あるいは「人」,「動物」,「モノ」という区別よりも,むしろ「人」とそ れ以外が区別されているように思われるが,ヘレロ語でも(54)のようなアニマシー 階層が機能しているのだろうか。

基本目的語が「人」の場合には,適用目的語が「動物」であっても「モノ」で あっても,アニマシー階層は基本目的語のほうが上になる。しかしながら表1を 見ると,適用目的語が「動物」であるか「モノ」であるかによって許容される語 順には差がある。たとえば基本目的語が「人」で適用目的語が「動物」の場合に は,基本目的語も適用目的語も動詞直後に置くことができるが,基本目的語が「人」

で適用目的語が「モノ」の場合には,適用目的語を動詞直後に置くことができな い。従って,ここには「動物」と「モノ」の間に違いがある。また別の基準を見 ても,どちらの目的語でも可能であるはずの目的語接辞化において,基本目的語 の接辞化が「あまり一般的ではない」とされるのは,いずれも基本目的語のアニ マシー階層が適用目的語よりも低い場合であって,必ずしも「人」だけが区別さ れているわけではない。これらのことから考えると,わずかではあるにせよ「動 物」と「モノ」の間に存あるアニマシー階層の違いが意識されているようである。

しかしながら,基本目的語が「動物」で適用目的語が「モノ」という組み合わ せの場合には,基本目的語のほうがアニマシー階層が上であるにも拘らず,基本 目的語を動詞直後に置くことはできない。また,両目的語が「人」の場合には,

(曖昧文にしてまでも)両方の目的語に第一目的語の資格を与えているが,両方 の目的語が「モノ」の場合や両方の目的語が「動物」の場合には,基本目的語は 語順に関しては第一目的語の資格を与えられていない。つまりヘレロ語において も,「人」,「動物」,「モノ」というアニマシー階層が存在し,その違いが意識さ れてはいるが,第一目的語の決定に直接関与しているのは「人」というアニマシ ーだけである。

さて,ここで注意すべきことは,アニマシー階層あるいは「人」というアニマ シーが,それ以外の条件よりも完全に優先されているわけではないということで ある。もしアニマシー階層だけで第一目的語が決まるのであれば,適用目的語が

「動物」で基本目的語が「人」という組み合わせの場合には基本目的語だけが第 一目的語の資格を持つはずである。しかし実際には適用目的語にも第一目的語の 資格があり,動詞直後に置くことができる。つまり「人」の目的語だけが第一目 的語の資格を持つわけではなく,アニマシー階層が低くても適用目的語は第一目 的語の資格を持っているのである。

Möhlig et al.は,ヘレロ語の適用形構文における目的語について,接辞化,受動 態の主語化,語順のいずれも対称的であるが,有生名詞が無生名詞に先行すると いうアニマシーの制限によって語順は非対称のように振舞うこともあると述べて いる(Möhlig et al. 2002:101)。またMarten et al.も,ヘレロ語は語順に関しては非対

(24)

称型言語のように振る舞うことを認めつつも,それはアニマシー階層による制限 のためであって基本的には対称型言語であると分類している(Marten et al. 2005:8)。

つまり,これらの先行研究では,語順についてもヘレロ語は基本的には対称的で あり,従ってヘレロ語を混合型言語ではなく,対称型言語であると分析している。

しかしながら,もしこれらの先行研究が述べているようにヘレロ語の語順が基 本的に対称型なのであれば,両目的語が「人」の場合だけでなく,両目的語が「動 物」の場合でも「モノ」の場合でも,両方の目的語が対称的に第一目的語の資格 を持つはずである。この点についてソト語の場合と比較してみよう。ソト語は対 称型言語だが,アニマシー階層の制限によって非対称型言語のように振る舞うこ とがある(Demuth et al. 2005)。つまりMöhlig et al. (2002)とMarten et al. (2005)はヘ レロ語をソト語と同じタイプの言語として捉えているということである。

ソト語 (Demuth et al. 2005:425) (55) ApO:人, BO:動物

「我々はチーフのために羊を連れてくる。」

a Re-tlis-ets-a morena nku.

1pl.SM-bring-AP-F 1.chief 9.sheep b * Re-tlis-ets-a nku morena.

1pl.SM-bring-AP-F 9.sheep 1.chief

(56) ApO:モノ,BO:モノ

「サボはジャケットのためにボタンを買う。」

a Thabo o-rek-el-a konopo jase.

1.Thabo 1.SM-buy-AP-F 9.button 9.jacket b Thabo o-rek-el-a jase konopo.

1.Thabo 1.SM-buy-AP-F 9.jacket 9.button

ヘレロ語

(57) ApO:人, BO:動物 (=(24)再掲)

「私は子供たちのために牛を買った。」

a Ami mbá-rand-ér-é OVÁNÂTJE ozongombe.

I 1sg.SM/PAST-buy-AP-F 2.children 10.cows b * Ami mbá-rand-ér-é ozóngómbe OVANÁTJE.

I 1sg.SM/PAST-buy-AP-F 10.cows 2.children

(25)

(58) ApO:モノ,BO:モノ (=(29)再掲)

「私たちは結婚式のために料理を作っている。」

a Été má-tú-zik-ír-é OMUKANDÍ ovikuryá.

we Prog-1pl.SM-cook-AP-F 3.wedding 8.food b * Été má-tú-zik-ír-é ovikuryá OMUKANDÍ.

we Prog-1pl.SM-cook-AP-F 8.food 3.wedding

ソト語は,(55)のように適用目的語が「人」の場合には適用目的語しか動詞直後 に置くことはできないが,(56)のように目的語が両方とも「モノ」の場合には,そ れらのどちらを動詞直後に置くこともできる。しかしながらヘレロ語では,(58) のように両方の目的語が「モノ」の場合は,動詞直後に置くことができるのは適 用目的語だけである。このように,対称型言語と呼ばれるソト語とヘレロ語とで は明らかに振る舞い方が異なっている。

また述べたとおりヘレロ語では,適用目的語が「モノ」で基本目的語が「動物」

という組み合わせの場合,アニマシー階層は基本目的語のほうが上であるにも拘 らず,動詞直後に置くことができるのは適用目的語だけである。さらに,適用目 的語が「動物」で基本目的語が「人」という組み合わせにおいては,「人」であ る基本目的語だけでなく,アニマシー階層が「人」よりも低い適用目的語も動詞 直後に置くことができる。これは,適用目的語が優先的に第一目的語になる,と いう「基本」がヘレロ語にあるからだろう。

その他にも第一目的語として適用目的語が(わずかであったとしても)優先さ れていると思われる現象が見られる。両方の目的語が「人」のような曖昧文では,

もちろん文脈による判断がなされるだろうが,文脈に頼ることができない場合に は動詞直後に置かれている名詞句が優先的に適用目的語として解釈される。さら に脚注8で述べたように,(59)のような文を「動詞直後に置かれた名詞句しか適用 目的語として解釈できない」,つまりこれは曖昧文ではなく,(59b)は「私は子供 たちのために先生を呼ぶ」という意味では非文であるとするヘレロ語話者もいる。

(59) ApO:人,BO:人(=(25)再掲)

「私は子供たちのために先生を呼ぶ。」

a Am mé-isán-én-é OVANÂTJE omítirí.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 2.children 9.teacher b Ami mé-isan-én-é omítirí OVANÂTJE.

I Prog/1sg.SM-call-AP-F 1.teacher 2.children

このように,動詞直後に置くことができるという第一目的語の語順に関する基 準については,ヘレロ語は対称的ではなく,また対称が基本になっているわけで もない。

参照

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