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複雑人の構造

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Academic year: 2021

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(1)

複雑人の構造

その他のタイトル The Structure of Complex‑man

著者 太城 藤吉

雑誌名 関西大学社会学部紀要

15

2

ページ 249‑253

発行年 1984‑03‑28

URL http://hdl.handle.net/10112/00022764

(2)

複 雑 人 の 構 造

産業心理学は,産業における人間理解の学問であって,それによって正しい産業関係の樹立に 資そうとする実践の科学である。おくまでも心理学として人間理解を究極の目的とし,それに基 づく問題意識をもって産業における心理学的問題に取組み,その解決を手掛りとしてすなわち実 践を通して,これに逼ろうとするもので,労務管理や生産管理そのものではない。古く

J . A .   C .  

ブラウン!)は「産業の社会心理学」の中で,人間理解を伴わず専ら技術に走る曽ての産業心理学 に対し,まるでモデル牛舎建設のお手伝いをしているようなものと評している。しかし,物を扱 うのにその性質が分かっていなければどうにもならぬように,人間性の理解なしに事は運ばぬは ずである。したがって産業心理学は人間性に関する何らかの仮説をもって進められていたのであ

E . H. 

シェイン2)はこれに対し「合理的経済人説」「社会人説」「自己実現人説」, そして今 日結論としてとるべきは「複雑人説」であるとしている。

H. 

ミュンスターベルヒに始まる産業心理学は,ヴントの実験心理学を基盤としテーラーの科学 的管理法の一環として提唱されたものである。テーラーは「人間は生まれつき怠け者であり,非 能率的であり欲ばりで,かつ残酷でもある」と言っている。この人間観は,

1 9

世紀後半のダーウ ィンの進化論等のいわゆる科学的思想の発展と共に普及したものであるが, 当時の産業心理学 は,何らこの人間観に疑いを持たず,これを前提として進められていた。プラウンは,前掲書の 中で「今日の研究者にとって,初期のこれらの諸研究について最も驚かされるのは,それらの個 々の内容ではなくして,それらの基礎となっている前提観念である。この時代の心理学者や能率 専門家は産業革命の初期に現われた経営者の態度をそのまま容認し,それをすべての研究の背景 としていた。一つ一つの実験の背後には,人間は本質的に労働を厭う怠惰な動物であり,人間が 働くのは単に恐怖と貪欲に基づいているからであって,常に最大可能な賃金を求めて,しかもで きるだけ少なく働こうとしていると判定する一種の固定観念が暗々裡に前提されていた」と述べ ている。

1 9 6 0

D .

マグレガー3)は,長く続いて来たこれらの人間観に対しペケの意味を寓して

1)  J .   A .  C .   Brown, The s o c i a l  p s y c h o l o g y  o f  industry‑Human r e l a t i o n s  i n  t h e  f a c t o r y .   1 9 5 4   2) E .  H .  S c h e i n ,  O r g o n i z a t i o n a l  p s y c h o l o g y .  1 9 6 5  

3) D .  M. McGregor, The human s i d e  o f  e n t e r p r i s e .   1 9 6 0  

(3)

関西大学『社会学部紀要」第1

5

巻第

2

X理論と名づけて排撃し,新しい人間理解としてのY理論を主張した。プラウンやマグレガーの 指摘したこの人間観はアダム・スミスの経済学説の根底でもあって,合理的経済人説と呼ぶ。

E .  

メーヨー4)らによるホーソン実験は,新しい産業心理学の誕生を齋した。これは生理人・個 体人・合理人・経済人とするこれまでの人間観を,心理人・社会人・情動人•生活人とすること に変え,始めて人間の産業心理学とした。すなわち心の問題が取り上げられることになった。労 働を経済行動と見るのでなく,二重に社会的行動であり一つには社会参加そして社会的寄与であ るとしていて,社会人説と呼ばれる。ここでは,モラール研究・人間関係研究,そして適性研究 も個体的能力でなく社会的能力として研究することが主要課題をなした。しかし,これらの研究 のほとんどが仕事外施策例えばリーダーシップ,コミュニケーション,カウンセリング, リクレ ェーション等であって,科学的管理法以来のすなわち経済人説に基づく職務設計はそのままであ った。このことは,この新しい産業心理学が人間理解を旗印としているだけに,かえって人間疎 外・働き甲斐喪失などの問題を生んだ。

マグレガーは

Y

理論として,仕事こそ生き甲斐であり労働は何らかの自己実現行動であるとす る新しい人間観を主張した。

C .

アージリス

s J , A .  

マズロー

s J , F .  

ハーツバーグ らも同様の立場 をとった。これらの新しい人間理解は,自己実現人説と呼ばれる。そして,職務再設計,職務関 与度

(job‑envolvement),自主的小集団活動 (T.Q.C

など)などの新しい研究が取り上げられた。

人間理解と経営や管理の施策とは不離である。科学以前の宗教時代には,人間は原罪を担って おり労働はその賠罪行動であるとされ,人々は祈りと鞭の管理を受けていた。経済人説では統制 管理,ノルマ管理。社会人説では人間関係管理。自己実現人説では目標管理,参画管理が行われ る。こうした産業における人間理解とそれに基づく管理法の推移を辿ると,どうやらこれらが組 織や管理の効率を急ぐあまり人間を単純化し標準化し,いわゆる十把一束の施策としての管理を 容易なものとするためと考えられる。産業のための人間でなく,人間のための産業であるとの観 点に立てば,人間がそんな単純なものでないことは容易に分かる。また,それぞれの管理法は必 ずしも完璧なものでなく,実際には落ちこぼれ層や沈澱層といわれる人々を多く出していたので ある。原罪人説・経済人説・社会人説・自己実現人説でいう人間性は,それぞれ人間の一面を指 摘したに過ぎないのに,あたかも全部であるかの如くにして唯一最善のものとしてそれぞれの管 理法を押しかぶせたところに謬りがあると考えられる。

複雑人説は,こうした考えから,今日の産業心理学のとる人間性理解の結論である。人間は複 雑であって,こうした側面さらに家庭人といったものを加えての複合体であり,しかもその複合 の仕方には多様性があり,さらにそれが状況によって変化するものと考える。一般に心理学は普 遍性の追及であるが,究極において個人差の心理学でなければならぬといわれる。産業心理学も

4) E .  Mayo, The s o c i a l  p r o b l e m s  o f  i n d u s t r i a l  c i v i l i z a t i o n .   1 9 3 3   5)  C .   A r g y r i s .  P e r s o n a l i t y  and o r g a n i z a t i o n .   1 9 5 7  

6) A .  M a s l o w ,  M o t i v a t i o n  and p e r s o n a l i t y .   1 9 5 4  

7) F .  H e r z b e r g ,  Work and t h e  n a t u r e  o f  man.  1 9 6 6  

(4)

複雑人説に立つ限り,まず個性の解明から出発されねばならぬ。と同時に複雑人としての一般的 特性についての情報の提供も必要となる。

以下の報告は,こうした趣旨で産業心理学受講生及びゼミ学生の協力を得てなされた調査の結 果である。

1

表 は , ー 通 り の 講 義 の 後 「 産 業 人 と し て の 自 分 は こ れ ら の 側 面 を ど の よ う な 比 率 で 持 つ か」を全体を

1 0

として答えさせた結果である。原罪人的側面を

0

とした者は

47

名すなわち

68

彩あ

1 産業人としての自分はこれらの側面をどのような比率(全体を

1 0

として)で持つか

~

1

I平 均 比 率 l鉄鋼大

(s 4 9 )  

4 7   1 4   6  1  1  0 . 4 9   0 . 6  

1 3   2 3   2 1   ,  2  1  2 . 5 4   2 . 8  

6  1 7   3 1   1 0   4  1  2 . 8 8   2 , 7  

自 己 実 現 人

11 

1 7   2 0   1 6   3  1  3 . 7 5   3 . 9  

2

表 望 ま し い1

0

ケ所として選ばれた

1 0

ケとして選ばれた頻度 側面別選択数平均及び偏差 頻度と

3

側面別選択数平均 男子

6 5

女子

2 6

子 ! 女

収入の多い仕事

8 6 . 2

73.1% 

経済人的

安定性のある仕事

7 0 . 8   8 4 . 6  

休暇・休憩の多い仕事

5 5 . 4   5 0 . 0   3 . 4 3   3 . 3 5   4 

労働環境の良い職場

8 1 .  5  9 2 . 3  

1 . 1 0

0 . 8 7 5 

福利施設の整った職場

4 3 . 1   3 4 . 6  

能率給の仕事

6 . 2   0 .  

社会的評価の高い仕事

6 9 . 2   5 7 . 7  

社会人的

奉仕的な仕事

1 2 . 3   1 1 .  5 

, 

人間関係の良い職場

9 3 . 8   1 0 0 . 0   2 . 7 2   2 . 8 9   1 0  

家庭生活と両立する職場

4 9 . 2   8 0 . 8  

0 . 8 1

0 . 7 5

11  年功制をとる職場

1 3 . 8   3 . 8  

1 2  

協力して働く職場

3 5 . 4   3 4 . 6  

1 3  

責任を持って自律的に働く仕事

6 7 . 7   6 9 . 2  

自己実現人的

1 4  

達成感の持てる仕事

7 2 . 3   8 0 . 8  

1 5  

能力発揮の出来る仕事

8 6 . 2   8 8 . 5   3 , 8 5   3 . 7 8   1 6  

変化の多い仕事

3 0 . 8   2 3 . 1  

1 . 1 0

0 . 7 5 1 7  

性格・興味の生かせる仕事

9 3 . 8   8 4 . 6  

1 8  

道義性をそこなわない仕事

3 5 . 4   3 0 . 8  

(5)

男子

関西大学『社会学部紀要」第

1 5

巻第

2

3

表 選 ば れ た

1 0

ケの男女比較

女子

人間関係の良い職場 (社) 人間関係の良い職湯 (社)

性格•興味の生かせる仕事

~ /

労働環境の良い職場

能力発揮の出来る仕事 能力発揮の出来る仕事

K : :  

収入の多い仕事 性格•興味の生かせる仕事

労働環境の良い職場 安定性のある仕事

達成感の持てる仕事 達成感の持てる仕事 (自)

口〉

安定性のある仕事 (経) 家庭生活と両立する職場 (社)

社会的評価の高い仕事 収入の多い仕事 (経)

, 

責任を持って自律的に働く仕事 (自) 責任を持って自律的に働く仕事

、/~

1 0  

休暇•休憩の多い仕事 社会的評価の高い仕事

男 子

6 5

女 子

2 6

4

表重要視の順位頻度と重要度得点

1

l 2

l a

1 4

i s

1

得点

1

, 2

1 3

1 4

5 ・ 1

1得点

収入の多い仕事

8  1 0   1 0   1  5  1 .  8 0   1  3  1  1 0 .  6 5  

'

安定性のある仕事

9  1 1   4  8  3  1 .  8 5   2  4  2  3  2  1 .  5 4   3 

休暇・休憩の多い仕事

2  2  1 1 5   0 .  4 8   1 0 .  0 4   4 

労働環境の良い職場

1  2  6  4  6 0 .  6 9   1  4  8  0 .  7 7   5 

福利施設の整った職場

3  0 . 0 9  

能率給の仕事

社会的評価の高い仕事

3  2  2  3  1 0 .  5 5   1  1  2  0 .  4 6  

 

奉仕的な仕事

1  1 0 .  0 5  

人間関係の良い職場

9  7  6 1 1   8  1 .  8 6   4  6  4  5  3 2 .  6 5   1 0  

家庭生活と両立する職場

2  2  4  4  0 .  4 0   1  1  5  1  4  1 .  1 5  

 

1 1  

年功制をとる職場

 

1 2  

協力して働く職場

1  1  2  0 . 1 2   1  1 0 .  2 3   1 3  

責任を持って自律的に働く仕事

2  1  5  5  4  0 .  6 6   3  2  4  2  1 1 .  5 4   1 4  

達成感の持てる仕事

5  4  1 1   1  9  1 .  3 1   3  3  2  1 1 .  0 0   1 5  

能力発揮の出来る仕事

9  1 2   6  8  2  1 .  9 8   4  6  2  1 .  8 5   1 6  

変化の多い仕事

1  1  1  1  1 0 .  2 3   1  1 0 . 1 9   1 7  

性格・興味の生かせる仕事

1 6   7  7  8  2  2 .  2 6   8  2  4  2  4 2 ,  5 8  

1 8  

道義性をそこなわない仕事

1  2  2  2  1 0 .  3 7   1  0 ,  0 8  

(6)

5

表重要視の男女比較

男子 女子

性格•興味の生かせる仕事 性格•興味の生かせる仕事 能力発揮の出来る仕事 入間関係の良い職場 人間関係の良い職場 能力発揮の出来る仕事 安定性のある仕事 責任を持って自律的に働く仕事

I収入の多い仕事 安定性のある仕事

ったが,その他の側面について

0

とした者はいない。このことはいずれか一つの側面を1

0

とした 者の皆無であるを示す。一側面についての最高比率は,経済人的・自己実現人的について

7

とし

2

名であって,これらの分布は複合の多様であることを示している。平均比率は自己実現人的

・社会人的・経済人的・原罪人的の順位となる。なおこの比率の合計が

1 0

とならぬのは,家庭人 といったその他の側面を加えた者があったためである。この調査は昭和5

5

年のものであるが,

4 9

年に行われた鉄鋼短期大学学生

1 2 0

名についての同種調査結果と大差ない。双方とも原罪人的を 無視すると,経済人的

3・社会人的 3•

自己実現人的

4

が考えられる。

2

表以下は,昭和5

8

年受講生9

4

名に「あなたにとって望ましい仕事・職場を次の中から

1 0

を選び,特に重要視する 5ケに順位をつけて下さい」のアンケートの結果である。このアンケー トでは,

1 6

経済人的側面

6 12

社会人的側面

12 18

自己実現人的側面を示すものとの想定が ある。

2

表は,

1 0

ケの中に選ばれた項目の頻度と側面ごとの平均選択数とその標準偏差である。側 面別選択数は,男女とも自己実現人的・経済人的・社会人的の順序となる。これは第

1

表と多少 相異しているが,比率で纏めると同様に 3•

3• 4

となる。

3

表は,頻度の順に

1 0

ケをならべて男女の比較をしたものである。男女の間で職業観の相異 が多少見られる。なお,これらの

1 0

ケを側面別に見ると,男子で経済人的

4・社会人的 2•

自己 実現人的 4' 女子で 3•

3• 4

で選ばれている。

4

表は,重要視の順位頻数と

5 1

に配点して得た重要度指数である。

1

位として選ばれた のは,男女とも

( 1 7 )

性格・興味の生かせる仕事である。

5

表は,重要度指数によって

5

位までを選んだものの男女比較である。男女によって多少の 相異が見られ,別途研究を要するが,この表は自己実現人的側面・社会人的側面・経済人的側面 の順でともに重要視していることが示されている。

これらの研究は全く初歩的なものであるが,複雑人の構造を平均的に見た場合,経済人的側面

3・社会人的側面 3•

自己実現人的側面は

4となり,その重要度は自己実現人的・社会人的・経

済人的の順と仮定され,複雑人観に基づく産業心理学研究の今後の一資料にはなると考えられる。

男女別・年齢別・学歴別・識業別そして時代・欧米との比較等の調査が必要である。

参照

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