岡山大学大学院社会文化科学柵究科紀要第31号 (20113)
商品開発 と中国への技術移転 に関す る研究
‑㈱ ク ラ レ に お け る 製 品 開 発 と プ ラ ン ト輸 出 ケ ー ス 検 証 ・人 工 皮 革 清 一
Ar t i f l C l a lLe a t he rPr o duc tDe ve l o pme nta ndi t sTe c hno l o gy Tr a ns f e rt oChma‑TheCa s eo f… cl a r i no W一
藤 本 雅 之
Ma s a yuklFUJ M OTO
I は じめに
本稿 は、1960年代、70年代 の 日本 の プラ ン ト輸 出,お よび技術移転 が との ように行 われていたか を、
㈱ クラ レ (以下 、クラ レと略称 ) における人工皮革 「ク ラ リー ノ」の商品開発 と工業化の美祢 に焦点 をあてて実証的 に明 らか にす る ものである。具体的 には、① その時代 に必要 とされた ノウハ ウが何 で あったか を検証 し、 さらに、(彰中国向 プラ ン ト輸 出に よる技 術移転 を通 して、当時の 日中間の経済関 係 を概観す る.
E]本経済 は、窮二次世界大戦 に よる壊滅的 な被 害 を受 けた生 産基盤 を立 て直 し、1950年代後半 か ら の20年 間余 は世界 に例 を見 ない高度成長 を維持 し、世 界 を リー ドす る規模 の経済へ と発展 した. この 時代 にクラ レは枚 災 を受 けた工場 の復興 を成 し遂 げ、国産初 の合成繊維 ビニ ロ ンの工業化 を実現 したo その後、1963年〜1974年 の間 に中国向 ビニ ロ ン プラ ン ト輸 出3件 を成功 させ た。 さらに国産初 の人 工皮革 「クラ リー ノ」 を開発 し上市 した。1978年 に中国向 クラ リー ノ ・プラ ン ト輸 出 を成約 し1983年 に完成 引渡 した。本稿 で は、 こう したクラ レの プラ ン ト輸 出が果 た した技術移転 と、 日中経済協力 の経験 を明 らか に したいo
Ⅱ 人工皮革 「クラ リー ノ」事業 の展開
課題 本節 で は ビニ ロ ンの工業 化 で培 った クラ レの高 分子 化学 の技 術】が どの よ うに応用 展 開 され、
人工皮革事業 をいか に有利 に展 開 したか を明 らか にす る。 (i) 人工 皮革 「クラ リ‑ ノ」の開発経緯 と到 達水準 、 (ll)先発 の米 国デ ュポ ン社 「コル フ ァム」 や国内外 の他社 品 に対 す る優位性 を技術的 視点か ら明 らか にす る。
クラレは, ドイノのヘルマン(W
0He r r ma n n )
博士の発明( 1
92 4
年) した合成樹脂 ポバール (ポリビニル アルコール[ p o l y v l n y 】a l c o h
ol ]
の略称)の丘産化技術を世界に先駆けて確立。1950年.これを中間原料とする 初の国産合成繊維 ビニロン( VL n y l o n )
の工業化を実現 した。同繊維の性質は綿に近 く、親水性で、酸 アル カリ 軌に強 く、衣料のほか、‡色網、タイヤコー ド、ロープ等の産業用資材に多用されたOこの工茶化過程で 苗欄 された研究成果は、同社の要素技術の基礎となり、その後の高倭能性樹脂 「エバ‑ル」、人工皮革 「クラリーノ」、イ ノブレンケミカル等の製品分野を生み出す原動力となった.
商品開発と中国への技術移転に関する研究 藤本 雅之
1 人工皮革 の開発
開発の契機 1950年代 半 ば (昭和30年代) に入 りビニ ロ ン事 業が軌 道 に乗 った こ とか ら、1956(昭和 31)年 に新発足 した クラ レ研 究所 で は、新規合 成繊維 の研 究 開発 を推進す ることにな り、共重合 ポ リ マーや ポ リマー ブ レン ド2を研 究の対象 と した。1961(昭和36)年 頃には、ナ イロ ン弓とポ リプ ロ ピレ ン1、ナ イ ロンとポ リスチ レン5な ど各種 ポ リマーの混合紡 糸繊維 の研 究 を行 な ったが 、いずれ も繊維 素材 と しての格 別 な特徴 はな く、当初 目的 は達成で きなか った (クラ レ [2006],pp52‑53)0
た また まその利 用法 を模 索 す る うちに、当時市 場 に出始 め た合 成皮革6が好 況 にあ る こ と、加 えて 米 国デ ュポ ン社 の人工皮革 開発情報 に ヒン トを得 て、 これ を皮革材料 に用 いるアイデ アが提案 された。
これが 、 クラ レが 人工皮 革研 究 に取 り組 む契機 となった.
開発の糸 口 天然 皮革 は、 コラ‑ゲ ン7繊維 の三次元絡合構 造体Bで 、天然 の不織布 で もあ るO この柄 造 をモデ ルに、上記混合紡糸繊 維 を不織布化 し、適切 な加工 をすれば天然皮革 に類似 した皮革状物が 得 られ る との想 定下 で、実験 室 でナ イロ ンとポ リプロ ピ レンの混合紡糸繊 維 の不織 布 を作 り̀'、ナ イ ロ ンの溶剤 で処理10して再凝 固す るテス トが行 われた。 その結 果 、溶 出 したナ イロ ン樹脂 が ポ リプ ロ ピレン極細 繊維 の不織布 を接 着 (ハ イ ンダ‑効果) した格好 で 、皮革状 の シー ト素材 を形成 したo こ れが後 日の画期 的 な人工皮革 につ なが る糸 口であ った (福 島 [1976]pp46‑50)0
研究所 で は人工 乾草 を新規研 究 テーマ に採用 し、1962(昭和37)年 か ら翌年 にかけて、急 ピ ッチで 研究 を進 めたO次 いで ナイ ロ ン ポ 1)スチ レン混合紡糸繊維 の不織布 に、ポ リウ レタン溶液】1を含浸 ・ 塗布 し、水 中で凝 固 ・脱 溶剤 後 に、繊維構 成の‑成分 の ポ リスチ レンを抽 出除去 12す る方式 を検討 の 結果 、耐屈 曲性 に優 れ .風合 いの よい靴用 甲革 に適 した皮革状物 が得 られ 、ここに人工皮革の基本型 の誕生 をみた (El本紙維新 聞社 [1991]p17.クラ レ [2006],p53)a
' 共重合とは、2牲以上の阜丑体が結合 して重合体を生成する化学反応をいうO例えばスチ レンとブタジエンと の共重合で合成ゴムSBR(styrene‑butadlenerubber)を作る。またポリマーブレンドとは、複数樹脂を混合.令/I の長所を活用 し、新 しい特性を生み出すこと。ポリマ‑アロイ(polymeraLloy)と同意。
' Nylon 1935年に米国デュポン社のカロザ‑スが発明 したポリアミド系合成繊維の商品名であるが,現在ではポ リアミド系合成高分子化合物の総称である。
I polypropylene 合或樹脂の一つで.プロt=‑レンの重合体のこと。
) PoLystyrene 合成樹脂の一つで、スチレンの重合体のこと。
) 当時のNCF (Ny】oncoatedfabrLC)のことで.織布等にナイロン樹脂を塗布 したもの。
7 col)agen動物の皮革 飴 軟骨などを構成する硬蛋白質の一種Q温水で処理すると溶けてゼラチンとなる。
; 繊維が立体的に絡み合った構造をいう (平而上のXYの座標軸に立体空Tu]のZ軸を加えて三次元とする)。 ) 実験室では、一定長に切断 した繊維を水中に分散 し.抄紙法 (紙漉)により師易試料を得る。
EO 塩化カルシウムのメタノール溶液に役7斉し、ナイロン成分のみを洛出させることO
‖ po]yuJethane 主鎖中にウレタン結合をもつ重合体の総称。これをジメチルホJt,ムアマイ ド (高分子化合物の 溶剤 略称DMF [dlmethylformamlde])に溶解 したもの。
12 実験室ではソ ソクスレ‑紬出器に.勲 トルエン(toLuene芳香族炭化水素)を用いて抽出する。
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岡山大学大学 院社会文化科学LT7f究科紀要第31号(20113)
人工皮革 に適 した繊維 の発 明 研究 開発の段 階で、各種繊維 との比較試験 の結果 、人工皮革 として必 要 な物性 (強力 伸度 、耐屈 曲性等) と感性 (しなやか さ、風 合 い等) を表現 で きる素材 と しては既 存 の レギ ュラ‑繊維 はすべ て不適 当であ ったO最終的には、2種類 (2成分)のポ リマー (樹脂) の 混合紡糸繊維か ら、 1種 類 (1成分) を溶解除去 した特殊繊維 が 人工皮革用途 にマ yチ した。 これが
「クラ リー ノ」の基本特 許 となった (El本繊維新 聞社 [1991].pp16118)0
次 に人工皮革の基本型 となるナ イロ ン ポ リスチ レン混合紡糸繊維 の概 要 を説明す る。
(1)基本特許 【特許 公報 】登録番号 477457 公告番号 1966年 (昭41‑4810)公告 昭41317
【発明名称】特殊 中空糸又 は特殊 中空成型物 の製造方法O 【特許 内容 】 ナイ ロ ン、ポ リスチ レンを混 合紡糸 した後 、ポ リスチ レンを溶解 除去 して、特殊 中空繊維 を製造す る方法O
(ll)特 許内容要 旨 2種類 (2成分) のポ リマー (樹 脂) を混合紡 糸 (例 えば50/50比) して得 た 繊維 か ら、 l種類 (1成 分) を溶解 除去 して、特殊繊維 を得 る方法であ る。下図 は混合紡糸 した単繊 維 (繊維 1本) の断面 をモデ)I,的 に表 わす。 この技術 は図示 の ように、2枚類 の タイプがあ り、いず れ も梅島 (うみ しま)塑繊維 と称 す。① の レンコ ン型 は王 と して靴 、 カバ ン用途 、② のそ うめ ん型 は 主 と してス ポー ツ用品 、衣料用途 であ り,中国向 プラ ン トの場 合 は前者 であるO
図 1 混合紡糸繊維 の 断面 モ デ ル囲
(Dナイロンとポリスチ レンの混合紡糸繊維 ②ナイロンとポリエチ レンの混合紡糸繊維
れんこん型 そ うめん型
島 ポリスチ レン
梅 ポリエチ レン
良成分のポリスチ レンを溶解除去 梅成分のポ リエチ レンを溶脈除去
⇒穴 (礼)のあいた,れんこん状になる。 ⇒そうめんの束状 となる。直径 05‑1〟の 柔軟性、通気性、保温性は (礼)の存在にあるO 板細根維 (ミクロフアイ′{‑‑)で強靭 となる
<特殊多孔繊維の断面形状> <特殊極鰍畝経の断面形状>
出所 上椙の特許公報に基づき筆者作成
繊維構 造 と用途 梅 島構 造繊維 は環初 に,① れ ん こん型 ・特殊 多孔繊維 を開発 し、「クラ リ‑ ノ」 と して紳士靴用途 に広 く利 用 された。次 いで、② そ うめん型極細繊維 を開発 して、 ソフ ト化 のニーズに 対応 したスポー ノ靴 や衣料 用途 に多用 されたo繊維 の表面積 は繊 維抜皮 (デ ニー ル,)13に よ り変化 し、
]3 Denler原糸の繊度 (太さ)を表わす単位で、生糸、人絹糸、合繊糸に剛 、る。基単値は長さ450m、重さ005g 時の繊度を ユデニールとする (実用上は9000m/1gを 1デニールとする)oデニール数が大きいほど糸は太 く なるOまたデニールは同 じでも比重により断面柿は異なる。
商品問多己と中国への技術移転に関する研先 藤本雅之
繊維が細 くなる と表面積 が増大 す るため、人工皮革内部繊維 のズ レが起 こ りに くく、製靴時の保塑性 が向上 す る。 また、着用 時の吸放 湿性 (ム レ防止)効果 につ なが る特徴 が ある (松 本 [2004].p 159)0
2 人工皮革 の工業化
工業 化 に至 る背景 1963(昭和38)年 当時 の ク ラ レ研 究所 は、研 究 開発要 員1,500名 を擁 し、売上高 に対 す る研 究開発費比率 は5%近 くで、当時の業界 では突 出 してお り、人工皮革 を含めて10件余の研 究 プロ ジェク トが進行 中であ った (日本繊維 新 聞社 [1991].p 6‑8.pp 19‑20)o その 中か ら人工皮革 を重要 かつ緊急 なプロジェク トに認 定 し、同年7月に連続試験 設備 (以下 では、パ イロ ノト プラ ン トと称す る) の設置 を決定 した。 その理 由は次の通 りであ った。(丑わが国 は原皮のお よそ75%を輸入 に依存 して いる (表 1)が 、世界 的 に も天然皮革の不足 が予想 され るo② 従来の合成皮革は、その構 造 と物性 面 か ら見て 、靴材料 と して天然皮革 に代 わ り得 ないO(参天然皮革代替 の人工皮革製 品は高付 加価値 商 品であ る (クラ レ [1987b])O
表1 1955(昭和30)年 代のわが 国の原皮供給状 況 出所 クラ レ [1987b]O
左 \ 盲 、‑ 讐讐
牛原皮輸入実耕 (千tその他) 牛原皮国産lnLl推定 (その他干し) (千t) 輸入比翠 (%) 輸入金額(怯円)1956(昭和31)午 67.2 12.5 15̲2 14.I 1(泊.0 73 108 1958(昭和33)辛 65.7 9.9 13̲6 19.2 108A 70 95 1960(昭和35)年 89.1 7.8 14̲8 18.1 129.8 75 148 1962(昭和37)辛 129.2 13.4 14.8 37.4 194.7 73 227
原典 輸入充実緋及び金額は大蔵省関税局 「日本貿易月表」、国産立推定は通産省 「雑接続計年報 (皮革編)
」
工業 化 の基 本方針 1964(昭和39)年4月倉敷工場 にパ イロ ッ ト プ ラ ン トが完成 し、工業化 の技 術 開発 を推進 し、基本方針 と して次の4点 を決定 したo
(I)繊維 素材 は混合紡糸繊維 を使用 す るこ と。
相 溶性1.の ない2種類 の樹 脂 を用 いて混合紡 糸 した繊維 は、単繊維 内 で各樹 脂 の相分酪 5を起 こ し て梅島構造 の断面 を呈す る。この島 また は海 を溶剤 で抽 出すれば、特殊 多孔配列繊維 (直径00l〜020〟
の徽細孔 が ラ ンダムかつ 虹数 に開 いたれん こん型繊維)または極細繊維収束型繊維(001‑0001デニー ルの極,W短繊維 が収束 したそ うめ ん型繊維 ) に変移 し、曲げ 損 じりな どの変形が容易 な、 しなやか
I 2種類の樹脂A.Bが存在する時、AとBを同時に溶解することをいう。
15 相分離 (PhaseseparatlOn) 2枚頬の物質ABを混合するとき、ある温度で混合 しやすいかどうかは、混合す る前後のエネルギ一差 (混合エネルギー)と混合エ ントロピーとのかねあいで決まる.混合工不)i,ギーが正の場合 には、エ不ルギ‑的には各成分に分推 し、エントロピー的には混合を促進 させ相反する効果の髄争となる。このと き各成分に分離する現象を相分離というOその逆は混合溶液である。
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な繊維 になる (クラレ [1987b].朝倉 田測 [2008],pp37‑46)0 (ll)繊維 とポ リウレタン スポ ンジを非接着型 とする.
ポ リウ レタン溶液 を不織布 に含浸 ・凝固 した後に、繊維の一成分 を抽 出すれば、繊維 とポ リウレタ ン スポ ンジ との接着が離 れて、不織布 は ソフ ト化 しゴム反発性が減殺 される知見 を得 た (クラ レ [1987b])。 これは繊維 とポ リウ レタンの雛型効果によるものである (筆者)0
(111)表面層 と基体層の二重構造 とする。
構成 は表面層 と基体層の二重構 造 とされ、デュポ ン社 「コルファム」の ように表面層 と基体層の間 に織布 を挿入する三層構造 は採 らなか ったO織布 を入れる と、表面が平滑化 し機械的性質が補強 され る反面、風合 い硬化 と、屑間剥離 を生 じる重大 な欠点 とな り、加 えて後者については製靴加工性 (釣 り込み性16、保塑性17)が低下する等の知見を得たか らである (クラ レ[1987b],日本紙維新聞社[1991]. pp22‑24,朝倉 田測 [2008].pp33‑
3
6)。
(lV)ポ リウ レタンは自社生産 とする。
ポ リウレタン樹脂 は人工皮革 の性能に重大 な影響 を及ぼすので、各種 ポ リウレタンの重合及 び凝固 性 に関す る組織 的な研究の結果 、 自社生産 とする (クラレ [1987b].朝倉 臥 削 [2008].pp40‑41)0
製造工程概要 当時 クラレが公表 したフローチ ャー トは、下図の通 りである。靴用は通常は銀面付 き で、衣料剛 ま銀面佃 と銀面 な しの起毛晶LAがあるo銀面 とは反軍の赦密 な表面層 をいい、人工皮革で はポ リウレタン コーテ ィングの表面層 をい う。
図2 「クラリーノ」生産工程 (D靴用人工皮革
l混合紡糸繊維 l‑ l絡合不織布 l‑ポ リウレタン含浸‑ ポ リウレタン塗布‑ポ リウレタン湿式凝 固
②衣料用人工改革
卜
混合紡糸繊維 l‑l 絡合
不織布 l‑ポ リウ レタン含浸‑・ポ リウ レタン湿式凝寓‑繊維 1成分紬出一一 ' ' ∴ : ∴
ニ ̲
J注 「クラリ‑ノ」、「アマーラ」、「ソフリナ」、「ソフリナ ・シャル」等は商品名である。出所 クラレ [1987b]。
(参不織布の製造方 法
不織布が人工皮革 を構成す る重要 な位置にあることは、特許公報等で公知の事実であるが、その内
16 薯も将ヒ釣込磯 (トrl/ラスタ‑‑)で甲等を引き伸ばして,立体的に木型に沿わせて砿型することをいう。
17 成型物の保型性のことで,温度,湿度、程時などに付する形態安定性の保持性能をいうo
LS 中間製品の基体屑表面を、高速回転の研磨紙で研削し、毛]・lを一定長の毛足に処理 したスエ‑ ド調製品のこと.
商品rHJ発と中国への技ItSi移転に関する研先 藤本雅之
容 は これ まで殆 ど公表 され なか った。その製 法について は、朝倉 IEl目刺 [2008]が詳細 に説 明 して い る。人工皮 革用不織 布 の必要条件 として、(1)二‑ ドル ・パ ンチで絡合 させ るに必要 な繊維本数 をもっ た繊維層 (ウェブ) が準備 され るこ とO繊維 層 は細繊維 か らなる 1rdあた り2501500g重量 の ウェブ を 形成す る もの.()))絡合 用の針 (7エルテ イング・こ‑ ドル)で丹 念 に突 き刺 しフェル ト状 にす るoニー ド)i,の形状 は不 織布 の特性 を決め る重要 な要素 で、人工皮革 メー カーの ノウハ ウであるD(pp34‑37)0
図3 ニ ー ドルパ ンチ ング機 の一例 図
4
フェル ト針の説明上下(=tigtJh
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ブレードの甚大E出所 朝合 田測 [2008],p35 出所 朝倉 田測 [2008]p35 同文献 で は、天然皮 革へ の挑戦 (pp 27‑47)で 、「ク ラ 1)‑ ノ」の発 明経緯 や 、デ ュポ ン社 が織布 を挿 入 した こ との ジ レンマ に も言 及 し、 クラ レが強 さと柔 らか さの要求特性 を満たす ことがで きたの は、技 術面 と開発 監考面 での革新 を遂 げたか らである と記述 して いる (p37)。 この文献で は著者 の 専 門分野19か らの考察 を加 えて いるQ 同内容 は クラ レをは じめ業 界で は既 に公知 の事 実である。
(む天然皮革 の不織布 モデ ル
天然皮革 は、 コラーゲ ンの微細 な繊維が 数百本収究 して フ ァイバ ‑ を形 成 し、 この ファイバ ‑が数 十本収束 した フ ァイバ ーバ ン ドルが三次元 的 に絡 み合 った構造 を持つ。皮革の表面 は艶があ り、裏側 は毛羽 だ ってい る。 この艶のあ る表面 を錐面屑 といい、その下 の中間層 を経て強度が ある網様層か ら な り、皮革 は これ らが連続 した構 造であ るO銀面屑 は柔軟性 があ り手触 りが よ く艶 があ るの は,フ ァ イバーバ ン ドルが極 めて綴密 になってい るためであ るO人工皮革の不 織布 とは,天然皮革の コラーゲ
.1ん L'Lく ン繊維構 造 に極 め て類似 した三 次元 立体構 造体 の こ とで あ る.不 織 布 をつ くるに は、予 め巻 縮 20を 付与 したナ イロ ンや ポ リエ ステルの極細繊維 のステープ)i,(一 定長 に カ ッ トした もの) をカーテ ィ ン グ (cardlng)して ウェ7 (web)形 成 し
2
L、その樵 屑体 にニ ー ドル パ ンチZ2を施 す ことに よ り、三 次元立体構 造体 とす るのが一般的であ るo朝倉は東京大学大学院工学系研究科 (補遺解析).EEl例は元(㈱El本パイリ‑ンの不織布専門家であるQ 天然繊維の波状の屈Eh形状 をいう。化学繊維では紡糸後に熱可塑性 を利用 して巻締 (crlmP)を付与するO 札が繊維の弾力性と不織布の絡合性に寄与するD
カ ソト長が数10mmの短繊維を娼歯状ロールで櫛けず り、シー ト状繊維鵜合体 (ウェ7')をつ くること。
ウェブを有弾針で突 き固め、フェル ト状の不耗布を得る技術.
岡山大学大学院社 会文化科学研先科紀要第31号(20113)
図5 天然皮革の構造図 図6 靴用 「クラ1)‑ ノ」断面 ''&'..'=チ■
5 i i i iii5
出所 月披
[ 1 9 9
7].ド1 4
出所 丹波[ 1 9 9
7],p1 4
商品開発 プロジェク ト
1 9 6 3
(昭和3 8 )
年7
月、研究所内に開発委員会 を設置 し、新規商品開発がプ ロジェク ト化 された。翌6 4
年11月にテス ト生産 を開始 、販売のための本社組織が発足 した。 しか し、一繊維 メー カーが天然皮革 とい う未知の分野へ挑 むのは リスクが大 きす ぎる とい う見方か ら、新素材 の事業推進 には反対の声 も多か った。 これ を押 し切 ったのが、社長 大原碑一郎であるo「天然の も の を人工 に置 き換 えることが国家のためになる」。絹 に代わる レー ヨン、綿 に代わる ビニロンで成功 を収めたクラ レに とって、優 れた人工皮革の開発は大 きな潜在的テーマであ った (クラレ [2006].p Etい、・
人工皮革の名称 と生産化 パ イロ ノト・プラン ト建設がス ター トした
1 9 6 3
(昭和3 8 )
年、新商品に名 前がついた。 クラシ ソク音楽 を愛する大原社長 は、かつて ビニロンのブラン ドに、弦楽器 を生んだ北 イタリアの地名 「ク レモナ」 をつけたO人工皮革の命名に当た り大原社長 はこう語 ったO「オーケス トラの中の吹奏楽器の地位 を占めることを期待する。それは ●◆クレモナ'■以上に、勇壮 な前進 を夢見 るための フアン7‑/‑ レの ように鳴 り響 いてほ しい」O新商品は、古 い形 の トランペ ットの名に由来 する 「クラリーノ
」 と名づけ らjlた。翌6 4
年 、倉敷工場内に月産 1万m'のパイロッ ト プラン トが完 成 した。その後、月産1 5
万ml規模の本 プラ ン ト建設 を決定し、1 9 6 6
(昭和4 1
)年1 1
月1 1
日、岡山工場 内に クラ 1)‑ ノ 生産工場 が完成、大原棺一郎夫豪が出席 して操業式 を挙行 した (クラ レ80b] pp1 2 6 ‑ 1
28 )
0人工皮革の紫明期 人工皮革の商業生産 は
、1 9 6 3
(昭和3 8 )
年 、米 Elデュポ ン社 (Dupont)の 「コ ル77ム」(Corlam)に始 ま り、翌1 9 6 4
年に クラ レ 「クラ リー ノ」が市販 を開始 したO クラレの企業 化 と同時期 に、東 レ 「ハ イテ ラ ノク」,東 洋ゴム 「バ トラ」、 E]本 レイ ヨン 「アイカス」が発売 され.その数年 後に帝人 「コー ドレ」、東 レ 「エ クセー ヌ」 (衣料用)が参入 した. また海外 では米臥 英臥 西独 、ポー ラン ド、東独、チェコなどの新規参入が相ついだ。
商品開発と中Ei)への技術移転に関する研究 藤本雅之
しか
し、1 9 71
年のデュポ ン社 「コルファム」の撤退が象徴す るように、各社 とも靴用 甲革 を指向 し たため、高度 な品質要求 と77,ツションの変化 に対応 しうる多銘柄生産や販売体制 を整 えることがで きず、生産中止 ない しは縮小す るメーカーが続出 した。当時の国内においてはクラレ「クラリーノ
」「ク ラリー ノ ・エル」、東 レ 「エ クセーヌ」、帝人 「コー ドレ」、鐘紡 「カネボウ バ トラ」が市場に出て お り、靴 、鞄、ポール、ケース類では 「クラリー ノ」が、衣料 用では 「エ クセ‑ヌ」
「クラリー ノ エ)i,」が圧倒的 なシェアを持 った。わずか1 0
年余の歴 史の中で、メーカーの消長 は激 しかった (表2)
O皮革素材 を分類すれば次の ようになる。人造の皮革様素材 は、1950年頃か らビニール レザーがあ り、
1960年頃にはナイロンやポ リウレタン樹脂溶液 を織布又はメリヤス地にコーティング (塗れ) した合 成皮革が登場 した. これ らは外観 を天然皮革に類似 させ ただけで、天然皮革 とは構造 、物性 とも大幅 に異なるために、靴市場 には大量 に進出 し得ず、低級品の用途に とどまっている。 これに対 し、人工 皮革は外観 だけでな く、構造、物性 とも天然皮革 に準 じてつ くる特徴がある。その物性 は天然皮革が 持たない権能性 (例 えば桜水性 、 ヒー トセ ッ ト性 な ど) を付与することが可能であ る。
表
2
世界の人工皮革の消長( 1 9 7 7
年 1月 クラ レ推定)メーカー ブラン ド 生産開始午 設備万rrf能力/月 備 考
日本 クラレ クラリーノ/‑1
1 9 6 5 6 0
衣料用1 9
71
生産中止 東 レ クフ )‑ノ .エル′七一1 1 9 9 7 6 5 6
(‑)5
エク ヌ
バ トラ
1
19 9 6 7 2 6
E=2壬 衣料用1970生産中止、鐘紡へ売却 日本 クロス
アイカス1 9 6 6 1 9
72生産中止帝人 コー ドレ
1 9 7 1 1 6 1 9 7 1 5
米国
Du p o n t Co r f a n
l1 9 6 3 4 0 1 9 7 1
生産中止,ポーラン ド‑売却Az t r a n 1 9 6 7 1 0 1 9 7
1生産中止Ge n s e t J e n t r a3 1 9 7 3
8 英国P o V a i r P o v a i r 1 9 6 9 3 0
西独
Xy l e e 1 9 6 7 1 5
生産中止ポーラン
ド P o ト Co r r a m 1 9 7 4 3 0
米国Du p o n t
社 中古設備導入 東 独Ek r a l e d 1 9 7 4
8チ ェ コ
Ba r e x 1 9 7 3
10 出所 r経済人」[ 1
97 7 ] , VOL3 1 ( 3 ) p5 2
図7 皮革素利 の分類
1 9 7 5
年推定 (国内生産量) 単位 千m' (主要用途)天然皮革
3 5
000 靴 鞄 袋物 衣料 連動具(原皮
7 0%
以上が輸入)ビニール レザー 250 000 家具 車両 ソー ト ・袋物 履物 合成皮革 38,000 ・袋物 靴 履物 家具 衣料 人工皮革 9.000 靴 ・鞄 ケース 運動具 衣料 出所 経済人
[ 1 9 7 7 ]VOL3 1( 3 ) p5 2
筆者が一部加筆l苅ILLr大学大学 院社 会文化科学llN死科紀要第31号(20113)
注釈
ビニール レサー 1949(昭和24)年頃 より出現O塩化 ビニールシー トO
合成皮革 1960(昭和35)年 頃よ り出現Oナイロンや ウ レタンを織布 、婦布 にコ‑テ ィング した も
の 。
人工皮革 三次元絡合不織布 に連続微細多孔構造のポ リウレタンを含浸 ・凝 固 させ、表面層 を形成 した もの。
人工皮革の定義 1965(昭和40)年 、同業数社の協誹 により、従来の合成皮革 と区別するため、「人 工皮革」の名称 をつけたが、通産省 は公用語にない との理由で表示登録 を却下 した.その後、1972 (昭和
4 7 )
年8
月1日付 で、 日本工業標準調査会審訊 を経て、 日本工業規格 に 「靴 甲用人工皮革」 JIS K6601が制定 されたO先に靴 甲用人工皮革試験方法 (JTSK6505)が1971 (昭和46)年に制定され公用語 となった。
① 「靴 甲用 人工皮革」JISK6601(Man一madeuppermaterlalofshoes)
用語の走耗 靴甲用人=改革 とは、高分子物質 を繊維屑 に浸透 させ、軍の組織構造 に準拠 して造 ら れた もので、高分子物矧 ま連続微細多孔構造 を持 ち、組維屑にランダム三次元立体構造 を持つ靴の甲 材料 をい うoJISK 6505によって晶質を試験 し、規定 に適合 しなければな らない。検査に合格 した靴 甲用人工皮革には次の事項 を表示する。I)名称、ll)種類又はその記号、】】り 製造業者名又はその 略号。
② 「靴 甲用人工皮革試験方法」JISK6505(TestlngmethodForman一madeuppermater】alofshoes)
「靴 甲用人工皮革」]ISIく6601の品掛 二関する試験方法 を規定するもの。測定項 目については、それぞ れ固有のJIS規格番号が示 される。出所 日本=菜規格等 は、JIS規格 をもとに聾者要約O
3 「クラ リーノ」の試練
新製品の品質問題 1966(昭和41)年、岡山工場の操業開始か ら間 もな く、クラ レは新たな試練 に遭 遇Lた。 1日に数百足のペースで、紳士靴の返品が続発 した。「クラリーノ」の商標名で販売 した靴 甲の表面 に、微小かつ撫数の割れ (クラック)が発生 し、消勢者 クレーム となった。販売店に販売中 止 をかけ、10万足 にのぼる流通在庫 を回収 した。当初、 この現象は着用に よる屈 曲疲労が原因 と見 ら れたが、物性試験 では耐屈曲性 に問題 はな く、すべて社 内規格 をクリ7 していた。研究ス タノ7は原 田究明のため に、素材 自体の屈 仙性試験やポ リウ レタン樹脂の劣化評価 をは じめ この原因を追究 し、
さらに工場の男子従業員数百名が紳士靴 を履 いて 日常業務 を進める とい う着用試験 を実施 した籍果、
原因は着用者の汗にあることが判明 した。着用者間で個別差があ り、特定個人に多発する現象 であっ た。
人の汗には酸性 とアルカリ性 の ものがあ り、 この現象 は後者の場合 に多発 した。化学的表現 をすれ
商品開発とlE唱】への技術移転に関する研究 藤本椎之
ば、ポ リウ レタンの加水分解23であ る。研 究ス タッフは、直 ちにポ リウレタンの改良に と りかか り, この難問の解決 を匿 った。一般的にポ リウレタンにはエステル系 とエーテル系があ り,前者は後者 に 比 して柔軟性 を有するが、耐加水分解性は後者が優る。 このために、 さまざまな角度か ら技術 と性能、
品質の見直 しを行 な うことがで きた (El本繊維新聞社 [199日.pp34‑39)。
デュポ ン社 との特許問題 (1)特許論争
1
966年 、米国 デュポ ン社 か らクラ レ大阪本社 に届いた通告砂は、「クラ.)‑ノ」 は同社の 「コルファ ム」特許にD̲t態の疑 いがあるとい う内容であ った。デュポ ン社が米国で成立 し、 日本 出席
した特許は 湿式凝 固に関する もので、特許請求範閲は広 く、「凝 固に際 し溶剤 を抽 出、再利用す る」 とい う表現 があった。これは当業者ではご く当た り前の ことである。r特許実施権 を与 えるかわ りに「クラリー ノ」の技術 を言燕渡せ よJ とあったD クラレ技術陣は,デュポ ン社の出願内容は 日本国内で成立 しない と見 て、米国内で も 「クラ リーノ」技術 との相適性 を明確 にすれば勝てると見ていたO
一方、海外戟略 を始める頗売陣は、長期の係争 に よる弊害 を考 えた。 これが決着 したのは,1969(昭 和44)年 で、結論 は 「和解」であった。その内容 は、クラレはデュポ ンに対 し技術使用料 を払 う。た だ し、デュポ ンは 「コルファム」の技術情報 を捷供 しない とい うものであった。 クラ レにとって 「コ ルファム」の技術 は不要であったが、撫用 な争 いを避けるための高度 な判断であった (日本繊維新聞 社 [1991].pp43・47)a
クラ レは輸出市場での併】発 に先立 ち,世界各国で人工皮革 に関す る基本的 な特許 を保有 していた デュポ ン社 よ り、1969年 にその特許実施権 の許諾 を受 けて、輸 出市城での不 測の混乱 を回避 したが、
これ も輸 出の促進 には一役買 った (クラ レ [1987b])a
( 2)
デュポ ン社特許の ライセ ンス
岩田
【 1 9 6 9 ]
は 「コル フ ァム」 や 「クラ リー ノ」 をは じめ人工皮革の原料 や製造法 を解説 し(pp 265‑274)),デュポ ン社特許の うち.凝固に関する 【特公昭40‑26559]ほか6件 の方法2■を紹介 した上で、「クラレは1969年3月デュポ ン社の 日本特許独 占実施権 [特公昭37‑2489ほか] を収得 し、世界に対す る輪出権 を錘得 し、これによって全世界‑の技術 、袈品の編出が可能 となった。今後の事業に大 きな 影響 を与 える」 と記述 している (pp274‑280)。一枚に特許明細酎 二おける特許請求項 は、かな り広 範既に設定 されるため、先発特許の裾野に後発特許が抵触する場合 もある。 こうした場合は和解で決 着することになる (聾者)。
Z'加水分脈 (HydrolysIS)とは,水が作用して起こる分脈反応。一例として、水により塩類が分解され、酸性ま たはアルカリ性を示す反応や.酢酸エチルが水により酢酸とエチル・7ルコールに分解する反応の類がある。
‑'1 6件の方法とは、いずれも r三次元構造不織布にポリウレタン等の溶液を含浸し水中で凝固させ、水中で溶剤 を抽出して多孔性のエラス トマ‑をある種の結合剤とする」ことを恵味する (草書)。
19El
岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要第31号 (20113)
(3)デュポ ン社の後 日談
同社 ホームページの 「デュポ ン200年の軌跡」では次の ように米 国の巨大企業が、自らの敗北 を認め、
謙虚に反省 している。「コルファム」は、原文ではコ‑ファム(塾と表記 されているO (I)悲運の発明品 一10年早す ぎた高機能素材 ‑
「次々生みだ される新製 品2‑5の一方 に、歴史に埋 もれかけた、 しか し記 際に留 め られ るべ き製品が ある。 コープアム(塾。それはデュポ ンにおいて1950年代半ばか ら競 うように開発 された [極微孔性素 材] だった。皮の ように呼吸3'して手入れが簡単 な、多孔性の湿気 を通す シー ト状素材であ る
」 。
「葎 営委員会は本格的な農 産に踏み切 るこ とを決定。200万 ドルキャ ンペ‑ ンの後押 しです ぐにマ‑ケ ノトを捉 え、発売2年 後の1966年 には約19万 m2がたちまち完売の人気 ぶ りだ った」。 (中略)「しか し、
その後靴業界に低価格 の輸入皮革が氾濫o コス トの高 いコ‑7‑/ム製の靴 は太刀打 ちで きな くなるO 長大の問題 は [伸 びない] [呼吸 しない] とい う一見不合理 な消数者の声だった。実際には呼吸 を し、
実地テス トでは多 くの満足 を得 た。靴 は足 にぴった り合 えば、伸 びる必要はない との合理的観点㌘か ら伸 びることを考 えていないo結果的にこれが問題 を招 いた」Q「コ‑ ファムの名誉 は回複 されぬ まま、
ついには生産中止 となって しまう。 しか し、当時の特殊製品事業本部 を監督 したアー ビング シャピ ロはこう語 った。 もしコ‑ファムが10年遅 く発明 されていた ら、 きっと大成功 だった と確信する」。
(ll)敗因の解明
「コ‑ファムにも期待 を薮切 られ、デュポ ンの財政は逼迫O その危機 を乗 り越 えるべ く、徹底 した 停滞の原因究明が なされたo各本部長による厳 しい自己分析の結果、会社の指導力の欠如は変化する 条件 、不十分な先行計画 お よび基礎研究に対する過度の 自信 に起因す る」 と報告 されたOその3年後 には 「デュポ ンの研究の成果 は、ス タッフの能力、施設お よび支出に比べて弁解の余地がないほ ど低 か った」 との報告 もな された (中略)。デュポ ンは 「科学 の長 い鎖の先に利益 がつ なが っているとい
う従来の 思考か ら逃れることがで きなかったJo
出所 デュポ ン社 ホームページ/デュポ ン(糊 「歴史 と伝統」第‑那 (pp1‑4),2009年10月15日。
4 事業展開
人工皮革の業界地囲 クラレがデュポ ン社 との特許問題 を和解の形で収めた後 も、人工皮革市場 に 多 くの企業が参画 したC「ハ イテ ラ ック」、「バ トラ」、「アイカス」 な ど、国内企業のほか海外企業 も 出ていたが、売れ行 きが芳 しくなかった。1968(昭和43)年11月、東 レと東洋クロスの共同事業の 「ハ イテラ ノク」の招収が決 まったO (‑ilIレは後に超極細繊維 に よる衣料 用人工皮革 「エ クセ‑ヌ」 を開
25 総合化学企業デュポン社の人工皮革以外の,他の化学製品を指す (蟹者)0
26 缶用中の靴内部は高温多湿となる。これを人工皮革が吸収し、外部に放出する性能 (吸放湿性)をいうo「コル 77ム」は3層隅道のため、この性能が劣ることをクラレ研究陣は把握していた (韓者)a
打 者用中の足の膨掛 こ対応 して、靴が伸縮する機能性 (履き心地)を考慮しなかった誤箕であろう (蟹者)0
商品開発と中国への技術移転に関するl肝先 藤本雅之
発す る)。そ して、デュポ ンの 「コルファム」 も撤退 し、中古 プラン トをポー ラン ドに売却 して、 自 社生産 を中止 した。 これ をきっかけに、同業他社 もそれに続 いた。市場 には 「クラリーノ」だけが残 っ た (日本繊維新聞社 [1991].p50)0
「クラリー ノ」工場の増強 ク レーム及び特許問題の解決後 も、技術改馨 と晶質向上 を推進 し、新 製品の上市や新用途開拓 に努めた結果 、内需の伸長 と世界各国‑の輸 出拡大が功 を奏 し、販売畳 は順 調 に増加 したO これに呼応 して、1969(昭和44)年以降の設備改善によ り岡山工場の生産能力 を逐次 増強 し、1973年3月には月産30万m〜に増強 し、 さらに同年10月には第二系列の建設によ り月産60万ni
と し、倉敷工場 の5万 m'を加 えて月産65万 m
'
とした (ク ラ レ [1987b]IE]木繊維新聞社 [1991].p6
7)0
5 品種 の多様化 と新用途開発
「タラ リ‑ ノ」事業 は急速 に成長 し、その用途は靴分野か ら鞄分野 などに拡大 され、既存銘柄だけ では市場のニーズ に応 えきれず 、新製品の開発が要請 された。1966(昭和41)年12月、倉敷工場 クラ リ‑ノ部 をクラ1)‑ ノ研究開発圭 に改組 し、新報柄開発や品質改良研究 を重点的に進めた. この頃か ら一般の生活水単 の向上 に伴 い、人工皮革分野では高級観 と、よ りソフ トな素利 を指向する時代 となっ た。 クラレでは市域 ニーズに対応 した開発 を進め、次々に新製品を商品化 した (クラレ[1987b])。
(1)靴用人工皮革 従来表皮 タイプの外観 と風合い改良 した新托柄 に、スエー ドタイプ、エナメル タイプを加 え、3枚類 を品揃 え して、消数者の選択肢 を増や したO
(2)衣料 用人工皮革 欧米 プア ノシ ョンの流入により、衣料用皮革の碍安が増加 し、1967年頃か ら 開発 に着手 したO衣料用 は特 に厚 さの薄手化 と風合いの柔軟化の一古で、高度の技術 を必要 とし、開発 は容易ではなかったが、漸次それ らの難点 を克服 し、スエ‑ ド劫タイプ衣料用人工皮革の商品化 に成 功 したol969年 「クラ リー ノ・Lスエー ド」 を、 さらに高級化 (ライテ ィング効果2t'の発現 と ドレー
プ性30の向上) して、1972年 「クラリーノ エル」 を販売 した (クラ レ[1987b])0
(3)雑貨分野への進 出 当初 、人工皮革は靴用甲皮の要求性能 さえ満たせば、他の分野への進出は 容易であると考 え られた。1967(昭和42)年 には、人工皮革が紳士靴市場の15%の シェアを占めるま でに成長 したが 、消費者の天然品晴好への傾斜か ら、靴分野 での人工皮革の販売 は鈍化 したO これに より、靴以外の雑貨分野‑の開花 を迫 られた (クラ レ[1987b])0
(1) ラン ドセル3]・学生鞄 天然皮革の用途 は第 1位の靴に次いで、第2位は鞄 ・袋物であるO
Suede牛革や山羊羊などの恭面を起毛した毛足の比較的長い革のこと。
wr】tlngeffectスエー ドの表面を指先で字を暫 くように ''なぞる●と、毛足が伏せて光線の反射で色が変化す る現象をいうo
dr叩e衣料用途での柔らかさ、やさしさ.優美さなどを表現する用語であるb /J、学生が通学時に学用品を入れて背負う鞄。オランダ百吾Ransel(背嚢)に由来O
r軌山大学大学院社会文化杵学研先科紀要第31号(20113)
「クラ7)‑ ノ」 はラ ン ドセ ルと学生鞄 に焦点 を絞 った結果、「軽 い、水 をは じく、型崩れ しない」 と い う特性が適合 し、発売後3年 日の1968 (昭和43)年に10%のシェアを獲得 し、全 国的に確 固たる地 盤 を築いた (クラレ [1987b])0
(ll) ポール スポーツ用品 「クラリー ノ」は、「耐水性、柔軟性、白きの持続性 、球の型崩れがな い」特性 を持 ち、ポールの成型加工性 に優れることか ら、1970(昭和45)年頃か らサ ッカ‑ポール パ レ‑ボール・ハスケ ツトボールなとへ追出 したOサ ッカーボールは1973(昭和48)年 に世界サ ノカー 連盟、バスケ ッ トボールは1985(昭和60)年に国際バスケ ットボ‑ル連盟か ら各 々公記 された (クラ
レ [1987b])O
(111)各種用品分野 カメラな どのケース類 、ベル ト バ ン ド等の装身服飾品な との分野への展開を 図 った.1971(昭和46)年 に は靴 分 野 と雑 貨分 野 で 内帝 をほほ二 分 す る まで に な った (クラ レ [1987b])。 なかで も特筆すべ きは、 クラ リー ノの高周波加工32によるカメラケース等の成型加工品で あるOニコン、キヤノ ン, ミノル タ等の一眼 レフや中級 カメラに多用 されたO この加工特性 は世界の 人工皮革 中では唯一であったD
6 輸出の伸長
天然皮革の供給 は牧畜の規模 に左右 され、世界的には偏 った ものにな り、日本 ソ連 東欧圏詣国 中匡】な どは天然皮革の不足国である。 クラ レは ソ連か ら大量の引合いを受け、東欧圏諸国へ も相当品 が輸 出 された. これ らの国々では天然皮革が不足 していたほか、品質的に 「クラ リー ノ」が耐水性 耐寒性 に優れ、寒冷な気候風土 に適合 した こと.天然皮革の ように価格が相場に左右 されることな く 計画買付がで き、靴製造業者が省力化の方向にあった等の複数要因があった0‑万 、英国 米 国 ・西 独 な どには、当初 か ら桔梗 的 に販売活動 を展開 したので、「クラ リ‑ ノ」 の輸 出正 は飛躍的に伸 び、
1975年 には輸出比率が50%を超 えた (クラ レ [1987b])0
7 その後の増強
1985年4月には岡山プラン ト設備能力 を75万m'/月に設僻の増強 と並行 して、作業人員の合理化 と 生産工程の高効率設備の導入 を行 ない、省力 ・省エネルギー対策 を推進 し、‑屑の コス トダウンを図っ たD さらに、1990年9月、「クラ1)‑ ノ」設備 を83万m=/月 (1.000万 ml/年) に増強 し、同年11月,「ク ラリー ノ」25周年記念行事 を開催 した (日本繊維新聞社 [1991].pp86‑90)0
32 高周波誘電加熱装Wtiiにより,25MHz又は40MHzの電波を発掘 し.ポリウレタン分子間振動による摩擦発熱を 応用し、砧割することなく立体成型加Zができる特長がある。この原反は西独,東独等にも輸出された (策者)。
商品開発と中国への技術移転に関する研先 藤本雅之
8 「クラ リー ノ」 の研 究開発 ・工業化 に対 す る受賞
クラ リー ノは最初 の 目標 を靴素材 に置 き、その後 もう一つの 目標 である衣料素材 へ追 出 したOその 開発 は容易 で なか ったが 、漸 次難 点 を克服 した。 これ らの研究 開発 工業化 の実績 は、かつての ビニ ロ ンと同様 、業界 ・学界 で高 く評価 され次の賞 を受 けた。
表
3
「クラ リー ノ」 の研究 開発 ・工業 化 に関す る受賞1973年4月 「人工皮革製造技 術 の確 立」 に よ り、 E]本化学会 第21回化学技術鑑o 1973年5月 昭和48年度発 明協 会総理大 臣Ti‑o
1973年5月 El本化学工業協 会第6回 日化協光O
1973年12月 「人I皮革 クラ リー ノの工茶化」 に より、毎 日新 聞社 第25回毎 日工業技術LLO
ほかに岡山県文化奨励lLi、山陽技術振興会 山陽技術Tl‑, 日刊工業新聞社 日本産業技術大LFも受光。
出所 クラ レ [1987b].日本繊維新聞社 [1991],pp88‑90
DI 中国 への 「クラ リー ノ」・プラ ン ト輸 出
課題 本節 で は ビニ ロ ン プ ラ ン ト輸 出33の後続 と して成約 され た人工皮 革 「ク ラ リー ノ」 プ ラ ン ト輸 出の権韓 を明 らかにす る とと もに、知 的財産椎 (特許) や技 術移転 の具体 的方 法 を検証す るO ま た、本節 で は1982年の完 成 ・引渡か らお よそ四半世紀 を経 過 したプ ラ ン ト輸 出先の現在 の姿 を明 らか にす る。 これ らの事項 は一般的 に知 られてい ない し、歴史の 間に塩 LR'l'され ようとす る事実 を再確認 す る こ とにあ るO なお、「ク ラ リー ノ」 は ク ラ レ人工皮 革の商標31であ る こ とか ら、中風での生 産品 に 同名称 は使 われ なか った。
1 時代背景 と輸 出交渉 の経過
い きさつ 1975(昭和50)年8月、 クラ レは人工 皮革 「クラ リー ノ」の原 反 を初 めて 中国へ輸 出 したO 同年9月.上 海 ポバ ー ル ・プ ラ ン ト35の竣工 を祝 うために中Blを訪問 した クラ レ岡林社長 は、中国技 術進 出 口総公司 の雀群総糧理 を訪 ねた。 この時、中国側 は人工 皮革 「クラ リー ノ」 に強い関心 を示 し た こ とか ら、翌 月には クラ レ技 術者 が 中国 を訪問 して 「ク ラ リー ノ」・プラ ン トに関す る技術 的説明 を行 な ったO その後、中匿政府 の要 請 に よ り、 クラ レは正式見積智 を提 出 L具体 的 な商談 を実施 した。
中国にお ける人工 皮革 の必要性 ク ラ レは 「クラ リー ノ」の原 反 を中国に輸 出 していたが 、中国では
(日北京プラント(1963/1965)、(2)上海プラント(1973/1976)、(3)四川プラント(1974/1980)の3件の英横があ り、いずれも (契約/完成の年度)を示す。
「クラリーノ」および Clarmo■lまたは CLARINO は、いずれも特畔庁へ出癖登掛 斉 (登綿番号 07
0
520 0
43488244609475ほか)。本稲ではクラレ規定により 「クラリーノ」と 「括弧」つきで表示するO
クラレの中国向 ビニロン プラント輸出の1つで、ここでは上海のエチ レン法ポバール製遺プラントを指すQ
岡山大学大学 院社会文化 科学研 究科紀要第31号(20113)
牛皮の供給が少な く人工皮革の潜在的な需要が極めて大 きか った。 また人工皮革素材 を中国政府の軽 工業部が着 目したのは、天然皮革の ように価格が相場に左右 されず、計画買付がで きることも一要因 であった。
2 プラン ト輸出契約
1975(昭和50)年10月 より双方の関係者が再三訪問を繰返 して折衝 を重ねた末、1978(昭和53)午
5
月20日、北京 にてクラレは中国技術進 口絵公司 との問で人工皮革 プラン トの輸出契約 を締結 した(日 本繊維新聞社 [1991],p79.クラレ [2006],p40).契約条件 (1)生産能力 年産300万m'(2)契約金額 70億円 (機器60億 円、設計4億 円、特許技 術6億 円). (3)支払方法 契約発効後、技術資料引渡完了後 、確認運転完了後 、機器保証期間満了 後 とし、 5年間の延払 い条件 を採用。 (4)工事完了時期 契約発効後32カ月。 (5) 自由拡張権の供 与 中B]側 は自由拡張椎の供与 を希望 し、1978(昭和53)年7月、権利許諾の契約 に調印 したo対価 は2億 円プラス100万米 ドルであった (クラレ[1987a])0
技術許諾契約皆の概要
(1)供給範閲及 び特許技術使用権 クラ レは中国側 に対 して、特許技術任用椎 と中国で生産する人 工皮革製品を中国内で使用、消費する権利の許諾 に同意 した。 クラ レは契約に規定する技術サー ビス お よび 「技術資料」 を提供 し、熱耕 した技術指導員 を契約工場 に派逝 し、現場 にて技術指導 を行な う。
また、同社 岡山工場で中国側の技術者 を訓練す る.
(2)技術資料 の引渡 技術 資料 は契約発効後、逐次引渡す。技術資料 は 日文で作成する。外来語 は 英文 とし、度量衡等 はメ‑ ト)i,制 とす る。
( 3 )
技術指導 お よび確認運転 と引渡検収 契約工場の、据付 、仕込試運転 、確認遊転 を経て、規定 の製品品質保証値が達成 された後に、双方が契約工場の引渡検収古 に署名する。契約工場の建設 は、契約 に定めるクラレの提供す る技術資料 と技術者の指導 を遵守 して行 な うO
(4)保 証 クラ レは契約工場 の技術水難が、本契約調印時に於ける同種の技術の中で、最 も先進 的かつ成熟 した技術であることを保証するO
( 5 )
特許技術使用権及 び秘密保持 クラ レ提供の技術資料 は、中国内 に限定 して使用するo中国側 が拡張あるいは新設す る場合 、クラレに対 し更に特許技術料 を支払 う必要 はない。本契約調印 日か ら 契約工場の引渡検収 E]までの間に、契約工場範囲内の技術 に改善や発明がある場合、クラレはbm=僻で 詳細資料 を中国側 に提供する。契約調印後 10年間は中国以外 にクラレの提示技術 を漏洩 してはな らな い (クラ レ [1978]資料)0契約馨 に提示 されたライセ ンス特許 各製造工程別の基本特許25件余の特許権者は全てクラレで、発
商品 開発 と中国へ の技 術移転こに関す る研兜 藤本 雅之
明の名称 、公告番号 、公告年月 日が明記 され、特許有効期 間は公告 日より15年間 とした (クラ レ[1978]
資料)。通常 、特許権 の存続期 間は、特許出願の 日か ら20年間 (特許法67粂)であるが、当該特許は クラ レで実施 中の ものであることか らこの表現 となった(筆者)。なお、筆者 は今回特許庁 よ り当該「特 許公報」 を入手 して、「発明の詳細 な説明」や 「特許請求の範既」 を検証 したO ここではその一例 を 示す。
[特許公報】登録番号 477457公告番号 1966年 (昭4ト4810)
【発明者】福島 修 早浪 洋 【出願人】クラレ代表者 大原維一郎
【名称
】
「特殊 中空糸又は特殊 中空成型物の製造方法」【内容】ナイロン、ポ リスチ レンを混合紡糸 し た後、ポ リスチ レンを溶解除去 して、特殊 中空繊維 を製造する方法 (れんこん型繊維の製法)03 建設工事 と技術指導
建設工事 クラ レは中国プラ ン ト本部 を設置 して設計その他 の準備に着手、1978年8月に頼初の技術 資料 を発送 し、その後数回に分 けて発送 したo樺械設備 材料等 は1980(昭和55)年 1月以降に船積 み した。工場立地の畑台市では1980(昭和55)年春 よ り建設工事 を開始 し、クラ レは土木建築技術者 機械 電気 計装各技術者 を派遣 して技術指導 を行 なった。設備据付 は1982(昭和57)年6月にほほ 完了 したが、中国側担 当のユ ーテ ィ リテ ィ関係施設36の遅 れのため、試運転 開始 は翌1983(昭和58) 年
6
月であったO クラ レは建設技術者に続 き、逆転技術者 を派出 して運転指涼 を行 ない、仕込 試運 転 と確認運転 を実施 して、9月に引渡文BLへの調印を終 えた (クラ レ[1987a])。プラ ン トの竣工 (1)工事遅れの理 由
工場の完成は1983年9月で、契約調印か ら5年間、建設者=後3年間を経ていた。 これだけ遅れた のは、中国が進 めた近代化プロジェク トが行 き詰 ま り、経済調整期間があ ったためである。それで も 人工皮革 プラン トが生 き残 ったのはクラレに対する中国側の配慮 (*)であろ う。
*
1963年の北京 ビニ ロン プラン ト輸 出契約 は、 日中国交回復 (1972年)の9年前で、 日本 米国 台湾 ・中国の間に存在 した政経問題 を克服 して、 日中貿易 に先有史をつけたクラ レ‑の信苑であろう (筆者)Q
(2)同時代の中国事情 <工事遅れの背景 >
プラ ン ト契約 (1978年) か ら竣工 (1982年) までの同時期 における中国寄り宙は次の通 りである。
1978年8月に 日中平和友好条約が調印 され、同年12月には中国の改革開放が開始 された。 さらに翌79 年 1月には、米 中国交正常化が実現 した。1978年の全 国人民代表大会で 「国民経済発展十 力年計画
」
Ⅶ utl】1ty 韮気、用水、空気.窒素、電力等の供給施設のことを指す。
.I‑Ll
P)l山大学大学院JJ会文化科JlLとL研究科紀要妹31号(20113)
が採択 され、「四 つの近代化節」 に向 けて大 き く前 進 す る予 定 であ った.華 国鋒 首相 は、西 側の近代 技術 を積極 的 に導 入す る近代化 路線 を採用 した (洋躍進)。 しか し急速 な近代 化 は、輸入設備 を使 い こなせ ず、外 貨不 足 を引 き起 こ した (南 牧野 [2(
氾
5].p7)。 この ため、1978‑79年 に西側経 国 と の輪 入契約 の破 棄 と国際的 な賠償問題 まで引 き起 こ した。 この結果 、郡小平の指導の もとで、社会主 義 イデ オロギー よ りも生 産力の発展や経済効率 を重視 す る改革開放時代 の到来 (1978年12月) となっ た (加藤 上原【 2 0 0 5
].p4 8 )
o( 3)
人工皮革工 場 の完成1983 (昭和58)年9月、中国初 の人工皮革工場 「個 台合成 革廠 」が完成 した。 これ に よ り年 産300 万 m'(紳士靴換 井 18(氾万足分) の人工皮革が生み出 され るこ とになった。完成 後は順調 に稼 働 した。
大原紐一郎社 長 が紫初 の ビニ ロ ン ・プラ ン ト輯 出に続 いて夢 見た宿願が ここに実 ったのであ る。 この 人工皮革工場 は中匡=こおけ る建 国以来 の軽工業 関係 の重 要建設'L38の一 つ に挙 げ られ た。その後、当契 約の 自由拡張椎 に基づ き、1992年2月完成 を 目処 に増設工事 を進めた (クラ レ[1987a].クラ レ[2(1沌]. p40)。
この プラ ン ト輸 出の成功 には、先発の ビニ ロ ン プラ ン ト輸 出の成功 に よ り、 クラ レが 「中国か ら 信頼 されていた」 こ とも大 きい (E]本税維新 聞社 [1991],pp79‑80)a
4 プラ ン ト輸 出先 の現 況
1982年 に完 工 して 、 国家 第65期 重 点工 場 と して ス ター トした 「畑 台 合 成 皮 革 総 廠」(YANTAI SYNTHETIC LEATHERGENERALFACTORY)は,既 に30年 近 くが経 過 した。 その間 に同社 は 畑台万準 合成革狼 Efl有限公司 を経て組織改編 し、2COl年 に現社 名の個 台万華超繊股扮 有限公司 となっ
た。
現在 は国家 火矩 計画重 点高新技術企業39で、国家 レベ ルの企業技 術 セ ンターであ る。 中国人民解放 軍の籍 後方勤務部 か らテ クノロジー研究試験 製造基地 と指定生 産企業 に認定 されたo 同社 は主 として、
れん こん状繊維 及 び超細 繊維 (そ うめん状繊維 )合成皮革 K)、その 他ポ リウ レタ ン合成皮革の開発 ・ 生産 ・販 売 を行 な う。 また.同社 の製 品 は
,2 C
O5
年 に 「中国名牌 」製品 llの称号 を取得 した (燭 台万 華超繊股扮 有 限公司 ホ‑ ムベ‑ ジ2
∝沿年 10月)。1975年.周恩来首相が20世紀内に農業 工薬 ・国防 科学技術の近代化を実現する方針を捷示 した。
中国鏡計年鑑 (1984)によれば、「建国以来建成投産的五大建設項El」として軽工業関係に次の4件が挙げられ た。 佃台合成華厳 【人工皮革300万nl〕 佳木斯道幣厳 【現耗11B万ton]・江門甘煮化工廠 【製糖65万ton]一成 除彩色瀕象菅廠 [カラ‑ブラウン管96万本](クラレ【1987a])。
科学技術と経済建設を結合する頭脳鞄 与の形成を目的とするもの (山本 【1992] pp37‑43)。
中国では人工皮革を 「合成皮革」と称する。従って人工皮革と畿み甘える必要がある (高木 [2
( 氾
7].PP22・26)。弥′ト平は1992年に武漢.深別、環海.上海を視察,「われわれは自分の主力製品を持ち、中国自らのブランドを 創出しか すれば、他国に圧迫される」と指摘。ブランド戦略の韮要性を訴えた (万[2001】p ll)。2001年に 「中 国ブランド製品管理規定」を正式に公布 した (柳 [2005].pp871107)。
商品間夕己と中国への技紳l移幸三に関する榊先 藤本雅之
日本で発行 される合成皮革 人工皮革の業界誌 r合成皮革速報」 によれば、同社 はナイロン極細繊 維 (001デニール) を開発 して、銀面調 (1999年) とスエー ド調 (2000年)の各商品を上市 した。 さ らに車両、汽車 (中国では自動車 を指す)内装用人=皮革 を中国内の 自動車 メーカーに試験販売 を開 始 した (r合成皮革速乾12007年9月5日)01982年 にクラレが技術移転 した技術 は 「れんこん型」(特 殊繊維)のみであったが、その後独 自に 「そ うめん型紙維」を開発 した ことになるO 二m まス ピルオ‑
バ‑効果 12であろう (聾者)O
5 プラン ト輸 出後の クラレの現況
クラ レはプラン ト輸 出後 も 「クラリーノ」の生産 と研究開発 を継続 した。1994年 、世界で最 も細 い 新繊維 を使用 した次世代 人工皮革 「ソプリナ JJ」 を発売 したo天然皮革 を構成す るコラ‑ゲ ン繊維同 様の繊維直径100万分の1mmの超極細繊維の開発 に成功 した ことに よる ものである。 この時期 、「ク ラリー
ノ
」 の輸 出比率 は60%に及び、人工皮革の世界市場で シェア25%を占めた。「クラリーノ」は クラ レを30年 にわたって下支 え して きた (クラ レ [2006]p59ほか)。Ⅳ あわ りに
「クラリー ノ」 は、天然皮革の構造 と性能 を、 ビニ ロ ンで培 った高分子化学 の技術力で再現 した人 工皮革である。 ここには 「天然の ものを人工 に置 き換 える」研究者の信念があった。その技術力は米 国デュポ ン社 「コルファム」の性能 を凌現 し、「クラ1)‑ ノ」は世界の トップブラン ドとなった。
クラ レは1978年 中国政府 の要請 に よ り、プラン ト輸出契約 を締結 し、1983年技術移転 を完了 した。
当契約 は ター ンキー方式L'3の ライセ ンスで.その対価授受は西側詣 Blで用い られる ランニ ング ・ロイ ヤルティ方式44ではな く,5年 間の延払い方式であ ったC 同方式は金額が大 きい場合 に、頭金以外の 残 りを一定期 間猶予す るもので、外貨準備の少 ない発展途上国へのプラン ト輸 出に適用 される手段で あった。技術移転の方法は、技術資料 (マニュアル) とOJT方式の仰用で現地従業員教育 を行ない、
クラ レ岡山工場での中国人技術者の教育研修 も同様 に実施 した (筆者)o
伊藤 [2005]と吉原 [2003]によれば、一般 に E]本企業の技術移転の特徴 は、欧米企業に比 し、作 業標準沓 (マニュアル)があ ま り存在 しないために技術移転の重要かつ不可欠 な方法が
O
JTになる と批判 されて きたC 従 って、 日本企業 は技術マニュ7)i,を作 成 した上 でOJTを行 な うべ きだ と述べ ている (伊藤 [2005]pp 198‑199 吉原 [2003],pp 142‑143)。 しか し、クラレのケースについては、こうした指摘 は当てはまらないO当該 プラン ト(1978年契約)では、契約宙 に基
づ
き現地の上級技術 者か ら作業月 まで全ての人員に、マニュア)I,に沿 った指導 と契約 に基づ くO
JTを実施 したのである(壁12 外部荏績効果のことO技術r対J発分野で本来意図した範囲を超えて,他の関連範匹‖こ波及する効果を指す。
13 TL.rnkeysystem プラント建設で用地整備 建設 設備柁付 試逆転の一速の業務を‑括受任する方式。
1I RunnlngrOyalry 番望品の売上金音別こ応 じ支払う対価 (製品 l単位当り 売上総額の△% 年間定額など)。
202
岡山大学大学院社会文化科学71井究科紀要第31号 (20113)
者)0
人工皮革 プラン ト輸 出か らお よそ30年が確過 したO先発の ビニロン ・プラン トを含め、 El中貿易 に かけた努力 は歴史の間に埋 没 されつつある。当時は企業秘密や村 中配膚が なされたためで もあるが、
活字で公表 された ものは極めて少 ないD クラレのプラ ン ト輸出は、早期 に E]中貿易の地固めの役割 を した。今 日の緊密 な 日中関係 は世界経済の中で重要 な位置付 けにあることか ら、その原点 を見つめ直 す ことに も重要 な意味がある と考 える15。
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jaJP/hIStOry/ー07ahtm128個 台万輩超繊股伶 有 限公司 http//wwwwanhuacxcom