Title
淋菌臨床分離株の抗菌剤感受性の年次変化と経口セファロ
スポリン剤耐性機序の解析( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
伊藤, 雅康
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)甲 第565号
Issue Date
2004-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/14539
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氏 名(本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与の要件 学位論文題目 審 査 委 員 伊 藤 雅 康(岐阜県) 博 士(医学) 甲第 565 号 平成16 年 3 月 25 日 学位規則第4条第1項該当 淋菌臨床分離株の抗菌剤感受性の年次変化と経口セファロスポリン剤耐性桟序 の解析 (主査)教授 出 口 隆 (副査)教授 渡 連 邦 友 教授 江 崎 孝 行 論文内容の要旨 Penicillin耐性やtetracycline耐性淋菌の出現以来,ニューキノロン剤やセファロスポリン剤が淋菌感染症の治 療薬として推奨されてきた。ニューキノロン剤は,淋菌感染症に対して優れた有効性を発揮したが,1990年代半 ばよりニューキノロン剤耐性菌の出現が報告され,以後,耐性菌の著明な増加が認められている。淋菌のニュー キノロン剤耐性化後は,セファ,ロスポリン剤が淋菌感染症の重要な治療薬として繁用されてきたが,経口セファ ロスポリン剤に対する感受性の低下した淋菌臨床分離株が出現し始め,臨床上問題となっている。淋菌の抗菌剤 に対する耐性化機序については,多くの報告がなされてきたが,これらの耐性機序は,臨床上問題となるはどの 経口セファロスポリン剤の感受性の低下には関与していない。しかし,最近,経口セファロスポリン剤低下感受 性淋菌において従来の報告とは著しく異なるp飢A遺伝子のモザイク様構造が報告され,経口セファロスポリン 剤耐性化との関連が示唆されている。 本研究では,岐阜大学およびその関連施設を受診した男子淋菌性尿道炎患者より分離された淋菌臨床分離株の 1999年から2002年にかけての各種薬剤感受性の年次変化を検討し,2001年に分離された経口セファロスポリン剤 低感受性菌株についてpe几A遺伝子の解析と経口セファロスポリン耐性化との関連を検討した。また,
pulsed-field gelelectrophoresis(PFGE)によりモザイク様構造のpenicillin-binding protein(PBP)2を持っ 菌株について遺伝子的類似性を検討した。
対象と方法
1999年4月から2002年12月に岐阜大学病院および関連病院の泌尿器科を訪れた男子淋菌性患者から分離された 462株に対するpenicillin G,tetraCyCline,Cefixime,Cefdinir,Cefcapene,Pivoxil,Cefodizime,Ceftriaxone,
1evofloxacinおよびのspectinopycinのMICをNationalCommittee for ClinicalLaboratory Standards
(NCCLS)法に準じて測定した。さらに,nitrocefinディスクによりβ-1actamaseの産生の有無を検討した。 2001年に分離された菌株の内,55株についてPBP2をコードするpenA遺伝子の全長をPCR法により増幅し, オートシークエンサーを用いてその塩基配列を決定した。 モザイク様構造PBP2を有する臨床分離株47株のゲノムDNAを制限酵素伽eIで処理し,切断されたDNA断片 をPFGEにて分離した。PFGEにより分離されたDNA断片プロフィールは,BioNumeric解析ソフトを用いて解 析を行った。
結果 MICの測定より1999年から2002年に男子尿道炎患者から得られた淋菌臨床分離菌の各種抗菌剤への感受性は 著しく変化し,2001年よりペニシリン剤,テトラサイクリン剤,セファロスポリン剤およびニューキノロン剤へ の著明な耐性化が認められた。染色体性ペニシリン耐性および染色体性テトラサイクリン耐性淋菌は著しく増加 し,Cefiximeを始めとする経口セファロスポリン剤に対して低感受性を示す淋菌の割合む音tjこく増加していた6 しかしながら,はとんどすべての菌株はspectinomycinとceftriaxoneに対して感受性であったが,2001年に spectinomycin耐性菌が1株分離され,2002年にはceftriaxoneに低感受性を示す2株が分離された。 pe花A遺伝子の塩基配列の決定より,経口セファロスポリン剤耐性化淋菌において〃eiぶSerよαCわereαおよび 〃efsseriαpe研αUαとの間でのpe花A遺伝子の組み替えによるモザイク様構造を有するPBP2を認めた。 PBP2のモザイク様構造を有する経口セファロスポリン剤耐性淋菌のPFGEによる遺伝子的類似性の検討か ら,PFGEプロフィールが90%以上の類似性を示す菌株が78.7%を占め,残りの菌株についても同一のPFGEプ ロフィールを示す菌株の組み合わせが認められた。 考察 本研究において染色体性ペニシリン耐性および染色体性テトラサイクリン耐性淋菌の著しい増加,ニューキノ ロン剤耐性菌の割合の増加とより高度の耐性化が観察された。さらに経口セファロスポリン剤に対する感受性の 急激な低下も観察された。経口抗菌剤による淋菌感染症の治療が困難であることが示唆された。また,経口セファ ロスポリン剤耐性化の機序として淋菌と他の〃e由serよα属の菌種との間でのpe几A遺伝子の組み替えによるPBP2 のモザイク様構造への変化によるもので,このような耐性淋菌の出現および増加は,限られた数のクローンの アウトブレイクであることが示唆された。ニューキノロン剤に代わる経口セファロスポリン剤の繁用がその流行 を促進しているものと考えられた。 論文審査の結果の要旨 申請者 伊藤雅康は,男子尿道炎患者から得られた淋菌臨床分離菌が,2001年から2002年に各種抗菌剤に対し て著明な耐性化を引き起こしていることを明らかにし,その中で経口セファロスポリン剤た対する耐性化機序が penA遺伝子の組み替えによるpenicillin-binding protein(PBP)2のモザイク様構造への変化によること,さら に,このような耐性菌が限られた数のクローン由来であることを明らかにした。本研究の成果は,薬剤耐性淋菌 出現の現状の把握および耐性化機序の解明の一助となるものであり,泌尿器科学ならびに性感染症学の進歩に少 なからず寄与するものと認められる。 [主論文公表誌] 淋菌臨床分離株の抗菌剤感受性の年次変化と経口セファロスポリン剤耐性機序の解析 岐阜大医紀(in press)