と,ミクロなモデル化に使われる交通行動データの信頼
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(2) 挙げられる.たとえば,特定の時刻に特定の空間領域. けしたもの)を持つ.移動中の点については,ネットワー. に存在する移動体の数,一定時間に特定の空間断面. ク上のリンクまたは位置を属性として与える.個人プロフ. を通過する移動体の数,およびそれらの時間変化など. ァイルデータはサンプルデータと同様に個々の位置デ. である.. ータとしてGIS上で管理・表示することもできるし,必要に 応じて時間・空間上で集計することもできる.. 3.シミュレーションモデルの概念 ここで考えるシミュレーションモデルは,「サンプルデー タと同様の属性を持つデータを必要な数だけ発生させ. 4.大規模イベント時の交通シミュレーションへの適用 大規模イベント時には会場周辺に交通規制が敷かれ,. る」ものである.そのために,移動体位置データを時間. 観客の多数が公共交通機関を利用することから,鉄道. 的・空間的に集計することによって得られる様々な分布. 利用に着目したシミュレーションモデルを作成する.モ. (確率分布)をできるだけそのまま利用することを考える.. デルは以下の二つサブモデルから成る.. この分布を用いて,仮想的に発生させるひとりひとりの. (i)個人属性やその行動を決定する個人行動シミュレー. 個人の移動プロファイルを作成していく. プロファイルの作成時点では,個人の行動とシステム. ション(個人のプロファイル作成) (ii)駅の混雑率やダイヤなどの条件を与えて駅の状態. のパフォーマンスとの相互作用の結果生じる混雑現象. を予測する駅シミュレーション. は存在しないと仮定する.つまり,個人の行動(移動プ. シミュレーション全体の流れは,まず個人行動シミュレ. ロファイル)は混雑を引き起こさず,逆に混雑によって個. ーションでイベント参加者全員分の個人行動データ,つ. 人の行動が影響を受けることはないとするのである.こ. まり行動予定を作成する.つぎに,駅シミュレーションで. の前提をおくことにより,分析に必要な数だけの個人の. 駅の利用情報を受けとり,イベント会場周辺の駅につい. プロファイルを個別に作成すればよいことになる.. て利用者数や混雑度などの状況を計測するという二段. プロファイルの作成では,必ずしも個人の行動のすべ. 階のステップで処理を行う.. ての側面を反映・記述する必要はない.また,「サンプ ルデータから得られた時間・空間の確率分布を使う」と いう共通点以外は,プロファイルの作成方法に様々なバ リエーションがあっても構わない.以下に示すのは,個 人の一日の行動プロファイルを作成する手順の一例で. 個人行動シミュレーション 個人属性の決定 (年齢,性別). 自宅の決定. 自宅最寄り駅と 会場アクセス駅の決定. 大阪24区とその周辺の市の 人口,面積. 鉄道ネットワークデータ. ある. (i)サンプルデータの居住地の空間分布から,発生させ た個人の居住地を決める. (ii)第1トリップの発生時刻分布と最終トリップの発生時刻 分布から,ツアーの発生時刻と終了時刻を決める.n=1 とする.n:訪問先の数.. 会場到着時刻分布 (イベントの特性を考慮). 出発時刻の決定. アクセス駅到着時刻 の算出. イベント (サッカー観戦). 退場時刻の算出. 退場時刻分布 (サブイベントによる制御も可能). (iii)第n番目訪問先の空間分布を用いて,n番目の訪問 先の位置を決める.訪問先までの旅行時間を決める. (iv)訪問先での滞在時間分布を用いて,滞在時間と次. 駅到着予定時刻の決定. 個人行動データ. のトリップの出発時刻を決める. (iv)トリップ出発時刻が(ii)で求めたツアー終了時刻以前 なら,n=n+1として(iii)へ.そうでなければ,ツアーを終了. 駅シミュレーションへ. 図1 個人行動シミュレーション. して居住地に戻る. このようにして発生させた個人のプロファイルは,サン. (1)個人行動シミュレーション. プルデータと同様のデータ形式(時刻,位置情報を必. フローチャートを図1に示す.最初のステップでは,年. 須とし,必要に応じて移動・滞在などの属性をラベルづ. 齢や性別といった個人属性を決定し,さらに対象となる.
(3) エリアの人口や面積といったデータからその個人の自. 時便などを追加することができるため,車両運行の評価. 宅位置を決定する.そして,鉄道ネットワークを元に自. も行える.さらに,車両毎に現在の乗車人数を保持して. 宅と会場の最寄り駅を算出する.このときの通過経路は. いることから,同一路線において上流側の駅で満車に. 最短経路探索により算出し,イベント前後の買い物や食. なると下流側の駅では乗車できないといった状況を再. 事などといった別目的を持つ派生的なイベントによる立. 現することが可能である.これにより,イベント会場から. ち回りや待ち合わせなどの立ち寄りは考慮しないものと. の退場者を最適な駅へ誘導する効果を調べることがで. する.. き,イベント時の交通規制評価も行える.. 次のステップでは大規模イベントの到着時間分布より イベント開始の何分前に到着するかを決定し,自宅から 駅シミュレーション. の所要時間を考慮して自宅の出発時刻も併せて決定. 時刻t = t+1. する.到着時刻分布はイベントの特性に合わせて与え. 駅i = i+1. ることが可能である.ここで用いたサンプルデータは96. 電車が到着したか. 人の被験者の交通行動が観測できた大相撲調査のデ. N. Y N. 車両に乗れるか. [4]. ータ であり,それを加工したものを使用した. 次に,会場を後にする時間(退場時刻)をイベントの 退場時間分布より求める.このとき,イベント終了直後は 観客が一斉に出口に向かい,著しい出口混雑が生じる. Y. ホームでの待ち行列を車両に乗せる 個人行動データ (乗車時刻). 個人データ,車両データの更新. 車両データ (総乗客数) 駅外での待ち行列の内,ホームの 空き容量分だけ駅内に入れる. ことが予想できる.この混雑を緩和するために,メインイ ベントの終了後に別のサブイベントを設けて退場時間を. N. 駅に到着した人が いるか. 分散させるといった対策が考えられる.そこで,サブイベ. Y N. ホームに入れるか. ントによる退場時間の分散効果を計測できるよう,任意 の時間延長を持つサブイベントをモデル内に付加した.. Y. ホームの待ち行列に加わる. 駅外の待ち行列に加わる. 会場を後にした後は,会場最寄り駅までの徒歩時間 個人情報の更新. より駅に到着する予定時刻を算出する.この時刻は駅 駅情報の更新. の混雑状態によって実際に到着できる時刻とは異なる. 個人行動データ (駅到着時刻). 施設(駅)データ. N. ため,予定時刻として算出しておいて,その時間差を駅. 全駅が終了 Y. での待ち時間としている. 図2 駅シミュレーションの構造 (2)駅シミュレーション フローチャートを図2に示す.必要なインプットデータ には個人行動データのほかに,鉄道の時刻表データ, 施設(駅)データ,車両データなどがある. このシミュレーションは,時刻を考慮したリアルタイム. 5.ケーススタディ 大阪市の長居陸上競技場で行われるサッカーイベン トを想定したシミュレーションを行い,試合当日の交通混 雑に対する対応策の効果を検討した.. シミュレーションとなっている.ある時刻において,駅に. (1)シミュレーションの条件. 電車が到着するか,その車両に乗車できるか,ホームに. ・イベント開催日時: 2002/6/12 15:30-17:30とした.試. 人が入れるかなどを判断して,個人行動や駅の状態を. 合は通常の試合時間とした.. 更新する.. ・対象エリア:大阪市とその周辺の市町村を対象エリアと. 駅の状態には,ホームの中で電車を待っている待ち. し,対象エリア外の交通行動は考慮しないものとする.. 人数,ホームに入りきらないときに駅外で待っている人. ・イベント参加人数:長居陸上競技場の最大収容人数. 数などの情報があり,一人一人について待ち時間を求. である50,000人とした.. めることができるため,駅の施設評価を行うことができる.. ・鉄道データ:大阪市内を通過するJR,私鉄,地下鉄を. 車両については,通常のダイヤの他にイベント時の臨. 中心に取り上げている.ネットワークデータに含まれる情.
(4) 報は駅間の所要時間のみで,料金については考慮して. まり差が見られない結果となった.最大待ち時間につい. いない.また,他路線への乗り継ぎについては,乗り継. ては,誘導無しのほうが2倍以上長くなるという結果とな. ぎ可能な駅間にダミーリンクを設け,平均的な徒歩時間. り,全体的には誘導を行う効果が見られるという結果と. を与えている.. なった.. 誘導無し. ・駅データ:会場へのアクセス駅は,会場のある長居公. サブイベント 30分. 園周辺の7つの駅を設定し,それぞれの駅から会場まで 140. 16000. 120. 14000 12000. 待ち時間(min). 100. 10000. 80. 8000 60. 人数. いくつかの経路を用意した.. 6000. 40. 4000. 20. 2000 0 19 :40. 19 :30. 19 :20. 19 :10. 19 :00. 18 :50. 18 :40. 18 :30. 18 :20. 18 :10. 18 :00. 17 :50. 17 :40. 0. 会場退場時刻 人数 最大待ち時間 平均待ち時間. 誘導あり. 最小待ち時間. サブイベント 30分 140. 16000. 120. 14000 12000 10000. 80. 8000 60. 人数. 待ち時間(min). 100. 6000. 40. 4000. 20. 2000 0 19 :4 0. 19 :3 0. 19 :2 0. 19 :1 0. 19 :0 0. 18 :5 0. 18 :4 0. 18 :3 0. 18 :2 0. 18 :1 0. 18 :0 0. 17 :4. 0 17 :5 0. 0. 会場退場時刻. 図4 誘導有り無しの比較 会場 図3 個人行動シミュレーションの結果 (上図:試合3時間前,下図:試合1時間前). (上図:誘導有り,下図:誘導無し) 参考文献 [1]朝倉康夫,羽藤英二,大藤武彦,田名部淳(2000) PHS による 位置情報を用いた交通行動調査手法. 土木学会論文集,. (2)シミュレーション結果. No.653 /IV-48, pp.95-104.. 個人行動シミュレーション結果をGIS上にプロットした. [2]朝倉康夫・羽藤英二(2001)特定地区に集中する交通需要の. ものを図3に示す.赤く丸い点が観客を表している.試. 適正化・分散方策~移動体通信による位置データの利用可能性. 合開始が近づき会場周辺に集まっている様子がわかる.. ~.土木学会第 37 回土木計画学シンポジウム.pp.263-270.. 駅シミュレーションを用いて駅誘導を行う効果を調べ. [3]藤井聡(2001) Micro-Simulation モデルシステムの概要(16 章. た.図4は全アクセス駅の利用客数とその駅での乗車待. 1 節).交通行動の分析とモデリング(北村隆一,森川高行編著),. ち時間を示したものである.ここでの乗車待ち時間とは,. 技報堂出版.. 会場を退場し始めた時刻(席を離れた時刻)から駅で車. [4]羽藤英二,朝倉康夫,喜村祐二(1999)移動体通信システムを. 両に乗り込むまでの時間差を表している.なお,このケ. 用いた大規模イベント時の交通行動分析.土木計画学研究・講. ースはサブイベントを30分行ったときのものである.. 演集 No.22(1), pp.409-412.. 待ち時間について見てみると,平均待ち時間ではあ.
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