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Title 自動車産業におけるモデルベース開発(MBD)のイノベー
ション : どのような知識共有をすべきなのか
Author(s) 加藤, 敦宣
Citation 年次学術大会講演要旨集, 36: 543-546
Issue Date 2021-10-30 Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/17898
Rights
本著作物は研究・イノベーション学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with
permission of the Japan Society for Research Policy and Innovation Management.
Description 一般講演要旨
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自動車産業におけるモデルベース開発(MBD)のイノベーション
-どのような知識共有をすべきなのか-
○加藤敦宣(成城大学)
1.はじめに
自動車産業ではデジタルベースのものづくり、
すなわちモデルベース開発(MBD)に急速に移行 している。完成車メーカー(OEM)では既にMBD を用いた新車開発が導入済みであり、次世代自動 車と呼ばれるPHV、EV、FCV、CDVといった車 種が、これを利用して開発されている。それらの 活動をサポートする自動車部品メーカー各社で も、MBDの導入がこの10年弱の間に、OEMメ ーカーと歩みを共にする形で進められてきてい るが、モデルベース開発を活用する人材の育成や 組織体制の整備などが、依然として課題となって いる。自動車部品メーカーではトップマネジメン ト主導の下、従来のイノベーションモデルから脱 却を目指して、デジタルベースの新しいクルマ作 りに対応した開発組織を整備し、新たなイノベー ションモデルの構築に努めているところである。
そこで自動車産業の研究開発プロセスにおいて、
トップマネジメントによる知識共有が、イノベー ションに果たす役割について考察する。
2.先行研究のレビューと本稿の論点
トップマネジメントがイノベーションに与え る影響は、経営戦略論の領域において重要なトピ ックとされている。「両利きの経営」で知られる Tushman[2008]らは、新規事業のイノベーショ ンを成功させるには、既存事業の組織と新規事業 の組織を明確に切り分けつつも、新規事業と既存 事業の連結環として、知識共有の橋渡しをするト ップマネジメントの重要性を指摘している。
また、トップマネジメントの多様性(例えば、
属性など)に着目するイノベーション研究も多い。
トップマネジメントの多様性が高まると、企業組 織に情報の多様性をもたらすため、イノベーショ ン の 創 出 に ポ ジ テ ィ ブ に 働 く と さ れ る ( Østergaard et al.[2011])。企業組織を「認 知能力の束」とする考え方では、トップマネジメ ント全体としてのリーチが広がるために、イノベ ーションが生まれやすくなるとされており、この ような考え方とも一定の整合性を見出すことが できる(Cho & Hambrick[2006])。
他方で、トップマネジメントの多様性が、イノ ベーションにネガティブな効果をもたらすとい う研究結果もある。こちらの研究ではトップマネ ジメントの多様性(例えば、言語など)が、逆に 知識共有の低下などのコストを生み出し、結果的 に イ ノ ベ ーシ ョ ン の 創出 を 阻 害 する と さ れ る
(Faems & Subramanian[2013])。トップマネ ジメントの多様性を高めて行くことは、コーポレ ートガバナンスコードの定めにより既に時代の 要請であるが(東京証券取引所[2021])、その展 開方法やポイントにおいては、未だ議論の余地が 存在する。
そこで本稿では自動車部品産業に特徴的なト ップマネジメントである、OEM メーカーからの 出 向 役 員 に着 目 す る 。自 動 車 部 品メ ー カ ー と OEM メーカーとのゲートキーパー的な存在でも ある彼らが、イノベーションの創出にどのように 関与しているのかについて考察を行う。また、同 じトップマネジメントの比較対象として、生え抜 きの研究開発トップにも着目したい。こちらは自 動車部品メーカーの中で長年勤め上げた人物で、
研究組織のカルチャーを体現する存在でもある。
タイプの異なるトップマネジメントを比較考察 することで、その違いを明示していく。
3.データの収集方法と分析方法
日本国内の自動車部品メーカー500 社を対象と して、質問紙郵送方式によるアンケート調査を実 施した。調査対象企業は日本自動車部品工業会に 加盟する企業を中心とする 500 社で、調査期間は 2021 年 3 月 18 日~同年 3 月 31 日までの 2 週間と した。アンケートの回答は、研究開発を統括する 立場にある取締役・執行役員、研究開発本部長、
事業本部長などの役職者に依頼をした。このうち アンケートにご回答頂いた企業は 78 社で、アン ケート回収率に換算すると 15.6%であった。
また、分析方法は分散分析によりデータを 2 群 に分けて考察する。独立変数は、出向役員の 1.
あり・2.なし、もしくは生え抜きの研究開発トッ プの 1.あり・2.なしである。分散分析の有意水 準は 5%とし、等分散検定もクリアしたものを掲
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載している。
4.出向役員の戦略的な役割
自動車部品メーカーでは関係の深いOEMメー カーから、出向役員を迎え入れることが多い。完 成車メーカーと自動車部品メーカーとの連結環 としての役割を果たしている。出向役員のいる企 業では、そうではない企業と比べると、完成車メ ーカーとの連携に強みを持つ傾向が分析からも 確認された(N=75,F=13.264,P=0.000)。
ただし、大変興味深いことにこの出向役員が、
OEM メーカーサイドに立つかというと、決して そのようなことはない。出向役員のいる自動車部 品メーカーでは、OEM メーカーに対して、製品 の価格交渉力が強くなる傾向が支持された。より 具体的には、出向役員のいる企業では、導入した MBD をツールとして、価格交渉力の強化に繋が るとする傾向が高い。MBD を活用することでコ スト競争力を高め、最終的に利益を生み出すツー ルとして有効活用している企業状況が、分析結果 より窺われる。(N=77,F=4.149,P=0.045)。
さて、では実際にMBDの導入は、マネジメン ト上、どのような効果が認められるのであろうか。
それについて考察したのが以下の分析である。
まず、設計変更が減少する、という効果が認め られた。これは業界では手戻りとか、設変と呼ば れる事象で、開発プロセスや量産プロセスで支障 が生じて、前工程に設計のやり直しを求めるもの である。開発遅延と開発コストの上昇もたらすた
め、自動車部品メーカーでは厳しく忌避されてい る。MBDの場合、先行開発、開発、量産の各フェ イズの人材が一同に会するため、集合知を生み出 しやすい環境が作られる。その結果として、より 多くのチェックが働き、設計変更が起こりにくく なるものと考えられる(N=69,F=6.080,P=0.016)。
実際にMBDの導入により、先行開発段階・開 発段階の重要性がより高まるとする分析結果も 出ている(N=70,F=5.276,P=0.025)。先行開発と いうのは、OEM メーカーの試作提案依頼を受け て、試作モデルを開発していくプロセスであり、
開発段階というのは、OEM メーカーから新車開 発を受注し、量産化を進めていくプロセスとなる。
今日の新車開発ではグローバル・モデルであるこ とが多く、海外工場で量産展開するときに、問題 が発覚することも決して少なくない。MBD では 先行開発段階でより多くの開発知識を結集する ことにより、作り込みの完成度を上げることが可 能となる。
また、その効果の帰結として、開発コストの低 下が期待できるのだと考えられる。出向役員のい る企業では、MBD の導入により開発コストの低 下が期待される一方で、出向役員のいない企業で はMBDの導入による開発コスト低下の恩恵を十 分に得られていない。OEM メーカーでブラッシ ュアップされているシステムを導入するに当た っては、やはり、OEM メーカーの中核的な人材 を招き入れることが、より有効なシステム開発を 成功させていく上で、肝要であるものと考えられ る(N=69,F=4.687,P=0.034)。
5.生え抜きの研究開発トップの役割
OEM メーカーとの連携をもたらす出向役員に 対置する関係にあるのが、自社で長年活躍してき た生え抜きの研究開発トップである。今回、20年 以上の長期スパンで研究開発部門を管理・統括し てきた人材を、アンケートでは生え抜きの研究開 発トップと定義した。
生え抜きの研究開発トップの注目すべき役割 は、研究開発組織の連携を強化する点にある。生 え抜きの研究開発トップがいる企業では、開発部 門と生産部門との連携において、自社の強みを見 出す傾向が強くなることが挙げられる。生え抜き の研究開発トップが研究開発人材の人的交流、協 力体制、価値観の共有など、ソフト面で大きく寄 与 し て い る 可 能 性 が あ る
(N=76,F=6.302,P=0.014)。
生え抜きの研究開発トップのいる企業では、研 究開発人材同士が仲間とよく話し合う傾向が見 られ(N=76,F=5.540,P=0.022)、技術の限界に挑 戦する姿勢(N=76,F=6.238,P=0.015)や新たな発 見に喜びを見出す傾向(N=76,F=6.175,P=0.015) も強くなる。Edmondson[2019]は知識集約型組 織においては心理的安全性が大切であり、学習や イノベーション、成長をもたらす因子であること を指摘しているが、これらの分析結果はこの学説 とも整合性を持つものと考えられる。研究開発組 織の多様性はイノベーションの源泉たり得るが、
他方で軋轢や摩擦も生む原因にもなる。後者の問 題を解決する方法として心理的安全性が大事に なる訳であるが、自動車部品メーカーにおいてこ
れを生み出す役割を果たしているのが、生え抜き の研究開発トップであることが示唆される。
また、研究開発人材の動機づけにおいても、大 変興味深い結果が得られた。生え抜きの研究開発 トップのいる企業の研究開発人材では、そのよう な研究開発トップのいない企業と比べ、自己の成 長に重きを置く傾向(N=76,F=4.945,P=0.029)や、
世 の 中 に 貢 献 す る こ と に 喜 び を 見 出 す 傾 向
(N=76,F=9.978,P=0.002)が強くなることが、統 計的にも支持された。これらは自己実現欲求や内 発的動機づけなどに分類されるモチベーション であり、これらもイノベーションをもたらす因子 として重要であることが知られている。
実際、OEM メーカーから新車開発依頼として 届く試作提案依頼件数で比較をしてみると、生え 抜きの研究開発トップがいる企業では年間 37.2 件の依頼があるのに対して、生え抜きの研究開発 トップのいない企業では年間 18.7 件の依頼しか 届いていない(N=,F=4.445,P=0.040)。心理的安 全性のもと、研究開発人材が内発的動機づけに駆 られ、優れた研究成果を生み出していることが推
察される。
なお、これらの分析で用いられた従属変数につ いて、先に挙げた出向役員の有無を独立変数とし て再度分析を行ってみたが、統計的な有意差は認 められなかった。このことから出向役員と生え抜 きの研究開発トップの果たしている役割は、研究 開発組織の中において明瞭に異なるとも考えら れる。
6.まとめ
自動車部品メーカーのイノベーションにおい て、出向役員と生え抜きの研究開発トップの果た す役割について考察を行った。MBD のような新 しいシステムを導入する際には、既に先行導入し ているOEMメーカーからの出向役員が、重要な 役割を果たしていることが示唆された。MBD の 持つ効率性や有効性を発揮する上で必要なマネ ジメントやノウハウなどをもたらすゲートキー パーの役割を果たしているものと考えられる。先
に挙げたTushmanらに準えるならば、自動車部
品メーカーで「知の探索」のキーマンは、出向役 員ということになるだろう。
他方で、自動車部品メーカーの研究開発人材を 動機付けているのは、生え抜きの研究開発トップ であることが示唆された。研究開発人材同士の一 体感や仲間意識、話し合いや挑戦意欲といった学 習や成長、イノベーションに必要な心理的安全性 をもたらす「知のゆりかご」のような役割を果た している可能性が高い。こちらもTushmanらに 準えるならば、自動車部品メーカーで「知の深化」
のキーマンは、生え抜きの研究開発トップという ことになるだろう。実際の研究成果・開発成果に 結びつく影響力を持っているのは、生え抜きの研
究開発トップというのも非常に興味深い。MBD のような新システムの導入と組織変革には、出向 役員の能力が鍵となり、研究開発組織のイノベー ションを促進するには生え抜きの研究開発トッ プ の 持 つ 能 力 が 鍵 と な る 可 能 性 が あ る (cf.
Schubert & Tavassoli[2020])。
ただし、引き続き課題も残っている。今回は定 量分析により得られた知見であるため、それ以上 のことは未だ十分に解明されてはいない。出向役 員や生え抜きの研究開発トップが、定性的にどの ような動きをしているのか、より具体的に抽出す る必要がある。コロナ禍のためインタビュー調査 がままならなかったこともあり、これらの課題に ついては今後の調査に加え、考察を更に深めて行 きたい。
7.参考文献
Cho, T. S. & Hambrick, D. C.[2006] “Attention as the Mediator Between Top Management Team Characteristics and Strategic Change:
The Case of Airline Deregulation,”
Organization Science, 17, pp.417-526.
Edmondson, A. C. [ 2019 ] The Fearless Organization Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth, John Wiley & Sons.
Faems, D. & Subramanian, A. M. [2013]
“R&D Manpower and Technological Performance: The Impact of Demographic and Task-related Diversity,” Research Policy, 42, pp.1624-1633.
O’Reilly, C.A. & Tushman M.L. [ 2008 ]
“Ambidexterity as a Dynamic Capability:
Resolving the Innovator’s Dilemma, ” Research in Organization Behavior, 28, pp.185-206.
Østergaard, C.R., Timmermans, B., &
Kristinsson, K. [ 2011] “Does a different view create something new? The effect of employee diversity on innovation. ”Research Policy, 40, pp500-509.
Schubert, T. & Tavassoli, S.[2020] “Product Innovation and Educational Diversity in the Top and Middle Management Teams, ” Academy of Management Journal, 63 (1), pp. 272-294.
東京証券取引所[2021]「コーポレートガバナン ス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な 企業価値の向上のために~」東京証券取引所.