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理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価 に関する研究

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理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価 に関する研究

Study on cutting characteristic and quantitative evaluation of sharpness for hair-cutting scissors

2006 年 2 月

早稲田大学大学院理工学研究科 機械工学専攻 金属加工工学研究

井上 研司

(2)

使用記号一覧

意味 記号

1 切断時のクリアランス C

2 切断時のクリアランスの最大値 Cmax

3 鋏の隙間の最大値

4 切断時の柄の振幅 D

5 切断時の柄の振幅の最大値 Dmax

6 ナイロン糸の直径 dn

7 隙間の大きさ方向への対称軸からの距離 ds

8 被切断物の伸び E

9 被切断物を長手方向に引張る力

10 鋏の開閉荷重 F

11 刃線上の交点での摩擦抵抗 f1

12 刃線上の交点での触点に垂直方向の力 f1

13 触点での摩擦抵抗 f2

14 触点での触点に垂直方向の力 f2

15 動刃の重さによる抵抗の回転方向成分 f3

16 動刃の重さによる抵抗 f3

17 切断荷重の最大値 fc

18 刃先端が被切断物に進入しようとする力 fc'

19 ある瞬間での切断荷重 fcm

20 刃先端が被切断物を圧縮する力 fo

21 切断時に被切断物から刃先端に加わる反力 R

22 1Nの力が加わった時の刃部の変形量 G

23 重力加速度 g

24 ねじから力点までの距離 L

25 ねじから刃線上の交点までの距離 l1

26 ねじから触点までの距離 l2

27 ねじから動刃の重心までの距離 l3

28 刃先端から加わる偶力間の距離 Lf

29 触点から刃先方向への距離 lp

30 刃先端から加わる偶力によって被切断物に生じるモーメント m

31 動刃の重さ M

32 切れ味試験機の測定荷重 P

33 切れ味試験機の測定荷重の最大値 Pmax

34 空切り時の開閉荷重の最大値 Pn

35 刃先端R R

36 刃先端の長手方向中心線平均粗さ Ra

37 枝毛の発生率 Rd

38 被切断物の切断面の非平滑部面積比 Rr

39 刃先端の長手方向最大高さ粗さ Rz

40 鋏の開閉速度

41 発生する摩耗粉の大きさ Sp

42 刃先端が被切断物を圧縮する量 St

43 官能試験の評価値 Stv

44 切断位置での切断の瞬間の刃先端の変位 Tb

45 切断時間 tc

46 ピンオンディスク試験時の摩耗体積 Vw

47 鋏の柄の開き角 α

48 刃角度 γ

49 被切断物の長手方向軸に垂直な面に対する非平滑面の角度 η

50 挟み角 θ

51 摩擦係数 μ

52 被切断物の引張強さ σ

(3)

理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価に関する研究

1.序論 4

1.1 はじめに 4

1.2 概要 5

1.2.1 日本における理美容鋏の歴史 5

1) 緒言 5

2) 全鋼と着鋼 5

3) ステンレス鋼製鋏 6

4) コバルト基合金製鋏 6

1.2.2 理美容鋏の各部の名称 7

1.2.3現在使用されている理美容鋏の種類 10

1) 柄部の形状による分類 10

a. シンメトリ(メガネ)型 10

b. オフセット型 11

c. セミオフセット型 11

2) サイズ 12

3) 材質 12

a. 刃材 12

b. 柄材 13

4) スキ鋏 13

1.3 従来の研究 14

1.3.1 利器の切れ味研究の歴史的な流れ 14

1.3.2 鋏に関する研究 15

1.3.3 包丁に関する研究 16

1.3.4 その他の研究 16

1.3.5 毛髪に関する研究 16

1.3.6 従来の研究と本研究との相違点 17

1.4 研究目的 18

2.刃先端の状態の定量的測定 20

2.1 緒言 20

2.2 測定装置及び測定方法 21

2.2.1 刃先端長手方向粗さ 21

2.2.2 刃先端断面形状 25

(4)

2.3 結言 27

3.切断荷重に関する研究 28

3.1 緒言 28

3.2 自作した試験機の性能試験 30

3.3 刃部の形状を変化させたときの切断荷重への影響調査 32

3.3.1 空切り荷重の影響 35

3.3.2 刃角度の影響 39

3.3.3 毛髪切断面の状態および理論切断荷重と実測値との比較 42

3.3.4 刃先端Rの影響 44

3.3.5 刃先端長手方向粗さRzの影響 46

3.4 切断位置を変化させたときの切断荷重への影響調査 49

3.5 結言 58

4.切る感触に関する研究 60

4.1 緒言 60

4.2 現役理容師に対する官能試験と切断荷重試験との比較 61

4.3 異なる形状の鋏を用いた実験 65

4.4 さまざまな条件での切断荷重と振動の最大振幅 72

4.5 結言 75

5.空切り開閉荷重に関する研究 77

5.1 緒言 77

5.2 空切り開閉荷重の測定 78

5.3 結言 87

6.刃先端Rの毛髪の健康におよぼす影響に関する研究 88

6.1 緒言 88

6.2 テスト材料の物性 89

6.3 種々の切断方法での切断面比較 90

6.4 理美容鋏の各種パラメータと切断面 92

6.5 傷んだ切断面の実生活での変化 96

6.6 結言 98

7.刃先端の耐久性に関する研究 100

7.1 緒言 100

(5)

7.2 実使用時の刃先端の状況変化 101

7.3 耐久性を向上するために刃先端に求められる要素 104

7.3.1 刃先端長手方向粗さRz 107

7.3.2 刃先端長手方向粗さRa 110

7.3.3 刃先端R 114

7.4 結言 116

8.結論 118

8.1 切断荷重について 118

8.2 切る感触について 119

8.3 空切り開閉荷重について 119

8.4 刃先端Rの毛髪の健康におよぼす影響について 119

8.5 刃先端の耐久性について 120

9.今後の展望 121

謝辞 123

参考文献 124

研究業績 131

(6)

第一章 序論

1.1 はじめに

鋏の歴史をさかのぼると,その起源は紀元前にまでおよぶ.具体的には,B.C.1300~600 頃のバビロニアの文献や旧約聖書に羊毛を切る道具として歴史上初めて鋏が登場する.

遺物として現存するのは B.C.1000頃からの鋏となる.それらは主に鉄製で,現在我々が

「握り鋏」とか「和鋏」(Fig. 1.1)などとよんで裁縫のときに糸を切る用途に用いる,U字型 でバネの力により開閉するタイプの鋏とほぼ同じ形の鋏であった.これらは主に羊毛を切 ることに使われていたようであるが,毛髪等の切断にも使用されたようである.

Fig. 1.1 Grasp scissors

これに対して「洋鋏」タイプの鋏,つまり二枚の刃材の中心をねじやリベットによって 連結して使用するタイプの鋏は,B.C.27 のローマ帝政時代の鋏が世界最古の鋏とされてい る.理美容鋏はこちらのタイプに分類される1)

以上のように,2000 年以上の長い歴史を持つ鋏であるが,その形状は発明当時からほと んど変化していない.もちろん,それぞれの用途によって使いやすいようにさまざまな形 状に分化されて来てはいるが,基本的なシンプルさはほとんど変化していない.このよう に,鋏は長い年月の間,生活の中に当然そうあるべき品物としてシンプルな同じ形状のま ま存在してきている,ある意味,完成された道具であるといえる.

このように鋏は我々の日常生活に溶け込んでいるのにもかかわらず,これに関する研究 は驚くほど少なく,切断の詳細な機構に関して調査した研究に至ってはこれまでには見る ことができない.

本論文の第二章での測定結果から,理美容鋏の刃先端は,刃付け(研摩)直後の未使用の段

階で0.5μm程度の半径で構成されていることが知られているが,工業的には手動で使用す

る刃物以外に,このような極端に鋭利な先端によって切断する工具はほとんど見られない.

機械は通常,連続的に安定して稼動することが求められるため,劣化の激しい鋭利な刃先 を持つ刃物は敬遠される傾向にあり,できるだけ強じんな刃を利用して機械の剛性やパワ で力強く加工することを考えるのが通常である.このために極端に鋭利な刃物で加工した

(7)

場合の現象について,あまり研究がされていない.

以上のようなことを踏まえて,鋏の持つ各パラメータが切断にどのように影響をおよぼ すのかを調査し,鋏の切れ味とよばれるものを定量的に把握し,鋏の評価方法を検討して ゆく.

1.2 概要

1.2.1 日本における理美容鋏の歴史2)

1) 緒言

日本における理美容鋏の歴史は,明治 4 年(1871)の断髪令発布に始まる.それに続い て国内で初めて理容鋏が作製されたのは明治10年(1877)のこととされる3

以下,理美容鋏の刃に用いられる素材の観点からその変化を見てみる.

2) 全鋼と着鋼

明治・大正時代の理容鋏は柔らかな地金の上に硬い鋼をはり付けた「着鋼」製であった.

これに対して,海外から輸入される医療用のせん刀(鋏)はその全てが全体を鋼で製作した

「全鋼」製の鋏であったという.その頃,一部の医療機器メーカにおいて医療用せん刀の 経験を生かし日本で初めて全鋼製の理容鋏が製造されたのをきっかけに,全鋼製の鋏は着 鋼製品と比較して価格の高い高級品として定着してゆく.

もちろん日本刀の製造技術に端を発するともいわれる着鋼の技術(硬度の高い鋼をじん 性の高い地金で補強することにより両方の素材の利点を生かすことができる)は当時の日 本の刃物製造技術の高さを示すものである.したがって全鋼との品質的な良し悪しについ てはいろいろな議論があると思われる.しかしここで全鋼の鋏が着目された理由には別の 点が挙げられる.

鋏の鋭利な刃先端に発生するさびは切れ味の変化に大きく影響する.これはどのように 念入りにていねいに手入れをしたとしてもすぐに再研磨を必要とするたぐいの品物である.

これに理容師の「切れ味良く鋏を使いたい」という職人気質が合わさり,理容師たちは,

当時はほぼ毎日のように鋏を研いで使用していた.一人前になるには一斗缶一つ鋏を研が なければならないといわれた時代である.こういった環境では,研摩により地金が出るま でしか使えない着鋼の鋏に対して,鋏自体が無くなるまで使うことのできる全鋼製の鋏は,

当時の日本人のものを大切にする心と一致して理容師たちに大いに喜ばれたとされる.

また現実的には着鋼鋏の場合,地金と鋼を合わせるさいの作業を容易にするため温度を 必要以上に上げて作業する職人もいたようである.そのため脱炭が進み実際の商品として は硬度の低すぎる鋏も出回っていたようである.こういった鋏は隙間の狂いも激しく,摩 耗も早いので寿命も極端に短かったようである.

その後,戦争の時代を経て昭和30年(1955)に発売された全鋼製の AAA-30(Fig. 1.2)は 大ベストセラとなり,昭和30~57年(1955-1982)までの27年間販売が継続され,同一モ デルの理容鋏の出荷数としては歴史的に見て国内最大であったとされている.

(8)

Fig. 1.2 AAA-30 barber scissors

しかし全鋼にしろ着鋼にしろ「さび」という問題に対しては根本的にメンテナンス性の 悪さという同じ問題を抱えていることに変わりは無かった.日常のメンテナンスからでき るだけ解放されたいというニーズがその後,1980 年代になり炭素鋼製鋏を市場から追い出 すことになる.

3) ステンレス鋼製鋏

この炭素鋼製鋏に取ってかわったのがステンレス鋼(主にマルテンサイト系の SUS440C が使用される)製鋏である.現在では実際製造されている理美容鋏の 90%以上はステンレ ス鋼製となっている(他は後述するコバルト基合金製で炭素鋼製の鋏は現在作られていな い).

ステンレス鋼製の鋏に関しては大正11年(1922)に平和記念東京博覧会に医療用せん刀 としてサンプルが出品され銀杯を受けたという記録がある.そしてその後,世界で最初の 製品(医療用せん刀)が日本で製造されている.

この後,戦争の時代を経て1960年代からステンレス鋼製の鋏の生産量が増加し,現在で は炭素鋼製の鋏を見ることはできない.

4) コバルト基合金製鋏

次に説明すべきはコバルト基合金(参考のためにステンレス鋼と合わせて化学成分を

Table 1.1に示す)製の鋏である.このことについて考えるためにはまず日本製鋏の海外進出

について書いておく必要がある.

Table 1.1 Chemical compositions of scissors (mass%)

Material C Si Mn P S Ni Cr W Co

Stanless steel SUS440C 3.50~3.54 <3.16 <0.99 <0.16 <0.11 - 16.38~18.42 - - Cobalt base alloy Stelite#1 8.59~8.80 <6.72 <1.05 - - <1.76 26.89~34.06 4.29~5.44 Bal.

Cobalt base alloy Stelite#12 4.85~4.96 <6.77 <1.06 - - <1.77 28.06~35.54 2.88~3.65 Bal.

昭和50年(1975)頃から日本の鋏は海外へ広がってゆく.世界的に見ると当時の市場は ドイツ・ゾーリンゲン製品一辺倒の時代であった.その中で一部のメーカがアメリカに輸 出を開始し,さらにヨーロッパへと市場を広げた.こういったことが可能だった背景には,

同時にこの時代が,日本人の優秀な美容師たちが海外へ展開して行った時代であったこと

(9)

が挙げられる.当時,海外の有名な美容学校に,現在の日本の美容界を作り上げた多くの 美容師たちが留学していた.そして,その日本人美容師たちの手によって持ち込まれた日 本製の鋏が,海外の指導者たちの指に触れ,その品質の高さが口コミで外国人美容師たち の間に広がっていった時代だったのである.

現在でも海外市場では日本製品の評価は高く,ドイツ製品よりも品質的には上位にラン ク付けされている.当然,価格的にも高価格になるが,特にヨーロッパには高価格でも品 質を見極めた上で良い品物を購入しようという伝統があり,日本製の鋏は非常に人気があ る.

こういった流れの中で,ブラントカット(切断面を毛髪の芯に対して垂直にカットする 方法のことで,これにより毛先が安定しヘアスタイルが安定する)の第一人者であったヴ ィダル・サッスーン氏や,ニューヨークドライカット(毛髪を乾いた状態でカットしヘア スタイルを造る方法.ブラントカットがパネルとよばれる面の組み合わせでヘアスタイル を造ってゆくのに対してドライカットでは点の集まりでヘアスタイルを創造する.そのた め頭がい骨の微妙な形状やくせのある毛流などにも対応できる.最近では髪の毛を乾燥さ せた状態でのカット全てをドライカットとよぶため,特にニューヨークドライカットとよ んで区別することがある)の創始者であるジョン・サハグ氏などが過去においては日本製 の鋏のユーザであった.

特にドライカットにおいては点の集合でヘアスタイルを作るため鋏の開閉回数が極端に 多く(ヘアショウ向けのスタイルでは現実に数十時間をカットに費やす),鋏には高い耐磨耗 性が要求される.そういったニーズから,昭和52年(1977)にコバルト基合金製の鋏が世 界で初めて製造され現在でも使用されている.

この他にはセラミックス製・超硬合金製の鋏などを市場で見たことがあるが,どれも一 時的な商品で新たな素材として定着してはいない.

このように理美容鋏では日本は明治維新後の後発国であったが,新しい素材の利用など で先駆的な役割を果たし,現在では世界的に最高水準の存在となっている.

1.2.2 理美容鋏の各部の名称

ここでは理美容鋏について説明してゆくにあたって必要と思われる鋏各部の名称につい て整理する.ただし名称に関しては統一した規格もなくメーカ各社がそれぞれに使用して いる名称が市場で雑多に使用されている状況であるので,以降の説明はあくまでも一般的 な名称に過ぎない.

まずFig. 1.3から,鋏の刃渡り先端を刃先とよぶ,またねじに近い側を刃元とよぶ.刃元

から刃先にかけての刃先端部の連なりを刃線とよぶ.この刃線は通常,半径=350~1000mm 程度の円の一部となっている.第二章にて測定方法を説明する,刃先端長手方向粗さとは この部分の粗さを測定した結果である.二つの鋏体の刃線同士の交点と刃線の接線との作 る角を挟み角とよぶ.この角度が実際に鋏が被切断物を挟み込む角度になる.これとは別

(10)

に,鋏の開き度合いを示すために開き角を使用する.刃線に対してねじを挟んだ反対側に 触点がある.二つの鋏体はこの触点と刃線上の交点においてのみ互いに接している.また 特に理美容鋏では,親指を入れて開閉する方の鋏体を動刃,薬指を入れて固定したまま使 う鋏体を静刃とよぶ.この動刃・静刃の呼称法は前記の通り使用方法に根ざした呼称であ るので,用途によっては静刃と動刃とが逆になる場合がある.その典型的な例が布を切断 するさいに使用する裁ち鋏(ラシャ切り鋏)である.裁ち鋏の場合には,作業台上を滑らせな がら親指でない側の鋏体を開閉させて切断するために親指側が静刃,その対になる側が動 刃になる.全体的には触点よりも刃先側を刃部,柄側を柄部(ハンドル)とよぶ.

Screw

Edge line

Pivot point Cutting

angle

Tip of the blade Bottom of the blade

Still blade

lade Moving b

Opening angle Handle part Blade part

Fig. 1.3 Name of the scissors each part (blade and handle I)

加えてFig. 1.4の刃部では,閉じた状態で外側に露出する面を刃面,内側に隠れる面を裏 すき面,切れ刃の先端を刃先端,この反対側の厚い部分を峰とよぶ.柄側では,指を入れ る穴を指穴,小指を置く部分を小指掛け(しょうしかけ),ハンドルの間にある通常ゴム性の 緩衝材をストッパとよぶ.

Tip of the edge

Hollow grinding surface Finger rest

urface ole Blade s

Finger h

Stopper A(Fig.

A

Back of blade

Fig. 1.4 Name of the scissors each part (blade and handle II)

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Fig. 1.5には刃断面とその部分に関する名称を並べる.刃先端のなす傾斜角を刃角度とい う.また,刃先端部は厳密には微小な円弧の一部になっているのでこの部分を刃先端半径(刃

先端R)とよぶ.

Section A-A (Fig. 1.4) Edge angle γ

Edge Radius R Section of blade

Section A-A (Fig. 1.4) Edge angle γ

Edge Radius R Section of blade

Fig. 1.5 Name of the scissors each part (section of blade)

理美容鋏の刃線は触点の面と平行な方向から見た場合にも一つの大きな円の一部となっ ている.Fig. 1.6にその様子を示す.直線Sは触点面と刃先での刃先端を結ぶ線であるが,

この直線に対して刃線は図に示すように下に凹な形状をしている.この形状が円の一部で あり刃線の長さにもよるが,通常 10~30m 程度の半径の円の一部である.品質保証上は図 中のd寸法,つまり鋏体を分離した状態でのd寸法の最大値で管理され,この寸法を隙間 とよぶ.

Tip of the blade Bottom of the blade Screw d

S

Fig. 1.6 Name of the scissors each part (Arched space of the edge)

1.2.3 現在使用されている理美容鋏の種類

これまで理美容鋏は大別すると,理容鋏・美容鋏の2種類に分けられてきた.しかし主 に美容業界におけるカット技法の多様化からこういった分類も現在では意味を失いつつあ る.そこで今回は形状や材質などのさまざまな切り口から鋏を分類してみることにする.

1) 柄部の形状による分類

柄の形状の分類について考える前に,理美容鋏の持ち方について説明する.一部異なる 使用法をする技法もあるが一般的には以下のようになる.

まず薬指を静刃の指穴におよそ第1関節と第2関節との中間くらいまで挿入する.人差

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し指・薬指は静刃の柄に軽く沿え,小指は指穴からねじの反対方向に突き出した小指掛け に乗せる.動刃の指穴には親指を軽く入れる.

この持ち方が基本となり,それに合わせてさまざまな柄部の形状がデザインされている.

a. シンメトリ(メガネ)型

Fig. 1.7に示すように柄部が,刃先→ねじの中心を通る線に対して対称形になっている(指

穴間にあるストッパが同一線上に位置する)タイプを指す.指穴の位置関係がメガネの形 状に見えるのでメガネ型ともよばれる.先に書いたブラントカットでカットするさいの基 本的な形状で手首の方向を変えても刃先が常に一定の方向に向くために,チョップカット

(毛髪に対して鋏を縦方向に入れてカットする方法で毛先をギザギザにカットする.毛先 の動きを軽く自然にするために実施する)やストロークカット(毛髪の軸方向に鋏を動か しながら施すカット技法で,軽いタッチの質感に仕上げる)などさまざまな技法に対応で きる.

Fig. 1.7 Symmetric handle

b. オフセット型

オフセット型はFig. 1.8に示すように柄部が,刃先→ねじの中心を通る線上からオフセッ トしたタイプのハンドルのことを指す.このハンドルの利点は使用時に使用者のひじの位 置が低く保たれるところにある.理美容師にとって腕の関節の疾病は深刻な職業病である.

特に経歴を重ねるにしたがい関節炎を患う人も多く,より快適に作業ができるような鋏の 形状が求められるなかでオフセットハンドルは発展してきたといえる.しかしこの形状の 場合には先のシンメトリのように鋏を返して使用するような場合に刃先の向きが変わって しまうために,かえって手首を返す量が大きくなってしまうことになり,さまざまなカッ ト技法には対応しにくいという難点もある.

(13)

Fig. 1.8 Offset handle

c. セミオフセット型

このタイプはFig. 1.9に示すようにシンメトリ型同様,ねじの中心→刃先を通る直線状に ストッパが位置するが,静刃・動刃の柄自体の形状は親指を挿入する動刃側がオフセット ハンドルのように短くなっているタイプである.シンメトリとオフセットとの中間的な位 置づけのハンドルで自然な指穴の位置でシンメトリに近い広い用途に使用できる.理容室 で使用される鋏のほとんどはこの形状に分類できる.

Fig. 1.9 Semi-Offset handle

2) サイズ

理美容鋏は小さな鋏で4インチ(約100mm)から大きな鋏で8インチ(約200mm)位 までがあるが,実際に使用されるのは 4.5~7.0 インチの範囲の鋏がほとんどである.この サイズ表示は刃先から小指掛けを除いた指穴先端までの長さを意味する.

理容鋏においては大体6.75~7.0インチ前後が主流で,これは世界的に見ても差は見られ ない.

美容鋏では,ヨーロッパでは4.5~5.0インチ,アメリカでは5.0~5.5,中国では6.0イン チ以上,日本国内では現在は 5.5~6.0 インチが主流というように人気のサイズはそれぞれ 異なる.例えばヨーロッパでは現在,先にも述べたサッスーンのブラントカットが技術の 主流にあるので,小さな鋏でカットする美容師が多い(これ以前には 6 インチ以上の鋏が 主流で,現在でもフランスではこの技術が受け継がれている).これに対して日本では,ブ

(14)

ラントカットを発展させる形で日本独自のさまざまなカット技法が提案されてきており,

そのような流れの中で鋏のサイズは大きい方向に変化してきている.

中国についてはまた別の事情がある.中国では他の国々と異なり美容師の大半を男性が 占めている.このことが大きく力強い鋏が求められる一因となり,サイズの大きな鋏が好 まれる.

また,全体のサイズだけでなくハンドルと刃との長さと重さのバランスも重要で,カッ ト技法あわせてさまざまな鋏が製造されている.

3) 材質 a) 刃材

1.2.1の繰り返しになるが,現在流通している理美容鋏の刃材の90%以上はステンレス鋼

製である.各素材メーカが製造する刃物用ステンレス鋼が使用されるが,基本的には

SUS440Cの改良型であると思われる.

硬度は各社の鋏を調べるとHVで650前後の仕上がり状態の商品がほとんどであるが,750 前後まで硬度を上げて使用しているメーカもある.硬度を下げれば加工時間を短縮するこ とが可能で,かつ製造の難易度を下げることができる.

これに対してコバルト基合金が一部使用されていることは先にも述べたが,使用される コバルト基合金材は,硬度がHVで600前後と低いが,耐摩耗性が高くドライカットのよう に毛髪を数本ずつ何度も繰り返して切るような技法には向いているとされる.(SUS440Cと コバルト基合金との成分表についてはTable 1.1 を参照)

b) 柄材

柄材に必要とされる特性は,複雑な形状を再現させるための成形性のよさと,デザイン の制約にならない程度の強度,そして金属アレルギのユーザのためにニッケルレス(0.1%

以下)であることである.

日本国内では現状問題になることは無いが,特にスカンジナビアでは金属アレルギの人 の割合が多く,大きな問題であると同時に販売する立場としては重要なセールスポイント になる.また,柄材表面にチタンの表面処理を施した鋏や,さらにゴムをコーティングし て手触り感を改善した鋏なども人気がある.

強度に関しては,一般的に国内メーカはSUS304材を使用しているようである.しかし輸 出を多く手がけるメーカでは,米国向け輸出品の過去の事例として,強度不足から握力に より柄が変形したという問題が発生したことがあるとのことで SUS304 は使用していない とのことである.

このように理美容鋏では刃材と柄材とに異なる素材を用い溶接して使用するのが一般的 である.溶接自体には特に困難な点は無いので機械化された工場ではロボットによる MIG 溶接等が一般的である.

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4) スキ鋏

理美容鋏には通常の刃のついたカット鋏と,片方(一部は両方)の刃がくし状になったスキ 鋏(Fig. 1.10)とがある.

Fig. 1.10 Thinning scissors

スキ鋏は最近ではその一回の開閉で切ることのできる毛髪の割合(カット率)で分類され る.従来からのスキ鋏ではそのカット率は 15~35%程度で主に頭髪全体のボリュームを調 整する用途や仕上げの髪の質感を調整する用途に使用されてきた.

近年,軽い感じ・自然な感じのヘアスタイルが強く求められるようになり,スキ鋏の多 様化が急速に進んだ.その結果,これまでに考えられてきたスキ鋏よりも極端にカット率 の低いスキ鋏や,逆にカット率の高いスキ鋏が製造され人気を得ている.

カット率5~10%程度のほとんど「切れない」スキ鋏は,毛先などの質感を微妙に調整し エアリ感(空気のようにふわふわとした感じ)を出すために使用される.Fig. 1.11に示した ように,このスキ鋏のくし刃の刃先端は通常のスキ鋏と異なり髪をとらえるための「V」字 型の溝が加工されておらず髪のほとんどが, くしとくしとの間に滑り落ちるようになって いる.

Flat edge Notched edge

Super low cutting ratio Regular thinner Flat edge Notched edge

Super low cutting ratio Regular thinner

Fig. 1.11 The tip of thinning edge

またカット率60~80%程度のカット鋏に近いスキ鋏(Fig. 1.12)は通常のカット鋏と同様 の使い方をすることで,自然な仕上がりが得られると評価が高い.例えば刈上げを例に取 ると,従来はカット鋏を用いてカットした後,「ぼかし」とよばれる調整のカットを必要と

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していたが,高カット率のスキ鋏では1工程でそれが実現できるようになった.

こういった新たな製品の開発に各社知恵をしぼって取り組んでいるのが現状で,くし刃 の形状やその先端に加工される溝の形状などに関してさまざまな特許が申請されている.

Fig. 1.12 Super high cutting ratio thinning scissors

1.3 従来の研究

1.3.1 手動利器の切れ味研究の歴史的な流れ

英語では切れ味を単純にsharpnessと表現する.日本では切れ味に関する言葉(特に擬音 が多い)がいくつかあり、例えば「スパッと切れる」・「ざっくり切れる」・「さくさく切れ る」などと切れ方の違いを表現する.こういった,被切断物を切るさいの感触についてア メリカやヨーロッパの英語圏の人々に尋ねてみたが,今ひとつ何を議論したいのか理解さ れていない感がある.そもそもここでいう「味」を的確に表現する英単語を選択すること が難しく「feeling of cutting edge」や「cutting taste」などという言葉を使ってみるが,理解さ れないようである.

英語で,刃物が非常によく切れるときの切れ味を表現するときに使用する言葉としては,

「sharp as a razor edge」や「super sharp」などがあるが,あまり面白くはない.唯一目を引く 言葉として「cut like hot knife into the butter」という表現があるが,これは実は日本製の鋏を 評価する言葉として生まれた表現である.

このように少なくとも英語圏では,切れ味というものに高い関心が払われていない.そ のことが研究の歴史にも反映されている.つまり,日本以外で手動利器の切れ味に関して 実施された研究の文献を探すことは,筆者が調査した範囲ではほとんどできなかった.

一方,日本における切れ味の研究は,日本刀の切れ味に端を発する.真偽のほどは知ら ないが,時代劇で見る限りでは江戸時代には,試し切りと称することが行われていたよう であるし,こちらは実際に,旧帝国陸軍の資料には大陸で起こった暴動を鎮圧するさいの 軍刀の使用状況について記録した文章が残っている.また,旧帝国大学には日本刀研究室 というセクションがあり,切れ味に関する文献を見ることができる4.また,現在でも最も 一般的な切れ味試験法である,本多式切れ味試験機5)6)も日本刀の切れ味を評価するために 開発されたことからも想像できるように,当時は日本刀に関する研究が何人かの研究者に よって進められていた7

1.3.1 鋏に関する研究

鋏の切れ味に関する研究は,主に二つの系統に分類される.一つは特産地の工業試験セ

(17)

ンタが主導的な立場に立ち,県産品の振興を目的として実施される研究.もう一つは,家 政学系(被服系)の学部・学科での研究で,主に裁ち鋏の切れ味や使いやすさに重点を置いた 研究である.

初めの研究に関しては,特に岐阜県の工業試験センタが,地元関市の振興のために力を 入れており,渡辺らの研究8)~9や朝原らの研究10)~12では事務用鋏の切れ味について官能 試験と切断荷重との関係を調査している.また同センタの切れ味試験機はセンサメーカの 技報等でも紹介されている13

また,この流れを継いだ同センタの竹腰は,鋏の幾何学的条件から自動的に最適な形状 を計算するようなシステムに関する研究14)~24や,自動刃付け機の開発25),刃先端の劣化 状況の調査26)34など鋏に関するさまざまな研究35を展開している.

その他では,山形県36)~37や広島県38)~39,大阪府で研究例がある.特に大阪府の藤原 の研究は裁ち鋏の空切り荷重を理論的に求めようとした研究40)~42で興味深い.また,鋏 の理論に関しては数少ない海外文献も見られる43

家政学部系では,日本学芸大学の武井らが裁ち鋏を使用するさいの使用者の使い心地に ついての研究をしている44)46.また相模女子大の田中らはやはり裁ち鋏で布地を切るさい の切断線の曲がりに関する調査47)~49などいくつかの研究がある50

また,鋏の素材関係では,チタン・セラミックなどの素材や表面処理としてDLC(Diamond Like Carbon)膜を付与した鋏などに関する報告がある51)~54

最近の新しい分野としては,遠隔医療の観点から鋏の使用感をバーチャルに再現しよう とする試みも見られる.この分野については実物の鋏について研究するわけではないが,

切断荷重という意味での切れ味に偏りがちな実物の研究とは異なり,切る感触を表現しよ うとしているという意味で興味深い55)57

以上のことを一覧表に示すとTable 1.2のようになる.

(18)

Table 1.2 Research of the past on scissors

文献番号 著者 研究対象

8)~12),14)~35) 渡辺・朝原・竹腰ら 事務鋏・裁ち鋏

36)~37) 相田ら せん定鋏

38)~39) 南良ら 裁ち鋏

40)~42) 藤原ら 裁ち鋏

44)~46) 武井ら 裁ち鋏

47)~49) 田中ら 裁ち鋏

備考

官能評価と切断荷重との関係,刃線の自動設計 製品開発(県産品の振興)

製品開発(県産品の振興)

切断荷重の推定 使用感に関する研究 使いやすさに関する研究

52) 小武 理美容鋏 チタン製鋏の開発

53) 筒本ら 理美容鋏 DLCコーティング鋏の開発

54) 水野 事務鋏 セラミック製鋏の開発

文献番号 著者 研究対象

8)~12),14)~35) 渡辺・朝原・竹腰ら 事務鋏・裁ち鋏

36)~37) 相田ら せん定鋏

38)~39) 南良ら 裁ち鋏

40)~42) 藤原ら 裁ち鋏

44)~46) 武井ら 裁ち鋏

47)~49) 田中ら 裁ち鋏

備考

官能評価と切断荷重との関係,刃線の自動設計 製品開発(県産品の振興)

製品開発(県産品の振興)

切断荷重の推定 使用感に関する研究 使いやすさに関する研究

52) 小武 理美容鋏 チタン製鋏の開発

53) 筒本ら 理美容鋏 DLCコーティング鋏の開発

54) 水野 事務鋏 セラミック製鋏の開発

1.3.2 包丁に関する研究

切れ味の研究で最も盛んなのが包丁に関する研究である.包丁は鋏と異なり,一枚刃で シンプルであることに加え,需要も多くさまざまな方面から研究がなされている.特に大 妻女子大学の岡村は,よりおいしく食物を調理するという観点からさまざまな項目につい て調査を実施している58)~64.また計量研究所の鴨下らは品質工学の手法を用いて,包丁 の官能切れ味に関する多くの文献を残している65)~69

包丁に関しては,日本刀同様,本多式やその他の切れ味試験機を用いてその切れ味を比 較した研究70)81も多い.また材質82)や,刃先端の状態83)86を比較しながら調査を進めた 研究もある.

加えて,包丁そのものではないが,食物を切断する食品機械に使用する刃に関する研究87

88

や,セラミック・チタン等で作製した包丁に関する報告89)90なども見られる.

1.3.3 その他の研究

その他,のこぎり91)95,かんな96)103,かみそり104)105などの研究も散見される.

特にかみそりの切れ味に関しては,学術論文はほとんど見ることができないものの,数 多くの特許を見ることができる.電気かみそりでは主に,ヘッド部を皮膚に押付けたさい の外刃の変形による内刃との密着性の低下による切れ味の低下を解消する目的の特許106)~

108)や内刃の刃先端の強度を上げて先端部の刃角度をできるだけ鋭利にするようにすること を目的とした特許109)110)などが見られる.また,手動のかみそりに関しても複数枚の刃の 厚みを変えることで異なる髭の状況に対応しようとする特許111)や,DLC膜を用いて刃先端 の強度を維持しようとした特許112),刃の長手方向の表面に線状の印刷を施して切れ味を向 上させようとした特許113)などが見られる.この分野は,市場も大きく規模の大きな企業が 活躍している分野でもあるので,切れ味に関する基礎的な研究結果について参考になるよ

(19)

うな資料を見つけることができるのではないかと期待したが,残念ながら具体的な資料を 見つけることはできなかった.ただ,特許に出願されている内容から刃(電動の場合には外 刃)の厚みをできるだけ薄くした上で,刃を変形させずに肌と密着させること(電動の場合に は外刃と内刃とのクリアランスも重要になる)に開発の重点が置かれていることなどをうか がうことができた.

また,手動ではないがナイフ状の鋭利な工具については食品用紙パック材114)116,高分 子材117,プラスチック118)119などの切断ついても研究されている.

利器そのものではないが,手動利器の研摩に用いられる天然の砥石に関しての研究120)~

121)も見られる.

1.3.4 毛髪に関する研究

本研究の研究対象は理美容鋏である.したがって切断の対象物は人毛になる.こういっ た毛髪に関する研究は,毛髪に関する基礎的な性質やデータについて述べられていること に加えて,主に毛髪を美しく見せるという観点からなされる場合が多い.つまりシャンプ ーやリンス等の評価の基準として,洗髪後の毛髪の状態を定量的に測定する試みがなされ ている122)128

また,毛髪のカット技法に関しては現在国内ではさまざまな技法が存在しているが,そ れらはあくまでも,イメージする髪型を作り上げるための技術的な方法論であって,学問 的に体系付けられた文献は見当たらない.ただし,参考としては方法論として最も整理さ れていると思われる理容の技術についてまとめられた文献を選択した129

1.3.5 従来の研究と本研究との相違点

ここまで説明してきたように,手動利器に関する研究は件数的には少ないながらもこれ まで無かったわけではない.

鋏に関する研究では,事務鋏,裁ち鋏,せん定鋏で過去に研究例がある.鋏を被切断物 の種類で分類すると①連続体を切る鋏,②非連続体(ばらばらの繊維や棒)を切る鋏に分けら れる.①の代表的な鋏が,紙を主に切断する事務鋏,布を切断する裁ち鋏などであり,② の代表的な鋏が,毛髪を切断する理美容鋏,木の枝を切断するせん定鋏である.これらの 大きな違いとしては,連続体の切断では一定の感覚で切断ができるものの,非連続体の切 断では,切断が断続的になり手に伝わる感触が異なってくることが挙げられる.

また被切断物の強度によって①強度の高い被切断物を切る鋏,②強度の低い被切断物を 切る鋏とに分けることもできる.①には枝を切るせん定鋏や,被切断物を特定できない事 務鋏が含まれ,その特徴としては刃角度が70~90°(1.22~1.57rad)程度と大きいことが挙げ られる.これに対して②に含まれる裁ち鋏では 45°(0.79rad)程度,理美容鋏では 35~45°

(0.61~0.79rad)程度と刃角度は非常に鋭利になる.つまりここまでの研究においては,非常 に鋭利な刃先端で非連続の被切断物を切断するという試みはなされてこなかったといえる.

その意味で理美容鋏を研究対象にした本研究は従来の研究との相違点を持っている.

(20)

また,ユーザが職人であることも特徴の一つと考える.官能試験を実施している過去の 研究では,先に説明した岐阜県の工業センタでの研究においても,計量研究所の鴨下や矢 野の研究においても,研究対象には事務鋏や包丁を選んでおり,使用するのは一般の人々 である.これに対して理美容鋏では理美容師自身が職人であり,より微妙な切れ味の差を 評価できると考える.

さらに,従来の研究を大別すると,研究の対象となる利器の種類は別にして,①切断荷 重に着目して実施された研究,②被切断物の切断面の性状に着目して実施された研究の二 つに分けることができる.従来の研究ではそのほとんどが①に属する研究であり,工業的 に非常に合理的に切れ味というものを理解しようとしている.一方②に属する研究として は,先に示した大妻女子大の岡村の包丁に関する研究が挙げられるが,ここでは例えば被 切断物である刺身の切断後の組織の比較がなされている.これは包丁を使う側と同時に,

それによって加工された食品を食べる二次的なユーザに対しても配慮した結果であると考 える.理美容鋏においても同様のことがいえる.つまり使用するユーザに加えて,ユーザ の顧客である人々の満足に関しても配慮をすることで,他社の製品に対する品質の差別化 が可能となると考える.

本研究はここまで述べてきたことを総合的に考え,理美容師にとって評価の高い理美容 鋏とはどのような鋏であるのか,また切られた髪の健康にとって好ましい理美容鋏とはど のような鋏であるのかという観点から,研究を進めてゆく.

1.4 研究目的

理美容鋏の品質を定量的に評価することを研究目的とする.

従来の研究の部分でも述べたように,これまでの鋏の研究には,鋏の切断機構に関して の検討が見られなかった.本研究では,切断の仕組みを理解することで物理現象に基づい た,鋏の定量的な評価を確立することを目的とする.さらに将来的には本研究から得られ た結果に基づいて,より理想的な鋏の商品開発につながるよう研究を発展させることを目 指す.

ここでいう品質とは,使用者である理美容師が鋏に対して持っている要求に加え,理美 容師の顧客である人々にとってもその鋏が好ましい鋏であるという意味を含む.

具体的には第一に,切れ味の根幹である切断荷重に着目し,理美容鋏のさまざまなパラ メータを変化させてそれらの影響を調査し,切断時の刃先端と被切断物との挙動を明らか にする.このことによって,被切断物がどのような機構に基づいて切断されるかについて の推論を構築し,それをさまざまな角度から検証してゆく.

さらにより微妙な切れ味である,切ったさいの感触に関しても調査をおこなう.これは,

切断荷重が一定の水準以上の場合に,最終的にどのような感触が鋏の評価に差をつけるの かを理解することで,切れ味の評価をより向上する手段があるかどうかについて調査する ためである.また,開閉時の感触についても検討を加える.今回は,空切り開閉荷重がど

(21)

のような要素によって構成されているかを調査し,隙間の形状などのパラメータが空切り 荷重に与える影響について考えるための基礎を整える.

また,毛髪を切断される側の二次的なユーザの立場に立って,被切断物である毛髪につ いて,どのような条件の鋏を用いた場合に毛髪の健康を保つことができる切断面を生成で きるのかを調査する.このことによって使用者の顧客である二次的ユーザの立場から見た 切れ味の定量的な評価を試みる.

最後に,使用による劣化の状況を調査し,理美容鋏の切れ味を持続させるために必要な 因子について考察する.このことにより,再研磨の周期を長くするために刃材に必要な因 子を明確化し,今後の刃材選択の目安とする基礎的な考え方を構築する.

(22)

第二章 刃先端の状態の定量的測定

2.1 緒言

手動利器の切れ味を研究するにあたっては,その製品が製造もしくは再研磨された直後 の初期切れ味と,ある程度の期間使用した後の切れ味もしくは切れ味が使用に耐えなくな るまでの期間との両方に着目する必要がある.しかし使用後の切れ味に言及した文献にお いてはそのほとんどが,使用にともなう切断荷重の増加や本多式切れ味試験機(一定の押し 付け力で被切断物である紙に刃物を押し付けながら水平方向に引いたときの紙の切断枚数 で切れ味を評価する)によって切れ味の低下を評価する方法をとっており,岐阜県の工業試 験センタの竹腰らの刃先の劣化モデルの研究33を除いては刃先端を微視的に考察した報告 は少ない.

新潟大学の古川らの文献85や,山形大学の山西らの文献112)~113においては使用前の刃 先端の粗さ(最大高さ粗さRz)を測定し,その値と切れ味との関係について言及している.

どちらの方法においても,刃先端を光学顕微鏡(400~500倍)によって撮影し,部分的に粗さ を測定するという内容であるが,それらは使用にともなう刃先端の粗さの変化を継続的に 測定するような試みでは無かった.

一方,実際の理美容室においては,個人個人の使用法や使用度にもよるが,理容の場合 で1~3ヶ月,美容の場合で3~12ヶ月程度の周期でユーザは使用している鋏の再研摩 の必要性を感じ実際に再研摩している.

特に近年においては,刃材が炭素鋼からステンレス鋼に変化したことから,ユーザが自 分で鋏を再研磨することが難しくなり,再研磨の業務は顧客サービスの中でも重要な位置 を占めてきている.

ユーザはそれぞれに再研摩が必要と判断する独自の基準を持っていると考えるが,定性 的には以下の三種類の現象が現れてきたときに,切れ味を不快と感じ,再研摩を必要と判 断することが過去の聞き取り調査から知られている.

①髪を切るさいの手に伝わる感覚が,ブツブツと切れているような感覚(ブツ切れ感)に 変化してきたとき.

②髪を切断するさいに髪が滑り過ぎてしまうため自分がイメージした位置で髪が切断され ず,思ったような仕上がりが得られなくなってきたとき.

③髪が切れずに刃と刃との間に髪を挟み込んでしまうような現象(パクリ現象)が発生し始 めたとき.

上記の現象は刃先端の鋭利さが失われたため,もしくは刃先端の粗さが大きくなったた めに発生するのではないかと推定し,鋏の状態を評価するためには刃先端部の鋭利さと刃 こぼれの状況とを定量的に評価することが必要と考え,粗さ測定機を用いて簡便な方法で 上記の定量化を試みたのでここに報告する.特に鋭利な手動利器の刃先端の粗さを全長に

(23)

渡って長手方向に測定する試みは,これまでの研究には見られない独自の方式であると考 えると同時に,理美容鋏を評価する上で刃先端の状態を定量的に把握することは,避けて 通れないステップであり本研究の前提となる重要な要素技術であると考える.

2.2. 測定装置および測定方法 2.2.1 刃先端長手方向粗さ

Fig. 2.1に測定に用いた粗さ測定機の概観と本方法での測定の様子を示す.第一章で説明

したように,刃線は三次元の曲線を成しているため通常の粗さ測定で使用する測定子を使 用したのではすぐに刃先端部を外れてしまう.そこで本方法では市販の使い捨てカッター の刃を測定子の先端に,刃線に対して垂直に固定することで,測定子が刃先端部を外れて しまうことを防いだ.

Fig. 2.1 Measurement scenery for the edge roughness

本方法と他法との特徴をTable 2.1に示す.本方法は刃先端部に影響を与えにくいという 面で,ルビ等の高硬度の先端を持つ測定子を用いる場合と比較して優位である.また,測 定時間が短いという点において非接触式の測定方法よりも優位である.測定子として市販 のカッター刃を選択したことにより刃の材質よりも測定子側の硬度が低くなるため刃を傷 めることを最小限に留められ,また安価であるために,一度測定した刃は廃棄することが できるようになった.

(24)

Table 2.1 Comparison with competitive measurement method

Roughness measurement machine with cutter blade

(This method)

Roughness measurement machine with high hardness

material (ruby, etc.) blade

Photomicrograph

Contact-less roughness measurement machine

Measurement accuracy

Good. But sometimes the measurement itself damages the edge of scissors.

No good. Roughness on the edge is changed by

measurement.

Blade edge (scissors) 750HV Blade edge (cutter) 750HV Ruby 1250HV

No good. The value is easily changed by the adjustment of light.

Good. But need a program to analyze

roughness though the curved edge of

scissors.

Measurement

time Short Short

Long . Measuring whole blade needs for a long time.

Long . Measuring whole blade needs for a

long time.

Cost (Excluding

main body) Cheap Expensive Expensive Expensive

Note

Method and range in report before.

①Niigata Univ. (Furukawa) Rz=0.5~15.0μm(×1500)

②Yamagata Univ. (Yamashita) Rz=6~7μm(×400) Method

Roughness measurement machine with cutter blade

(This method)

Roughness measurement machine with high hardness

material (ruby, etc.) blade

Photomicrograph

Contact-less roughness measurement machine

Measurement accuracy

Good. But sometimes the measurement itself damages the edge of scissors.

No good. Roughness on the edge is changed by

measurement.

Blade edge (scissors) 750HV Blade edge (cutter) 750HV Ruby 1250HV

No good. The value is easily changed by the adjustment of light.

Good. But need a program to analyze

roughness though the curved edge of

scissors.

Measurement

time Short Short

Long . Measuring whole blade needs for a long time.

Long . Measuring whole blade needs for a

long time.

Cost (Excluding

main body) Cheap Expensive Expensive Expensive

Note

Method and range in report before.

①Niigata Univ. (Furukawa) Rz=0.5~15.0μm(×1500)

②Yamagata Univ. (Yamashita) Rz=6~7μm(×400) Method

ただし,測定にさいしてはカッター刃測定子先端自体も粗さを持っているので,測定に 先立ってカッター刃測定子先端を研削した.カッター刃測定子の研削条件および研削方法 をFig. 2.3に示す.

Cutter blade 15μm

Grinding direction

Cutter blade 15μm

Grinding direction Grinding condition

・Grinding wheel …#1200 Diamond wheel (Resin bond)

・Wheel speed …9.2 m/sec

・Table speed …6 m/min

Fig. 2.3 Grinding edge of cutter blade

なお,同材質のブロックを同条件で研削した場合の粗さは,中心線平均粗さRa=0.1μm 程度であった.この研削の効果を確認するために研削後のカッター刃測定子と未研削のカ ッター刃測定子とを用いて同一の鋏の刃先端長手方向粗さを測定した.なお,測定の開始 点は刃先から30mmの位置とし,測定長は5mm,カットオフ値0.8mm,測定速度は0.5mm/s である.

(25)

Measuring area Cut off

Measuring speed

30-25 mm from tip of blade 0.8 mm

0.5 mm/s

Table 2.2 Measuring conditions Measuring area

Cut off

Measuring speed

30-25 mm from tip of blade 0.8 mm

0.5 mm/s

Table 2.2 Measuring conditions

現状,刃付け工程においてはFig. 2.4に示すように回転するディスク上に耐水研磨紙をは り付けて作業している.そこで測定値の妥当性を評価するために,同一の耐水研磨紙で65 丁分の鋏を刃付けしたときの1, 2, 15, 30, 65丁目のサンプルの刃先端長手方向粗さを測定し,

値を比較した.

Fig. 2.4 Sharpening scissors

測定サンプルの刃付け条件および測定結果をFig. 2.5に示す.図から理解できるように刃 先端を 15μm 研削したカッター刃測定子を用いて測定した場合には,処理丁数が増えるに したがって刃先端長手方向粗さは減少する.このとき,30 丁目前後から刃先端長手方向粗 さはほぼ一定の値に収束し変化しなくなる.またカッター刃測定子先端を研削しなかった 場合の測定結果については上記の傾向が見られず,カッター刃測定子自身の刃先端長手方 向粗さがサンプルの刃先端長手方向粗さの測定値に大きく影響を与えてしまうため,正確 な測定ができないと結論づけられた.

(26)

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

0 10 20 30 40 50 60 7

Ordinal Number N (Using the Same Paper for Sharpening)

E dge R oughne ss R a /μm

0

●…No Ground

▲…Ground for 15μm

Samples・・・5inch scissors Grinding paper・・・#600

Fig. 2.5 Comparison of measurement results between no ground cutter blade and ground cutter blade

また,本測定は鋏の刃先端の状態の継続的調査に利用することを目的としているので,

本測定により刃先端の状態が変化してしまっては測定する意味がなくなってしまう.この ことを確認するために,測定用サンプルを1丁準備して繰返し10回測定しプロフィールお よびRaを比較し本測定が刃先端に与える影響を調査した.

1回目と10回目との測定プロフィールをFig. 2.6に,測定されたRaの推移をFig. 2.7 に示す.測定プロフィールを比較するとどちらもほぼ同様の形状が得られている.ただし 一回目の測定で得られていた図中の○部は5回目の測定時に脱落してしまった.これが原 因でRaの推移を示すFig. 2.7においても5回目の測定だけは値が大きくなっている.なお 六回目の測定からは測定範囲を脱落部の手前までとした.以上から,本測定方法が鋏側の 刃先端に与える影響は皆無とはいえないが,測定回数を制限することで十分に精度の高い 繰返し測定ができることが確認できた.

(27)

Drop off at fifth First

Tenth

Fig. 2.6 Profile at first and tenth measurement from repeated measurement test (7inch scissors, grinding paper…#1000 emery Paper)

0.2 0.3 0.3 0.4 0.4 0.5 0.5

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Numbr of measuring N

Edge Roughness Ra /μm

Part of the Edge is Dameged by Measuring

Fig. 2.7 Change in edge roughness Ra from repeated measurement test

先に述べた現実の刃の劣化状態の聞き取り調査から,粗さデータ収集の方法として二通 りの粗さに着目した.第一には著者らが刃渡り1/3測定(カットオフ値=2.5mm×10区間)

と名づけた測定方法で,粗さとしては主にRzを参照し,刃渡り全体を分割して測定し刃こ ぼれ等の大きな傷みの状況を評価することを目的とした.第二には著者らが部分測定(カ ットオフ値=0.8mm×4区間)と名づけた測定方法で粗さとしては主にRaを参照し,大きな きずを除外した安定部を測定することで,全体的なベースの粗さを評価することを目的と した.

(28)

2.2.2 刃先端断面形状

刃先端の形状は刃先端の粗さと並んで切れ味に大きく影響を与える因子であると考える.

しかし刃先端部に関しては断面を切断して顕微鏡等によって観察を実施することは可能で あるが,サンプルを破壊する必要があり継続的に断面形状の変化を捉えることはできない.

そこで今回は刃先端長手方向粗さ同様,粗さ測定機を用いて刃断面に対して垂直に測定 を実施することで断面のプロフィールを測定した.この方法は山形大学の加藤らによって 手鉋の磨耗の測定に用いられた方法とおおむね同様の方法である96

Fig. 2.8に測定時の様子を示す.刃先端の断面形状を測定するさいにはサンプルは微妙な

位置調整が可能となるようにX-Y,回転および傾斜テーブル上に固定される.傾斜テーブ

ルは40°(0.70 rad)の角度調整が可能であるので粗さ試験機の測定子に対して断面をスイン

グさせて,表側と裏側との形状を別々に測定し,測定後のデータを40°回転させて形状を 合成した.

この測定を実施する場合には,刃先端との干渉を避けるためにスタイラス先端部分の形 状をできるだけ細くすることが重要である.具体的には最先端のルビを固定する円錐部分 の形状を通常の90°のスタイラスではなく40°のスタイラスを準備して測定した.また,

測定速度が速すぎると刃先端を通過するときにスタイラス先端が刃先端から離れてしまう ような現象が起きることがあるので,測定速度は可能な限り遅くして測定する必要がある.

測定条件をTable 2.3に示し,測定の1例をFig. 2.9に示す.このデータは表計算ソフト上で 2度目の測定データを一次変換により40°反転させてから1度目の測定データと重なるよ うに位置を調整した結果である.刃先端Rの算出は,位置決めのために書き込んだ円と重 なる3つのプロットの座標から計算によって求めた.

Fig. 2.8 Measurement scenery for edge R

(29)

Diameter of the tip of stylus

Measuring speed

40°

0.1 mm/s Table 2.3 Measuring conditions for edge radius

Angle of the base for tip of stylus Material for the tip of stylus

4 μm Ruby Diameter of the tip of stylus

Measuring speed

40°

0.1 mm/s Table 2.3 Measuring conditions for edge radius

Angle of the base for tip of stylus Material for the tip of stylus

4 μm Ruby

測定結果は,刃先端の形状を円の一部と考え半径寸法で近似した刃先端Rで評価するこ ととした.刃先端形状の測定には先端に直径4μmのルビの測定子を用いたので,測定結果 はこの半径分を考慮して数値を補正した.

Measurement [2] after 40 ° rotated Measurement [1]

Edge radius R

0.2μm Measurement [2] after 40 ° rotated

Measurement [1]

Edge radius R

0.2μm

Fig. 2.9 One of the result of measuring edge radius

2.3 結言

(1)理美容鋏の刃先端の粗さを,粗さ測定機と使い捨て式カッタの刃を利用した測定子を用 いて測定する方法を考案した.ただしこのとき,測定子に用いるカッタの刃は,刃先端を 研削する必要があった.

(2)刃先端の形状については,鋏体を40°スイングさせて測定した表裏のプロフィールを合

成して測定した.そしてこの結果を円の一部と考え半径寸法で近似した刃先端Rで評価す ることとした.

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