合唱の基礎能力 を伸 ばす指導法 に関す る研究 Ⅱ
虫明星砂子
学校教育における合唱活動 を活性化 させ るためには,合唱芸術の原点に立ち戻 り,根幹 と なる 「和声感」 についてい ま一度検討 を加 える必要がある。 そ こで
,
「和声感」 に着 目し, 日本の学校教育へ導入可能な,和声感の育成が取 り入れ られた練習方法 について検討 した。その結果,和音の構成音の持 っている倍音や結合音の性質や特徴 を認識 し,その知識 を活か した音程練習 を合唱練習 に取 り入れ ることで,演奏者の耳が鍛 え られ, さらにこの練習が, 正確 な音程か ら生 まれる合唱の調和感覚,色彩感や広が りが感 じられる合唱づ くりの基礎 に
な りうることがわかった。
Keywords:合唱,倍音,和声感,指導,基礎
Ⅰ.はじめに
現在の学校教育 においては,合唱活動 は,音楽の 授業,部活動 のほか,年 に1回程度開催 され る校 内 合唱 コ ンクール等 の クラス合唱の形 で行 われてい る。校内合唱 コンクールで歌われる曲の大半 は,ポ ップス系の合唱曲が多 く,指揮 は生徒が担 当 してい る場合が多い。 ここでは, クラスの団結力や特色 を アピールす るためのパフォーマ ンス的な合唱が重視 され,合唱の重要 な要素である音程の正確 さや発声, アーテ ィキュ レーシ ョン,言葉の表現, ダイナ ミク スや フレー ズ等にはほとん ど関心が払われず,大 き な声,地声や叫び声で歌われる光景が よく見 られる。 この ような合唱活動が行 われている一方,その学校 の音楽教員等が大 きな声 よりも,児童生徒の 自然で 無理のない声の重要性 を認識 している学校では,莱 らか な 自然 な声 に よるハーモニー を創 り上 げてい る。 しか し, この ような歌唱指導は,指導者の発声 面や和声の理解,音楽作品を分析する力,指揮の力, また,技術指導ばか りでな く,児童生徒 との信頼関 係や発達に応 じた心身の解放に向けた指導助言 とい った,指導者の力量 に左右 される場合が多 く, さら には,音楽教師ばか りでな く,周 りの教師群の理解 がなければ,児童生徒の歌声 を育ててい くのは困難 であろう。 このほか,合唱教育では,幼少か らの発 声への取 り組み方や読譜力の指導等 も必要である。
この ように多 くの課題 を抱 えている学校教育の中
での合唱活動 を活性化 させるためには,合唱芸術の 原点に立 ち戻 り,根幹 となる 「和声感」 についてい ま一度検討 を加 える必要がある。そ もそ も合唱 とは, 多声部が互いに和声 を作 りなが ら,音楽 を完成 させ てい く芸術である。その和声的な音楽の流れの中に, 言葉や フレーズがあ り, さまざまな音楽表現がなさ れてい く。 したがって, まず,相互で響 きあ う和声 感を意識で きることは,合唱において重要 な要素で ある。 日本の合唱活動の練習方法 は,ウオー ミング ア ップ (発声体操 な ど)か ら始 ま り,発声練習,普 取 り,パー ト練習,全体練習 と段 階的に行われてい るのが一般的である。 これ らの合唱練習では,発声 に関す る意識が高 く,声 をどの ように響かせ,作 り 上げてい くかに多 くの時間が払われている場合が多 い。筆者は,米国やハ ンガリー,フィンラン ドの合 唱団の音楽練習 を視察 して,発声の位置づけが 日本 の合唱団 と相違す ることを認識す ることがで きた。
それは,合唱指導の中で,声の質や発声 に関す る注 意がほ とん ど見 られず, ピッチや音楽的な流れやデ イクシ ョン‑ の注意が多いことである。特 に,ハ ン ガリーの合唱視察で見 られた特徴 としては, コダー イ ・メソッ ドに基づいた音楽教育の システムを幼稚 園か ら用 いてお り,ハ ンガ リーの民謡 を使用 して,
自然にソルフェージュの力や 自然 な発声が育成 され ていた。 日本の合唱団の練習 と比較 して,合唱活動 の中で発声練 習な どに費やす時間は非常 に少 な く,
岡Ll」大学大学院教育学研究科 芸術教育学系 700‑8530 岡山市北区津島中3‑1‑1 AStudyonaMethodorGuidanceDevelopingBasicAbilitiesofChoralSingingII MasakoMUSHIAKI
DepartmentofCurriculum Studies,MusicEducationCourse,GraduateSchoolofEducation,OkayamaUniversity,3‑1‑1 Tsushima‑naka,Kita‑kuOkayam acity700‑8530
‑ 6 9 ‑
虫明星砂子
和声 感 のあ る和音や音型 を用 いた発声 または ソルフ ェー ジュの指 導 を大切 に してい る こ とが わか ったO また, ス ウェーデ ン放送合唱団 を中心 に活躍す る合 唱指揮者 エ リック ・エ リクソ ンの リハーサ ルメソ ッ
ドで は,具体 的に どの ような声 の質や響 きが望 ま し いのか,発声法 を どの ような方法 で どれ くらいの時 間行 な うか な どいっ さい触 れ られ てい ない1)。
そ こで,本稿で は,欧米 の合唱 団の和 声感や ソル フェー ジュを重視 した合唱練習 に着 目 し, まず,合 唱 にお け る和 声感 につ いて考察す る。次 に, 日本の 学校 教育‑導入可能 な,和 声感の育成が取 り入れ ら れた練 習方法 について検討す る。
Ⅱ.合唱 にお ける和声感
合唱では,多声部 を同時 に響 かせ て, 言葉の イ ン トネー シ ョン とフ レー ズの流 れが音 楽 を創 り上 げ る。 その響 きで連結 され る和音の美 しい流 れ を感 じ 取 るこ とので きる能力が, 合唱 にお け る和声 感であ り, これ を認識す る ことが,合唱音楽 を創 り上 げる 過程 で必要 となる。
エ リクソンは,合唱指導者 としての技 術 を 「徹底 的 な準備」 と称 して具体 的 に次 の事項 を提案 してい る2)
。
「第一 に注 目され るの は,和 音 を歌 うこ とで あ る。楽譜 を垂直 に読んで心 の中で聴 く能力 に限界 があ る と分か った ら,和音 を声 に出 して歌 い, ピア ノで確 認す るこ と」 をすす めてい る。 この楽譜 を垂 直に読 む,す なわち,和音 の構 成者 を低音部 または 高音部 まで正 しい ピ ッチ を耳 で認識 しなが ら声 を合 わせ てい く方法 は,演奏者 が他声 部 を意識 で きる と い う点 で興 味深 い方法 だ とい える。 また, イルデ イ コ一 ・へ ルポ イ ・コチ ヤー ル も, ポ リフ ォニーの訓 練 を行 う上 で他声 部 を聴 くこ との重 要性 を指摘 し, 幼 少 か らの 自分 た ちの歌 声 を聴 く訓練 をす る こ と で,聴 くこ との喜 び を感 じなが ら歌 うこ とがで きる ようにな り,均 質 な声 の響 きと音色 をつ くる こ とが で きる と述べ てい る3)。和 音, い わゆ るハモ リの感 覚 は,一瞬 に して演奏者や聴衆 を別世界へ誘 うこと が で きる。 この 「他声 部 を聴 く」 力 は,合唱指導の 中で強 く求 め られ る力であ り,他声部 との和音 関係 の理解 や音量 ・音質のバ ラ ンスを とる上で必要 な力 であ る。 さ らに, ガル ドシュ ・パ ールは,清潔 な イ ン トネー シ ョンが真 の合 唱 の響 きの基 本 条 件 であ り,合 唱芸術 においては, これが その素材性 の必要 条件 となる と以下の様 に述べ てい る4)。清潔 な イ ン トネー シ ョンに よって,澄 み切 った 濁 りの ない音色が生 まれ,音の重 な りが響 きあ うとき,それが心地 よ くホール全体 に鳴 り響 く こ とが あ る。 それは, 「倍音 と結合音」が鳴 り
わた る こ とに よってその響 きは充 ち,輝 き,神 秘 的 な もの となる。響 きが濁 ってい る間は作 品 それ 自体 にベ ールがかか り,指導者 も演奏 者 に もはっ き りみ えない。 しか し.明 る く透 き通 っ た響 きは,その作 品の深奥 を も照 らし,予想 も しない美 しい響 きの虹 を浮かび上 が らせ る。 後
略 (下線部は筆者による)
倍音 と結合音 に注 目し,声 の響 きとの関連性 につ いて 考察す る。 まず ,結合音 とは,2つ以上 の異 な る音 が 同時 に鳴 らされた ときに生 じる新 しい音 であ る。 それぞれ音 の部分音列 の中の各部分音 が,その 部分音列 の 中の他 の部分音 や他 の部分音列 の中の各 部分音 との 間にすべ ての結合音 を組織 す る5)。す な わち, 2音 か ら生 じる第1次結合音 は,再 び もとの 振 動 系 の 発 す る音 と結 合 して 第2次 結 合 音 を作 り, そ して第2次結合音 と結合 して第3次結合音 がつ くら れ る。2声 が 3声 , 4声 それ以上 と増 えるにつれて, 生 じる結合音 は限 りない。結合音の ように和声 感の 中 にあ る 自然 に静か に鳴 り響 いてい る音があ るこ と は,声 の響 きを増大 させ,パ ールが述べ てい る よう に,響 きをよ り輝 き,神秘 的 な もの と している とい え よう。
次 に,響 き と倍音 につ いて考察 してみ る。 まず , 2つ の音 を同時 に鳴 ら した と きに,音 の組 み合 わせ
に よって生 じる音 の協和 ,不協和 とい う観 点 か ら, 倍音 との 関係 を考察す る。倍音 の構 成 を語例1に示 す。
譜例 1 倍 書 の構成
盲 2
倍音 とは, あ る音 に対 しその昔 の周波数 の整数倍 の周波 数 を もつ昔 の こ とで,譜例 1は, ハ昔 を基音 に して生 じる倍音列 を示 してい る。 では,合唱の よ うな同時 に音が鳴 らされた時 に,滑 らかで調和 して い る と感 じるか,耳障 りに感 じるか な ど,我 々の耳 に起 こる現 象 を倍音 列 との 関係 か ら見 てみ よ う6)。
協和 しやす い場 合 は,それぞれの倍音 (部分音)が 重 な り合 い,協和 しに くい場合 は,倍音 の重 な りは 少 ない。 表 1は,2昔 の倍音 列 お よび基音 (ハ音 ) か ら生 じる倍音 を第12倍昔 まで示 した ものである。
協和 す る とは, 2音 が 同時 にな らされ た ときに, なめ らか に快 い感 じを与える1対 の音 と定義 され る。
ー 70 ‑
表 1 各音程の倍音列
序数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
完8度全 c c■C' g■ C"C" e" どど"" b" CC""'' d"' e"e"'' Ds" g"g"''
完 全5度 ・,g C' g'g' (C\'V\\㊥'レe/") g"g" b" h" C"' d"d"' e"'i"'fl'S"' g'g""
長3度 c c' g' ..ノC": e" .、g''一、、、 b" C" d"' e" lJ'S". a"
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短6度 c c' :tg''、、、 C" .′/e"; :g"、、、、 b" C" d" e" (1‑S" g"
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、声S,. .、eS';,′ 、J!S"1,. C" es" ges" g"'長 2度 (C\ (
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Cg\ (C'\ Ce\ ‑.l @' \
b" C… d… e"' 方S"' g"'\V ) \\\頑 ') \\ 声') ー\\漣 ")\凄 5').′′\
\ 耳)
C"' d"' e"' f1'S"'短 2度 ・tc、、 LC''‑ ,:a;〜.、 .:L.''、、、 :e"、、、t r:a"、、、 b" C" d" e" Ii'S" g"'
、、♂e{,. 、、des'こ.‑、、ps'̲,. 、、des"1,. 、、、省 、ps",. ces" des"' es"' f" a"
長7度 C ‑‑′C': g' ,′C"I, @"㌔‑\了 i';,: bH c"' d"' e" ffs… g"'
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運S,チ′′ h" d1'S"' Jfs"' 短7度 C / '′C') g' / C"): : e ' ; 、 、 、 t /
a") b" C" d" e" ll'S" g"表 1を見 ると,協和すればす るほ ど,各基音か ら生 ず る部分音 は重 なってい るこ とが わか る.一万,2 つの楽音が 同時 に鳴 らされた ときの音 の不協和 は,
「うな り」 を生ず る。 これは,ヘ ルムホル ツに よっ て議論 されてお り,純 音における不協和 の2音 間の うな りがその原 閃 となってお り,不協和 の程 度は2 音 間の音程 に よって決 まるとされている。 ア レクサ
ンダー ・ウ ッ ドは, うな りについて,部分音 の振動 数は高音域 にあ り, うな りは音程が 全 芹の場 合よ り
も半音 の場合 のほ うが人 きい と してい る7)Oす なわ ち,隣 りどお しのぶつか る音である2度音程 の中で, 全音程 であ る長2度 よ りも半音程 であ る短2度音程 は不協和が強い とい うことになるo表1を 止る と,2 音 を同時 に鳴 らした ときに,隣 りあ う部分音が全 音 程,半音程 になっている箇所がか な り多い ことに気 づ く。ウッ ドは,不協和 の程度の順序づ けについて, 次の2点 を基準 としている。
① うな りは音程が全音 の場合 よ りも半音 の場合 の 方が ひ どい。
② うな りを生 じる部分音の序列が高 ければ高いほ どその部分音 は思ったよ り強 くあ らわれない。
では,表 1に基づ いて,各音程 の全音 ,半音 の数 を示す (表2)8)。不協和 ま,序数の低 い ところで性 質が 出 る こ とか ら, 第6倍音 まで の音 列 で ,全 音 程 ・半音程 を序数で表記 した。
l は倍音一致部分 ⊂⊃ は仝音程 工 :二:は半音程
表2 2音程間の全音程半音程の序数
音 程 全 音 程 半 音郡
完 全8度
完 全5度 3‑ 4 3‑rl
長3度 3‑ 4 :I‑ 6
短3皮 3‑ 4 4‑ 5
完 全4度 2‑ 3 4‑‑6 5 ‑6 4 ‑ 5 長6度 2‑ 3 4‑ 6
短6度 2 ‑3 3‑ 5 4‑ 0
長2度 4‑ 41‑ 1 2‑ 25‑ 6 3‑ 36‑ 6 J‑ 5 短2度 5‑ 6
媒 7度 3‑ 5
うな りが強い とされ る半音程 どうLを比較 してみ る と,完全8度,完全5度,良6度音程 は半音程 を含 まない ことか ら,協和 しやす い音程 であ ることがわ か る。一方 ,短2度,艮7度,紬6度音程 は半音程 を 多 く含 む ことか ら,不協和 が強いことがわか る。 ウ ッ ドは協和2音 の順序 として,理論上 では,響 きや す い ものか ら並 べ る と完 全8度,完全5度 ,長6度 , 短3度 ,長3度,完全4度,短6度 としてい る。 ただ
し,完全4度 の場合 ,完全5度の転 回形 ,長6度の場 令,短和音 の使 用 によって変化す ることか ら協和 の 程度 も変化す る と していが )O次 に,ー1オクター ブ 内 で ,周 波 数 の 比 で 表 され る協 和 性 の音 程 を示 す10)0
ー 71 ‑
表3 周波数の比 と音程
周 波数の比
(n/m) 音程
̀尭全一協和音
一 ̀
不 尭 全"協和 音1/1 同音
2/1 オクターヴ
3/2 5度
4/3 4度
5/3 長6度
5/4 長3度
6/5 短3度
8/5 短6度
虫明星砂子
で1.0か ら2.0まで変化 させ た ものである。
図1 不協和曲線
C D E♭E F G A ち C
旦 4
これ らは, これ まで西洋音楽 において,協和音程 として受 け入 れ られてい る2音 の音程 を示 した もの で,m ,nが大 き くなる と完全協和性 は減 少す る。
周波数の比率か ら見 ると,同音,完全8度,完全5度, 長6度,完全4度,長3度,短3度,短6度の順 に協和 性 は減少 している。全音程 ・半音程 によるうな りか ら見た不協和 の順位 と完全4度,短3度の捉 え方 は若 干の相違 はあるが,ほぼ同様 とい える.〕
では,協和 と不協和の感 じ方は実際 に どうなのだ ろ うか。 これ までの協和音程 は心地 よ く,不協和音 程 は不 快 で あ る とい った一般 的 な考 え方 が あ る.
「協和度」 を定量化す る心理学実験 で は,多 くの被 験者 に音高の異 なる2音 を同時 に聴かせ,何人が不 協和 と感 じるかで客観的な 「不協和度」 を算出す る とい う方法である。/」、方厚 は,不協和 とはっ き り定 義す るのは不可能である としなが らも,次の ように 述べ てい る11)。
周波数が近い2音は不協和 とされ る。 これ を 実際 に何 人かで聴 いてみた結果 は,不協和 イコ ー ル不快 とい った単 純 な もの で は なか った。
「へ んだ
」
「奇妙 だ」
「気持 ち悪 い」 な どの否定 的な感想が大勢 を占めたが, 「浮遊感」
「お もしろい」 といった肯定的な感想 もあった。
この肯定的な感想 は,現代の音楽の多様性 に敏感 に反応 してい る表現 ではないだろ うか。19世紀 まで の調性音楽か ら20世紀,21世紀 にか けて12音音楽, 無調音楽の流 れは,多様 な和声感 を生み出 し,現代 音楽の さまざまな可能性の幅 を広 げた といえる。合 唱において もさまざまな和声が使用 され,和声練習 では定説で もあったいわゆる ドミソの世界 は,不協 和 を含みそれ以外の音 と重 な りを楽 しむ感覚が広が っている とい える。小方 は, さらに周波数比 によっ て,不協和度が どの ように変化す るか を図に示 して い る12)。 これ は,楽器 の昔 の不協和 曲線 で,根音 を261Hz(中央C音) と し,2つ の根 昔 を周波 数比
1,0 1.5 2.0
周波 数比
図1による と,同音,完全8度,完全5度,長6度, 完全4度,長3度,短3度,短6度の順 に協和 度が弱 く
な り,逆 に,短2度,長2度 は不協和 が極端 に強 く, 続 いて,長7度,減5度 (増4度),短6度の順 に不協 和が強 くなっていることがわかる。
では実際に,合唱で和声感覚 を身につけるために, どのような練習が相応 しいのだろうか。
Ⅲ.合唱のための和声練習 1. 日本の作 曲者 による和声練習
野上義 臣は,倍音の音列 を基調 とした関係音感 を 重要視 し,倍音 の音列 を取 り入れることに よ り,豊 か な和声 感が生 まれ る と主張 してい る13)。 音指 導 の順序 と して,倍音の昔列 にお くこ とと し,第7倍 音 まで を和音 的,第8倍音以 下 は,音階的 であ る こ とか ら,最初は和音的な指導 を,後 に音階的な指導 へ と進め ることが合理的である と述べてい る (譜例
2)1410
語例2 倍音列 と音階の関係
和 ti的
I l ノ ト
‖耕.1.
ト レ ミ 幹77
4 :5 .6 :7 .8 , 9 10:ll:12:13:14:15:16
倍音の音列 を基調 とした関係音感 については,汰 の ように述べ てい る
。
「音 を指導す る順序 の基礎 と して,倍音 の音 列 を取 り入 れ る こ とに よ り,(ド) (ソ)(ミ)と和音 的な順序 とな り,音 高認識の態度ち,(ド)か ら
『 5
とび』 (五度 うえ)(ソ)を関係 的, 反射 的に感 じ取 る もので,(ド)(レ)(ミ)(フ ア)(ソ) と探 る態 度 を否 定す る。従来 の方法 で は,(ド)‑(ソ)は,(ド)(レ)(ミ)(フア)(ソ)と心の中で歌 って
‑72 ‑
音 を出 し,(ド)‑(ラ)の跳躍昔 も同 じように探 るこ とが見 られた。が, これでは,音認識の力が向上 し ないのが当然である。」五度 うえの(ソ)は,第3倍音, 第6倍音 に生 じ,(ド)の次 に感 じ取 りやす い音 であ
り,体系的に も効率の よい音の取 りかた と考 え られ る。
清水修 は,合唱教本の中で
,
「四声 部の和音 では その中の どれかが重複 されていることがある。 まず その重複 された音 をよ くあわせ,次 に完全五度の音 程,三度の音程 を正 し くとる ようにす る。」 と述べ てい る15)。清 水 の場 合 ,和音 練 習 の 中心 は,長三 和音 と短三和音の二つ とし,それ以外 の和音 は補習 程度 に取 り扱 えば よい としている。清水 は和音の種 類 を次 の順 にすす めてい る。長 三和音 ,短 三和音 , 減三和音 と増三和音,属七の和音,副七の和音,減 七の和音である。野上,清水 らの主張 は昭和30年代 前半の著書で述べ られてお り,その時代 にすでに練 習の過程 として,協和音程 を主軸 として音程感覚 を 養い,不協和音程 の感覚 も取 り入れ られてい ること は非常 に興味深い。小林秀雄 は,同音 またはオクターブのユニゾ ンで 音量変化,早口言葉, リズム練習,和声的 ス タイル による縦 のバ ランス練習,ユニゾ ンに よる跳躍音程 の練習,ユニゾ ンによるス タッカー トの練習,異 な る旋法の重複練習 な ど,ユニゾ ンを利用 して歌唱技 術 と和声感の両面 を向上 させ てい く方法 を主張 して いる。そ して,後半では,短三和音 に よる和声 的ス タイルの練習 を取 り入れ,異 なる旋法 にい きな り入 る練習 を取 り入れ るな ど,かな りの高度 な和声練習 となっている。ユ ニゾ ンを用いた練習 は倍音が一致 す るため, ピッチが完全一致す る感覚がつかみやす い と考 え られる。 また,小林 は,長 ・短の2度,3度 を正確 に とることは,あ らゆるメロデ ィー的現象の 把握 やその歌 唱 の基礎 を作 る と述べ てい る16)。 ま た, 日本のわ らべ うたの音感 をよ りどころ として こ のテーマ を追求 し,歌詞 もわ らべ歌 の ことばを分解 して再編成す ることで,五音音 階による和声感. 日 本語 による発声 ・発語の意識が強 ま り,特徴 的 な合 唱教本 となっている。
鈴木憲夫の場合 は, コー ラス ア ンサ ンブルの向上 を 目指 して練習方法 を作 成 してい る17)。声 その も の,響 き, ア ンサ ンブルに重点 を置 き,すべて母音 を用 いている。1度,3度,4度,5度,6度,8度 な ど, それぞれの響 きの特徴 を活か した ものか ら後半 には 全音,半音,不協和音 を各パー トに取 り入 れている 点が興味深 い。
多田武彦 は,和音 は,音楽 における色彩 の役 目を 持 っている とし, 日本の 「和音 に知識 ・理解 ・体得
の水準」 が諸外 国に比べ て低 く,3度の和音 は比較 的 よ くハモ ルが,完全5度,完全4度,2度の和音 は きちん と体得 しない とハモ リに くく
,
「音楽 における色彩」 とも言 うべ き和音 の威力が充分 に発揮 され ない と述べ ている18)。
各作 曲家が述べ ている和声練習 は,概ね倍音列の 特 質が活 か された もの となってい るこ とがわか る。
そ して,ユニ ゾ ン,完全5度音程,3度音程 に加 えて, 4度音程,2度音程,不協和音程 の重要性が指摘 され
ている。
2.ハ ンガ リーの和声練習
ガル ドシュ ・パールは,清潔 な イン トネー シ ョン 育成 にあたって最良の出発点 となるのは, 自然倍音 の長 三和 音 内 ,す な わ ち6つ の部 分音 に並 ぶ 二 つ (またはそれ以上) の隣 り合 った音程 であ る と述べ てい る19)。 譜例3は倍音 を合 唱形態 と重 ね た もの である。
語例3 自然倍音 と合唱形態 同声合唱
1. 2. 3. 4. 5. 6.
Do do so do mi so
清潔 な長三和音 の音響形態 (倍音列) では基音が 3回,5度が2回,3度が1回現 れる。理想 的 に響 かせ たい場合, この倍音 の内部比 に従 って響 きのバ ラン ス をとらねば な らない と指摘 している。do(基音)
>so(5度音)>mi(3度音)の順番で発声 し,音量 も減衰 してい くと理想 的な響 きを得 られるといえる。 この 方法 は,ハ ンガ リーの ミラ クルム合唱団の練習 の初 期段 階で も使用 されている。 さらにそ こでは, この 長三和 音 に,第2音 を最後 に入れて,完 全5度,長3 皮,短3度,長2度の響 きを体感 させていたが, これ
も倍音列 に したが って取 り入れ られてお り,和声感 の育成 には大変効率 の よい練習 といえる。
イルデ イコ一 ・へ ルポ イ ・コチ ヤールは,実作 品 の練習や各種 の音 階の練習 において,次の ような準 備 を示 している20)。
① 二つの声部がユ ニゾ ンになる部分 を捜す。 また 二つの声部が完全5度 を形成す る部分 を探すo
② その曲全体 を両パ ー トをあわせ てゆっ くりと歌 う。 そ して,完全8度や完全5度が聞 こえる部分 に注 目す る。
Ⅱで も述べ た ように,ユ ニゾ ンと完全8度,完全5 度音程 は協和 度が強い ことか ら, まず和声感の基軸
‑ 73 ‑
虫明晃砂子
となる音 を視覚 と聴覚で認識す ることは大切 な練習 であろう。ポ リフォニー‑の導入 において, コチ ヤ ールが主張 している方法を以下 にい くつか挙げてみ よう21)。移動 ド唱法が理想 的ではあるが, これは, 日本 の学校教育 に根づ いていないため,la,maな どのヴオカリ‑ゼに置き換 えて歌 うことも現状 に即 して導入す る必要があると考 える。
(1)同 じ開始音で始 まる各種 のモ ダール ・スケー ル (旋法 による音階) を階名で歌 う‑短2度 (半音)の音程 を正確 に
(2)五音音階をカノンで歌 う‑ 「ラ」では じまる 五音音階の美 しさ
(3)同 じ開始で始 まる各種の五音音階を歌 う (4) 5種類 の五音音階 を次 々 と交互 にカノンで歌
つ
(5)長音階 と短音階をカノンで歌 う
(6)音 階のパ ッセー ジを歌 う‑3声部/2声部 と3 番 目の声部 をず らす/中央の声部 を上声部 と 下声部の2つ に分ける
(7)長調 と短調のカデ ンツを歌 う
(8) 2度音程の練習 を行 なう‑不協和 な2度音程 に慣れ,親 しむ
(9) フア♯や ミ♯を含んだ音列 を同 じように練習 す る
(10)半音階や全音音階の練習 を行 なう
(ll)三和音の平行 を歌 う‑長三和音か短三和音の どち らかを合唱 してつ くり,三つの構成音 を すべて同 じ階名で歌 う
(12)完全4度の積み重ね‑新 しい響 きの感覚 に親 しむ
五音音階,長短音階,旋法,全音階,半音階など をカノ ンで歌 い,多声感 を養 うのは大変興味深 く, 新 しい感覚 を養 う方法であるといえる。協和音程 を 主体 と調性感のあるメロデ ィーをカノンで歌 う充実 感 を味わ うことも必要であるが, コチ ヤールの述べ ている不協和的な音程や音階を多声 に してい くこと で,新 しいハーモニー感覚が生 まれてい くことは現 在の合唱教育 には必要 となっている。2007年に筆者 が視察 したハ ンガリー ・ケチ ケメー トの コダーイス クールの ミラクルム合唱団での ウ オームア ップは, コチ ヤールの準備項 目 (8)〜 (12)が ほぼ取 り入 れ られた ものであった22)。 また,ハ ンガ リーで見 られる発声練習などは,すべて移動 ドによるもので あった。 コチ ヤールは,階名唱がで きることの意義 について,移動 ド唱法によ り聴いたメロデ ィーの音 をその調性 における機能感 に基づいてす ぐに理解で きる点であ る と述べ てい る23)。移動 ドの 「ラ」 と
「ド」で始 まる五音音階の特徴 を子 どもたちに認識 させ るには,継続 して練習 させ ることが必要であ り, 教師が常 に移動 ドで子 どもたちに歌 いかけることは 絶対条件であろう。 しか し,響いている音程 を認識 す るために,母音唱法がいいのか,音階の種類 を理 解 させ,それを移動 ド階名唱で歌い続けることが有 効 なのか,その意義については指導者によって大 き く異 なっている。ハーモニーを聴 き取 り,歌唱で き る力 と階名唱法 との関わ りや意義については, ここ では省略す る。
以上, 日本 とハ ンガリーの合唱練習について考察 した結果,倍音や結合音の性質や特徴 を認識 した合 唱練習が,和声感 を育成す る上で有効であることが わかった。そ こで, 日本の学校教育に適応す る練習 方法 として,以下の7点 を提案する。 ソルフェージ ュのテキス トを用いず, さまざまな音階,音程,唱 法 を柔軟 に使用するハーモニー練習を行 うことを目 的 としている。
① 完全5度 音程 を基調 とした長三和音 ・短三和 音 ,長2度 の響 きを入 れ た和 音 練 習 (ド ・ ソ ・ミ ・ド /ド ・ソ ・ミ ・レ ・ド)‑協和音 程か ら不協和音程へ変化の認識 と育成
② 曲の中か ら縦の和音,sT,ABな どの声部 を組 み合わせて取 り出 し, ソルフェージュ的に活 用す ること‑楽 曲中における和声感の認識 と 育成
③ 2声 問の音程 を全音音階,半音音階な ど取 り 組みやすい音列で組み立てること‑協和音程 か ら不協和 までのさまざまな音程感の認識 と 育成
径) カノンを活用す ること (五音音階,和声的 ・ 旋律的音階)‑多声の響 きの体感
⑤ 旋律 を長三和音や完全4度や長2度の平行で歌 う‑あ らゆる和声感‑の対応法 として
⑥ 移動 ド唱 ・固定 ド唱 ・母音唱 を柔軟 に取 り入 れること‑あ らゆる楽曲への対応法 として
⑦ la,lu,lo等で楽 曲を歌唱す ること‑和声感 とフレー ズ感の育成
V.
まとめ「和声感」 に着 目し, 日本の学校教育へ導入可能 な,和声感の育成が取 り入れ られた練習方法 につい て検討 した。和音の構成音の持 っている倍音や結合 音の性質や特徴 を認識 し,その知識 を活か した音程 練習 を合唱練習 に取 り入れることで,演奏者の耳が 鍛 えられ, さらにこの練習が,正確 な音程か ら生 ま れる合唱の調和感覚,色彩感や広が りが感 じられる 合唱づ くりの基礎 にな りうることがわかった。 ここ
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で述べた練習方法 をまとめると次の5点になる。 き」],全音,1994,p.3.
1. まずユニ ゾン,完全5度の正 しい ピッチ を身 5)ア レクサ ンダー ・ウ ッ ド, 『音 楽 の物 理 学
』 ,
につけ,完全4度 ・長 ・短3度音程 を取 り入れ 1976,p.228.
た和音の基礎練習 をする 6)前掲 書5)p.221‑233を参照 した。
2.不協和音程 (2度) を取 り入れる 7)前掲 書5)p.220.
3.不協和音程 (堰,派,7度) を取 り入れる 8)前掲書5)p.221を参照 した。 4.多様な音階 (全音階 ・半音階 ・五音音 階,和 9)前掲 書5)p.224.
声的 ・旋律的音階等) を取 り入れる 10)ホア ンG.ロー ダラー,『音楽の科学』,音楽之友 5.同旋律 による平行歌唱 (長三和音,完全4度,
長2度等) を行 う
正確 な和声感 ・音程感 を獲得す るためには,練習 で色 々な和音 を感 じることが必要である。幼少期か ら継続 して和音 を感 じる練習を続けることは,小学 校,中学校の合唱活動の向上発展 につ ながる と考え
るD また同時に,正 しい呼吸法や発声法で コン トロ ールされた声が必要である。和声感の育成 と正 しい 発声法の習得は,相乗的なものであ り,したがって, 合唱のための和声練習の中に出来る限 り柔 らかな声 の出 し方を組み入れることも重要であろう。今後は, 合唱指導の基礎 となる和声感の育成 とリラックスを 取 り入れた呼吸法,心技体のバ ランスの取れた指導 法についての研究 に取 り組んでい きたい。
注
1)高橋雅子,効果的な合唱指導のあ り方 と指導者 の心構 え
,
「山口大学研 究論叢 ,芸術 ・体育 ・ 心理57」,2007,p.3L2)前掲 書 1)p.39.
3)イルデ イコ一 ・へ ルポ イ ・コチ ヤール, 『合唱 指導の出発点
』
,音楽之友社,2002,p.13.4)ガル ドシュ ・パ ール,『合唱の育成 ・合 唱の響
社,1983,p.183.
ll)小万厚, 『音律 と音 階の科学
』
,講談社,2007, p.86‑87.12)前掲 書11)p.109.
13)野上義 臣, 『読譜指導法
』
,音楽之友社,1958, p.8.14)前掲 書13)p.ll.
15)活 水 備 , 『合 唱 教 本 』. カ ワ イ楽 譜, 1959, p.120.
16)小林秀雄,『合唱のための試み
』
,全音楽譜 出版 社,1973,p.ll.17)鈴 木 憲 夫, 『女声 (同声) の ための43の合唱エ チュー ド』, カワイ出版,2002.を参照 した。
18)多田武彦,合唱 を練習す る際の留意事項第
2
回,「ハーモニー134号
」
,社 団法人全 日本合唱連盟, 2005,p.72.19)前掲 書4)pp.2‑3.
20)前掲 書3)p.34.
21)前掲 書3)pp.36‑42.
22)詳細 については,児童 ・生徒の 自然 な声 を引 き 出す合唱指導 につ いて
,
「岡 山大学教育学部研 究集録第139号」pp.93‑95を参照 されたい。23)前掲 書3)p.48.
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