意欲的にコミュニケーション活動に
取り組める生徒の育成
―実際の言語使用場面を想像したり、
疑似体験をしたりできる教材の作成・活用を通して
― ×××××××××××××× 特別研修員 林 秀紀 ××××××××××××× Ⅰ 研究テーマ設定の理由 本校生徒に小学校時代の外国語活動の感想を聴くと、外国語活動が嫌いな生徒はほとんどいないようであ る。しかし、中学校に入学し進級するにつれて英語を好きでなくなる生徒が増加する傾向がある。特に、中 学1年生の1年間で英語を嫌いになる生徒が多いと感じられる。 英語を嫌いになる生徒を生み出さないためには、コミュニケーション活動に取り組む意欲をもたせること が大切であると考える。英語を使う実際の場面を想像できる状況を設定したり、そのような教材を提供した り活用させたりすることによって、生徒の英語学習に対する意欲を引き出す学習形態を必要があると考えた。 意欲的にコミュニケーションを図りたいと思う状況や実際の場面に近い状況設定のために ALTの活用はも ちろん、ALTが不在の授業でもICTを上手く活用し多くの生徒が意欲的に活動できる雰囲気を作り出したい。 また、意欲的に英語学習に取り組むことで、学力の定着も進むであろうと考え、本主題を設定した。 Ⅱ 研究内容 1 研究構想図意欲的にコミュニケーション活動に取り組める生徒
(2) 実際の場面と似た体験ができる (1) 実際の場面を想像できる教材 教材の作成 機会の設定 ①ICT(電子黒板)の有効活用 ①場面設定の工夫 画像編集ソフトとパワーポイント活用によ 生徒が意欲的に活動に取り組めるような る疑似体験 動機付け ②自作教材の配付 ②ICTの有効活用 全生徒が同じ体験ができるオリジナル教材 デジタルカメラで撮影したものをコンピュ ータ画面上で見合いアドバイスし合うグル ープ活動 生徒の実態 ○小学校の外国語活動ではほとんどの生徒が楽しく、意欲的に活動に取り組んでいる。 ○中学校1年生の1年間で英語の学習に対しての意欲が低下してしまう生徒がいる。 G09 - 02 群 教 平 26.25 4集 セ 英 語 - 中 目指す生徒像2 授業改善に向けた手立て (1)実際の使用場面を想像できる教材の活用 ①場面設定の工夫 ALTのご両親が一学期に本校を訪れたことがあるので、そのご両親に英語で自己紹介をするという場 面を設定し自己紹介文を考えさせ、表現方法も工夫して自己紹介のビデオレターを作成させた。 ② ICTの有効活用 生徒二人組でデジタルカメラを使って自己紹介を撮影させた。その後、その動画を教室内のコンピュ ータに保存し3~4人のグループで鑑賞し、お互いにアドバイスシートを交換し良いところや改善すべ き点を伝え合った。そして、それを参考にしてよりよい自己紹介を完成させた。 (2)似た体験のできる教材の活用 ①電子黒板の有効活用 画像編集ソフトで編集を加えた本校の教師の写真を電子黒板で少しずつ見せながら英語でヒントを出 し、「Who is this (he/she)~ ?」 と質問し、正解が少しずつ分かるように提示し生徒とやりとりしな がら導入することができた。
②自作教材の配付・活用
コンピュータで編集した画像を生徒一人ひとりに配布することはできないので、アルバムを加工した 教材を作成した。各ページに切れ込みを入れ、めくるたびに少しづつ中にある人物がわかる仕組みにし た。その人物についての英文を作成しクイズ形式で質問し合い、 Who is this (he/she)~ ? の定着を 図った。 Ⅲ 研究のまとめ 1 成果 ○ 生徒が実際に英語を使って話さなければならない場面( ALTの両親への自己紹介)を設定したので、 生徒たちは意欲的にコミュニケーション活動に取り組めた。 ○ 普段見ることができない自分の姿をデジタルカメラで撮影し、自分で振り返ることができた。 ○ グループでアドバイスし合うことで、様々な視点を取り入れよりよい作品を作成することができた。 ○ 電子黒板を活用したり、手作りの教材を生徒全員に配付したりすることによって、生徒たちは同じ 活動が一斉にでき、意欲的に取り組むことができた。 2 課題 ○ 電子黒板は有効な学習教材になるが、生徒の座る位置や教師の立つ位置によって見え方に差が生じ てしまうことがあった。 ○ デジタルカメラやコンピュータのソフトを生徒が使う上で知識に個人差があり、実際に使う前には メディア教育等が必要である。 ○ すべての言語材料の導入において、上記のような場面設定や教材の作成・活用を考えるのはとても 難しく、いかに身近なものを活用し実際の場面に近い体験ができるようにするかを、教師側が常に考 えておく必要がある。 3 提言 ○ICTを有効に活用し、実際に使用するだろうと思われる場面を思い浮かべられる場面を設定したり、 実際の場面に近い体験ができる教材を生徒一人一人に用意することで生徒たちは意欲的にコミュニ ケーション活動に取り組むようになる。また、これらの教材は他の場面やどの英語担当教師でも使 えるように、使用方法のマニュアルを作成したり、簡単に再利用・アレンジ可能な状態で残してお いたりする必要があると考える。
<授業実践> 実践1 1 単元名 「My Project1 自己紹介をしよう」(第1学年・1学期」 2 本単元及び本時について これからの国際社会を生きる日本人として、世界の人々と協調し、積極的に国際交流を行っていけるよ うな資質・能力の基礎を養うことが求められている。教科書中のMy Project1は、生徒が各学期に学んだ 言語材料を振り返り総合的に活用することを通して、その言語材料の定着を図るとともに、生徒のコミュ ニケーション能力を高めようとするものである。既習事項を使って自己紹介の方法を学ぶことができるこ のMy Project1で、生徒たちは初めての自己表現を体験する。しかし、小学校1年生から現在までほとん ど同じメンバーで学校生活を送ってきた本校の生徒たちにとって、自己紹介をする必要性はほとんどない。 このため、生徒たちが必然的に英語で自己紹介をするような場面を設定した。それは、以前本校を訪問し てくれたオーストラリア在住の ALTのご両親に自己紹介をするという設定である。また、自己紹介のスピ ーチに抵抗なく臨めるように、導入の際に ALTや生徒にとって身近な教職員の簡単な自己紹介をデジタル カメラで撮影したものを事前に見せた。次に、小学校の既習事項やプログラム1~4で身に付けた言語材 料を駆使して自己紹介を作らせペアで撮影し合った。その後、振り返るために自分のスピーチを見たり、 グループでスピーチのビデオを鑑賞し合ったりした。その際に再度自分の原稿を発表するためのよりよう 方法を考え、修正を加えて完成させた。 3 授業の実際 (1)warm up の場面 クリスクロス(図1)を行い英語の授業の雰囲気作りをする。多くの生徒が ALTと問答できるように、 質問に答えた生徒を起点として縦・横・斜め等の列の生徒を起立させ、答えなければ着席できないよう な状況を設定する。質問は既習事項を活用し、答えが出にくい生徒にはヒントを伝え支援する。 (2)本時の学習課題をつかみ、追求の見通しをもつ ① ALTのデモンストレーション(図2)を見て、本時の活動の最終的なイ メージをつかむ。 ②話合い活動の目的やスピーチの映像を見るときの観点を知ることによっ て、本時の活動に意欲的に取り組めるようにする。 ③自己紹介をするときは、ジェスチャーや表情など、伝え方が大事であることを伝える。 図2 ALTのデモンストレーション 図1 クリスクロス 本時の課題 自分の自己紹介の映像を見たり、友達のアドバイスを聞いたりしてりしてより 良い自己紹介文を完成しよう。
観点
①
原稿を見ないでカメラ目線で、大きな声で話すことができている。
②
正しい発音で発表することができている。
③ジェスチャーや表情など発表を工夫している。
質問例Are you a soccer fan? Are you from Gunma?
(3)グループによるアドバイス活動 ①各自前時に撮った自己紹介の映像を教室のコンピュータ で順番に鑑賞し合う。生徒は自分の自己紹介を初めて鑑 賞し振り返ることができる。また、グループ内で見ても らい、良かったところ、もっと良くした方がいい点等を 発表の観点に照らしながらアドバイスシート(付箋紙) に鉛筆で記入し交換し合う(図3)。 ①アドバイスシートを参考にし、自分の実際の映像を見て よかったと思うことは引き続きおこない、友達のアドバ イスを素直に受け入れて自分のものにするための方法を 考える。 自分はこのように自己紹介をやりたいという意気込みをワークシートに決意として記入する。再発 表の練習の時はイントネーション、アクセント、ジェスチャー等に気を付け表現できるようにする。 ③自分の映像を見た感想や友達のアドバイスを参考にして改良した 自己紹介をグループ内でもう一度発表する(図4)。前回の自己 紹介の映像より良くなったところや良くできているところを、緑 色の付箋に記入しワークシートの中央に添付する。 4 考察 ALTのご両親に自分の自己紹介の映像を送り、返事を もらうというビデオレターの交換という設定を行ったこ とで、自己紹介をする意義が見いだされ生徒は意欲的に 活動に取り組むことができた。 デジタルビデオカメラで撮影した自己紹介を自分で見 ることができたので、振り返りが良くでき、生徒のもっ と良いものを作りたいという意欲につながった。 話合い活動の目的やスピーチの映像を見るときの観点 を示したことで、生徒たちはグループで映像を見る時の アドバイスのポイントが分かったのでグループ活動に意 欲的に取り組めアドバイスシートにいろいろ記入するこ とができた(図5)。 ICTを活用し、コンピュータに貼り 付けられた映像をグループで鑑賞し合い、アドバイスシ ートにグループの友達からよかったこと(黄色の付箋)や アドバイス(ピンクの付箋)をもらったことは、自分の 自己紹介をよりよいものにしようという意欲につながっ た。自分の自己紹介を見た振り返りや友達からのアドバ イスや励ましにより、実際の撮影に意欲的に撮影に取り 組むことができた。 図3 鑑賞・アドバイス 図5 アドバイスシートを貼付した自己紹介文 ち ょ っ と 早 い と 思 っ た 。 ゆ っ く り で 聞 き や す か っ た 。 カ メ ラ 目 線 で ジ ェ ス チ ャ ー も 良 か っ た。 図4 直したスピーチの発表 アドバイスシートに書かれた内容
*良かった所
ジェスチャーが上手だった。 声が大きかった。 明るくできていた*改善すべき点
表情が暗かったので明るくしよう。 英語の発音を気を付けよう。 自信を持とう。 良 く な っ た と こ ろ ア ド バ イ ス 良かったところ 意 気込み実践2 1 単元名 「PROGRAM 7 Dilo the Dolphin」 1 人の名前などをたずねたり答えたりできるようにしよう (第1学年・2学期) 2 本単元及び本時について 本単元では、疑問詞「Who~?」、「When~?」を学習する。生徒は情報収集の手段としてこれらの 表現を用いることにより、より多くの情報を交換をすることができるようになる。また、お互いのコ ミュニケーションの幅が少しずつ広がっていることを実感できる。生徒たちにとって相手の答えに興 味をもちながら話を聞いたり、相手に伝わるように話したり書いたりするのは、表現の幅を広げてい く上では欠かすことのできない活動である。本時は全8時間計画の第1時間目にあたり、写真や絵をヒ ントに使いながらクイズをペアで出し合う活動を通して、 Who is ~? を用いたコミュニケーション活動 に意欲的に取り組めるようにするのが狙いである。一見しただけでは誰だかわからない人を少しずつ見せ ていけるような状況を ICT活用や自作の教材で設定し、whoを正確に用いて対話に意欲的に取り組めるよ うに次のような手立てを実践した。 3 授業の実際 (1)本時の学習課題(whoの使い方や答え方)をつかみ、追求の見通しを持つ。 実際の場面をイメージできるようにパワーポイントを活用し、少しずつ画像を提示し Who is ~? で 何を知ることができるのかわかるようにする。内容が定着するように、生徒の発言をできるだけ生かす ようにした心がけた(図6)。 図6 パワーポイントでの導入場面 (2)コミュニケーション活動 「 Who is this ~?」 ①教師と ALTとのデモンストレーションで活動の方法を示すことによって、生徒たちがどんな活動を するのかを理解しやすいようにした。このとき、アイコンタクトや表情が大事であることも教師が自 ら手本を示し強調したうえで生徒に伝えた(図7)。 図7 教師と ALTとのデモンストレーション [学習課題] 誰だかわからない人をたずねる表現を知り、ペアのクイズ活動に意欲的に取り組む。
デモンストレーションを見てもなかなか表現活動になれていない 生徒のために、コミュニケーションの方法を示す図を複数箇所に設 置したので向かい合ったペアワークであったが生徒たちはコミュニ ケーション活動に意欲的に取り組むことができた。 ②ページをめくると中の写真が少しずつ見えてくるアルバム教材 (図9)を生徒一人一人に用意し、その教材を使って、生徒たちは 隣のクラスの生徒が前時の授業で作成した友達紹介の作品を活用し て「Who is this~?」コミュニケーション活動に取り組んだ(図10) 。 図9 オリジナル教材 ③次の活動は、同じアルバムの中に入っている有名人の絵につい て与えられた情報や自分の知っている情報に基づいてクイズ形 式で英語で紹介文を作成し、クイズを出し合うものである。 前時で、生徒たちは、隣のクラスの生徒に向けて自分の隣の 席の生徒を紹介する文を書き、並び替えクイズを作成している。 そのため、多くの生徒が与えられたワークシートの情報からそ の有名人の紹介文を書くことができ、その英文を元にクイズを 作ることができた。 なかなか英文を作れない生徒には、適宜、 ALTが支援を行っ た。一人一人が作ったクイズを使い、新しいペアを組んでは、 自分のアルバムにある有名人について「Who is this~?」の表 現を使ったクイズを出し合った。多くの生徒がコミュニケーシ ョン活動に意欲的に取り組んだ(図11)。 4 考察 「 Who is this~?」を使う状況を実際に想像できる場面をパワ ーポイントで提示し、身近な人を少しずつ見せることで、生徒に「誰 だろう?」と考えさせながら新出 言語材料の導入を行うことができた。これにより、生徒たちは今日は何を学ぶのか導入時にイメージする ことができた。一人一人に同じような体験ができる教材を用意したことで、全生徒が同じようにペアで隣 のクラスの友達や有名人のクイズを出し合うコミュニケーション活動に参加することができた。 今回作成した教材は作成に時間がかかるが、用途がたくさんあるので使用方法のマニュアルを作成した り、再利用・アレンジ可能な状態で残しておいたりすると良いと考える。 図11 有名人紹介クイズの様子 図10 隣の組の友達紹介クイズ 図8 活動の方法図