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糖尿病境界型を放置できない理由は 糖尿病への進展リスクが高いこと および動脈硬化性病変が発症する例が多いことー 食後のインスリン分泌が生来低い かつ遅延している という特質を有している例 具体的には両親のいずれかが2 型糖尿病を有している例では 発症前にはむしろインスリンの働きが supernorm

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Academic year: 2021

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糖尿病をどう捉える

河盛隆造(順天堂大学大学院〈文科省事業〉スポートロジーセンター センター長) 図1 脳梗塞で入院した非糖尿病患者におけるOGTTの成績 0 20 40 60 80 100 (%) アテローム血栓性脳梗塞 (n=161) 98 35 22 18 9 1 24 10 5 19 2 17 2 6 ラクナ梗塞 (n=73) 心原性塞栓症 (n=34) NGT(n=42) IFG(n=4) IGT(n=39) 新たに糖尿病型と 診断された(n=28) すでに一度でも糖尿病 と診断されていた (n=155) (文献1より引用)

   はじめに

 「糖尿病の治療は、血糖値や血圧をコントロールす ることではなく、究極的に脳・心血管イベントの発 症・進展を阻止すること」が改めて強調される昨今で ある。順天堂大学付属病院に「脳梗塞」で入院して きた連続する患者のうち、糖尿病の治療を受けてい ない 268 例を詳細に調査した。「脳梗塞」をアテロー ム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性塞栓症と分け て分析した。退院時に OGTT を行ったところ、正常 血糖応答を示した例は実に 10 〜 20%にすぎなかっ た(図11))。同様の検討を心筋梗塞で入院してきた 患者群にて行ったところ、まったく同様の結果を得 た2)。2 型糖尿病と診断されている例のみならず、 prediabetes の状況においても脳梗塞や心筋梗塞の発 症予防を目指すことが必須といえよう。  このような例では、積極的に PWV、ABI、AI や B モードエコー法による頸動脈内膜中膜複合体肥厚度 (intimal plus medial complex thickness;IMT)を測 定し、早期の動脈硬化性病変の進行度を把握し、治療 方針の参照、治療効果の評価に応用すべきであろう。  「糖尿病境界型」とは、耐糖能が低下し、健常人に 比べ少々血糖値が高い状況と捉えざるを得ない。2 型 糖尿病や境界型の耐糖能障害の発症機序は一例一例 で、かつ各時点で異なる。したがって“糖のながれ” の観点から、病態生理を把握することがその是正の ために必要であろう。

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図2 “宿命的な”遅延インスリン分泌が生活習慣病を勢揃いさせ、動脈硬化症を進行させる! 肥満・脂肪肝 脂質異常症 高血圧 食事 運動不足、 過食 健常β細胞インスリン分泌動態 遅延・過小インスリン分泌 食後高血糖に刺激された インスリン分泌

   糖尿病境界型を放置できない理由は

−糖尿病への進展リスクが高いこと、および動脈硬 化性病変が発症する例が多いことー  「食後のインスリン分泌が生来低い、かつ遅延して いる」、という特質を有している例、具体的には両親 のいずれかが2型糖尿病を有している例では、発症前 にはむしろインスリンの働きが supernormal である、 すなわち全身細胞、特に肝のインスリンの感受性が亢 進していて、食後には少ないインスリン分泌で肝糖取 り込み率が亢進し、糖のながれを正常化させている。 やがて軽度な過食、内臓脂肪蓄積、脂肪肝、運動不 足などのため亢進していたインスリン感受性が健常 人並みになると、インスリン分泌が少ないため、直ち に糖の処理が不十分になる。これを血糖応答の面より みると、最初の異常として食前正常血糖値、食後のみ 短時間血糖値が健常人に比べ高くなる、さらに高血糖 の持続時間が徐々に長くなり、やがて昼食前血糖値、 夕食前血糖値が高くなる。さらに進むと 12 時間以上 の絶食にもかかわらず、朝食前空腹時血糖値が高くな る。すなわち、空腹時血糖値が 126mg/dL 以上となっ て、糖尿病と診断された時には、すでに糖尿病罹病期 間が長くなっている可能性があろう。すなわち、糖 尿病境界型と診断された時期に、その原因を把握し、 再び正常血糖応答の状況に戻すべく努力することが 必須となろう。  一方、肥満が糖尿病の引き金と捉えられがちだが、 食後高血糖に刺激されて、遅延してむしろ過剰に分泌 されたインスリンが、ブドウ糖を特に運動不足の人で は肝のみならず脂肪細胞に取り込ませることとなり、 肥満を助長させる、さらに脂質代謝異常を引き起こ す、食後の遅延、しかしむしろ過剰なインスリンが、 例えばアンジオテンシンⅡ type 1 受容体を刺激して 高血圧を起こす、と捉えることもできよう。すなわち、 “宿命的な”インスリン分泌動態が bad companions を勢揃いさせ、動脈硬化症を進展させる、と考察し たい(図 2)。

   境界型で動脈硬化症が進展するか?

−早期動脈硬化症の定量的指標としての B モードエ コー法による IMT の成績から−  では、軽度耐糖能障害例で動脈硬化症の発症・進 展が必ず認められるであろうか? 筆者らは早期動 脈硬化症の定量的指標として、B モードエコー法で求 めた IMT が有用であることを示してきた。健常者で は年齢とともに IMT は増加したが、IMT が 1.1mm 以上になることはなかった。糖尿病患者約 1,000 名で は 20 〜 70 歳代まで、各年代ごとの健常者に比べ有 意に IMT が増加した。ことに、20 〜 40 歳代の糖尿 病患者の IMT は、健常者 50 〜 70 歳代と同等であり、 20 〜 30 年早く動脈硬化が糖尿病患者において進展し

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図3 IGT例の頸動脈IMT 0 30 60 120(min) 血 糖 値 ( m g /d L ) イ ン ス リ ン ( μ U /m L ) 0 50 100 150 200 50 100 150 200 250 300 low insulin (文献4より引用) IMT(mm) BMI(kg/m×m) DBP(mmHg) TG(mg/dL) 0.93±0.09 22.3±2.9 75±6 160±154 0 30 60 120(min) 血 糖 値 ( m g /d L ) イ ン ス リ ン ( μ U /m L ) 0 50 100 150 200 50 100 150 200 250 300 high insulin IMT(mm) BMI(kg/m×m) DBP(mmHg) TG(mg/dL) 1.10±0.29* 25.3±2.1* 83±9* 215±198 0 30 60 120(min) 血 糖 値 ( m g /d L ) イ ン ス リ ン ( μ U /m L ) 0 50 100 150 200 50 100 150 200 250 300 low insulin IMT(mm) BMI(kg/m×m) DBP(mmHg) TG(mg/dL) 1.01±0.24 22.6±2.5 74±9 140±59 0 30 60 120(min) 血 糖 値 ( m g /d L ) イ ン ス リ ン ( μ U /m L ) 0 50 100 150 200 50 100 150 200 250 300 high insulin IMT(mm) BMI(kg/m×m) DBP(mmHg) TG(mg/dL) 1.15±0.29* 25.0±2.2* 84±9* 245±157 *:low insulin群に対し有意差あり。 ている可能性を認めた3)。さらに IMT が MRI で調べ たラクナ梗塞巣の有無と相関すること4)、冠動脈造影 で見た狭窄枝数と相関すること5)など発表してきた。 IMT は今や心血管障害の予後予知因子として脚光を 浴び、多くの mega-study の surrogate endpoint とし て用いられるに至った。

 さらに筆者らは、OGTT 境界型例においても糖尿 病患者と差がない程度の IMT を呈していることを認

めた6)。その後、欧州での DECODE 研究、Funagata

研究などにより、IGT(impaired glucose tolerance; 耐糖能異常)は心血管死が多いことが示され、「IGT は動脈硬化が進行するステージである」と教科書に 記載されるに至った。しかし、2 型糖尿病のみならず OGTT 境界型はインスリン分泌能、インスリン抵抗 性の面からみると、きわめて不均一な集団である。前 述例を一例一例見直したところ4)、驚いたことにその 大多数は遅延インスリン分泌を呈していた。図3 の 左側 2 段はインスリン分泌が遺伝的に規定され、遅延 かつ低値であるのに、75g ものブドウ糖を一気に飲用 したにもかかわらず、高血糖になっていない、すなわ ちインスリンの働きが supernormal である、と理解 できる。これらの例では、IMT は正常域であり、肥満、 高血圧、高 TG 血症もなかった。一方、右側 2 段はイ ンスリン分泌が遅延しているものの、1 あるいは 2 時 間値が 100μU/mL と過剰分泌を呈していた。すなわ ちインスリンの働きが低下し、代償的に高インスリン 血症になっていたこれらの例では、IMT は高値であ り、BMI 25、拡張期血圧 83、TG 215、と軽度の異常

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を認めた。以上の結果は、血糖応答のみをみて、IGT であるからといって、食後血糖値が少々高いからと いって、動脈硬化が進行する訳ではないことを示唆 する。  OGTT は負荷試験であることも理解すべきであろ う。図3 左側の例では、日常生活下では食後血糖値 が 140mg/dL を超してはいないことがグリコアルブ ミン値などの測定から判明している。一方、図3 右 側の例では、毎食後に血糖値が 170mg/dL 程度にま で上昇し、その結果グリコアルブミン値が正常人の 上限値 16%内外にまで上昇している例が多いことを 認めた。  これらの結果から、“高インスリン血症が動脈硬化 症の引き金”と捉えられがちであるが、インスリン 分泌が過剰にならざるをえない、全身のインスリン抵 抗性状況が重なって動脈硬化症を発症させるものと 考えたい。2 型糖尿病の遺伝表現型であるインスリン 遅延分泌動態を有する例で、軽度であれインスリン 抵抗性が加味された場合に初めて動脈硬化症が発症・ 進展しやすい、と捉えたい。今、メタボリックシン ドロームが注目されるが、その構成要素が、この成績 とも一致している。遅延インスリン分泌を呈する方々 ではメタボリックシンドロームになりやすい、と捉 えることもできよう。

   軽度耐糖能障害への介入のありかたは

 IGT、IFG(空腹時血糖異常)と診断した際には、 NGT(正常血糖応答)に戻すべく指導すべきであろう。 同時に動脈硬化症の発症・進展リスクのある例にお いてはその阻止を図らねばならない。インスリン分 泌量、分泌パターンに関係なく、インスリンの働き、 特に肝・筋の糖代謝作用を耐糖能障害発症前の状況 に戻すことが第一義的手法となろう。  IGT、IFG に介入する手法を考えてみたい。 1.生活習慣、特に食事・間食の内容や運動不足の改善  生活習慣、特に食事・間食の内容や運動不足の改 善などにより、インスリンの働きを再び supernormal に戻す。筆者らは 10 日間の糖尿病教育入院となった 患者 14 名を食事療法単独または食事+運動療法によ り加療を行い、入院前後に1H-MRS により、肝細胞、 骨格筋細胞内脂質を定量し、また、正常血糖クラン プ法に OGTT を組み合わせて、インスリンによる筋 糖取り込み率、肝糖取り込み率を測定した。その結果、 食事療法単独では骨格筋細胞内脂質がほとんど変化 しなかったが、食事+運動療法群では骨格筋細胞内 脂質が平均で 19% 減少した。また、インスリンによ る筋糖取り込み率は食事療法のみでは有意な改善を 認めなかったが、食事+運動療法群では 57% もの増 加をみた。また、肝細胞内脂質に関しては両群とも 同様に平均 27% の減少が認められ、これに並行して 肝糖取り込み率が有意に改善した7)  さらに筆者らは同様の手法を用いて、平均体重 100kg の男性肥満症患者 15 名を対象として食事療法 を中心とした 3 ヵ月間の介入調査を行った。その結果、 3 ヵ月間の食事療法により平均 6.2kg の減量が達成さ れ、それに伴い糖代謝、脂質代謝、血圧といった動脈 硬化のリスクファクターはいずれも有意な改善を認 めた。75g OGTT により評価した耐糖能についても、 介入後では介入前に比較して有意に血中インスリン 濃度、血糖値が低下し、減量によりインスリン抵抗 性が改善された結果であると考えられた。前述のよう に、骨格筋、肝臓における細胞内脂質とインスリン による糖処理能をそれぞれ臓器別に評価したところ、 骨格筋細胞内脂質量、そしてインスリンによる骨格筋 への糖取り込み率には有意な変化を認めなかったが、 肝細胞内脂質量は 13.4 % から 8.4% と半減し、これに 伴って肝糖取り込み率が実に約 2.4 倍と著増した8)。 2.肝でのインスリン作用を高めるメトホルミン、 あるいはインスリン抵抗性改善薬、チアゾリヂン (TZD)、によるインスリンの働きの改善  メトホルミンやピオグリタゾンによる糖尿病発症 予防効果が近年次々と示されている。 3.食後に門脈へのブドウ糖の流入を穏緩徐にして、 肝へのブドウ糖の供給とインスリン分泌パターンの 遅延を一致させることを目的としたα- グルコシダー ゼ阻害薬による、食後血糖値異常上昇の抑制  筆者らは、わが国で高血圧、脂質異常症、肥満、2 型糖尿病家族歴、といった心血管イベントのリスクの 高い例、しかし OGTT は境界型という 2,000 例弱を 対象に、全例に食事・運動療法を強化・継続してもらっ た。Randomized double-blind study で、α - グルコ シダーゼ阻害薬(α -GI) ボグリボースかプラセボを 投与した。その結果、ボグリボース群ではプラセボ群 に比し、2 型糖尿病への移行は 40.5%減少、同時に正 常型への移行も 53.9%上昇を認めた9)。この研究は、 日本人を対象に薬物療法による 2 型糖尿病発症抑制効 果を初めて検討した臨床試験である。インスリン分泌 パターンが遅延し、かつ決して過剰ではない、という 特質を有することが多いわが国の例に対して、食後過

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血糖を抑制するα -GI は適しており、このようなエビ デンスが示されたことは有益であると考える。 4.食後瞬時のインスリン分泌を促し、肝へのインス リン供給を高めるインスリン分泌パターン改善薬、グ リニドによる食後血糖値異常上昇の抑制  遅延するインスリン分泌パターンをナテグリニド 投与が前にシフトさせ、糖尿病型や IGT を NGT の 状況にもたらすことを筆者らは証明している10)。さ らに早期 2 型糖尿病患者を対象とした前向き研究で、 ナテグリニド投与による毎食後血糖応答正常化群で は、非投与群に比し、わずか 1 年後に IMT の有意な 進展抑制効果が証明できた11)。 5.高血圧の治療薬、RAS 系抑制薬による 2 型糖尿 病発症予防  ACE 阻害薬やアンジオテンシンⅡ type 1 受容体拮 抗薬の投与により、新規の糖尿病発症率が高率に抑制 されるとするメタ解析結果がでている。アンジオテン シンⅡはインスリンシグナル伝達系に干渉しインスリ ンの働きを阻害すること、膵線維化を促進し、膵β細 胞のアポトーシスを惹起しインスリン分泌を抑制する など糖尿病発症に関与することが判明してきた。2 型 糖尿病の親をもつような例では、いかなる降圧薬を選 択すべきかも関心事となってきた。

   まとめにかえて

 糖尿病境界型、早期軽症糖尿病が発見された際に、 決して「放置」することなく的確な指導、治療が必 須であろう。  メタボリックシンドロームの診断基準の根底とし て内臓脂肪蓄積があげられる。内臓脂肪が蓄積して いる例では、脂肪肝を呈していることがきわめて多 い。提示したように、内臓脂肪量の変動がわずかで あっても、肝臓の脂肪量は激変している。さらに糖・ 脂質代謝における肝臓の重要性はいうまでもない。肝 に対するインスリンの種々の働きを、より詳細に検 討していくことも望まれよう。

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参照

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