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理学療法科学 34(5): ,2019 原著 足趾屈曲変形の発生機序に関する機能解剖学的考察 虚弱高齢者にみられるハンマー趾について Anatomical Study of the Developmental Mechanism of Lesser Toe Deformity 1) 村

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(1)

足趾屈曲変形の発生機序に関する機能解剖学的考察

─虚弱高齢者にみられるハンマー趾について─

Anatomical Study of the Developmental Mechanism of Lesser Toe Deformity

村上 忠洋

1)

  横地 由大

1,2)

  中野 隆

2)

Tadahiro MURAKAMI, RPT1), Yoshitomo YOKOCHI, RPT1,2), Takashi NAKANO, MD2)

1) Chubu Rehabilitation College: 2-2 Wakamiya-cho, Nakamura-ku, Nagoya-shi, Aichi 453-0023, Japan TEL +81 52-461-1677

E-mail: [email protected]

2) Department of Anatomy, Aichi Medical University

Rigakuryoho Kagaku 34(5): 575–580, 2019. Submitted Mar. 4, 2019. Accepted May 5, 2019.

ABSTRACT: [Purpose] An anatomical study was performed in order to investigate the effects of the activity of the

flexor digitorum brevis (FDB) and flexor digitorum longus (FDL) in elderly frail people with hammer toe deformity. [Participants and Methods] Nine feet from five cadavers were used in this study. All the third toes were disarticulated at the tarsometatarsal joint. The tendons of FDB and FDL, and the joint capsule were left intact, but other soft tissues were removed. The tendons of FDB and FDL were pulled separately under two conditions: (1) Contact condition: the bottom of the phalanx was contacting the floor; (2) Non-contact condition: the bottom of the phalanx was not contacting the floor. [Results] When the FDB was pulled, because the proximal interphalangeal joint was flexed, the distal interphalangeal joint extended to show hammer toe. [Conclusion] The actions of the FDB and FDL were different under the two conditions. It was considered that over-activation of the FDB was an important factor of hammer toe in elderly frail people.

Key words: hammer toe, intrinsic muscle, flexor digitorum brevis

要旨:〔目的〕虚弱高齢者のハンマー趾変形に関与する短趾屈筋(FDB)と長趾屈筋(FDL)の影響を確認するため, 解剖実習体を用いて検討した.〔対象と方法〕解剖実習体5体9足を対象とした.両側の足趾部を剥皮後,第3趾を 足根中足関節において離断し,FDB腱とFDL腱および関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去した.足趾底側 面を台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」の2条件で,FDB腱とFDL腱の牽引を行った.〔結果〕 「接地条件」でFDB腱を牽引した際,近位指節間関節の屈曲に伴い,遠位指節間関節は伸展した.〔結語〕「接地条件」 と「非接地条件」では筋の作用が異なっていた.虚弱高齢者におけるハンマー趾の発生機序としてFDBの過活動が 考えられた. キーワード:ハンマー趾,内在筋,短趾屈筋 1) 中部リハビリテーション専門学校:愛知県名古屋市中村区若宮町2-2(〒453-0023)TEL 052-461-1677 2) 愛知医科大学医学部 解剖学講座 受付日 2019 年 3 月 4 日  受理日 2019 年 5 月 5 日

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I.はじめに

安静な立位姿勢を保持する際,健常成人では,足趾を 免荷した状態と免荷しない状態において足圧中心の動揺 距離や面積に変化がなく1),足趾が床を押す力は,健常 男性成人で体重の約3%ほどしかないとされる2).した がって,安静立位保持に足趾の果たす役割は低いと考え られる.しかし高齢者では,安静立位保持時に足趾を免 荷した状態は,免荷しない状態に比べ,足圧中心の動揺 距離や面積が大きく,足趾で床を押す力も健常成人に比 べて大きいと報告されている3).このように,姿勢制御 能力の低下している高齢者では,その代償のため,安静 立位を保持する際に足趾の果たす役割が大きいと考えら れる.したがって,高齢者の姿勢制御における足趾の役 割を理解することは,その姿勢制御能力の改善を目指し, 転倒を予防するためにも重要なことと考える. また,姿勢制御能力が低下している虚弱高齢者では, しばしば立位保持の際に,第2~5趾の近位趾節間

(proximal interphalangeal:以下,PIP)関節屈曲位,遠

位趾節間(distal interphalangeal:以下,DIP)関節過伸 展位のいわゆるハンマー趾を認めることがある(図1). このような足趾変形は,多くの場合,座位では認められ ないが,立位になると出現し,足踏み動作時の支持脚側 において顕著になる.これは,姿勢制御における足趾屈 筋群の過剰な筋活動の結果として,足趾変形が生じてい る た め と 考 え ら れ る. し か し, 短 趾 屈 筋(flexor

digitorum brevis: 以 下,FDB) と 長 趾 屈 筋(flexor

digitorum longus:以下,FDL)のいずれの活動の影響 によるものかは明確でない.今回,虚弱高齢者のハン マー趾の発生において,FDBとFDLのどちらの影響が 大きいか確認することを目的として,解剖実習体を用い て機能解剖学的に検討したので報告する.

II.対象と方法

1.対象 愛知医科大学医学部解剖学講座において研究・教育用 に供された解剖実習体5体(男性2体,女性3体,61~ 91歳,ホルマリン固定)の両側足部を対象とした.なお, 本研究は死体解剖保存法に基づいて実施し,生前にご本 人の同意により篤志献体団体に入会し,研究・教育に供 された解剖実習体を用いた.また解剖および実験は,所 定の解剖実習室内で行われた. 両側の足趾部を剥皮後,第3趾を足根中足関節におい て 離 断 し た.FDB腱 とFDL腱, お よ び 中 足 趾 節 (metatarsophalangeal: 以 下,MP) 関 節,PIP関 節, DIP関節の関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去 した.5体の両側の第3趾計10趾のうち,DIP関節の 可動性が欠如していた1趾を除き,MP関節,PIP関節, DIP関節の可動性が保たれている9趾を対象とした.  2.方法 中足骨の近位部関節面から直径3 mmの鋼線を髄腔内 に長軸方向に挿入した.挿入した鋼線を器具に取り付け, 中足骨を固定した.FDB腱またはFDL腱を鉗子で挟み, バネばかりを用いて0.5,1,1.5,2 kgfの力で順に鉗子 を牽引した.この際,立位姿勢を想定して足趾底側面を 台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」 の2条件で行った(図2). MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度を計測する ため,牽引前および牽引時において,側方約30 cmの 位置からデジタルカメラ(EXILIM,CASIO社製)に て写真撮影を行った.撮影した画像をもとに米国国立衛 生研究所が開発した画像処理ソフトImageJを用い,各 関節の角度を計測した.MP関節の角度は中足骨と基節 骨のそれぞれの長軸のなす角度,PIP関節の角度は基節 骨と中節骨のそれぞれの長軸のなす角度,DIP関節の角 度は中節骨と末節骨のそれぞれの長軸のなす角度とし た.角度の計測は,すべて同一の検者が行った.各関節 とも屈曲角度をプラス,伸展角度をマイナスで表した. また,牽引による角度変化を捉えるため,牽引前の関節 角度を基準(0°)とし,各牽引力での角度変化を求めた. なお,この際も屈曲方向への変化をプラス,伸展方向へ の変化をマイナスで表した. 統計解析として,FDB腱とFDL腱の牽引力が,MP 関節とPIP関節,DIP関節の角度変化に及ぼす影響につ いてFriedman検定を用い検討した.統計解析ソフトは

SPSS Statistics Ver.22(IBM社製)を使用し,有意水準

は5%とした. 図1 虚弱高齢者にみられるハンマー趾

   右第2趾と3趾にPIP関節屈曲位でDIP関節過伸展位の ハンマー趾を認める.

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III.結 果

「非接地条件」と「接地条件」における,MP関節, PIP関節,DIP関節の関節可動域について牽引前とFDB 腱とFDL腱を0.5,1,1.5,2 kgfで牽引した時の変化 を表1,2に示す.Friedman検定の結果,FDB腱を牽 引した際,「非接地条件」ではMP関節とPIP関節は共 に屈曲角度が有意に増加したが,DIP関節は角度変化を 認めなかった.「接地条件」では,MP関節は角度の変 化を認めなかったが,PIP関節は屈曲角度,DIP関節は 伸展角度が有意に増加した.FDL腱を牽引した際,「非 接地条件」ではMP関節とPIP関節,DIP関節はいずれ も屈曲角度が有意に増加した.「接地条件」では,MP 関節は伸展角度が,PIP関節とDIP関節はいずれも屈曲 角度が有意に増加した. FDB腱またはFDL腱を牽引した際の牽引前を基準と した各関節の角度変化を図3,4に示す.「接地条件」で FDB腱を牽引した際にみられたDIP関節の伸展は,PIP 図2 「接地条件」と「非接地条件」におけるFDB腱の牽引方法    「接地条件」では足趾底側面を台の上に接地させた.FDB腱を鉗子で挟み,その鉗子をバネばかり を用いて牽引した. 表1 短趾屈筋(FDB)腱の牽引による各関節の角度変化 牽引前 0.5 kgf 牽引 1 kgf 牽引 1.5 kgf 牽引 2 kgf 牽引 非接地条件 MP関節( ° )*** PIP関節( ° )*** DIP関節( ° ) -15.7 ± 6.2 11.6 ± 6.7 -2.1 ± 6.8 1.2 ± 9.7 25.3 ± 6.1 -2.5 ± 7.0 7.3 ± 9.2 32.9 ± 8.1 -3.2 ± 5.5 11.8 ± 9.2 37.9 ± 7.9 -3.7 ± 7.5 16.9 ± 8.9 41.1 ± 7.3 –4.3 ± 5.5 接地条件 MP関節( ° ) PIP関節( ° )*** DIP関節( ° )*** -16.4 ± 6.5 8.9 ± 6.7 -1.7 ± 5.4 -14.8 ± 6.0 15.9 ± 5.7 -6.3 ± 6.5 -15.3 ± 5.9 19.8 ± 6.2 -10.4 ± 5.1 -15.3 ± 6.5 23.1 ± 6.1 -13.0 ± 5.8 -16.4 ± 6.3 23.0 ± 7.3 -16.0 ± 5.1 平均値±標準偏差.***:p<0.001. 表2 長趾屈筋(FDL)腱の牽引による各関節の角度変化 牽引前 0.5 kgf 牽引 1 kgf 牽引 1.5 kgf 牽引 2 kgf 牽引 非接地条件 MP関節( ° )*** PIP関節( ° )*** DIP関節( ° )*** -15.0 ± 6.0 13.0 ± 5.6 2.8 ± 5.0 2.0 ± 7.9 31.7 ± 5.0 15.3 ± 8.9 7.9 ± 9.1 38.9 ± 7.6 18.1 ± 8.8 12.6 ± 8.9 44.7 ± 9.9 19.0 ± 7.2 16.8 ± 8.1 47.8 ± 10.6 20.5 ± 9.3 接地条件 MP関節( ° )*** PIP関節( ° )*** DIP関節( ° )*** -14.8 ± 4.3 10.8 ± 5.3 -0.8 ± 7.4 -17.0 ± 3.8 18.5 ± 4.1 7.1 ± 9.3 -19.1 ± 4.6 21.4 ± 4.8 10.3 ± 11.4 -20.1 ± 4.5 23.7 ± 4.5 13.0 ± 10.9 -21.5 ± 4.3 26.5 ± 5.5 13.1 ± 12.5 平均値±標準偏差.***:p<0.001.

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関節の屈曲に伴って生じていた.「接地条件」ではFDL 腱の牽引により,PIP関節とDIP関節の屈曲が生じ,さ らにそれに伴いMP関節は伸展した. 「接地条件」でFDB腱を牽引した際,PIP関節屈曲位, DIP関節過伸展位のハンマー趾が再現された.

IV.考 察

今回,足趾が台に接地した「接地条件」と接地しない 「非接地条件」において,FDB腱とFDL腱を段階的に 牽引して,MP関節,PIP関節,DIP関節の角度変化を 観察した.「非接地条件」において,FDB腱を牽引する とMP関節とPIP関節の屈曲が,FDL腱を牽引すると MP関節とPIP関節,DIP関節の屈曲が生じた.「接地 条件」において,FDB腱を牽引するとPIP関節の屈曲 とDIP関節の伸展が,FDL腱を牽引するとMP関節の 伸展,PIP関節とDIP関節の屈曲が生じた.すなわち, 「接地条件」と「非接地条件」において,腱の牽引によっ て運動が生じる関節および運動方向に相違が認められ た. FDBは,踵骨隆起と足底腱膜から起始し,4本に分 岐後に腱になる.さらに,腱はMP関節部において二股 に分かれ,それぞれ第2~5趾の中節骨底の脛側と腓側 に停止する.その主要な作用は第2~5趾PIP関節の屈 曲であり,MP関節の屈曲にも補助的に関与する.FDL は,脛骨から起始し,腱になって脛骨内果の後方から足 底へ至り,長母趾屈筋腱と交叉する.さらに4本の腱に 分岐し,MP関節部において,二股に分かれたFDB腱 の間を貫いて末節骨底に停止する.その主要な作用は DIP関節の屈曲であり,MP関節とPIP関節の屈曲にも 補助的に関与する.今回の腱牽引実験の結果,「非接地 条件」においては,このような“一般的な”筋の作用が 図3 短趾屈筋(FDB)腱の牽引による牽引前を基準とした各関節の角度変化 図4 長趾屈筋(FDL)腱の牽引による牽引前を基準とした各関節の角度変化

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確認できた. しかし,「接地条件」においてFDB腱を牽引した場合, 牽引力の増加によるPIP関節の屈曲に伴ってDIP関節 が伸展した.PIP関節の屈曲によって足趾先端が床面に 固定され,それに伴う中節骨の傾斜によってDIP関節 は受動的に伸展されたためと考える.また,「接地条件」 においてFDL腱を牽引した場合,PIP関節とDIP関節 の屈曲に伴って,MP関節が伸展した.これは足趾先端 が床面に固定され,PIP関節とDIP関節の屈曲によって 末節骨,中節骨が傾斜し,MP関節が受動的に伸展され たためと考える. “一般的な”四肢の筋の作用は,筋収縮に伴い「遠位 にある筋の停止部が,より近位にある起始部に近づく運 動」とされている.しかし下肢の筋は,実際の動作場面 において,足部が地面と接触し遠位部が固定されること が多い.このような荷重位では,筋の作用が非荷重位と は変化することが知られている.例えばヒラメ筋は,非 荷重位では足関節の底屈作用がある.しかし,膝関節軽 度屈曲位で足部が地面に接地した荷重位では,収縮に よって下腿が後傾し,その結果として膝関節が伸展す る.すなわちヒラメ筋は,荷重位では膝関節の伸展作用 となる4).同様にFDBは,“一般的な”非荷重位では PIP関節とMP関節の屈曲作用がある.しかし荷重位で は,PIP関節の屈曲作用とDIP関節の伸展作用となる. またFDLも,非荷重位ではMP関節とPIP関節,DIP 関節の屈曲作用であるが,荷重位ではPIP関節とDIP 関節の屈曲作用に加え,MP関節の伸展作用となる.新 鮮な切断肢を用いて,我々と同様にFDL腱とFDB腱を 牽引した研究においても,接地条件ではFDB腱の牽引 でMP関節伸展,PIP関節屈曲,DIP関節伸展が確認され, FDL腱の牽引でMP関節伸展とPIP関節屈曲,DIP関 節屈曲が確認されている5) 第2~5趾の足趾屈曲変形の名称として,claw toe,

hammer toe,mallet toeが挙げられる.整形外科学用語

集第8版6)においては,それぞれ鉤爪趾,ハンマー趾, 槌趾と呼ばれるが,定義に関しては混乱がある7–9).一 般的には,鉤爪趾とハンマー趾は,PIP関節の屈曲位を 特徴とする.鉤爪趾はDIP関節屈曲位,ハンマー趾は DIP関節過伸展位または中間位と定義されることが多 い.虚弱高齢者の足趾変形の特徴は,PIP関節の屈曲位 とDIP関節が伸展位を呈することであり,ハンマー趾 の範疇に含まれると考える. 今回,「接地条件」におけるFDB腱牽引によって,ハ ンマー趾が再現された.したがって,虚弱高齢者のハン マー趾の発生要因の一つとして,FDBの過剰な活動が 考えられる.ハンマー趾には,矯正が不可能な不可逆的 なものと,立位で出現するが座位ではみられないものが あると言われている10).虚弱高齢者のハンマー趾は, 立位時の姿勢制御においてFDBを過剰に活動させるこ とで出現し,その状況が長期間継続することによって不 可逆的な変形に移行すると考えられる. 第2~5趾の屈曲において,MP関節は虫様筋および 底側・背側骨間筋,PIP関節はFDBとFDL,DIP関節 はFDLが作用する11).これらの足趾屈筋は,下腿屈筋 群に属するFDLを除いて,足の内在筋である.FDLは, 踵骨隆起を迂回して踵骨内側縁を通って足底に至る.そ のため,FDLの収縮力は,第2~5趾を屈曲させるだけ ではなく,内旋(足趾の足底面が内側に向く回旋)させ る力を生じる.しかし,足底方形筋がFDL腱の外側縁 を牽引するため,その収縮力は足趾を内旋することなく 屈曲できる.すなわち,足趾屈筋群で唯一の外来筋であ るFDLの作用は,内在筋である足底方形筋によって補 われていると言える(図5).一方,手指(第2~5指) の屈曲に作用する浅指屈筋と長指屈筋は,ともに前腕屈 筋群に属し,手の内在筋ではない.換言すれば,足趾の 屈曲には内在筋が大きく関与する. さらに内在筋は,足部を安定させ,姿勢制御に重要な 役割を果たしている.健常成人において片脚立位をとら せると,両脚立位と比較して,内在筋(FDB,足底方形 筋,母趾外転筋など)の筋活動が高くなることが報告さ れている12).高齢者における足趾屈筋群の筋力は,立 位の姿勢制御能力との関係を認め,その低下が転倒要因 の一つであることが報告されている13,14)Mickle15) は,転倒経験のある高齢者は転倒経験のない高齢者に比 べて母趾および第2~5趾の屈曲筋力が有意に低下して いることから,足趾の屈曲筋力の低下が転倒リスクを高 めると報告している.そのため,高齢者の転倒予防を目 図5 長趾屈筋と足底方形筋の共同作用    長趾屈筋(FDL)腱は踵骨隆起を迂回して,踵骨 内側縁(↑)を通って足底に至る.したがって, FDLの収縮力は足趾を屈曲させるだけではなく, 内旋(足底面が内側に向く回旋)させる力を生じ る.足底方形筋はFDL腱の外側縁を牽引するため, その収縮力は足趾を内旋することなく屈曲できる.

(6)

的とした運動療法の一つとして,足趾のトレーニングが 行われ,その効果も報告されている16,17).近年では, 従来の足趾を屈曲してタオルなどをたぐり寄せる方法 (タオルギャザー)に加えて,足趾を床面に圧迫してよ り 内 在 筋 を 活 動 さ せ る 方 法 が 新 た に 紹 介 さ れ て い る18,19).転倒予防を目的とした足趾トレーニングでは, こうした内在筋のトレーニングが効果的ではないかと考 える. ハンマー趾などの足趾屈曲変形は,中枢神経疾患 (例;脊髄小脳変性症,脳卒中,脳性麻痺)や末梢神経 疾患(例;糖尿病性ニューロパチー),関節疾患(例; 関節リウマチ)などでも生じ,ハイヒールなどの靴の影 響も挙げられる2,7,8,10,20,21).ハンマー趾の発生機序とし て,虫様筋と骨間筋の筋力低下が多く報告されてい る7,8,10,21,22).虫様筋および骨間筋は,MP関節の底側面 を走行してその屈曲を司る.さらにMP関節とPIP関節 の間で背側面に至り,足趾伸筋を被覆するextensor hoodに進入して,PIP関節とDIP関節の伸展を司る. そのため,虫様筋および骨間筋の筋力低下は,MP関節 過伸展位,PIP関節・DIP関節屈曲位をきたすと考えら れている.我々の結果も踏まえるとハンマー趾の出現に は,虫様筋や骨間筋の筋力とFDBの筋力の相対的な不 均衡により生じると考える.すなわち立位保持の際, FDBの過剰な活動時に虫様筋や骨間筋の活動が伴わな い場合に,ハンマー趾が出現すると考える.したがって, 虫様筋や骨間筋の活動強化がハンマー趾の予防につなが る可能性が示唆された. 今回の研究の制限として,虫様筋と骨間筋を取り除い た実験モデルを用いたことが挙げられる.今後,FDB と共同して虫様筋や骨間筋が活動した場合の足趾変形に ついての検討が必要である. 今回の研究は,虚弱高齢者が立位を保持する際にしば しばみられるハンマー趾変形が,FDBの過剰な活動に より生じる可能性を機能解剖学的に検証した.これは高 齢者の転倒予防のための姿勢制御トレーニングの方法に 示唆を与えるものと考える. なお,本研究は第50回日本理学療法学術大会および, 第121回日本解剖学会全国学術集会にて発表した内容 である. 利益相反 本研究において開示すべき利益相反関係にあ る企業・団体はない. 引用文献 1) 浅井 仁,奈良 勲,立野勝彦・他:立位姿勢保持におけ る足指の作用に関する研究.理学療法ジャーナル,1989, 23: 137-141. 2) 藤原勝夫,池上春夫,岡田守彦:立位姿勢における足圧 中心位置およびその規定要因に関する一考察.姿勢研究, 1984, 4: 9-16. 3) 糟谷俊典,村上忠洋,柘植英明・他:安静立位での姿勢調 節における足趾の働き─虚弱な高齢者と若年者との比較─. 臨床理学療法研究,2010, 27: 89-92.

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図 1  虚弱高齢者にみられるハンマー趾

参照

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