小説の勃興(
The Rise of the Novel)
(近代)小説の条件(川口喬一『イギリス小説入門』) (1) 伝統的なプロットを使わず、かけがえのない個人の経験を 語ること (2) 特定の具体的な環境に人物をおくこと (3) 類型としての人物ではなく、その人物の個人性、特殊性、 性癖などを描くこと (4) 時間的経過の中で語られること (5) 空間的、地理的広がりをもつこと (6) 事実に忠実な即物的な散文で書かれていること 川口喬一の考えでは、以上の条件を満たす最初の(近代)小説 は、Daniel DefoeのRobinson Crusoe (1719) である(18世紀)小説の新しさ(J. Paul Hunter, Before Novels) (1) 現代、または関連する過去を扱う (2) 現実に起こりそうなことを描く (3) 身近なできごと、身近な人間を描く (4) 伝統的なプロットからの自由 (5) 日常的な言葉の使用 (6) 個人主義、主観性 (7) 読者の感情移入を促す (8) 全体的な一貫性、統一性 (9) 多様な要素の混在、脱線、挿入、分断 (10) 革新性への意識 HunterもまたRobinson Crusoeを最初の小説と見なす
近代小説以前の物語
Gilgamesh 紀元前2000年ごろ
Homer, The Odyssey 紀元前9、8世紀 Petronius, Satyricon 紀元前1世紀 『竹取物語』(901-22)
『源氏物語』(c.1000)
The Arabian Nights' Entertainments 9世紀ごろ
Boccaccio, Decameron (1353)
Geoffrey Chaucer, The Canterbury Tales (1387?-1400)
Francois Rabelais (c.1483-1553)作のGargantua (1534)や
Pantagruel (1532, 46, 52, 62-64)
『三国志演義』14世紀 『水滸伝』14世紀
『西遊記』16世紀
novelという名称について
novella storia (new story)というイタリア語が起源 16世紀にnovellaeという単語がBoccaccio (1313-75)の Decameron (1353)のような短い物語という意味で使われ るようになる 17世紀の半ばにはnovelという単語が生まれ、不義の愛 を描くロマンスを指す言葉として用いられるようになる その当時散文の長い物語はhistoryと呼ばれた(storyと 同語源) その後18世紀の半ばからhistoryの代わりにnovelという 語が用いられるようになっていく
triple rise (Ian Watt, The Rise of the Novel, 1957)
the rise of the middle class→the rise of the reading public→the rise of the novel
多様なジャンルの混交から小説は生まれた
ロマンス(romance) 悪漢物語(picaresque) ユートピア物語(utopia) 伝記(biography)あるいは自伝(autobiography) 寓話(fable) 人物類型分析(characters)イギリス小説の先駆者
Aphra Behn (1640-89)
Kentに生まれる 1663年家族とともにイギリスの植民地だったSurinamを 訪れる 翌年イギリスに帰国し、オランダ系イギリス人商人と結 婚 2年もたたずに夫が死去、そのあとCharles II に雇われオ ランダでスパイ活動に携わった 帰国後借金のため投獄される その後劇作家として成功を収める Stuart 王家支持者 歴史上初めての女性職業作家と言われる(Virginia Woolf)主要著作
The Rover (1677-81)
亡命したCharles II を支持する王党派の人々が巻き 込まれる恋愛がらみの事件をナポリとマドリッド を舞台に描く芝居
Love Letters between a Nobleman and his Sister (1684)
Lady Henrietta Berkelytとその義理の兄Lord Grey of Werkeの不倫愛という実話にもとづく書簡体小説 (epistolary novel)
名前は変えられ、舞台はフランスに移されている 実話小説(roman a clef)
Oroonoko: or, The Royal Slave (1688)
舞台はSurinam Oroonokoはアフリカのある国の王の孫で、王に仕える 将軍の娘Imoindaと恋仲にあった 王がImoindaに横恋慕し、彼女を後宮に入れ、やがて 奴隷商人に売りとばす Oroonokoも奴隷商人に捕まり、Surinamに送られ、 Imoindaと再会 Oroonokoは奴隷たちを扇動して逃走を図るが、とらえ られ、鞭打たれる 復讐を誓ったOroonokoは死を覚悟、Imoindaの望みど おりの彼女を殺すが、結局つかまり、残忍な仕方で処 刑される noble savageとしての主人公→植民地主義批判Delariviere Manley (?1663-1724)
Channel Islands生まれ いとこと結婚するが、相手はすでに既婚者だったことが わかり、妊娠した状態で逃げ出す Duchess of Clevelandの話し相手として、侯爵夫人のロン ドンの屋敷に暮らすようになったが、夫人の息子との関 係を疑われ、追い出される その後しばらく田舎に住み、ロンドンに戻る 劇作家としてデビュー Fleet監獄の看守の愛人となる 小説を書き、大きな成功を収めるSecret Memoirs and Manners of Several Persons of
Quality, of Both Sexes from the New Atalantis)
(1709)
地中海の架空の島New Atalantisに暮らす人びとの生態 を描く→Swiftにも影響をあたえた Whig党の政治家などを戯画化する ホモセクシャル、近親相姦、レイプなどの赤裸々な描 写 出版禁止となり、Manleyは逮捕される 実話物語(roman a clef) スキャンダルと文学の関連性Daniel Defoe (1660-1731)
ロンドンで獣脂ろうそく製造人(tallow chandler)James Foeの息子として生まれる 一家は非国教徒(長老派)だった 1684年結婚 1695年姓にDeを付す(Deをつけると高貴に聞こえるた め) メリヤス商人(hosier)を皮切りに職を転々とする 借金のために何度も投獄される1688年の名誉革命では、オランダから迎えられた William IIIを支持
1702年に出版したThe Shortest Way with Dissentersのため に文書誹毀罪で投獄され、さらし台の刑を受ける
1704年釈放後、雑誌The Reviewを創刊、13年まで発行を 続ける(週三回発行)
Tory党の政治家でのちに大蔵卿(Lord High Treasurer) となるRobert Harleyのスパイとして活動
1712年ふたたび投獄される
1715年にWhig党が議会で権力を握ってから小説の執筆 を活動の中心にする
主要著作
The True-Born Englishman (1700) オランダ出身のWilliam III
を擁護する風刺詩
The Shortest Way with Dissenters (1702) 非国教徒であるDefoe
が非国教徒の抑圧を要求するパンフレット
A True Relation of the Apparition of one Mrs Veal (1706) 幽霊物
語
Robinson Crusoe (1719)
Moll Flanders (1722) 刑務所生まれの女性がイギリスとアメ
リカを往復しながら送る波瀾万丈の人生
A Journal of the Plague Year (1722) ロンドンでのペストの流
行(1664-65)を題材にした架空のルポルタージュ
Roxana (1725) 巧みに男を利用して財産を蓄えた女性が最後
は極貧生活に陥り、刑務所で悔恨する自伝形式の物語
A Tour through the Whole Island of Great Britain (1724-27) 情
The Life and Strange Surprising adventures of Robinson Crusoe
船乗りAlexander Selkirk (1676-1721)の手記(Steeleが発 行していた雑誌The Englishmanの1713年12月3日号に発 表)から着想を得たフィクション CrusoeはHull出身、中産階級の父親は彼が法律家になる ことを望んでいたが、その教えに背いて船乗りになる→ 中産階級の価値観に対する反逆者→最終的には中産階級 の価値観を体現する独立独行の人間(a self-made man) になる Crusoeは28年2ヶ月19日間を孤島で過ごす フィクションであるにもかかわらず事実であることを強 調する←フィクションは軽視されたため
TITLE PAGE FROM THE FIRST EDITION OF
孤島に暮らす人間→近代人のプロトタイプ 孤立した状況の中みずからの判断で行動する個人 主義者(Rousseau) 環境も他者もすべて道具とみなす典型的な資本主 義者(Marx) 奴隷Fridayに対する視線に含まれる無意識的な優越感 →Crusoeの植民地主義者としての側面を示す 寓話的な要素とリアリスティックな要素の混在 宗教性(父親に対する反逆が招いた罰、孤島での 生活から生まれる信仰心など)は作者の意図とは 裏腹に背景に退いている→Crusoeの物質主義が前面に出 る