馬 場
昭 夫
は じめに 日本の社会は治安が よい と言われて きたが,近年,犯罪が多発 し,凶悪化 している。 ま た検挙率 も極端 に下が って きている。 この ような状況で社会不安が増大 している。 自分の 身は自分で守 らなければな らない,警察や政府は何 を しているのだろうか,などの思いを 抱 く国民 は多い と思われる。新聞 を開 くな らば,犯罪の報道 に満 ちている。テ レビで もラ ジオで も多 く報道 されている。多 くの国民 は,困った ものだ,何 とかならない ものか とい う思いで毎 日を送 っている。 しか し,振 り返 ってみて,新開 に記 されている犯罪あるいは刑罰 について,果た して, 正確 な知識 を持 っているであろうか。た とえば,交通事故,あるいは医療事故 などで 「業 務上過失致死」とい うことばがでて くるが, これは どの ような内容であるか, どの ような 犯罪であるかについて,正確 な知識 はなか なか与え られていないのではないだろうか。1) 特 に,教員,医師等の社会の指導的知識 人において法あるいは法律 についての基礎的, 体系的知識が欠如 していることが深刻であ る。 社会の秩序 を維持 し,その中で 自由で平和 な意義ある人生 を各 自が送 るとい うことを目 標 とす るならば,国家の刑罰 について知識 を持 ち, これを正 しくコン トロール しなが ら, 秩序の破壊者 に対処 してゆかなければならない。 また,刑事裁判 において,近い将来,一般の国民が職業的裁判官 と共 に裁判員 として裁 判 を行 うことも準備 されている。 社会か ら隔離 された職業的裁判官の裁判,判断に対す る 不信か ら,いわば選挙 によって政治に参加 していったように,国民の司法への参加が期待 されている。 この道が うま く開けてゆ くか どうかは,国民の法あるいは法律 についての知 識の進み具合いにかかっているといえる。 2) 本稿 は刑罰 と犯罪 について規定 している刑法 について,早 く正確 に理解す るには どう し た らよいか模索 した ものである。 3)Ⅰ
刑法 を理解 するために 非常 に悪いことを した ら刑務所 に入れ られるとい うことは大多数の国民が理解 している。 男女 を問わず5
歳 くらいか ら意識 の しっか りしている限 り高齢者 にいたるまで上記のことは
,
漠然 とは理解 している。 人を殺す とか,人をひどくな ぐるとか とい うことは悪いこと であることは理解 している。 しか し,普通 に悪いことといわれていることであって も全部 刑務所 に通 じているのではないことも,漠然 と理解 している。 例 えば, うそを言 うことは 悪いことだ といわれるが, うそをついた人が全て刑務所 に入れ られるのではない。たばこ をす うことは悪 いことだ と言われるが全 てが刑罰 を受 けるわけではない。 その ように考 えるならば,ただ悪いことを した ら刑務所 に入る,あるいは広 く他の刑罰 を受 ける とい う漠然 とした理解では 日々の生活の中で確信 を持 って生 きてゆけないのでは ないであろうか。 通常,広 く悪 いことと思われていることの中で,い くつかが とりあげ られ犯罪 とされて, その犯罪 に刑罰が科せ られる と考 え られている。 しか し,事態 を良 く見 るな らば,次の よ うに言 えるのではないか と思 われる。 広 く悪 いことと思 われていることの中で,い くつかが とりあげ られ刑罰が科せ られる, そ してこの刑罰が科せ られる悪い ことが犯罪である。 上記の二つの記述 は同 じように見 えるが,根本的 に異 なっている。 後者の場合,国家 によって刑罰が用意 されていて,広 く悪い ことといわれることの中で, 単 に叱責,注意,懲戒解雇,退学,営業停止,免許取消,宗教的悔恨等ではな く,刑罰 を 科す こととす ることを犯罪 としている。 悪い ことがあ り,犯罪があって刑罰 を科せ るので はな く,刑罰 を科す こととされる行いが犯罪である。 そ して,近代 の民主主義国家 においては,刑罰 は何であ り, どの ような行いに どの よう な刑罰 を科せ るか,すなわち, どの ような行 いが犯罪 とされるかは,法律で決めてお くこ ととなっている。 4) 従 って,犯罪 とか,刑罰 とか,刑法 とか, さらに刑事裁判 とか,犯罪捜査 とか,それ ら の理解のためには, まず, どの ような刑罰があるか を知 り,理解す ることが近道である。Ⅱ
日本における刑の種類
日本 においては現在 どの ような刑罰があるのであろうか。それを知 るためには,
「刑法」
とい う法律 を見 ると分 るのである。 「刑法」とい う法律 を見 るには, 「六法」
と名づけ ら れている法令集 を開いてみ よう。5) 刑法第九条 (刑の種類) 死刑,懲役,禁銅,罰金,拘留及 び科料 を主刑 とし,没収 を付加刑 とす る。 (しけい,ち ょうえき, きんこ,ばっきん, こう りゅう,お よびか りょうを しゅけい と し,はっ しゅうをふかけい とす る。)6) 7) 現在, 日本 においては刑の種類 は非常 に少 ない といえる。九条 に列記 してある7
種類で ある。 付 け加 える刑であ る没収 を除 くと,主 となる刑 は6
種類である。この
6
種類の刑は,その内容 は第一一条 (死刑),第一二条 (懲役),第一三条 (禁銅),第 -五条 (罰金),第一六条 (拘留),輿-七条 (科料)に記 されている。 死刑 は絞首 して執行す る。 懲役 は監獄 に拘置 (こうち) して所定の作業 を行 わせ る。 禁銅 は監獄 に拘置す る。 罰金 は一万円以上のお金 をとる. 拘留 は拘留場 に拘置す る。 科料 は千円以上一万円未満のお金 をとる。 まとめてみる と,死刑 は生命 を奪 う,懲役 と禁鋼 と拘留は自由を奪 う,罰金 と科料はお 金 をとるのである。8) 懲役 と禁鋼 と拘留では,懲役 と禁銅 は期 間が長 く,拘留は短い とい う違いがある。 さら に懲役 と禁銅では,懲役 は所定の作業 を行 わせ るが,禁銅 は単 に拘置す るだけである。 罰金 と科料では,罰金は一万円以上で科料 は千円以上一万円未満である。 9)Ⅲ
日本における罪の種類
それでは どの ようなことにこの ような刑が科せ られるのであろうか。 刑法第-九九条 には,次の ように書いてある。10) 「人 を殺 した者は,死刑又は無期若 しくは三年以上の懲役 に処する。」 「若 しくは」
は 「もしくは」と読み, 「又は」
と同 じ意味であるが使 い方が違 う。ll)一 九九条で言 っていることは,人を殺 した者 は,死刑か懲役 に処す る,そ して懲役 について い うと無期か三年以上である, とい うことである。 ところで,刑の種類の ところでは,触れないで きたが,第一二条 (懲役)第一項では次 の ように書いてある。 12)「懲役 は,無期及び有期 とし,有期懲役 は,一 月以上十五年以下 とす る。
」(無期 (む き),有期 (ゆ うき),一月 (いちげっ))無期 は期限が ないので一生 とい うふ うに考 え られる場合 (終身刑) もあるが,現在ではむ しろ期限が ない,期限が定め ら れていない,いつ終 るかわか らない と理解 されている。有期 は期限があるが,それは一 ケ 月以上十五年以下の範囲で決めるとい うことである。 以上 を理解 して,一九九条 を読 む と,人を殺 した者 は,死刑 に処す るか,懲役 に処す る が,懲役 に処す る場合 には,無期懲役 に処す るか,三年以上の懲役 (有期懲役) に処す る とい うことになる。そ して有期懲役 は十五年以下の範囲での定 まった期 限 (期 間)の懲役 である。 以上 をもう少 しわか りやす く理解す るな らば,人を殺 した者は,最 も重い場合には死刑 に,最 も軽 くとも三年の懲役 に処す るとい うことである。刑法第二〇四条には,次の ように書いてある。 「人の身体 を傷害 した者は,十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若 しくは科料に処 す る
。
」(身体 (しんたい),傷害 (しょうがい)) 二〇四条で言 っていることは,人の体 (か らだ) を傷つけあるいは害 した者は,懲役か お金 をとられることに処する,そ して懲役 は最高十年,お金をとることについては,罰金 か科料であ り,罰金は最高で三十万円であるとい うことである。 13) 刑法第二一二条 には次の ように書いてある。 「妊娠 中の女子が薬物 を用い,又はその他の方法 により,堕胎 した ときは,一年以下の 懲役 に処する。
」(
堕胎 (だたい)) 刑法第二一五条第一項 には次の ように書いてある。 「女子の嘱託 を受けないで,又 はその承諾 を得 ないで堕胎 させた者は,●六月以上七年以 下の懲役 に処す る。
」
刑法第-九〇条 には次の ように書いてあるO 「死体,遺骨,遺髪又は棺に納めてある物 を損壊 し,遺棄 し,又は領得 した者は,三年 以下の懲役 に処す る。
」(
領得 (りょうとく)) 一九九条,二〇四条,二一二条,二一五条,一九〇条 を比べた場合,一九九条,二〇四 条では 「人」,二一二条,二一五条では, ことば としては出てこないが 「胎児」,一九〇条で は 「死体」
が対象 となっている。 この ように見てみ ると,一九九条,二〇四条の 「人」 は 生 きている人を想定 していると考 えられる。一九九条では 「殺 した」とあるか ら,生 きて いる人が想定 されていることは当然であるが,堕胎が別に扱われているとい うことは,胎 児は一九九条の 「人」
には含 まれていない とい うことになる。第二〇四条の 「人」も生 き ている人であって,そ して胎児は除 くと解 される。14) 次 に第二一〇条 を見てみ よう。次の ように書いてある。 「過失 により人を死亡 させた者は,五十万円以下の罰金に処する。」(過失 (か しつ)) 過失 によりとい うのは,誤 って とか,不注意で とい う意味であ り,殺すつ もりはなかっ たが,誤 って人を死亡 させた場合 について,五十万円以下の罰金に処するとしているので ある。 日本 においては,罪は,やるつ もりでやった場合 と,あやまってやった場合 とに大 きく 分かれる。前者のやるつ もりでや った場合 を故意犯 (こいはん),故意の犯罪行為 といい,後者のあや まってやった場合 を過失犯 (か しつはん),過失の犯罪行為 とい う。 普通, 日本語で人を殺 した とい う場合に,殺すつ もりで殺す場合 と,あや まって殺す場 合の両方が含 まれるともいえる。 しか し,上記一九九条 と二一〇条の条文 を見比べ た場合, 二一〇条は過失犯の規定であ り,それに対 して,一九九条は殺すつ もりで殺 した場合,す なわち故意犯の規定である。従 って,一九九条の人 を殺 した とい うのは,あや まって殺 し た場合は含 まない と解 される。 15) 次 に第二〇五条 を見てみ よう。次の ように書いてある。 「身体 を傷害 し, よって人を死亡 させ た者 は,二年以上の有期懲役 に処す る。」 この条文の意味 は次の とお りである。 人の身体 を傷害 しようとして傷害 し,その結果人 を死亡 させ た者は,二年以上の有期懲役 に処する。すなわち傷害 させ ようとい うことは考 えていて,そのつ もりでやったのであるが,殺すつ もりはなかった, しか し,例 えば出血 多量 とか,急所 を突 いていた とかで死亡 させ て しまった (死 に致 (いた)らしめた)場合で ある。条文の見出 しは傷害致死 となっている。 傷害致死罪である。 次 に第二〇八条 を見てみ よう。 次の ように書いてある。 「暴行 を加 えた者が人を傷害す るに至 らなか った ときは,二年以下の懲役若 しくは三十 万円以下の罰金又は拘留若 しくは科料 に処す る
。
」(
至 らなか った(いた らなか った)) この条文の意味 は次の とお りである。暴行 を加 えたけれ ども傷害す るところまではいか なか った者は二年以下の懲役か もしくは三十万円以下の罰金あるいは拘留 もしくは科料 に 処す る。 ここで暴行 とい うのは,他人の身体 に対す る物理力の行使 をい うとされている。 16)た と えば殴 る,蹴 る,引 っ張 るな どの行為である。 音,放射線,電流,光等の物理力 を行使す る場合 も含 まれる。17) 暴行 を加 えて傷害の結果が生 じた場合 には,傷害罪 だけが成立 し,暴行罪 は成立 しな い0 18) 次 に第二一一条第一項 を見てみ よう。 次の ように書いてある。 「業務上必要 な注意 を怠 り, よって人を死傷 させ た者は,五年以下の懲役若 しくは禁銅 又は五十万円以下の罰金 に処す る。重大 な過失 によ り人を死傷 させ た者 も,同様 とす る。
」
この条文は二つの部分か らなっている。 19)前の方は業務上過失致死傷罪,後の方は重過 失致死傷罪である。 (ぎょうむ じょうか しつち LLょうざい, じゅうか しつ ち LLょうざ い)。いずれ も二一〇条の過失致死罪,二C?九条の過失傷害罪 に対 して,業務上の場合,あ るいは,過失 (あや まち)の程度が重い (不注意の程度がひ どい)場合 に刑が重 くされているのである。 業務上 とい うのは,言葉の上で当然 に浮かんで くる仕事の上で とい うよ りは,現在では 次の ように解 されている。 業務 とは 「本来人が社会生活上の地位 に基づ き反復継続 して行 う行為であって,かつその行為は他人の身体生命等 に危害 を加 える虞ある ものであること を必要 とす る」(最高裁判所判決昭和三三 ・四 ・一八) とされ, また, 「人の生命 ・身体の 危険 を防止す ることを義務内容 とす る業務 もふ くまれる」(最高裁判所決定昭和六〇・一〇 ・二一) とされている。20)21)具体的 には 自動 車の運転 を していての事故,診療行 為 にお ける過誤 (あや まち, ミス)等がある。 自動車の運転 についてい うと仕事 における場合だ けでな く, 自宅か らたば こを買いにゆ く場合であ って も, また無免許運転の場合であって も事故 をお こ した場合 には業務上過失致死傷罪が成立す るとされている。 死 に致 らしめた 場合 には業務上過失致死罪,傷害 に致 らしめた場合 には業務上過失致傷罪であ る。 重大 な過失 とい うのは,注意義務 に違反す る程度が著 しい場合である。22)具体的 な例 と しては,住宅街の路上で ゴルフクラブの素振 りを して, 自転車で通行 中の女性 を強打 し死 亡 させ た事例 (大阪地方裁判所判決昭和六一 ・一〇 ・三) な どがある。 23)
Ⅳ
刑法における罪の種類の体系
刑法第二編罪 は第二章か ら第四十章 まである。 (第七七条か ら二六四条) ここでは上記 殺人,傷害等で見て きた ような形式で多数の罪 とそれに対する刑が定め られている。 第二章か ら第七章 までは国家又は国家の活動 を保護す るための ものである。国家的法益 (ほ うえ き) に対す る罪 といわれる。 第八章か ら第二十五章 までは社会生活の円滑,平穏 を保護す るための ものである。社会 的法益 に対す る罪 といわれる。 第二十六章か ら第四十章 までは個 人個人の生命,身体,名誉,財産等 を保護す るための ものである。個 人的法益 に対す る罪 といわれる。 この中で第二十六章か ら第三十三章は生 令,身体, 自由を保護す るための ものである。第三十四章,第三十五章は名誉,信用 を保 護 す るための ものであ る。 第三十六章 か ら第 四十章 は財 産 を保護す るため の もので あ る。24)Ⅴ
二十歳未満の人についての特別扱い
l 刑法第四一条 には次の ように書いてある。 「十四歳 に満たない者の行為 は,罰 しない。」 十四歳未満の人 (子 ども) については,何か を行 って,それが罪の行為 にあたる として ち,刑 を科 さないのであ る。刑
を科 さないのであるか ら,罪 になっているように見えて も, 罪ではない とい うことになる。十四歳未満の子 どもは, まだ自分がす ることの意味が よ く分 らない。 よ く分 らないで行 なった ことについて責めてそ して刑 を科 して も意味が ない と 考 えるのである。25)刑事責任年齢 は十四歳以上である,あるいは十四歳以上の人 に刑事 責 任能力があ る,あるいは十四歳未満の人には刑事責任能力が ない とい うように言 ってい る。 二十歳未満の人については 「少年
」
と して少年法の適用がある。 少年法第二条第一項 「この法律 で 「少年」 とは,二十歳 に満 たない者 をいい, 「成 人」
とは,満二十歳以上の者 をい う。」 少年法第三条第一項 「次 に掲 げる少年 は, これ を家庭裁判所の審判 に付す る。- 罪 を 犯 した少年 二 十四歳 に満 たないで刑罰法令 に触 れる行為 を した少年 三 略」
少年法第二十条第一項 「家庭裁判所 は,死刑,懲役又 は禁銅 に当たる罪の事件 について, 調査 の結果,その罪質及 び情状 に照 らして刑事処分 を相当 と認め るときは,決定 をもって, これ を管轄地方裁判所 に対応す る検察庁の検察官 に送致 しなければな らない。
」第二項 「前 項の規定 にかかわ らず,家庭裁判所 は,故意の犯罪行為 によ り被害者 を死亡 させ た罪の事 件であ って,その罪 を犯す とき十六歳以上の少年 に係 る もの については,同項 の決定 を し なければな らない。 ただ し,調査 の結果,犯行 の動機及 び態様 ,犯行後の情況,少年の性 格,年齢,行状及 び環境 その他の事情 を考慮 し,刑事処分以外 の措置 を相当 と認 める とき は, この限 りで ない。」26) 少年法第五一条第一項 「罪 を犯す とき十八歳 に満 たない者 に対 しては,死刑 を もって処 断すべ きときは,無期刑 を科す る。
」第二項略 少年法第六一条 「家庭裁判所の審判 に付 された少年又 は少年の とき犯 した罪 によ り公訴 を提起 された者 については,氏名,年齢,職業,住居,容ほ う等 によ りその者が当該事件 の本 人であ ることを推知す ることがで きるような記事又 は写真 を新聞紙その他の出版物 に 掲載 してはな らない。
」
あわ りに
法律全体の要 (か なめ) となる法律 は,民法 と刑法である。 刑法 を理解す るには まず具 体的 に刑の種類 を知 る必 要があ る。 そ して,生命,身体, 自由,財産等 をおびやかす者, 行為 に対す る き然 とした気持 ちを持 って,具体的 に どの ような行為 に対 して どの ような刑 を科す ことと しているのか を条文 を読 んで知 ることが必要である。社会で起 きる,あ るい は直接 出合 う事が らについて,それが罪であ るか どうか を常 に考 えるように したい もので ある。 注 1)テレビ番組等で,法律に関するクイズなどで,出演者に 「法律はごぞんじですか。」と司会者が 質問すると 「分か りません.
」(笑)で終ることが多い.現在,日本の社会の中では.,法律はよく分 らない とい う人が大 多数である とい う状況があるこ とはた しかである。その最大の原因は,小, 中,高の学校教育 において,法 についての教育が深 く考慮 されてこなか った こ とである と思 われ る。 「地理
」
「歴 史」
「政治」
「経済」
「倫理」等 の科 目名か らも事態が推測 される。 2)従来,法学部出身者が中学,高校の教員 において少 なか った。 また法学部 出身の教 員であって も法 または法律 を教 える分野が少 なかった。 また,医師は大学 において も法学教育は本格的 には受 けてい ない し, さらにあ えてい うな らば, 従来,医学界は法 または法律の介入 を拒否 した無法地帯であった といえる。3)
新潟中央短期大学幼児教育科 にお いて,二年生 に 「現代社会研究」
とい う科 目があ り,三分 の 一の学生 に犯罪 についての理解 を深める授 業 を行 なってい る。本稿 はそ こでの講義,質疑等 も参 考 に している。 4)「罪刑法定主義」(ざいけいほ うてい しゅぎ) と言 っている。5)
「六法」
とい うのは,何 か六つの法律 を集め た もの とい うものではな く,現在では単 に法律や命 令 (合わせて法令) を集めて載せ ている本 の ことを意味 してい る。 (最初 は意●法,民法,商法, 刑法,民事訴訟法,刑事訴訟法の六つの法律 を載せていることで六法 と言 っていたが,次 第にそ の他 の法令 を載せ るようになったが六法 と言 って きた。) ちなみ に商品名 として 「六法全書」
「小六法」
「ポケ ッ ト六法」
「コ ンパ ク ト六法」
「デ イリー六法」 「判例六法」等があ り, また分野別 に「教育六法」
「福祉六法」
「介護六法」
「看護六法」
「建築六法」
「自 治六法」(地方 自治関係) な どがある。 現在 出版 されている六法 の中で刑法 を見 る場合, 「コンパ ク ト六法」(岩波書店刊)が一番見や す く手頃である と思 われ る。なお,六法 はなるべ く新 しい もの を使用す るこ とが必要であ る。法 令 は改廃が激 しいので古 い ものは使 うと間違 うことがある。6)
刑法 とい う名前 の法律 は,第一編総則,第二編罪 とい う構成 になっている. そ して,第-編総 則の中は第一章通則,第二章刑,その他 第十三章 まである。刑法では,刑罰 とはいわず刑 といい, 犯罪 といわず に罪 といっている。 \「 こう7)
第二章刑 は第九条 (刑の種類)か ら第二一条 (未決勾留 日数の本刑算入) まである. 8)死刑 を生命刑,懲役,禁鏑,拘留 を自由刑,あるい は身体刑 (しんたいけい),罰金,科料 を財 産刑 とい う。9)
科料 は 「か りょう」
と読 むが,過料 (か りょう) と区別 して 「とが りょう」
とい うことがあ る。 ちなみ に過料 は 「あや まち りょう」 とい うことがあるも1
0
)
書 いてある文の ことを条文 (じょうぶん) とい う。 ll
)
「コンパ ク ト六法」の裏表紙 を開い た ところに 「法令基礎用語例」
がある。 「又は ・若 しくは」 の ところでは,同意義の語であるが, まず 「又は」 を使 い,その中で さらに必 要 なときには 「若 しくは」
を使 うとある. t1
2
)
条文 の中で① ,② とある場合 には,第一項 (こう),第二項 (こう) とい う。1
3
)
外か ら傷つけるだけではな く,毒物 などで下痢 をおこさせ る場合な ども含む と解 されている。 近年はいわゆる心の傷 も含むかが議論 されている。1
4
)
胎児,人,死体 と対象が区分 され,堕胎,殺す,傷害する,損壊す ると行為 (こうい)(行 い) が区分 されている。 ここまで来ると一見明解になってきた ように見えるが, どこか らが人か, ど こか らが死体か, さらにどこか らが胎児か とい うことは明解であるとはいえない。特 にどこか ら が死であるか, どこか らが胎児 としての生命であるか とい うことは,医学の進歩,発展 によって 明解には記述で きない状況 を作 り出 している。法学,医学,倫理学,哲学,宗教界 を巻 き込 んだ 大論争になっている。 15)一九九条の条文の見出 しは殺人 となっている。殺人罪である。 二一〇条の条文の見出 しは過失致死 となっている。条文中の人を死亡 させ た とい うことを致死 (ち し)と表現 しているのである。死 に致 (いた)らしめた とい う意味である。過失致死罪である。 人の死 とい う結果が生 じた場合 について,殺すつ もりで殺 した場合 (殺人) と,あや まって死 亡 させた (死 にいた らしめた)場合 (過失致死) とに分けているのである。1
6
)
「刑法各論」(西田典之著,法律学講座双書,弘文堂,2
02
0
年 (平成1
4
年)第二版)4
0
頁 刑法の罪の種類,内容 について研究,論ずる分野が刑法各論 といわれている。 それに対 して, 罪 (犯罪)一般 に共通する諸問題 (犯罪の成立要件,未遂 (みすい)(やったけれ ども結果が出な かった場合)共犯 (きょうはん)(二人以上がかかわる場合)など) を研究,論ず る分野は刑法総 論 といわれている。 これに対 して,犯罪の社会的原因,犯罪者の身体的,心理的特徴 などを調査, 研究する分野は刑事学 といわれている。 さらに,犯罪の捜査,裁判等 については刑事訴訟 (そ し ょう)法学がある。 上記西田典之著 「刑法各論」
は優れた著作である。 17)西田 「刑法各論」4
0
頁1
8
)
暴行 とい うことばはいろいろな罪 に出て くる。学説 (が くせつ)(研究者の捕 (とら)え方)の中 ではこれ らの暴行の意味 を四つに区別 しているものがある。 (i)最広義の暴行 は,物 に対す る物 理力の行使 (対物暴行)をも含み,蘇乱罪 (一〇六条)における暴行が これ にあたる. (ii)広義 の暴行は,人に向け られた物理力の行使 (間接暴行)をも含み,公務執行妨害罪 (九五条)にお ける暴行が これにあたる。 (iii)狭義の暴行は暴行罪 にい う暴行である。 (iv)最狭義 の暴行 は,人 の反抗 を抑圧 し, または,著 しく困難 にする程度の ものであることを要 し,池盗罪 (二三六条), 強姦罪 (一七七条)における暴行が これにあたる。 (西田 「刑法各論」4
1
頁) なお新聞報道等 においては,被害者保護のために強姦 にかえて暴行 を用いる場合がある。1
9
)
前段,後段 とい う。2
0
)
西田 「刑法各論」6
5
貢 業務 については 「公衆 または特定の多数人に対 して,反復継続の意思 を持 って一定の行為 を行 うこと」
とも解 されている。21)判決や決定はその後の裁判の先例 になるので判例 といわれる。 22)西田 「刑法各論」64頁 23) 同 上