代理受領と委任・準委任規定の改正
藤
田
寿
夫
は じ め に
代理受領とは,債権者Xが債務者Aに対して有する債権の回収を確保す るため,債務者Aがその取引先である第三債務者Yに対して有する債権に ついて,この弁済を受領する権限の委任を受け,Yから直接受領した金銭 を,Aに対する債権の弁済に充当する,という方法による債権担保手段で ある。通常,「委任状」と題する文書が用いられ,委任者たる債務者Aと 受任者たる債権者Xとが連名で第三債務者Yに対し,担保目的のために代 理受領権等の委任があったことについて承認を依頼し,Yがこれを承認す る。 年 月 日に法制審議会民法(債権関係)部会で決定された中 間試案までの委任・準委任に関する改正提案は,代理受領に影響するとこ ろが大きいので,本稿では,代理受領に関係する範囲で委任・準委任に関 する改正提案を検討する。.代理受領とYの承認の意味
⑴ 契約内容 代理受領は,委任者をA社,受任者をXとし,次のような内容の文言を記載した委任状と題する書面を使用して,委任者・受任者の連名で第三債 務者Yに対し承認方の願出をするという形式がとられている。 「㋑委任者は,銀行支店長Xを代理人と定め,委任者の下記請負代金債 権の請求,受領並びに㋺復代理人を選任する権限を委任し,あわせて次の とおり特約します。 ㋩本件委任は,委任者が受任者に対し現在負担し,また,将来負担す るいっさいの債務の担保として委任するものであること。㋥従って,受 任者が下記債権受領のうえは期限のいかんにかかわらずいずれの債務の 弁済に充当されても異議がないこと。 ㋭受任者の同意がなければ,この委任契約を解除もしくは変更しない こと及び㋬委任者において直接受領しないこと。 ㋣下記債権を他に譲渡,質入れしないこと,並びに本委任事項を受任 者以外の者に重ねて委任しないこと。 債権の表示 受注工事件名 建築工事○○○ ㋠上記委任を御承認の上,代金の支払いは受任者に対してのみお支払い 下さいますよう連署をもってお願い申し上げます。」 第三債務者Yは,その末尾に奥書きされた「㋷上記の件,異議なく承認 いたします。」という文言の下に,Yの記名,捺印をする形式で,これを 承認する。 上記の㋑において,受任者に弁済の受領に関する代理権等が与えられて いること,㋩において,委任者Aの負う債務を担保するため,上記代理権 が受任者Xに授与されていることが明示されている。さらに,委任者・受 任者間の補充特約として,㋭(委任者は)委任契約を解除しないこと,㋬ 委任者は受領しないこと,㋣(委任者は)重ねて委任しないこと,委任者 Aの有する債権を他に譲渡,質入れしないことが合意されている。 その上で,㋠において,委任者・受任者連名で,「代金の支払いは受任 者に対してのみお支払い下さい」と支払依頼し,それに対し,㋷において
第三債務者Yが承認している。 なお,債務者が第三債務者に対して有する代金債権などの支払方法を, 融資銀行に開設した債務者の特定の口座への振込に限定し,その振込金か ら貸付金を回収しようとする担保方法である振込指定においては,特定の 口座への振込を,融資銀行である債権者と債務者の連名で「上記(振込) 以外のいかなる方法によってもお支払いなきよう,特に依頼申し上げま す。」と第三債務者に依頼する「依頼書」が使用され,第三債務者はこれ に承諾する。融資銀行自体が受領権を持つわけではない点は代理受領と異 なるが,融資銀行は,振込金からの弁済充当権を有する。 ⑵ Yの承認の意味 受領委任に対するYの承認は,債権譲渡や債権質における承諾(民法 条 項, 条 項)を意味しない。Xに支払うべき依頼に対する承 認・承諾により,Yが何らかの債務を負担するかどうかは,依頼と承諾の 意思解釈の問題である。 もし,債権担保目的のため請負代金を直接Xに対してのみ支払うべきこ とを明確に依頼し,Yが新たな義務を負担する意思でこれに協力すること を承諾したとすれば,YはXに対してのみ支払うことによりX・Aに協力 すべき契約上の義務を負うこととなる。この場合に,YがAに支払ってし まったときには,YはXとの関係では,Xに対して支払うことにより獲得 されるXの担保的利益を侵害してはならない協力義務・保護義務に違反す ることとなり,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 しかし,受任者に支払うべき依頼の多くは,取立委任に協力して受任者 Xに支払うことを依頼するものであり,これは契約の申込ではなく,これ に対する承諾があってもYは債務を負担せず,単に債務の履行方法につい ての指示を了知したというだけである。この場合でも,債権担保目的であ ることを知りながら代理受領にYが承認した場合には,履行に際しXの担 保的利益に配慮するとのYの明示的・黙示的言明があり,YはXに対し信
義則上の責任や不法行為責任を負うこととなる!。
.準委任に含まれる契約
「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(以下では,「中 間的な論点整理」という)第 の 「準委任」によれば,民法 条の 準委任には,在学契約,語学学校の受講契約,エステティック・サロンの 施術契約等,「種々の役務提供型契約が含まれる」とされ,準委任として 「委任に関する規定によるとすれば,サービスの提供者側も任意の解除権 を有することになる(同法第 条,第 条)が,これは現実に行われ ている各種サービスの提供契約に適用される規律として必ずしも適当でな い」し,在学契約,語学学校の受講契約,エステティック・サロンの施術 契約等,「これらの役務提供型契約の全てを準委任に包摂するのは適当で ないとの指摘もある。そこで,役務提供型契約の受け皿的な規定等を設け る場合に,例えば,準委任の意義(適用範囲)を『第三者との間で法律行 為でない事務を行うことを目的とするもの』とする考え方」が示されてい る"。そして,そのような「準委任」の典型として,媒介契約が考えられて いる#。 しかし,それでは「準委任」の内容が明瞭でないとの批判や,当事者間 の契約関係は同じであるのに,たまたま第三者との関係の有無によって, 第三者にサービスを提供する契約は「準委任」であり,当事者にサービス を提供する契約は「役務提供契約」に該当するとするのは不均衡であると の批判がなされていた。 ここで従来は請負とされた「物と結びつかない仕事の完成を内容とする」 サービス提供契約$までも含む役務提供契約と準委任の差異を見てみると, ・無償の役務提供契約の場合は善管注意義務よりも軽減された注意義務を 負う%が,無償の準委任の場合の受任者の注意義務は軽減されない( 条)。・役務提供契約は当事者の死亡によって終了しないが,準委任の場合には 終了する。 ・役務提供契約には,請負契約における注文者の解約告知権( 条)の ようなサービス受領者の解約告知権が認められるが,これに対し,委任 の 条は,受任者は無償で受任者のために活動するものであるため, 受任者からも契約を自由に解約告知できるものとされ,また終了後の善 処義務が特色となっている(民法 条)。 これらの差異は,委任や準委任においては当事者の人的信頼関係を基に 事務処理の委託がなされるが,役務提供契約にはそのような前提がなく!, 財産的利益のあるサービスの提供に対して対価を支払う有償双務契約性が 重視されているためと考えられる。その際,新しい「役務提供契約」の規 定が適用される契約類型をできるだけ明確にして条文を設けるべきであ る。そうしないと,ある具体的なサービス提供契約にどの役務提供型の契 約類型の規定が適用されるべきか,不明確となってしまうであろう。それ に対し,準委任は委任と同じく,他人を信頼して事務の処理を委託する契 約であり,受任者の給付すべき労務は,一定の事務の処理という目的のも とに統一されており",準委任は,第三者との間で法律行為でない事務をす る契約,すなわち,第三者に事務処理を提供する契約に限定すべきではな く,委任者のために事務処理がなされる場合においても特色のある一つの 契約類型である。 上記「中間的な論点整理」第 の 「準委任」までの段階においては, 「準委任について準用すべき委任の規定の範囲についても,検討」すべき である,とされていたが,役務提供契約に関する規定が設けられた場合に は,委任型の事務処理契約が準委任として残ることとなり,その場合には 準委任についても委任の規定が準用されるべきであった。 しかし,中間試案は,上記役務提供契約についても「準委任」に含めよ うとしている。すなわち,中間試案は,法律行為でない事務の委託を,専 門性(知識・経験・技能等)への信頼のある類型と,それ以外の代替性の
ある役務の提供という類型とに分け,前者には委任の規定を準用する。そ して,それ以外の類型においては,自己執行義務がなく,事務処理にあ たって第三者を自由に使用できるとし,当事者が死亡しても契約は当事者 の相続人との間で存続し,受任者について破産手続開始決定又は後見開始 の審判を受けても契約は存続するとし,そのうち有償のものについては, その終了について雇用に関する 条 項, 条と同様の規定を設け, 無償のものについては,受任者はいつでも契約を解除できるとしている!。 この点に関し,代理受領も代理受領だけの委託であれば,「法律行為で ない事務の委託」であり,そうすると,中間試案のいう「準委任」となる。 そして,委任者としては,受任者が自分の債権者であるから代理受領権を 与えるという場合には委任の規定の準用が望ましいにもかかわらず,自己 執行義務のないほうの類型とされかねない。
.撤回できない代理権
中間試案では,民法 条の第 項として,「委任が受任者の利益をも 目的とするものである場合(その利益が専ら報酬を得ることによるもので ある場合を除く。)において,委任者が同条第 項による委任の解除をし たときは,委任者は,受任者の損害を賠償しなければならない。ただし, やむを得ない事由があったときはこの限りでない。」とだけ追加すること が提案されている"。 しかし,「民法(債権関係)の改正に関する検討事項」(以下では,「検 討事項」という)におけるように,委任者の任意解除権の制限につき,「例 えば,Xが,Yに対し,XのZに対する債権の取立てを委任し,取立金額 をYに対するXの債務の弁済に充てることを内容とする契約や,Xが所有 する不動産の売却をYに委任し,その売却代金をYに対する債務の弁済に 充てることを内容とする契約」を念頭に置いて # ,「委任が,もっぱら受任 者または第三者の利益をはかるものである場合には,委任者は委任を解除することができない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限 りでない。」との規定を置くべきではなかろうか。というのは,代理受領 においては,受任者の有する債権の担保のため受任者に第三債務者の給付 の代理受領権等が授与され,書面を作成しない事例もあり,受任者が損害 賠償を請求できるだけでは契約目的が達成できないからである。少なくと も判例変更を意図していないことを立法趣旨において明記すべきである。 なお,受任者の報酬はここでいう受任者の「利益」に含まれないとされる!。 「検討事項」における上記但書は,「経営不振に陥ったXが事業再建のた め債権者の一人であるYに経営を委託したが,Yが独断で不動産の名義を 変えるなどした事案」に関する最判昭和 年 月 日裁集民 号 頁に基づき,「事務処理が受任者の利益を目的としている場合にも…受任 者が著しく不誠実な行動に出た等やむを得ない事由がある」ときには,委 任者は任意解除権を行使することができるとの判例を条文化したとされ る"。 この「検討事項」において,委任が,もっぱら受任者の利益を図るもの である例として挙げられた「Xが,Yに対し,XのZに対する債権の取立 てを委任し,取立金額をYに対するXの債務の弁済に充てることを内容と する契約」とは,まさに代理受領契約である。XよりYに代理受領権等が 授与され,代理受領権者Yは,委任者Xに対して有する債権の担保手段と して委任者Xが第三債務者Zに対して有する債権を回収するために代理権 をYに授与している。委任者Xの有する債権の回収によって代理人Yが委 任者Xに対して有する債権の弁済にあてようとするものであり,担保のた めの代理権であり,代理人Yは代理権に関して担保利益を有する。 この点について,ドイツ法を見てみると,ドイツ民法 条第 文は「任 意代理権は,その法律関係から別段の結果が生じない限り,その法律関係 の存続中であっても,撤回することができる」と規定し,「その法律関係 から別段の結果が生じ」る場合には,代理権の授与が撤回できないことと なる。すなわち,代理人もしくは第三者の担保目的の利益など,代理人も
しくは第三者の利益のために代理権が授与された場合には,代理権の授与 が撤回できないとされ,本人がこのように撤回できない代理権を授与して いる場合には,代理人に撤回の意思表示をしても撤回は無効であるとされ る。ただし,本人に重大な事由があるときは,撤回権が有効に放棄されて いる場合でも撤回することができるとされる!。 この点について,わが国の旧民法の財産取得編 条は,ボアソナード 草案 条と同じく,「委任者のみの利益の為めに委任せし代理の廃罷は 謝金を諾約したるときと雖も委任者は何時にても随意に之を為すことを 得」と規定し,この規定の趣旨は,委任者の利益のためになされた委任に ついては,委任者はいつでも随意に撤回できるが,受任者または第三者の 利益のためになされた委任の場合には,委任者は撤回を制限される趣旨で あるとされる"。そして,現行民法 条の起草者も,当事者が解除権放棄 特約をすることができると述べているし#,判例も,解除権放棄特約を有効 としている$。債権担保の目的を以てする債権取立の委任や債権担保目的の 代理受領においては,解除権の放棄は適法であり,一般には,解除権の放 棄があると推定される%。
.委任者の死亡・破産
民法 条によると委任は委任者の死亡によって終了するが,委任者の 死亡によって委任は終了しないという反対の特約の効力は妨げられず,ま た,不動産の売買または抵当権設定に際し買主または抵当権者に与えられ た登記申請の委任や,債権担保目的での債権取立ての委任の場合には,反 対の特約がなくても,委任者の死亡によって消滅しないと解されている&。 このような解釈を条文に明示して,「委任は,委任者または受任者の死 亡によって終了する。ただし,特定の事務を目的とする委任であって,委 任者の死亡によっても終了しない旨の合意があったときは,この限りでな い。」と規定された場合には,委任者が死亡しても,撤回できない代理権は委任者の死亡によって消滅しないことがある!。 次に,委任者が破産手続開始の決定を受けた場合について,撤回しえな い任意代理権にあっても代理権授与によっては代理人はまだ代理行為の対 象の権利主体となっていないのであるから委任者の破産によって代理権は 消滅すると解されていた"が,中間試案は,有償の委任においては,「受任 者または破産管財人は,委任の解除をすることができる。」とし,無償の 委任では,双務契約ではないとして,いずれにも解除権は与えられないと の改正提案をしている#。
.受任者の善管注意義務・忠実義務
委任が無償であっても有償であっても,現行民法 条は,受任者は善 管注意義務を負うとする。受任者は,無償であっても他人の利益のために 事務処理をする義務を負うものであるから,この立場を維持すべきであ る。 これに対し,忠実義務とは,一般に,もっぱら本人の利益のために行動 しなければならず,自己の利益や第三者の利益を図ってはならない義務で あるとされ,代理人,委任契約における受任者,信託の受託者のように他 者から信認を受けて事務処理を託された受認者が負う義務であるとされ る$。 そこで,債権法改正提案として,受任者の忠実義務について,「受任者 は,委任者のため忠実に委任事務を処理しなければならない。」との一般 規定を導入しようとしている%。 しかし,一方では,現行民法 条の定める受任者の善管注意義務は, 受任者の忠実義務を含むものであり,受任者の忠実義務をただ一般的に定 めるだけであれば,そのような一般的規定は必要でない,という立場があ り得,忠実義務も,「条文適用の技術上は,善管注意義務の内容と解する のが妥当であろう。」との説がある&。起草過程においても,フランス民法に倣った旧民法財産編 条 項の「代理人は,委任事務を成就せしむる ことに付ては善良なる管理人たるの注意を為す責に任ず」との条文を改 め,現行民法 条に対応する民法原案 条では,「受任者は委任の本 旨に従ひ忠実に其委任せられたる事項を処理する義務を負う」との条文が 提案された。この理由について,起草者の富井政章は,目的物が有体物で ない場合には,「管理人」という言葉は不適当であるので,外国の法典を 参照して「忠実に」と改めたと説明している!。ところが,民法整理会では, 幾ら忠実を尽くしても善良なる管理者の注意を尽くさないといけないとし て,現行民法 条と同じ条文が提案されているのである。 他方では,もし,受任者の一般的忠実義務を定めたとしても,受任者に 担保目的といった利益がある委任など受任者や第三者の利益のための委任 の場合もあるのであり,その場合には,受任者は(利益相反等とはならず) 忠実義務を負わないことを明らかにすべきである(信託法 条 項,信 託法 条 項参照)。ただし,担保目的の委任も,もし債権者の満足があ れば通常の委任となる。
.受任者の指図遵守義務
受任者は委任者が与えた指図に従って事務処理することは当然であり, 自明のことであるので,条文としては,置く必要はないのではないか。中 間試案も受任者の指図遵守義務に関する条文の提案をしていない。この原 則に対する例外がどのような場合に認められるかが重要であり,①委任者 の指図に従うことが委任者の利益に反すると認められ,かつ,②委任者に その指図の変更を求めることが困難である場合は,受任者は合理的な措置 をとることができることを明文化してはどうであろうか。もしくは,委任 者の利益のためにも,ドイツ民法 条が「委任者が実情を知っていれば 自己の指図に従わないことを是認したであろう事情が受任者において認め られるときは,受任者は,委任者の指図に従わないことができる。」と規定しているように,委任者が当該事情を知っておれば指図からの離反を認 めたであろうと受任者が想定できる場合には,受任者は,指図に従わない 権利を持つことを明文化してはどうであろうか!。なお,現行民法 条の 解釈としても,委任者が事務の範囲を具体的に限定していても,その範囲 を超えなければ委任の終局の目的を達し得ない事情があるときに,その範 囲を超える受任者の権利を認める説がある"。
.受任者の自己執行義務とその例外
代理受領契約においては,委任者は受任者に弁済受領の復代理人を選任 する権限を与えることがあるが,一般に,委任は,当事者間の信頼関係を 基礎とするものであるので,原則として受任者の自己執行義務を明文で規 定すべきである。自己執行義務の例外につき,現行民法 条の「やむを 得ない事情があるとき」とは,委任者の許諾を得るか委任者に他の者に委 任させる等の措置をとっていては委任の本旨に反する事情があるときであ るとされてきた#が,「やむを得ない事情があるとき」の要件を緩和して, 「受任者に自ら委任事務を処理することを期待するのが相当でないとき は,この限りでない。」とすることは,慎重に検討すべきである。この改 正案は,有償委任や事業としての事務処理を念頭に置いており$,また,有 償の事務処理契約に関する独民 条が,有償の事務処理関係に適用され る委任の規定から自己執行義務を定めた独民 条を除外していることを 参照しているようであるが,ドイツ法において,契約上の義務を自分自身 で行う,との事務処理者の義務は,事務処理の基礎をなしている特別の信 頼関係から生じるので,有償の事務処理関係においても受任者は自己執行 義務を負うとの批判がある%。すでに現行民法 条の「本人の許諾を得た とき」には,本人の黙示的同意も含まれ,当該委任の人的信頼関係の意味 や第三者でも処理できる事務内容か否かをも考慮して委任者の黙示的同意 があるとされ得る。これらを考慮して,中間試案も,「受任者は,委任者の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,複受任 者を選任することはできない。」との試案を提案している!。 また,有償・無償を区別して,無償委任の場合に復受任者が選任された ときは,受任者は自ら事務処理する義務を免れ,復受任者の選任・監督に ついてのみ義務を負う"とすべきではなく,委任者が第三者への委任の委託 を承認しているか否かにより区別すべきであり,委任者が第三者への委任 の委託を承認しているときに,受任者はその義務を軽減されるべきであろ う。委任者の承認なしに受任者が第三者に事務委託した場合には,受任者 は履行補助者法理により復受任者の行為について責任を負う#。 なお,最判昭和 年 月 日民集 巻 号 頁が,物品販売の 委託を受けた問屋が別の問屋に再委託した場合に, 条 項は,「その 本質が単なる委任であって代理権を伴わない問屋の性質に照らし再委託の 場合にはこれを準用すべきでない」と判示したように,代理権を伴わない 復受任においては,復受任者の行為の効果は,直接委任者に帰属しないた め, 条 項を類推できないというべきである。
.受任者の報告義務
委任者から請求があった場合のほか,「委任事務の処理について委任者 に指図を求める必要があるとき」にも,受任者は報告すべきである。委任 者としては,事務処理の状況がわからなければ必要な指図をすることがで きないからである。そして,現行民法 条と同じく,「受任者は,委任 が終了した後は,遅滞なくその経過および結果を報告しなければならな い。」との規定をおくべきである。.受任者の金銭の消費についての責任,
受領物等引渡義務・利息支払義務
受任者が債権取立のため預かった債権証書などの書類,金銭取立の委任 の場合に債権の執行保全のための仮差押の保証金を預かり,これを供託し てのち下付を受けた下付金など受任者の受領物等の引渡義務に関する現行 民法 条は維持されるべきである。また,受任者が消費した金銭の利息 支払義務に関する現行民法 条も削除すべきではないのではなかろう か。これらの受任者の義務は,(有償委任では報酬以外には)委任者のた めの活動によって利益を得るべきではなく,受任者が委任事務を処理する に当たって受け取ったすべてのものを引き渡せ,との事務の他人性の帰結 である!。このように,現行民法 条の規定があることによって,委任者 は損害発生を証明せずに,受任者に対し損害賠償を請求した日ではなく, 「消費した日以降の利息」の支払いを請求することができる。しかしなが ら,中間試案は,現行民法 条の削除を提案している"。.費用償還請求・代弁済請求,損害賠償請求
受任者による費用の前払請求を認める現行民法 条,および,受任者 による立替費用の償還請求を認める現行民法 条 項は維持されるべき である。また,現行民法 条 項は,受任者が委任事務を処理するため に受任者の名で第三者に対し債務を負った場合の,第三者に対する債務の 代弁済・担保供与請求権について規定する。委任者が受任者に対し債権を 有する場合に委任者が相殺することを認めるため,代弁済請求ではなく, 弁済資金請求権に改める改正提案も出ているが,委任者からの相殺は認め ると受任者は実質上の立替弁済を強制されることとなり弁済資金の調達が 必要になるので,委任者からの相殺は認めない現行民法 条 項を維持 するほうがよかろう。受任者の損害賠償請求を定める現行民法 条 項は,無償委任につい ては維持されるべきである。有償委任については,スイス法やオーストリ ア法のように,事務処理者はその活動に対して報酬を受けており,それ 故,この活動に伴う危険を引き受けなければならないので,両当事者に責 のない偶然の事故によって生じた損害を受任者が単独で負担しなければな らないとの立場と,フランス法やドイツ法のように,報酬は通常の場合に は事務処理者の活動に対して支払われるものであり,少なくとも通例は, 報酬によって両当事者に責のない偶然の事故によって生じた損害をも償う ことは考えられていないとの立場が考えられる/。中間試案は,「有償性」で はなく,受任者の「専門性」を基準としてではあるが,そのとき前者の立 場のように委任者へ賠償請求できないとの改正提案をしている0。 ! 拙稿「第三者保護効契約の理論は,代理受領などにとりどのように有用か」『講座・ 現代契約と現代債権の展望第 巻』日本評論社 年。 " 部会資料 − ,第 , ,『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 年, 民事法研究会 頁− 頁, 頁。 # 『詳解債権法改正の基本方針Ⅴ』 年,商事法務 頁, 頁。 $ 『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 頁。 % 『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 頁。 & 東京弁護士会法友全期会債権法改正プロジェクトチーム『債権法改正を考える』 年,第一法規 頁− 頁。 ' 我妻『民法講義Ⅴ 』 頁− 頁。 ( 『民法改正中間試案の補足説明』 年,信山社 頁− 頁。 ) 『民法改正中間試案の補足説明』 頁。 * 『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 頁。 + 来栖『契約法』 頁。 , 『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 頁。 - 鳥谷部茂「ドイツにおける撤回できない代理」筑波法政 号( 年) 頁, 浜上則雄「撤回しえない任意代理権について」民商法雑誌 巻[昭和 年] 号 頁。 . 大島俊之「解除できない委任とは,どういうものか」『講座・現代契約と現代債権 の展望第 巻』日本評論社 頁。
! 『法典調査会民法議事速記録第 巻』 年,商事法務研究会 頁− 頁。 " 大判明治 年 月 日民録 ・ 。 # 我妻『民法講義Ⅴ 』 頁, 頁,来栖『契約法』 頁。 $ 来栖『契約法』 頁,幾代『民法総則』 頁,椿寿夫・注釈民法( ) 頁。 % 我妻『民法講義Ⅴ 』 頁, 頁,大判大正 年 月 日民録 ・ ,最判 昭和 年 月 日判タ 号 頁。 & 浜上則雄「撤回しえない任意代理権について」民商法雑誌 巻[昭和 年] 号 頁,我妻『民法講義Ⅴ 』 頁。 ' 『民法改正中間試案の補足説明』 頁− 頁。 ( 四宮和夫・能見善久『民法総則第 版』 頁。 ) 『民法(債権関係)の改正に関する検討事項』 頁。 * 道垣内弘人『信託法理と私法体系』 年,有斐閣 頁。 + 『法典調査会民法議事速記録第 巻』 年,商事法務研究会 頁− 頁。 , 『注釈ドイツ契約法』日本評論社 頁以下,東京地判昭和 年 月 日判タ 号 頁。 - 我妻『民法講義Ⅴ 』 頁。 . 我妻『民法講義Ⅴ 』 頁。 / 『詳解債権法改正の基本方針Ⅴ』 頁。 0 新井誠「有償の事務処理契約に関するムジラークの立法的提言」『西ドイツ債務法 改正鑑定意見の研究』 年,日本評論社 頁。 1 『民法改正中間試案の補足説明』 頁。 2 『詳解債権法改正の基本方針Ⅴ』 頁。 3 『詳解債権法改正の基本方針Ⅴ』 頁。 4 新井誠「有償の事務処理契約に関するムジラークの立法的提言」『西ドイツ債務法 改正鑑定意見の研究』 年,日本評論社 頁。 5 『民法改正中間試案の補足説明』 頁。 6 新井誠「有償の事務処理契約に関するムジラークの立法的提言」『西ドイツ債務法 改正鑑定意見の研究』 年,日本評論社 頁− 頁。 7 『民法改正中間試案の補足説明』 頁。 (ふじた・ひさお 連合法務研究科教授)