• 検索結果がありません。

人事院規則委任条項・罰則適用条項挿入の経緯と趣旨(2)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "人事院規則委任条項・罰則適用条項挿入の経緯と趣旨(2)"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

研究ノート

国家公務員の政治的行為規制に関する

人事院規則委任条項・罰則適用条項挿入の経緯と趣旨(2)

岡 田 正 則

1.はじめに

2.行政法学および行政実務における共通認識

3.公務員に対する政治的行為の制限の許容性とその範囲

(1) 全体の奉仕者」規定と一般職公務員に対する政治的行為の制限との関係 (2) 制限の範囲と制裁措置に関する立法者意思

(3) 制限の範囲と制裁措置に関する運用上の限定

(4) 人事院規則14‑7第6項7号の「配布」行為の位置づけについて (5) 罰則の適用について

4.おわりに (以上、84巻1号)

5.《補論》国家公務員法における政治的行為の制限と罰則に関する規定の制定・

改正の経過

(5のうち[1]から[19]まで、本号)

5.《補論》国家公務員法における政治的行為の制限と罰則に関する 規定の制定・改正の経過

[1]1947年10月21日╱旧国家公務員法

43 国家公務員法(昭和22年法律第120号)(27)

第1条(この法律の目的及び効力) この法律は、国家公務員(この法律で国家 公務員には、国会議員を含まない。)たる職員について適用すべき各般の根本基準 を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的 な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民 主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。

[中略]

第40条(人事に関する虚偽行為の禁止) 何人も、試験、選考、任用又は人事記 録に関して、虚偽又は不正の陳述、記載、証明、採点、判断又は報告を行つてはな らない。

(27) 人事院編『国家公務員法沿革史(資料編I)』人事院、1969年、211頁以下。左端の数字 は同書が付した整理番号である。

(2)

[中略]

第102条(政治的行為の制限) ①職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金 その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これ らの行為に関与してはならない。

②職員は、人事委員会規則で別段の定をした場合は、公選による公職の候補者とな ることができない。

③法律又は人事委員会規則で定めた職員は、政党その他の政治的団体の役員となる ことができない。

[中略]

第110条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に 処する。

一 第17条第2項の規定により、証人として喚問を受け虚偽の陳述をした者 二 第17条第2項の規定により、書類又はその写の提出を求められ、虚偽の事項を 記載した書類又は写を提出した者

三 第40条又は第41条の規定による禁止に違反した者 四 第103条第2項の規定による禁止に違反した者

[後略]

1947年10月に制定された当初の国家公務員法は、政治的行為の規制に関して は、第一に、102条1項で人事院規則に禁止事項を委任する文言を有していなか った点、第二に、同条には罰則の適用がなかった点で、翌年の改正法とはかなり 異なっていた。同年12月に再来日した

B・フーバー

(Blaine Hoover)は、成立 した国公法が彼の原案と比べて大きく修正されていたことに不満を持ち、さっそ く国公法改正法案の準備に取りかかった。改正作業の中で政治的行為の規制に関 連することになる条項は、1条・40条・102条・110条である。以下、これらの規 定に限定して、改正法案の形成過程をたどることにする。

[2]1948年6月10日╱総司令部から日本側に交付された改正指示文書

55 PROPOSED  REVISION  OF THE NATIONAL PUBLIC SERVICE LAW(LAW NO.  

(28)

120)

Article40. Revise as follows:

Paragraph one, line2, insert a comma(,)between “mark”and “rating”.

Add as a second paragraph “No person shall willfully violate or attempt or conspire to violate this Law  or any part of it, or the rules or orders issued  thereunder, or commit or attempt to commit any fraud incident to the  administration of or obstruct the enforcement of this Law or the rules,orders 

(28) 人事院編・前掲注(27)248頁以下。

早法 84巻2号(2009)

240

(3)

 

or regulations enacted thereunder.”.

Article102. Revise as follows:

Paragraph two, lines2‑3, delete “in cases provided by the rules of the Commission.”and place a period(.)after “office”. 

Paragraph three,lines1‑2,delete“specified by law or rules of the Commission”.

56 国家公務員法中改正法律案(29) 第40条 第2項に左を加う。

如何なる職員も、故意にこの法律あるいは、その一部を、あるいは、この法律 に基いた規則あるいは命令を侵し、あるいは侵そうと試みたり、共謀したりして はならない。又この法律あるいは、この法律に基いて定められた規則命令あるい は、規程の施行に関連し、詐欺的行為をなし、あるいはなそうと試みたり、その 施行を妨げてはならない。

第102条 第2項中「人事委員会規則で別段の定をした場合は」を削る。

第3項の「法律又は人事委員会規則で定めた」を削る。

フーバーは、最初、上記[2]の指示文書で、40条に2項を付加することを日 本側に指示した。この条項があれば、人事院規則違反のすべてに罰則を適用する ことが可能となる。おそらくフーバーは、人事院規則においてさまざまな禁止事 項を設けることによって、当時緊迫した状況を迎えつつあった公務員の労働運動 を抑え込むことを意図していたと思われる。しかし、行政立法でいかなる行為に ついても刑罰を科しうることになれば、罪刑法定主義は破壊されてしまう。日本 側は、当然にも、次の[3]においてこの条項には罰則を適用すべきではないと いう見解を示した。一方、102条の改正方針は、職員の公職への立候補禁止を厳 しくするとともに、政党等の役員になることを禁止する職員の範囲をあらゆる職 員に広げることにあった。同条1項は改正の対象とはされていなかった。またこ の時点では、40条2項と102条との間には改正方針上の関連性はなかった。

[3]1948年6月14日╱総司令部に対する日本側からの質問事項

58 GHQヘの質問事項(30)

(11)第40条の違反は、同条第1項の違反とは異なっているので、第110条に規定 されている罰則は第40条第2項の違反には適用されないと解してよろしいか。

40条は試験等における不正行為を処罰する規定であったが、フーバーが付加し ようとした同条2項は、このような具体的行為を対象とするものではなく、明ら

(29) 人事院編・前掲注(27)275頁以下。

(30) 人事院編・前掲注(27)283頁以下。

(4)

かに罰則の構成要件を人事院規則に白紙委任しようとするものであった。日本側 の[3]の質問事項は、同項を道徳規範とすることによって、このような問題を 回避しようとするものであった。

[4]1948年6月18日╱改正案と修正意見

59 国家公務員法の一部を改正する法律(人事課長会議に提出された改正案)(31) 第40条に次の一項を加える。

何人も、故意に、この法律又は人事院規則に違反し、又は違反を企て、若しくは 共謀して違反を企ててはならない。又、何人も、故意に、この法律又は人事院規則 の施行に関し、詐欺的行為をなし、又はなそうと企て、若しくはその施行を妨げて はならない。

第102条第2項中「人事委員会規則で別段の定をした場合は、」及び同条第3項中

「法律又は人事委員会規則で定めた」を削る。

60 修正意見(関係次官会議の結果の修正意見)(32) 8.第40条に次の一項を加えるのをやめる。

何人も、故意に、この法律又は人事院規則に違反し、又は違反を企て、若しく は共謀して違反を企ててはならない。又、何人も故意に、この法律又は人事院規則 の施行に関し、詐欺的行為をなし、又はなそうと企て、若しくはその施行を妨げて はならない。」

日本側の[3]の質問にもかかわらず、40条2項に包括的な罰則の適用条項・

白紙委任条項を導入する国家公務員法改正案が総司令部から示された。これに対 して、日本側の関係次官会議は、この条項の導入に反対する趣旨の[4]の修正 意見を提出した。

[5]1948年7月23日╱総司令部から日本側に交付された改正指示文書

76 PROPOSED  REVISION  OF THE NATIONAL PUBLIC SERVICE LAW(LAW NO.  

(33)

120)

Article40. Revise as follows:

Paragraph one, line2, insert a comma(,)between “mark”and “rating”.

Add as a second paragraph “No person shall willfully violate or attempt or conspire to violate this law or any part of it,or the rules or directives issued  thereunder, or commit or attempt to commit any fraud incident to the 

(31) 人事院編・前掲注(27)284頁以下。

(32) 人事院編・前掲注(27)292頁以下。

(33) 人事院編・前掲注(27)317頁以下。

早法 84巻2号(2009)

242

(5)

 

administration of or obstruct the enforcement of this Law  or the rules or regulations enacted or directives issued thereunder.”. 

Article102. Revise as follows:

Paragraph two, lines2‑3, delete “in cases provided by the rules of the Commission.”and place a period(.)after “office”. 

Paragraph three, lines1‑2, delete “specified by law  or rules of the Commis- sion”.

7月22日のマッカーサー書簡を受けて、政府は、同月30日に臨時措置として公 務員の団体交渉権・争議権を否認する政令201号を公布し、即日施行した。この ような状況の下で、日本側の修正意見は顧みられることなく、40条2項の導入が 総司令部側からくり返し指示されていた(上記[5]指示文書)。

[6]1948年7月28日╱日本側に交付された総司令部の改正案

77 BILL FOR PARTIAL AMENDMENT OF THE NATIONAL PUBLIC SERVICE

(34)

LAW.

[Article40.に対応する箇所に以下の記述がある]

“No person shall willfully violate or attempt or conspire to violate this Law or any part of it,or the rules of directives issued thereunder,or commit or attempt  to commit any fraud incident to the administration of or obstruct the enforce-  ment of this Law  or the rules or regulations enacted or directives issued thereunder.”.  

In Article102, Paragraph2, “in cases provided by rules of the Commission,”

shall be deleted, a period(.)being places after “office”;and in Paragraph3, lines1‑2, “specified by law  or rules of the Commission”shall be deleted.

総司令部側が取りまとめた上記[6]の国家公務員法改正案では、依然として 40条2項の導入が維持されていた。102条の改正方針は[2]の時点と同じく、

2項・3項の改正にとどまっていた。

この総司令部の改正案を日本政府に交付する際にフーバーがとった態度を、当 時の臨時人事委員会委員長(後の人事院総裁)・浅井清は次のように描写してい る。「フーヴァー氏は昭和23年7月28日、苫米地義三官房長官を司令部に招致し て、おごそかな態度で、改正案の草案と日本語の訳文とを突きつけた。筆者もそ の席上にいたが、苫米地氏は、改正案の精密な草案に加えて、日本語の訳文まで 添えてあるのに驚いた様子で、第一に発した言葉は、『これは修正の余地がある のか。』ということであったが、フーヴァー氏は、『修正は認めない』と、冷然と

(34) 人事院編・前掲注(27)340頁以下。

(6)

いい放ったのであった」。(35)

[7]1948年8月6日╱改正案に対する法務庁の意見

85 公務員法改正案に対する意見(法務庁)(36) 1、第40条第2項を総則に移すこと

1、第110条第3号中「第40条」を「第41条第1項」に改め……ること

[中略]

(第40条第2項は、これを総則へ移すを可とす。)

日本側(法務庁)は、40条2項の導入は不可避だと判断しながらも、これへの 罰則の適用を何とか回避するために、同項を総則に移すかまたは罰則の適用対象 を40条1項に限定することを上記[7]文書で提案した。

[8]1948年8月9日╱法務庁の改正案第40条第2項修正案

86 国家公務員法の一部を改正する法律案第40条第2項の修正案(37)

何人も、この法律、人事院規則又は人事院指令に違反する行為をし、又は違反す る行為をしようとし、又は違反する行為の通謀をしてはならない。又、何人も、こ の法律、人事院規則又は人事院指令の執行に関し詐欺その他の不正の行為をし、若 しくはしようとし、又はその執行を阻害してはならない。

総司令部提案の改正案40条2項の文言を整除したのが上記[8]の修正案だと 思われる。

[9]1948年8月14日╱関係次官会議のまとめ

87 国家公務員法改正案に対する関係次官会議の質疑及び希望意見(38) 第40条について

① 違反を企てる」とは、予備の段階をも含むか、又は着手を意味するのか。

② 共謀して違反を企てる」とは、「数人謀議して違反する場合」をも含むか。

第102条について

① 公選による公職の候補者とは当該法規において明かに候補者届出制度を採用 しているものに限ると解してよいか。

② 政党その他の政治的団体及びその役員の範囲は、人事院規則で定めるのか。

(35) 浅井・前掲注(11)『精義』6頁。

(36) 人事院編・前掲注(27)372頁以下。

(37) 人事院編・前掲注(27)373頁以下。

(38) 人事院編・前掲注(27)374頁以下。

早法 84巻2号(2009)

244

(7)

総司令部の指示・提案を受け入れた場合に、改正法がどのような法規定になる のかについて、事務次官レベルで疑問点を整理したのが上記[9]である。ここ では、総司令部の指示・提案の趣旨確認をするにとどまっている。

[10]1948年8月18日╱法務庁の意見

92 公務員法改正に関する憲法上の問題について(法務庁)(39) 3、刑罰規定の問題

(問題)

現行公務員法第110条第3号は、第40条の規定による禁止に違反した者を、1年 以下の懲役又は五千円以下の罰金に処することとしているが、現行第40条の規定 は、人事に関する虚偽の陳述、記載等の行為を禁止するに止まるのに対し、本案は その第2項として、本法、人事院規則又は人事院指令に違反する一切の行為を禁止 する趣旨の規定を追加する関係上、その違反にすべて前記の刑罰が科せられること になるが、このような漠然とした刑罰規定を設けること、及び人事院の規則や指令 の違反に包括的罰則を設けることが、憲法の精神に反するものではないかの問題が ある。

(意見)

刑罰規定として広汎な概括条項を設けることは、罪刑法定主義に照して適当では なく、極端になると違憲と認められる。本案においては、法律の規定だけについて 見ても、命令的又は禁止的文言を包含したものが相当に多い。その中には、その違 反に対して刑罰を以て臨む趣旨であるかは疑わしいものもあり、又、規律違反とし て懲戒の程度で充分と認められるものもある。この点から、立法技術として適当と はいい難い。例えば、公務員の争議禁止違反も、第98条第4項違反として、第40 条、第110条を通じて処罰されることになるが、これなどは個別的に規定するのが 望ましい。

又、人事院規則又は指令の違反に、包括的な罰則をつけたのと同様になるが、憲 法第73条第6号但書が、政令に包括的に罰則を委任することを禁止していることと の均衡上、憲法違反の疑を免れないように思われる。

法務庁は、法律問題に責任を持つ機関として、上記[10]において、改正案40 条2項のような包括的な罰則適用条項が憲法違反になりうる旨の見解を示し、そ の導入を阻止しようとした。

[11]1948年8月19日╱臨時閣議で設置された閣僚小委員会に付議された改正案 94 国家公務員法の一部を改正する法律(40)

(39) 人事院編・前掲注(27)393頁以下。

(8)

第40条に次の一項を加える。

何人も、故意に、この法律、人事院規則又は人事院指令に違反し、又は違反を企 て若しくは共謀して違反を企ててはならない。又、何人も、故意に、この法律、人 事院規則又は人事院指令の施行に関し、詐欺的行為をなし、若しくはなそうと企 て、又はその施行を妨げてはならない。

第102条第2項中「人事委員会規則で別段の定をした場合は、」及び同条第3項中

「法律又は人事委員会規則で定めた」を削る。

[10]のような法務庁の意見があったにもかかわらず、上記[11]の改正案を みると、依然として[6]の総司令部の改正案が閣議の検討対象とされていたこ とが分かる。

[12]1948年8月28日╱法務庁検務局の修正案と意見

98 国家公務員法改正法律案中修正案(法務庁検務局)(41)

第110条第3号中「第40条」を「第40条第1項」に改め、同条第4号を第5号とし、

第4号として次の一号を加える。

四 第98号第4項の規定による禁止に違反した者

第110条の2 左の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五千円以下の罰 金に処する。

[中略]

三 第102条の規定に違反した者

99 国家公務員法改正法律案における罰則規定に関する法務庁検務局意見(42) 6、第102条の規定による禁止に違反した者は、六月以下の懲役又は五千円以下の

罰金に処するものとすること。

上記[12]の法務庁検務局修正案が総司令部の意向をどの程度反映するもので あったかは不明だが、この時点で、法務庁検務局は、包括的な罰則適用条項の導 入を阻止するために、組合員不利益取扱い禁止条項(98条4項)と政治的行為の 禁止条項に違反した者に対して罰則を適用する方針を示した。ここにおいて、初 めて、政治的行為の規定に罰則を結びつける方向がとられたといえるであろう。

ただし、ここでの刑罰は「六月以下の懲役又は五千円以下の罰金」という、国公 法の中ではもっとも軽いものが想定されていた。

(40) 人事院編・前掲注(27)394頁以下。

(41) 人事院編・前掲注(27)412頁以下。

(42) 人事院編・前掲注(27)413頁以下。

早法 84巻2号(2009)

246

(9)

[13]1948年9月3日╱臨時閣議での検討案と修正理由

102 国家公務員法の一部を改正する法律(43) 第1条に次の三項を加える。

[中略]

何人も、故意に、この法律、人事院規則又は人事院指令に違反し、又は違反を企 て若しくは共謀して違反を企ててはならない。又、何人も、故意に、この法律、人 事院規則又は人事院指令の施行に関し、詐欺的行為をなし、若しくはなそうと企 て、又はその施行を妨げてはならない。(原案40条2項)

第102条第2項中「人事委員会規則で別段の定をした場合は、」及び同条第3項中

「法律又は人事委員会規則で定めた」を削る。

103 国家公務員法の一部を改正する法律」原案修正理由(44)

45 原案では第40条第2項で広くこの法律、人事院規則及人事院指令の違反行為を 禁止し、これに1年以下の懲役云々の罰則が全面的に適用されることになっていた が、これでは処罰の範囲があまりに漠然としていて懲戒との区別もつかず法治主義 の精神からいっていかがかと思はれるから、この第4条[ママ]第2項は道徳的規 定として第1条の末尾に移し、これの違反に対しては、懲戒のみがかぶることとし た。

その代りに、罰則中に加える必要のあるものについては、各々その条文を抜き出 して罰則に加えることとし、第98条第4項に違反して組合その他の団体員たるの故 をもって職員に対し不利益な扱いをした者及び第98条第5項に違反して争議行為を した者についての罰則を、第110条に追加することとしたのである。

上記[13]をみると、40条2項の導入を阻止するという方針を内閣が明確に採 ったことが分かる。内閣は、この条項を1条に移すことによって法的効力のない 道徳的規定にする一方、その代わりとして、組合所属を理由とする不利益な取扱 いを行った者や争議行為の禁止に違反した者に対する罰則の適用など、個別の行 為を罰則規定の中で列挙することとしたのである。後の改正案になるにつれて、

列挙される行為の数が増やされることになった。なお、[13]文書の時点では102 条ヘの言及がないので、政治的行為について罰則を適用するか否かは未定であっ たと思われる。

[14]1948年9月4日╱改正案の修正事項閣議決定

104 国家公務員法改正案の修正事項閣議決定(45)

(43) 人事院編・前掲注(27)417頁以下。

(44) 人事院編・前掲注(27)427頁以下。

(45) 人事院編・前掲注(27)431頁以下。

(10)

第1条関係

[中略]第3項の次に次の一項を加える。

何人も、この法律、人事院規則又は人事院指令に違反し、又は違反を企て若しく は共謀して違反を企てゝはならない。又何人も、この法律、人事院規則又は人事院 指令の施行に関し、詐欺的行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨 げてはならない。

第40条関係

第40条に次の一項を加える。」及び「何人も、故意に、この法律、人事院規則又 は人事院指令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀して違反を企ててはならな い。又何人も故意に、この法律、人事院規則又は人事院指令の施行に関し、詐欺的 行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。」を削る。

[13]の方針を閣議決定したのが[14]である。

[15]1948年9月12日╱第1回日米会談

107 公務員法改正に関する司令部と日本側との第1回会談録(46)

(内容)Hoover氏はまず「内閣により修正案が提出されたが、その中には法律 家にとっては宜しいと思うものもあったが、大体に於ては人事行政の専門家によっ ては無知であるという批評をする外はないと思う。……内閣の修正案に対しては之 に修正する正当な理由のない限りこのまま国会に出して貰いたい……」と述べた。

第1条関係

[中略]

第二点の第40条を移すことに関しては

第一の理由である公務員法全般に関することであるから第1条に移すことに関して は賛意を表したが、

第二の理由は40条2項におくと、これは罰則がすべての場合に適用されひどすぎ るではないかと思うと説明したが、この点は研究の余地があるから後でDiscussし ようということになった。

日本政府の方針決定を受けて、日米の担当者は、9月12日からほぼ連日、9回 にわたる法案の逐条的な検討作業を行った。出席者は、司令部側がフーバー課長 のほか公務員制度課の数名の課員、日本側が臨時人事委員会の浅井委員長、山 下・上野両委員、佐藤(朝)事務局長、法務庁の佐藤(達)法制局長官、などで ある。

フーバーは、自分が人事行政の専門家であることを恃んで、憲法論や法律論に 耳を貸そうとしなかった。そしてここでも、上記[6]の改正案交付の際と同様

(46) 人事院編・前掲注(27)441頁以下。

早法 84巻2号(2009)

248

(11)

に「修正は認めない」という態度を示した。40条2項の包括的な罰則適用条項の 扱いについては、1条に移すことを含みつつ、ペンディングとされた。

[16]1948年9月15日╱第5回日米会談

112 公務員法改正に関する司令部と日本側との第5回会談録(47) 第110条関係

Hoover 法律には全部罰則をもつべきである。

委員長 40条は抽象的すぎる。日本の裁判官は広い裁量の余地を与えてはおらぬ。

これは日本の従来の経緯に基づく。

佐藤長官 罰則は列挙主義でないといかぬ。また検察官の問題もあって人事官まで 訴追されるようになる。

Hoover   punishmentがないとenforceできぬ。

委員長 enforceするには必ずしもpunishmentは必要でない。

Hoover   strike条項の違反と40条2項の規則違反を入れればよい。

佐藤長官 40条を入れると広すぎる。

Hoover やはり入れたい。罰則には上中下を分ち、全条項の罰則を含ませたい。

113 ON MATTERS RELATED TO ARTICLE

(48)

110

In the original draft,Paragraph2of Article40widely prescribes the prohibi- tion of any violation of rules and directives of the Authority,and subjects such violation to a penal provision providing for penal servitude for one year, etc. 

The scope of penalty is, however, so vague that it is difficult to distinguish it from  disciplinary punishment,and,as this is far from  the spirit of constitution-  alism, we would like to transfer the provision of Paragraph2of Article40to the end of Article1as a general provision,so that only disciplinary punishment  may be applicable to cases of violating this specific provision. 

To counter‑balance this change, such violations as are thought necessary to be included in the penal provisions are enumerated in the penal provisions  themselves by quoting therein the specific articles of the text.Thus,the case of  anyone giving adverse treatment to a person in the service on the ground that  he is a member of an employee association or other organization in contraven-  tion of Paragraph4of Article98,and the case of employee resorting to acts of dispute in contravention on Paragraph 5of Article98have now  been newly added in the penal provision of Article 110.

116 CHANGES TO  BE MADE IN  THE PROPOSED  AMENDMENTS TO  THE

(47) 人事院編・前掲注(27)449頁以下。

(48) 人事院編・前掲注(27)451頁。

(12)

 

NATIONAL PUBLIC SERVICE LAW(LAW120‑1947)AS DISCUSSED BETWEEN MR. BLAINE HOOVER, CHIEF, CIVIL SERVICE DIVISION, GOVERNMENT SEC- 

TION, GHQ. SCAP  AND  MR. SATO  OF THE  ATTONEY  GENERALʼS  OFFICE, JAPANESE NATIONAL GOVERNMENT.(1948年 9 月15日 日 米 会 談 の 結 果 の 修

(49)

正案)

Article1.

[中略]

Add the following paragraph as new paragraph3:“No person shall willfully violate or attempt or conspire to violate this law or any part of it,or the rules  or directives issued thereunder, or commit or attempt to commit any fraud  incident to, or obstract[ママ]the enforcement of this law or rules or regula- 

tions enacted or directives issued thereunder.”

Article40.Delete the entire second paragraph since this has now been added to and becomes a part of Article1.  

[16]の第5回日米会談で、罰則の適用に関する議論が激突した。「フーヴァー 氏は、法律の専門的知識がなかった」(浅井清)(50) といわれるとおり、フーバーは、

法の基本原則や法律の解釈論をまったく無視して原案を押し通そうとした。これ に対し日本側は、上記[13]の原案修正理由の英語訳を提示して反論を行い、そ の結果、40条2項の文言は1条3項に移されることになった(上記「1948年9月 15日日米会談の結果の修正案」参照)。しかし、罰則の適用については継続審議と された。

[17]1948年9月19日╱第9回日米会談

123 公務員法改正に関する司令部と日本側との第9回会談録(51) (内容)

(1) 先ず、罰則に関する政府案を提出したところ、大体princepleにおいては異 存なし、MacCoyが研究の上、明日返答したい。

124 罰則案(52)

第110条を次のように改める。

第110条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に

(49) 人事院編・前掲注(27)454頁以下。

(50) 浅井・前掲注(11)『精義』78頁。

(51) 人事院編・前掲注(27)473頁。

(52) 人事院編・前掲注(27)473頁以下。B案の内容については、人事院編・同書では省略 されているので、佐藤朝生『国家公務員法改正経過メモ(第三分冊)』人事院法制課、1967‑

70年、139‑143頁(英文は145‑151頁)で補った。

早法 84巻2号(2009)

250

(13)

処する。

[中略]

十ノ二 第102条第1項の規定による禁止に違反した者 B案

[中略]

次の各号の1に該当する者は原案40条2項(新1条末項)の規定によれば処罰の 対象になり得ると考えられるが、これらの者は懲戒処分を以て足るものと認める。

[中略]

67.第102条の規定に違反して政治的行為を行った職員

上記[17]の第9回日米会談で、改正法案の逐条的検討は終了する。政治的行 為については、102条1項に規定する政党への寄付金の要求行為等について罰則 を適用する案と懲戒処分をもって足りるとする案とが検討された(少なくとも、

102条2項・3項の行為に対する罰則の適用は除外された)。しかしこの場では決着が つかず、総司令部側と佐藤法制局長官らとの間で引き続き検討することとされ た。

[18]1948年9月26日╱日本側に交付された総司令部の改正案(第4次案)

131 BILL FOR PARTIAL AMENDMENT OF THE NATIONAL PUBLIC SERVICE LAW.4THDRAFT(53)  

A  part of the National Public Service Law  (Law  No.120of1947)shall be amended as follows:  

[中略]

Article1.

[中略]

No person shall willfully violate or attempt or conspire to violate this Law or any part of it, or the rules or directives issued thereunder, or commit or  attempt to commit any fraud incident to the administration of or obstruct the  enforcement of this Law or the rules or regulations enacted or directives issued  thereunder.  

In Article40,Paragraph1,between “mark”and “rating”a comma(,)shall be inserted.  

[中略]

In Article102, Paragraph2, “in cases provided by rules of the Commission.”

shall be deleted, a period(.)being placed after “office”;and in Paragraph3,

“specified by law  or rules of the Commission”shall be deleted.

(53) 人事院編『国家公務員法沿革史(資料編I)』485頁以下。

(14)

[102条1項および110条については記述なし]

第9回日米会談以降、98条の交渉権問題と罰則問題について日米間で連日の折 衝が行われた。おそらくはこのため、上記[18]の第4次改正案の中には、102(54) 条1項と110条に関する条項が省略されている。

[19]1948年10月6日╱総司令部から日本側に交付された改正指示文書

138 PROPOSED REVISIONS OF THE NATIONAL PUBLIC SERVICE LAW(LAW NO.  

(55)

120)

Article102. Revise as follows:

Paragraph one, line4, delete the period(.)and add “or engage in any political activity other than to exercise his right to vote.”. 

Paragraph two,lines2‑3,delete“in case provided by the rules of the Commis- sion.”and place a period(.)after “office”.

Paragraph three, lines1‑2, delete “specified by law  or rules of the Commis- sion”. Line2, insert a comma(,)and “political adviser, or member with similar political function”after “officer”. 

Article110. Revise as follows:

Delete and substitute therefor

“A person falling under one of the following cases shall be sentenced to not to exceed three years in penal servitude or fined not to exceed two hundred  thousand yen :  

[中略]

20. Any person who violates the restrictions on political activity set forth in paragraph1of Article102;  

日米間の折衝の結果、102条1項と110条の改正を含め、総司令部側から全面的 な改正方針が提示された。従前の102条1項は「職員は、政党又は政治的目的の ために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てす るを問わず、これらの行為に関与してはならない。」という規定であり、改正の 予定はなかったが、この[19]文書に至って「これらの行為に関与してはならな い」を「これらの行為に関与し、選挙権の行使を除く外、いかなる政治的行為に も関与してはならない」という文言に差し替えるべきことが指示されたのであ る。この指示に従うならば、「政治的行為」の内容がきわめて不明瞭になること が懸念された。加えて、この条項に違反した者には「懲役3年以下または20万円

(54) 佐藤・前掲注(52)156‑161頁参照。検討の内容は不明である。

(55) 人事院編・前掲注(27)521頁以下。

早法 84巻2号(2009)

252

(15)

以下の罰金」が科されるものとされた。「政治的行為」がいかなる行為を指すの かが不明なままで、これを一律に禁止し、しかも日本側の想定を超える重い刑罰 をこれに科すという改正案が示されたのである(以上の規定によれば、102条2 項・3項の行為に対しても刑罰が科されることになるが、このことは、後にフーバーが 政党の役員就任等への罰則適用条項を挿入させることとした点から考えても、フーバー(56) の意図するところであったと考えられる)。

上記[19]文書について、佐藤朝生『国家公務員法改正経過メモ』は次のよう に説明している。「本日受領した国公法改正案は、去る9月19日日本側から提出 した罰則の改正案(9月19日[上記[17]の124文書]「罰則に関する第1次政府提出 案」)に対する司令部の考え方を示したものである。この案は当初の司令部罰則 案が公務員法全般にわたりその違反に対する罰則適用[を行おうとしたこと]に くらべれば、日本側が9月15日第5回会談で主張した列挙主義に改められている 点で日本側の主張は受け入れられているが、なお、罰則の適用範囲は広い」。ま(57) た、当時、臨時人事委員会法制部長であり、政府委員として改正法の国会審議に 対応した岡部史郎によれば、「当初のフーバー改正案は、多くの個所にわたり、

むしろ緩和の方向で、修正されたのであるが、政治的行為の制限に関する限り、

この日の提案では、いっそう厳しい方向で修正された」とされている。(58) こうして、包括的な罰則適用条項は、上記[19]文書において、政治的行為に 焦点を合わせて、日本側に突きつけられることになったのである。

(56) 浅井・前掲注(11)精義』433‑434頁における「八つの抜け穴」第4項をめぐるフーバー の主張と浅井の応答を参照。

(57) 佐藤朝生『国家公務員法改正経過メモ(第四分冊)』人事院法制課、1967‑70年、5頁。

岡部史郎「政治活動の規制に関する経緯」人事院編『国家公務員沿革史(記述編)』人事院、

1975年、381頁もこの記述を掲載している。佐藤朝生は、当時、臨時人事委員会事務局長で ある。

(58) 岡部・前掲注(57)382頁。岡部はこの後、人事院法制局長となり、人事院規則14‑7の 取りまとめを担当する。

参照

関連したドキュメント

定率法 17 条第1項第 11 号及び輸徴法第 13

2 前項の規定は、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 252 条の 19 第1項の指定都 市及び同法第 252 条の

ビュージスタ GRAN-Gio ビュージスタ GRAN-Block ビュージスタ MULTI- ハードウッド ビュージスタ MULTI- ラティス ビュージスタ MULTI- サガン ビュージスタ

・ 改正後薬機法第9条の2第1項各号、第 18 条の2第1項各号及び第3項 各号、第 23 条の2の 15 の2第1項各号及び第3項各号、第 23 条の

(大防法第 18 条の 15、大防法施行規則第 16 条の 8、条例第 6 条の 2、条例規則第 6 条の

1  許可申請の許可の適否の審査に当たっては、規則第 11 条に規定する許可基準、同条第

・条例第 37 条・第 62 条において、軽微なものなど規則で定める変更については、届出が不要とされ、その具 体的な要件が規則に定められている(規則第

第2条第1項第3号の2に掲げる物(第3条の規定による改正前の特定化学物質予防規