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「出席レポート」の効果に関する一考察

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Academic year: 2021

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Ⅰ.「出席レポート」の目的

 本学における「出席レポート」の取組は,平成 21 年度教育 GP に選定された『メモ力育成を核とした単 位制度実質化の取組』の一部として導入され,今年度 で 3 年目を迎えた。  「出席レポート」とは,毎週授業のたびに提出させ る,出欠を兼ねるレポートである。学生は授業中にメ モしたノートを授業後に整理し,図書館などで情報収 集などをした上で作成したレポートを,次週の授業で 提出する。提出されたレポートは,教員が添削し,コ メントを記載したうえで,翌週の授業において学生に 返却する。これを繰り返すことにより,双方向型学習 の構築を可能にしている。  今年度,「出席レポート」を実施しているのは,各 学科(商学科・経営情報学科),前期,後期ともに 3 科目ずつである。これらの科目は 1 年次の選択必修科 目に位置づけられ,学生は最低でも 2 科目を単位取得 しなければならない。よって,1 年次の全学生が,2 〜 3 科目の「出席レポート」を,毎週作成しているこ とになる。  「出席レポート」を繰り返し提出させることで,学 生が主体的・能動的に集中して授業に取り組む態度が 醸成され,当該科目の理解を助けるだけでなく,社会 人として必要となるジェネリック・スキルも育成され ることが期待される。  また,「出席レポート」は,学生と教員のコミュニ ケーションツールとして活用することもできる。教員 は学生の理解が正しいかどうか,また授業内容や授業 展開が学生の理解状況に応じたものであったかどうか を把握することができ,授業改善に活かすこともでき る。  学生は「出席レポート」に質問や感想なども記入す るため,教員は無機質に添削するのではなく,個別に 解説や説明を加えたり,アドバイスや励ましの言葉を 返すこともできる。つまり,「出席レポート」を介し て,一人ひとりの学生に対する学習サポートを可能に している。  「出席レポート」を活用した双方向型学習では,上 述の効果が期待されているものの,これまでその検証 は不充分であったと言わざるを得ない。今年度,担当 科目である「マーケティングの基礎」については,経 営情報学科では選択必修科目(「出席レポート」有り), 商学科においては選択科目(「出席レポート」無し) に位置づけられた。つまり,同科目において「出席レ ポート」の有無がある 2 クラスを担当することになっ た。そこで,両クラスの比較検討を加え,「出席レ ポート」の具体的な効果を検証することを本研究の目 的とした。

Ⅱ.「出席レポート」の効果

 2011 年度前期授業期間に,「出席レポート」の有効 性を検証するために,「マーケティングの基礎」を受 講する学生に対し,アンケート調査を実施した。受講 者は,経営情報学科が 97 人,商学科は 61 人であり, うちアンケート回答者数は経営情報学科が 87 名,商 学科が 54 名であった。 1.メモ力の強化  「授業中,メモをとっていますか」という問いに対 する回答は,図 1 にある通りである。授業ではテキス トを用いず,黒板での板書も行わない。PPT で作成 したスライドを示しながら説明を加えていくため,両 学科の学生ともほとんどが,スライドに提示されたこ とはメモしていることがわかる。  ただし,経営情報学科(M)の学生は,過半数が 6 の「スライドに提示されたことはもちろん,教員が話 していることもなるべくメモしようと努力している」

「出席レポート」の

効果に関する一考察

The Journal of Economic Education No.31, September, 2012 A Study on the Effect of the “Shusseki-Report” (Attendance Report)

Kaneko, Noko 金子 能呼(松本大学松商短期大学部)

(2)

を選んでいる。これに対して,商学科(C)の学生は, 5 の「スライドに提示されたことはもちろん,教員が 話していることも気が向けばメモしている」と回答し た学生がもっとも多い。  スライドの文字だけでなく,口述内容までもメモし ようとする意欲は,「出席レポート」を作成する必要 のある経営情報学科の学生の方が高いことが明らかに なった。授業中の様子を観察していても,片時もペン を休ませないような勢いでメモをしている学生は,経 営情報学科に多い。  次に,図 2 にあるように,「授業中のメモはレポー トの作成に役立っていると思いますか」という問いに 対しては,経営情報学科の学生は圧倒的に 1 の「非常 に役立っている」に対する回答が多いのに対し,「出 席レポート」がない商学科の学生は,1 と,2 の「ま あまあ役立っている」を選んだ学生が半数ずつという 結果になった。  毎週レポートを提出しなければならない経営情報学 科の学生にとって,授業中に自分で書き取ったメモの 重要度はより高く,だからこそ図 1 にあるように,メ 図 1 アンケート調査結果 1 0 10 20 30 40 50 60 1 2 3 4 5 6 7 (%)

M

C

問 1 授業中,メモをとっていますか(ひとつ○をしてください) 1 まったくとっていない 2 ときどきとっている 3 スライドに提示されたことはだいたいメモしている 4 スライドに提示されたことは完璧にメモしている 5 スライドに提示されたことはもちろん,教員が話していることも気が向けばメモしている 6 スライドに提示されたことはもちろん,教員が話していることもなるべくメモしようと努力している 7 スライドに提示されたことはもちろん,教員が話していることも完璧にメモしている 図 2 アンケート調査結果 2 87.4 50.0 11.5 50.0 1.1 0.0 0 0.0 0 20 40 60 80 100 1 2 3 4

C

M

問 2 授業中のメモはレポートの作成に役立っていると思いますか(ひとつ○をしてください) 1 非常に役立っている     2 まあまあ役立っている 3 それほど役立っていない   4 まったく役に立たない

(3)

モをとろうとする意欲も高まるのではないかと考えら れる。 2.学習時間の増加  図 3 は,「出席レポート」の取組前,2008 年度に実 施した授業アンケートの結果である。学生による 5 段 階の自己評価であり,担当科目ごとに平均値を示した。 「マーケティングの基礎」を含め,開講科目すべて選 択科目であり,「マーケティングの基礎」は 1 年次, 「アグリビジネス」と「外食産業論」は 2 年次の開講 科目であった。  設問は 1 〜 9 まで掲げたが,設問 2 の「授業時間以 外の時間に,予習・復習,あるいは授業内容を発展さ せるための努力をしましたか」に対する数値が極端に 低いことは明白である。  折れ線グラフは講義系科目群の平均値であり,全講 義に共通していることとも言えるが,設問 2 に対する 学生の自己評価は低く,授業時間以外での学習時間は ほとんど確保されていない状況が浮き彫りになった。  図 4 は,今年度前期のアンケート調査結果である。 「メモをまとめ直したり,レポートを作成するために, 平均すると週にどのくらい時間をかけていますか」と いう問いに対し,「出席レポート」がない商学科では, 「15 〜 30 分」を選んだ学生がもっとも多く 24.1%を占 めている。次に回答が多かったのが「1 時間 30 分〜 2 時間」,そして「30 分〜 1 時間」の順になっており, ばらついている印象を受ける。  これに対して,「出席レポート」がある経営情報学 科では,「2 時間以上」と回答した学生がもっとも多 く 35.6%を占めており,時間が短くなるにつれ回答数 が減少する傾向にある。レポート作成のために確保し ている時間が,毎週 2 時間以上である学生が 3 割以上, 1 時間以上である学生が約 3 分の 2 を占めており,「出 席レポート」の取組以前と較べ,授業時間外の学習時 間は格段に増加したと言ってよい。 3.授業内容の理解  授業内容の理解については,図 5 にアンケート調査 結果を示した。「授業中にメモをとることや,レポー トを作成することは講義内容の理解に役立っていると 思いますか」という設問に対し,両学科ともに学生の 大部分が「非常に役立っている」と回答しており,こ れに「まあまあ役立っている」と回答した学生を加え ると 100%になっている。「出席レポート」の有無に かかわらず,メモをとったりレポートを作成すること は,学生自身の理解に役立つと自覚していることがわ かった。  図3にある2008年度授業アンケートの結果について, 設問 2 の数値が低いことはすでに指摘したが,これに 次いで数値が低くなっているのが設問 1 の「授業に出 3 3.2 3.4 3.6 3.8 4 4.2 4.4 4.6 4.8 1 2 3 4 5 6 7 8 9 マーケティングの基礎 アグリビジネス 外食産業論 講義系科目群平均値 図 3 2008 年度授業アンケートの結果 1 授業に出席したときは,授業に集中し,授業内容を理解する努力をしましたか 2 授業時間以外の時間に,予習,復習,あるいは授業内容を発展させるための努力をしましたか 3 授業内容の説明の仕方あるいは指示は,理解しやすかったですか 4 授業内容は,わかりやすく整理されていましたか 5 授業内容は,知的な刺激にあふれ,興味深いものでしたか 6 この授業を履修したことで,この分野に関する新しい知識や考え方などを修得できましたか 7 この授業を履修したことで,ものの見方や興味・関心を広げることができましたか 8 この分野あるいは取り扱われたテーマを,さらに勉強していきたいと思いますか 9 総合的に考えて,この授業を履修して有意義であったと思いますか

(4)

席したときは,授業に集中し,授業内容を理解する努 力をしましたか」に対する回答であった。つまり,主 体的に授業に参加し,積極的に学ぼうとする意欲が相 対的に乏しかったことが指摘される。  「出席レポート」の導入後,学生はレポートを作成 することを前提に,授業中メモを取る。これにより, 授業に主体的・能動的に参加する姿勢が育まれている と言える。また,授業時間以外にレポート作成に取り 組む中で,授業内容の理解が促されていることも想像 に難くない。  図 4 で確認されたように,学生が授業にメモをとっ たりレポートを作成することが理解につながると自覚 していること自体が,授業内容を理解するために努力 した結果ともいえる。「出席レポート」導入以前に示 された,授業に対する学生の消極性を踏まえると, 「出席レポート」の取組が,学生の受講姿勢および授 業内容の理解に好影響をもたらしていることは否定で きない。  さらにアンケート調査では,「マーケティングの基 礎」を受講して,得られていると実感できることは何 ですか」と質問し,複数回答を得た。結果は図 6 にあ る通り,学生の回答のうちもっとも多かったのが,両 学科とも 1 の「マーケティングの知識」,次いで 3 の 「マーケティングへの興味」であった。  ほとんどの学生が,知識を得ることができたと実感 していることから,メモをとり,レポートを作成する ことで,その場での理解だけでなく,知識の定着を促 す効果もあったと捉えられる。  また,自ら自主性を持って学習に取り組んだからこ そ,科目に対する興味を持つことができたのではない 図 4 アンケート調査結果 3 1.1 7.4 8.0 24.1 16.1 20.4 14.9 18.5 24.122.2 35.6 7.4 0 10 20 30 40 1 2 3 4 5 6 (%)

M

C

問 3 メモをまとめ直したり,レポートを作成するために,平均すると週にどのくらい時間をかけていますか(ひと つ○をしてください) 1 15 分未満      2 15 〜 30 分      3 30 〜 1 時間 4 1 時間〜 1 時間 30 分     5 1 時間 30 分〜 2 時間      6 2 時間以上 図 5 アンケート調査結果 4 77.0 72.2 23.0 27.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0 20 40 60 80 1 2 3 4 (%)

C

M

問 4 授業中にメモをとることや , レポートを作成することは講義内容の理解に役立っていると思いますか(ひとつ○ をしてください) 1 非常に役立っている      2 まあまあ役立っている 3 それほど役立っていない      4 まったく役に立たない

(5)

かと推察される。  アンケートの自由記入欄には,「レポートは,最初 は何で経情だけあるんだと不満でしたが,商学科の人 よりもだんぜんしっかり理解して覚えることができて, ちょっと優越感でした」(経営情報学科 女子)との 記述もあった。 4.汎用能力の育成  「出席レポート」の導入後,学生はメモをとらない と「出席レポート」を作成することができないために, 授業中の私語や居眠りが激減し,学習態度が向上した。 また,メモをとることが当たり前となり,選択必修科 目だけでなく 2 年次の選択科目についても,メモをと ることが習慣づけられている様子を観察することがで きる。  学内における授業のみならず,アウトキャンパス・ スタディでも,話を聴く際には必ずメモをとるように なった。そして,アウトキャンパス・スタディで学ん だ成果をまとめる際に自分でとったメモを活用してい る。まとめる作業も以前よりスムースに進められるよ うになったようである。  アンケートの自由記入欄には,「レポートのまとめ 方の勉強にもなった」,「メモとったことを,自分の言 葉でまとめなおす力がついた」などといったコメント もあり,“まとめる”,“表現する”といった汎用的能 力も向上したと言える。  さらに,本科目の「出席レポート」は,調べる作業 を要することがある上,パソコンで作成するよう指示 しているため,放課後や授業の合間などに図書館を利 用したり,パソコン教室を使用する学生を目撃する機 会も多い。「出席レポート」を作成するために,パソ コンを操作する時間が増加したことは当然のことと言 えるが,アンケートの自由記入欄には,パソコンの操 作技術が向上したという内容のコメントも多数あった。

Ⅲ.「出席レポート」の課題

 今年度,「出席レポート」の有無があるクラスを比 較したことで,浮き彫りになった課題のひとつが, 「出席レポート」の返却方法である。「出席レポート」 自体がコミュニケーションツールになっているとはい え,学生一人ひとりと向きあって,アドバイスや会話 をしながら返却するのが理想である。  とはいえ,授業時の返却は,充分な時間を確保する ことが難しく,極めて機械的な作業にせざるを得な かった。それでも,「出席レポート」の提出を課して 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10111213141516171819202122232425262728

M

C

図 6 アンケート調査結果 5 問 5 「マーケティングの基礎」を受講して , 得られていると実感できることは何ですか(いくつでも選んで○をして ください) 1 マーケティングの知識      2 マーケティングのセンス     3 マーケティングへの興味 4 マーケティングの実践力     5 メモする力       6 メモを整理する力 7 理解しようとする姿勢      8 考える力      9 レポートにまとめる力 10 パソコンの操作能力       11 表現力 12 デザイン・センス 13 発想力       14 柔軟な考え方 15 忍耐力 16 継続力       17 事務処理能力 18 優先順位を決めて行動すること 19 締め切りを意識すること     20 相手を意識すること 21 達成感 22 探求心       23 視野の広がり 24 学ぶことへの意欲 25 勉強していることの楽しみ    26 成長している実感 27 自分のコミュニケーション能力 28 教員とのコミュニケーション   29 その他

(6)

いる経営情報学科のクラスには 100 名ほどの受講者が いたため,レポートの返却時間は 10 〜 15 分程度を要 した。授業ごとに一定の返却時間が割かれることが, 商学科との比較において顕著に示され, 授業時間のロ スともなりかねないと懸念された。レポートの返却に ついては,学生に不利益が生じることがないよう,充 分な配慮を要する。  「出席レポート」はコミュニケーションツールとし て,多面的に有効活用できることが期待される。だか らこそ,授業時間外でのレポート返却時間の確保や, webの活用など,レポートの受取りや返却においても よりコミュニケーションを活性化できるような方法を 見出したい。  アンケートの自由記入欄には,経営情報学科の学生 によって,「レポートにコメントと評価が毎回ついて いるので,毎週パソコンでやるのは難しかったけど, 楽しくできました」,「毎回先生がコメントしてくれて いて,とてもうれしかったです」,「レポート作成は, はじめはデザインも評価に加えるといわれてセンス無 いし無理だと思ったし,週 1 っていうのもなかなか大 変だと思いました。でもやってみるとすごくたのしく て,自分でいろいろ考えたり調べたりすることも勉強 になって良かったです。先生からいつもコメントをも らうのがすごく楽しみで,それでがんばろうって思え ました」,「レポートの提出は,先生が返却してくれる ときに絶対にコメントをしておいてくれることにやり がいを感じました」,「レポートを作成するのが本当に 楽しいし,先生のコメントを見るのが大好きです」な どのコメントが記されていた。  学生は「出席レポート」に質問や感想なども記入す るため,教員は無機質に添削するのではなく,個別に 解説や説明を加えたり,アドバイスや励ましの言葉を 返すこともできる。実際に,提出された「出席レポー ト」を添削するだけではなく,コメントを記入して返 却することで,学生とのコミュニケーションを多少な りとも取ることができたという手応えを感じることが できた。今後はさらに,「出席レポート」を介して, 一人ひとりの学生に対する学習サポートを強化できる よう,添削方法やコメントの内容にも工夫を加える必 要があると考える。  また,「出席レポート」により,教員は学生の理解 が正しいかどうか,また授業内容や授業展開が受講者 の理解状況に応じたものであったかどうかを把握する ことができ,教員の授業改善につなげることができる と期待された。  学生は「出席レポート」のなかで,授業について感 想のほか,説明不足の点や,理解しにくかったことな どを具体的に記入することもあり,それらの意見はす ぐに授業に反映させることができる。つまり,授業内 容や進め方について,軌道修正をしながら授業を展開 することができるようになった。しかしながら,授業 改善の効果については,本研究では実証的に検討する ことができず,今後の課題として残された。  「出席レポート」は学生と教員のコミュニケーショ ンツールとして捉えることができる。よって,「出席 レポート」を介して,コミュニケーションの質と量を 向上させることはもちろん,教員と学生が双方向の関 係(双方向型学習)を構築し,より多くの効果を得ら れるよう,今後も「出席レポート」を活用していきた い。そのためにも,本研究では検討できなかったいく つかの質的な効果について,検証を続けていくつもり である。そして,コミュニケーションツールとしての 「出席レポート」を,有効に活用するための方策も 探っていきたい。

参照

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