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全人工膝関節置換術後のアロディニアと灼熱痛に対し,触覚と温度覚の識別課題により症状の軽減が認められた症例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 4 号 259神経障害性疼痛に対し,識別課題により症状の軽減が得られた症例 ∼ 266 頁(2019 年). 259. 症例報告. 全人工膝関節置換術後のアロディニアと灼熱痛に対し, 触覚と温度覚の識別課題により 症状の軽減が認められた症例* 内 藤 卓 也 1)# 問 田 純 一 1) 平 賀 勇 貴 1)2) 平 川 善 之 1). 要旨 【目的】全人工膝関節置換術(以下,TKA)後の神経障害性疼痛の増悪を抑制させることが術後遷延性疼 痛への進行を予防するために重要である。今回,TKA 後にアロディニアと灼熱痛が生じ,身体イメージ の変容から広範囲な領域に疼痛が生じた症例に対し,触覚と温冷覚の識別課題を段階的に行い,術後遷延 性疼痛の予防に努めたため,以下に報告する。 【方法】対象は TKA 後にアロディニアと灼熱痛を呈した 70 歳代男性。介入の第 1 段階では,アロディニアに触覚の識別課題,第 2 段階では,灼熱痛に温度覚の 識別課題を行った。【結果】第 1 段階の治療後は二点識別覚閾値の向上,身体イメージの形成,アロディ ニアの軽減を認めた。第 2 段階の治療後は神経障害性疼痛が軽減し,温度感覚の異常の改善を認め,灼熱 痛の軽減を認めた。 【結論】TKA 後のアロディニアと灼熱痛に対し,段階的に触覚と温冷覚の識別課題 を行うことで症状の軽減が認められた可能性が考えられた。 キーワード 術後遷延痛,アロディニア,灼熱痛,識別課題,全人工膝関節置換術. はじめに  全人工膝関節置換術(total knee arthroplasty:以下,. 33 ∼ 49%に生じるとされている. 3). 。CPSP の原因は術. 後感染,関節の緩み,不安定性,複合性局所疼痛症候群 (Complex regional pain syndrome:以下,CRPS)など 4). ,症状は多くの場合が神経障害性疼. TKA)は,重度の変形性膝関節症患者に対して,膝痛. が報告されており. を改善させ,活動性や quality of life を向上させる有効. 痛を伴うとされている. な治療法である。本邦において TKA の手術件数は年々. 障害性疼痛の症状の有無を評価し,理学療法を提供して. 増加傾向であり,TKA の満足度は 82 ∼ 89%との報告. いくことは,CPSP を予防するためにも重要であると考. 1). 5). 。よって術後早期の段階で神経. 。一方,一定の成果を収めている手術ではある. えられる。神経障害性疼痛とは体性感覚神経系に対する. が,術後痛の残存は患者満足度の低下に強く影響を与え. 病変や疾患の直接的な結果として生じている疼痛と定義. がある る. 2). 。.  術後 2 ヵ月以上の疼痛が持続する術後遷延性疼痛 (Chronic postsurgical pain: 以 下,CPSP) は TKA の. されている. 6). 。また,神経障害性疼痛の罹患率は推測値. で 1.5 ∼ 8% であり,全世界人口の 1 億∼ 5 億 6,000 万 人相当とされており,看過できない数である. 7)8). 。神経. 障害性疼痛の主症状は持続的な自発痛,痛覚過敏,アロ *. A Case of Symptom Alleviation through Tactile and Temperature Discrimination Tasks to Address Allodynia and Burning Pain after Total Knee Arthroplasty 1)福岡リハビリテーション病院 (〒 819‒8551 福岡県福岡市西区野方 7‒770) Takuya Naito, PT, MSc, Junichi Toita, PT, Yuki Hiraga, OT, Yoshiyuki Hirakawa, PT, PhD: Fukuoka Rehabilitation Hospital 2)九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻 Yuki Hiraga, OT: Department of Health Care Administration and Management, Graduate School of Kyushu University # E-mail: [email protected] (受付日 2018 年 9 月 5 日/受理日 2019 年 5 月 20 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 7 月 19 日]. ディニア,異常感覚としての灼熱痛などが知られてお り,その中でもアロディニアと灼熱痛は臨床上に難渋す る症状である。神経障害性疼痛に対する治療は抗痙攣薬 および抗うつ薬などの薬物療法が中心である。一方で理 学療法は Mirror therapy,認知行動療法,経皮的電気 神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS) ,磁気刺激などのアプローチが報告されている が根拠の質は低いことが指摘されている. 9). 。.

(2) 260. 理学療法学 第 46 巻第 4 号.  アロディニアは通常では痛みを引き起こさない微小な 刺激によって引き起こされる疼痛であり,原因として末 梢神経損傷,CRPS,ヘルペス後神経痛,線維性筋痛症, 片頭痛が報告されている. 10). 。アロディニアに対する治. 療は抗痙攣薬や抗うつ薬などの薬物療法. 11). ,段階的な. 運動イメージや Mirror therapy などの理学療法. 12). が. 報告されているがシステマティックレビューにおいて理 学療法の根拠が非常に低いことが指摘されている. 13). 。. 倫理的配慮  本研究を行うにあたり,本症例に対して本研究の目的, 内容について書面にて説明を行い,同意を得た。また当 院の倫理審査委員会の承認(承認番号:FRH2018-R-005) を得て行った。 疼痛・感覚機能の評価(表 1). 一方,灼熱痛は灼けるような痛みを生じる自発痛であ.  術後 28 日の疼痛・感覚機能の評価にて膝から足背の. り, 原 因 と し て 末 梢 神 経 損 傷 や 糖 尿 病 性 神 経 障 害,. 発赤と軽度の腫脹を認め,夜間の就寝時に「膝から下が. 14)15). 。近年,発生機序は. カッカッする」と発言が認められ,灼熱痛の訴えが. 温度感覚にかかわる transient receptor potential channels. Numerical Rating Scale(以下,NRS)にて 8/10,触覚. (以下,TRP チャネル)のひとつである transient recep-. 刺激に対する痛みは「触れるだけでビリビリする」と膝. CRPS などが報告されている. tor potential vanilloid 1(以下,TRPV1)が活性化する. 内側から下. ことで神経が興奮し,灼けるような痛みを生じると考え. 周囲に NRS にて 5/10 の痛みを呈していた。. られている. 16). 。灼熱痛に対する治療は薬物療法が中心. 遠位部の広範囲で NRS にて 7/10,足関節.  疼痛閾値はモノフィラメント圧痛計(酒井医療社製). に行われている。前述したようにアロディニアと灼熱痛. を用いた。モノフィラメント圧痛計は 20 種類の太さの. の原因は様々な報告がなされており,明確な原因は未だ. 異なったフィラメントが 1 セットとなっており,もっと. に不明である。さらに治療としてはおもに薬物療法が中. も細いフィラメントは filament marking(以下,FM). 心であり,理学療法による治療報告は少ないのが現状で ある. 17). 。. 1.65(0.004 g 圧) ,もっとも太いフィラメントは FM6.65 (447 g 圧)となっている。測定方法は皮膚の 2.5 cm の.  今回,TKA 後に神経障害性疼痛であるアロディニア. 高さから検査部位に対し 1.5 秒かけて垂直におろし,. と灼熱痛が生じ,身体イメージの変容から広範囲な領域. フィラメントがたわむまで圧を加えた。また,疼痛閾値. に疼痛が波及していた症例に対し,触覚と温度覚の識別. の測定には von Fray 法を用いて,もっとも細いフィラ. 課題を段階的に行い,CPSP の予防に努めたため,以下. メントの FM1.65(0.004 g 圧)より開始し,膝前面に対. に報告する。. して刺激を行い,症例が痛みと感じるまでフィラメント の閾値を上げて測定した。圧痛閾値は本症例が痛みと感. 症例紹介. じる最小刺激とした。刺激部位は膝蓋骨中央とし,毎回,.  症例は 70 歳代の男性。離島にて介護が必要な父と 2. 同一部位にて刺激を行い,初回評価時の疼痛閾値は患側. 人暮らしを行っていた。1 年前頃から介護中や歩行時に. で FM3.22,健側は FM5.18 であった .. 膝痛を認め,友人から「人工膝関節の手術をすると痛み.  痛みの性質の評価尺度である Short-Form of McGill. がなくなる」と当院を勧められ手術に至った。術前の変. Pain Questionnaire(以下,SF-MPQ-2)にて総点 98/220. 形性膝関節症の関節変形の進行度は Kellgren-Lawrence. 点(持続的な痛み 26/60 点,間欠的な痛み 31/60 点,神. 分類にて grade Ⅳ。手術時の使用機種は Zimmer 社の. 経障害性の痛み 27/60 点,感情的表現 14/40 点)であり,. LPS Flex を使用し,手術時間は約 1 時間 30 分であった。. 神経障害性疼痛スクリーニングの Pain DETECT 日本. 疼痛に関する服薬状況は術後翌日より非ステロイド性抗. 語版は 30/38 点であった。心理的側面として Hospital. 炎症薬(60 mg /回,1 日 3 回)を服薬しており,術後. Anxiety and Depression Scale(以下,HADS)では不. 40 日では 1 日 2 回まで減量し,退院時まで服用した。. 安 6/21 点,抑うつ 8/21 点。破局的思考評価では Pain. 術後の後療法は手術翌日より全荷重が許可され,通常通. Catastrophizing Scale. りのプロトコルの指示であった。手術翌日より理学療法. て測定し,総点 23/52 点,反芻(痛みについて繰り返し. を開始し,関節可動域運動,筋力強化運動,基本動作練. 考える傾向)15/20 点,無力感(痛みに関する無力感の. 習,歩行練習を行った。手術後 28 日経過時点では,移. 程 度 )6/20 点, 拡 大 視( 痛 み 感 覚 の 脅 威 性 の 評 価 ). 動形態は片松葉杖歩行にて病棟内自立していた。膝関節. 2/12 点であった。. 可動域は屈曲 120° ,伸展 ‒ 5° ,膝関節伸展筋力は 20.2 kgf.  感覚検査について二点識別覚閾値(Two-Point Dis-. であった。しかし,疼痛に関しては夜間の灼熱痛を強く. crimination Threshold:以下,TPD)は Dellon 2 Point. 訴え,不眠が続くようになっていた。さらに就寝時には. Disk-Criminator(Dan-Mic Global 社製)を使用し,測. 布団や衣服が膝から下. 定を実施した。測定部位は大. の前面に触れると激痛が生じて. いたため,脚は外に出して就寝している状況であった。. ),下. 18). (以下,PCS)を自己記入式に. 中央部前面(以下,下. 中央部前面(以下,大 ),膝蓋骨中央部前面.

(3) 神経障害性疼痛に対し,識別課題により症状の軽減が得られた症例. 261. 表 1 各測定結果と治療内容の経時的変化 術後 28 日. 術後 30 日. 治療段階. 痛み. 術後 32 日. 術後 34 日. 術後 36 日. 術後 37 日. 術後 38 日. 第 1 段階. 術後 39 日. 術後 43 日. 術後 44 日. 術後 45 日. 術後 46 日. 第 2 段階. 灼熱痛(NRS). 8. 7. 7. 6. 7. 5. 6. 4. 5. 4. 5. 3. 膝内側(NRS). 7. 7. 5. 6. 6. 7. 7. 4. 5. 5. 7. 3. 足内側(NRS). 5. 5. 5. 3. 3. 2. 2. 2. 0. 0. 0. 0. 疼痛閾値(FM). 3.22. 4.17. 3.61. 4.17. 5.18. 5.18. 4.56. 3.84. 4.74. 4.93. 5.18. 5.18. 大. 32. 20. 20. 25. 15. 15. 15. 13. 10. 15. 10. 15. 二点識別覚(mm). 下. 32. 30. 33. 28. 30. 20. 23. 25. 25. 20. 35. 30. 32. 25. 20. 20. 23. 30. 15. 25. 23. 温冷覚検査. 膝. 0/5. ―. ―. ―. ―. 2/5. ―. ―. ―. ―. ―. 5/5. 大. 測定不可. 50. 100. 100. 100. 100. ―. ―. ―. ―. ―. ―. 下. 50. 40. 40. 90. 100. 100. 90. 80. 80. 80. 90. 90. 70. 70. 90. 90. 90. 90. 90. 膝. 硬度弁別課題正答率 (%). 触覚識別課題正答率 (%) 温冷覚識別課題正答率 (%). 膝. 測定不可 測定不可 測定不可 測定不可. 50. 大. 測定不可. 下. 測定不可 測定不可. 膝. 測定不可 測定不可 測定不可. 100. 100. ―. ―. ―. ―. ―. ―. ―. 50. 60. 50. 70. 70. 100. 100. 100. 100. 100. 50. 50. 80. 60. 80. 85. 80. 95. 95. ―. 40. 60. 60. 70. 70. 80. 90. 90. ―. ―. ―. ―. 3.5. 2.9. 4.3. 3.2. 2.5. 2.6. 1.7. 1.7. 持続的. 26. ―. ―. ―. ―. 27. ―. ―. ―. ―. ―. 9. 間欠的. 31. ―. ―. ―. ―. 24. ―. ―. ―. ―. ―. 7. 神経障害性. 27. ―. ―. ―. ―. 29. ―. ―. ―. ―. ―. 17. 感情. 14. ―. ―. ―. ―. 7. ―. ―. ―. ―. ―. 4. 総点. 98. ―. ―. ―. ―. 87. ―. ―. ―. ―. ―. 37. 30. ―. ―. ―. ―. 19. ―. ―. ―. ―. ―. 18. 15. ―. ―. ―. ―. 13. ―. ―. ―. ―. ―. 5. 6. ―. ―. ―. ―. 5. ―. ―. ―. ―. ―. 8. FreKAQ-J 不安. PCS. 100. ―. PainDETECT. HADS. 90. 膝. 温度誤差(℃). SF-MPQ-2. 測定不可 測定不可 測定不可. ―. ―. 抑うつ. 8. ―. ―. ―. ―. 5. ―. ―. ―. ―. ―. 8. 総点. 14. ―. ―. ―. ―. 10. ―. ―. ―. ―. ―. 16. 反芻. 15. ―. ―. ―. ―. 12. ―. ―. ―. ―. ―. 15. 無力感. 6. ―. ―. ―. ―. 10. ―. ―. ―. ―. ―. 2. 拡大視. 2. ―. ―. ―. ―. 3. ―. ―. ―. ―. ―. 1. 総点. 23. ―. ―. ―. ―. 25. ―. ―. ―. ―. ―. 18. SF-MPQ-2:Short-Form of McGill Pain Questionnaire FreKAQ-J:日本語版 The Fremantle Knee Awareness Questionnaire HADS:Hospital Anxiety and Depression Scale PCS:Pain Catastrophizing Scale. (以下,膝)とし,測定方法は Pleger らの報告 19)を参. 10℃)がそれぞれ入った 2 つの試験管を使用し,測定部. 考に測定部位の長軸と平行に,皮膚蒼白をつくらない程. 位は膝蓋骨の中央部のみで実施した。測定方法は温水と. 度 の 圧 で 実 施 し た。 刺 激 方 法 は Dellon 2 Point Disk-. 冷水を無作為に該当部位へ 5 回刺激を与え,患者に「温. Criminator の 2 点と 1 点の刺激を用いて,順序性を無. かい」もしくは「冷たい」と回答させた。本症例は冷水. 作為とし,2 点として認識できる最小距離を測定した。. か温水か答えることができず,さらに冷水を膝に接触さ. 大. せた際に膝から下. は 32 mm,下. は 32 mm,膝は痛みのため測定不. にかけて突発的に夜間と同様の灼熱. 可であった。また,膝への感覚検査時に軽度触覚刺激に. 痛の症状を訴えた。これらのことから本症例は冷水を. て過剰な疼痛を訴えるアロディニアを呈しており,大. 灼 熱 痛 と 感 じ る 逆 説 的 熱 感 覚(paradoxical heat sen-. 遠位部の術創部への触覚刺激では足内側部位の過剰な疼. sation:PHS)を呈していると考えられた。身体異常知. 痛を訴える関連痛が認められた。. 覚の評価は日本語版 The Fremantle Knee Awareness.   温 度 覚 検 査 で は 温 水(40 ∼ 45 ℃) と 冷 水(15 ∼. Questionnaire. 20). (以下,FreKAQ-J)を用い,15/36 点.

(4) 262. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 図 1 描画法による身体イメージの模写 a:初回評価時(4 週)の身体イメージの模写 b:最終評価時(6 週)の身体イメージの模写. であった。身体イメージを描画法にて評価を行うと本症 例から「自分の膝が実際より大きく,長くなっているよ うに感じる」との訴えがあった(図 1-a)。. ら刺激部位を開始し,正答率の向上とともに刺激部位を 2 ヵ所へ増やし,2 ヵ所同時に刺激するように実施した (図 2b)。TLT と触覚識別課題は本症例の疲労感,集中 力に応じて 1 日 20 分程度で行い,効果指標は NRS,疼. 理学療法介入の立案. 痛閾値,TPD とした。 23). の報告と同様に灼熱.  本症例は強い痛みによって患部を自らも触れることが.  第 2 段階では,まず Bilgili ら. 難しく,まずアロディニアに対する治療が優先的である. 痛に対し交代浴(温水 38° を 4 分,冷水 8℃を 1 分の 1 セッ. と考え,理学療法介入を 2 段階に分けて実施した。術後. ト。計 3 セット)を実施した。しかし,本症例は冷水に. 28 日目から 34 日目までを第 1 段階とし,本症例の「衣. 脚を入れた際に膝から遠位に灼熱痛と同様の症状を訴. 服や布団が触れるだけで痛い」との広範囲なアロディニ. え,継続して治療が行えなかった。よって本症例に対し. アの訴えに対し,疼痛部位の範囲縮小と疼痛の軽減を目. 冷覚および温覚を正常に感じることが必要であると考. 的に理学療法を立案した。術後 35 日目から 46 日目まで. え,温冷覚の正常化を目的に温度識別課題を実施した。. を第 2 段階とし,本症例の「膝から下がカッカッする」. 温度識別課題とは著者が考案した課題であり,方法は侵. との夜間の灼熱痛の訴えに対し,温度感覚異常の正常化. 害刺激にならない範囲(10 ∼ 42℃)の異なった温度の. を目的に実施した。. 水の入った 5 つの容器を用意し,症例に対し温度別に順 21). に Pelfetti. に並べて,その後,水温を回答させ実際の水温を防水デ. 認知運動療法と同じクッションを用いて,スポンジの硬. ジタル温度計(カスタム,CT310WP)にて計測し,実. 度の識別を行わせる課題(Tactile localization training:. 際の温度をフィードバックする方法である(図 2c)。ま. 以下,TLT)をアロディニアの周辺領域から開始し,. た併用して膝に対しては温冷覚識別課題を実施した。温. アロディニアの症状の軽減とともに徐々に症状の罹患部. 冷覚識別課題はクリッカー(日本メディックス社製)を. 位へ治療部位を変更した(図 2a)。次にアロディニアの. 使用し,冷水(10 ∼ 15℃)を入れた冷クリッカーと温.  第 1 段階では,Osumi らの方法を参考. 22). の方法を参考に触. 水(40 ∼ 45℃)を入れた温クリッカーを用いて前述し. 覚識別課題を立案した。触覚識別課題とは症例の患部を. た触覚識別課題と同様に患部の写真を用いた番号を回答. 6 分割し,番号(1 ∼ 6)が記入された写真を見た状態. し,さらに「温かい」か「冷たい」かを回答させる課題. で実施する。まず治療者が刷毛を用いて 1 ∼ 6 まで順番. で あ る( 図 2d)。 効 果 指 標 は NRS, 疼 痛 閾 値,TPD,. に刺激する。つぎに 1 ∼ 6 の順序を無作為に刺激し,症. 温度誤差(回答した温度と実際の温度の誤差)とした。. 症状の軽減に合わせて Moseley ら. 例 は 刺 激 さ れ た 部 位 を 1 ∼ 6 の う ち か ら 回 答 す る。 TLT と同様にアロディニアの周辺領域から開始し,ア. 経過および結果. ロディニアの症状の軽減とともに徐々に膝へ変更し,実.  第 1 段階の TLT と触覚識別課題,第 2 段階の温冷覚. 施した(図 2b)。また触覚識別課題の難易度は 1 ヵ所か. 識別課題と温度識別課題を併用した際の疼痛(灼熱痛,.

(5) 神経障害性疼痛に対し,識別課題により症状の軽減が得られた症例. 263. 図 2 本症例の治療 a:Tactile localization training b:触覚識別課題 c:温度識別課題 d:温冷覚識別課題. 触覚識別課題を開始した。34 日目にて疼痛強度は灼熱 痛で 6/10,膝前面で 6/10,足内側で 3/10,疼痛閾値は 患側で FM4.17,健側で FM5.46 であり,疼痛強度の減 少と疼痛閾値の上昇を認めた。また,大 25 mm,下. TPD は膝. TPD は 28 mm,膝 TPD は 32 mm であり ,. 各部位において感覚機能の向上を認めた。大. 遠位部へ. の触覚刺激によって足内側部位の過剰な疼痛を訴える関 連痛は消失し,膝まで触れられるようになったため,膝 への触覚識別課題も開始した。しかし,灼熱痛は 6/10 と変化が乏しい状態であった。症例は就寝時に膝から遠 位を布団から出さなければ灼熱感で寝られない状況で あった。そのため術後 36 日より灼熱痛の軽減に向けて まずは交代浴を実施した。しかし灼熱痛は増悪し,疼痛 強度は灼熱痛で 7/10,膝前面で 6/10,足内側で 3/10, 疼痛閾値は患側で FM5.18,健側で FM5.88 さらに温度. 図 3 疼痛の程度と介入方法の経時的変化. 感覚の評価を行うと,膝内側と足内側において温冷覚の 正答率が 50%,温度識別課題の温度誤差は 3.5℃であり, 膝と足内側で温度覚鈍麻が認められた。また冷覚を温覚. 膝内側,足内側) ,疼痛閾値,TPD(大. ,下. ,膝),. と感じる逆説的熱感覚を生じていた。治療内容を交代浴. SF-MPQ-2,PainDETECT,FreKAQ-J,HADS,PCS,. から温冷覚識別課題と温度識別課題へと変更し実施し. 硬度弁別課題の正答率,触覚識別課題の正答率,温度誤. た。術後 39 日にて疼痛強度は灼熱痛で 4/10,膝前面で. 差の経過を表 1 と図 3 に示す。. 4/10,足内側で 2/10,疼痛閾値は患側で FM3.84,健側.  術後 30 日にて,介入当初のような微小な刺激を疼痛. で FM5.46,温冷覚の正答率が 70%,温度識別課題の温. と感じるアロディニアの症状は軽減し,他者による大. 度誤差は 3.2℃であり,徐々に温度差を拡げながら課題. 部の刺激に対し,疼痛を生じなくなったため大. の数を増やし,さらに温度を答えて実際の温度をフィー. 部から.

(6) 264. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. ドバックする課題へと難易度を変更し行った。. 身体知覚異常の評価である FreKAQ-J は高値を示した。.  術後 46 日にて疼痛強度は灼熱痛で 3/10,膝前面で. Nishigami らは FreKAQ の点数が高いほど,身体知覚. 3/10,足内側で 0/10,疼痛閾値は患側で FM5.18,健側. 異常が強いことを報告しており. で FM5.46,温冷覚の正答率が 90%,温度識別課題の温. 連した身体知覚異常が考えられた。さらに,描画法にお. 度誤差は 1.6℃であり,徐々に灼熱痛は低下した。. いて本症例は自分の膝が実際より大きく,長くなってい. 20). ,身体イメージに関. るとの訴えを認め,身体イメージの変容および身体知覚. 退院時評価. 異常が考えられた。よって,本症例のアロディニアに対.  術後 46 日経過で退院となり,退院時評価にて疼痛強. する問題点は TPD の増加により身体イメージの変容を. 度は灼熱痛で 3/10,膝前面で 3/10,足内側で 0/10,疼. 生じていることが考えられ,患部周囲の触覚識別能力の. 痛 閾 値 は 患 側 で FM5.18 ま で 改 善 し た。 膝 TPD は. 改善を図り,TPD の増加による身体イメージの形成が. 23 mm まで改善した。SF-MPQ-2 にて 37/220 点(持続. 必要であると考えた。. 的な痛みは 9/60 点,間欠的な痛みは 7/60 点,神経障害.  次に灼熱痛について本症例は温冷覚検査にて冷水を患. 性の痛みは 17/60 点,感情的表現は 4/40 点)であり,. 部に接触させることで灼熱痛が誘発される逆説的熱感覚. Pain DETECT 日本語版は 18/38 点であり,神経障害性. が認められた。May らは 17°C 以下の冷覚刺激を与え. 疼痛が改善した。FreKAQ-J は 5/36 点であり,身体知. た 際 に transient receptor potential ankyrin 1( 以 下,. 覚異常および身体イメージは膝の大きさと長さが修正さ. TRPA1)とともに TRPV1 が活性化することで冷たい. れ正常化された(図 1-b)。HADS は不安 8/21 点,抑う. 刺激を熱いと感じる逆説的熱感覚が生じることを報告し. つ 8/21 点。PCS は総点 18/52 点,反芻 15/20 点,無力. ている. 感 2/20 点,拡大視 1/12 点であった。. 熱痛を生じさせていると考えられ,温冷覚の正常化によ. 29). ことから本症例においても温度感覚異常が灼. る逆説的熱感覚の改善が必要であると考えた。. 考   察.  本症例は術後より神経障害性疼痛であるアロディニア.  評価結果より,疼痛については膝を中心としたアロ. と灼熱痛を広範囲に生じ,身体イメージの変容と温冷覚. ディニアと夜間の灼熱痛を広範囲に呈していた。心理的. の異常を呈していた。第 1 段階の治療介入としてアロ. 側面の評価について HADS は八田らの報告を参考にす. ディニアの範囲の縮小と身体イメージの形成を目的に知. ると抑うつおよび不安はそれぞれ 8 ∼ 10 点であれば. 覚識別課題を行い,次に,第 2 段階の治療介入として灼. 24). 熱痛に対し温冷覚の正常化を目的に温冷覚識別課題と温. 「疑い」 ,11 点以上あれば「確定診断」としている. 。. つまり本症例において抑うつは「疑い」と判定され,不. 度識別課題を行った結果,大. 安は「陰性」と判定された。次に PCS のカットオフ値. 下し,身体イメージの形成,アロディニアおよび灼熱痛. は Sullivan の報告を参考にすると,30 点であり,本症. の範囲の縮小と疼痛の緩和が認められた。. 25). ,下. ,膝の TPD が低. 。以上の.  第 1 段階としてアロディニアに対して TLT と触覚識. ことから本症例は痛みに対して心理的側面の影響は少な. 別課題を行った結果,足内側の疼痛,TPD の改善が認. いことが考えられた。. められた(表 1)。アロディニアの発生機序には中枢神.  本症例の痛みの性質は SF-MPQ-2 にて持続的な痛み,. 経感作や脱抑制. 間欠的な痛み,神経障害性の痛みの点数が高値であっ. が考えられている。本症例においても TPD の増加を認. た。Turner らは TKA 術後の急性期(術後 30 日以内). めたことや,膝に対する触覚刺激を加えた際に膝を刺激. と亜急性期(術後 30 日以降)の SF-MPQ-2 の点数の違. したにもかかわらず足内側に疼痛が生じる関連痛を呈し. いを報告しており,比較すると急性期において持続的な. ていた。さらに,先行研究では疼痛が強い CRPS 患者. 痛み,間欠的な痛みが高値であったことを報告してい. の脳活動において一次体性感覚野の体部位再現性地図に. 例の総得点はカットオフ値を下回っていた. る. 26). 。さらに Dworkin らは神経障害性疼痛患者におい. 30). のほか,体部位再現の不明瞭化 31). 変化が生じることを知られており. 32‒34). ,本症例におい. て SF-MPQ-2 の間欠的な痛み,神経障害性の痛みの項. ても体部位再現性地図が隣接し合う膝と足の領域で不明. 目が非神経障害性疼痛患者に比べ高値であったことを報. 瞭となっている可能性が考えられた。. 27). 。本症例においても術後急性期による持.  治療介入について Mosely らは TPD の増加や身体イ. 続的な痛み,間欠的な痛みがみられ,神経障害性疼痛の. メージの変容を認める慢性腰痛患者に対し,触覚の識別. 評価である PainDETECT を行ったところ Freynhagen. 課題を用いることにより TPD の低下と疼痛が改善した. が報告したカットオフ値の 19 点を上回っていたことか. ことを示している. 告している. ら本症例の疼痛は神経障害性疼痛が考えられた. 28). 。. 35). 。さらに,Osumi らは受傷後 2 ヵ. 月の CRPS 患者のアロディニアに対して圧覚の識別課.  アロディニアは患部の膝を中心に認めており,感覚検. 題である TLT を用いることにより,TPD と身体イメー. 査においてアロディニアを呈する部位の TPD は増加し,. ジが改善し,疼痛が軽減したことを示している. 21). 。よっ.

(7) 神経障害性疼痛に対し,識別課題により症状の軽減が得られた症例. て,本症例においても同様に識別課題を用いることによ り体部位再現の膝と足の領域が再編成され,TPD が低 下することで身体イメージが再形成され,足内側の疼痛 の軽減につながったことが考えられる。  次に,第 2 段階として灼熱痛に対して温冷覚識別課題, 温度識別課題を行った結果,夜間の灼熱痛,TPD の改 善が認められた(表 1)。灼熱痛の原因は末梢神経損傷 や 糖 尿 病 性 神 経 障 害,CRPS な ど が 報 告 さ れ て お 14)15). ,治療については交代浴が推奨されている。し. り. かし本症例において疼痛増悪が認められた。過去の Harden らの報告においても進行期の CRPS 患者に対す る交代浴は疼痛が増悪する危険性を報告しており. 36). ,. 本症例も同様であったことが考えられる。  近年,灼熱痛の発生機序について 43℃以上の温度で 活 性 化 す る TRPV1 と 17 ℃ 以 下 の 温 度 で 活 性 化 す る TRPA1 という侵害受容体が 17℃以下の低温で共発現 し,灼熱痛をもたらすことが報告されている. 37). 。本症. 例は冷覚を温覚と感じる逆説的熱感覚を呈していたこと から,温度覚の異常が灼熱痛を生じていることが考えら れた。  治療介入として温度覚異常の正常化を図る目的に温冷 覚を識別させる温冷覚識別課題,温度識別課題を行うこ とで温度覚が改善された。岩田らの報告では熱刺激の温 度を弁別させる課題中に一次体性感覚野(S1)の活動 性が増すことを報告している. 38). ことから末梢器官のみ. ではなく中枢神経系にもなんらかの影響を与えた可能性 が考えられる。  逆説的熱感覚は罹患期間が 1 年未満の急性期 CRPS において 41.7% が呈すること. 39). や,慢性の CRPS 患者. では温度覚異常が残存しているが報告がなされてい 40). 。よって特に急性期に生じやすく,残存すると慢. る. 性痛に以降する可能性が考えられることから急性期での 予防や進行を防ぐことが重要であると著者は考える。し かし,本研究の限界として温冷覚識別課題,温度識別課 題は温水・冷水による暴露効果も十分に考えられる。 結   論  TKA 後に神経障害性疼痛であるアロディニアと灼熱 痛を呈した症例に対して,第 1 段階として触覚識別課題 を実施することで TPD と身体イメージが改善しアロ ディニアの軽減が認められた。さらに温冷覚識別課題を 行うこと温冷覚が改善されることで灼熱痛の軽減が認め られた。よって段階的に触覚識別課題,温冷覚識別課題 を行うことが症状の軽減に貢献したと思われた。 利益相反  開示すべき利益相反はない。. 265. 文  献 1)Canovas F, Dagneaux L: Quality of life after total knee arthroplasty. Orthop Traumatol Surg Res. 2018; 104: S41‒S46. 2)Dickstein R, Heffes Y, et al.:Total knee arthroplasty in the elderly: patients’ self-appraisal 6 and 12 months postoperatively. Gerontology. 1998; 44: 204‒210. 3)Treede RD, Rief W, et al.: A classification of chronic pain for ICD-11. Pain. 2015; 156: 1003‒1007. 4)Petersen KK, Arendt-Nielsen L, et al.: Presurgical assessment of temporal of pain predicts the development of chronic postoperative pain 12 months after total knee replacement. Pain. 2015; 156: 55‒61. 5)Vergne-Salle P: Management of neuropathic pain after knee surgery. Joint Bone Spine. 2016; 83: 657‒663. 6)Loeser JD, Treede RD, et al.:The Kyoto protocol of IASP Basic Pain Terminology. Pain. 2008; 137: 473‒477. 7)Salter MW:Deepening understanding of the neural substrates of chronic pain. Brain. 2014; 137: 651‒653. 8)Bouhassira D, Attal N: Translational neuropathic pain research: a clinical perspective. Neuroscience. 2016; 338: 27‒35. 9)Colloca L, Ludman T, et al.: Neuropathic pain. Nat Rev Dis Primers. 2017; 16: 17002. 10)Y He, Kim Y: Allodynia. StatPearls Publishing, Treasure Island, 2019. 11)Salvat E, Yalcin I, et al.: A comparison of early and late treatments on allodynia and its chronification in experimental neuropathic pain. Mol Pain. 2018; 14: 1744806917749683. 12)Urits I, Shen AH: Complex regional pain syndrome, current concepts and treatment options. Curr Pain Headache Rep. 2018; 22: 10. 13)Smart K, Wand B, et al.: A cochrane systematic review of physiotherapy for pain and disability in adults with complex regional pain syndrome. Cochrane Library. 2015; 24: 2. 14)Schreiber AK, Nones CF, et al.: Diabetic neuropathic pain: Physiopathology and treatment. World J Diabetes. 2015; 6: 432‒444. 15)Drummond PD: Sensory disturbances in complex regional pain syndrome: clinical observations, autonomic interactions, and possible mechanisms. Pain Med. 2010; 11: 1257‒1266. 16)Takayama Y, Uta D, et al.: Pain-enhancing mechanism through interaction between TRPV1 and anoctamin 1 in sensory neurons. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015; 112: 5213‒5218. 17)Packham TL, Spicher CJ, et al.: Somatosensory rehabilitation for allodynia in complex regional pain syndrome of the upper limb: a retrospective cohort study. J Hand Ther. 2018; 31: 10‒19. 18)松岡紘史,坂野雄二,他:Pain Catastrophizing Scale 日 本語版の作成と信頼性および妥当性の検討.心身医学. 2007; 47: 95‒102. 19)Pleger B, Ragert P, et al.: Patterns of cortical reorganization parallel impaired tactile discrimination and pain intensity in complex regional pain syndrome. Neuroimage. 2006; 15: 503‒510. 20)Nishigami T, Mibu A, et al.: Development and psychometric properties of knee-specific body-perception questionnaire in people with knee osteoarthritis: The Fremantle Knee Awareness Questionnaire. PLoS One. 2017; 12: e0179225. 21)Osumi M, Okuno H, et al.: Tactile localization training for pain, sensory disturbance, and distorted body image: a case study of complex regional pain syndrome..

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