• 検索結果がありません。

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 27, No. 1, 111-119, 2013

葛飾赤十字産院(The Japanese Red Cross Katsushika Maternity Hospital)

2011年12月16日受付 2013年3月18日採用

資  料

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を

行うことについて抱く思い

What midwives think of collaboration with doctors

at health check-up for pregnant women

鷹 巢 結香里(Yukari TAKASU)

* 抄  録 目 的  助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについてどの様な思いを抱いているかを明らかにする。 研究方法  質的記述的研究デザインで実施した。2010年7月∼8月に関東圏内の病院に勤務し,助産外来で妊婦 健康診査を行う助産師5名に対し,半構成的面接を実施した。得られたデータをコード化し,研究参加 者間でコードの比較分析を行いテーマ,ストーリーラインに整理した。 結 果  助産師は医師と協働で妊婦健康診査を行う際に,【助産外来を担う責任と異常を見逃すことへの恐怖 心がある】が,助産外来での【経験を積みスキルアップを図ることは,やりがいに繋がる】と考えていた。 そして,【医師と共に助産外来で妊婦を診ているので安心感がある】と感じ,助産師にとって【助産外来 の基準は,助産師と医師を繋ぐもの】と捉えていた。しかし,医師と協働で妊婦健康診査を行う中で【共 同管理すべき妊婦への役割分担に困難さとジレンマを感じている】状況にあった。そして,助産師は【医 師に遠慮することで妊婦に負担をかけてしまう】と感じ,【立場が上である医師の監視下にある助産外来 はやりにくい】ものであった。さらに,【助産外来は医師外来にとって都合の良い道具である】のではな いかと捉えていた。 結 論  助産師は医師と協働で妊婦健康診査を行う中で,責任と異常を見逃すことへの恐怖心を抱きつつも, やりがいや医師の存在により安心感を得ていた。しかし,その様な中で助産師は,医師との間で役割分 担の困難さやジレンマを抱き,医師の監視下では自分自身の意思決定に基づいて行動することが難しい と感じていた。 キーワード:医師との協働,助産外来,妊婦健康診査

(2)

The purpose of the study was to assess the thoughts and feelings of midwives collaborating with physicians to conduct prenatal health check-ups

Methods

The present study was a qualitative descriptive study. Between July and August 2010, semi-structured inter-views of five midwives working in hospitals in the Kanto area who provide midwifery outpatient services, including health check-ups for pregnant women, were conducted. Codes were allocated to the interview results, and they were compared, analyzed, and organized according to the theme and story line.

Results

When working together with physicians to conduct prenatal health check-ups, midwives felt a “sense of re-sponsibility to provide midwifery outpatient services and were in fear of overlooking abnormal signs”. At the same time, they thought that “the task is challenging because they can acquire experiences and improve their skills” in midwifery outpatient practice. They felt “a sense of security when collaborating with physicians to provide pregnant women with outpatient services in midwifery practice”, and recognized that “standards for midwifery outpatient services serve as a link between midwives and physicians”. However, regarding collaboration with physicians in the implementation of maternal health check-ups, midwives had “difficulty and dilemma sharing their roles with physi-cians in providing pregnant women with care because it should be managed cooperatively”. Some midwives thought that “they caused inconvenience to patients when they felt hesitant in the presence of a physician”, and others had “difficulty providing midwifery outpatient care in the presence of a physician - a superior health care professional”. Some midwives even thought that “midwifery outpatient services are a useful tool for physicians in outpatient prac-tice”.

Conclusion

When collaborating with physicians to conduct prenatal health check-ups, midwives felt a sense of responsibil-ity and were afraid of overlooking abnormal signs, although they considered the task as challenging and felt a sense of security in the presence of a physician. However, midwives had difficulty and faced with a dilemma when they had to share their roles with physicians in providing care, and they were hesitant to make their own decisions. Keywords: collaboration with physicians, midwifery outpatient services, prenatal health check-ups

Ⅰ.諸   言

 2008年,厚生労働大臣主導の「安心と希望の医療確 保ビジョン」が掲げられ,その3本柱として1. 医療従 事者等の数と役割,2. 地域で支える医療の推進,3. 医 療従事者と患者・家族の協働の推進が掲げられた。こ のうち「1. 医療従事者等の数と役割」に記された「医 師と看護職との協働の充実」には,「助産師については, 医師との連携の下で正常産を自ら扱うよう,院内助産 所・助産師外来の普及を図ることと共に,専門性の発 揮と効率的な医療の提供の観点から,チーム医療によ る協働を進める。又その際,助産師業務に従事する助 産師の数を増やすと共に,資質向上策の充実も図る」 ことが盛り込まれた。  厚生労働省医政局看護課統計によると,助産外来設 置数は,2008年は273件,2009年は353件と年々増加し ている。このように,助産外来を開設する医療施設が 増加傾向にあり,日本助産師会や日本看護協会でも 普及促進を図っている。しかし,病院における妊婦 健診時の助産師の業務は「『保健指導の実施』64.1%と 『診察の介助』61.4%が最も多い」(鈴井・平岡・蔵元他, 2005,p.157)状況であり,助産師の担う外来業務には 施設間で差や偏りがあると考えられる。  助産師教育の現場では,「学生の学習到達状況の中 で,『妊娠期』は『分娩期』,『産褥期』,『新生児期』に比 較し,低い傾向にある」(渡邊・小田切・熊澤他,2007, p.348)ことが明らかになっている。助産師学生の「妊 娠期」の学習到達状況が低い要因には,「施設分娩にお いて妊娠期の定期健診は医師中心で行っている為,妊 娠の診断や妊娠時期・経過の判断等の学習は,十分 に行われにくい状況にある」(渡邊・小田切・熊澤他, 2007,p.349)ことが指摘されている。  そして,助産師職能集会の参加者においては「助産 師外来を実施する上でのキーポイント」として最も多 く回答したのが「医師との協力」であったという報告 (遠藤・葛西,2008,p.758)もある。  では,助産外来を担う助産師にとって重要な協力者 として捉えられている産科医はどのような助産師を求

(3)

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い すること。 3.妊婦健康診査  妊娠経過中の母体の健康状態や胎児の健康状態を診 察や検査値からアセスメントし,現時点の妊娠経過や 健康レベルを判断すること。 4.思い  助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことにつ いて,思っていることや考えていること,感じている こと。

Ⅳ.研 究 方 法

1.研究デザイン  本研究では質的記述的研究デザインを選択した。 2.研究参加者  関東圏内の病院に勤務し,助産外来で妊婦健康診査 を担っている助産師の中で,以下の3つの条件を満た す助産師5名に研究参加を依頼し同意を得た。 1 ) 助産師経験5年以上。 2 ) 助産外来経験1年以上。 3 ) 師長など管理職に就いていない。 3.データ収集期間  2010年7月∼8月。 4.データ収集方法  研究者の知人から,コンビニエンスサンプリング にて研究参加者の3つの条件を満たす助産師に,書面 又は口頭にて本研究への関心があるか否かを打診し た。そして,本研究に関心を示した研究参加候補者に, 改めて口頭と書面にて本研究の説明を行い,同意を 得た助産師5名に半構成的面接法にてデータを収集し た。面接は5名とも1回ずつ,1人当たり30∼60分間 行い,5名全員の面接総時間は215分であった。面接で は,インタビューガイドに基づき,助産師が医師と協 働で妊婦健康診査を行うことについて,思っているこ とや考えていること,感じていることについて自由に 語ってもらった。そして年齢,最終学歴,助産師経験 年数,助産外来経験年数について確認した。面接場所 は研究参加者が希望する日時,場所を最優先に設定し, プライバシーが確保できる静かな個室で面接を実施し めているのか。病院勤務医を対象に「産科医が求める 助産師像」について調査した北川(2009)によれば,「産 科医が求める助産師像において臨床的能力として,よ り求められていた項目は『内診の正確性』等で,これ らは分娩期に求められる能力であった」(p.118)。この 結果から,産科医は「妊娠期」よりも「分娩期」におい て助産師が必要であると捉えていることが読み取れ, 助産師と医師との間で,「妊娠期」における協働の必要 性が共通認識されていない状況にあることが伺える。  助産外来を担う助産師を対象とした先行研究では, 満足感や責任感,やりがいを感じる(駒沢・三島・狩 野他,2008,p.45)というような肯定的な意見がある 一方で,医師との連携の見直しの必要性(駒沢・三島 ・狩野他,2008,p.45)や超音波診断や妊娠経過の助 産診断の妥当性に対する不安(駒沢・三島・狩野他, 2008,p.45),妊婦の対応に際しての不安や負担(岡田 ・西海・奥村他,2008,p.38)などの課題が明らかに されていた。しかしながら,このような肯定的な意見 や検討課題の背景にある,医師と協働で妊婦健康診査 を行う助産師の思いについては先行研究で明らかにさ れていない。  このことから,本研究を通して,上記を明らかにす ることにより,助産師と医師との連携や協力の現状に ついて理解し,医師との協働のもと助産外来を担う助 産師を支援する方策を検討するための一助となると考 えた。

Ⅱ.研 究 目 的

 助産外来を担う助産師が医師と協働で妊婦健康診査 を行うことについて,どの様な思いを抱いているのか を明らかにする。

Ⅲ.用語の定義

1.医師との協働  助産師が妊婦健康診査を行う過程で,問題解決や意 思決定をする際に,医師との間で報告,連絡,相談, 分担を行いながら業務の連携を図ること。 2.助産外来  助産師が外来で,妊婦を問診,外診(視診・触診・ 聴診・計測診),内診,超音波断層法を用いて健康診 査並びに保健指導を行い,妊婦と共にケア計画を立案

(4)

5.データ分析方法  逐語録を繰り返し読み,本研究の目的に関連した文 脈に注目して抽出し,コード化した。その後,研究参 加者のコードを比較分析し,研究参加者毎に,コード を用いて予備的要約(McLeod. 2000/2007, p.182)を記 し,各ケースに固有な,全体的印象を把握した。そし て,全ての研究参加者のコード間の類似性,相違性を 明らかにして,サブカテゴリー,カテゴリー,テーマ に整理した。  さらに,テーマ間の関係性に着目して,助産師が医 師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い に関するストーリーラインを記述した。 6.データの妥当性の確保  データの分析や解釈の妥当性を高める為に,研究過 程を通して質的研究及び,母性看護学・助産学領域の 専門家である指導教員からスーパービジョンを受けた。 7.倫理的配慮  本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会 の承認(承認番号:2010-14)を得て実施した。  研究参加者には,研究者の身分を明らかにした上で, 書面と口頭にて本研究の趣旨と目的,方法や倫理的配 慮を説明し本研究への参加は自由意思であること,途 中辞退が可能なことを保証した。そして語りたいこと のみ語ってもらい,本研究で語られた内容や研究参加 者の連絡先は,本研究以外の目的では一切使用しない ことを確約した。さらに,研究参加を拒否しても,研 究者との関係は変わらないこと,勤務評価等の不利益 を被ることがないこと,研究参加の諾否は研究者のみ が把握し,他者に伝えることは一切ないことを保証し た。研究参加者のデータは逐語録作成段階から匿名で 扱いプライバシーの保護に努めた。 1.研究参加者の背景  研究参加者の概要については表1に示す。研究参加 者が担っていた助産外来の対象者は,妊婦が助産外来 の受診を希望し,大学病院の助産外来では妊娠16週 以降,総合病院の助産外来では妊娠20週以降,いず れも医師外来を受診し助産外来の基準に合致した妊婦 であった。助産外来の受診者数は,大学病院では一日 平均2名程度であり,総合病院では一日平均13名程度 であった。助産外来を担当できる助産師の経験年数は, 大学病院では5年以上,総合病院では4年以上であっ た。さらに,両施設ともに助産外来と医師外来は隣接 していた。 2.助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことに ついて抱く思い  分析の結果,35のサブカテゴリー,17のカテゴリー, 8のテーマからストーリーラインが導き出された。は じめにストーリーラインを紹介し,次いでテーマとカ テゴリーを説明する。テーマは【 】,カテゴリーは〈 〉, 研究参加者の語ったデータは斜体で示す。なお,説明 に用いられる個人名は,すべて仮名である。 1 ) ストーリーライン  助産師は医師と協働で妊婦健康診査を行う際に, 【助産外来を担う責任と異常を見逃すことへの恐怖心 がある】が,助産外来での【経験を積みスキルアップ を図ることは,やりがいに繋がる】と考えていた。そ して,【医師と共に助産外来で妊婦を診ているので安 心感がある】と感じ,助産師にとって【助産外来の基 準は,助産師と医師を繋ぐもの】と捉えていた。しか し,医師と協働で妊婦健康診査を行う中で【共同管理 すべき妊婦への役割分担に困難さとジレンマを感じて いる】状況にあった。そして,助産師は【医師に遠慮 することで妊婦に負担をかけてしまう】と感じ,【立場 が上である医師の監視下にある助産外来はやりにく い】ものであった。さらに,【助産外来は医師外来にと 表1 研究参加者の概要 氏名(仮名) 相沢さん 伊藤さん 江川さん 内田さん 小田さん 年  齢 50歳代 30歳代 30歳代 30歳代 20歳代 勤務施設 大学病院 大学病院 大学病院 総合病院 総合病院 助産師経験年数 20年以上 10年以上 10年以上 10年以上 5年以上 助産外来経験年数 8年未満 8年未満 8年未満 5年未満 5年未満

(5)

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い って都合の良い道具である】のではないかと捉えてい た。 2 ) テーマとカテゴリー a.テーマ1;【助産外来を担う責任と異常を見逃す ことへの恐怖心がある】  (1)〈助産外来を担う責任と重圧を感じる〉  相沢さんは,「ちゃんと助産外来をやっていけるの かな,大丈夫なのかな」と語り,助産外来を担う責任 をきちんと果たせるのだろうかと責任への重圧を感じ ていた。また伊藤さんは,「責任は重いですよね,異 常を見逃したらっていう怖さもある」と語り,助産外 来で異常を見逃してはいけないという責任と重圧を感 じていた。  (2)〈アセスメント能力に自信が無いために恐怖心 を抱えながら妊婦を診ている〉  小田さんは,「(自分のアセスメントに)不安と自信 の無い中,自問を繰り返しながら診ている」と語った。 小田さんは,助産師としてのアセスメント能力に不安 と自信が無いことが原因で,妊婦を診るたびに,本当 に自分のアセスメントは正しいのか,間違っているの ではないかと「自問を繰り返す」日々を送っていた。 b.テーマ2;【経験を積みスキルアップを図ることは, やりがいに繋がる】 (1)〈助産外来では高度な技術が求められる〉  内田さんは「助産外来で医師と同じ診察料をもらい エコーを取り扱うということは,助産師として高度な スキルアップが求められている」と語り,超音波断層 法を自在に操作し,超音波診断を行うには高度な技術 が必要であると感じていた。 (2)〈助産外来の受診者数を増やすことは助産師のス キルアップを図り,やりがいへと繋がって行く〉  伊藤さんは「助産外来の受診者を増やすことは,助 産師のやりがいやスキルアップになると思う」と語り, 助産外来の受診者が増加することは結果的に,助産外 来を担う助産師全員のスキルアップや助産師としての やりがいに繋がると考えていた。 c.テーマ3;【医師と共に助産外来で妊婦を診てい るので安心感がある】 (1)〈助産外来の妊婦を助産師だけで抱え込んでいる とは思わない〉  「まるっきり助産外来の人は助産師だけで診なきゃ いけないとはあまり考えていなくって,先生(医師) と一緒に診てるっていう,相談とか声をかけ易い場 面があるのでそういう意味では良いかなぁと思いま す」と語る小田さんには,助産師だけで助産外来の妊 婦を診ているという意識はなかった。また江川さんは, 「(助産師と医師が)お互いお節介しながらやれるとこ ろで,結局は(妊婦を)バックアップできるのかなと 思う」と語り,助産外来の業務と医師外来の業務が重 なる部分を,助産師と医師が互いに補完し合うことで, 妊婦を支援できると考えていた。 (2)〈協力的な医師がいてくれることは心強い〉  内田さんは,「協力者として医師がいてくれるとい うのは,すごく心強い」と語った。これは,医師が助 産師の恐怖心や自信の無さを軽減してくれる存在とし て重要であることを意味しており,助産師は医師に対 して安心感を得ていた。 d.テーマ4;【助産外来の基準は,助産師と医師を 繋ぐもの】  (1)〈助産外来の基準は,安心感や責任を自覚でき る大切なもの〉  伊藤さんは,「(助産外来の)基準があるから,医師 も(逸脱した妊婦を)漏れずにキャッチできるし,(中 略)(助産外来の)基準があるのに,助産師が医師に報 告しなければ,助産師の責任だし,(助産外来の)基準 があるから医師に伝えて良いんだっていう安心感にな る」と語った。伊藤さんは,助産外来の基準があるこ とで,助産師と医師の業務範囲が明確になり,双方の 業務に漏れが無くなると感じていた。さらに,助産外 来の基準があることで,助産外来の責任範囲が明確に なり,助産師として果たさなければいけない業務が自 覚でき,躊躇することなく医師に相談できるという安 心感に繋がると考えていた。  (2)〈助産外来の基準は,医師に相談したい時に必 要なもの〉  「助産外来の基準を介して,妊婦の変化について助 産師と医師が相談して行くことで,より妊婦さんに良 い方法を決めてあげられるっていうのはあると思う」 と伊藤さんは語り,助産外来の基準があることで,助 産師と医師が助産外来の基準を基に助産外来の妊婦の 相談を行い,結果的に助産外来の妊婦により良い支援 ができると考えていた。 e.テーマ5;【共同管理すべき妊婦への役割分担に 困難さとジレンマを感じている】  (1)〈共同管理すべき妊婦に医師と補完しながら支 援したいが医師との役割分担が難しい〉  伊藤さんは,「常に医師外来が並列している中で,

(6)

い」と語った。伊藤さんは,助産所業務ガイドライン (社団法人日本助産師会,2008,pp.5-6)にある「産科医 と相談の上,共同管理すべき対象者」である妊婦を支 援する際,どの場面で助産師と医師のどちらが妊婦の 支援の主導を取るべきなのか,助産師と医師の役割分 担の困難さを感じていた。  (2)〈ハイリスク妊婦にも関わりたいのに関われな いジレンマを感じている〉  伊藤さんは「ハイリスクの人(妊婦)の方が助産師と 関わる必要があるんじゃないか,(中略)本当だったら ハイリスクの人(妊婦)程,助産師と話す時間を持た せて欲しい」と語り,助産外来の基準外である合併症 を抱えた妊婦も正常経過の妊婦と同様に,助産外来で 関わりたいのに関われないと感じていた。 f.テーマ6;【医師に遠慮することで妊婦に負担をか けてしまう】 (1)〈医師の機嫌を伺いながら相談しなければならない〉  小田さんは「診察中に声をかけると機嫌が悪くなる 先生(医師)に相談する時は,診察のタイミングをみ ながら声かけたりしてます」と語り,診察中に声をか けると機嫌の悪くなる医師に妊婦の相談をしなければ ならない時は,極力医師の機嫌を損ねないように遠慮 しながら相談をしていた。 (2)〈妊婦の相談よりも医師への気遣いを優先させて しまう〉  「(助産外来の基準に)当てはまらない,例えば(日 常生活に支障ない発赤程度の)皮膚の痒みだと,患者 とも相談しながらですが,あまりに医師が忙しそうだ と,(患者に)様子見てもらっても良いですかというこ とがあるので」と語るように小田さんは,助産外来の 基準外の相談内容で,しかも緊急性の低い相談内容で ある場合,忙しそうな医師に遠慮し,妊婦と相談し妊 婦の了解を得た上で,医師に相談することを見送るこ とがあった。 g.テーマ7;【立場が上である医師の監視下にある 助産外来はやりにくい】  (1)〈助産師と医師の間には上下関係がある〉  伊藤さんは,「(中略)医師と助産師の立場に上下関 係があるんでしょうね,(中略)医師が妊婦の最終決定 権を持つという暗黙の了解というか,治療できるのは 医師だけだしね」と語った。妊婦の治療方針を最終決 定するのは医師であることから,医師は助産師よりも  (2)〈医師の監視下にある助産外来はやりにくい〉  伊藤さんは「医師もそれなりに医師の監視下で助産 外来を見ているっていう印象を私は持っているから ね」と語り,助産外来における助産師業務が常に医師 に見張られているような印象を受けていることを研究 者に打ち明けた。  そして「(安全重視の医師の考えに)ついていける助 産師を医師は望んでいるような雰囲気を感じる,その 中で助産師は助産師としての道を守りたい,お産を守 りたいという思いがあるから,医師との考えにズレを 感じちゃうかな」と語り,医師が求める助産師像と助 産師が望む助産師像との間には「ズレ」があることで, 助産師が望む妊婦への支援がやりにくいと感じていた。 h.テーマ8;【助産外来は医師外来にとって都合の 良い道具である】  (1)〈助産外来に対する医師の関心や信頼感が感じ られない〉  江川さんは「(医師と)接している時に,助産師の才 能を認めてくれているのかな,ほんとに任せてくれて いるのかな,何か信用されてないんじゃないかなと思 うことがままある」と語り,医師に真意を確認したわ けではないが,医師が本当に助産外来を助産師に任か せて良いと考えているのか,医師は助産師を信用して いないのではないかと医師に対して疑念を抱いていた。 さらに「○○先生(医師)は,私達(助産外来担当助産 師)に直接ではないけれども,師長に助産外来で診て いる妊婦は助産師ができるところまで判断してやれば いいって,ツッケンドンに言ったらしい」と江川さん は語り,医師の師長に対する物言いに,医師からは助 産師に助産外来を任されたというよりも,助産師が勝 手に助産外来をやればいいというような,医師から突 き放された感覚を持っていた。  (2)〈医師外来での不備は,助産外来で尻拭いをす ることになる〉  小田さんは,「(医師外来で)先生(医師)しかオー ダーできない検査が抜けてしまう,例えば感染症の検 査とかで,後(医師外来受診後の助産外来)で抜けて いるのが発覚する,それは困るなと」と語った。小田 さんは,医師外来で行うべき検査が済んでいない妊婦 に助産外来で出会うと,医師への報告や妊婦への検査 の説明という手間がかかると感じていた。この様な医 師外来の不備について小田さんは,助産外来は医師外

(7)

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い 来の「尻拭い」をしていると捉えていた。  (3)〈医師外来の穴埋めのために助産外来は都合良 く活用されている〉  相沢さんは,「(助産外来は)話し聞いてもらえるか らじゃないの,先生(医師)の外来で色々話されても 診療が進まないから困るでしょ,助産外来なら多少 時間がかかってもと思ってるからじゃない」と語った。 相沢さんは,医師は妊婦の妊娠経過の診断以外のこと で,医師外来の診療時間が延長することを敬遠してい ると感じていた。そこで相沢さんは,助産外来は医師 外来の穴埋めをするために,都合良く活用されている と感じていた。

Ⅵ.考   察

1.助産外来における医師との協働について  本研究では,助産外来を担う助産師が【医師に遠慮 することで妊婦に負担をかけてしまう】と認識してい ることや,【共同管理すべき妊婦への役割分担に困難 さとジレンマを感じている】ことが明らかにされた。 この結果は,助産外来と医師外来との関係性に関して 助産師が「異常時に医師への診察依頼をするタイミン グが難しい」と感じていることを明らかにした先行研 究(駒沢・三島・狩野他,2008,p.45)と同様の知見で あった。  さらに本研究では,医師との協働においてそうした 困難さを生じさせる背景の一端が明らかとなった。す なわち,本研究の参加者である助産師は,〈助産師と 医師の間には上下関係がある〉と認識し,〈医師の機嫌 を伺いながら相談しなければならない〉状況や,〈妊婦 の相談よりも医師への気遣いを優先させてしまう〉実 態があることを語った。本来は最も優先されるはずの 妊婦へのケアが,「立場が上」の医師への気遣いによっ て後回しにされる状況に,研究参加者は,助産師とし てのアイデンティティの揺らぎや助産外来の「やりに くさ」を感じていたのではないかと推察される。  このように,研究参加者は,医師との協働に対して 困難さを覚える一方で,【医師と共に助産外来で妊婦 を診ているので安心感がある】という肯定的といえる 思いも抱いていた。本研究の参加者は,5名中4名が助 産師経験10年以上の中堅助産師であった。この時期 は,木村・松岡・平澤他(2002)の調査で示された「助 産師としてのキャリアを深めたり,分化させることに よって,専門性やアイデンティティを確立する時期」 (p.11)と重なると考えられる。つまり,研究参加者は, 助産師としての専門性やアイデンティティが確立した 中で助産診断をし,その上で医師に相談することによ り,医師に助産師の判断や意見が理解されやすく,医 師から適切な返答を得る機会が多かった可能性がある。 加えて,研究参加者は5年以上同じ施設で勤務してい ることや,助産外来と医師外来は隣接していたことも, 医師との協働に対する助産師の肯定的な思いに何らか の影響を及ぼしていたとも考えられる。 2.助産外来を担う恐怖心と自信の無さの背景にある もの  研究参加者のほとんどは,「専門性やアイデンティ ティを確立する時期」にある中堅助産師(木村・松 岡・平澤他,2002,p.11)であった。にもかかわらず, 彼女たちは未だ【助産外来を担う責任と異常を見逃す ことへの恐怖心がある】状況に置かれていた。  こうした状況をもたらす背景には,助産師の基礎教 育と卒後教育の影響があると考える。渡邊・小田切・ 熊澤他(2007)の調査によれば,助産師の基礎教育に おける「学生の学習到達状況の中で,『妊娠期』は『分 娩期』,『産褥期』,『新生児期』に比較し,到達状況が 低い傾向にある」(p.348)。さらに,渡邊・小田切・熊 澤他(2007)は卒後教育についても,「施設分娩におい て妊娠の診断や妊娠期の定期健診は,医師が中心に行 っている。そのため妊娠の診断や妊娠時期・経過の判 断などの学習は,十分に行われにくい状況にある」(p. 349)ことを指摘している。本研究の参加者は,【異常 を見逃すことへの恐怖心】を表明していた。異常を見 逃さないためには,正常経過をたどる妊婦ばかりでな く正常から逸脱する妊婦についても学びを深める必要 があるが,〈ハイリスク妊婦にも関わりたいのに関わ れないジレンマを感じている〉状況では,そうした学 びを深める機会が得られにくく,【異常を見逃すこと への恐怖心】が付いて回ることが推測される。こうし た状況を変えるには,助産師教育のありようを変化さ せたり,医師に理解と協力を得ることが必要であると 考えられた。 3.医師の助産師役割に対する理解不足の背景にある もの  研究参加者は,助産外来を担う中で,【助産外来は 医師外来にとって都合の良い道具である】と感じてい た。すなわち,医師は助産外来に独自の役割機能を

(8)

〈助産外来に対する医師の関心や信頼感は感じられな い〉という思いを研究参加者は抱いていた。  北川(2009)が行った勤務医への調査によると,「産 科医が助産師に求める臨床的能力として最も多かった のは『内診の正確性』,次いで『分娩介助の技術』,『胎 児モニタリング判読の正確性』」であり,分娩周辺に かかわることが多数を占めていた」(p. 118)。このこ とからもうかがえるように,医師は,分娩期での助産 師の役割は認めているものの,妊娠期での助産師の役 割を,ひいては助産外来の存在意義を,十分に理解し ているとは言いがたいと考える。  しかし,このことは医師だけの責任ではないと思わ れる。宇城・中山(2006)によれば,「医師と看護師の 協働には看護師自身の自律的態度の希薄さが阻害要因 であり,医師と看護師の協働的な関係を成立させるに は,まず自分たちがどのような意見や考えをもつの かということや,発言し行動することが重要である」 (p.29)。このことは,看護師と同様に助産師にも当て はめることができると考える。つまり,助産外来を担 う助産師が専門的知識を駆使し,自律的態度で医師と 接することが,医師に対して助産師の専門性や役割に 関心を抱かせ,助産外来への理解を促すことへと繋が ると考えられる。  さらに,助産師と医師の間で情報の共有や意見交換, 事例検討などを行う場としてカンファレンスがある。 このカンファレンスについて宇城・中山(2006)によ れば「機会を重ねることを通して(医師と看護師が)互 いに理解し,ともに考えあうといった両者の協働が高 まる」(p.29)と述べていることからも,助産外来を担 う助産師は,自律的態度で医師と接するだけではなく, 医師外来の医師と積極的にカンファレンスを行う必要 があると言えるだろう。そして,カンファレンスの中 で助産師の考えや意見を発言していくことで,医師に 助産師の専門性や役割を理解してもらうことへと繋げ, 助産外来の助産師と医師外来の医師との間に真の協働 を生む努力を重ねることが大切であると考える。 4.助産実践への示唆  本研究から,助産師と医師が協働で妊婦健康診査を 行うことについて抱く思いの一端が明らかになった。 以下について提案をしたい。  助産外来を担う助産師と医師外来を担う医師が,短 医師の相互を理解するための礎になるのではないかと 考える。  そして,助産師と医師が話し合う機会があることで, 助産外来の基準の作成や改定についても助産師と医師 とが共に考え話し合う機会になり,それは助産師と医 師との協働が円滑に行われることへと繋がると考える。  また,助産師の基礎教育においては,妊娠期の診断 とケアに関する理論的・実践的知識を教授する場を増 やし,学習到達度を高めることが望まれる。  さらに,助産外来担当助産師に対する卒後教育にお いては,助産師の経験年数やどのような教育機関で学 んできたのかなど個々の助産師に合わせたきめ細やか な教育を行うことが必要であると考える。 5.研究の限界と今後の課題  本研究に用いた研究方法では,医療機関が2施設の みであり,施設規模は大学病院と総合病院であった。 大学病院と総合病院は,ハイリスクの妊婦が集中し, 施設に医師が複数在籍するという特性があった。そし て,研究参加者は5名と少人数であり,助産師経験年 数10年以上が5名中4名であった。さらに研究参加者は, 既に医師との関係性がある程度構築されていた。本研 究の結果は,これらの限られた特性が反映されたもの であった。  今後は,医療機関を大学病院と総合病院の他に,一 般病院や診療所を追加し,助産外来を担う助産師の助 産師経験年数や助産外来経験年数を検討する必要があ る。

Ⅶ.結   論

 助産師は医師と協働で妊婦健康診査を行う際に,異 常を見逃すことへの恐怖心と自信の無さを抱えていた が,医師と共に助産外来で妊婦を診ていることで安心 感を持ち,助産外来の基準は,助産師と医師を繋ぐも のと捉えていた。  しかし,助産師は医師との役割分担にジレンマを感 じ,助産外来は医師の監視下にあるために困難さを感 じていた。さらに,助産外来は医師外来にとって都合 の良い道具であるのではないかと助産師は捉えていた。

(9)

助産師が医師と協働で妊婦健康診査を行うことについて抱く思い 謝 辞  本研究にご協力下さいました助産師の皆様に心より 感謝申し上げます。また,本研究の進行に際し一貫し て御指導下さいました日本赤十字看護大学大学院教授 谷津裕子先生に深く感謝申し上げます。本研究は日本 赤十字看護大学大学院2010年度修士論文を一部加筆, 修正したものである。また,内容の一部は,第37回 一般社団法人日本看護研究学会学術集会において口述 発表した。 文 献 遠藤俊子,葛西圭子(2008).助産師外来・院内助産の現 状と今後の課題.看護管理,18(9),756-761. 木村千里,松岡恵,平澤美恵子,熊澤美奈好,佐々木和子 (2002).病院勤務助産師のキャリア開発に関する研 究̶能力開発に焦点を当てて.日本助産学会誌,16(1), 5-13. 北川道弘(2009).産科医が求める助産師像.ペリネイタ ルケア,28(3),116-119. 駒沢彩,三島みどり,狩野鈴子,濱村美和子(2008).助 産師外来の問題点に関する文献検討.島根県県立短期 大学部出雲キャンパス研究紀要,2,41-48. 厚生労働省(2008).安心と希望の医療確保ビジョン. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/dl/s0618-8a. pdf [2011-01-01] 厚生労働省(2009).院内助産所・助産師外来について. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1104-3j. pdf [2010-12-30] McLeod, J. (2000)/下山晴彦監(2007).臨床実践のための 質的研究入門.182,東京:金剛出版. 岡田公江,西海ひとみ,奥村ゆかり,渡邊香織,松尾博哉 (2008).兵庫県における助産師外来・院内助産所の社 会的ニーズと今後の課題.兵庫県母性衛生学会雑誌, (17),36-42. 鈴井三江子,平岡敦子,蔵元美代子,田中奈美,滝川節子 (2005).日本における妊婦健診の実態調査.母性衛生, 46(1),154-162. 社団法人日本助産師会助産所部会役員会日本助産師会安全 対策室(2008).助産所業務ガイドライン(第5版).5-6, 東京:日本助産師会. 宇城令,中山和弘(2006).病院看護師の医師との協働 に対する認識に関連する要因.日本看護管理学会誌, 9(2),22-30. 渡邊典子,小田切房子,熊澤美奈好,江幡芳枝,黒田緑 (2007).[全国助産師教育協議会調査] 大学・短大 専攻科・専門学校における助産師教育の実態と分娩介 助・継続事例実習指針[その2]到達状況の比較および 分娩介助・継続事例実習指針.助産雑誌,61(4),344-351.

参照

関連したドキュメント

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

医師の臨床研修については、医療法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 141 号。以下 「改正法」という。 )による医師法(昭和 23

最後に要望ですが、A 会員と B 会員は基本的にニーズが違うと思います。特に B 会 員は学童クラブと言われているところだと思うので、時間は

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例

(3)各医療機関においては、検査結果を踏まえて診療を行う際、ALP 又は LD の測定 結果が JSCC 法と

とされている︒ところで︑医師法二 0

健康維持・増進ひいては生活習慣病を減らすため