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誘導表現の一般化について

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=== 2012 表現論シンポジウム 鹿児島===

 誘導表現の一般化について

ON SOME VARIANTS OF INDUCED REPRESENTATIONS

(2012.12.4)

梅田 亨 (京都大学)

Tˆoru Umeda   (Kyoto University)

Abstract. 置換の符号,Legendre-Jacobi symbol (さらに高次冪剰余記号),群論に於ける移送(transfer)な どは明らかに類似の思考方法によって定義され,実際,群の作用の言葉で統一的に定式化される.一方,群の表 現論の誘導表現も似た側面をもつ.加えて,吉田敬之氏は,志村多様体のゼータ函数に関する研究(Duke Math. J. 75 (1994))からテンソル積版の誘導表現を定義した.これら「誘導」の概念は,移送などの概念とは双対的 なもので,同じ枠組みで理解でき,更に一般化できる.そのことは随分前(最初に判ったのは2003年の北海道 での表現論シンポジウムの帰りの飛行機の中だった)から気づいていたが,そこそこ満足いく内在的な定式化に 至ったのは数年前である.本講演では,これらの概要について説明する. 0 : Introduction 数論に於いて,Legendre-Jacobi 記号をはじめとする “symbol” が重要なのは敢えて言を俟たない が,若干の注意も必要である.Legendre 記号は,素数を法とする場合に,平方剰余か否かを判定す るもの (平方剰余記号) である.それに対し,合成数を法とする場合,形式的な Legendre 記号の積と して定義する (Legendre-)Jacobi 記号に平方剰余記号としての意味はない.ではあるけれど,Jacobi 記号に対しても相互法則は成立し,高木貞治『初等整数論講義』などでも,この事情は不明瞭である (単に証明されたにすぎない).これは,相互法則が平方剰余と本質を不可分的に共有するというより, 実はより汎い現象であり,素数を法とする特別な場合には,さらに平方剰余としての意味が新たに付 け加わると考えるべきではないか,との逆転の一面も示唆する.実際,Jacobi 記号は,Gauss の補題 を通じて,合成数を法とする場合にも通用する解釈を得る.つまり,掛け算のもたらす置換の符号と 捉えられるが,それによって相互法則の意味も証明もはっきりするのである1 この,Gauss の補題という,群準同型を作り出す手段には,他に置換の符号自体の定義や,群論に 於ける「移送」(独 Verlagerung, 英 transfer)2 など類縁があり,実際,それらすべてを含む「群とその 1平方剰余の相互法則の証明は非常に沢山知られているが,Jacobi記号の場合にも通用するものは限られる.その事実は 素数という特殊化の下での解釈の豊かさを示していると言えないこともない反面,却ってそれが本質を覆い隠している可能性 もある. 2Verlagerungの用語はHasseによるらしい.概念の歴史はそれなりのエピソードに彩られ,その中に日本人数学者の名 前も何度も見かける.しかし,本筋とは関係も薄いので触れない.極めて個人的なことだが,筆者がこれを知ったのは秋月・鈴 木『高等代数学I』であった:大学の時,友人がその箇所について質問の手紙をくれたので読んだのだ.かけがえのないその 友は2年前,2010.11.26何の前触れもなく心疾患で帰らぬ人となった.

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作用」による統一的な定式化が可能である3.置換の符号としての意味をはっきりさせた Zoloterev に

よる平方剰余の相互法則の証明4は,少しの注意でそのまま Jacobi 記号の相互法則に適用可能だし,

Gauss の第 3 証明5(Gauss の補題が世に現れた論文) でも,むしろ Gauss のようにでなく,ちょっと

別の数の数え方6をすれば,より簡明で,これも Jacobi 記号の場合に使える. 一方,群の表現論を学ぶ誰もが,誘導表現に出会うが,これが移送と類似の手続きを踏んでいるこ とに当然気づく.しかしまた,積と和の違いなどもあり,直接関係があるとも言えず,もやもや感は 拭い去れない.どちらもよく知っているものであるし,それなりの関係は判るのだが,これだという 決め手が見つからない7.ところが,そんな中,なんとテンソル積版の誘導表現という概念が吉田敬 之氏によって導入された.論文は 1994 年であるが,発見はもちろんそれ以前で,私はたまたま,発 見直後じかにその興奮を聞いた.そのテンソル積版の誘導表現によって志村多様体のゼータに関する 事実の明快な理解が得られるのである8. この発見を前にすると,上に述べた一連の概念を明瞭化す べきだという問題が当然のものとして浮かび上がる.そのつながりについての或る程度の認識は得る ことはできたし,それらを含む一般的な「誘導」の概念を作ることもできる.しかし,更にそれをど う内在的に理解すべきかは,私にとって,長くはっきりしなかった.何に使えるかが判らないという 点も,その定式化について動機が不足していたのであろう.それでも最近ようやく,少しまともな定 式化に到達したので,以下,その説明をしたい. 1: 一般的設定 (1) — 準備 — 以下,群 G と,それが作用する空間 X は有限とする.そうでない場合への拡張は,おそらく一義 的ではないので,今は措く.より一般的な設定も可能であるが,まずは基礎となる定式化から始める. 群 G が集合 X に作用しているとする.都合により9作用は 右から とする.基本的な仮定は,こ の作用が 自由 (free),つまり,各点の固定群 (stabilizer) が単位群に等しいことである.これは X の すべての G 軌道が,G 空間として G 自身と同型ということで,X は G のコピーの disjoint union になっている.幾何の言葉では principal G bundle のようなものである.記号として,x ∈ X を通る G 軌道を [x] と書く.通常は xG と書くところだが,文字の横幅をとられるのを避けるためにそうす る.同様に,[X] で商空間 (orbit space) X/G を表わすことにする. 3それをもとに1996年と2000年には京大の修士1年生向けの「展望講義」で基本的な定式化と,平方剰余の相互法則の 証明について講義した.その講義はオムニバス形式で一人の担当は4回であり,基礎的なことだけで話は充分完結する.

4Nouvelle d´emonstration de la loi de r´eciprocit´e de Legendre, Nouvelles Annales de Math´ematique 11(1872), 354–362

5Theorematis arithmetici demonstratio nova (1808: Werke II, 1–8);独訳Neuer Beweis eines arithmetischen Satzes (Untersuchungen ¨uber H¨ohere Arithmetik, Chelsea, pp. 457–462);邦訳『ガウス 数論論文集』ちくま学芸文庫, 9–19.

6Gaussの数え方は巧妙なRiemann積分式だが,それを素直なLebesgue積分式に足す方が判りやすい証明になる.

7例えば,誘導表現の基礎となるG 加群に於ける「非可換行列式」という解釈で「移送」も理解できないことはない.こ の場合には,また更に非可換体を成分とする行列のDieudonn´e determinantが思い出され,その関係はどうなのか,など別 のもやもやを生む.非可換行列式と言えば,Capelli 型恒等式とのつながりがあるのかという問題もある.今のところ関連は 見えないが,将来の課題として,少しは記憶に留めておいてもよいかもしれない.実際,(一般の体上の)半単純環に付随する Capelli型恒等式というテーマが研究可能の兆候を示している.こちらは群行列式型Capelliなどともつながる. 8Duke Math. J. 75 (1994), 121–191 9Gの方は係数()の役割をするので,右からの作用にする:線型代数と同じである.

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次に,別の群 Γ が X に作用し,G の作用と可換とする.可換性が目に見えやすいように Γ の作 用は 左から とする.この時,γ ∈ Γ の G 空間 X にもたらす変換は,土台 [X] と各点の上のファイ バー方向に分解して記述することができる.実際,まず,土台の方では, (1.1) [γ(xg)] = [(γx)g] = [γx] なので,G 軌道は (一般には別の) G 軌道に移る.つまり,土台 [X] の置換を引き起こす.従って, 残りは,各軌道での変換であるが,それは一点の行き先によって決まる.なぜなら,γ は G の作用 と可換であり,軌道は G での作用で互いにうつりあうからである.その記述をより正確にするには, G のコピーである軌道を G と同一視すれば可能だが,コピーの仕方とは基点 (原点) と G の単位元 との同一視に他ならない. このことを式で書く.まず,[X] の上に γ の引き起こす置換も同じ記号で書くことにして (記号が 増えると式が煩雑になる),(1.1) から γ[x] = [γx] と定義できる (well-defined).次に各軌道 ξ ∈ [X] から一点 xξ を取り出し,各軌道の基準点とする.つまり {xξ}ξ∈[X] は,商 (同値関係) X → [X] の 完全代表系である.これら完全代表系を一つ固定して,γ の作用を記述すると (1.2) γ xξ = xγξgξ (ξ ∈ [X]) となる gξ ∈ G が,各 ξ ∈ [X] に対し,一意に存在する.読者の便宜 (?) を考えて10,より見慣れた 形にするため,[X] の元を数字 {1, 2, · · · , n} で表わし,線型代数の行列表示のように書いてみると, (1.3) γ [x1 x2 · · · xn] = [xγ(1) xγ(2) · · · xγ(n)]     g1

0

g2 . ..

0

gn     = [x1 x2 · · · xn] P (γ)     g1

0

g2 . ..

0

gn     但し,P (γ) は γ が {1, 2, · · · , n} 上に引き起こす置換を表わす置換行列:Eij を行列単位として (1.4) P (γ) = n ' i=1 Eγ(i) i であり,P (γγ") = P (γ)P (γ") を満たす.ここで,G の元が対角に並んだ行列を D(g),但し g = (g i)ni=1, と書いて,置換行列との交換関係を見ておくと, (1.5) P (γ)−1D(g) P (γ) = D(gγ) 10数字を用いると,知らず知らずのうちに,順序を導入することになっていて,一列に並べることが自然に見える.この ように心理的な差も,きちんと分析すると,数学的な差として理解できるが,大抵は暗黙の裡にそのような記号を選んでいる.

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但し,(gγ) i= gγ(i) である.また,gγγ ! = (gγ)γ! を満たすことに注意しておこう. ここまでは,完全代表系の取り方を固定しているが,それを取り替えた時どうなるかを見るのもや さしい.置換行列の部分は同じなので,対角行列の違いを見ればよいが,それを区別するために,代 表系 x = (xi) の場合には D(g : x) などと書くことにし,別の代表系 y = (yi) を y = x D(h) ととっ てみると (もちろん h = (hi)ni=1 で hi∈ G), γ x = x P (γ) D(g : x), γ y = y P (γ) D(g : y) より (1.6) D(g : y) = P (γ)−1D(h) P (γ) D(g : x) D(h)−1 = D(hγ) D(g : x) D(h)−1 とちょっと捻られた共軛にうつることが判る. 2: 符号の一般化とその例 このように設定すると,置換の符号だとか,Gauss の補題だとか,transfer などが同時に扱えるの も明らかであろう.“行列表示” (1.3) 自体は,群準同型を与える (どこへ?) わけだが,さらにその対 角要素の積を考えると,γ の “行列式のような”ものとして,群 Γ から G (自体じゃないかもしれな いが) への準同型をあたえるだろう,と極めて大雑把ながら,思いつくのである. この発想は,まず,G が可換のとき正しいことはすぐ判る.実際,対角行列の成分の積 g1· · · gn は,代表系 x を並べる順序にもよらず,かつまた,代表系を取り替えた時にも (1.6) から,積の値は 変わらないことがすぐ看て取れる.より一般に G が非可換であっても,そのアーベル化 Gab にまで 落とせば群準同型として意味をもつことは同様に判る.ここで群 G のアーベル化 Gab とは,G の商 でアーベル群となる最大のもの,つまり,具体的には (2.0) Gab = G/(G, G) で (G, G) は G の交換子群である. このようにして,上の設定から (2.1) Γ → Gab という群準同型が得られる.或いは,行き先がアーベルだから,Γ の方も,そのアーベル化を経由す るので (2.2) Γab → Gab の形にする方が実質的であるが,これがとりあえず一般的な形である.

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たとえば transfer は X 自身が群で,G がその部分群の場合である.部分群 G が右掛け算で作用 しているとき,群 X の元の左掛け算と可換なので,上の設定になっている.そのとき得られる (1.8) が群論ででてくる transfer である.上のは,集合 X を群に限定していないというだけの違いである. とは言っても,その気になれば,従来の transfer の枠組みに突っ込むことは可能である. しかし,もちろんのこと,X を群に限定しないことで,見方がとらわれずに,より多くの状況が自 然にカバーできる利点が生まれる.以下,いくつか例を挙げよう. (1)  置換の符号:E を有限集合,SE をその上の対称群として,大学初年度に線型代数で必ず習 う置換 σ ∈ SE の符号 (行列式の定義で必須) をどう定めるか.我々の立場では次のようになる.ま ず,X としては E の二つの直積から対角部分を除いたものをとり,G は二つの成分を入れ替えると いう位数 2 の群を考える.つまり (2.3) X = E× E \ ∆E = {(a, b) ∈ E × E ; a $= b }

で群 G は (a, b) %→ (b, a) で生成されるもの:G & {±1} & Z/2Z.この作用で固定点の対角を除い ているので,作用は自由になっている.この X に置換 σ ∈ SE は σ(a, b) = (σ(a), σ(b)) と働き, 成分の入れ替えとは可換である.そこで Γ = SE として上の処方 (1.7) に従って得られる群準同型 Γ → G = Gab を考えると,それが置換の符号になっている. 実際,先ほどの読者の便宜のため (?) と同様 E の元に数字を割り当てると,E に「順序」が導入 されるわけだが,それを用いると X/G の代表系として {(a, b) ; a < b } が取れる.このとき符号は置換の転倒数によって定義されるものになる (互換の箇数の偶奇によるの ではない).一般に,順序の導入によって対称性がくずれるわけだが,それが代表系をとるのに利用さ れる. (2)   Legendre-Jacobi 記号:n を奇数として X =Z/nZ \ {0} とする.つまり,法 n の剰余類で 0 を除いたものである (可逆なものをとったのではないことに注意).ここに G として {±1} という掛 け算の群をとる.n が奇数なので,Z/nZ に於いて 2 は可逆であり,固定点は 0 のみである.それを 除いているので,群 G の作用は自由となる. ここで Γ としてはZ/nZ の乗法群,つまり可逆な元全体 (Z/nZ)× をとる.群 G 自体この部分群 であるし,乗法群自体が可換であるから,作用はもちろん可換.この状況のもとでの a ∈ (Z/nZ)× の符号が Jacobi 記号に他ならない.但し「他ならない」の部分としては,形式的な Legendre 記号の 積としての Jacobi 記号との同定をしなくてはならないので,その分の証明は要る.もちろん,その 中には n が奇素数の時に「符号」が平方剰余記号であることを言わなくてはならないが,それこそが Gauss の補題である. (3)  冪剰余記号:これは基礎の体が 1 の原始 m 乗根を含んでおり (有理数体上なら Kummer 拡 大が典型),G はこの 1 の m 乗根のなす乗法群をとる.イデアルにちょっとした条件をつけるが,

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Legendre-Jacobi 記号の時の n が奇数というのと同じ程度のもの),整数環をイデアルで割った加群か ら唯一の固定点である {0} を除いて X とする.そうしてできるのが m 乗剰余記号である. (4)  有限体を成分にもつ行列の行列式:有限集合のみを扱っているので有限体に限定せざるを得 ないが,F を有限体として,V を F 上の有限次元ベクトル空間とする.乗法群 F× は唯一の固定点 であるゼロベクトルを除いた V \ {0} に自由に働く.一般線型群 GL(V ) はもちろん F× と可換であ る.この G =F×,Γ = GL(V ) とした場合の準同型 GL(V ) → F× は行列式に一致する. (5)  有限体上の多項式の終結式:有限体F 上の多項式環 F[T ] を考える.多項式 f(T ) が 0 でな ければ,商 M =F[T ]/(f(T )) は有限である.ここには乗法群 F× が働くが,唯一の固定点 0 を除く と,作用は自由である (上の (4) の特別な場合である).多項式 g(T ) が f(T ) と互いに素のとき,掛け 算は可逆,つまり (F[T ]/(f(T )))× に属する.この Γ = (F[T ]/(f(T )))×,G =F× の場合,g(T ) の 「符号」の値 (行列式 !) は f(T ) と g(T ) の終結式となる. これらの例は 1996 年 (と 2000 年) の京大の展望講義で,講義の本論,或いは練習問題として扱っ た. 難しくはないが,丁寧な説明には,少し時間が要る. 3: 誘導表現の一般化 (1) すでに見たように行列表示 (1.3) は,誘導表現のモトそのものである.実際,G の表現 (Vρ, ρ) が あれば,(1.3) の右辺の gi をそれで写した ρ(gi) に置き換えれば誘導表現ができる.しかしまた,誘 導表現は代表系に依存せず,より内在的な方法で定義される:X の元の形式的な線型結合 CX には 左から Γ ,右から G が働くベクトル空間であるから,通常の誘導表現と全く同様に (3.0) IndΓG ρ = CX ⊗ CGVρ を Γ 加群 (つまり Γ の表現) とすればよい11.テンソル版の誘導などを含むものを内在的に定義する には,このCX のようなものを作らなければならない. その第一のヒントは,上に述べた「符号の一般化」を内在的に定義する仕方にある.ポイントは二 つある.まず第一に X は G が自由に働く空間であったが,そのため代表系をとるという段階を経な ければならない.そこで「代表系全体」を最初から定式化に組み込んで,さらに群をより大きなもの で置き換えて,その群が単純推移的に働くものを考えてやると,記述が簡潔になるだろうというので ある.第二のポイントはこの群である. 代表系というのは通常,商 π : X → [X] の断面 (section),つまり s : [X] → X で π◦s = id[X] と なるものだが,我々の扱っているものでは並べ方の順序も問題になる.そこで,置換も考慮して「完 全代表系 (complete set of representatives)」とは r : [X] → X で π◦r∈ S[X] と土台の集合の置換を

引き起こすものと捉える.その全体を RX と書くと,ここには輪状積 (wreath product),つまり半直

11先ほどにも注意したが,形式上.一般化されたように見えるtransfer も見方によっては従来のtransfer そのもととし て捉えられる.同様に,誘導表現も,従来の枠組みに書き直せる.それについては,後で触れる.

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積群 G[X] = G[X]! S[X],が単純推移的 (=自由かつ推移的) に働く.但し,G[X] は直積群 (つまり [X] から G への写像全体で,積は成分ごとに考える) であり,S[X] は [X] 上の置換全体 (対称群) で ある.この半直積群は,実はすでに表現行列 (1.3) の中に現れている.その作用をもう少しきちんと 見ると,g = (gξ)ξ∈[X]∈ G[X] と σ ∈ S[X] に対して, (3.1) (rg)(ξ) = r(ξ) gξ, (rσ)(ξ) = r(σξ) という作用があり,交換関係は, (3.2) rgσ = rσgσ となっている.つまり,半直積群 G[X]= G[X]! S[X] が交換関係 (3.3) σ−1gσ = gσ という (1.5) と同じ関係で定義されるとして,それが RX に右から作用しているということである. 作用が単純推移的であることも見易い. また,G の作用と可換な Γ については (3.4) (γr)(ξ) = γ r(ξ) と働き,G[X]= G[X]! S[X] の作用と可換である. ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 主等質空間での二点の比 さて,ここで少し脇に寄って,一般論を述べ,記号を導入する.群G が集合 X に (右から) 単純推移 的に作用しているとする.二点 x, x" ∈ X に対して,定義より,ただ一つ g ∈ G が存在して x"= xg となる.このようにして決まる群G の元を記号 g = x−1x" で表わすことにする.もし,Γ が (左か ら)X に働き,群 G の作用と可換ならば,1-cocycle Γ( γ %−→ x−1γ x∈ G は群準同型を与える. ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! この記号の下,r ∈ RX に対して (3.5) Γ ( γ %−→ r−1γr∈ G[X]= G[X]! S[X]

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と定義する.記号 r−1γ r は,群の元ではない r∈ R X ではあるが,それによる共軛に見える.記号が 好ましいだけでなく,実際,ちゃんと群準同型になっている.輪状積に持ち上げたご利益である.但 し,基準となる代表系 r の取り方には依存する.取り方を変えると G[X] = G[X]! S[X] の中での共 軛にうつる.それが G[X] の部分にもたらす効果は,直積成分の入れ替えと,同じ G の元での共軛と なる.だから,代表系の取り方によらないものを取り出す仕方は G[X]= G[X]! S[X] から Gab への 移行以外にもいろいろあり得る.表現のトレースはその例である. このように代表元をとって考えるのが実践的だが,内在的な定義がないと心許ない.以下,その定 式化に話をすすめる. 先に注意しておくべきだが,この枠組みを使えば (吉田 (1994) 流の) テンソル積版の誘導も内在的 に定義できる.つまり,加群としては代表元の全体から線型結合CRX を作ると,G[X]= G[X]!S [X] が右から,Γ が左から働くものが得られるので,それを用いて,群 G の表現 (Vρ, ρ) に対し, (3.6) ( IndΓG ρ =CRX ⊗ CG[X] Vρ⊗[X] として Γ 加群が得られる.これがテンソル積版の誘導である. もし,ここで特に Vρ が 1 次元表現 χ なら,χ ∈ Gab∧ と思えるが,テンソル積版の誘導からでき る Γ の表現とは,Γ の 1 次元表現,つまり Γab の Pontrjagin dual の元となっている.それは移送 に χ を合成して得られているわけである: (3.7) Γab∧ ←− Gab∧. 注意:  (1) 断面だけで「移送」の一般化を,主等質空間の場合に帰着させることもできないわけ ではない.しかし,この場合は左右二つの作用が可換でなくなる.だから 1-cocycle はそのままでは 準同型にはならない.これは次の注意とも関係する. (2) 輪状積 (wreath product) が現れる必然性も或る意味で説明可能である.それは X の置換全体 SX の中で,G の右作用 (それを通じて SX の部分群と看做されるが) と可換なもの (centralizer) は G[X]! S [X]に同型な群 (定義の仕方をはっきりさせれば,逆同型) となることが背景にある.同型 (ま たは逆同型) の記述は,軌道の基点,つまり上で完全代表系と言っていたものに依存する.細かいこ とを無視して大雑把に言えば,この事実から Γ が G の作用と可換なら GX への準同型が生じること になるわけである. ちなみに,より普通の練習問題として,群 G の部分群 H に対し,G 上の置換全体 SG の中で,H による右移動と可換なもの全体を求めると,そこに wreath product が現れる.応用として,群のカ テゴリーで epimorphism が全射であることを導くことができる. ともかく,この観察によって,移送や誘導表現の一般化 ((2.2), (3.0)) をしたつもりでも,実は,設 定を変えれば,別の群のなかでの移送や誘導だと言えなくもない.その視点は,事情をはっきりさせる のに役立つ.但し,何度も言うが,群にこだわらない方が,自然な記述ができる場合も多いのである.

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4: 一般的設定 (2) — テンソル空間の分解 — テンソル積版の誘導も含めて,少しは一般化できたので,それでいいのかというと,普通の誘導と テンソル積版の二つのみが特別だという理由などもちろん見えないし,当然それらを含んだ一般化は 誰しも思いつくところである. そもそもテンソル積版の誘導に用いたCRX という加群は移送の定式化に現れたものを流用したわ けだが,それと普通の (加法的な) 誘導に用いるCX という加群の関係は何だろうか.この CRX は CX のテンソル積の一部であるので,全体から必要な部分を切り出すことをしなくてはならない.交 代テンソルのような感じではあるが,そのものではない. この「切り出し方」をできるだけ自然にしたい.難問ではないし,思いつけば当たり前の方法に よってできる.つまり,各 G 軌道にラベルを貼ればよい.ラベルはテンソル積と整合的にするのがよ いから,可換群を一つとって,その指標,つまり固有値をラベルという方法がある.それは別の方向 に一般化するのに役立つかもしれない (例えば量子群版).しかし,最も安直に,ラベルを単に手で入 れるだけでもよい. やりたいことは,X の元から形式的に張られたベクトル空間CX のいくつか (k 箇) のテンソル積 (4.1) Tk(CX) & CXk の (4.2) w = x1⊗ x2⊗ · · · ⊗ xk (xi∈ X) という形の元に,軌道に応じた次数をつけることである.そのために ξ ∈ [X] と x ∈ X に対し,そ の incidence を示す記号 (4.3) + ξ, x , = )1 x ∈ ξ, 0 x /∈ ξ を導入し,ξ ∈ [X] に対し, (4.4) degξ(x1⊗ x2⊗ · · · ⊗ xk) = k ' i=1 + ξ, xi, とする.上で言ったような群を使わなくても,その無限小版として,x ∈ X に応じた「偏微分」を形 式的に定義して Euler operator (次数作用素) (4.5) ϑξ = ξ ∂ ∂ξ = ' x∈ξ x ∂ ∂x を導入すれば,その固有値として degξ が出る.その方が恰好がいいし,少しは御利益がある.微分な どの記号を敢えて出さずに,ϑξ を CX 上の線型変換,つまり EndC(CX) & CX ⊗ (CX)∗ の元と看

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做し,それをテンソル空間 T (CX) に作用させる際には derivation として延長する (物理で言う「第 二量子化」) というのが,より厳密だろう. テンソル空間 Tk(CX) には自然な群作用が考えられる.直積群 Gk は各テンソル成分に,また, k 次対称群 Sk はテンソル成分の入れ替えで働く.つまり,上の (4.2) の w ∈ Tk(CX) に対し, h = (hi)ki=1 ∈ Gk は (4.w) w h = x1h1⊗ x2h2⊗ · · · ⊗ xkhk として,τ ∈ Sk は (4.7) w τ = xτ (1)⊗ xτ (2)⊗ · · · ⊗ xτ (k) と (右から) 作用する.これらは (3.1) と同じであり,作用の交換関係は同様に (4.8) w hτ = w τ hτ; (hτ)i= hτ (i). 二つの作用を併せれば,wreath product Gk = Gk! Sk が右から働くことになる.また,X 上 G の 作用と可換な Γ はやはり対角的に (4.9) γw = γx1⊗ γx2⊗ · · · ⊗ γxk (γ ∈ Γ ) と左から働く.この作用は Gk = Gk! Sk の右作用と可換である. 一方,これらの群作用と次数作用素 ϑξ の交換関係は (4.10) ϑξ(w hτ ) = ϑξ(w), ϑξ(γw) = ϑγ−1ξ(w) (h∈ Gk, τ ∈ Sk, γ ∈ Γ ) である. さて,この次数作用素 ϑξ を用いて,固有空間を切り出す.固有値とは,各軌道の次数を並べた α = (αξ)ξ∈[X]∈ Z[X] である.各次数の総和 |α| =* αξ がテンソルの階数と等しい.ここで (4.11) Tα(CX) =+w ∈ T|α|(CX) ; (ϑξ− αξ)w = 0 (ξ∈ [X]) , と置く.群作用との関係 (4.10) から Tα(CX) は輪状積群 G |α| の作用で閉じているが,Γ の作用では (4.12) γ Tα(CX) = Tγα(CX) (γ ∈ Γ ) と移る.但し,α = (αξ)ξ∈[X]∈ Z[X] に対し (4.13) (σα)ξ = ασ−1ξ (σ∈ S[X]) と S[X] の作用を記した.

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5: 誘導表現の一般化 (2) 前節の準備の下,誘導表現の基礎となる 左 Γ -右 Gk = Gk! Sk-加群を作る.固有空間 Tα(CX) は G|α| で閉じているが,Γ では固有値の入れ替えが起こるから,その分を考えて,一般に S[X] の 作用で閉じた k 次斉次なZ[X] の部分集合 S に対し, (5.1) IS = -α∈S Tα(CX) と置けば,左 Γ 右 Gk 加群となり,G の表現 (Vρ, ρ) から誘導された (5.2) S·IndΓG ρ = IS ⊗ CGk Vρ⊗k という Γ (左) 加群が得られる.これが,普通の誘導とテンソル積版の誘導を含む概念であるのはほ ぼ明らかであるが,実際にどのようなものが出てきているのかは,まだよく判らない. 上でとった対称群不変な固有値の集合 S については,S[X] 軌道に分かれ,対応する IS も直和に 分解するから,実際は軌道の場合のみを考えればよい.軌道の代表は分割 (5.3) λ = (λ1, λ2,· · · , λn); λ1 ≥ λ2≥ · · · ≥ λn ≥ 0 である.但し k = |λ| = λ1+· · · + λn で n = -[X] とした.この場合 Sλ = S[X]λ として (5.4) λ·IndΓG ρ = Sλ·IndΓG ρ と置いてみると,(1)·Ind が普通の誘導で,(1n)·Ind がテンソル積版の誘導となる.これらは対称式の

世界で言えば単項式の軌道に対応する monomial symmetric polynomial になっていて,基本対称式 はその特別なものである.より高次の部分が使えるかどうかは別として,少なくとも (1) と (1n) の 間の対称式に対応する誘導には何かしらの使い途はありそうに思える.群行列式の話にも,そのよう な一般化があるようなので関係があるのかもしれない12.しかし,どんな意味があるのかなどは全く 未知の世界である. このように一旦定式化されると連想されることはいくらもある.誘導する表現も同じ Vρ のテンソ ル積でないものを考えることや Γ の方をもっと拡大することなどを禁じる理由はなさそうである (も ちろんそのためには,それなりの変更を施す必要がある).特に,G でなくて wreath product の表現 を積極的に扱うことにすれば,誘導とはそれの Γ への「制限」という形に大雑把には捉えられる (3 節の注意 (2)) が,普通の誘導の場合ですら,そのような見方が有効だという話は余り聞かない.とも かく,どれが有望でどれが有望でないかなどの検証は,何分にも日が浅いので,まだ充分篩にかける ことができず,何とも言えないのが現状である.しかし,他の研究に (例えば伊藤代数) にもつながり そうな要素もあるので今回発表することにしたのである.

参照

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