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偏微分方程式を用いたコールオプション価格の導出

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東邦大学理学部情報科学科

2015年度 卒業論文

偏微分方程式を用いた

コールオプション価格の導出

指導教員:白柳 潔

提出日:2016年1月29日

提出者:5511101 矢野 陽介

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要旨

偏微分方程式を用いたコールオプション価格の導出 5511101 矢野 陽介 満期がT、行使価格が K のコールオプションとは、満期日 T において、あらかじめ決め られた価格K で原資産を購入できる権利のことである。そのコールオプション価格を求め る方法として、2項ツリーモデルを使った方法、偏微分方程式を使った方法、条件付き期 待値を使った方法などがある。 本研究では、偏微分方程式を使った方法でコールオプション価格の導出を行う。その中 で登場する重要な性質と定理を述べる。伊藤の公式から導き出すことのできる「幾何ブラ ウン運動」は、株価や為替レートの変動を確率微分方程式によりモデル化するために使わ れるので、非常に重要である。また、確率微分方程式と偏微分方程式との対応を示す「フ ァイマン・カッツの定理」もコールオプション価格の導出に使う。その過程において、こ の定理の仕組みや幾何ブラウン運動の有用性についても考察する。

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目次

一章 序論

二章 ブラック・ショールズの評価公式について

三章 ファイナンスの数学的理論

四章 考察

五章 今後の目標

謝辞、参考文献

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一章 序論

コールオプション価格とは、満期が T、行使価格が K のコールオプションとは、満 期日T において、あらかじめ決められた価格 K で原資産を購入できる権利のことであ る。本研究では、偏微分方程式を使った方法でコールオプション価格の導出を行う。それ までの過程で様々な性質や定理が登場するが、その中でも印象に残ったものは「幾何ブ ラウン運動」と「ファイマン・カッツの定理」である。 「幾何ブラウン運動」は、伊藤の公式(二章のファイナンスの数学的理論にて解説す る)により導出され、株価や為替レートの変動を確率微分方程式によりモデル化するた めに使われる。これは、コールオプション価格の導出やブラック・ショールズモデルで も登場する。 (例題) dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dB(t)を解く。 f(x)=log 𝑥とする。 𝑓′(x)=1 𝑥, 𝑓′′(x)=- 1 𝑥2 ここで、伊藤の公式を適用する。 df(S(t))=df(logS(t)) =f′(S(t))dS(t)+1 f′′(S(t))(S(t))2 =1 𝑆(𝑡)dS(t)+ 1 2σ 2S(t)( −1 𝑆(𝑡)2)(dB(t))2 =1 𝑆(𝑡)(μS(t)dt+σS(t)dB(t))- 1 2σ 2dt =μdt-1σ2dt+σdB(t) 両辺を確率積分する。 ∫ dlogS(𝑢)0𝑡 =∫ (μ-0𝑡 12𝜎2)dt+∫ 𝜎𝑡 0 dB(t) logS(t)=logS(0)+( μ-12σ2)t+σB(t) S(t)=S(0)・exp((μ-12σ2)t+σB(t)) を得る。S(t)を幾何ブラウン運動という。

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4 「ファイマン・カッツの定理」は、確率微分方程式と偏微分方程式の対応を示す定理 である。ここでは、定理のみ述べておく。 確率微分方程式と偏微分方程式との対応をしめすものとして、ファイマン・カッツの 定理がよく知られている。公式の形は、種々の偏微分方程式に対して微妙に異なるが、 ここでは、確率微分方程式に対応する形で定理のみ述べる。 F(t,x)(0≤t≤T,x∈ ℝ)を、次の偏微分方程式の、満期問題の解とする。 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)+μ(t, x) 𝜕𝐹 𝜕𝑥(t,x) +12σ(𝑡, 𝑥)2 𝜕2𝐹 𝜕𝑥2(t,x)-rF(t,x)=0 F(T,x)=u(x), ただし、μ(t, x),σ(t,x) (0≤t≤T,x∈ ℝ),および u(x)(x∈ ℝ)は、それぞれ実数値連続関数、ま たt(≥0)は定数とする。方程式は、t=T での満期条件であることに注意。 このとき F(t,x)=𝑒−𝑡(𝑇−𝑡)E[u(X(T))]と表される。ここで X(s)(t≤s≤T)は、次の確 率微分方程式の初期値問題を満たす。 dX(s)=μ(s, X(s))ds + σ(s,X(s))dW(s), X(t)=x. 本研究の一つ目の目標は、コールオプション価格を「偏微分方程式を使った方法」で 求めることである。 二つ目の目標は、伊藤の公式から導き出すことのできる「幾何ブラウン運動」は、株 価や為替レートの変動を確率微分方程式によりによりモデル化するために使われる。こ れは、コールオプション価格を求める中で登場する。この性質の有用性について考察す ることである。 三つ目の目標は、確率微分方程式を偏微分方程式との対応を示す「ファイマン・カッ ツの定理」の仕組みについて、ディンキンの公式と生成作用素を用いて考察することで ある。

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二章 ブラック・ショールズの評価公式について

(1),ブラック・ショールズモデル(参考文献(1)より) 金融の世界での価格変動モデルとして、最も著名なのが、いわゆるブラック・ショール ズモデルである。ブラック・ショールズモデルは、株式の価格 S=S(t)と債券の価格 B=B(t)の組(S,B)からなる市場モデルであり、S(t)と B(t)は、それぞれ次のような確率微 分方程式(二章のファイナンスの数学的理論にて解説する)を満たすとする。まず、株価 S(t)は dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dW(t) (1) に従うとする。ここで、μはドリフト係数と呼ばれ、短期での株価変化の動向を表す。 また、ボラティリティσは、株価変動の激しさを表す。W(t)は標準ブラウン運動(二章の ファイナンスの数学的理論にて解説する)である。短期的な傾向μS(t)dt を中心にして σS(t)dW(t)の変動を組み合わせたモデルとなっている。 また、債券価格B(t)は dB(t)=rB(t)dt (2) に従うとする。ここで、r(>0)は短期では変化しない。すなわち、リスクのない金利を 表す。この無リスク金利r は、以下では簡単のため定数と仮定するので、債券価格 B(t) に対する方程式(2)は、通常の確定的な常微分方程式である。 方程式(1),(2)は解くことができる。初期条件は、S(0)=𝑆0,B(0)=𝐵0である。 まず、方程式(1)を解く。 dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dW(t) f(x)=log 𝑥とする。 𝑓′(x)=1 𝑥, 𝑓′′(x)=- 1 𝑥2 ここで、3の①の(2)の伊藤の公式を適用する。 df(S(t))=df(logS(t)) =f′(S(t))dS(t)+1 f′′(S(t))(S(t))2 =1 𝑆(𝑡)dS(t)+ 1 2σ 2S(t)( −1 𝑆(𝑡)2)(dW(t))2 =1 𝑆(𝑡)(μS(t)dt+σS(t)dW(t))- 1 2σ 2dt =μdt-1σ2dt+σdW(t)

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6 両辺を確率積分する。 ∫ dlogS(𝑢)0𝑡 =∫ (μ-0𝑡 12𝜎2)dt+∫ 𝜎𝑡 0 dW(t) logS(t)=logS(0)+( μ-12σ2)t+σW(t) S(t)=S(0)・exp((μ-12σ2)t+σW(t)) =𝑆0・exp((μ-12σ2)t+σW(t)) 次に、方程式(2)を解く。 dB(t)=rB(t)dt 𝑑𝐵(𝑡) 𝑑𝑡 =rB(t) 𝑑𝐵(𝑡) 𝑑𝑡 =rdt ∫0𝑡𝑑𝐵(𝑡)𝑑𝑡 =∫ 𝑟𝑑𝑡0𝑡 log 𝐵(𝑡)-log 𝐵(0)=∫ 𝑟𝑑𝑡0𝑡 log 𝐵(𝑡)=log 𝐵(0)+rt B(t)= 𝐵0𝑒𝑟𝑡 となる。 (2),条件付請求権(参考文献(2)より) 一般に、オプション契約のように、満期日 T での支払価格が株価や為替に依存した 金融派生商品を条件付請求権という。ここでは、条件付請求権は、原資産S(t)の関数と して F=F(t,S(t)) (o≤t≤T) のように表されるとする。 もし、S=S(t)がブラック・ショールズモデル(1)に従い不確実に変動するならば、伊藤の 公式によりF の変動は dF(t,S(t))=𝜕𝐹𝜕𝑡dt+𝜕𝐹𝜕𝑆dS(t)+12𝜕𝜕𝑆2𝐹2(𝑑𝑆(𝑡))2 =(𝜕𝐹𝜕𝑡+μS𝜕𝐹𝜕𝑆+12𝜎2𝑆2 𝜕2𝐹 𝜕𝑆2)dt+σS 𝜕𝐹 𝜕𝑆dW(t) (3) となる。

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7 (3),オプション(参考文献(1)より) 満期がT、行使価格が K のコールオプションとは、満期日 T において、あらかじめ決 められた価格K で原資産を購入できる権利のことである。「このようなデリバティブ取 引の現時点での価格C を求めよ」が金融工学の中心的な内容である。 もし原資産価格𝑆𝑇が K 以下であれば、コールオプションの保有者はこの権利を公使 しないであろう。逆に、もし𝑆𝑇が K 以上になっていれば権利行使するであろう。なぜ なら、権利行使後に(即ち K で原資産を購入後に)手元にある原資産を市場価格𝑆𝑇で売却 すれば、結局、コールオプションの保有者は𝑆𝑇-K の利益を手にすることができるから である。以上の2パターンをまとめると、満期時点 T で、コールオプション保有者が 手にする金額は (𝑆𝑇− 𝐾)+≝Max(𝑆𝑇-K,0) である。この関数のことをコールオプションのペイオフ関数と呼ぶ。現時点で支払うオ プション量C を差し引けば、正味の利益だけを見ることができ、上のペイオフ案数は C だけ下方向に平行移動する。 満期がT、行使価格が K のプットオプションとは、満期日 T において、あらかじめ 決められた価格K で原資産を売却できる権利のことである。 もし原資産価格𝑆𝑇が K 以上であれば、プットオプションの保有者はこの権利を公使 しないであろう。逆に、もし𝑆𝑇が K 以下になっていれば権利行使するであろう。なぜ なら、原資産を市場価格𝑆𝑇で購入した後、権利行使して K で原資産を売却すれば、結 局、プットオプションの保有者は𝐾 − 𝑆𝑇の利益を手にすることができるからである。以 上の2パターンをまとめると、満期時点 T で、プットオプション保有者が手にする金 額は (𝐾 − 𝑆𝑇)+≝Max(K-𝑆𝑇0) である。 (4),無裁定価格理論(参考文献(2)より) リスクなしに利益が得られる状態を裁定状態という。金融市場において、もしも情報 が瞬時に伝わり、売買が自由に無制限に行われるならば、即ち市場が完備ならば、この ような裁定状態はたちどころに解消されると考える。よって、そのような理想的な市場 では裁定状態は有り得ないと要請する。これを、無裁定の原理などと呼ぶ。金融商品の 価格付けに極めて有効な考え方である。 ①ポートフォリオ 資産を、他の資産の組み合わせにより分割して投資することを考える。例えば、債券

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8 B(t)と株式 S(t)の時刻 t における保有量をそれぞれ(φ(t),ψ(t))とし X(t)=φ(t)B(t)+ψ(t)S(t) とおく。このとき、組(φ(t),ψ(t))(0≤t≤T)をポートフォリオと呼び、X(t)を富の仮定、 あるいはポートフォリオの価値という。 ポートフォリオ(φ(t),ψ(t))は、関係式 dX(t)=φ(t)dB(t)+ψ(t)dS(t) を満たすとき、資金自己充足的などという。即ち、X(t)の変動 dX(t)は、資金を外部から調 達したりすることなく、債券B(t)と株式 S(t)の変動によって達成されるとするのである。 ②無裁定の原理 無裁定の原理は、いくぶん空想的なものである。実際たとえば、外貨両替において二つ の両替商が異なる値を提示していたとしよう。手数料なしに両替が出来るとすれば、安い 方で購入し高い方で売却すればリスクなしに利益が得られ、そのため為替レートはひとつ に決まる。しかし現実には、売値と買値の差(ビッドアスクスプレッド)があり、また、取引 手数料も必要なので、このようなさや取りは成功しない。無裁定の原理は、あくまで理想 的な原理である。 数学としては、裁定状態を次のように定める。ポートフォリオの価値 X=X(t)において、 ポートフォリオ(φ(t),ψ(t))が裁定機会を持つとは X(0)≤0, P(X(T)≥0)=1, かつ P(X(T)>0)>0 となるときをいう。すなわち、現時点t=0 では無資産であるが、満期 t=T ではリスク なしに正の利益を得るような状態である。他にも同様な定義が知られているが、ここで は上の定義を採用しておく。そうして、このような裁定状態は発生しないと要請する。 (命題) ポートフォリオの価値X(t)が、ある k(t)(>0)にたいして dX(t)=k(t)X(t)dt を満たすとする。このとき、k(t)=R である。ただし、r は無リスク金利を表す。 [考え方] もし k>r であるとすれば、現時点で債券を利率 r で空売りし、その資産を直 ちにX(t)に投資する。満期で精算すれば、リスクなしに利率の差(k-r)に相当する利益 が得られ、無裁定の原理と矛盾する。K<r の場合も同様に矛盾が導かれ、よって k=r である。 (5),ブラック・ショールズ偏微分方程式(参考文献(2)より) 債券B(t)=𝑒𝑟𝑡と株式S(t)はブラック・ショールズモデルに従うとする。ヨーロッパ型 コールオプションの価値C(t,S(t))(0≤t≤T)を、ポートフォリオの価値と考え、資金自己

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9 充足的なポートフォリオ(φ(t),ψ(t))により C(t,S(t))=φ(t)B(t)+ψ(t)S(t) (0≦t≦T) (4) と表されるとする。満期日での条件より C(T,S(T))=max{S(T)-K,0} である。ただし、K は行使価格とする。 さて、C(t,S(t))の変動 dC(t,S(t))を2通りに計算する。まず、ポートフォリオ(φ(t), ψ(t))は資金自己充足的であることから dC(t,S(t))=φ(t)B(t)+ψS(t) =(rφ(t) 𝑒𝑟𝑡ψS(t))dt+σψS(t)dW(t) である。次に、式(3)より、 dC(t,S(t))=(𝜕𝐶𝜕𝑡+μS(t)𝜕𝐶𝜕𝑆+12𝜎2𝑆(𝑡)2 𝜕2𝐶 𝜕𝑆2)dt+σS(t) 𝜕𝐶 𝜕𝑆dW(t) である。両者は一致するので、dW(t)の係数比較により ψS(t)=𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)) がわかる。これと(1)から、B(t)= 𝑒𝑟𝑡なので φ(t)=𝑒−𝑟𝑡(C(t,S(t)-S(t)𝜕𝐶 𝜕𝑆(t,S(t))) である。よって、dC において dt の係数比較により 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S(t))+μS(t) 𝜕𝐶 𝜕𝑆(t,S(t))+ 1 2𝜎 2𝑆(𝑡)2 𝜕2𝐶 𝜕𝑆2(t,S(t)) =r(C(t,S(t))-S(t)𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)))+μS(t) 𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)) すなわち 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S)+ 1 2𝜎2𝑆2 𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S)-rC(t,S)=0 を得る。まとめると、次の定理を得る。 満期日T,行使価格 K のヨーロッパ型コールオプション C(t,S(t))は、偏微分方程式 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S)+ 1 2𝜎2𝑆2 𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S)-rC(t,S)=0 (0≤t≤T,S>0) C(t,S)=max{S-K,0} を満たす。 (6),ブラックショールズの評価公式(参考文献(2)より) ブラック。ショールズ偏微分方程式を解いて、C(t,S)の評価公式を導く。ファイ

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10 マン・カッツの定理を用いると、 C(t,S)=e−r(T−t)E[max{X(T)-K,0}]・・・① と与えられることがわかる。ただし、確率過程X=X(S)(t≤s≤T)は dX(s)=rX(s)ds+σX(s)dW(s),X(t)=S・・・② を満たす。式②は、幾何ブラウン運動と同様に解くことができて X(s)=Sexp[(r-12σ2)(s-t)+σ(W(s)-W(t))] である。よって、W(s)-W(t)~W(s-t)~√𝑠 − 𝑡W(1)~√𝑠 − 𝑡N(0,1)(N(0,1)は標 準正規分布)に注意すると C(t,S)=e−r(T−t) √2𝜋 ∫ max {X(T) − K, 0} ∞ −∞ 𝑒 −𝑥22dx =e−r(T−t) √2𝜋 ∫ max {S𝑒 (r-1 2σ 2)(T-t)+√𝑇−𝑡𝑥 , 0} ∞ −∞ 𝑒− 𝑥2 2dx である。ここで、 𝑑2= log𝐾𝑆+(𝑟−12𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 とおくと、被積分関数が0以上となるX(T)≥K であるのは、x≥ 𝑑2 であるときなので、 C(t,S)=Se−r(T−t) √2𝜋 ∫ 𝑒 (r-1 2σ 2)(T-t)+√𝑇−𝑡𝑥 ∞ −𝑑2 dx-Ke −r(T−t)Φ(𝑑 2) となる。ただし、 Φ(d)=1 √2𝜋∫ 𝑒 −𝑥22 ∞ −d dx= 1 √2𝜋∫ 𝑒 −𝑥22 𝑑 −∞ dx は、標準正規分布の分布関数である。 C(t,S)の第1項の積分を計算する。 -𝑥2 2+σ√𝑇 − 𝑡x=- (𝑥−𝜎√𝑇−𝑡) 2 + 1 2𝜎2(T-t) と変形すれば Se−r(T−t) √2𝜋 ∫ 𝑒 -𝑥2 2+σ√T−tx ∞ −𝑑2 dx = S √2𝜋∫ 𝑒−12(𝑥−𝜎√𝑇−𝑡)2 ∞ −𝑑2 dx=SΦ(𝑑1) ただし 𝑑1=𝑑2+σ√𝑇 − 𝑡=log 𝑆 𝐾+(𝑟+ 1 2𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 である。以上をまとめると次の定理を得る。

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11 満期T(単位:年)、権利行使価格 K のコールオプションの現時点での価格は C(t)=𝑆0∙Φ(𝑑1)-K∙ 𝑒−𝑟(𝑇−𝑡)∙Φ(𝑑2) ただし、 𝑑1=log𝑆0𝑘+(𝑟+ 1 2𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 𝑑2=log𝑆0𝑘+(𝑟− 1 2𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 =𝑑1− σ√𝑇 − 𝑡 であり、 Φ(d)=∫−∞𝑑 √2𝜋1 𝑒−12𝑥2dx は標準正規分布の累積分布関数を表す。

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三章 ファイナンスの数学的理論

(1)、ファイナンス数学の基礎事項(参考文献(1)より) 金利 企業が必要な資金を調達する最も一般的な方法は、銀行からの借入である。借り入れ た資金の返済にあたっては、その返済総額は借入元本を上回る。この差額が利息であり、 利息額を決定するのが金利または利子率である。金利の計算方法には、単利と複利の二 種類がある。 現時点で𝑉0を借り入れ、単位期間後に𝑉1を返済するとき、 r=𝑉1−𝑉0 𝑉0 を単位期間あたりの利子率と呼ぶ。即ち、 𝑉1=(1+r) 𝑉0 が成り立つ。 ・単利 単利による金利計算では、利子率r での T 期間後の元利合計金額を 𝑉𝑇=(1+rT) 𝑉0 により定める。 元金に対してのみ、借入期間に比例した利息𝑉𝑇- 𝑉0=rT𝑉0を生じる。 ・複利 複利による金利計算では、利子率r での T 期間後の元利合計金額を 𝑉𝑇=(1 + 𝑟𝑇)𝑇𝑉 0 により定める。 借入期間中に生じる利息を元金と合算し、その元利合計金額を新たな元金とみなして利 息計算を繰り返すのが複利である。 現時点で元金を単位期間あたりの利子率r で借り入れ、期間 1/n 経過する毎に元利合計 金額を福利で計算すると、返済総額は元金に対して、 (1 +𝑛𝑟)𝑛 となる。 ここで、n→ ∞として期間 1/n を無証言にすると(離散時間から連続時間へ)、 limn→∞(1 +𝑛𝑟)𝑛=𝑒𝑟 であるから、単位期間後の元利合計金額は𝑉0𝑒𝑟となる。

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13 現在価値 定期預金のように元本と利息が保証される金融資産を安全資産という。安全資産の投 資収益率は安全利子率と呼ばれ、この安全利子率を用いて安全資産の将来の価値が現時 点ではどのくらいの価値を持つか計算することができる。 元本1単位を年あたりの安全利子率r の安全資産に投資すると、1年後には元利合計が 必ず1+r になることから、1年後の(1+r) 𝑉0は現時点で𝑉0の価値を持っていることが分 かる。 同様に、1年後の𝑉0は、現時点では 1 1+𝑟𝑉0 の価値を持っていることが分かる。(1 + 𝑟)−1をディスカウントファクターと呼ぶ。 T 年間の複利計算によるディスカウントファクターは(1 + 𝑟)−𝑇であり、期間1/n 経過す る毎に元利合計金額を複利で計算すると、 limn→∞(1 +𝑛𝑟)−𝑛𝑇=𝑒−𝑟𝑇 であるから、T 年後の価値を現在まで割引くと、その価値は𝑒−𝑟𝑇であることが分かる。 安全利子率が時間とともに変化していく場合、時刻t における元利合計金額を𝑉𝑡と書く と、 𝑉𝑡+∆𝑡=𝑉𝑡(1+𝑟𝑡∆t) であるから、常微分方程式 𝑑𝑉𝑡 𝑑𝑡=𝑉𝑡𝑟𝑡 を満たすことが分かり、これから 𝑉𝑡=𝑉0exp(∫ 𝑟0𝑡 𝑠𝑑𝑠) を得る。特に、𝑟𝑡 ≡r(定数)のとき、𝑉𝑡=𝑉0𝑒𝑟𝑡となる。 株式 株式会社は、資本の出資者を広く一般から公募し、多額の資金を調達して経済活動を 行い、そこで得られた利益の一部をその出資者へ配当する。株式とは、出資者から集め た資本金を小口に分けたもので、株主の権利を自由に譲渡できるように発行された有価 証券のことである。 株主の権利とは、 (1)株主総会における議決権 (2)利益分配請求権

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14 (3)会社解散時の残余財産分配請求権 などである。 債券 株式会社が株式発行以外の方法で資金調達する際、債券を発行することもできる。債 券を発行する主体は企業に限らず、国、地方公共団体などもある。債券において元本と 利子が償還される。 このような仕組みを時間の流れの中で捉えるため、よくキャッシュフロー図が用いられ る。 万が一、企業が倒産した場合、債券へ投資している投資家への残余財産の配分が終わっ た後に、株式へ投与している投資家へ残余財産が配分される仕組みになっている。 オプション 将来の予め決められた時点(満期)に、予め決められた価格(行使価格)で、予め決めら れた資産(原資産)を購入あるいは売却できる権利のことをオプションという。購入する 権利のことをコールオプション、売却する権利のことをプットオプションと呼ぶ。 コールオプションの買い コールオプションの売り プットオプションの買い プットオプションの売り の4パターンの取引が可能である。 注意すべき点は、オプションは「権利」であって「義務」でない点である。自分にとっ て都合の悪い市場環境の場合は権利を放棄することができる。 金融リスク 金融リスクとは、将来の不確実性を表す用語である。 ①市場リスク 株式、債券、為替、金利などの金融資産や原油、金といった商品は、価格変動のため に当初売却したときの価値とは変わっていることが多い。この価格変動により被る損失 のことを市場リスクと呼ぶ。 ②信用リスク 企業が倒産すると、当初予定していた金銭の授受が約束通りに果たされない可能性が 高まる。このような債務不履行によって被る損失のことを信用リスクという。

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15 ③流動性リスク 市場での取引量が少なくなってくると、売買したいときに直ちに実行できないことが ある。想定通りの価格で売買できなくなる不確実性を流動性リスクという。 ④オペレーショナルリスク 金融取引成立後の事務手続きを間違うことによって生じてしまう損失のことをオペ レーショナルリスクという。 「リスク」という用語は、日本で用いられるニュアンス(危ないことを示すことが多い) と、欧米諸国で用いられる場合のニュアンス(将来の不確実性を示す)が異なっている。 リスクヘッジ 金融資産の価格変動に伴う市場リスクや信用リスクを回避あるいは軽減させるため に他の複数の金融資産を組み合わせて同時に保有する方法が採られる。この行為をリス クヘッジという。 複数の金融資産の組み合わせを一言で「ポートフォリオ」と呼ぶことが多い。 リスクマネジメント 保有している金融資産の価値が、今後のある一定期間のうちに(市場環境の変化など のために)資産価格が大きく下落してしまう懸念がある。どのくらいの金額を失うかも しれないのかを数理モデルに基づき計測し、損失に備えて自己資本を準備しておく一連 の管理手法をリスクマネジメントという。1990年代に JP Morgan 銀行により考 案された計測手法が業界スタンダードになっている。 裁定 2つ以上の市場で同時に取引を行い、無リスクで確実に利益を得る投資機会を裁定機 会という。このような取引を裁定取引といい、裁定機会が存在しないとき、無裁定とい う。 オプション価格評価 株式、債券、不動産、金、原油などの「原物」への投資、あるいは資金調達について まわるリスクを多少のコストをかけても構わない代わりに、ある程度の範囲内におさま るように加工することができたらどうだろうか。必要なコストではあるが、リスク・リ ターンプロファイルを自分の効用にマッチするように変えられるのは魅力的である。こ の加工ツールがデリバティブ(金融派生商品)である。 事業会社の財務部門では、資金調達コストや収益の安定化を目標としてデリバティブ

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16 を用いた将来キャッシュフローの加工について、金融機関と相談しながら取引を行って いる。 デリバティブ(金融派生商品)とは、そのペイオフが何か他の資産や証券(これを原資産と いう)と明示的に結びついている証券である。 デリバティブの種類は、 先物 スワップ オプション などが代表的である。 原資産として、 個別株式、株式インデックス 債券、金利 外国為替 商品(金、穀物、原油など) 地震、天候(気温)、降水量、積雪量 クレジットインデックス、企業の倒産 実現ボラティリティ M&A の成功、プロジェクトの成功(失敗) などがある。(スワップという派生商品を原資産とする派生商品も派生商品である。) オプションとは、指定された条件のもとで資産を買う(あるいは売る)権利のことを言う (義務はない)。 (Ex1)通貨オプション 輸出入をしている企業が相場変動に伴う為替リスクを抑えるために、あらかじめ決めた 価格で外貨を売買できるようにしておくための契約。例えば、輸入企業が長期的にみて 円安・ドル高基調が続くと予想した場合、足元の相場より円高水準でドルを買える取引 をしておけば、ドルの調達コストは実際の相場よりも割安になる。それとは逆に予想に 反して円高が進めば、為替デリバティブの価格の分だけコストが割高になる。

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17 (Ex2)金利キャップ 銀行から変動金利で借入を行っている企業が、市場金利上昇リスクを抑えるために、あ らかじめ決めた金利水準に上限を設定しておくための契約。(キャップ期間の各期日に おいて)市場金利の水準が約定日に決めた上限金利を上回ったときに、市場金利とキャ ップレートとの差額を受け取ることが出来る代わりに、プレミアムを支払う。 無裁定価格理論 ある二つの異なる金融商品やポートフォリオが将来の決まったある時点において(金融 はまだ確定していなくても)同じ価値を持つことがあらかじめわかっているならば、そ れらの現在価値は同じでなければならない。 なぜなら、もし現在価値が異なるならば、安い方を買い、高い方を売ることで、将来の 債務と利益を互いに相殺させ、かつ、現時点でキャッシュを手にすることが可能になっ てしまうからである。 つまり、裁定取引が可能となってしまう。もし裁定取引が可能なら、それを100倍の 想定元本で行うことで、多額の利益を市場から吸い上げることができてしまう。 そのようなことは不可能であることを仮定しているのが無最低価格理論である。 無裁定価格理論では「ある金融商品またはポートフォリオの現在価値は、現在の価値が わかっているもので、将来それと同じ価値を持つ別のものと同じ」と考える。この考え に基づく価格付けの方法を無裁定価格付け法という。 (2)、ブラウン運動(参考文献(1)より) ブラウン運動は、ランダムウォークの時間を連続にしたものである。 (ⅰ)B0=0 (ⅱ)独立増分を持つ。 (ⅲ)任意の2つの時間間隔[t1、t2],[t3、t4]に対して、 Bt2-Bt1,Bt4-Bt3は独立。 (ⅳ)任意のt>0、S≧0に対して、Bt+s+Bsが平均0、分散tの正規分布に従う。 Pr(Bt+s+Bs≦b)=∫ 1 √2𝜋𝑡 b −∞ exp(- x2 2t)dx ・ブラウン運動の二次変分 lim𝑛→∞∑ (𝐵 (𝑖 𝑛𝑡) − 𝐵( 𝑖−1 𝑛 𝑡)) 2 𝑛 𝑖=1 =t が成立する。 (略称)区間[0,t]を 0,𝑛𝑡, 2𝑡𝑛,⋯,𝑛𝑡𝑛=t と分割し、lim𝑛→∞∑𝑛𝑖=1(𝐵 (𝑛𝑖𝑡) − 𝐵(𝑖−1𝑛 𝑡))2=t を計算した い。

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18 𝑍𝑛,𝑗=𝐵( 𝑖 𝑛𝑡)−𝐵( 𝑖−1 𝑛𝑡) √𝑛𝑡 とおくと、𝐵 (𝑖 𝑛𝑡) − 𝐵( 𝑖−1 𝑛 𝑡)~N(0, 𝑡 𝑛)だから、 その標準偏差で割った𝑍𝑛,1, 𝑍𝑛,2,⋯は N(0, 1)に従う独立な確率変数列となる。 𝑍𝑛,𝑗を使って∑ (𝐵 (𝑖 𝑛𝑡) − 𝐵( 𝑖−1 𝑛 𝑡)) 2 𝑛 𝑖=1 を書き直すと、 ∑𝑛 (𝐵 (𝑛𝑖𝑡) − 𝐵(𝑖−1𝑛 𝑡))2 𝑖=1 =∑𝑛𝑖=1𝑛𝑡𝑍𝑛,𝑗2=t∑ 𝑍𝑛,𝑗 2 𝑛 𝑛 𝑖=1 となるが、𝑍𝑛,𝑗の分散は1であるから、n→ ∞のとき、大数の法則より lim𝑛→∞t ∑ 𝑍𝑛,𝑗2 𝑛 𝑛 𝑖=1 =t となる。従って、lim𝑛→∞∑ (𝐵 (𝑖 𝑛𝑡) − 𝐵( 𝑖−1 𝑛 𝑡)) 2 𝑛 𝑖=1 =t であり、証明された。この結果よ り、 lim𝑛→∞∑ (𝐵 (𝑖 𝑛𝑡) − 𝐵( 𝑖−1 𝑛 𝑡)) 2 𝑛 𝑖=1 =∫ (𝑑𝐵(𝑠))0𝑡 2 とみなすことにする。つまり、(𝑑𝐵(𝑡))2=dt と思ってよい ちなみに、連続で有界変動な関数の2次変分は0である。 (3)、確率微分方程式(参考文献(1)より) X(t)に関する方程式である。 dX(t)=μ((X(t),t)dt+σ(X(t)),t)dB(t) μ((X(t),t)dt は確定式で、σ(X(t)),t)dB(t)は確率変動である。 dB(t)は微小時間におけるブラウン運動 B(t)の増分を表し、数学的にはブラウン運動 B(t)を微分したものである。ただし、ブラウン運動のサンプルパスは、至る所で微分 不可能なので、通常の微分ではなく、確率微分というものである。 例)X(0)=x、𝑑𝑋(𝑡)𝑑𝑡 =μ(X(t),t) dX(t)=μ(X(t),t)dt ここで、X(t)の変化にブラウン運動によるランダムな動きとする項を加える。 dX(t)=μ((X(t),t)dt+σ(X(t)),t)dB(t) となる。 まとめ 微小時間間隔dt の間の確率過程 X(t)の変化は、 期待値μ((X(t),t)dt 分散σ2(X(t)),t)dB(t)の正規分布に従い、過去の振る舞いと独立。

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19 (4)、伊藤の確率積分 通常のリーマン積分から復習する。連続で有界な関数f(x)の積分 ∫ 𝑓(𝑥)0𝑡 dx は、積分区間[0,t]を細かく区切って 0=𝑥0<𝑥1<⋯<𝑥𝑛=t とし、 𝑅𝑛=∑𝑛−1𝑖=0 𝑓(𝜃𝑖)(φ(𝑥𝑖+1) − φ(𝑥𝑖)),𝑥𝑖 ≤ 𝜃𝑖 ≤ 𝑥𝑖+1 について分割をどんどん細かくしていったときの極限として定義されたのだった。ここ で、𝜃𝑖は𝑥𝑖 ≤ 𝜃𝑖 ≤ 𝑥𝑖+1を満たせばどこでも𝑅𝑛の収束先は同じになる。次に、積分する変 数x に伸縮を考えたものがスティルチェス積分 ∫ 𝑓(𝑥)0𝑡 dφ(x) である。ここで、関数φ(x)は連続で有界な関数である。 𝑆𝑛=∑𝑛−1𝑓(𝜃𝑖) 𝑖=0 (φ(𝑥𝑖+1) − φ(𝑥𝑖)),𝑥𝑖≤ 𝜃𝑖 ≤ 𝑥𝑖+1 について分割をどんどん細かくしていったときの極限として定義された。では、連続な サンプルパスを持つ確率過程X(t)のブラウン運動 B(t)による積分(確率積分)はどのよう に定義されるのかを考えよう。例えば、 ∫ 𝑋(𝑢)𝑑𝐵(𝑢)0𝑡 などである。 {B(t):t≥0}は有界変動ではないので、𝜃𝑖の取り方によって確率積分の値が異なってしま う。時間軸を分割し、0=𝑡0<𝑡1<⋯<𝑡𝑛=t とする(𝑡𝑖 ≤ 𝜃𝑖 ≤ 𝑡𝑖+1)。 例をあげると、 ∫ 𝐵(𝑢)𝑑𝐵(𝑢)0𝑡 を次で定義する。 𝐼𝑛=lim𝑛→∞∑𝑛−1𝑖=0 𝐵(𝑡𝑖)(𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖)) これは具体的に計算することができる。 lim 𝑛→∞∑ 𝐵(𝑡𝑖)(𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖)) 𝑛−1 𝑖=0 =lim𝑛→∞∑𝑛−1𝑖=0(𝐵(𝑡𝑖)+𝐵(𝑡2 𝑖+1)-𝐵(𝑡𝑖+1)+𝐵(𝑡2 𝑖)) (𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖)) =12lim𝑛→∞∑𝑛−1𝑖=0(𝐵(𝑡𝑖) − 𝐵(𝑡𝑖+1))(𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖)) -1 2lim𝑛→∞∑ (𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖))2 𝑛 𝑖=1 =1 2lim𝑛→∞∑ (𝐵(𝑡𝑖+1)2 𝑛 𝑖=1 − 𝐵(𝑡𝑖+1)2)-𝑡2 =𝐵(𝑡)2 2 - 𝑡 2

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20 (∑𝑛−1𝑖=1(𝐵(𝑡𝑖+1)2− 𝐵(𝑡𝑖+1)2)= 𝐵(𝑡)2を使った。) (5)、伊藤の公式(参考文献(1)より) (ⅰ)伊藤の公式Ⅰ ブ ラ ウ ン 運 動 の 性 質 と し て 2 次 変 分 に つ い て 学 ん だ 。 ∫ (𝑑𝐵(𝑠))0𝑡 2=lim𝑛→∞∑𝑛−1𝑖=0 𝐵(𝑡𝑖)(𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖))=𝐵(𝑡) 2 2 - 𝑡 2あるいは(𝑑𝐵(𝑠)) 2=dt と書いて も良い。 さて、滑らかな関数f(x)に対して、テイラー展開を考える。 f(x+dx)=f(x)+𝑓′(x)dx+1 2𝑓′′(x)(𝑑𝑥)2+ 1 3!𝑓′′′(𝑑𝑥)3+⋯ ところで、df(x)= 𝑓′(x)dx であるが、これは上のテイラー展開で df(x)=f(x+dx)-f(x)と 書き、(𝑑𝑥)2や(𝑑𝑥)3を無視した結果と解釈することができる。 では、df(B(t))はどうなるか? df(B(t))=𝑓′(B(t))dB(t)+1 2𝑓′′(𝐵((𝑡))(𝑑𝐵(𝑡))2+ 1 3𝑓′′′(B(t))(𝑑𝐵(𝑡))3+⋯ ここで(𝑑𝐵(𝑡))2=dt であることを思い出し、 df(B(t))=𝑓′(B(t))dB(t)+1 2𝑓 ′′(𝐵((𝑡))(𝑑𝐵(𝑡))2 伊藤の公式Ⅰ となることが分かる。即ち、f(B(t))で定まる新しい確率過程は上の式をみたす。 (𝑑𝐵(𝑡))3=dtdB(t)で dt より高次の項となり、無視することができる。 これが伊藤の公式の最もシンプルなバージョンである。これを確率積分の形に直すと、 f(B(t))=f(0)+∫ 𝑓𝑡 ′(B(s))dB(s) 0 + 1 2∫ 𝑓 ′′(𝐵((𝑠))(𝑑𝐵(𝑠))2 𝑡 0 ds となる。 (例1)f(x)=𝑥2の場合に伊藤の公式Ⅰを用いると、 𝐵(𝑡)2=∫ 2𝐵(𝑠)𝑑𝐵(𝑠)𝑡 0 + 1 2∫ 2𝑑𝑠 𝑡 0 よって、 ∫ 𝐵(𝑠)𝑑𝐵(𝑠)0𝑡 =𝐵(𝑡)22-𝑡 2 が成り立つ。これは lim𝑛→∞𝐼𝑛=lim𝑛→∞∑𝑛−1𝑖=0 𝐵(𝑡𝑖)(𝐵(𝑡𝑖+1) − 𝐵(𝑡𝑖)) の結果と一致している。伊藤の公式を利用しても同じ結果が得られることが分かる。 (ⅱ)伊藤の公式Ⅱ

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21 一般に、確率過程{X(t):t≥0}に対しても、同様の伊藤の公式が成り立つ。 df(X(t))=𝑓′(X(t))dX(t)+1 2𝑓′′(𝑋((𝑡))(𝑑𝑋(𝑡)) 2 伊藤の公式Ⅱ ここで見慣れない項:(𝑑𝑋(𝑡))2の計算はどのようにすれば良いのだろうか。 例えば、dX(t)=μdt+σdB(t)の場合は次のように計算すればよい。 (𝑑𝑋(𝑡))2=(μdt + σdB(t))2 =𝜇2(𝑑𝑡)2+2μσdtdB(t)+𝜎2(𝑑𝐵(𝑡))2 =𝜎2dt (例2)dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dB(t)を解く。 f(x)=log 𝑥とする。 𝑓′(x)=1 𝑥, 𝑓 ′′(x)=-1 𝑥2 ここで、3の①の(2)の伊藤の公式を適用する。 df(S(t))=df(logS(t)) =f′(S(t))dS(t)+1 f′′(S(t))(S(t))2 =1 𝑆(𝑡)dS(t)+ 1 2σ 2S(t)( −1 𝑆(𝑡)2)(dB(t)) 2 =1 𝑆(𝑡)(μS(t)dt+σS(t)dB(t))- 1 2σ 2dt =μdt-1σ2dt+σdB(t) 両辺を確率積分する。 ∫ dlogS(𝑢)0𝑡 =∫ (μ-0𝑡 12𝜎2)dt+∫ 𝜎𝑡 0 dB(t) logS(t)=logS(0)+( μ-12σ2)t+σB(t) S(t)=S(0)・exp((μ-12σ2)t+σB(t)) を得る。このS(t)は幾何ブラウン運動と呼ばれる。これは、金融工学では株価や為替レ ートの変動をモデル化するときに使われている。 (ⅲ)伊藤の公式Ⅲ 滑らかな関数f(x,t)に対して、f(X(t),t)によって定義される確率過程は次を満たす。 df(X(t),t)=𝜕𝑡𝜕f(X(t),t)dt+𝜕𝑥𝜕f(X(t),t)dX(t)+12𝜕𝑥𝜕22f(X(t),t)(𝑑𝑋(𝑡))2 伊藤の公式Ⅲ

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22 (例3)dX(t)=κ(θ-X(t))dt+σdB(t),X(0)=𝑥0 Y(t)=𝑒𝜅𝑡(X(t)-θ)とおく。この変換を表す関数は f(x,t)= 𝑒𝜅𝑡(X(t)-θ)である。 𝜕 𝜕𝑡f(X(t),t)=κ𝑒 𝜅𝑡(X(t)-θ), 𝜕 𝜕𝑥f(X(t),t)= 𝑒 𝜅𝑡, 𝜕2 𝜕𝑥2f(X(t),t)=0 であるから、 伊藤の公式Ⅲを適用して、 dY(t)=df(X(t),t) =𝑒𝜅𝑡(X(t)-θ)dt+𝑒𝜅𝑡dX(t) =κ𝑒𝜅𝑡(X(t)-θ)dt+𝑒𝜅𝑡(κ(θ-X(t))dt+σdB(t)) =𝑒𝜅𝑡σdB(t) この式の右辺にはY(t)が含まれていないので積分形に変えると Y(t)=Y(0)+ σ ∫ 𝑒𝑡 𝜅𝑡𝑑𝐵(𝑠) 0 =(𝑥0-θ)+ σ ∫ 𝑒𝑡 𝜅𝑡𝑑𝐵(𝑠) 0 よって、X(t)は次のように表される。 X(t)=θ+𝑒−𝜅𝑡(𝑥 0-θ) + σ ∫ 𝑒0𝑡 −𝜅𝑡𝑑𝐵(𝑠) この最後の形に表現しなおすことを、「確率微分方程式を解く」という。 この拡散過程X(t)はオルシュタイン・ウーレンベック過程と呼ばれており、金融工学の 分野で金利モデル(バシチェックモデルと呼ばれている)として使われる場合がある。 X(t)の挙動として重要なのは、平均回帰性を持っている点である。 ・θ>X(t)のときはドリフトが正(上向き) ・θ<X(t)のときはドリフトが負(下向き) となるために、平均回帰水準θに戻ってくるような力が働いていることが分かる。 (6)、生成作用素(参考文献(2)より) 定義 確率微分方程式 dX(t)=μ(t,X(t))dt+σ(t,X(t))dW(t) (t>0) (6.1) が与えられたとき、X=X(t)の生成作用素 A が、任意の h∈ 𝐶2(ℝ2)に対して、 (Af)(t,x)= μ(t, x)𝜕𝐹𝜕𝑥(t,x) +12σ(𝑡, 𝑥)2 𝜕2𝐹 𝜕𝑥2(t,x) (6.2) により定められる。 一般の確率過程に対しての生成作用素 定義 確率過程X=X(t)に対して、X の生成作用素 A とは

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23 (Af)(x)=lim𝑡→0,𝑡>0𝐸[f(X(t)|X(0)=x]−f(x)𝑡 (6.3) により定められる作用素A のことをいう。x∈ ℝに対して、式(6.3)が存在するような関 数 f: ℝ → ℝの集合を𝐷𝐴(𝑥)と表す。任意の x∈ ℝに対して、式(6.3)が存在するような関 数f の集合を𝐷𝐴と表し、生成作用素A の定義域という。 上の定義においては、確率過程X=X(t)は、一般的には式(6.1)のような確率微分方程式 を満たすことを要求していない。そのため、式(6.3)が存在するような関数空間𝐷𝐴(𝑥)や 𝐷𝐴を定義する必要があるのである。 ここで、以下の例題を考える。 (例題)確率過程 X=X(t)は、確率微分方程式 dX(t)=μX(t)dt+σX(t)dW(t) を満たすとする。このとき、式(6.3)を直接計算し、式(6.2)と一致することを確かめよ。 確率過程f(X(t))に対して伊藤の公式を適応すると df(X(t))=𝑓′(X(t))dX(t)+1 2𝑓 ′′(𝑋((𝑡))(𝑑𝑋(𝑡))2σ(X(t))dW(t) =(μ(X(t))𝑓′(X(t))+1 2σ(𝑋(𝑡)) 2𝑓′′(𝑋((𝑡)))dt+σ(X(t))𝑓(X(t))dW(t) となる。これより、X(0)=x のもとでは f(X(t))=f(X(0))+∫ 𝑑𝑓(𝑋(𝑠))0𝑡 =f(x)+∫ 𝑑𝑓(𝑋(𝑠))0𝑡 =f(x)+∫ (𝜇(𝑋(𝑠)𝑓′(X(s)) +1 2𝜎(𝑋(𝑠)) 2𝑓′′(𝑋((𝑠))) 𝑡 0 ds+∫ σ(X(s))𝑓′(X(s))dW(s) 𝑡 0 である。よって、E[∫ σ(X(s))𝑓𝑡 ′(X(s))dW(s) 0 ]=0 により E[f(X(t))|X(0)=x]-f(x) =∫ 𝐸[μ(X(s))𝑓′(X(s)) +1 2σ(𝑋(𝑠)) 2𝑓′′(𝑋((𝑠))] 𝑡 0 ds であり、まとめると lim𝑡→0,𝑡>0𝐸[f(X(t)|X(0)=x]−f(x) 𝑡 =μ(x)𝑓 ′(x)+1 2σ(𝑥) 2𝑓′′(x) を得る。これで、今の場合に式(6.3)が式(6.2)と一致することが確かめられた。 (7)、ディンキンの公式(参考文献(2)より) まず、生成作用素に関するディンキンの公式を示す。これは、確率過程と偏微分方程式 との橋渡しをする。公式そのものは、もう少し一般的な設定のもとで成立するが、ここ では。確率微分方程式により定められる確率過程に対して述べておく。 命題

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24 確率過程X=X(T)は、確率微分方程式 dX(t)=μX(t)dt+σX(t)dW(t),X(0)=x(∈ ℝ) を満たすとする。このとき E[f(X(t))]=f(x)+E[∫ (𝐴𝑓)(𝑋(𝑠))𝑑𝑠0𝑡 ] (7.1) が成り立つ。ただし、A は X(t)の生成作用素を表す。 [考え方]確率過程 f(X(t))に対して伊藤の公式を適応し、計算すると f(X(t))=f(X(0))+∫ (𝐴𝑓)(𝑋(𝑠))0𝑡 ds+∫ σ(s)𝑓𝑡 ′(X(s)) 0 dW(s) を得る。よって、E[∫ σ(s)𝑓𝑡 ′(X(s)) 0 dW(s)]=0 に注意して式(7.1)を得る。 (8)、ファイマン・カッツの定理 確率微分方程式と偏微分方程式との対応を示すものとして、ファイマン・カッツの定 理がよく知られている。公式の形は、種々の偏微分方程式に対して微妙に異なるが、こ こでは、確率微分方程式に対応する形で定理のみ述べる。 F(t,x)(0≤t≤T,x∈ ℝ)を、次の偏微分方程式の、満期問題の解とする。 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)+μ(t, x) 𝜕𝐹 𝜕𝑥(t,x) +1 2σ(𝑡, 𝑥) 2 𝜕2𝐹 𝜕𝑥2(t,x)-rF(t,x)=0 F(T,x)=u(x), ただし、μ(t, x),σ(t,x) (0≤t≤T,x∈ ℝ),および u(x)(x∈ ℝ)は、それぞれ実数値連続関数、ま たt(≥0)は定数とする。方程式は、t=T での満期条件であることに注意。 このとき F(t,x)=𝑒−𝑡(𝑇−𝑡)E[u(X(T))]と表される。ここで X(s)(t≤s≤T)は、次の確 率微分方程式の初期値問題を満たす。 dX(s)=μ(s, X(s))ds + σ(s,X(s))dW(s), (8) X(t)=x. 実際には、逆も成立する。また、F(t,x)が満たしている偏微分方程式は、式(8)での確 率過程X(s)に対する生成作用素 A を用いれば 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)+(AF)(t,x)-rF(t,x)=0 と表されることを注意しておく。 [証明] (ⅰ)r=0 の場合 確率微分方程式(8)を満たす X(s)に対して、伊藤の公式を、確率過程 F(s,X(s))に適応す ると

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25 dF(s,X(s))=𝜕𝐹𝜕𝑠(S,X(s))+(AF)(s,X(s))+σ(s,X(s))𝜕𝐹𝜕𝑥(s,X(s))dW(s) となる。ただし、A は、式(8)を満たす確率過程 X(s)に対する生成作用素である。これ をt から T まで積分すると F(T,X(T))=F(t,X(t))+∫ (𝐴𝐹)(𝑠, 𝑋(𝑠))𝑑𝑠𝑡𝑇 +∫ 𝜎𝑡𝑇 (s,X(s))𝜕𝐹𝜕𝑥(s,X(s))dW(s) を得る。すなわち、F が偏微分方程式の解であるという仮定 AF=0 であることと、また、 E[∫ 𝜎𝑡𝑇 (s,X(s))𝜕𝐹𝜕𝑥(s,X(s))dW(s)]=0 に注意すれば、ディンキンの公式と同様に F(t,x)=F(t,X(t))=E[F(T,X(T)]=E[u(X(T))] を得る。 (ⅱ)r>0 の場合 𝐹1(t,x)= E[u(X(T))]とおくと、𝐹1は 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)+(AF)(t,x)=0, 𝐹1(T,x)=u(x) を満たす。F(t,x)=𝑒−𝑟(𝑇−𝑡)𝐹 1(t,x)なので 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)= 𝑒−𝑟(𝑇−𝑡) ∂𝐹 1 𝜕𝑡(t,x)+rF(t,x) =-(A(𝑒−𝑟(𝑇−𝑡)𝐹 1))(t,x)+rF(t,x) =-(AF)(t,x)+rF(t,x) であり、また、F(T,x)= 𝐹1(T,x)=u(x)となるので、F(t,x)が r>0 の場合の解を与えること がわかる。 (9)、ブラック・ショールズモデル(参考文献(1)より) 金融の世界での価格変動モデルとして、最も著名なのが、いわゆるブラック・ショール ズモデルである。ブラック・ショールズモデルは、株式の価格 S=S(t)と債券の価格 B=B(t)の組(S,B)からなる市場モデルであり、S(t)と B(t)は、それぞれ次のような確率微 分方程式を満たすとする。まず、株価S(t)は dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dW(t) (9.1) に従うとする。ここで、μはドリフト係数と呼ばれ、短期での株価変化の動向を表す。 また、ボラティリティσは、株価変動の激しさを表す。W(t)は標準ブラウン運動である。 短期的な傾向μS(t)dt を中心にしてσS(t)dW(t)の変動を組み合わせたモデルとなってい る。 また、債券価格B(t)は

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26 dB(t)=rB(t)dt (9.2) に従うとする。ここで、r(>0)は短期では変化しない。すなわち、リスクのない金利を 表す。この無リスク金利r は、以下では簡単のため定数と仮定するので、債券価格 B(t) に対する方程式(9.2)は、通常の確定的な常微分方程式である。 方程式(9.1),(9.2)は解くことができる。初期条件は、S(0)=𝑆0,B(0)=𝐵0である。 まず、方程式(9.1)を解く。 dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dW(t) (9.1) f(x)=log 𝑥とする。 𝑓′(x)=1 𝑥, 𝑓′′(x)=- 1 𝑥2 ここで、3の①の(2)の伊藤の公式を適用する。 df(S(t))=df(logS(t)) =f′(S(t))dS(t)+1 f′′(S(t))(S(t))2 =1 𝑆(𝑡)dS(t)+ 1 2σ 2S(t)( −1 𝑆(𝑡)2)(dW(t))2 =1 𝑆(𝑡)(μS(t)dt+σS(t)dW(t))- 1 2σ 2dt =μdt-1σ2dt+σdW(t) 両辺を確率積分する。 ∫ dlogS(𝑢)0𝑡 =∫ (μ-0𝑡 12𝜎2)dt+∫ 𝜎𝑡 0 dW(t) logS(t)=logS(0)+( μ-12σ2)t+σW(t) S(t)=S(0)・exp((μ-12σ2)t+σW(t)) =𝑆0・exp((μ-12σ2)t+σW(t)) 次に、方程式(9.2)を解く。 dB(t)=rB(t)dt 𝑑𝐵(𝑡) 𝑑𝑡 =rB(t)

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27 𝑑𝐵(𝑡) 𝑑𝑡 =rdt ∫0𝑡𝑑𝐵(𝑡)𝑑𝑡 =∫ 𝑟𝑑𝑡0𝑡 log 𝐵(𝑡)-log 𝐵(0)=∫ 𝑟𝑑𝑡0𝑡 log 𝐵(𝑡)=log 𝐵(0)+rt B(t)= 𝐵0𝑒𝑟𝑡 となる。 (10)、オプションの復習(参考文献(1)より) 1で述べたオプションについて復習する。満期が T、行使価格が K のコールオプシ ョンとは、満期日T において、あらかじめ決められた価格 K で原資産を購入できる権 利のことである。「このようなデリバティブ取引の現時点での価格C を求めよ」が金融 工学の中心的な内容である。 もし原資産価格𝑆𝑇が K 以下であれば、コールオプションの保有者はこの権利を公使 しないであろう。逆に、もし𝑆𝑇が K 以上になっていれば権利行使するであろう。なぜ なら、権利行使後に(即ち K で原資産を購入後に)手元にある原資産を市場価格𝑆𝑇で売却 すれば、結局、コールオプションの保有者は𝑆𝑇-K の利益を手にすることができるから である。以上の2パターンをまとめると、満期時点 T で、コールオプション保有者が 手にする金額は (𝑆𝑇− 𝐾)+≝Max(𝑆𝑇-K,0) である。この関数のことをコールオプションのペイオフ関数と呼ぶ。現時点で支払うオ プション量C を差し引けば、正味の利益だけを見ることができ、上のペイオフ案数は C だけ下方向に平行移動する。 満期がT、行使価格が K のプットオプションとは、満期日 T において、あらかじめ 決められた価格K で原資産を売却できる権利のことである。 もし原資産価格𝑆𝑇が K 以上であれば、プットオプションの保有者はこの権利を公使 しないであろう。逆に、もし𝑆𝑇が K 以下になっていれば権利行使するであろう。なぜ なら、原資産を市場価格𝑆𝑇で購入した後、権利行使して K で原資産を売却すれば、結 局、プットオプションの保有者は𝐾 − 𝑆𝑇の利益を手にすることができるからである。以 上の2パターンをまとめると、満期時点 T で、プットオプション保有者が手にする金 額は (𝐾 − 𝑆𝑇)+≝Max(K-𝑆𝑇0) である。

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28 (11)、無裁定価格理論の復習(参考文献(2)より) 1で述べた無裁定価格理論の復習をする。リスクなしに利益が得られる状態を裁定状 態という。金融市場において、もしも情報が瞬時に伝わり、売買が自由に無制限に行わ れるならば、即ち市場が完備ならば、このような裁定状態はたちどころに解消されると 考える。よって、そのような理想的な市場では裁定状態は有り得ないと要請する。これ を、無裁定の原理などと呼ぶ。金融商品の価格付けに極めて有効な考え方である。 ①ポートフォリオ 資産を、他の資産の組み合わせにより分割して投資することを考える。例えば、債券 B(t)と株式 S(t)の時刻 t における保有量をそれぞれ(φ(t),ψ(t))とし X(t)=φ(t)B(t)+ψ(t)S(t) とおく。このとき、組(φ(t),ψ(t))(0≤t≤T)をポートフォリオと呼び、X(t)を富の仮定、 あるいはポートフォリオの価値という。 ポートフォリオ(φ(t),ψ(t))は、関係式 dX(t)=φ(t)dB(t)+ψ(t)dS(t) を満たすとき、資金自己充足的などという。即ち、X(t)の変動 dX(t)は、資金を外部から調 達したりすることなく、債券B(t)と株式 S(t)の変動によって達成されるとするのである。 ②無裁定の原理 無裁定の原理は、いくぶん空想的なものである。実際たとえば、外貨両替において二つ の両替商が異なる値を提示していたとしよう。手数料なしに両替が出来るとすれば、安い 方で購入し高い方で売却すればリスクなしに利益が得られ、そのため為替レートはひとつ に決まる。しかし現実には、売値と買値の差(ビッドアスクスプレッド)があり、また、取引 手数料も必要なので、このようなさや取りは成功しない。無裁定の原理は、あくまで理想 的な原理である。 数学としては、裁定状態を次のように定める。ポートフォリオの価値 X=X(t)において、 ポートフォリオ(φ(t),ψ(t))が裁定機会を持つとは X(0)≤0, P(X(T)≥0)=1, かつ P(X(T)>0)>0 となるときをいう。すなわち、現時点t=0 では無資産であるが、満期 t=T ではリスク なしに正の利益を得るような状態である。他にも同様な定義が知られているが、ここで は上の定義を採用しておく。そうして、このような裁定状態は発生しないと要請する。 (命題) ポートフォリオの価値X(t)が、ある k(t)(>0)にたいして dX(t)=k(t)X(t)dt を満たすとする。このとき、k(t)=R である。ただし、r は無リスク金利を表す。

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29 [考え方] もし k>r であるとすれば、現時点で債券を利率 r で空売りし、その資産を直 ちにX(t)に投資する。満期で精算すれば、リスクなしに利率の差(k-r)に相当する利益 が得られ、無裁定の原理と矛盾する。K<r の場合も同様に矛盾が導かれ、よって k=r である。 (12)、条件付請求権(参考文献(2)より) 一般に、オプション契約のように、満期日 T での支払価格が株価や為替に依存した 金融派生商品を条件付請求権という。ここでは、条件付請求権は、原資産S(t)の関数と して F=F(t,S(t)) (o≤t≤T) のように表されるとする。 もし、S=S(t)がブラック・ショールズモデル(9.1)に従い不確実に変動するならば、伊藤 の公式によりF の変動は dF(t,S(t))=𝜕𝐹𝜕𝑡dt+𝜕𝐹𝜕𝑆dS(t)+12𝜕𝜕𝑆2𝐹2(𝑑𝑆(𝑡))2 =(𝜕𝐹𝜕𝑡+μS𝜕𝐹𝜕𝑆+12𝜎2𝑆2 𝜕2𝐹 𝜕𝑆2)dt+σS 𝜕𝐹 𝜕𝑆dW(t) (12) となる。 (13)、ブラック・ショールズ偏微分方程式(参考文献(2)より) ヨーロッパ型コールオプションに対するブラック・ショールズの評価公式は、金融工 学の重要性を決定付けた成果である。ブラック・ショールズ偏微分方程式を導出し、そ れを解くことにより評価公式を導く。 債券B(t)=𝑒𝑟𝑡と株式S(t)はブラック・ショールズモデルに従うとする。ヨーロッパ型 コールオプションの価値C(t,S(t))(0≤t≤T)を、ポートフォリオの価値と考え、資金自己 充足的なポートフォリオ(φ(t),ψ(t))により C(t,S(t))=φ(t)B(t)+ψ(t)S(t) (0≦t≦T) (13) と表されるとする。満期日での条件より C(T,S(T))=max{S(T)-K,0} である。ただし、K は行使価格とする。 さて、C(t,S(t))の変動 dC(t,S(t))を2通りに計算する。まず、ポートフォリオ(φ(t), ψ(t))は資金自己充足的であることから dC(t,S(t))=φ(t)B(t)+ψS(t) =(rφ(t) 𝑒𝑟𝑡ψS(t))dt+σψS(t)dW(t)

(31)

30 である。次に、式(12)より、 dC(t,S(t))=(𝜕𝐶𝜕𝑡+μS(t)𝜕𝐶𝜕𝑆+12𝜎2𝑆(𝑡)2 𝜕2𝐶 𝜕𝑆2)dt+σS(t) 𝜕𝐶 𝜕𝑆dW(t) である。両者は一致するので、dW(t)の係数比較により ψS(t)=𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)) がわかる。これと(13)から、B(t)= 𝑒𝑟𝑡なので φ(t)=𝑒−𝑟𝑡(C(t,S(t)-S(t)𝜕𝐶 𝜕𝑆(t,S(t))) である。よって、dC において dt の係数比較により 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S(t))+μS(t) 𝜕𝐶 𝜕𝑆(t,S(t))+ 1 2𝜎 2𝑆(𝑡)2 𝜕2𝐶 𝜕𝑆2(t,S(t)) =r(C(t,S(t))-S(t)𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)))+μS(t) 𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S(t)) すなわち 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S)+ 1 2𝜎 2𝑆2 𝜕𝐶 𝜕𝑆(t,S)-rC(t,S)=0 を得る。まとめると、次の定理を得る。 満期日T,行使価格 K のヨーロッパ型コールオプション C(t,S(t))は、偏微分方程式 𝜕𝐶 𝜕𝑡(t,S)+ 1 2𝜎2𝑆2 𝜕𝐶𝜕𝑆(t,S)-rC(t,S)=0 (0≤t≤T,S>0) C(t,S)=max{S-K,0} (境界条件) を満たす。 以上の式をブラック・ショールズ偏微分方程式という。ブラック・ショールズ偏微分方 程式において注意すべきことは、株価 S(t)の変動モデルにおけるドリフト係数μが現れ ないことである。 (14)、ブラック・ショールズの評価公式(参考文献(2)より) ブラック・ショールズ偏微分方程式を解いて、C(t,S)の評価公式を導く。ファイマン・ カッツの定理を用いると、 C(t,S)=e−r(T−t)E[max{X(T)-K,0}]・・・① と与えられることがわかる。ただし、確率過程X=X(S)(t≤s≤T)は dX(s)=rX(s)ds+σX(s)dW(s),X(t)=S・・・② を満たす。式②は、幾何ブラウン運動と同様に解くことができて

(32)

31 X(s)=S・exp[(r-12σ2)(s-t)+σ(W(s)-W(t))] である。よって、W(s)-W(t)~W(s-t)~√𝑠 − 𝑡W(1)~√𝑠 − 𝑡N(0,1)(N(0,1)は標 準正規分布)に注意すると C(t,S)=e−r(T−t) √2𝜋 ∫ max {X(T) − K, 0} ∞ −∞ 𝑒 −𝑥22dx =e−r(T−t) √2𝜋 ∫ max {S𝑒 (r-1 2σ 2)(T-t)+√𝑇−𝑡𝑥 , 0} ∞ −∞ 𝑒 −𝑥22dx である。ここで、 𝑑2= log𝐾𝑆+(𝑟−12𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 とおくと、被積分関数が0以上となるX(T)≥K であるのは、x≥ 𝑑2 であるときなので、 C(t,S)=Se−r(T−t) √2𝜋 ∫ 𝑒 (r-1 2σ 2)(T-t)+√𝑇−𝑡𝑥 ∞ −𝑑2 dx-Ke −r(T−t)Φ(𝑑 2) となる。ただし、 Φ(d)=1 √2𝜋∫ 𝑒 −𝑥22 ∞ −d dx= 1 √2𝜋∫ 𝑒 −𝑥22 𝑑 −∞ dx は、標準正規分布の分布関数である。 C(t,S)の第1項の積分を計算する。 -𝑥2 2+σ√𝑇 − 𝑡x=- (𝑥−𝜎√𝑇−𝑡) 2 + 1 2𝜎2(T-t) と変形すれば Se−r(T−t) √2𝜋 ∫ 𝑒- 𝑥2 2+σ√T−tx ∞ −𝑑2 dx =S √2𝜋∫ 𝑒 −12(𝑥−𝜎√𝑇−𝑡)2 ∞ −𝑑2 dx=SΦ(𝑑1) ただし 𝑑1=𝑑2+σ√𝑇 − 𝑡=log 𝑆 𝐾+(𝑟+ 1 2𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 である。以上をまとめると次の定理を得る。 満期T(単位:年)、権利行使価格 K のコールオプションの現時点での価格は C(t)=𝑆0∙Φ(𝑑1)-K∙ 𝑒−𝑟(𝑇−𝑡)∙Φ(𝑑2) (14) ただし、

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32 𝑑1= log𝑆0𝑘+(𝑟+12𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 𝑑2=log𝑆0𝑘+(𝑟− 1 2𝜎2)(𝑇−𝑡) 𝜎√𝑇−𝑡 =𝑑1− σ√𝑇 − 𝑡 であり、 Φ(d)=∫−∞𝑑 √2𝜋1 𝑒−12𝑥2dx は標準正規分布の累積分布関数を表す。 式(14)をブラック・ショールズの評価公式という。

(34)

33

四章 考察

まず、「ファイマン・カッツの定理」について考察する。私が気になった点は、r=0 のときの証明において、F が t=T を満期条件とする偏微分方程式の解であるという仮 定AF=0 であることについてである。これは、 𝜕𝐹 𝜕𝑡(t,x)+(AF)(t,x)=0 より、 𝜕𝐹 𝜕𝑇(T,x)+(AF)(T,x)=0(t=T) 𝜕 𝜕𝑇u(x)+(AF)(T,x)=0 (AF)(T,x)=0 AF=0 となることが分かった。 次に、「幾何ブラウン運動」について考察する。この性質は、コールオプション価格 を求める上で重要な「ブラック・ショールズモデル」でも登場する。「幾何ブラウン運 動」は、株価や為替レートの変動をモデル化するときに使われる。「ブラック・ショー ルズモデル」では、株式の価格S(t)を求めるときに利用する。株価 S(t)は、確率微分方 程式 dS(t)=μS(t)dt+σS(t)dW(t) に従うとする。ここで、μはドリフト係数と呼ばれ、短期での株価変化の動向を表す。 また、ボラティリティσは、株価変動の激しさを表す。W(t)は標準ブラウン運動である。 短期的な傾向μS(t)dt を中心にしてσS(t)dW(t)の変動を組み合わせたモデルとなってい る。この確率微分方程式は、「幾何ブラウン運動」と同様にS(t)を求めることができる。 以上より、「幾何ブラウン運動」は、株価をモデル化するときに非常に有用性が高いこ とが分かった。 最後に、「コールオプション価格」を求めることについて考察する。「ブラック・ショ ールズ偏微分方程式」に「ファイマン・カッツの定理」を適応する。すると、確率微分 方程式dX(s)=rX(s)ds+σX(s)dW(s),X(t)=S を満たすことが分かる。この確率微分方程式 を「幾何ブラウン運動」の性質と同様に解く。後は、「標準正規分布の性質」を使って ブラック・ショールズの評価公式を求める。「偏微分方程式」を一般的に解いて求める こともできる。(参考文献(3)より)しかし、「フーリエ解析」などの知識も必要になる上 に、非常に計算量が多くなってしまう。その点を考えると、「ファイマン・カッツの定 理」を用いることで、計算量を大幅に削減することができることが分かった。

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五章 今後の目標

今回は、偏微分方程式を使ってコールオプション価格を導いた。他にも、2項ツリー モデルを使った方法や条件付き期待値を使った方法もあるので、それらの方法も検討し ていきたい。 2項ツリーモデルでは、ブラック・ショールズモデルの離散モデルを考える。こちら の方法にも興味があるので、確率論の復習も兼ねて研究していきたい。 条件付き期待値を使った方法も検討してみたが、マルチンゲールの理解が上手くでき なかった。なので、もう一度復習していきたい。 当初は、偏微分方程式を使った方法と条件付き期待値を使った方法の比較がテーマだ ったが、一度に複数の方法に着手してしまったため、上手くいかなかった。今回の反省 点の一つとして、一つの方法を確実に理解することがいかに大切なのかが分かった。今 後もこの経験を活かしていきたい。また、研究面では、2項モデルを使った方法と条件 付き期待値を使った方法についても触れていきたい。複数の方法の比較は、その後で検 討していきたい。

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謝辞

本論文作成では、研究室担当の白柳潔先生と「ファイナンス数学」担当の高田英行先 生に多くのアドバイスを頂きました。誠にありがとうございました。これからも精進し ていくように努めていきます。

参考文献

(1),「ファイナンス数学」講義プリント 2014年度 高田 英行 著 (2),数学のかんどころ26 確率微分方程式入門 数理ファイナンスへの応用 2014年 6月14日 石村 直之 著 共立出版 (3),ブラック・ショールズ微分方程式 1999年 9月27日 石村貞夫、石村園子 著 東京図書

参照

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