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CMCの社会的ネットワークを介した社会的スキルと孤独感との関連性

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(1)

[表題]

CMC

の社会的ネットワークを介した

社会的スキルと孤独感との関連性

1)2)

(最終稿) 

(The e

ffect of social skills on loneliness through mediation of

CMC social networks)

[著者]

五十嵐 祐

(Tasuku IGARASHI) [所属機関] 名古屋大学教育発達科学研究科 

(Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University)

[所在地]

〒464-8601名古屋市千種区不老町 

(Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, 464-8601, Japan)

謝 辞 1) 本論文は、2000年度名古屋大学に提出した卒業論文を再分析および加筆修正したも のである。また、本論文の一部は、日本社会心理学会第42回大会で発表されている。 2)本論文の作成にあたり、ご指導頂きました名古屋大学教育発達科学研究科吉田俊和教 授に、心より感謝いたします。         

(2)

要 約

本研究では、Levin & Stokes(1986) の社会的ネットワーク媒介モデルと認知的バイア

スモデルに基づき、社会的スキルが、(1)対面状況(Face-to-Face; FTF)、および(2)コン ピュータを介したコミュニケーション(Computer-Mediated Communication; CMC)の社 会的ネットワークを介して孤独感に影響を与える過程と、社会的ネットワークを介さず孤 独感に直接影響を与える過程について検討した。研究1では大学生211名を、研究2で はインターネット上で募集した164名を対象とした。重回帰分析の結果、FTFの社会的 ネットワークは社会的スキルから影響を受け、孤独感を低減させていた。一方、CMCの 社会的ネットワークは社会的スキルの影響を受けるものの、孤独感を低減させていなかっ た。また、社会的スキルが孤独感に直接影響する過程も示された。これらの結果は、対人 関係の親密化に及ぼす非言語的手がかりの重要性の観点から議論された。 キーワード:CMC、社会的スキル、孤独感、社会的ネットワーク Abstract

The use of computer-mediated communication (CMC) technology has increased in society, and CMC is useful for making interpersonal relationships. This study investigated the effect of social skills on loneliness, based on the social network mediation model and the cognitive bias model (Levin & Stokes, 1986). The social network mediation model suggests that social skills affect loneliness through mediation by social network variables of face-to-face (FTF) communication and CMC. The cognitive bias model states that social skills directly affect loneliness through cognitive processes. Two-hundred eleven college students (study 1) and 164 participants recruited through the Internet (study 2) completed self-report measures of loneliness and social skills, and instruments assessing their social networks on FTF and CMC. The results were as follows: (a) the effect of social skills on loneliness was mediated by the social network variables of FTF; (b) CMC variables were affected by social skills, but had only weak effects on loneliness; (c) social skills directly affected loneliness. The lack of nonverbal cues in CMC was discussed as a possible explanation for the weak effects of social network variables of CMC on loneliness.

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問 題 近年、インターネットをはじめとする、コンピュータ・ネットワークの普及が急速に進ん でいる。日本におけるインターネットの世帯普及率は、2000年12月現在で34.0%(4,708 万人)にのぼり、このうちパソコンなどのコンピュータ端末からインターネットを利用 している人は、3,723万人を占める(総務省, 2001)。電子メール、電子掲示板、チャット などの、コンピュータを介したコミュニケーション(Computer-Mediated Communication; 以下CMCと略す)は、コミュニケーションの距離的、時間的な制約を解放し、既知の 人々とのコミュニケーションの機会を増加させる一方、未知の人々とのコミュニケーショ ンの機会も新たに提供する(宮田, 1993)。人々は、CMCの利用によって、多様な対人関 係を形成することが可能になった。 こうしたインターネットの普及に伴い、CMCにおける対人行動についての社会心理 学的なアプローチが日本でも盛んになりつつある(e.g.,木村・都築, 1998; 篠原・三浦, 1999)。しかし、これらの研究は主にCMCでの対人的相互作用のメカニズムに焦点を当 てており、CMCでの対人関係が心理的健康にどのような影響を及ぼすかについては、こ れまで十分に検討されてこなかった。 本論文では、心理的健康の指標のひとつとして、孤独感に注目する。孤独感は、社会的 相互作用についての願望水準と達成水準との食い違いを認知することによって生じる、不

快な経験と定義される(Peplau & Perlman, 1979)。この定義に基づくと、孤独感が生起す

るのは、人の社会的ネットワークがその人の願望より小さいか、または心理的な満足感を 低下させるときである。なお、孤独感と類似する概念である社会的孤立は、社会的相互作 用についての客観的な達成水準が低い状態をさす。しかし、社会的孤立が必ず孤独感を生 起させるわけではなく、両者は明確に区別される必要がある。また、いくつかの研究で は、孤独感が不安や神経症傾向と正の相関を示し、自尊心や対人的信頼感と負の相関を

示すことなどが明らかにされている(e.g., Hojat, 1982; Russell, Peplau, & Cutrona, 1980;

Vaux, 1988a)。

Rook(1988)は、孤独感を生起させる要因を、個人の置かれている環境に基づく要因(過 疎地域での生活など)と、個人内の傾性に基づく要因に大別している。このうち環境的な

要因によって生じる孤独感は、距離的な制約のないCMCで対人関係を形成することによ

り、低減する傾向を示すことが報告されている(White & McConnell, 1999)。しかしなが

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しているのかについては、いまだ不明な点が多い。

Levin & Stokes(1986)は、個人内傾性が孤独感を引き起こすメカニズムについて、(1)社

会的ネットワーク媒介モデル(social network mediation model)と(2)認知的バイアスモ

デル(cognitive bias model)という2つのモデルを提出し、それぞれの影響過程を検討し ている。社会的ネットワーク媒介モデルでは、何らかの個人内傾性が対人関係の形成や維 持を困難にする結果、社会的ネットワークが希薄になり、孤独感が生じると仮定される。 一方、認知的バイアスモデルでは、自己や他者に対するネガティブな感情傾向が現実の社 会的ネットワークを過小評価するために、社会的ネットワークの様態にかかわらず孤独感

が生起すると仮定される。Stokes(1985)やLevin & Stokes(1986)では、外向性、抑うつ、

他者受容と孤独感との関連が検討され、いずれの個人内傾性も孤独感に対して2つの影響 過程をもつことが明らかにされている。

一方、従来の研究では、孤独感を高める要因のひとつとして、円滑な対人関係を築く

ための言語的、非言語的な能力である社会的スキルの不足が報告されてきた(e.g., Jones,

Hobbs, & Hockenbury, 1982; Solano & Koester, 1989)。社会的スキルの不足は、対人関係

の形成や維持を妨げる(前田・片岡, 1993)だけでなく、シャイネスや対人不安などのネ ガティブな感情傾向を高めてしまう(Leary, 1983)。したがって、個人内傾性のひとつと して社会的スキルを取り上げると、社会的スキルと孤独感との間にも、社会的ネットワー ク媒介モデルと認知的バイアスモデルという、2つの影響過程が存在すると考えられる。 社会的スキルの不足している人は、対面状況(Face-to-Face;以下FTFと略す)でのコ ミュニケーションの際に、しぐさや表情といった非言語的手がかりを不適切な形で用い ることが多い(相川・佐藤・佐藤・高山, 1993)。これらの非言語的手がかりは、FTFに おける印象の形成や親密性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかにされてい る(Argyle, 1972; Argyle, Salter, Nicholson, Williams, & Burgess, 1970; 和田, 1993)。よっ

て、社会的スキルの不足している人は、相手と親密な関係を築くことが困難になり、FTF

での社会的ネットワークが希薄化してしまうのである(e.g.,前田・片岡, 1993)。

また、FTFの社会的ネットワークと孤独感との関連を検討した研究では、友人に対する

親密度、関係の重要度といった社会的ネットワークの質的特徴と、友人の数、友人との接 触頻度といった社会的ネットワークの量的特徴が、それぞれ孤独感と負の相関を示すこと

が報告されている(e.g., Cutrona, 1982; Jones, Carpenter, & Quintana, 1985; Vaux, 1988b;

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足感を低下させ、孤独感を生起させる。逆に、FTFの社会的ネットワークが充実していれ ば、満足度は高まり、孤独感は低減されると考えられよう。

ところで、インターネットが普及した現在、人々はFTFだけでなく、CMCでも社会

的ネットワークを形成していることが報告されている(e.g., McCormick & McCormick,

1992; Parks & Floyd, 1996)。CMCは、コミュニケーションの非対面性や匿名性、距離的

な制約の解放、社会的な制約の解放など、FTFでのコミュニケーションとは異なる多くの 特徴をもつ(宮田, 1993)。よって、社会的スキルがFTFの社会的ネットワークを介する 場合と、CMCの社会的ネットワークを介する場合とでは、孤独感に対する影響過程が異 なることが予測される。 文字コミュニケーションが主体となるCMCでは、印象の形成などに重要な役割を果た す非言語手がかりがほとんど伝達されない。また、CMCは非対面状況における非同期的 なコミュニケーションであり、相手のメッセージに対して即時的な反応を必要としない ため、自分の伝えたい内容をまとめて表現することができる(川上・川浦・池田・古川, 1993)。これらのことから、CMCで必要とされるコミュニケーションスキルは、文章の表 現力や、相手のメッセージに対する反応のタイミングなど、FTFで用いられる社会的スキ ルとは異なる種類であることが推測される。したがって、社会的スキルが不足しているた めに、FTFでは非言語的手がかりを不適切な形で用いてしまう人でも、CMCではCMC 特有のスキルを適切に用いることで、社会的ネットワークを形成できる可能性がある。つ まり、社会的スキルは、FTFの社会的ネットワークの形成や維持に強い影響を与えるもの の、CMCの社会的ネットワークに対しては、FTFほど強い影響を与えないことが考えら れる。 ただし、非言語的手がかりが伝達されないCMCの社会的ネットワークでは、相手に対 する親密度を深められず、心理的な満足感を高められない可能性がある。これに対して、 Schmitz & Fulk(1991)は、長い時間をかけてお互いに接触を重ねることによって、CMCに

おいても社会的ネットワークの親密度を高められると指摘している。また、Walther(1992)

は、CMCの社会的ネットワークにおける非言語的手がかりの欠如などに基づく不確実性

(uncertainty)を減少させるために、成員同士がお互いに個人の社会的情報を交換している

ことを報告している。一方、匿名性などのCMCの特徴を生かした社会的ネットワークを

形成することで(McCormick & McCormick, 1992)、自己開示などを含めた親密なコミュ

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クもFTFの社会的ネットワークと同様に、心理的な満足感を高め、孤独感を低減させる ことが考えられる。 したがって、社会的スキルがCMCの社会的ネットワークを介して孤独感に与える影響 は、社会的ネットワーク媒介モデルでは説明できないことが推測される。すなわち、CMC の社会的ネットワークが社会的スキルから受ける影響は、FTFの社会的ネットワークほど 強くないが、CMCの社会的ネットワークは、孤独感を低減させる役割を持つことが予測 される。 また、先述したように、社会的スキルの不足が、シャイネス、抑うつ、対人不安などの自 己や他者に対するネガティブな感情傾向を高めることも明らかにされている(Leary, 1982;

Lewinsohn, 1974; van der Molen, 1990)。ネガティブな感情傾向は、現実の社会的ネット

ワークを過小に評価させてしまう(Watson & Clark, 1984)。そのため、FTFやCMCの社

会的ネットワークを媒介せずに、社会的スキルの不足が直接孤独感を高めてしまう可能性 も考えられる。よって、社会的スキルから孤独感への影響過程を検討する際には、社会的 ネットワーク媒介モデルに基づく間接的な影響過程だけでなく、認知的バイアスモデルに 基づく直接的な影響過程についても検証する必要がある。 以上の議論から、本論文では、Figure 1に示すモデルに基づいて、社会的スキルが孤独 感に影響する過程を明らかにする。 具体的には、FTFとCMCの社会的ネットワークの Figure1 人数、接触頻度、重要度を測定し、社会的スキルが社会的ネットワークに与える影響と、 社会的ネットワークが孤独感に与える影響を、FTFとCMCの社会的ネットワークについ て検討する。また、社会的スキルが社会的ネットワークを介さず、孤独感に直接影響を与 える過程についても、認知的バイアスモデルの観点から検討する。仮説は以下の通りで ある。 仮説1:社会的スキルは、FTFの社会的ネットワークに影響を与える。また、FTFの社 会的ネットワークは、孤独感の低減に影響を与える。 仮説2:社会的スキルがCMCの社会的ネットワークに与える影響は、FTFの社会的 ネットワークに比べると弱い。しかし、CMCの社会的ネットワークも、孤独感の低減に 影響を与える。 仮説3:社会的ネットワークを介さずに、社会的スキルが孤独感に直接影響を与える過 程も存在する。

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研 究 1 目 的 研究1では、大学生を対象として、日常生活におけるコンピュータでのインターネット の利用状況を確認する。また、CMC の社会的ネットワークは、(1)FTFで知り合った既 知の相手との間で形成されるCMCの社会的ネットワーク(以下、CMCの社会的ネット ワーク(既知)と略す)と、(2)CMCで知り合った未知の相手との間で形成されるCMC の社会的ネットワーク(以下、CMCの社会的ネットワーク(未知)と略す)に分類するこ とができる(川上・川浦・池田・古川, 1993)。このうちCMCの社会的ネットワーク(既 知)は、さらに大学の友人や高校の友人といったカテゴリーに分類でき、これらのカテゴ リーによって社会的ネットワークの様態が異なることも考えられる。そこで本研究では、 まずCMCの社会的ネットワーク(既知)に注目し、その様態をカテゴリー別に測定した 上で、仮説1∼3を検討する。 方 法 調査対象および実施時期 1999年12月下旬から2000年1月下旬にかけて、愛知県内 の私立A大学の1年生161名、国立N大学の2年生104名、計265名を対象に調査を行っ た(男性91名、女性172名、不明2名;平均年齢19.5歳)。質問紙は「大学生の意識調 査」という名目で、集団場面において無記名方式で実施された。 質問紙の構成 本研究で用いた質問項目は、以下の通りである。  (1) 基本属性 性別、年齢、居住形態(自宅・下宿)に加えて、コンピュータでのイン ターネットの利用の有無、コンピュータの利用歴、インターネットの利用歴、利用場所、 利用時間、利用目的について、それぞれ回答を求めた。  (2) 孤独感尺度 工藤・西川(1983)の改訂版UCLA孤独感尺度邦訳版(20項目)を 用いた。各項目について、「1. しばしば感じる」「2. ときどき感じる」「3.あまり感じない」 「4.決して感じない」の4段階で評定させた。  (3) 社会的スキル尺度 菊池(1988)のKiSS-18(18項目)を、表現を一部修正して 用いた。各項目について、「1.非常にあてはまる」「2. ややあてはまる」「3. どちらともい えない」「4.あまりあてはまらない」「5.全くあてはまらない」の5段階で評定させた。  (4) 社会的ネットワークの測定 (a)FTFの社会的ネットワーク3):過去6ヶ月間に、 直接会う・電話・手紙のいずれかで重要な話をした既知の友人を、「大学の友人」「高校ま での友人」のカテゴリー別に想起させ、その人数を回答させた。次に、思い浮かべた友人

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たちとの平均的な接触の頻度を「1. 月に1度以下」「2. 少なくとも月に1度」「3. 少なく とも週に1度」「4. ほとんど毎日」の4段階でカテゴリー別に回答させた。最後に、それ ぞれの社会的ネットワークが自分にとってどれくらい重要であるかを、「1. たいへん重要 である」「2.少し重要である」「3.あまり重要でない」「4. 全く重要でない」の4段階でカ テゴリー別に評定させた。(b)CMCの社会的ネットワーク(既知):過去6ヶ月間に、電子 メールや電子掲示板、チャットなど、CMCで重要な話をした既知の友人を、(a)と同じ2 つのカテゴリー別に想起させ、相手の人数、CMCによる接触の頻度、CMCの関係の重要 度を、FTFの場合と同様に回答させた。なお、(b)CMCの社会的ネットワーク(既知)に は、(a)FTFの社会的ネットワークと同一の人物が含まれる場合もある。 結 果 回答者の構成 回答者のうち、コンピュータでインターネットを日常的に利用している 者は、212名(80.0%;男性72名,女性138名,不明2名)であった。このうち、回答に 不備のあった1名を除く211名を分析の対象とした。コンピュータの利用歴は、1年以下 の者が全体の6割強を占め、インターネットの利用歴も、1年以下の者が全体の約8割を 占めた。インターネットの主な利用場所は、学校での利用が全体のおよそ7割を占め、自 宅での利用は全体の3割にとどまった。1週間のインターネットの利用時間は、全体の9 割が5時間以下であった。また、電子メールの利用とWebサイトの閲覧を目的としてイ ンターネットを利用している者が、全体のおよそ8割を占めた。 尺度の検討 孤独感尺度(20項目)および社会的スキル尺度(18項目)の各項目につ いて、それぞれt検定によるGP分析を行った。その結果、いずれの尺度についても、全 ての項目において1%水準で有意差がみられた。また、各尺度の信頼性係数は、孤独感尺 度がα=.92、社会的スキル尺度がα=.88であり、いずれも高い内的整合性のあることが示 された。したがって、以降の分析では、各尺度の項目の合計点を孤独感得点および社会的 スキル得点として用いた。それぞれの平均、標準偏差をTable 1に示す。 Table1 社会的ネットワークと社会的スキル、孤独感との関連 まず、「大学の友人」と「高校の 友人」との間で、FTFの社会的ネットワークおよびCMCの社会的ネットワーク(既知) の人数、接触頻度、重要度に違いが見られるかどうかを、対応のあるt検定でそれぞれ検 討した。その結果、いずれの変数についてもカテゴリー間で有意な差は示されず、友人の カテゴリーによって社会的ネットワークの様態が異なるわけではなかった。したがって、 以降の分析では、これらのカテゴリーを合成した個人の社会的ネットワーク全体を用いて

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仮説の検討を行った。FTFの社会的ネットワークおよびCMCの社会的ネットワーク(既 知)の人数については、「大学の友人」「高校の友人」のカテゴリーの合計値を、以降の分 析で用いた。また接触頻度、重要度の値は、合計値をカテゴリー数(2)で割ったものを 分析に用いた。よって、接触頻度、重要度の得点範囲はいずれも1点から4点となる。 各変数の平均、標準偏差と各変数間の相関は、Table 1に示されている。FTFの社会的 ネットワークおよびCMCの社会的ネットワーク(既知)の人数、接触頻度、重要度は、 いずれも社会的スキルと有意な正の相関を示し、決定係数(R2)も全て5%水準で有意で あった。そこで、社会的スキルとFTFの社会的ネットワークとの相関と、社会的スキル とCMCの社会的ネットワーク(既知)との相関の差について、人数、接触頻度、重要度 の各変数ごとに、Hotellingのt検定による比較を行った。その結果、FTFの社会的ネット ワークの人数は、CMCの社会的ネットワーク(既知)の人数よりも、社会的スキルとの 相関が有意に強かった(t(208)=2.27, p<.05)。しかし、社会的スキルと、社会的ネット ワークの接触頻度および重要度との相関については、FTFとCMCとの間で有意な差が見 られなかった。 次に、社会的スキルと社会的ネットワークが孤独感に与える影響を明らかにするため に、孤独感を従属変数とし、社会的スキル、FTFの社会的ネットワークとCMCの社会的 ネットワーク(既知)の人数、接触頻度、重要度を説明変数とする重回帰分析(一括投入 法)を行った。なお、社会的ネットワークの人数については、分布の非正規性を補正する ため、回答値を対数変換した(log10(1+回答値))。また、いくつかの説明変数間に比較的 強い相関がみられたことから、多重共線性を考慮し、社会的ネットワークの人数、接触頻 度、重要度のそれぞれについて、個別にモデルを設定して分析を行った(Table 2)。 重回 Table2 帰分析の結果、社会的スキルおよびFTFの社会的ネットワークの人数、接触頻度、重要 度は、孤独感に対してそれぞれ有意な負の効果を示した。しかし、CMCの社会的ネット ワーク(既知)の人数、接触頻度は、いずれも孤独感に対して有意な効果を示さず、重要 度の効果も負の有意傾向を示すにとどまった。また、社会的スキルから孤独感への直接効 果も有意であった。 以上の結果から、仮説1、3は全面的に支持された。しかし、仮説2については、FTF とCMCとで社会的ネットワークの人数と社会的スキルとの相関の間に有意な差がみられ たことと、CMCの社会的ネットワーク(既知)の重要度が孤独感を低減する傾向を示し た以外は、支持されなかった。これらの結果を要約したものが、Figure 2である。 Figure2

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考 察 研究1では、社会的スキルが孤独感に影響を与える過程を、FTFの社会的ネットワー クおよびCMCの社会的ネットワーク(既知)の観点から検討した。重回帰分析の結果、 FTFの社会的ネットワークの人数、接触頻度、重要度は社会的スキルに規定され、孤独感 に対して負の効果を示すことが明らかにされた。この結果は、社会的スキルとFTFの社 会的ネットワークとの関連や、FTFの社会的ネットワークと孤独感との関連を検討した先 行研究の知見と一致する。したがって、FTFの社会的ネットワークは孤独感を低減する ために重要な役割を果たしていて、そのFTFの社会的ネットワークを形成・維持するに は、社会的スキルが必要であるという、社会的スキルから孤独感への影響過程が明らかに された。 一方、CMCの社会的ネットワーク(既知)の人数については、FTFの社会的ネットワー クの人数よりも、社会的スキルとの関連が弱いことが示された。このことから、CMCの 社会的ネットワーク(既知)の形成には、FTFの社会的ネットワークほど社会的スキルが 必要とされないことが考えられる。 しかし、予測に反して、CMCの社会的ネットワーク(既知)の接触頻度と重要度が社 会的スキルから受ける影響は、FTFの社会的ネットワークと有意な差が見られなかった。 CMCの社会的ネットワーク(既知)は、FTFの社会的ネットワークがすでに形成・維持 されていることを前提としている。これは、FTFの社会的ネットワークの接触頻度、重要 度と、CMCの社会的ネットワーク(既知)の接触頻度、重要度の間に正の相関が示され たことからも裏付けられる。つまり、CMCの社会的ネットワークは、FTFの社会的ネッ トワークの代替というよりも、むしろ補強的な役割を果たしていることが推測される。し たがって、社会的スキルが不足している人は、FTFの社会的ネットワークでの交流が少な くなるため、CMCで相手と相互作用を行う頻度や、関係の重要度が低くなると考えられ る。すなわち、本研究で測定したCMCの社会的ネットワーク(既知)の様態は、FTFの 社会的ネットワークの様態を反映しているにすぎないともいえよう。よって、CMCの社 会的ネットワークが孤独感に与える影響については、CMCを通じて知り合った未知の相 手との社会的ネットワークも含めた上で、詳細に検討する必要がある。 また、説明変数を個別に投入した重回帰分析の結果、CMCの社会的ネットワーク(既 知)の人数、接触頻度は、孤独感を規定する要因とならなかった。本研究では社会的ネッ トワークの人数、接触頻度、重要度を同時に投入した分析は行っていないため、孤独感に

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対するこれらの説明変数の相対的な影響の強さを単純に比較することはできない。した がって、限定的な知見ではあるものの、孤独感はCMCの社会的ネットワーク(既知)の 量的な特徴よりも、むしろ質的な特徴に影響を受けているといえる。ただし、CMCの社 会的ネットワーク(既知)の重要度が孤独感を規定する割合も、FTFの場合に比べると弱 いものであった。すなわち、CMCの社会的ネットワーク(既知)は孤独感に対する効果 をほとんど有していないと考えられよう。 さらに、社会的スキルには、社会的ネットワークを介さず孤独感と直接関連する側面の あることも示された。この結果は、認知的バイアスモデルの妥当性を支持するものであ る。つまり、社会的スキルの不足している人は、友人との相互作用を展開することが困難 であるだけでなく、対人関係を過小評価しているために、孤独感を高めていることが考え られよう。 以上のことから、社会的スキルが社会的ネットワークを介して孤独感に影響を与えるプ ロセスは、FTFの社会的ネットワークとCMCの社会的ネットワークとで異なることが明 らかにされた。また、社会的スキルと孤独感の間には、認知的バイアスモデルによって説 明できる側面があることも示された。 ただし、本研究では大学生をサンプルとしているため、学校のみでインターネットを利 用している者が多く、インターネットの利用歴が1年以下の者が全体の約8割を占めてい た。また、1週間のインターネットの利用時間も、全体の9割が5時間以下であった。こ れは大学生の一般的なインターネットの利用状況を反映しているともいえるが、この利用 段階で回答者がCMCの社会的ネットワークを形成しているとは考えにくい。したがっ て、本研究の結果については、インターネットをより日常的に利用している人を対象とし て、さらなる検討を行う必要がある。 研 究 2 目 的 研究2では、コンピュータでインターネットを日常的に利用している人を調査対象とす るため、インターネット上の電子掲示板、メーリングリストで被調査者の募集を行う。ま た、CMCの社会的ネットワーク(既知)については、研究1と同様、「現在の環境の友 人」「昔の友人」のカテゴリー別に測定し、その様態を比較する。さらに、FTFの社会的 ネットワークとCMCの社会的ネットワーク(既知)に加え、CMCの社会的ネットワー ク(未知)の様態も新たに測定する。本研究の目的は、これらの社会的ネットワークを介

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した社会的スキルから孤独感への影響過程を、改めて検討することである。 方 法 調査対象および実施時期 2000年7月から8月にかけて、電子掲示板(Yahoo!掲示板」 4))、およびWebサイトの宣伝情報を配信しているメーリングリストに、「インターネット 調査へのご協力のお願い」という記事を投稿し、調査への協力を要請した。調査の対象と なったのは、記事に示された調査用のWebサイト5)へ実際にアクセスし、フォームによっ て作成された質問に最後まで回答した者である。なお、Webサイトのタイトルは「イン ターネット調査へのご協力のお願い」とし、トップページで心理学の調査であることを強 調した6)。また、調査者の所属機関を明示するため、Webサイトは大学のサーバ上に設置 された。 質問フォームの構成 本研究で用いた質問項目は、以下の通りである。  (1) 基本属性 性別、年代、職業、居住形態、居住地域、接続場所に加えて、コンピュー タの利用歴、コンピュータでのインターネットの利用歴、インターネットの利用時間、イ ンターネットの利用目的について、それぞれ回答を求めた。  (2) 孤独感尺度、社会的スキル尺度 いずれも研究1と同様のものを用いた。  (3) 社会的ネットワークの測定 (a)FTFの社会的ネットワーク:過去6ヶ月間に、直 接会う・電話・手紙のいずれかで重要な話をした既知の友人を、「現在の環境の友人」「昔 の友人」のカテゴリー別に想起させた。人数、接触頻度、重要度についての質問は、研究 1と同様であった。(b)CMCの社会的ネットワーク(既知):過去6ヶ月間に、電子メー ルや電子掲示板、チャットなど、CMCで重要な話をした既知の友人を、「現在の環境の友 人」「昔の友人」の2つのカテゴリー別に想起させ、相手の人数、CMCによる接触の頻 度、CMCの関係の重要度を、FTFの場合と同様に回答させた。(c)CMCの社会的ネット ワーク(未知):(b)と同様の質問を、「ネット上の友人」というカテゴリーについて回答 させた。 結 果 研究2では、インターネット上で調査対象者を募集した。インターネット上での調査に ついては、サンプルの偏りや同一人物による複数回答など、調査の信頼性に対するいくつ かの問題点が指摘されている(Buchanan, 2000)。したがって、これらの結果は限られた サンプルから得られたものであり、インターネットの利用者全体の傾向を示すわけではな いことに留意する必要がある。

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回答者の構成 期間中、調査用のWebサイトへのアクセスは442件あり、全ての質問 に回答したのは177名であった。このうち、回答不備や重複回答を除いた164名(男性 93名、女性71名)を分析の対象とした。 回答者の年代は20代が48.2%と最も多く、次いで10代・それ以下が24.4%を占めた。 職業については、大学生・大学院生が27.4%を占め、次いで技術・研究職が15.2%を占 めていた。また、一人暮らしの者は全体の21.3%で、その他の者は誰かと一緒に暮らして いた。接続場所は、家庭と職場・学校がほぼ半々であった。居住地域は、北海道6人(3.7 %)、東北5人(3.0%)、関東61人(37.2%)、甲信越14人(8.5%)、東海・北陸35人(21.3 %)、近畿23人(14.0%)、中国6人(3.7%)、四国4人(2.4%)、九州・沖縄7人(4.3%)、 海外3人(1.8%)であった。インターネットの利用歴は、3年以下の者が70.7%を占め、 1年未満の者も25.6%いた。インターネットの利用時間は、週に10時間以上の者が全体 の約半数で、週に20時間以上の者が最も多かった。また、電子メールの利用とWebサイ トの閲覧を目的としてインターネットを利用している者が、全体のおよそ9割を占めた。 尺度の検討 孤独感尺度(20項目)および社会的スキル尺度(18項目)の各項目につ いて、それぞれt検定によるGP分析を行った。その結果、いずれの尺度についても、全 ての項目において1%水準で有意差がみられた。また、各尺度の信頼性係数はいずれも α=.93であり、高い内的整合性のあることが示された。したがって、以降の分析では、各 尺度の項目の合計点を孤独感得点および社会的スキル得点として用いた。それぞれの平 均、標準偏差をTable 3に示す。 Table3 孤独感得 点の 平均 は、工藤・西川(1983)の大学3 年生 男子 をサ ンプ ルとす る平 均(M=36.45, S D=9.63, n=123)、および研究1の平均よりも、有意に高かった(順に t(285)=5.46, p.01; t(373)=4.88, p <.01)。また、社会的スキル得点の平均については、 菊池(1988)の大学生男子をサンプルとする平均(M=56.40, S D=9.64, n=83)、および研 究1の平均との有意差は見られなかった(順にt(245)=0.09, n.s.; t(373)=0.99, n.s.)。 社会的ネットワークと社会的スキル、孤独感との関連 最初に、「現在の環境の友人」 と「昔の友人」との間で、FTFの社会的ネットワークおよびCMCの社会的ネットワーク (既知)の人数、接触頻度、重要度に違いが見られるかどうかを、対応のあるt検定でそれ ぞれ検討した。その結果、研究1と同様に、いずれの変数についてもカテゴリー間で有意 な差は示されなかった。したがって、以降の分析では、これらのカテゴリーを合成した社 会的ネットワークを用いて仮説の検討を行った。FTFの社会的ネットワークおよびCMC

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の社会的ネットワーク(既知)の人数については、「現在の環境の友人」「昔の友人」のカ テゴリーの合計値を以降の分析で用いた。また接触頻度、重要度の値は、合計値をカテゴ リー数(2)で割ったものとした。なお、CMCの社会的ネットワーク(未知)について は、「ネット上の友人」のカテゴリーに対する回答値をそのまま分析に用いた。よって、接 触頻度、重要度の得点範囲はいずれも1点から4点となる。 各変数の平均、標準偏差と各変数間の相関は、Table 3に示されている。3つの社会的 ネットワークの人数、接触頻度、重要度は、いずれも社会的スキルと有意な正の相関を示 し、決定係数(R2)も全て5%水準で有意であった。そこで、Hotellingt検定を用い、 社会的スキルと3つの社会的ネットワークとの相関の間の差について、人数、接触頻度、 重要度の各変数ごとに、Ryan法による比較を行った。その結果、社会的スキルと社会的 ネットワークの各変数との相関については、FTF、CMC(既知)、CMC(未知)の間で有 意な差が見られなかった。 次に、社会的スキルと社会的ネットワークが孤独感に与える影響を明らかにするため に、孤独感を従属変数とし、社会的スキルと3つの社会的ネットワークの人数、接触頻度、 重要度を説明変数とする重回帰分析(一括投入法)を、研究1と同様に行った(Table 4)。 重回帰分析の結果、社会的スキルおよびFTFの社会的ネットワークの人数、重要度は、孤 Table4 独感に対してそれぞれ有意な負の効果を示し、接触頻度の効果も負の有意傾向を示してい た。しかし、CMCの社会的ネットワーク(既知)とCMCの社会的ネットワーク(未知) の人数、接触頻度、重要度は、いずれも孤独感に対して有意な効果を示さなかった。 したがって、仮説1、3はほぼ支持されたが、仮説2については支持されなかった。こ れらの結果は、研究1で得られた知見と多くの点で一致している。以上の結果を要約した ものが、Figure 3である。 Figure3 全体的考察 本論文では、社会的スキルがFTFとCMCの社会的ネットワークを介して孤独感に与え る影響について、研究1では大学生を、研究2ではインターネット上で募集された被調査 者を対象として検討した。仮説1は、社会的スキルがFTFの社会的ネットワークの形成 に影響を及ぼし、その社会的ネットワークが孤独感を低減させる役割を持つ、というもの であった。また、仮説3は、社会的スキルの不足がネガティブな感情傾向を引き起こし、 孤独感を高めるというものであった。これらの仮説は、研究1、2を通じて支持された。 しかし、社会的スキルがCMCの社会的ネットワークに与える影響はFTFに比べて弱

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く、その社会的ネットワークは孤独感を低減させる役割を果たす、という仮説2について は、これを支持する結果は得られなかった。すなわち、社会的スキルは、CMCの社会的 ネットワークにもFTFの社会的ネットワークと同様の影響を与えていたが、CMCの社会 的ネットワークは孤独感に対して影響を与えていなかった。言い換えれば、CMCの社会 的ネットワークを形成・維持するのには社会的スキルが必要とされるが、社会的ネット ワークを形成したとしても、孤独感は低減されないことになる。 社会的スキルがCMCの社会的ネットワークでも必要とされたのはなぜだろうか。研 究1、2を通じて、FTFの社会的ネットワークの各変数と、CMCの社会的ネットワーク (既知)の各変数との間には、正の相関がみられた。CMCの社会的ネットワーク(既知) が形成されるのは、すでにFTFで社会的ネットワークが形成されている場合に限られる。 このことから、社会的スキルの不足がFTFの社会的ネットワークの形成を困難にする結 果、CMCの社会的ネットワーク(既知)を希薄化させている可能性が推測される。すな わち、社会的スキルは、FTFの社会的ネットワークを介してCMCの社会的ネットワーク (既知)に影響を与えているのであろう。

一方、篠原・三浦(1999)は、WWW(World Wide Web)掲示板における電子コミュ

ニティの形成過程を検討し、未知の相手・場に対応する能力であるコミュニケーションス キルが高い人ほど、掲示板での発言が多くなることを報告している。本研究で取り上げた CMCの社会的ネットワーク(未知)は、WWW掲示板などで知り合った相手との、コン ピュータを介したコミュニケーションを基盤としている。そこでは未知の状況に対して的 確に対処することが求められるため、社会的ネットワークを形成するためには、コミュニ ケーションスキルを含めた社会的スキルが必要となるのだろう。

また、Rook & Peplau(1982)は、個人がいくつかの対人関係を持っていたとしても、 重要な対人関係を欠いているならば、孤独感に陥ることがあると指摘している。したがっ

て、CMCの社会的ネットワークが希薄であったとしても、FTFの社会的ネットワークが

形成・維持されていれば、孤独感は高まらないことが考えられる。逆に、社会的スキルの

不足によって希薄化したFTFの社会的ネットワークを、CMCの社会的ネットワークを形

成・維持することで代用させようとしても、孤独感は低減されないことが推測される。 Kraut, Patterson, Lundmark, Kiesler, Mukophadhyay, & Scherlis(1998)は、インターネッ トの利用時間が長い人ほど、家族と一緒に過ごす時間や普段から付き合いのある友人の数 が減り、孤独感が高まることを明らかにしている。インターネットの利用が孤独感を高め

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るプロセスを、Krautらは以下のように説明している。まず、インターネットを利用する ことで、コンピュータに向かう時間は長くなる。その結果、身近な人々との相互作用が減 少し、FTFの社会的ネットワークは希薄化する。代わりに形成されるCMCの社会的ネッ トワークは、時間や距離の制約がなく高い利便性をもつ。しかし、CMCは身体的な近接 性(physical proximity)を欠いているため、FTFの社会的ネットワークのような強い紐帯 (strong ties)を形成できない。よって、CMCの社会的ネットワークに対する心理的な満 足感は高まらず、FTFの社会的ネットワークが希薄化した分、孤独感が高まるというので ある。この解釈は、孤独感に対する社会的スキルとFTFの社会的ネットワークのβ係数 が大きく、CMCの社会的ネットワークのβ係数が小さいという、本研究の重回帰分析の 結果からも裏付けられよう。

一方、Levinger & Snoek(1972)は、未知の者同士が何らかのきっかけで出会い、親密 になっていく過程を、大きく3つの関係レベルに分け、そのコミュニケーションの特徴に ついて述べている。レベル1は一方的気づきの段階であり、自分のはたらきかけに対して 相手がいずれ反応してくれるであろうと期待している。この段階では、とにかく相手に対 して接近を求める。レベル2は表面的接触の段階で、相手から応答があり、情報を共有す ることもできるが、社会的役割に基づいた形式的なコミュニケーションが主体となる。こ こでは、コミュニケーションの機会が増大するものの、関係の将来像について十分な展望 を持っているわけではない。レベル3は相互的接触の段階であり、相手への親密感が増 し、個人的な感情についての自己開示がなされる。さらに上のレベルになると、二者の態 度や価値観などが次第に一致して共通の規範を形成するようになり、関係は確固たるもの となる。 関係レベルを進展させ、親密さを深めていくためには、自分の持っているポジティブな 態度が相手にも伝わるように行動する必要がある。その際、非言語的手がかりが重要な 役割を果たしていることは、問題の部分で取り上げた多くの先行研究で指摘されている。 CMC では非言語的手がかりが伝達されず、主に言語的手がかりによってコミュニケー ションが行われるため、社会的情報を交換するだけでは関係レベルを進展させることが難 しくなると考えられる。したがって、相手との親密さも深まりにくくなり、孤独感を低減 させるような関係を形成できないのであろう。 ただし、すべての調査対象者が、CMCの社会的ネットワークに対して孤独感を低減さ せる役割を求めていたわけではないとも考えられる。研究2において、CMCの社会的

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ネットワーク(未知)の各変数と、FTFの社会的ネットワークおよびCMCの社会的ネッ トワーク(既知)の各変数との関連は、概して弱いものであった。つまり、未知の相手と の間で形成されたCMCの社会的ネットワークは、既知の友人との社会的ネットワークの 様態に影響を受けているわけではなかった。これは、調査対象者がCMCで新たな社会的 ネットワークを形成する際、孤独感の低減などの情緒的なサポートではなく、情報の交換 といった道具的なサポートを目的としていた可能性を示唆する。しかし、研究2ではイン ターネットの利用動機を測定していないため、この点については明らかでない。よって、 孤独感と社会的ネットワークとの関連を検討する際には、インターネットの利用動機の影 響についても考慮する必要があるだろう。 また、孤独感は、FTFやCMCの社会的ネットワークに媒介されない、社会的スキルか らの直接的な影響を強く受けていた。このことから、孤独感は、現実の対人関係の様態よ りも、社会的スキルの不足に伴う対人不安やネガティブな感情傾向に規定される割合が大 きく、社会的スキルと孤独感との関連は、認知的バイアスモデルによって説明される側面 が強いといえる。 以上の知見から、社会的スキルの不足から生じる孤独感を低減するには、CMCの社会

的ネットワークを形成するよりも、むしろ社会的スキル訓練(social skills training)など

で社会的スキルを獲得し、FTFの社会的ネットワークを形成したり、自己や他者に対する ネガティブな認知を改善したりすることが重要であるといえよう。 最後に、本論文の問題点について述べる。まず、研究2のサンプルにおける孤独感得 点は、研究1や先行研究に比べて有意に高かったことから、もともと孤独感の高い人が CMCを利用していた可能性が考えられる。実際、Young(1998)は、インターネット中毒 者がインターネットを利用する目的として、孤独感からの逃避を第一に挙げていることを 報告している。これに対して、インターネットの利用と孤独感との関連を検討したKraut et al.(1998)は、孤独感がCMCの利用を規定する要因とはならないことを明らかにして いる。しかし、先述のように、研究2ではインターネットの利用動機を測定していないた め、もともと孤独感の高い人がサンプルとなった可能性は否定できない。よって、研究2 の結果については、この点を差し引いて考える必要がある。 一方、CMCを通じて知り合った人々は、親密さを増すにつれて、電話などのCMC以外 のメディアでコミュニケーションを行うようになり、最終的にはFTFでのコミュニケー

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を通じて形成された既存の社会的ネットワークのみを、FTFの社会的ネットワークとして 扱った。そのため、CMCを通じて知り合った人々とのFTFにおける社会的ネットワーク が、社会的スキルや孤独感とどのように関連するのかは検討されていない。この点につい ては、CMCを通じて形成された対人関係の親密化過程に着目し、相手との関係レベルに 応じて孤独感がどのように変化していくかを、FTFでのコミュニケーションも含めて縦断 的に検討する必要があるだろう。 さらに、対人関係の親密さは、時間の経過や相互作用の質的・量的な側面の充実に伴っ

て高まることが考えられる(Altman & Taylor, 1973)。本研究では、社会的ネットワーク

の接触頻度や重要度については測定しているが、個々の相手ごとの相互作用の内容や、知 り合ってからの期間は測定していない。この点については、時間の経過や対人関係の質的 な側面を中心に、社会的ネットワークの様態をより正確に抽出し、孤独感や社会的スキル との関連を検討していく必要がある。 最後に、本論文では取り上げなかったが、携帯電話やPHSなどの携帯情報端末による インターネットの利用者数は、2000年12月現在で2,364万人にのぼる(総務省, 2001)。 携帯情報端末によるコミュニケーションは、パソコンなどのコンピュータ端末によるコ ミュニケーションに比べ、手軽で場所を選ばないなどの特徴がある。携帯情報端末による コミュニケーションと孤独感や社会的スキルとの関連も、今後の課題として取り上げてい く必要があるだろう。

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脚 注 3)本来、(a)は「オフラインの社会的ネットワーク」CMC以外の社会的ネットワーク) と表記し、(b)は「オンラインの社会的ネットワーク」(CMCの社会的ネットワーク) と表記すべきである。しかしながら、オフライン・オンラインという言葉は、FTF・ CMCに比べて一般的でないと考えられるため、本論文では便宜的に(a)を「FTFの 社会的ネットワーク」と表記している。 4)http://messages.yahoo.co.jp/ 5)http://www.psy.educa.nagoya-u.ac.jp/chousa/questionnaire/(公開終了) 6)具体的な教示文は、以下の通りであった:「この調査は、インターネットの利用者を 対象に、心理学的な側面から、その意識を調べることを目的としています。質問に対 して、正しい答えや間違った答えというものはありません。また回答は統計的に処理 されますので、一人一人のデータを取り上げることは決してありません。どうぞ、率 直にお答え下さい。」

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    T able 1 各尺 度 ・ 項目の 平均、標準偏 差および尺度・ 項目間の相 関(研究1) M ean S D 123 4 5 67 1 社会的スキル 55.33 10.12 − 社会的ネットワーク 2 FTF ・人 数 8.00 9.49 .35** − 3 FTF ・頻 度 3.51 0.87 .21** .53** − 4 FTF ・ 重要度 3.64 0.59 .22** .39** .55** − 5 CMC (既知) ・人 数 2.25 1.98 .20** .48** .25** .04 − 6 CMC (既知) ・頻 度 1.98 0.97 .24** .32** .22** .07 .80** − 7 CMC (既知) ・ 重要度 2.95 1.10 .19* .38** .28** .39** .45** .49** − 8 孤独感 38.15 9.76 -.55** -.44** -.40** -.41** -.18* -.21** -.31** ** p <. 01, * p <. 05

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Table 2孤独感に対する重回帰分析の結果(研究1) 従属変数:孤独感 説明変数 β モデル1 モデル2 モデル3 (人数) (接触頻度) (重要度) 社会的スキル -.42** -.47** -.46** FTFの社会的ネットワーク  人数 -.37**  接触頻度 -.31**  重要度 -.28** CMCの社会的ネットワーク(既知)  人数 -.08  接触頻度 -.04  重要度 -.12† R2 .39** .40** .41** R∗2(自由度調整済決定係数) .38** .39** .40** ∗ ∗ p < .01,p< .10

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          T able 3 各 尺 度 ・ 項目の 平均、標準偏 差および尺度・ 項目間の 相関(研究2 ) M ean S D 12 34567 8 9 1 0 1 社会的スキル 56.5 5 13.7 2 − 社会的ネット ワーク 2 FTF ・人数 4.96 5.69 .23** − 3 FTF ・頻度 2.54 0.94 .25** .72** − 4 FTF ・重要 度 2.46 0.82 .22** .65** .67** − 5 CMC (既知) ・人 数 2.60 4.24 .31** .51** .36** .33* * − 6 CMC (既知) ・頻 度 1.79 0.88 .31** .44** .45** .35* * .86* * − 7 CMC (既知) ・重 要度 1.83 0.84 .28** .40** .37** .54* * .70* * .72 ** − 8 CMC (未知) ・人 数 1.66 2.89 .19* .22** .22** .02 .28* * .25 ** .06 − 9 CMC (未知) ・頻 度 2.20 1.52 .24** .12 .16* -.01 .12 .16* .01 .84* * − 10 CMC (未知) ・重 要度 1.86 1.06 .24** .16* .15 .08 .17 * .16* .08 .71* * .76** − 11 孤独感 43.6 3 11.9 0 -.62** -.38** -.30** -.36** -.34* * -.31** -.31** -.13 -.15 -.19** ** p <. 01 , * p <. 05

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Table 4孤独感に対する重回帰分析の結果(研究2) 従属変数:孤独感 説明変数 β モデル1 モデル2 モデル3 (人数) (接触頻度) (重要度) 社会的スキル -.56** -.55** -.56** FTFの社会的ネットワーク  人数 -.23**  接触頻度 -.13†  重要度 -.22** CMCの社会的ネットワーク(既知)  人数 -.06  接触頻度 -.08  重要度 -.03 CMCの社会的ネットワーク(未知)  人数 -.05  接触頻度 .02  重要度 -.04 R2 .45** .39** .44** R∗2(自由度調整済決定係数) .44** .37** .43** ∗ ∗ p < .01,p< .10

参照

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