Title
ゴルフ授業に関する研究動向と今後の展望
Author(s)
石原, 端子
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(19): 45-53
Issue Date
2017-03-24
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/21411
〈論文〉
ゴルフ授業に関する研究動向と今後の展望
石原 端子
要 約 本研究は,ゴルフ授業に関する研究を概観しその研究課題を整理することを目的と した。論文選定の枠組みにそって論文を抽出した結果,①授業の振り返りに関する研 究,②プログラムの効果に関する研究,③ゴルフ授業動向に関する大規模調査研究, ④ゴルフ教材に関する研究の4つの研究枠組みに集約された。その後,それぞれの研 究成果を整理し生涯スポーツ教育へ資するために必要な研究の視点から,①科学的検 証が可能な研究デザインを用いた研究,②スキル学習の効果を高める練習方法の開発, ③多様な視点でのプログラム開発の3つの研究課題を提示した。 キーワード:ゴルフ授業,レビュー,研究課題 はじめに 平成 27 年度学校基本調査によると,全国には大学(国公立,私立を含む)が 779 校存在して いる(文部科学省,2015)。北(2015)の調査からは,約 580 校がゴルフを授業に取り入れて いると報告されている。つまり全国の大学の 70%以上の大学が,ゴルフを授業に活用している ことになる。ゴルフ授業の増加傾向は,1990 年ごろから指摘されて始めていた(大澤,1991)が, その背景には,1991 年の大学設置基準の大綱化により大学保健体育教育の目的に生涯スポーツ 教育を掲げる大学が増え,その目的を達成するために適した教材としてゴルフが選択されてき たという歴史的経緯がある。文部科学省は,生涯スポーツについて「明るく活力ある社会を形 成していく上で,国民のだれもが,いつでも,どこでも,いつまでもスポーツに親しむことが できる生涯スポーツ社会の実現は,わが国の重要な課題である」と説明しているが(文部科学 白書(2007),すなわち,生涯スポーツ教育に資するとは,卒業後もスポーツとともに健康な人 生を送ることができる人材を育成するための教育活動である,と言い換えることができるだろ う。確かに,ゴルフ授業履修者を対象に行った実態調査では,将来本格的にゴルフをしたいと 考える学生が多く,ゴルフを取り入れた授業が,おおむね肯定的に受け止めてられていること が報告されている(伊藤,2001;大澤,1991)。このことからも,ゴルフが生涯スポーツ教育 に適した教材である可能性があるといえよう。ゴルフ規則(日本ゴルフ協会,2016)には,「ゴ ルフの大きな特徴の一つは,通常レフェリーが立ち会わないこと」それは「ゴルファーはみな 誠実であり,故意に不正をおかす者はいないことが基本的な考え方になっているから」と記さ れている。言い換えれば,ゴルフは,自分に有利にならないセルフジャッジをし続けることが 求められるスポーツでありそれがゴルフの本質といえよう。このゴルフの本質こそがゴルフを 生涯スポーツ教育の教材として活用しようとする出発的になっていると思われる。しかしなが沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 ら,ゴルフがいかなる側面においてどのような価値を持つ教材なのかといった具体的視点での 知見は,非常に少ない。例えば,木内(2012)は,大学体育授業が健康づくりに資することを 検証する場合,健康に資する視点として,①教育的,②公衆衛生的,③学術的の3つの側面か ら体系的に研究を進めて行くことが必要性であると述べている。生涯スポーツ教育に資するこ とが期待され,大学体育授業の教材として用いられているゴルフも同様に,その有効性につい て多様な視点から知見を集積していく必要があるだろう。それには,先ず,これまでどのよう な知見が収集されているのか確認しておくことが必要となる。そこで本研究では,日本国内に おけるゴルフ授業に関する研究の動向を把握し,今後の研究課題を整理することを目的とした。 方法 国内のゴルフ授業に関する研究論文を抽出するために「Google Scholar」と「CiNii」の2つ の検索データベースを用いた。検察条件には,「ゴルフ授業」,「ゴルフ and 授業」というキーワー ドを使用した。加えて,できる限り検索漏れを防ぐためにゴルフ関連学会の学会誌も参照した。 論文の選定枠組みとしては,大学設置基準の大綱化がなされた 1991 年以降に発表された研究論 文で,かつ日本の大学機関で実施されたゴルフ授業を研究対象としたものとした。検索期間は, 2016 年4月から5月までの2ヶ月間で,論文検索および分析は,筆者自らが行った。 結果 1.研究論文数の推移 上記の手順によってゴルフ授業に関する学術論文を収集した結果,合計 27 件の論文が収集さ れた。1991 年から 2015 年までの論文数の推移状況を 5 年毎にまとめ,図1に示した。分析の 結果,大学で実施されているゴルフ授業に関する研究は,年間平均1本のペースでその成果が 示されており,2011 年以降はその数が増加傾向にあることが明らかになった。 2.研究動向についての概観 研究の動向を整理するために,抽出された 27 件の論文のうち全文が入手できた 23 件を分析 対象とした。それぞれの研究目的と結果から分類を行った結果,①授業の振り返りに関する研究,
②プログラムの効果に関する研究,③ゴルフ授業動向に関する大規模調査研究,④ゴルフ教材 に関する研究の4つの研究枠組みに集約された。表1にその結果を示した。以下では,それぞ れの枠組みごとに研究成果と研究課題を述べる。 表1.「ゴルフ授業」を取り扱った研究の概要 No 研究目的別による分類 著者名 発表年度 目的 調査対象者 研究方法 主な結果 1 授業の振り返り 大澤啓蔵 1991 ゴルフ授業履修への調査を分析し、授 業改善をすること 履修学生 121 名 質問紙調査 ・初心者が多いことから、基本技術を習得させることが必要がある ・将来、ゴルフを継続する可能性があることから、エチケット、 マナーを習得させる必要がある 2 授業の振り返り 米川直樹ほか 1995 シラバスに基づいた授業展開、それぞ れの教材で何を教えるかについて、ゴ ルフ授業実践を分析し検討すること 履修者不明 質問紙調査 ・授業を通して、生涯スポーツへつながる肯定的な意識の変化が 認められた。 ・ゴルフ授業で何を教えるかについては明確に言及できていない が、止まっているボールを打つ特殊性やルールそのものがエチケッ トから始まる特殊性をいかす授業展開が望ましい 3 授業の振り返り 佐渡清隆 1996 1995 年度ゴルフ授業履修への調査を 分析し、授業改善をすること 履修学生 24 名 質問紙調査 質問紙調査 4 授業の振り返り 青木清隆 1996 ゴルフ授業の現状を報告すること 履修学生 34 名 質問紙調査 ・ラウンドをすることを目標にすることで、技術指導偏重になり やすいことが課題 ・指導スタッフの負担軽減が課題 5 授業の振り返り 伊藤文雄 1998 ゴルフ授業履修者の実態を明らかにす ること 履修学生 41 名 質問紙調査 ・履修者の 65.9%が、ゴルフ初心者。 ・履修動機は、ゴルフをやりたかった 68.3% 6 授業の振り返り 大串哲朗 1998 学生が将来続けたいスポーツとしてゴ ルフを位置づけることを目的に展開す る授業についの実践報告をすること 履修者不明 実践報告 ・授業の中心となるスウィングの基本練習に興味を持たせること と、レベルの差異はあるにせよ出来なかったことが出来るように なるという達成感を与えることが大切 7 授業の振り返り 伊藤文雄 1999 履修前後のゴルフに対する受け止め方、 イメージの変化について検討すること 履修学生 113 名 質問紙調査 ・初心者には、ゴールを打つ楽しさ、喜びを引き出しながら、具 体的な課題設定、系統的なスキル学習を考慮した指導が必要 ・スキル、マナー、実践への欲求が高くなることから、実践指 導を通して生涯スポーツとして位置づけていくことが重要 8 授業の振り返り 伊藤文雄 2001 学生へのアンケート調査を分析し、今後の授業改善をすること 履修学生 34 名 質問紙調査 ・ゴルフ授業におおむね満足し、将来もゴルフをしたいとの回答が約 70%あった 9 授業の振り返り 益子詔次 2003 授業概要の紹介と学生へのアンケート調 査を分析し、今後の授業改善をすること 平成 14 年度履修 者人数不明 質問紙調査 ・将来ゴルフを趣味にしたいとの回答が、86.6%あった 10 授業の振り返り 内藤裕子ほか 2004 2003 年度ゴルフ理論実習に参加した、 弱視の学生を対象に、その実践報告を すること 履修男子学生1名 インタビュー 調査 ・ゴルフは、障がいの有無の関わらず楽しむことができるスポー ツである 11 授業の振り返り 平木 宏児ほか 2014 ゴルフの集中授業履修生が評価した、 内容、指導法、指導者、ゴルフ技術に ついて分析すること 男子学生 15 名 質問紙調査 ・参加者のゴルフ実習の評価は、一定水準以上であった。ゴル フを集中授業の教材として活用できうよう工夫したい。 12 プログラム効果 板谷昭彦ほか 1992 打球テストの分析から、女子学生の打球能力を明らかにすること 履修学生 181 名 実験 ・半期のみの授業では、ゴルファーとして最低限の打球能力を習得するまでには至らない 13 プログラム効果 板谷昭彦 1994 指導方法の違いによる、指導の有効性 を検証すること 履修学生 352 名 実験 ・2つのグループには、打球能力に関する有意差は認められず、 両グループともに半期間では最低限の打球能力の習得には至ら なかった 14 プログラム効果 板谷昭彦 1999 棒の活用が、初心者の理想的なスイン グ作りに有効な方法であるかどうか検 討すること 履修学生 83 名 実験 ・スイング軸を作ることに対して、効果的であった ・スイングプレーンを作ることに対して、効果がなかった 15 プログラム効果 坂本和丈 2007 ロブショットの 学 習 過 程における、 ショットスキルの熟練過程と認知的方 略の関係について明らかにすること 大学3年生 23 名 実験質問紙調査 ・ロブショットのスキル習得は、授業のなかでは難しい。 ・スキル習得過程では、実際の動作と目標との誤差、その原因 に関するフィードバック情報の使用頻度が高い 16 プログラム効果 高松潤二ほか 2000 ゴルフ授業において、インターネット活 用した支援情報についての可能性を検 討すること 履修学生 30 名 質問紙調査 ・有効なフィードバック方法を検討するためには、フィードバック 前後のスイング動作の変換、学生が持っているスイング動作のイ メージの変化を定量的に捉えることが必要 17 プログラム効果 池上久子ほか 2011 ゴルフ授業において、練習場からコース ラウンドにつなげるために有用な指導方 法について検討すること 男子学生 98 名 質問紙調査 ・大学のゴルフ授業には、練習場で身につけたスキルを応用する ためにコースラウンドが必要。 18 プログラム効果 北徹朗ほか 2014 大学ゴルフ授業に中で、ホームワーク として取り入れた動作分析の効果につ いて検討すること 男子学生 4 名 映像分析 ・ゴルフスキルでは、スイングと距離感の習得を難しいと感じて いる ・全受講者が、映像の自己評価によって、具体的な修正点を見 出すことができた 19 大規模調査による実態把握 三弊晴三ほか 2010 平成 20 年度に一 般体育として実 施 されたゴルフ授業の位置づけについて、 その実態を把握すること 161 大学 質問紙調査 ・ゴルフ授業を実施している大学が 77%、実施する可能性のあ る大学が 68% ・指導者の多くが、体育指導員であるが、不安要素でもある。 20 大規模調査による実態把握 髙𣘺𣘺宗良ほか 2015 大学ゴルフ授業のシラバスを分析し、到達目標について検討すること 中国地方 53 大学 文献調査 ・大学ゴルフ授業の主たる到達目標は、ルール、スイング作りのための基本的スキルの習得 21 受講者の心理的特徴 杉山佳生 1997 ゴルフ授業参加者を対象に、練習場面 でのビジビリティに対する意識につい て検討すること 履修学生 181 名 質問紙調査 ・ゴルフ参加者の不安傾向やビジビリティに対する好み、練習中 の状態不安は、練習時のビジビリティに対する意識と深く関係し ている 22 ゴルフの特徴 水岸誠 2004 スポーツ実技科目における、各スポーツごとに運動量を検証すること ゴルフ種目 73 名 実験 ・ゴルフは、最も運動量(歩数)が少なかった 23 ゴルフの特徴 石原端子ほか 2009 ゴルフ初心者のゴルフ体験とゴルフの楽 しさ体験の構造を分析すること 履修学生 135 名 質問紙調査 ・ゴルフ初心者は自然と関わること、ボールが上手に打てること、 自分との戦い、仲間と協力すること、マナーを守るといった体験 を通して、ゴルフの楽しさを感じていることが示唆された。 2-1 授業の振り返りに関する研究 分析の結果,授業の振り返りに関する研究が 11 件と最も多かった。調査結果からは,受講 生には初心者が多いことや受講生からは授業へ肯定的な評価が多いことが,多数報告されてい
沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 る(平木,2014;伊藤,1998;伊藤,2001;益子,2003;内藤,2004;大澤,1991;佐渡, 1996)。また,弱視の学生を対象に実施した授業では,視覚障がいの有無に関わらずゴルフを楽 しむことができると感じたとの肯定的な報告がなされている(内藤ほか,2004)。授業プログラ ムについては,生涯スポーツ教育教材としてゴルフを活用しようとするならば,基本的スキル の向上とマナーおよびエチケットの習得のどちらもが可能なプログラムを展開する必要性があ るとの指摘がなされている(大澤,1991;米川ほか,1995;伊藤,1999)。 2-2 プログラムの効果に関する研究 分析の結果,プログラムの効果に関する研究は,7件であった。調査結果からは,半期(15 コマ) のみの授業ではゴルファーとして必要な基本的スキルを習得するまでには至らないといった練 習期間の課題が指摘されている(板谷,1992;板谷,1994)。また,練習で身につけたスキル を応用するためにはコースでのラウンドが必要であるといった,実践面での課題が提示されて いる(池上,2011)。スキルを向上させるための練習方法に関する研究としては,板谷(1999)が, 棒を活用することがスイング作りに効果的であることを示している。また,フィードバックに 関する研究では,セルフモニタリングや映像,あるいは両者を組み合わせることの効果を検証 する研究がなされている(池上,2011;高松,2000;北,2014;坂本,2007)。特に,プロ グラム開発に関する研究は,2000 年以降多く散見される。 2-3 ゴルフ授業動向に関する研究 分析の結果,日本の大学におけるゴルフ授業の動向に関する研究は,三幣ほか(2010)によ る,全国 161 校を対象に実施した調査,および髙𣘺ほか(2015)が,ゴルフ授業の到達目標を 整理することを目的に中国地方圏内にある 53 大学を対象行った調査の2件であった。三幣ほか (2010)の調査からは,主に以下の結果が示された。「一般体育でゴルフを実施している大学」 は,67%であった。「授業への学生の関心」については,「非常にある(25%)」と「比較的ある (52%)」を含め 77%が,興味を持っていることが示された。「ゴルフルールやマナーについて の講義」については,81%が実施したことがあると回答した。また,「一般体育でのゴルフ授業 の価値」については,「大いにある(40%)」と「比較的ある(41%)」を含め,価値があるとの 回答が 80%以上であった。また「ゴルフの価値の具体的内容」についての上位の回答は,順に ①生涯スポーツとして適し定着する可能性大,②ルール・マナー・エチケットの学習は大変プ ラスになる,③社会性,協調,人間関係,配慮,立ち居振る舞いが身につくであった。また「ゴ ルフ授業の目的」については,①生涯スポーツ,生活化の一つとして,②ルール・マナー・エ チケットの学習,③技術の習得,基本スイングの構築,④仲間との協調,相手への配慮,マネ ジメント能力,コミュニケーション能力の回答が上位にあがった。一方,髙𣘺ほか(2015)の 分析結果からは,大学におけるゴルフ授業の到達目標として,①スキルの獲得やルール・エチケッ トを習得すること,②健康面も含めた生涯スポーツとしてゴルフに触れること,③社会人とし ての基礎力を身につけることの3つが大きな柱になっていることが明らかになった。 2-4 ゴルフ教材に関する研究 分析の結果,ゴルフ教材に関する研究は,3件であった。杉山(1994)は,特性不安やビジ ビリティに着目し,授業参加者の授業環境を心理的側面から検討した。その結果,特性不安の
高い人は,練習中に他人からあまり見られたくないと思っているなど,ビジビリティに関わる 意識や行動が,不安傾向と関係していることを示唆している。水岸(2004)は,健康の維持増進・ 体力の向上に着目し,ゴルフ授業での歩行数を検討した。その結果,授業で実施した5つのスポー ツの中でゴルフが最も歩行数が少ないことを明らかにし,運動量をあげるための工夫が必要で あるとの提言を行った。石原ほか(2009)は,ゴルフ初心者を対象にゴルフ体験とゴルフの楽 しさ体験の構造分析を試みた結果,ゴルフ初心者は,①自然と関わる,②ボールが上手に打てる, ③自分と戦う,④仲間と協力する,⑤マナーを守るという5つの出来事を通して,ゴルフの楽 しさを体験していることを明らかにした。 考察および今後の展望 分析結果により抽出した4つの研究枠組みから研究課題を整理するにあたり,これまで生涯 スポーツ教育に資する教材としてゴルフが活用されてきた経緯(大澤,1991)を鑑み,生涯スポー ツ教育への貢献するために必要な研究の視点から,今後の研究課題を整理する。 1.科学的検証が可能な研究デザインを用いた研究 調査結果から,受講生の多くは初心者であるが,ゴルフ授業に対し多くの肯定的評価が得ら れていることが明らかになった。また,授業担当者は,ゴルフが生涯にわたり継続できるスポー ツである点,ルールやマナーの学習が役立つ点,社会性が身につけられる点などを,ゴルフ授 業の価値として高く評価していることが明らかになった(三幣ほか,2010)。シラバスによる授 業の到達目標分析を行った髙𣘺ほか(2015)の調査からも,プレイ,健康,社会人基礎力のキー ワードが抽出されていること示された。しかしながら,これらの報告は,受講者や指導者の現 状を把握するための基礎調査としての機能は果たしているものの,ゴルフが生涯スポーツ教育 教材としてどのように活用できるかを示す成果としては,不十分である。全国規模の調査からは, ゴルフを授業に導入する目的として,①生涯スポーツとして身につけてほしいスポーツとして の活用,②ライフスキルを獲得する機会としての活用があげられているが(三幣ほか,2010; 髙𣘺ほか 2015),ゴルフ授業がそのような目的にそう成果をあげられているかどうかについて 検証する必要がある。それには,ゴルフが生涯スポーツ教育に資する教材かどうかについて科 学的検証が可能となる研究デザインを用いた研究成果を蓄積していく必要があり,このことが 今後の研究課題である。 2.ゴルフプログラムの開発 2-1 スキル学習効果を高める練習方法の開発 調査結果から,授業担当者が抱える大きな課題として,限定された期間内でゴルフ初心者に コースラウンドができるような基礎的スキルを学習させることの難しさが明らかになった。三 幣ほか(2010)の調査では,担当者の 90%が体育教員であるが「体育教員自身がゴルフ指導 にあまり自信を持てない実態があり,指導者の指導力をアップさせる施策が必要である」こと を報告している。指導者の指導技術を補填するための補助道具の有効性を検討する研究(板 谷,1999)や,近年増加してきた映像やセルフモニタリングを用いた学習効果を検討する研 究(北ほか,2014;坂本,2007;高松,2000)などは,学習者のスキル習得だけでなく,指 導者側の指導技術の向上への貢献が期待される研究である。とりわけ,ゴルフ初心者を対象に
沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 したスキル獲得のためのプログラム開発は,今後の大学のゴルフ授業研究の重要なテーマにな ると推測される。一方,指導者を支援するためには,専門家のサポートを受けられる環境を整 えることも必要であろう。例えば,日本女子プロゴルフ協会には,長期間の研修を経てコーチ ングライセンスを取得したゴルフ指導を専門とするプロが約 200 名(日本女子プロゴルフ協会, 2016)おり,ジュニアからシニアまでの幅広い層を対象に指導を行っている。外部からの人的 資源の活用は,ゴルフ授業を充実させていくうえで考慮すべき点であろう。また,そのような 人材活用の功罪についても研究成果として示していく必要があると思われる。 2-2 多様な視点でのプログラム開発 青木(1996)は,ラウンドをすることを授業の到達目標にした場合,技術指導偏重の授業に 陥りやすいとの警鐘をならしていた。それに関して大串(1998)は「スウィングの基本練習に 興味を持たせること,レベルの差異はあるにせよ出来なかったことが出来るようになるという 達成感を与えることが大切である」と述べ,伊藤(1999)も同様に,ゴルフ初心者は「上手く なりたい,正しい技術や知識を身につけたい,ゴルフ場でプレーをしたい」などの意欲が高い ことから,最終的には,生涯スポーツへと位置づけるために,楽しさを引き出すこと,具体的 な課題を設定すること,系統的技術学習を考慮した指導を行うことの必要性を指摘している。 これらの指摘は,担当者が一方的にスキル指導を行うのではなく,受講者が主体性に楽しみな がらできる授業の必要性を示唆している。ゴルフ初心者は,自然と関わること,ボールが上手 に打てること,自分と戦うこと,仲間と協力すること,マナーを守ることの5つの体験を通して, ゴルフの楽しさを認識していることが明らかにされているが(石原ほか,2009),例えば,この ような成果を活用し,自分と戦う状況や仲間と協力する状況を設定した基礎的スキル習得のた めのプログラムを開発することは可能であろう。 木内(2012)は,「スポーツ活動を通じて,良好な生活習慣,ライフスキル向上,社会性育 成,ストレスマネジメントなどへとつなげるシナリオを体育学その他の研究成果に基づいて構 築していくことが,大学体育教員に求められている」と述べているが,ゴルフ授業においても, スキルの獲得以外の授業目標を設定することは可能である。例えば,ライフスキルを変数に用 いたゴルフプログラム開発が欧米を中心に進められており,ライフスキルの獲得にゴルフが有 効であることが示されている(上野,2011)。ライフスキルとは,「日常生活で生じるさまざま な問題や要求に対して,建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WHO,1997)と定義 されているが,日本での研究知見はまだ少ない。また水岸(2004)は,スポーツ実技授業のな かでゴルフが最も運動量が少ないことを指摘したが,とりわけラウンドを行わない授業の場合, 運動量の少ない授業になることが予想される。しかし,健康作りに寄与するゴルフプログラム が開発されれば,あらゆる年代を対象にしたゴルフ授業が導入できる可能性が広がるだろう。 内藤ほか(2004)は,視覚障がい者にもゴルフ授業が楽しい体験になりうることを報告してい るが,このような障がい者を対象とした実践研究は少なく,ユニバーサルデザインの概念を取 り入れたプログラム開発も,重要である。 以上,今後のプログラム開発の可能性をいくつかの視点から述べた。このような多様な視点 でのプログラム開発は,スキル指導偏重の授業を是正する機会になるだけでなく,生涯スポー ツ教育の教材としてのゴルフ授業の可能性を拡げることにつながる。よって,多様な目的をも つプログラム開発とその妥当性の検討は,重要な研究課題といえよう。
まとめ 本研究の目的は,日本国内におけるゴルフ授業に関する研究動向を整理し,今後の課題を示 すことであった。これまでの研究成果を分類した結果,以下の4つの枠組みに集約された。 1)授業の振り返りに関する研究 2)プログラムの効果に関する研究 3)ゴルフ授業動向に関する大規模調査研究 4)ゴルフ教材に関する研究 その後,研究成果を整理し生涯スポーツ教育へ資するために今後必要な研究成果として,以 下の3つの研究課題を提示した。 1)科学的検証が可能な研究デザインを用いた研究 2)スキル学習の効果を高める練習方法の開発 3)多様な視点でのプログラム開発 本レビューでは,大学におけるゴルフ授業を対象とした研究成果を整理し今後の研究課題を 提示した。これらは,生涯スポーツ教育教材としての枠組みとしてだけでなく,ゴルフがどの ような価値を持つ教材となり得るかを科学的に検証していくための重要な課題といえる。そし て,今後の研究知見が集積されゴルフの価値が検証されることで,その活用範囲が広がること が期待される。 付記 本研究は,2014 年度沖縄大学特別研究助成費(学術研究奨励費)の助成を受けて実施された。 引用参考文献 青木清隆(1996)中央大学におけるゴルフ授業の現状について:経済学部の展開を中心にして(授業の実例). 大学体育,22(3):78-83. 平木宏児・溝畑寛治・木谷織信(2014)余暇生活実習(ゴルフ)における授業の評価.大手門学院大学社 会学部紀要,8:65-76. 池上久子・坪田暢允・鶴原清志・村本名史・池上康男(2011)コースラウンドを伴うゴルフ授業における スイング技術の自己評価.大学体育学,8(1):25-35. 石原端子(2009)初心者にとってゴルフ体験とは?―文章完成法による分析―.大阪体育大学紀要,40: 117-130. 板谷昭彦・藤本昌男(1992)本学学生のゴルフ打球能力の考察.園田学園女子大学論文集,26:341-354. 板谷昭彦(1994)本学学生のゴルフ打球能力の考察(Ⅱ).園田学園女子大学論文集,29:265-278. 板谷昭彦(1999)授業におけるゴルフ指導法の研究.園田学園女子大学論文集,26:13-20. 伊藤文雄(1998)ゴルフ授業の実態調査―関西学院大学について―.スポーツ科学・健康科学研究,1: 19-24. 伊藤文雄(1999)ゴルフに対する意識調査―関西学院大学・武庫川女子大学について―.スポーツ科学・ 健康科学研究,2:9-15. 伊藤文雄(2001)ゴルフ授業に対する学生の評価.スポーツ科学・健康科学研究,4:1-6. 木内敦詞・橋本公雄(2012)大学体育授業による健康づくり介入研究のすすめ.大学体育学,9:3-22. 北徹朗・橋口剛夫・小山慎一(2014)大学ゴルフ授業におけるホームワークの試み.体育研究,48:11-17. 益子詔次(2003)生涯スポーツをめざした大学体育としてのゴルフ授業.宇都宮大学教育学部教育実践総
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