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軽量宇宙構造物の伸展・展開挙動 解析に関する研究

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軽量宇宙構造物の伸展・展開挙動 解析に関する研究

Analyses on the Extension and Deployment Behavior of Light Structures

2012 年 2 月

勝又 暢久

(2)

軽量宇宙構造物の伸展・展開挙動 解析に関する研究

Analyses on the Extension and Deployment Behavior of Light Structures

2012 年 2 月

早稲田大学 創造理工学研究科 総合機械工学専攻 最適デザイン研究

勝又 暢久

(3)

目 次

1 章 序 論... 8

1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物... 8

1.2 伸展構造物と展開構造物における従来の研究...11

1.3 研究目的と研究方法... 16

1.4 論文の構成と概要... 21

2 章 回転軸方向に伸展するブームの伸展挙動解析... 24

2.1 SPINAR (SPace INflatable Actuated Rod) の概要... 24

2.2 本章の目的... 26

2.3 対象構造物のモデル化... 28

2.4 伸展挙動解析の定式化... 31

2.4.1 回転と異方性のみで,伸展しないはりの固有振動数解析... 31

2.4.2 回転と異方性のみで,伸展しないはりの回転数に対する安定不安定 領域解析... 32

2.4.3 伸展による接線方向慣性力(従動力)P,たわみによる慣性力Q,内 部減衰による復元力Fと重力を考慮した動的挙動解析... 32

2.5 地上でのモデル伸展実験と実験結果... 37

2.5.1 実験装置の概要と実験方法... 37

2.5.2 実験結果と考察... 38

2.6 解析結果と実験結果の比較... 42

2.6.1 伸展せず回転のみ考慮した場合の安定不安定領域について... 42

2.6.2 回転と伸展を考慮した異方性はりの伸展挙動... 43

2.7 本章のまとめ... 49

2.7.1 本章の結論... 49

2.7.2 本章における今後の課題と展望... 50

3 章 インフレータブルブームの展開実験... 52

3.1 インフレータブル構造物の概要... 52

3.2 本章の目的... 54

3.3 インフレータブルブームの収納法とチューブモデル... 54

3.3.1 インフレータブルの収納法について... 54

3.3.2 チューブモデルについて... 56

3.4 モデル1とモデル2の展開実験結果... 58

(4)

3.4.1 モデル1の展開実験結果... 58

3.4.2 モデル1の展開実験に関する考察... 61

3.4.3 モデル2の展開実験結果と考察... 62

3.5 本章のまとめ... 67

3.5.1 本章の結論... 67

3.5.2 本章における今後の課題と展望... 68

4 章 インフレータブルブームの展開解析... 70

4.1 インフレータブル構造や膜面構造の展開解析に関する従来の研究... 70

4.2 本章の目的... 73

4.3 折り目の作成解析... 74

4.3.1 インフレータブルブームの有限要素モデル... 74

4.3.2 Zigzag折りの作成... 76

4.3.3 Roll折りの作成... 78

4.3.4 改良Zigzag折りの作成... 79

4.4 折り目の作成解析後の折り目部形状と応力状態... 83

4.4.1 Zigzag折りの折り目部形状と応力状態... 83

4.4.2 Roll折りの折り目部形状と応力状態... 85

4.4.3 改良Zigzag折りの折り目部形状と応力状態... 87

4.5 FPMによる展開解析... 89

4.5.1 Zigzag折りの展開挙動... 90

4.5.2 Roll折りの展開挙動... 94

4.5.3 改良Zigzag折りの展開挙動... 96

4.6 実験と解析における展開挙動の比較... 101

4.6.1 Zigzag折りの展開挙動について... 101

4.6.2 Roll折りの展開挙動について... 102

4.6.3 改良Zigzag折りについて... 103

4.7 本章のまとめ... 105

4.7.1 本章の結論... 105

4.7.2 本章における今後の課題と展望... 106

5 章 将来の大型宇宙構造物実現へ向けた考察... 109

5.1 複合膜面構造の概要と関連する従来の研究... 109

5.1.1 複合膜面構造の概要... 109

5.1.2 関連する従来の研究...112

5.2 本章の目的...116

5.3 単体モデルにおける効果的なインフレータブルブームの配置の検討.118 5.3.1 M1の展開中から展開後の挙動の検討... 120

(5)

5.3.2 M2の展開中から展開後の挙動の検討... 121

5.3.3 M3の展開中から展開後の挙動の検討... 123

5.3.4 M1, 2, 3の展開実験を踏まえたまとめ... 124

5.4 自動構築を考慮した外枠構造を有する単体モデルの検討... 126

5.4.1 外枠構造を有するモデルの概要... 126

5.4.2 Zigzag折り適用モデルと改良Zigzag折り適用モデルの実験結果... 128

5.4.3 実験結果の考察とまとめ... 132

5.5 大型化を考慮した階層モジュラーモデルによる検討... 134

5.6 本章のまとめ... 139

5.6.1 本章の結論... 139

5.6.2 本章における今後の課題と展望... 140

6 章 結 論... 143

6.1 本論文の結論... 143

6.2 本論文の今後の発展性と展望... 155

7 参考文献... 159

8 付 録... 171

9 研究業績... 184

10 謝 辞... 188

(6)

図 目 次

図 1 組立型と展開型の構造概念による宇宙構造物の例... 1

図 2 Adaptive Structureの概念図98)... 1

図 3 宇宙構造物の歴史99)... 1

図 4 さまざまな伸展構造4)... 1

図 5 Simplex MastとHingless Mast... 1

図 6 HALKAのアンテナ構造... 1

図 7 L'GardとIKAROSのソーラーセイル... 1

図 8 自動構築のメカニズムと階層モジュラー構造の形成... 1

図 9 大型宇宙構造物システムの構築シナリオ... 15

図 10 本論文のフローチャート... 23

図 11 SPINARの正面図と背面図... 1

図 12 インフレータブルチューブと三軸織CFRPロッド... 1

図 13 解析モデルの概念図とZ軸から見た図... 1

図 14 実験装置の概要図... 1

図 15 供試体... 1

図 16 100mm/s, 100rpmでの先端軌跡... 39

図 17 各伸展速度の時間変化に対する回転中心からの変位の関係... 40

図 18 回転数に対する安定・不安定領域判別図... 42

図 19 100mm/s, 100rpmでの先端軌跡の解析結果... 45

図 20 各伸展速度における時間と回転中心からの変位の比較... 45

図 21 時間変化に対する回転中心からの変位量の関係... 47

図 22 立体折りの折り目の概要... 55

図 23 改良Zigzag折りの概略図と実際のインフレータブルチューブ... 1

図 24 折り方の異なるインフレータブルブームの展開挙動... 1

図 25 折り方の違いによる展開中の圧力・流量の関係... 60

図 26 Zigzag折りの展開挙動(正面)... 63

図 27 Zigzag折りの展開挙動(側面)... 63

図 28 Roll折りの展開挙動(正面)... 64

図 29 Roll折りの展開挙動(側面)... 64

図 30 改良Zigzag折りの展開挙動(正面)... 65

図 31 改良Zigzag折りの展開挙動(側面)... 65

図 32 Model1とModel 2の有限要素モデル... 75

図 33 Zigzag折りを形成するツールとその配置... 76

(7)

図 34 Zigzag折りを作成するプロセス... 77

図 35 Roll折りを形成するツールとその配置... 78

図 36 Roll折りを作成するプロセス... 79

図 37 改良Zigzag折りを作成するツールとその配置... 79

図 38 改良Zigzag折りを作成中の膜面の変形状態... 82

図 39 Zigzag折りの折り目部形状... 84

図 40 Zigzag折りの応力状態... 84

図 41 Roll折りの折り目部形状... 86

図 42 Roll折りの応力状態... 86

図 43 改良Zigzag折りの折り目部形状... 88

図 44 改良Zigzag折りの応力状態... 88

図 45 Zigzag折りの展開挙動... 92

図 46 Zigzag折りの展開中の圧力変化... 93

図 47 折り目部展開直前の圧力分布(Zigzag折り)... 93

図 48 Roll折りの展開挙動... 96

図 49 Roll折りの展開中の圧力変化... 96

図 50 改良Zigzag折りの展開挙動... 98

図 51 改良Zigzag折りの圧力変化... 99

図 52 折り目部展開直前の圧力分布(改良Zigzag折り)... 99

図 53 Zigzag, Roll, 改良Zigzag折りの圧力変化比較... 100

図 54 実験結果と解析結果の比較(Zigzag折り)... 101

図 55 実験結果と解析結果の比較(Roll折り)... 102

図 56 実験結果と解析結果の比較(改良Zigzag折り)... 103

図 57 複合膜面構造の概要図...110

図 58 膜面とインフレータブルブームを組み合わせた構造... 1

図 59 昆虫の羽化過程... 1

図 60 3種類のモデルの概略図と実際のモデル図... 1

図 61 供給気体の分配図とインフレータブルブームとの対応図... 1

図 62 M1の展開挙動と圧力・流量の関係... 1

図 63 M2の展開挙動と圧力・流量の関係... 1

図 64 M3の展開挙動と圧力・流量の関係... 1

図 65 外枠構造を有する概念モデルの概要図... 127

図 66 外枠構造のCADイメージと実際の概念モデル... 128

図 67 Zigzag折り適用モデルの展開挙動... 129

図 68 改良Zigzag折り適用モデルの展開挙動... 130

図 69 展開終了後の中心からの変位... 131

(8)

図 70 Zigzag折りインフレータブルブームの展開率と経過時間... 133

図 71 改良Zigzag折りインフレータブルブームの展開率と経過時間... 133

図 72 階層モジュラー化で用いたモデルの詳細図... 1

図 73 階層モジュラーモデルの展開の様子... 1

図 74 階層モジュラーモデルの圧力・流量の関係... 1

図 75 本論文の目標とアプローチ... 1

(9)

表 目 次

表 1 各種パラメータの説明... 28

表 2 供試体の材料特性と寸法... 38

表 3 モデル1の実験条件... 57

表 4 モデル2の実験条件... 58

表 5 Model 1の各種パラメータ... 75

表 6 Model 2の各種パラメータ... 75

表 7 Zigzag折りの最大応力値(引張と圧縮方向)... 84

表 8 Roll折りの最大応力(引張と圧縮方向)... 86

表 9 改良Zigzag折りの最大応力値(引張と圧縮方向)... 88

表 10 展開解析条件... 89

表 11 膜面の展開と展開方式を考慮した場合の制御系...115

(10)

1 章 序 論 1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物

宇宙構造物において,重量と体積の最小化,シンプルな機構,そしてミッシ ョンを達成できる設計は重要な設計要素となる.これまで使用されてきたスペ ースシャトルや,成功率が 95%を超えたことで今後世界市場へビジネス展開が 期待される日本のH-II Aロケットなどを用いた宇宙空間への輸送が前提となる ため,軽量化や省スペース設計はコスト削減に直結する重要な問題となる.ま た地球から宇宙空間へコマンドを送信することで姿勢制御や太陽電池パドルの 展開などのミッションを遠隔操作するため,その展開機構やミッション部の機 構は,シンプルでかつロバスト性やバックアップが確保されていることが重要 になる.またそのことがミッション達成に大きく影響を与える.軽量化や省ス ペース設計の観点では,大きな主目的の衛星の打ち上げ時の空いているスペー スを利用して打ち上げ可能なカンサットやナノサテライトなどの名称で知られ

る10 kg以下の小型衛星の活用が近年注目されており,数機の小型衛星がフォー

メーションフライトすることにより,大型衛星の代替として使用する試みなど も検討され始めている.一方,将来の宇宙構造物として注目されている中・大 型ソーラーセイル,太陽光発電衛星,月面基地,スペースコロニーなどの数百 メートルから数キロメートルオーダーの大型宇宙構造物においては,上記に挙 げた 3 つの設計要素を満足する設計に加え,宇宙空間で効率的に大型構造物を 構築するための構造概念や新たな構造の検討も重要になると考えられている.

本研究は伸展構造物や展開構造物を研究対象としている.これらの構造物の 発展の歴史を考察する上で,まずより広範囲の宇宙構造物を構成する構造概念 の発展の歴史について述べる.宇宙構造物の構造概念は,1960年代から1980年 代に提唱された組立型と展開型の構造概念が古典的な構造概念として挙げられ る.図 1に組立型の構造概念により設計された例として国際宇宙ステーション,

展開型の構造概念により設計された例としてETS-Ⅷの展開アンテナを示す.組 立型の構造概念は,複数のモジュールをつなぎ合わせる,または組立てること で目的の構造や機能を満足する設計として定義されている.また展開型の構造 概念は,収納状態の構造物を展開させることで目的の構造や機能を満足する設 計として定義され,そのため組立型の構造概念のように構造物につなぎ目また は分離部が存在しない構造物となっている.組立型の構造概念の代表例として 国際宇宙ステーションを挙げたが,電力供給のための太陽電池パドルや廃熱ラ ジエータにはトラス機構が採用されており,収納状態で打ち上げられ,それを

(11)

1章 序 論

ロボットアームなどによりドッキングさせた後に展開させている.そのためト ラス機構を用いた上記 2 つの構造要素のみを対象とした場合には,展開型の構 造概念が併用されている.しかし構造物全体として捉えた場合には,前述の太 陽電池パドルやラジエータのように,機能ベースで設計されたモジュールをロ ボットハンド,宇宙飛行士の船外活動やドッキングフライトにより順次組立て ることで完成形態が構築されているため,組立型の構造概念により設計された 構造物として分類される.国際宇宙ステーション 1) は現存する宇宙構造物にお いては最大の宇宙構造物であるが,複数回に及ぶ打ち上げと,組立を繰り返す ことにより近年やっと完成をみた.1998年10月20日に打ち上げられた基本モ ジュール「ザーリャFGB」から日本実験棟「きぼう」が取り付けられるまでに 約10年の歳月が経過している.またそれまでに費やされた費用は約400億ドル

(約 5 兆円)とも言われている.国際間で役割を分担し,各国独自のモジュー ルを組み合わせていくとこで目標とする完成形態へ発展させることができる点 や,基本となる構造要素さえ確実に設計されていれば,経済状況等も加味した 上でその後の設計変更により規模を拡大または縮小可能である点などは,組立 型の構造概念で設計する利点であるが,約 100m2 の構造物を作成するために莫 大な費用と時間を費やしていることから,数キロメートルオーダーの大きさに なることが想定されている将来の大型宇宙構造物を実現することを考えると実 現性に乏しいと考えられる.一方展開型の構造概念により設計された構造物の 場合には,展開させることで効率的に大型化が可能であるため,大型構造物を 設計する観点では有用であると考えられる.

(12)

1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物

次に,1990年代頃より提案された構造概念として適応構造( Adaptive Structure ) の構造概念98) が挙げられる.この構造概念は,構造物の機構,構造,制御を包 括的に考慮した構造概念として定義されている.Adaptive Structureを説明する概 念図を図 2 に示す.宇宙構造物における機構,構造,制御を包括的に含んだ設 計の重要性が提案されたことにより,運用時などにおけるさまざまな環境変化 に対応可能な構造としての設計が検討されるようになった.その後2000年代よ り,構造材料も考慮したゴッサマーシステム( Gossamer System )という構造概念 が提案された.Gossamer Systemは,それまで用いられていた金属材料より軽量 で柔軟な膜面材料やケーブル材を用いて宇宙構造物を設計するという構造概念 であり,つまり図 2 に示されているように,機構や構造のバックグラウンドを なす材料も含め,構造全体をシステムとして扱う設計が提唱されている構造概 念である.構造概念の発展の歴史を踏まえると,伸展・展開構造物は初期の展 開型の構造概念が基礎となる構造物に分類される.構造概念を基準に考慮した 場合,伸展構造物と展開構造物を区別する必要はないと思われるが,本論文に おいては1次元方向に展開する構造物を伸展構造物,2次元,3次元方向に展開 する構造物を展開構造物と定義することで,以降区別することにする.

© JAXA December, 2006

国際宇宙ステーション(組立型の構造概念)

ETS-8 の展開アンテナ(展開型の構造概念)

図 1 組立型と展開型の構造概念による宇宙構造物の例

(13)

1章 序 論

図 2 Adaptive Structureの概念図98)

(14)

1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物

伸展構造物と展開構造物の発展の歴史99) として,図 3 に1960年代からの宇 宙構造物の歴史を示す.まず伸展構造物としては,1960年からCoilable Longeron MastやDehaviland Boom (STEM (Storable Tubular Extendible Member)) などの伸展 ブームが登場している.Coilable MastやDehaniland Boom (STEM) などの伸展ブ ームの形状を示した概要図 4) を図 4 に示す.伸展ブームは,Coilable Longeron Mastに始まり,その後Deployable Tetrahedral TrussやTelescopic Mast,Astromastと して発展した.これらの伸展マストは軽量化や伸展のためのヒンジ機構などが 改良されることで発展している.また1990 年代からAdaptive Structureの構造概 念が加わったことにより,Deployable Tetrahedral Trussなどのトラス構造は展開後 に環境に応じて形状制御が行える構造へと発展している.また日本でも伸展ブ ームの開発は行われており,日本独自で開発した伸展ブームとしてSimplex Mast

やHinge-less Mastが登場する.Simplex Mastは「あけぼの衛星」のアンテナ展開

部として使用され,Hingless Mastは「GEOTAIL衛星」のアンテナ構造として使 用された.Simplex MastとHingless Mastの実物の写真を図 5に示す.またこれら 日本で開発された伸展ブームの最近の活用例として,伸展ノズルやサンプリン グコーンの伸展構造としても活用されている.小惑星「イトカワ」の粒子を地 球に持ち帰るミッションで用いられた「はやぶさ衛星」のサンプリングコーン としても,伸展ブームは使用されている.

図 3 宇宙構造物の歴史99)

(15)

1章 序 論

またDehaviland Boom (STEM) の発展・応用型として,本論文の2章で論じら

れている日本で開発されたSPINAR (Space Inflatable Actuated Rod) が挙げられる.

STEM機構は,平板を円柱型に形状記憶し,それを再度平板状に伸ばしてリール などで巻き取った機構となっている.そのため巻き取られた状態で弾性ひずみ エネルギーが蓄えられているため,リールのブレーキを開放するだけでも展開 できる機構となっている.SPINARにおいては,アクチュエータとしてインフレ ータブルブームの展開力を使用しているため,より安定した展開が可能となっ ている.また図 3に示されるように,1960年代よりECHOバルーン35), 36) などの インフレータブル構造が大型宇宙構造物へ応用可能な超軽量構造として登場し ている.袋状の膜面に気体等を注入することで展開させる構造である.1960 年 代後半から1980年代にかけてInflatable Lunar SheltersやInflatable Reflectorsなどが 登場しているが,展開後の形状精度の維持や展開後の剛性維持の問題もあり,

実際の宇宙構造物として使用された例はこれまでない.またインフレータブル ブームは伸展構造物として定義されるが,Inflatable Lunar SheltersやInflatable

Reflectorsなどは,2次元方向に展開するため展開構造物の部分で詳しく言及する.

(16)

1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物

図 4 さまざまな伸展構造4)

(17)

1章 序 論

次に展開構造物としては,展開アンテナや展開パドル,また2010年に日本 が世界に先駆けて成功させたソーラーセイルなどが挙げられる.展開アンテナ の発展は,先述した構造概念の発展の影響を受けながら利用される材料や制御 機構も変化している.図 1で示したETS - VIIIの展開アンテナにおいては,アン テナ面を形成するメッシュ膜面,その膜面を展開させる展開トラスと展開後の 形状を制御するためのケーブルによる複合体として設計されている.メッシュ 膜面の使用はGossamer Systemの影響によると考えられ,またAdaptive Structure の影響によりケーブルによる形状制御が取り入れられていると考えられる.

ETS-VIIIより初期(1997年)に開発された展開アンテナの例として,HALKAの

展開アンテナを図 6に示す.HALKAの展開アンテナにおいても,メッシュ膜面 とそれを展開させる 6 本の伸展ブーム,また展開後の形状制御を行うためのケ ーブルにより構成されていることが分かる.上記の 2 例は日本で開発された展 開アンテナについて言及したが,その他海外で開発された展開アンテナ構造と して,Hoop-Column Antenna,Hoop AntennaやAstro-Mesh Antennaがある.また先 述したように,将来の大型宇宙構造物への応用が期待され1960年代より研究が 行われている展開構造物として,インフレータブル構造が挙げられる.ECHOバ ルーンに始まりInflatable Lunar SheltersやInflatable Reflectorsなど,大面積が必要 なアンテナやリフレクターなどへの応用が期待された.軽量な膜材と気体等に

Hingless Mast Simplex Mast

C 宇宙構造物工学 講義資料 名取

図 5 Simplex MastHingless Mast

(18)

1.1 宇宙構造物における伸展構造物と展開構造物

より展開機構と構造要素が構成されるため,シンプルで非常に軽量な構造物で はある.しかし柔軟構造物ゆえに,展開中の不安定挙動や展開後の形状制御が 困難であること,またInflatable Antenna Experiment 1996(IAE96)の失敗などに より,実際の宇宙構造物に適用された例はこれまで存在しない.そのような状 況の中で,国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の船外実験プラット フォームで行われるSIMPLE(Space Inflatable Membranes Pioneering Long-term

Experiments)46)~49) が予定されている.東日本大震災の影響もあり打ち上げが延

期されたが,2012 年からの運用が予定されている.このミッションが成功した 場合,インフレータブル構造を宇宙構造物に適用した世界初のミッションとな り,インフレータブル構造の積極的な活用が,今後日本だけでなく世界的に期 待される.

展開アンテナ以外の展開構造物としては,昨年日本が世界に先駆けてミッシ ョンを成功させたソーラーセイル「IKAROS(Interplanetary Kite-craft Accelerated Radiation Of the Sun)」2) が挙げられる.IKAROSを含むソーラーセイルの場合は,

アンテナ構造に比べて形状精度が必要とならないことから機構はよりシンプル になり,Gossamer Systemに代表される膜材やケーブル材を用いた軽量構造や,

膜面構造とインフレータブル構造を組み合わせた構造で設計されている.

IKAROSでは,膜面先端に重りをつけ,遠心力により展開が行われたが,2006 年にNASAとL’Gardeで設計されたソーラーセイルにおいては,インフレータブ ルブームの展開力によって膜面を展開させる設計がなされている.IKAROSと

L’Gardeで設計されたソーラーセイルを図 7に示す.

これまで伸展構造物と展開構造物の発展の歴史について,構造概念の発展と 照らし合わせながら述べてきた.伸展構造物と展開構造物の両構造物に共通し た部分として,軽量化と展開機構の簡素化が時代を追うごとに見直されて開発 が進んできたことが挙げられる.また軽量化と簡素化により,将来の大型宇宙 構造物と考えられているキロメートルオーダーの宇宙構造物(中・大型ソーラ ーセイルや太陽光発電衛星)への適用が目標になっていると考えられる.しか しインフレータブル構造の例にあるように,軽量化と機構の簡素化を考慮して

C 宇宙構造物工学 講義資料 名取通弘

図 6 HALKAのアンテナ構造

(19)

1章 序 論

膜材などの柔軟構造物を用いた場合には,展開挙動の制御が困難,展開後の形 状制御や形状維持が困難になるなどの問題も発生する.さらにミッション達成 という重要な目的を考慮した上で,伸展構造物と展開構造物は軽量化と機構の 簡素化の間のトレードオフ関係を見極めながら設計がなされてきている.

L’Gard, 2006 JAXA, 2010

図 7 L'GardIKAROSのソーラーセイル

(20)

1.2 伸展構造物と展開構造物における従来の研究

1.2 伸展構造物と展開構造物における従来の研究

伸展構造物の従来の研究において,図 3 に示した伸展ブームの伸展法の違い により,主に3種類に大別して説明する.

まず 1 つ目のタイプとして,Telescopic MastやAstromast,Simplex Mastや

Hingeless Mastなどが挙げられる.これらの伸展マストにおいては,高弾性部材

をねじりながら弾性変形域内で収納し,それによって蓄えられた弾性ひずみエ ネルギーを用いることで展開が行われる.そのため,これらの伸展マストに関 する研究として,弾性体の弾性変形に関する研究 5)~7) が基本となっている.古 典的な弾性はりについて,その弾性変形と変形モードに関する研究に始まり,

実際の伸展マストにおける座屈加重と変形モードの関係などに関する研究 8)~10) が行われている.

次に 2 つ目のタイプとして,Deployable TrussやVariable Geometry Truss,

Collapsible Mastなどの伸展トラス,伸展ブームが挙げられる.トラス機構による

伸展ブームの場合には,アクチュエータによってトラスを形成するブーム長を 変化させることで収納と伸展が行われる.またトラスを形成する多角形形状や その組み合わせによって,トラス形状やアクチュエータの配置なども変化し,

その点に関する研究4)が行われている.またAdaptive Structureの構造概念がトラ ス構造に適用されたことにより,トラス構造におけるアクチュエータの個数と その際の収納効率に関する研究やトラス構造の形状制御に関する研究 11)も行わ れている.

最後に3つ目のタイプとして,STEM機構などの収納機構に収納された状態か ら伸展する伸展ブームが挙げられる.STEM機構においては,1つ目のタイプ同 様に収納時弾性ひずみエネルギーが蓄えられるため,収納機構のブレーキを解 放するだけでも展開させることは可能である.STEMロッドの場合には開断面を 有する構造となるため,開断面はりの振動問題に関する研究やブームを一本だ け用いたSingle-STEM,2本用いたBi-STEM,3本用いたTree-STEMにおいて,伸 展ブームの展開機構やその伸展実験に関する研究 13),また長さ変化に対する STEM断面の形状とそれに伴う劣化に関する研究14) などが行われている.

また伸展ブームの場合には,伸展により時間とともに質量・長さが変化する 構造である.そのため伸展の動的挙動に関する解析については,扱いにくい問 題として捉えられている.時間とともに質量・長さが変化する構造物に関する 研究は,鉱山用エレベータの縦揺れ防止の目的で始められて以来すでに数十年 が経過しており,長手方向に走行する弦に関する研究や各種初期条件を設定し た上での時間とともに長さが変化するはりに関する研究 17)~23) が行われてはい

(21)

1章 序 論

るが,その研究数は極めて少ない.また時間とともにはりの長さが変化し,さ らにそのはりが回転を有する問題に関しては,厳密な理論解を得ることが困難 ゆえに,回転面内の回転を含んだ研究25) や2章で論じている回転軸方向に伸展

するSPINARに関する研究31), 32) などに見られる程度である.

インフレータブル伸展ブームにおいては,膜面の折り方(収納法)に関する 研究やその折り方を適用した際の展開挙動に着目した研究 39)~41) が行われてい る.また,一般的には柔軟な膜材と気体等により得られるインフレータブルチ ューブ内の圧力のみで展開後の形状を維持しなければならないため,展開後の 構造強度(主に曲げ剛性)について解決すべき問題は多く存在する.その要素 技術として,展開後の膜材の硬化法に関する研究50)~53) や,膜材を積層にし,そ の積層部分に金属薄膜を使用し,金属膜の塑性変形により構造強度を維持する

研究54)~56) なども行われている.また前述の研究では膜面のみを用いた構造に着

目されているが,例えば高精度でパラボラ形状を形成する必要がある場合や膜 面の破断強度限界域付近まで高圧状態に加圧することで利用するインフレータ ブル構造の場合においては,膜面のみの構造では設計が困難となる.そこでイ ンフレータブル構造とケーブルまたはケーブルネットワーク構造を組み合わせ たIRIS(Inflatable Rigidized Integrated Structures)に関する研究57), 58) も行われて いる.

2次元展開の展開構造物においては,まず太陽電池アレイの展開機構に関する 研究や,展開後の逆折れ問題に関する研究などが初期の研究12) として挙げられ る.その後Gossamer Systemの影響によって膜面構造が宇宙構造物へ適用される ようになり,より効率的な膜面の折り方(収納法)に関する研究108), 109) や,そ の収納状態からの展開挙動に関する研究が,実験と解析の両面から多く検討さ れるようになっている.

インフレータブル構造や膜構造などの柔軟構造物の変形や展開に関する解析 においては,大変形の問題やその変形により発生したしわによって生じる面内 剛性の低下の問題など,柔軟構造物特有の扱いにくい非線形問題について多く

の研究66)~79) がなされてきている.そのため,それらの現象をモデル化するため

のさまざまな数学モデルや数値解析手法が提案されている.膜面構造の変形や 展開解析において,まず膜面に生じるしわに関する研究 60) が 1920 年代から行 われている.圧縮力が作用した場合,膜面内部に容易に局所座屈が起こりしわ が生じる.しわが発生した部分では,面内剛性は著しく低下,またはゼロにな り,扱いにくい非線形問題となる.その膜面のしわを扱う力学モデルとして張 力場理論60) が基本となり,しわ状態にある膜面を解析するさまざまな手法が提 案されている.また膜面の展開解析においては,膜面構造の展開ダイナミクス や展開後の動特性の予測に関する研究において,マス・スプリングモデル,多

(22)

1.2 伸展構造物と展開構造物における従来の研究

粒子モデル,エネルギー・モーメンタム法など多くの解析手法74), 75) が提案され,

IKAROSの1次展開フェーズの展開解析では展開時の回転数やその場合の展開

力の検討76) などを解析することでミッションの成功に貢献した例などもある.

またインフレータブル伸展ブームの展開解析82)~90) においては,一般的に古く から用いられているZigzag折りやRoll折りインフレータブルブームにおいて,CV

法(Control Volume method)を用いた有限要素解析により展開挙動の計算がなさ

れてきた.またCV法では流入気体の慣性力を考慮できないことから,CV法を用 いる場合の流量に関する研究や,膜面の展開解析同様にエネルギー・モーメン タム法による展開解析も行われている.またインフレータブル構造物は宇宙構 造物のみでなく,自動車の衝突時に乗員を保護するエアバッグや東京ドームの アーチ状の屋根などでも使用されていることから,自動車の衝突解析における エアバッグの展開解析91), 95) なども各自動車メーカーでは行われている.

また本論文の 5 章に対応するインフレータブル構造と膜面構造を組み合わせ た展開構造物に関しては,膜面とインフレータブルブームが完全拘束,または 膜面にインフレータブルブームがインベットされた構造に関する研究 111)~113) が 挙げられる.代表的な研究例としては,NASAで行われたIAE96や同じくNASA で 2006 年にL’Gardeとの共同開発で検討されたソーラーセイル構造 120)~122) ,三 浦折り膜面にインフレータブルブームがインベットされた構造 111),113)などが挙 げられる.これらの構造は本研究で提案する複合膜面構造同様に,インフレー タブルブームの展開力を用いて膜面を展開し,展開後はインフレータブルブー ムにより剛性を維持する構造となっている.しかし,インフレータブルブーム が膜面に完全拘束,またはインベットされているため,インフレータブル構造 と膜面構造間において拘束が強い状態となっている.このような構造は昆虫の 羽の構造にみられ,自然界の優れた機構や構造を工学に適用することを目的と したBio-inspired Design105)~107) として1つの研究分野が確立されている.

また将来の大型宇宙構造物を実現するための構造概念に関する研究 98)~104) も 行われている.1章で述べた構造概念の発展の歴史を基に,キロメーターオーダ ーの設計が予想される太陽光発電衛星などの将来の大型宇宙構造物を構築する ための新たな構造概念や構築シナリオが提案されている.本研究では,5章で言 及する複合膜面構造を用いることでその構築シナリオの実現を目標としている.

将来の大型宇宙構造物を実現するための新たな構造概念としては,組立型と展 開型の利点を組み合せ,さらにAdaptive StructureやGossamer Systemを適用した構 造概念となっている.具体的には,組立型の構造概念により均一モジュールを 用いて宇宙空間で建造することが考えられているが,その際階層モジュラー構

114)~117) を用いることで,効率的に大型構造物の配列を作成し,さらに宇宙空

間での建造の際,シンプルなメカニズムによる自動構築118), 119) によって階層モ ジュラー構造の配列を作成するという概念である.自動構築による階層モジュ ラー構造の構築方法を,図 8に示す.図 8 (a)に示されるように,階層モジュラ ー構造を自動構築により形成する上で必要になるメカニズムは,各頂点でラッ チとリリースができ,リリース時に次の頂点へ移動できるように回転できるメ

(23)

1章 序 論

カニズムのみが必要とされている.各モジュールの動き方としては,図 8 (a)で は正六角形をモジュールの形状としているが,2頂点でラッチ状態(実線と点線 の状態)から一つの頂点をリリースし,回転することで別の頂点方向へ移動し

(実線と実践の状態),移動した頂点で再度ラッチすることで移動が完了する.

このメカニズムを利用することで,図 8 (b)に示されるように,集積状態のモジ ュールが回転とラッチ・リリースを繰り返すことで移動し,直線形状を形成す ることができる.なお図 8 (b)の黒色で塗りつぶされたモジュールは,回転やラ ッチ・リリース機能が壊れている,移動不可能なモジュールと設定している.

このようなモジュールが存在しても,他の正常に機能するモジュールが黒色の モジュールを引き連れて目標の配列に移動することができるため,この自動構 築はロバスト性も有する.また図 8 (c)に示すように,階層モジュラー構造の配 列パターンも形成可能である.Iの集積状態からM1 の直線形状を形成し,その 後M2形状へと変形する.階層モジュラー構造を考慮した場合,M2 の赤枠で囲

図 8 自動構築のメカニズムと階層モジュラー構造の形成 各モジュールが有する機能

・各頂点でラッチ&リリース

・ローテーション

(a) 各モジュールが必要な機能

(b) 自動構築による配列作成スキーム

(c) 自動構築を用いた階層モジュラー構造の形成

() () () () ()

(24)

1.2 伸展構造物と展開構造物における従来の研究

まれMeta-moduleと記載されている部分が第1世代に相当し,Meta-moduleを基本

単位として移動することで,F(第2世代)の最終形状まで容易に移動ができる.

図には示されていないが,つぎにFを基本単位として移動することで第 3 世代,

第4世代と,より高次の階層モジュラー構造を形成することも可能となる.

また図 8 に示される部分は組立型の構造概念のみによる部分であり,さらに 階層モジュラー構造を形成している各モジュールに展開型の構造概念を加える ことにより,図 9に示す宇宙構造物の構築シナリオが提案されている.図 9に おいて,灰色で塗りつぶされた矢印は自動構築による建造を意味し,白色の矢 印は展開構築による建造を意味している.ここでは,図 9 (a)を初期状態とし,図

9 (f) が最終形態と仮定されている.

まず(a)から(f)の状態を構築するにあたり,(a) → (b) → (c) → (f) のルート を例にとって説明する.図 8 (c)で示したように,集積状態の(a)から(b),(c)の状 態へと,自動構築(灰色矢印)によって構築が行われる.次にすべてのモジュ ールが展開構造物であるため,(c)から最終形態(f)へは,展開による構築によっ て完了する.またこれらの構築ルートはミッション要求によって変化可能であ り,例えば(a) → (d) → (e) → (f) や(a) → (b) → (e) → (f) などの構築ルート も選択できる.また輸送機の積載容量によっては,(b)の状態で宇宙に輸送し,

そこから建造をスタートすることも可能であり,その場合(b) → (c) → (f) や (b) → (e) → (f) のルートによる建造も可能になると提案されている.またここ では第 2 世代までの構築シナリオを示したが,これまでの説明同様に,このプ ロセスを繰り返すことによりさらに高次で巨大な宇宙構造物を得ることが可能 となる.

図 9 大型宇宙構造物システムの構築シナリオ

(25)

1章 序 論

1.3 研究目的と研究方法

1.2で言及した先行研究から,伸展構造物の展開機構や伸展構造物単体として 利用される場合の展開挙動に対する研究は多く見られたが,膜面構造物など展 開構造物との併用を視野に入れ,アクチュエータとして伸展構造物を用いる場 合における展開挙動に関する研究はほとんど見られない.またその展開挙動を 評価した伸展構造物を膜面構造物など展開構造物にアクチュエータとして応用 し,その展開挙動について評価した研究も見られない.そこで本研究では,太 陽光発電衛星や大型ソーラーセイルなどキロメートルオーダーの将来の大型宇 宙構造物の設計・実現という壮大な最終目標を掲げ,その第一歩の基礎研究と して,本論文では 2 章から 5 章において伸展構造物と展開構造物の伸展・展開 解析に着目して研究を行う.具体的には2章~4章で伸展構造物としてSPINAR やインフレータブルブームを対象にして,2章においてSTEM機構を用いた伸展 ロッドの伸展挙動を実験と解析から評価し,3章と4章においてインフレータブ ルブームの伸展挙動について実験と解析から評価する.また 5 章において将来 の超大型宇宙構造物の可能性を検討するために,STEM機構やインフレータブル ブームを展開機構(アクチュエータ)として応用可能な複合膜面構造に着目し,

インフレータブルブームをアクチュエータとして用いた場合における複合膜面 構造の展開安定性について実験的に評価する.各章で対象とする STEM 機構の 伸展ロッド,インフレータブルブームと複合膜面構造における研究目的と研究 方法は以下にまとめる.

1. STEM機構の伸展ロッド「SPINAR」について 目的

先述したように,STEM機構の伸展ロッドにおいては,開断面形状を考慮 した振動問題,熱ひずみに関する研究やSTEM伸展機構に関する研究が行わ れている.また伸展構造物として,時間とともに質量・長さが変化する問題 としては,長手方向に走行する弦に関する研究や各種初期条件を設定した上 での時間とともに長さが変化するはりに関する研究が行われてはいるが,そ の研究数は極めて少ない.またSPIANRに関しては,回転軸方向に伸展でき るアンテナとしての設計が,適用が予定されているミッションより要求され ている.しかし先行研究として,伸展とともに回転を考慮した伸展挙動解析 に関する研究は,回転面内に伸展するはりに関する研究や本研究と同様

SPINARに関して行われている研究以外には見ることができない.

(26)

1.3 研究目的と研究方法

荻らにより行われているSPINARに関する研究においては,薄肉開断面は りとしてモデル化することで,伸展と回転による先端の軌跡について評価さ れている.回転中心からのミスアライメントによる触れ回りの影響について は詳細に検討されているが,伸展時に生じる慣性力など伸展ロッドに荷重が 作用した場合についての伸展挙動については検討されていない.

そこで本研究では,5章で言及する複合膜面構造への今後の応用も視野に 入れ,伸展により生じる従動力,たわみによる慣性力や重力など伸展ロッド に作用する各種の力を考慮した上で,回転数や伸展速度など初期設計時に有 用となるパラメータ検討が行える集中質量系の簡易モデル化と定式化を目 標とする.具体的には,回転数に対する安定領域判別や展開中・展開後の動 的挙動が検討可能な見通しの良い解析手法の導出を目的にする.

方法

A) 回転軸方向に伸展する構造物に対して,開口部があることによる直交異 方性を反映した集中質量系のモデル化を行う.

B) 伸展により生じる伸展の接線方向慣性力である従動力,回転面内のたわ みによる慣性力,内部減衰による復元力,重力が集中質量系モデルに作 用する各種の力とする.

C) 任意の長さにおける固有振動数解析と回転数に対する安定不安定領域 判別,伸展のみ考慮した場合の先端軌跡に関する運動方程式の導出,回 転と伸展を考慮した場合の先端軌跡に関する運動方程式の導出を行う.

D) 供試体を回転させながら長さを変えることが可能な実験装置を作成し,

地上において回転と伸展を模擬したモデル実験を行う.また長さ変化す る供試体の先端軌跡をビデオ撮影し,先端軌跡を画像解析することで先 端軌跡の座標データを計測する.

E) 実験と同条件のパラメータを用いて,導出した運動方程式より回転数に 対する安定不安定領域判別,先端軌跡における数機解析を行い,地上で のモデル実験結果と比較することで,計算手法の妥当性について検討を 行う.

2. インフレータブルブームの展開解析について 目的

インフレータブルブームを従来の伸展ブームの代替としてインフレータ ブルブーム単体で利用することを背景に,その収納法と展開挙動に着目した 研究は先行研究として行われている.またインフレータブルブームの展開解 析においては,各種の折り目が施されている状態が応力フリーの初期状態と

(27)

1章 序 論

して,CV法により展開挙動を評価した研究は行われている.しかし膜面構 造と組み合わせることで,膜面を展開させるアクチュエータとしてインフレ ータブルブームを活用することを背景に展開挙動を評価した研究は見られ ず,また膜面へのインフレータブルブームの配置場所とその配置場所におけ る膜面の折り方とインフレータブルブームの折り方の適合性を考慮した折 り方について,展開挙動を評価した研究は行われていない.また折り目の施 されていない応力フリーの状態にあるインフレータブルチューブの有限要 素モデルに,解析上で折り目を作成することを再現し,折り目と流入気体の 影響を考慮した展開解析に関する研究は報告されていない.

そこで本論文においては,5章で論じる複合膜面構造にインフレータブル ブームをアクチュエータとして応用することを考慮して,複合膜面構造に適 応可能なインフレータブルブームの折り方を選択し,その折り方に対する展 開挙動について実験と解析の両面から検討を行うことで,安定した展開挙動 について評価を行うことを目的とする.またインフレータブルブームの軽量 構造としての利点を考慮した場合,センサーやアクチュエータなどの制御機 構を最小限にした上での安定した展開が望まれる.そこで複合膜面構造への 応用も視野に入れた,展開制御の不要な折り方についての検討とその展開挙 動の評価についても目的とする.

方法

A) 5 章にて詳細な説明を行うが,膜面の厚さを考慮して収納効率を高めた らせん折りにより複合膜面構造の膜面は収納されている.その膜面にイ ンフレータブルブームをアクチュエータとして配置する場合,Zigzag折 りとRoll折りによる収納が,膜面の折り目に適合した折り方となる.そ

こで Zigzag 折りと Roll 折りのインフレータブルブームにおいて,展開

実験により挙動の評価を行う.

B) 流量制御などを行うことなく安定した展開が行えるインフレータブル ブームの収納法として,名取通弘教授により提案された改良Zigzag折り を用いることで,展開実験により展開挙動の評価を行う.また改良Zigzag 折り方は,全体形状においてZigzag折りと同様であるため,複合膜面構 造へ適用する際にも膜面の折り目に適合して配置することが可能であ る.

C) 上記の3種類のインフレータブルブームの収納法(Zigzag折り,Roll折

り,改良Zigzag折り)を展開実験により挙動評価を行う上で,インフレ

ータブルブームに8段折り目を施したブームの展開中の流量・圧力変化 に着目することで,定量的に展開挙動を評価する.

(28)

1.3 研究目的と研究方法

D) 定性的な評価ではあるが,展開時の圧力・流量変化の原因を検討するこ とを目的に,上記3種類の折り目を1段施したインフレータブルブーム において,展開時の折り目部の形状変化に着目して展開挙動を評価する.

E) 従来の解析では検討されることがなかった,折り目部の応力状態が展開 挙動に与える影響を検討するために,応力フリーの有限要素インフレー タブルブームモデルに上記3種類の折り目を作成する段階から解析を行 う.

F) また従来の解析手法では検討が困難であり,展開実験においても評価が 困難な折り目部での流入気体変化やインフレータブルブーム内部の圧 力状態について評価を行うために,流入気体についても有限要素として 離散化可能な展開解析手法Finite Pint-set Method(FPM)を用いることで,

折り目部における流入気体の流速変化やチューブ内部の圧力状態など について評価を行う.

3. 複合膜面構造 目的

膜面構造にインフレータブルブームを一体化させた展開膜面構造に関する 研究はこれまで数例行われている.しかし膜面とインフレータブルブームの 拘束が強いために,インフレータブルブームの配置の検討や衛星本体との接 続法など,設計や工学的な取扱いが行いにくい展開膜面構造として提案され ている.また単体モジュールのみの大型化は考慮されているが,複数モジュ ールを組合せることで大型化することは考慮されていない.そこで本研究で は,膜面構造,伸展ブーム,ケーブル構造を組み合わせることで設計や工学 的な扱いやすさを向上させ,また複数モジュールを用いることで将来の大型 宇宙構造物に対応できる構造要素として,複合膜面構造を提案する.また実 験室規模の概念モデルを3パターン試作し,アクチュエータの配置,自動構 築を視野に入れた構造,階層モジュラー構造を視野に入れた構造に対して,

展開安定性や実現性の実証について検討することを目的とする.

方法

A) 宇宙構造物の構造概念に関する研究より提案されている自動構築によ る階層モジュラー構造の構築を視野に入れ,膜面の厚さを考慮して収納 効率を高めたらせん折りの六角形膜面にインフレータブルブームをア クチュエータとして用い,膜面とインフレータブルブームをケーブル構 造により拘束した複合膜面構造の展開実験を行う.

B) 膜面に対するインフレータブルブームの配置場所により,インフレータ

(29)

1章 序 論

ブルブームの収納法も異なる.またインフレータブルブームの収納法の 違いにより展開挙動も異なるため,複合膜面構造の展開挙動に与える影 響は無視できないと考えられる.そこでインフレータブルブームの配置 場所を変えた3種類の複合膜面構造において,展開挙動の評価を行う.

C) 自動構築を視野に入れた外枠機構がある複合膜面構造の実験モデルを 作成し,周辺に Zigzag 折りと改良 Zigzag 折りインフレータブルブーム を配置した場合において,展開挙動の比較を行う.

D) 階層モジュラー構造を視野に入れた階層モジュラーモデルを作成し,複 合膜面構造を用いた階層モジュラー化について,展開実証を行う.

(30)

1.4 論文の構成と概要

1.4 論文の構成と概要

本論文は,伸展・展開構造物として2章でSTEM機構による伸展ブームSPINAR, 3,4章ではインフレータブルブームの展開挙動について,実験と解析より研究を 行い,5章では将来の超大型宇宙構造物の構築を視野に入れて上記の伸展ブーム の応用が可能な複合膜面構造の展開挙動について展開実験を行うことで挙動の 評価する.解析では,SPINARについては集中質量系モデルにより運動方程式を 導出することで伸展挙動の解析を行い,インフレータブルブームについては,

折り目の作成プロセスも解析中に含み,かつ流入気体の挙動をFPMで解析する 手法により展開挙動を解析している.

各章の構成と概要については,以下である.

1章は,序論である.

2 章では,STEM機構による伸展ブーム「SPINAR」に関する研究成果につい て説明する.2.1では対象とする伸展ブームSPINARの概要を説明するとともに,

伸展や回転を含む構造物に関連する従来の研究とその課題について述べ,2.2で 目的を示す.2.3では,集中質量系モデルに対するモデル化について説明し,そ のモデル化を踏まえて,2.4で各種の運動方程式の導出を行う.なお対象とする

SPINARは,ミッション要求もあり伸展とともに回転を有するため,定式化は段

階を追って行う.そのため2.4.1として固有振動数解析の定式化をまず行い,次

に2.4.2で回転数に対する安定不安定領域の定式化を行う.2.4.3 A) では回転せ

ず伸展のみする場合の動的挙動解析を行うための定式化を行い,次に2.4.3 B) で 回転と伸展を考慮した場合の動的挙動解析を行うための定式化を行う.2.5では 解析結果の妥当性を評価するために行った地上実験のモデル実験方法と結果に ついて述べ,2.6ではその実験結果と解析結果を比較することで導出した解析手 法の妥当性について検討を行う.最後に2.7で2章を総括する.

3章では,インフレータブルブームの展開実験に関する研究成果を説明する.

3.1ではインフレータブル構造物の概要について説明し,関連する従来の研究と その課題について述べ,3.2で目的を示す.3.3ではインフレータブルブームの 収納法と実験で用いたチューブモデルを説明する.3.4では展開実験結果につい て説明するが,8段の折り目を施したチューブモデルをモデル1として,3.4.1 でその展開実験結果を説明し,3.4.2で考察を行う.1段の折り目を施したチュ

(31)

1章 序 論

ーブモデルをモデル2として,3.4.3でその展開実験結果と考察を行う.最後に 3.5で3章を総括する.

4章では,インフレータブルブームの展開解析に関する研究成果を説明する.

4.1ではインフレータブル構造や膜面構造の展開挙動解析における概要として,

関連する従来の研究とその課題について述べ,4.2で目的を示す.4.3ではイン フレータブルブームの有限要素モデルに折り目を作成する解析について説明す

る.4.3.1では解析に用いた有限要素モデルについて説明し,4.3.2ではZigzag折

りを作成する解析プロセス,4.3.3ではRoll折りを作成する解析プロセス,4.3.4

では改良Zigzag折りを作成する解析プロセスについて説明する.4.4では,4.3の

折り目の作成解析で得られた折り目部形状や応力状態について考察を行う.

4.4.1ではZigzag折り,4.4.2ではRoll折り,4.4.3では改良Zigzag折りについて考 察を行う.4.5では,FPMを用いた展開解析について,展開解析条件と解析結果 を各折り目について説明する.4.5.1ではZigzag折り,4.5.2ではRoll折り,4.5.3

では改良Zigzag折りについて解析結果を示すとともにその展開挙動について考

察する.4.6では,3.4.3の一段折りインフレータブルブームの展開実験結果と4.5

の各折り目に対する展開挙動の解析結果とを比較することで,解析結果の妥当 性とともに各折り目の展開挙動について考察を行う.最後に4.7で4章を総括す る.

5章では,複合膜面構造の展開実験に関する成果を説明する.5.1では複合膜 面構造の概要を説明するとともに,従来の研究と比較することで複合膜面構造 の特徴について言及し,5.2で目的を述べる.5.3ではインフレータブルブーム の配置を変えた複合膜面構造の単体モデルについて,配置の違いによる展開挙 動の違いを比較し,安定した展開が可能なインフレータブルブームの配置につ いて成果を述べる.5.4では,将来の大型を考慮した場合に必要となる自動構築 を視野に入れた外枠構造を有するモデルにおいて展開実証を行い,また複合膜 面構造に改良Zigzag折りを適用した場合の有用性を示す.5.5では,5.4の自動構 築同様に重要となる複合膜面構造の階層モジュラー化について,階層モジュラ ーモデルを用いて展開実証した成果を説明する.5.6では5.3 ~ 5.5の結果を踏ま え,複合膜面構造を用いた将来の大型宇宙構造物の実現に対する考察を行うこ とで5章を総括する.

最後に,6章で1章から5章までの研究成果を総括し,本論文の結論を導く.

本論文の構成を,各章のキーワードを含めて 図 10に示す.

(32)

1.4 論文の構成と概要

図 10 本論文のフローチャート

(33)

1

2 章 回転軸方向に伸展するブームの伸展挙動解析

本章では,STEM機構により収納された伸展ブーム「SPINAR」の伸展挙動解 析に関して研究する.膜面構造を展開させるアクチュエータとしての応用とミ ッション要求による回転軸方向への伸展を視野に入れ,伸展ブームを初期設計 段階の検討を容易にする集中質量系に簡易モデル化し、作用する各種の力を含 めて運動方程式を導出することで伸展挙動解析を行う.伸展構造物は,伸展に より質量・長さが時間的に変化することから古典力学の範囲では厳密解を得る ことが困難であり,扱いにくい問題として従来から研究が行われている.本章 で扱う構造物は,伸展に加えて回転運動も含まれており,さらに薄肉開断面の アンテナ構造ゆえに異方性が存在するため,より複雑な条件での伸展解析とな っている.そこで,主に初期設計時の各種パラメータ検討を行う場合に有用と なる,扱いやすい簡易モデル化と定式化を目標とする.

質量の無視できる時間とともに長さが変化するはりと,はりの先端に付加さ れる伸展に対応して質量が増加する剛体円盤により,伸展ブームのモデル化を 行う.また回転しながら伸展する伸展条件を考慮し,伸展による質量増加の影 響を考慮した伸展方向の慣性力(従動力),地上での伸展も考慮した重力,回転 面内のたわみによる慣性力と内部減衰による復元力を系に作用する力として定 式化を行う.また解析結果を評価するために,異方性のある供試体の長さを回 転させながら変化させることができる実験装置を製作し,地上において伸展実 験を行う.伸展中から伸展終了後の供試体先端の軌跡を実験結果から計測し,

実験結果と解析結果を比較することで提案する解析手法により得られた伸展挙 動解析結果の妥当性について評価する.

2.1 SPINAR (SPace INflatable Actuated Rod) の概要

現在JAXA/ISASで検討されている次期磁気圏観測ミッションとして,SCOPE

(Scale COupling in Plasma Environment ) ミッション26)~28) がある.GEOTAIL衛星 を用いた磁気圏観測ミッションが先行して行われたが,そのミッションから磁 気圏・宇宙プラズマにおける大規模でダイナミックな現象の本質的理解が更な る課題となった.磁気圏・宇宙プラズマの現象全体を規定するMHDスケールの ダイナミクスと,より微小なイオン・電子スケールとのダイナミックな結合・

相互作用の理解がさらに必要という見解が示された.そこでSCOPEミッション においては,(1)衝撃波,境界層渦乱流領域,磁気リコネクション領域などの 観測上で重要な領域の計測,(2)編隊を組んだ衛星群による空間構造の把握,(3)

(34)

2.1 SPINAR (SPace INflatable Actuated Rod) の概要

電子スケールに至る高時間空間分解能を持ったプラズマ観測, が必須項目と して挙げられている.これらの理学的要求と衛星設計を行う工学的観点から,

衛星周囲の空間を 3 軸同時計測できるアンテナ構造が必要となった.GEOTAIL 衛星を用いた計測では,衛星の回転面内方向に展開する 2 軸アンテナを用いる ことで計測された.そのため,アンテナは遠心力を用いることで展開すること ができた.しかしSCOPEミッションにおいては,さらに衛星の回転軸方向に伸 展可能な3軸目のアンテナが要求されている.また観測精度の要求から,SCOPE ミッションにおける実際の運用では,打ち上げ時の収納状態から回転軸方向に 上下5 m伸展させ,全長10 mのアンテナ構造になる予定である.この3軸目の アンテナ構造として提案され,実用化に向け開発されたアンテナがSPINAR29), 30) である.図 11に航空機を用いた微小重力環境下での伸展実験で用いた縮尺モデ

ルのSPINARの正面図と背面図を示す.

SPINAR は STEM 機構によりリールに巻きとられた状態で収納されており,

図 11 (a) の中央に見えるシリンダー内に収納されているインフレータブルチュ

ーブの展開力をアクチュエータとして,長手方向に伸展する.ロッドの材質は 三軸織CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)を用いており,円柱状に成形した CFRPの長手方向に切れ目が入った形状となっている.図 12に,シリンダー内 部に収納されているインフレータブルチューブと三軸織 CFRP ロッドを示す.

STEM機構でリールに巻きとられた状態では開断面を有する形状となっており,

リールから解放されたブーム部分においては,切れ目部分が重なった円筒形状

(a) 正面図 (b) 背面図

図 11 SPINARの正面図と背面図

(35)

2章 回転軸方向に伸展するブームの伸展挙動解析

となる.そのためロッドの曲げ剛性は,重なり部分がある方向とそれに直交す る方向で若干異なるため,直交異方性を有する伸展ロッドとなる.SPINAR は,

2005 年に航空機を用いた微小重力環境下による伸展実験が行われており,2007 年にはロケットを用いた宇宙空間での伸展実験も行われている.

2.2 本章の目的

伸展ブームのスケールはさまざまであるが,回転面内や回転軸方向にブーム が伸展することで衛星本体の姿勢に与える影響は無視できない.そのため衛星 の姿勢制御の観点では,展開時に衛星本体に与える反力を把握することは重要 となる.しかし伸展によりロッドは時間とともに質量・長さが変化するため,

その伸展挙動を表す陽な理論解を古典力学により導出することは困難とされて きた.また SPINAR の場合には,衛星の回転軸方向への伸展がミッション要求 として必須であり,回転と伸展を考慮した厳密解の導出はより扱いにくい問題 となる.またコンピュータ性能の向上により,有限要素法を用いた検討も行わ れ始めている.しかし SPINAR のように複雑な開断面形状を有限要素モデルに 反映するための問題,伸展を模擬する場合に必要となる固定端とロッドの接触 問題など解決すべき課題は多く存在し,計算コストの影響もあり解析手法が確 立されていない.

時間とともに質量・長さが変化する構造物に関する研究は,鉱山用エレベー タの縦揺れ防止の目的で始められて以来すでに数十年が経過している.長手方 向に走行する弦の問題に関する研究は小寺17)~19),橋本20),21)により行われている が,時間とともに長さが変化するはりの問題22)~24)に関する研究は極めて少ない.

シリンダー内部のインフレータブルチ

ューブ(収納時と展開時) 三軸織物によるCFRPロッド

図 12 インフレータブルチューブと三軸織CFRPロッド

参照

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