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契約締結過程の法的規律 契約内容の形成の問題を中心に

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Academic year: 2021

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研 究 報 告

契約締結過程の法的規律

︱︱ 契約内容の形成の問題を中心に

一   は じ め に   契約締結過程において交わされた表示・言明に基づいて抱い た期待が、契約書に記された契約内容との齟齬を来し、その結 果として﹁望まれない契約﹂が締結された場合の法的対応につ いては、従来、いわゆる合意の瑕疵や取引的不法行為に関する 議論が蓄積をみてきた。しかし、この種の事例において与えら れる法的救済の全体像を捉えるためには、まずもって、その期 待が契約内容に取り込まれたかどうかが問われなければならな い。それが可能であるならば、そもそも望まれない契約の存在 は否定されるからである。   そうした解決 ︵以下では 、﹁契約内容化﹂と略称する︶は 、 日本法のもとでは﹁意思表示の解釈﹂によって実現されると考 えられるが、本報告においては、フランス法との比較に基づき、 その法的規律を二つの視点から考察する。   第一に、法理の基礎づけとして、意思表示の解釈が、契約締 結過程の法的規律のなかでもつ理論的な特性を考察する。その ために、フランス法において、意思表示の解釈に相当する問題 がどのように論じられているかを明らかにする︵   第二に、それをもとに、契約内容化という救済の判断要素を 模索するための考察を行う。具体的には、フランス法における 議論を実体法的な法的構成に即して検討したうえで の成果を日本法の規律に展開することを試みる︵ 二   法理の基礎づけ ︱︱ ﹁意思表示の解釈﹂の 理論的基礎   すでに先行研究が明らかにするとおり、フランス法において は、 ﹁契約の解釈﹂が論じられるのに反し、 ﹁意思表示の解釈﹂ が論じられることはない ︵ 1︶。したがって 、比較研究の前提 として、意思表示の解釈に相当する問題がどのように論じられ てきたかが明らかにされなければならない︵ 2︶   ﹁解釈﹂における意思表示と契約   ⑴   意思表示の解釈と契約の解釈   フランス法においては﹁意思表示の解釈﹂が論じられないと いうときには、その前提として、意思表示の解釈と契約の解釈 とをそれぞれどのように概念規定するかが問題となる。フラン ス法の検討を先取りしていえば、二つの解釈の相違は、両者が 時間的・論理的にみて異なる対象を規律する点に認めることが できる。つまり、こうである。   意思表示は、契約の構成要素であるとともに、各当事者の行 為のプロセスでもある。したがって、そこで問題となるのは、

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契約締結過程の法的規律 各当事者が意思を表明し、それらが合致するに至るまでの行為 のプロセスの解釈である。この意味での解釈は、意思と表示と の間に不一致があれば契約の有効性が否定され、二つの意思表 示が合致しなければ契約の成立が否定されるという点で、合意 の瑕疵や契約の成立の問題と密接な関連を有するものであり、 契約締結過程の法的規律の一翼を担う法理として位置づけるこ とができる。   これに対して、契約の解釈においては、個々の意思表示や、 それらの合致の探究に還元され得ない問題が生じる。典型的な 場面としては、補充的契約解釈や修正的解釈のように、意思表 示が合致し、何らかの契約が既に存在することを前提として、 契約による規律の射程を問う際の解釈が想定され得るが、この 場面においては、どのような意思表示がなされたかを探究する ことによって解釈結果を導き出すことはできない。   以上によれば 、﹁ 意思表示﹂の解釈と ﹁契約﹂の解釈との区 別は、前者が後者を包含するという﹁一般・特殊﹂の関係にお いてではなく 、﹁契約締結過程﹂と ﹁契約それ自体﹂との時間 的・論理的な区分に立脚するものとして把握することができる。 この区別に即していえば、契約締結過程の諸事情の契約内容化 は 、 契約締結過程の法的規律の一環としての ﹁意思表示の解 釈﹂の問題領域に属するとみることができる。   ⑵   意思表示の解釈の不在   今日においては、フランス法においても意思表示という観念 が知られていないわけではない。それにもかかわらず、解釈と いう文脈で意思表示が論じられない理由は、右の整理を踏まえ ると次のように理解することができる。すなわち、契約の内容 は、当事者の合意に基づいて決せられる。しかるに、意思表示 は、両当事者の合意を形成する以前の各当事者の一方的な意思 にすぎず、それ自体としては合意の内容を規律する効力を有し ない。したがって、契約の内容を確定するために、各当事者の 意思表示を解釈対象とすることに意味はない。   このように、意思表示をもっぱら契約の締結過程に属する事 情と捉え、合意そのものと区別してこれを解釈の対象とするこ とはできないとする見方に立つならば、日本法において意思表 示の解釈によって扱われる問題への対応は 、﹁解釈﹂とは異な る概念構成によって実現されることとなる。本報告は、その手 がかりを ﹁同意 ︵ consentement ︶﹂の概念に求めるものである が、このような日仏両法における法的構成の懸隔は、比較研究 の妨げとなるものではなく、むしろ、意思表示の解釈という問 題の特質を対自的に理解し、多岐にわたる﹁解釈﹂の問題領域 を整理するための一助となると考える。   同意法理とその修正   ⑴   意思主義の性格   ﹁同意﹂に関して 、フランス法が意思主義に基礎を置くとい う図式的な理解は、たしかに絶対視し得ないものではあるが、 二〇世紀初頭に意思表示理論を摂取する過程において、学説が そのような自己規定を示してきたことには疑いの余地はない。 そこにいう意思主義は、一方では、表示に対する意思の優越性

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研 究 報 告 の主張へと結び付けられた。しかし、併せて注意されなければ ならないのは、契約を成立させる意思は確定的なものでなけれ ばならず、そのような意思が表明されることで、各当事者の単 なる思念から両当事者による取決めとしての契約への移行が果 たされるとの考え方が強調されたことである。意思主義には、 意思が確定的な表示によって具体化されること、そのようにし て、契約締結過程における各当事者の思惑を法的規律の外に置 くことによって、両当事者の共通の意図が組成されることを強 調する性格があったとみることができる。   ⑵   ﹁責任﹂の観念による修正   もっとも、意思主義を旨とするフランス法においても、法的 に拘束される意思が存在しないからといって、一切の法的拘束 が否定されたわけではない。その場合の解決は、契約法理では なく、民事責任法理によって基礎づけられてきた。こうした法 理の発展は、外観法理を中心とする様々な領域において確認さ れるが、法律行為に付される﹁留保﹂の観念を扱うブリュノ・ セリスの研究︵ B. C ÉLICE , , LGDJ, 1968 ︶は、そのような特徴を端的 にあらわす研究の一つとして注目されるに値する。   セリスは、意思が存在しない状態であっても、一定の事実状 態を作り出すことによって他者の活動に影響を与えたときは、 その状態を正当な理由なく事後に変更することは禁じられると いう。虚偽の外観の作出等、行為の継続性に対する信頼の裏切 りはフォートとなり、それに対しては、矛盾行為の援用を禁じ、 惹起された信頼に従った法的効果を発生させるという﹁現実賠 償﹂が課されなければならないというのである。彼は、このよ うなサンクションの法的仕組みを ﹁一貫性原則 ︵ cohérence ︶﹂として定式化し 、その適用を排除するためには 自身の態度が確定的なものであるという外観を打ち消すための 情報提供をしなければならないと説いた。裏を返せば、一貫性 原則とは、そのような意味での﹁情報提供義務﹂違反に対する 制裁として位置づけられたのである。   以上のように、セリスは、一種の﹁責任﹂の観念を援用する ことによって、意思主義との矛盾を避けつつ、契約によるのと 同内容の法的拘束が発生する可能性を認めようとした。こうし た民事責任構成は、損害論の把握等において論理的な欠陥を抱 えていると批判され、今日では支持を失っている。しかし、民 事責任法理に仮託して法律行為法上の法形成が行われたことは、 単なる歴史的事情というにとどまらず、現代における契約締結 過程の法的規律を理解するうえでも重要な意味をもつ。契約内 容化という救済が、有責的に誤信を惹起し、意思決定へと導く 行為に対する非難を基軸として構想されることは、この救済の 規律構造が﹁合意﹂とは異質なものであることに注意を促すか らである。 三   法理の応用 ︱︱ 契約内容の確定と行為の適正化   以上の枠組みの応用は、今日、とりわけ消費者契約の領域に おいて論じられる。以下では、右にみた意思主義と﹁責任﹂の

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契約締結過程の法的規律 観念との ﹁原則 ・例外﹂関係に対応して 、﹁確定的に表示され た意思﹂がいかにして認定されるか ︵ 1︶、それと異なる契約 内容がいかなる ﹁責任﹂に基づいて帰結されるかを検討する ︵ 2︶   判断枠組としての契約書面の法性決定   フランス法においては、契約内容の確定を論じる際には、各 当事者の意思表示を各別に解釈するのではなく 、ある書面が ﹁契約書面﹂であるか否かを吟味する方法が採られることが少 なくない。何が合意を顕出する書面であるかを確定することに よって、何について合意が成立したかが確定されるのである。 その対象となる書面としては、まずもって契約書が想定される が、このことは、契約書こそが当事者の確定的な意思を具体化 するという﹁意思主義﹂的な実体法原理によって正当化され得 よう。   そのうえで、判例は、次第に、契約書の周縁を取り巻く書面 が契約内容に取り組まれる場合を認めるようになった。その端 緒となったのが、広告の法的効力の問題である。   広告は、その性格上、契約締結の勧誘を目的とする書面であ り、契約の内容形成に寄与することを意図して作成されるもの ではない。したがって、古典的には、広告をはじめとする契約 締結過程の書面は、いかに相手方の意思形成に影響を与えよう とも、それ自体としては契約としての効力を有しないとされて きた。しかし、契約締結過程の書面によって意思決定が導かれ ることが常態化している今日においては、その法的効力を否定 することに対しては疑義が向けられている。こうした疑義に呼 応して、判例は、契約締結過程において交付された書面に対す る信頼が契約内容に取り込まれる余地を認めるようになる。今 日の破毀院判例は 、たとえば 、﹁広告が 、契約当事者の同意に 影響を与えるものであるとき﹂には契約としての効力をもつと する︵破毀院第一民事部二〇一〇年五月六日判決︶ 。   以上によると、判例は、前記の﹁原則・例外﹂関係に対応し て、契約の締結に至るまでに交わされる書面のなかにいわば中 核部分と周縁部分とを認め、それぞれにつき、異なる仕方で契 約内容への取込みの有無を判断しているといえるだろう。   学説による基礎づけ   ⑴   基礎づけをめぐる二つの構想   こうした判例の展開を承けて、学説も、契約締結過程の書面 の契約内容化がいかにして基礎づけられるかを考察するように なる。もっとも、基礎づけの仕方は一様ではない。ここでは、 二つの構想を採り上げたい。   第一に、契約締結過程における表示の契約内容への取込みを、 情報提供義務論と連続性を有するサンクションとして把握し、 その効果をも情報提供義務違反によって基礎づける試みが唱え られる 。この見解は 、﹁合意の成立に影響を及ぼすべき事項に ついて不完全な情報提供がなされた場合に、当該内容を信じた 相手方に対し 、﹃ 契約の領域﹄を拡大することを通じて 、提供 された情報どおりの履行を義務づける法理﹂の必要性を説き、 これを﹁情報の拘束力の法理﹂と称する。これによると、契約

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研 究 報 告 内容化が実現されるためには、情報提供義務の発生要件一般に 符合して、自らがその情報を認識しておらず、相手方による情 報提供を信頼することに正当な理由がなければならない︵仏民 一一一二 ︱ 一条一項を参照︶ 。したがって 、相手方から何らか の誤情報が提供されたとしても、自らがその真偽を判断すべき である限りにおいては、契約内容化は否定されることとなる。   これに対しては、第二に、情報に対する信頼の正当性を問題 とすることなく、矛盾行為の存在それ自体を追及する見解が唱 えられる。論者は、広告に表示された事項が契約内容に取り込 まれるという信頼が正当であり得るという想定自体が、そもそ も成り立ち得ないと説く。広告は、契約内容を決定する意思表 示たることを意図してなされるものではないから、その内容が 契約内容に取り込まれるという信頼はいかにしても正当ではあ り得ないというのである。こうした認識から、この見解は、一 貫性原則の適用という方向性を徹底し、自らが行った契約締結 への誘引によって利益を受ける以上、その内容を契約から切り 離すという矛盾は認められるべきではないと主張する。つまり、 将来締結されるべき契約の内容を記述した以上、それが実際に 相手方の信頼を惹起したかどうかを問わず、その内容は契約内 容に取り込まれるというのである。   ⑵   分   析   以上の二つの見解は、契約内容化を、契約締結過程の手続的 な適正性の確保を目指す法理の一環として捉える点において基 調を同じくする。いいかえれば、契約内容化は、契約締結過程 の行為規制を目的とする一種のサンクションとして把握されて いた。しかし、具体的な要件論の構成においては、両見解は、 表示の相手方による調査可能性の位置づけをめぐって態度を異 にする。契約内容にかかる情報収集と内容形成は、本来、各交 渉当事者の責任と権能において行われるべきであるとの見方か らは、信頼の正当性を要件とし、表意者自身が適切な調査を尽 くした場合に限って契約内容化の有無を決する前者の構想が支 持されることとなろう。これに対して、後者の構想を支持する ためには、矛盾する表示の存在が、契約内容の形成にかかる情 報収集リスクの転嫁を直ちに正当化すると解さなければならな い。   先述のとおり、現在の判例法理は、契約内容化の可否を判断 する際に意思形成に対する影響を問題とする点において、矛盾 する表示の存在それ自体ではなく、それによって惹起された信 頼に着目する第一の構想に親和的である。もっとも、このよう な要件論の構成は、契約内容の形成につき、民法の一般法理に よって実現される規律に関わるにすぎず、他の法理・法領域に 一般化され得るものではない。たとえば、沈黙による詐欺に関 しては 、詐欺の故意がある以上 、表意者の ﹁宥恕されざる錯 誤﹂を援用することは許されないとする判例法理︵破毀院第三 民事部二〇〇一年二月二一日判決︶が形成されている。また、 消費法の適用領域のように、表示内容に関する調査可能性が定 型的に否定される場面では、個別的な信頼の有無を問わない第 二の構想が説得力をもつとの見方も成り立ち得よう。契約締結

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契約締結過程の法的規律 過程を規律する各種の行為規制の特性を踏まえ、それぞれにつ いて適切な規律原理を探究することが課題とされなければなら ない。 四   日本法の考察に向けての視点   最後に、フランス法の考察から得られる示唆を日本法の議論 に即して展開することを試みたい。   フランス法の批判的分析   意思表示の規範的解釈の判断枠組と情報提供義務違反の法的 評価とは、法技術的な観点からは同一視し得るものではない。 たとえば、誤情報を提供した者が、自らが提供した情報の誤り を知り得なかった場合には、情報提供義務違反に基づく責任は 生じないはずである。けれども、そのような事情は、契約内容 化を妨げるものではなく、むしろ、錯誤や契約責任の免責事由 として考慮されるにすぎないとみる余地もあろう。そうであれ ば、情報提供義務違反という構成は、区別して論じられるべき 複数の問題を、契約内容化の可否という論点に一括りにする過 ちを免れていないといわなければならない。   とはいえ、契約締結過程の手続的適正性の確保という要請の もとで契約内容化を考察するという構想それ自体は、フランス 法に固有の文脈を超えた普遍化可能性をもち得るであろうし、 日本法のもとでも、契約の内容形成という問題領域において、 意思形成プロセスをきめ細かく分析する必要性は高まっている と考えられる。このような見方からは、フランス法の分析の結 果は、法技術的な観点からの示唆を与えるものとしてではなく、 意思表示の解釈の判断枠組を明らかにし、より豊かなものとす るための針路として受容されるべきであろう。   フランス法からの示唆   以上の見地から、次のような視点を得ることができると考え る。   まず 、﹁ 合意の認定は契約書を出発点として行う﹂という理 解は、日本法のもとでも支持され得ると考える。フランス法の 展開は、たしかに書証主義によって支えられたものではあるが、 日本法のもとでも、現に契約書が存在する状況を想定する限り、 それを契約内容の確定の出発点とすることこそが、当事者の通 常の意思にも合致しよう。そして、このようにみると、契約書 外の表示の契約内容化は、多くの場合、合意の対象とされたか どうかについて当事者間に不一致のある事項の取扱いに関わる 問題として、意思表示の規範的解釈によって実現されることと なろう。   意思表示の規範的解釈をめぐっては、表示行為の客観的な意 味を重視するか ︵客観的解釈説︶ 、それとも 、各当事者が付与 した意味のうち正当なものを基準とするか︵付与意味基準説︶ につき、学説の対立がみられる。フランス法においては、この ような問題が設定されるわけではないが 、﹁契約当事者の同意 に影響を与えた﹂ことが重視された点からみても、そこで行わ れた判断の実質は付与意味基準説のそれに親和的だといえよう。 同説の充実を図るという関心からフランス法の議論を考察する

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研 究 報 告 と、次のような示唆を得ることができる。   第一に、契約締結過程における諸救済を情報提供義務論の観 点から統合し、意思表示の解釈を通じた﹁契約内容化﹂をも、 契約締結過程の救済の一環として位置づけるならば、給付義務 を構成する余地のある内容を備えた表示がなされたときは、そ の表示を取り込んだ契約を成立させるという解決が積極的に活 用されてよいだろう。なお、このことは、合意の瑕疵や取引的 不法行為等、他の救済を活用する余地を否定するものではない。   第二に、こうした考慮を実現するためには、表示行為概念を 契約締結過程における行為のプロセスに即して捉え、相手方に とって理解可能な説明がなされたかを検証する場として再構成 することが考えられる。表示行為は、従来、表示価値の有無と いう観点から平面的に把握されてきた。しかし、上に述べたよ うな解釈論上の要請を実現するためには、意思表示の成否の判 断を一種の規範的要件として構成し、その判断において、一方、 その表示が誤信惹起的なものであること、他方、誤信を打ち消 すに足りる実質的な説明が行われたことの主張・証明を当事者 双方に尽くさせる等の仕組みが考えられよう。契約締結過程に おける表示の﹁質﹂に対する司法的コントロールを実現する立 体的な規律を構想することを、今後の課題としたい。 ︵早稲田大学准教授︶

買主の追完請求権とその限界

︱︱ 性質合意と等価性という視点から

一   買主の追完請求権と民法改正   売買契約当事者の権利義務の内容を巡っては、瑕疵担保責任 説の法的性質という点からの議論が行われてきた。現在の通説 といえる債務不履行責任説に立てば、売主は瑕疵のない物を給 付する義務を負い、瑕疵物を給付された買主は追完請求権を有 することになる。民法改正法案も債務不履行責任説を採用して おり、買主の追完請求権に関する規定が新設されている︵法案 五六二条︶ 。   買主の追完請求権を認めるとしても、一つには、特定物売買 において瑕疵物が給付された場合に、瑕疵のない別の物の給付 による追完請求や追完が認められるかが問題になる。また、確 かに、一定の性質の物を給付する義務が売主により引き受けら れていると理解する以上、売主は、第一義的には、その義務を 果たすべきといえる。もっとも、瑕疵のない物の給付のために 過度の負担が売主に生じることもあり得るから、一定の場合に は買主の追完請求を制限するべきと考えることも不可能ではな

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