症 例 報 告
非代償性肝硬変を背景とした進行肝がん症例への
終末期緩和医療における管理栄養士による栄養介入効果
The nutritional intervention effectiveness by the nutritionist in the palliative care for the patient with advanced hepatocellular carcinoma derived from decompensated cirrhosis.
佐々木麻友
1)長崎 太
2)Mayu Sasaki1) and Futoshi Nagasaki2) 仙台市立病院 栄養管理科1),同 消化器内科2)
Department of Nutrition Management1) Department of Gastroenterology2) , Sendai City Hospital
要旨:当院の肝疾患症例は肝臓専門医により管理治療されるが,重症および進行例が多く,しばしば低栄養状態を 伴うため管理栄養士は積極的に栄養介入を行っている.今回,管理栄養士が非代償性肝硬変を背景とする進行肝が んに介入し,栄養療法が有効であった 1 例を経験したので報告する.症例は 60 歳台男性.肝不全徴候増悪による 緊急入院後,緩和医療の方針となった.管理栄養士はサルコペニア判定を含む栄養評価を行い,腹部膨満と嘔気に よる食欲不振に対し内科的治療と並行して食事個別対応,肝不全用経腸栄養剤を導入し,栄養教育を行った.その 結果エネルギー充足率は 65~70%,血清アルブミン値を維持,薬剤は内服薬のみとなり,本人が希望していた在 宅緩和医療を導入することができた.管理栄養士による入院早期からの継続した栄養管理は,肝不全状態の肝がん 患者においても経口摂取と栄養状態を維持し,終末期緩和医療に貢献しうることが示唆された. 索引用語:進行肝がん,管理栄養士,終末期緩和医療 受付日:2019 年 9 月 2 日 採用決定日:2020 年 9 月 7 日 はじめに 当院は三次救急を担う自治体病院であるため, 対象患者は多岐にわたり重症例も多い.肝疾患患 者においても同様で,肝臓専門医が積極的治療か ら緩和医療まで幅広く医療を提供しているが,併 発疾病や社会的背景により治療に難渋する場合も 多い.肝疾患患者は,その病態から栄養学的リス クを有しており,管理栄養士は積極的かつ速やか に栄養介入を行うよう努めている.今回,管理栄 養士が非代償性肝硬変を背景に生じた進行肝がん 症例の栄養管理を行い,経口摂取と栄養状態を維 持し終末期緩和医療に貢献できた 1 例を経験した ので報告する. 症 例 60 歳台男性 主訴:腹部膨満,下 浮腫,食 欲低下 既往歴:30 歳台 C 型慢性肝炎(抗ウイ ルス療法は未施行),40 歳台肝硬変にて入院加療 生活歴:独居(身寄りなし),職業:無職(元タ クシー運転手),飲酒歴:日本酒 2 合 / 日× 46 年 間,喫煙歴:15 本 / 日× 43 年間 家族歴:特記 事項なし 現病歴:平成 28 年 3 月下旬,肝硬変 を背景とする胃静脈瘤破裂による吐血で緊急入 院.静脈瘤への硬化療法施行後,外来フォローと なった.経過中に肝がん(図 1)も指摘されたが, 通院を自己中断していた.平成 30 年 8 月下旬, 腹部膨満,呼吸苦,下痢を主訴に 2 年ぶりに外来 を受診し,腹部 CT にて門脈腫瘍栓を伴う肝がん の増大,腹水貯留(図 2),上部消化管内視鏡検 査では胃潰瘍,食道胃静脈瘤増悪を認めた.肝不
全により肝がんの積極的治療は困難な状態であ り,本人は外来加療を希望したが,数日後に腹部 膨満の増悪,下 浮腫,食欲低下により入院とな った. 入院後経過:主治医を中心とする多職種カンフ ァレンスにて緩和医療の方針が決定された.内科 的全身管理にあわせて入院当日から管理栄養士に よる栄養管理を開始し,ソーシャルワーカーを中 心とした社会的対応も並行して行われた. 管理栄養士はただちに,サルコペニア判定を含 む身体計測を実施し,栄養評価としての問診,理 学的所見,血液検査データなどから栄養状態の評 価を行い,必要栄養量を算出して栄養療法の提案 を行った.身体計測結果は身長 158cm,体重 48.7kg,BMI 19.5kg/m2,皮下脂肪厚 4mm(37.7 %),上腕周囲長 22cm(80.5%),握力 20kg,骨
格筋量指数(skeletal muscle mass index;以下, SMI と 略 )7.8kg/m2. 骨 格 筋 量 は bioelectrical impedance analysis(BIA 法 ) に よ る 体 組 成 計 (InBody720®)にて測定した.BMI は 18.5kg/m2 以上だが浮腫を伴い,体重は 2 年間で 10kg 以上 減少していた.日本肝臓学会肝疾患におけるサル コペニア判定基準1)より握力は基準値以下,SMI は基準値をかろうじて上回る結果であり,サルコ ペニア前段階の状態であった.入院時血液検査デ ータ(表 1)でも血清アルブミン値 2.9g/dL,ト ラ ン ス サ イ レ チ ン 7mg/dL,ChE85U/L , CRP1.92mg/dL と栄養指標は中等度から高度不 良を示し,modified Glasgow prognostic score で
も予後不良が予測された2).肝予備能は
Child-Pugh 分類 9 点 Grade B であり,肝線維化マーカ ーは M2BPGi 5.94 C.O.I と高値を示した.肝腫瘍
表 1 入院時血液検査所見
【血算】 【生化学】
WBC 5,400/µL TP 7.7g/dL Cl 95mEq/L ChE 85U/L RBC 387 × 104/µL Alb 2.9g/dL Ca 8.3mg/dL CRP 1.92mg/dL
Hb 11.9 g /dL TTR 7mg/dL IP 1.4mg/dL GLU 157mg/dL Ht 34.9% BUN 23mg/dL FE 59µg/dL HbA1c 6.1% PLT 6.0 × 104/µL Cre 0.95mg/dL T-Bil 2.6mg/dL 亜鉛 42µg/dL
Lympho 21.8% eGFR 61.9 D-Bil 1.3mg/dL 銅 154µg/dL UA 7.8mg/dL AST 145U/L M2BPGi 5.94C.O.I 【凝固】 T-CHO 199mg/dL ALT 89U/L
PT% 77.5% TG 81mg/dL γ -GTP 306U/L 【腫瘍マーカー】
PT-INR 1.12 Na 128mEq/L ALP 671U/L AFP 143ng/mL K 4.5mEq/L LDH 214U/L PIVKA Ⅱ 7,860mAU/mL
図 1 肝がん指摘時の CT:肝表面は凹凸不整で辺縁は鈍
マ ー カ ー は AFP 143 ng/mL,PIVKA Ⅱ 7,860 mAU/mL と上昇を認めた.問診では腹部膨満と 嘔気による食欲低下を訴えており,摂取栄養量は エネルギー750kcal/ 日,たんぱく質 45g/ 日であ った.栄養状態は肝硬変,肝がんによるタンパク エネルギー低栄養状態の高度栄養障害と判定し, 必要栄養量はエネルギー1,600kcal/ 日(標準体重 × 30kcal), た ん ぱ く 質 70g/ 日( 標 準 体 重 × 1.3g)と算出した. 腹部膨満への対応として分食を導入し,肝硬変 栄養療法として日本消化器病学会ガイドライン3) に基づき,第 10 病日より分岐鎖アミノ酸顆粒か ら肝不全用経腸栄養剤に変更した.毎日の面談の 中で肝硬変栄養療法について栄養指導を行い,肝 不全用経腸栄養剤については本人の嗜好および内 服可能な用量を十分に考慮するため 1 包 / 日から 開始し,摂取状況を確認しながら増量を検討する ことにした.嗜好・体調に合わせた食事対応を行 うため食事制限は実施せず,摂取栄養量,血液検 査データ,臨床経過を確認し,タンパク不耐症や 塩分過剰摂取があると判断される場合のみ食事制 限を行うこととした.管理栄養士による栄養管理 により,栄養充足率はエネルギーが 50%から 70 %,たんぱく質が 65%から 80%に増加し,血清 アルブミン値は維持できており,薬剤は注射薬か ら内服薬のみでの管理が可能になった. 本人は入院時から外来通院加療を希望してお り,小康状態の得られた第 13 病日に退院となっ た.管理栄養士は本人と相談のうえで,退院前に 自宅での食事計画を作成した.独居で 1 日 2 食, 外食や中食が多く,支援する家族もいないため, 惣菜や買い置きできる食材を利用した 1 日 5∼6 回の頻回食とした.肝不全用経腸栄養剤はアドヒ アランスが良好であったため,2 包 / 日に増量し, 1 包は late evening snack にあてた.入院時から 管理栄養士が食事対応と並行して栄養指導を行っ ていたため理解は良好で,肝不全用経腸栄養剤の 活用,さらには増量についても積極的な姿勢をみ せていた. 退院から 10 日後,腹部膨満増悪による歩行困 難,呼吸苦のため再入院となり管理栄養士も再介 入となった.体重は 60kg に増加,皮下脂肪厚が 4mm から 2mm,上腕周囲長が 22cm から 20cm に低下し,体組成計での測定は困難であった. 血 清 ア ル ブ ミ ン 値 2.7g/dL,ChE80U/L,CRP 1.83mg/dL と栄養指標および炎症反応は大きな 変化がみられなかった.自宅での栄養摂取状況を 本人に確認すると,食事摂取量は腹部膨満増悪と 共に著しく減少していた.肝不全用経腸栄養剤に ついては,入院中に受けた栄養指導と,飲みやす いという理由により 2 包 / 日摂取できており,再 入院直前は腹部膨満の影響を受けたものの,少な くとも 1 包 / 日の摂取を目標に継続できていた. 再入院後は腹水コントロールに加えて,疼痛コン トロールを含めた緩和治療が再開され,栄養療法 は嗜好・体調に合わせた食事個別対応および肝不 全用経腸栄養剤を late evening snack とした.再 入院後も腹部膨満による食欲低下がみられたが, 栄養管理により栄養充足率は,エネルギー65%, たんぱく質 75%を維持することができた.本人 は再入院後も自宅退院を希望しており,在宅緩和 医療導入の方針となった.病状の進行に伴う黄疸 の顕性化や腎障害の出現などもみられたため,内 科的管理も困難となってきていたが,栄養状態と 経口摂取が維持できた状態で再入院第 22 病日に 自宅退院ができた. 考 察 肝臓は栄養素の代謝および貯蔵において中心的 な役割を果たしており,肝機能が低下した肝硬変 では高頻度に栄養障害が出現し,肝硬変の進行と ともにより顕著となる4).肝硬変患者の栄養基準 について具体的に示されたのは 2003 年日本病態 栄養学会コンセンサス5)であり,2015 年日本消 化器病学会肝硬変ガイドラインでは栄養療法のフ ローチャートが示されている3).本症例は非代償 性肝硬変を背景とした進行肝がんを伴っており, がん悪液質のステージ分類6)では悪液質から不可 逆的悪液質に該当する.当院では管理栄養士が, 肝疾患患者において(図 3)に示す栄養管理を行 っており,栄養評価を繰り返すことで栄養療法の 妥当性を検証している.本症例では(図 4)に示 す通り血清アルブミン値の維持が可能であった. 一般に至適エネルギー量は疾病あるいは個人差が 大きいが,非代償性肝硬変を背景としている終末
図 3 当院における肝疾患栄養管理フロー 図 4 臨床経過 日数 1日目 7日目 12日目 22日目 26日目 30日目 35日目 37日目 T-Bil(mg/dL) 2.9 2.2 2.7 3.0 3.3 3.6 PT(%) 77.5 75.7 81.4 79.4 90.6 84.6 NH3(μg/dL) 68 45 116 62 88 Chid-Pugh B(9点) C(10点) C(10点) C(11点) C(11点) C(11点) PS 60.0 57.7 56.5 利 尿 剤 注射 経口薬 体重((kg) 48.7 54.2 54.8 59.8 60.7 1.92 CRP(mg/dL) 2.38 1.83 1.90 1.93 2.44 4.73 Alb(g/dL) 2.9 2.5 2.5 2.7 2.5 2.5 2.5 2.6 血小板(×10 /μL) 6.0 5.6 6.4 6.8 7.3 7.8 7.8 8.0 0 20 40 60 80 100 エ ネ ル ギ 充 足 率( %) 外 来 20mg40mg フロセミド 25mg スピロノラクトン 20mg フロセミド静注 40mg 100mg カンレノ酸カリウム静注200mg 3.75mg 7.5mgトルバプタン 肝不全用経腸栄養剤 入 院 入 院 2 3
肝不全用経腸栄養剤(Late Eveninng Snack) 4
期肝がん患者においては特に予測することは難し く,モニタリングおよび栄養評価を繰り返し行う ことが重要と思われた. 分岐鎖アミノ酸は,栄養アセスメント結果から 肝不全用経腸栄養剤を選択した.腹部膨満と食欲 不振のため内服可能であったのは 1 包 / 日である が,患者の嗜好に合い,分岐鎖アミノ酸の他,エ ネルギー,たんぱく質などの栄養補給も行うこと ができた.再入院では late evening snack として おり,血清アルブミン値維持の一助となった可能 性がある.分岐鎖アミノ酸のロイシンはがん悪液 質の影響を緩和する薬理効果が期待できる栄養素 としての報告もあり7),今後は肝がんにおける悪 液質緩和効果も検証していく必要があると思われ た. 終末期緩和医療を必要とするがん患者は,様々 な原因により経口摂取の低下をきたし,栄養障害 の状態となる.日本緩和医療学会は終末期がん患 者の経口摂取低下に対して検討すべき主な緩和治 療をガイドラインの中に示しており,その一つに 栄養士による食事の工夫が挙げられている6).本 症例においても日々の面談で体調および患者の要 望をくみ取りながら,食事の工夫・調整を行った. 入院前半の摂取エネルギー量の変動は,食欲低 下の他,本人が腹部膨満の原因を食事と考え,自 ら制限してしまうということも要因であった.し かし,面談と栄養教育,食事対応を繰り返すこと により食事に対する意識が変化し,経口摂取に意 欲的になった.栄養カウンセリングには,栄養障 害を予防・改善させる報告があり8)管理栄養士に よる栄養教育を含むカウンセリングの有効性も示 唆された. 近年では,悪液質の進展が少ない早期から適切 な栄養サポートを行うことが栄養状態の維持・改 善に寄与し,抗がん治療への耐用性を向上できる ものと考えられている9).肝がんにおいては,こ れまで慢性ウイルス性肝炎が主たる原因であった ため,適切なフォローが行われていれば早期で発 見・介入することが可能であったが,ウイルス性 肝炎の治療の進歩に伴い,今後はアルコール性肝 障害や脂肪肝を背景とする症例の増加が予測され る.このためこれまでとは異なる背景を持つ患者 が治療対象となり,多職種が介入する対応が強く 要求され,管理栄養士はより一層重要な鍵を握る ものと考える. 結 語 肝不全状態の肝がん患者であっても,管理栄養 士が入院早期から継続した栄養管理を行うことで 栄養状態と経口摂取を維持することができた.管 理栄養士による栄養管理は,肝硬変患者の治療お よび終末期緩和医療の QOL 向上においても大き く貢献できるものと考える. 本論文では「症例報告を含む医学論文および学 会研究会発表における患者プライバシー保護に関 する指針」に基づき,プライバシー保護に配慮し 患者が特定されないように留意した. 本論文に関する著者の利益相反なし 引用文献 1)西口修平,日野啓輔,森屋恭爾ほか.肝疾患におけ るサルコペニアの判定基準(第 1 版).肝臓 57: 353-368,2016. 2)奥川喜永,白井由美子,McMillan DC ほか.がん治 療 と 栄 養 評 価. 日 静 脈 経 腸 栄 会 誌 32:829-840, 2017. 3)日本消化器病学会.肝硬変診療ガイドライン 2015. 南江堂,東京,2015.p18-29,p92-94,p147-148. 4)白木 亮,華井竜徳,清水雅仁.肝硬変患者の栄養 状態とその対策.日消誌 114:20-26,2017. 5)渡辺明治,森脇久隆,加藤章信ほか . 第 7 回日本病 態栄養学会年次総会コンセンサス(2003)栄評治 20:181-196,2003. 6)日本緩和医療学会.緩和医療ガイドライン作成委員 会編,終末期がん患者の輸液療法に関するガイドラ イ ン(2013 年 版 ). 金 原 出 版, 東 京,2013,p6, p46-52.
7)Deutz NE, Safar A, Schutzler S, et al. Muscle pro-tein synthesis in cancer patients can be stimulated with a specially formulated medical food. Clin Nutr 30 : 759-768, 2011.
8)Lee JLC, Leong LP, Lim SL. Nutrition intervention approaches to reduce malnutrition in oncology pa-tients : a systematic review. Support Care Can-cer24:469-480, 2016.
9)伊藤彰博,東口髙志.がん悪液質における栄養管理. 日静脈経腸栄会誌 32:841-846,2017.